タイトル:蟲の知らせマスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/09 00:09

●オープニング本文


 ここは九州のどこかにある、周囲を深い森に囲まれた小さな村。
 最近、住民の行方不明事件が多発していた。

 そしてその村から少し離れた森の奥に佇む古びた屋敷でのこと――
「ねぇ、やっぱりやめようよぉ」
「何言ってるの、ここまで来たんだから行くしかないじゃない!」
「だって、お父さんとお母さんが危ないから近づくなって言ってたよ」
「『危ないから近づくな』‥‥大人がよく使う台詞ね。そういう所にこそ面白いものやすっごいお宝があったりするに決まってるの! きっと何か隠してるに違いないわ!」
 活発そうな少女と気の弱そうな少年のやり取りである。二人とも年の頃は8歳くらいだろうか。
 娯楽の少ない寂れた村ではこういった廃墟などでの探検が唯一の楽しみなのだ。
「で、でもぉ‥‥」
「いいから歩く!」
 嫌がる少年の手を引いて屋敷に向かって歩み出す少女。
 少しして、屋敷の扉の前にまでやってきた――
 キィ‥‥
「あれ? 開いてる」
 少女が扉を押すと、そのまま開いてしまった。
「鍵がかかってると思ったのに。これは好都合ね。さあ行きましょ」
「でもなんか怪しいよ? やめようよ?」
「男の子でしょ! ほら付いてくる!」
 そうしてしばらく屋敷内を探索した二人だったが‥‥
「何よー! なにも無いじゃない!」
 屋敷内はクモの巣だらけで人間が住まわなくなって久しい事が窺える。
 あるものといっても引越しの際に置いて行かれたと思われる家具ばかり。
「ねえ、ちょっと‥‥」
「きぃー! せっかくここまで来たのにっ!」
 面白いものが見つからないのでジタバタしている少女に話しかける少年。
「あの‥‥」
「何よっ? うるさいわねっ?!」
 凄い形相で少年を睨みつける少女。
「ひぃっ! ‥‥ええと、いや、その、そこの本棚、微妙にずれてない?」
 ここは一階の書斎のようであった。少女が確認してみると、確かに本棚の一部が横にずれ、隙間が開いている。
 少女は躊躇無く本棚を横に引いた。すると、地下へと続く階段が出現。
「隠し扉だわ! 隠し階段だわ!」
 瞳をキラキラ輝かせる少女。
 そして少女はそのまま階段を降りていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何があるかわからないよ!」
「だからいいんじゃない! アンタもさっさと来る!」
 階段を進んでいくと、地下室の扉らしきものを発見。
 好奇心の塊である彼女は一瞬の戸惑いも無く扉を開けた――
 ‥‥そこには、パソコンや用途不明の機材が散乱しており、更にその奥には緑色の液体に満たされた大きな水槽に浮かぶ‥‥巨大な‥‥昆虫?
「お前達‥‥どうやってここに入った‥‥?」
 突然低い声がした。驚いて飛び上がる二人。
 部屋の真ん中に、白衣を着た中年の男が立っている。
 そして彼の足元には――
 カサカサカサ‥‥
 20cmほどもある複数の巨大な蟻の姿!
 牙をシャキンシャキンと鳴らしてこちらへ迫ってくるではないか!
 しかも周りをよく見てみると人間のものと思われる骨が多数転がっている。
「‥‥き、きゃーーー!!」
「‥‥う、うわぁーー!!」
 一目散に今来た階段を駆け上り屋敷を飛び出し逃げ出す二人であった‥‥。

「ええ、そうです。近頃行方不明になる人が多いんです」
 村の村長からULTへの通報である。
 話によると数週間前から出かけたきり帰って来ない者が続出しているという。
 そして村の周りの森では虫型キメラの目撃情報が相次いでいる。
 これはバグアが関わっている可能性が高いので、調査して欲しいとのことであった。
「というわけで、どうかよろしくお願いします‥‥」

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
リュス・リクス・リニク(ga6209
14歳・♀・SN
佐竹 つばき(ga7830
20歳・♀・ER
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
キャンベル・公星(ga8943
24歳・♀・PN
月宮 空音(gb2693
15歳・♀・GP
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN

●リプレイ本文

●子どものキモチ
 行方不明者が続出しているという問題の村へやってきた傭兵達――
「何か嫌な予感がする‥」
 月森 花(ga0053)は、あごに手を当てる。行方不明事件と虫型キメラ‥この二つは結びついている気がしてならない。
「虫なんかこれで一網打尽だよ♪」
 花が真面目に考えている横で、潮彩 ろまん(ga3425)が虫取り網を元気に振り回している。
「目撃されている虫型キメラが無関係とは思えませんね」
 鳳 つばき(ga7830)も花と同じ考えらしい。
「色気の無い仕事に限って女性陣が多数というこの現実! 神は死んだ! チェーンソーで真っ二つにされて! 欧州思想的な意味で!」
 そう捲くし立てるのは九条・縁(ga8248)。この男一人に美女多数というシチュエーションを普通に味わいたかったということなのだろう。例えばそう、真夏のビーチみたいな。
「キメラの突然の増加と行方不明事件‥何か裏がありそうですわ」
 縁を華麗にスルーしつつ、キャンベル・公星(ga8943)はこの事件の裏には黒幕が居るのではないかと予想する。
「また虫‥、私って虫に縁があるのかな‥。すごくイヤなんだけど」
 そう呟いたのは月宮 空音(gb2693)。彼女は昨年秋にも虫型キメラ退治の依頼に参加していたのだ。
「無事に行方不明の人が見つかればいいですね。自分も行方不明にならないようがんばらないといけないですね」
 細目で巫女服を纏った少女、猫屋敷 猫(gb4526)が言った。まあ確かに、村の周りは深い森に覆われているので下手をすると遭難の危険性もある。
「さて‥まずは‥情報‥収集‥だね‥」
 そう、傭兵達が持っている情報は少ない。リュス・リクス・リニク(ga6209)の言葉で、傭兵達は分かれて聞き込みなどを開始するのであった。

 花と猫は行方不明者の家族に話を聞きにやってきていた。
「息子さんが何か言い残して行ったことはありませんでしたか? それと、行方不明になる前に変わった行動などはありませんでしたか?」
 花が行方不明になったという青年の母親に尋ねる。
 その母親は溜息をついたあと、話し始めた。
「いえ、何も言い残してはおりません。変わった行動もなかったと思います。夜、飲み物を買いに行くと出て行ったきり、帰って来ないんです‥」
「そうですか‥」
 ひどくやつれた母親の顔を見ていられず、俯く花。
 続いて、出されたお茶を啜っていた猫が口を開く。
「どこか、行きそうな場所に心当たりは?」
「‥そういう場所は全部探しました。でも、見つからないんです。ううっ‥」
 目頭を押さえる母親。
「ボク達が、必ず見つけるから‥」
 震える母親の手に自分の手を添える花。
「傭兵さん方、どうか‥どうか、うちの息子を‥」
「うむ、任せるのです」
 懇願する母親に向けて、猫も頷いた。
 ‥他にもいくつか尋ねたが特に得られた情報は無く、行方不明者の写真を入手しただけだった。

 ろまんは村の子ども達に話を聞こうと、子ども達が普段遊び場にしているらしい公園へやってきていた。
「ねぇねぇ、例の行方不明事件なんだけど、なんか怖い噂とか流れてない?」
「‥お姉さん誰?」
「知らない人と話しちゃいけないってお母さんが言ってた」
 いきなり子ども達に怪しまれてしまう。
「あはは、ごめんごめん。ボクはろまん! 傭兵だよ!」
 にっこり笑ってピースサインをする。
「知ってる! 能力者ってやつでしょ。初めて見たー」
 途端に羨望の眼差しで見られるろまん。
「えーと、話を聞かせてもらえるかな?」
 すると一人の気の弱そうな少年がもじもじし始めた。
「‥大人には秘密にするって、約束してくれる?」
「あ、こら!!」
 気の強そうな少女が止めに入ろうとするが――
「‥やっぱり、言わなきゃダメだよ。このお姉ちゃんは信用できそうだし」
「うーん、それもそうね‥わかった。じゃあ、あたしが話すわ」
 気の強そうな少女は喋り出す。森の奥に危ないから近づくなと言われている古い屋敷があること、屋敷の中で虫型キメラに襲われたこと、屋敷の中に人の骨があったこと‥。
「――って、わけなの。バレたら怒られちゃうから言いたくなかったんだけど。約束は守ってよね!」
「もちろん! それだけ教えてくれれば十分だよ!」
 ろまんは親指を立てる。どうやら当たりを引いたらしい。

 リニクは村の周辺にキメラの痕跡が残っていないか調査。
「‥‥」
 念入りに探したものの、特にそのようなものは発見できない。

 つばきと縁は虫型キメラや怪しい場所がないか村人に尋ねて回る。
 ――結果、得られたのは、先にろまんが入手した森の奥の屋敷の場所のみ。他は既に知らされていた情報だけであった。
 空音も村の周囲に虫型キメラが好みそうな場所がないか聞いて回ったが、やはり屋敷の存在が判っただけである。
 
 キャンベルは虫型キメラが増加、行方不明者が出始めた頃に『得体の知れぬ人物』が現れなかったか聞くが、皆、心当たりはないという。

 陽も落ちそうな頃、情報収集を終えた傭兵達は集まって情報の整理を始める。
 結論として、皆の意見は村の奥にあるという古い屋敷が怪しい、ということに集約された‥。

●蟲の森
 傭兵達は二班に分かれて行方不明者が頻発する時間帯、夜に森の探索を開始する。
 A班‥‥花、ろまん、キャンベル、猫――
 森の樹木は広葉樹が殆どであった。地面は腐葉土に覆われており足場は良いとは言えず
 山間部だけに所々傾斜があって歩き難い。だが幸い木々の合間から漏れる月明かりのおかげで夜間でも視界は良好だ。
 しばらく歩くと、ガサガサガサという足音が聞こえてきた。‥虫型キメラだ。
 咄嗟に木陰に身を隠す4人。
「‥どうしましょう?」
 キャンベルが小声で言う。
「ボクに考えがある。ボクがやられたフリをして自分をキメラに運ばせるから、皆はその後を付けて。そうすれば手っ取り早く屋敷に辿り着けるでしょ」
 そう言うと花は飛び出す。
「花さん!」
「よろしくねっ!」
 花はビートル数匹に向かって攻撃を仕掛ける。勿論手加減して、だ。そしてわざと反撃の体当たりを受け、地面に倒れる。
(「さあ来い。お前達の主のもとへ、連れて行ってもらうよ‥」)
 倒れたまま、薄目で様子を窺う花。
 ビートル達は花に近寄り、何かを確認しているようだ。しばらくすると‥木の上から巨大な蜘蛛、ビッグスパイダーが降りてきた! ビッグスパイダーは粘着性の糸を吐いて花の身体をぐるぐる巻きにする。
(「しまった! これじゃ身動きが取れない!」)
 そのまま花を抱えて運び去ってしまった。ビートル達もどこかへ消える。
 ろまん、キャンベル、猫の3人は急いでその後を追うのだった‥。

 B班‥‥リニク、縁、つばき、空音――
 こちらの4人は見落としがないように注意しつつ屋敷を目指して進む。
 縁は行方不明者の名前を呼びながら捜索していたが反応はまったく無い。
「ちっ、居ないか」
「やっぱり、その屋敷とやらに連れて行かれてしまったのでしょうか‥。しかし、何か落ち着きませんね‥。やはりスカートがいいなぁ‥」
 小型の虫型キメラを警戒し迷彩服を着たつばきが溜息をつく。一方――
「もっさ‥もっさー‥もさもさ‥」
 何やら地面に蠢く物体あり。3人は気付かない。
「もさもさもさ‥」
 それは景色や地面に完全に溶け込んでいた。
「今のところ敵影は無し‥」
 急にすっくと立ち上がる枯葉の塊。
「うわっ!?」
 驚く空音。
「あ、ゴメン‥リニクだよ」
 枯葉のお化けはそう喋った。その正体はギリースーツを纏ったリニクだったのだ。
「もう‥びっくりさせないでよ。‥姿が見えないと思ったら、そんな格好をしていたんだんだね‥」
 空音は胸を撫で下ろす。
 そのとき――カサカサカサという音がした。瞬時に敵と判断した4人は迎撃態勢に入る。
「えーい、バスター発射ー!」
 覚醒し精神的に魔法少女となったつばきは金髪をなびかせ超機械「トルネード」のスイッチオン。強烈な電磁波の竜巻に耐え切れず四散する虫型キメラ。
 縁はエネルギーガン、リニクは伏せて身を隠し洋弓「アルファル」を構え、空音は機械剣「莫邪宝剣」で、それぞれ攻撃。
 決着はあっという間についた。敵はビートルやキメラアントといった雑魚が少数だけだったからだ。
 戦闘が終了した直後、A班から無線連絡が入った。花が攫われ、追跡中とのこと。
 B班の面々も屋敷へと急いだ‥。

(「竜宮城の亀‥とはいかないか‥」)
 屋敷の前まで連れて来られた花。しかし身体を粘着性の糸でぐるぐる巻きにされているため身動きが取れない状態だ。これでは隠し持った小銃「ピクシー」も使うことが出来ない。はっきり言ってピンチだ。
 そのとき‥花を連れてきたビッグスパイダーが動く。
(「!? 意識があることに気付かれた?!」)
 花の顔に鋭い鎌状の顎が迫る。
(「こいつ‥ボクを食べる気だ!」)
 もうダメかと思いかけた瞬間――ビッグスパイダーの頭部がごろりと地面に転がる。
「大丈夫ですか? お怪我は?」
 声のしたほうに目をやると、そこにはキャンベルが佇んでいた。手には月詠。刀身からビッグスパイダーの体液が滴り落ちている。
「ありがとう‥助かったー」
 間一髪の所だった。安堵する花。
 ろまんと猫も追いついてくる。花は皆に手伝ってもらって糸から脱出。
 そんなことをしている間にB班のメンバーも到着。
「ここが‥村の人達が言っていた屋敷‥」
 ごくりと唾を飲む空音。
 傭兵達は武器を手に、気を引き締めて屋敷内へ足を踏み入れた。

●棄てられた館
 屋敷の中はクモの巣だらけだった。巣の大きさからすると先ほどのビッグスパイダーではなく普通のクモだ。
 ろまんは床に痕跡や足跡が無いか丹念に探す――までもなく、床は足跡だらけ。この屋敷の事を話してくれた子ども達のものだろう。しかし肝心のキメラの姿が見当たらない。
「うーん、ここでキメラを見たって子がいたんだけどなあ‥」
「怪しいものは見当たりませんね」
 猫が答える。一通り探したがあるものは放置された家具ばかり。
「ええい! こうなったら虱潰しだ!」
 縁は片っ端から棚などを調べ始める。皆もそれに続いた。
 ‥‥数時間後。
「あった! あったぞ! 隠し扉だ!」
 いい加減調べるのもうんざりしてきた頃、縁が一階の書斎らしき部屋で奇跡的に横にスライドする本棚を発見。普通は気付かないであろう。まさに執念の勝利。
 そして全員書斎に集まった。本棚を横にスライドさせると、地下へと続く階段が出現する。
「罠‥かな?」
「だが、他にそれらしい所は無い。行くしかないと思うぜ」
 当然罠を疑う花に対して、縁が言った。少し間があり‥視線を交わし、頷く傭兵達。
 階段の横幅は狭く、一度に一人しか通ることが出来ない。というわけで、白一点の縁が先頭になって傭兵達は階段を降りていく。

●プロフェッサー・芳賀
 階段降りると、重厚な作りの鉄扉があった。躊躇無く開く縁。
 するとそこは――学校の教室ほどの空間。用途不明の機材やらが散乱している所為で実際はそれより狭く感じるが。
「‥やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
 部屋の中央には白衣を着た、特徴的な髪型の中年の男が立っていた。
 縁はクロムブレイドを構え他の者も戦闘態勢をとる。男は構わずに続けた。
「迷い込んだ子どもをわざと逃がせば噂が広まり、すぐに傭兵が出向いてくると思ったが‥そうでもなかったようだ。まあ、結果的に思惑通りいったので良いがね」
 男は笑う。
「ボク達を誘き寄せたってこと? 何が目的なの? 村の人達を攫ったのはあなた?」
 花が問い詰める。
「質問が多いお嬢さんだ‥。まあいい、最初の質問に関してはイエスだ。目的は直に解る。村人攫ったのは‥そう、この私だ」
「なんてことを! 攫った人達はどこ?!」
 怒りをぶつける花。
「そうだな‥全部ではないが、そこに転がっているだろう」
 男はあごをしゃくる。‥その指し示す場所にあったのは、人間のものらしき多数の骨。
「使えないものは皆キメラの餌にしたよ。私が欲しいのは質のいい材料なのでね」
「‥どうしてこんな事するんだ! ボク、絶対に許さないから‥!!」
 激昂したろまんが両手に刀を構え飛び掛ろうとするが――
「威勢のいいことだ‥」
 男は素早く手元の端末を操作。すると、男の立っていた場所の両端に設置されていた水槽を突き破り、太く鋭い角を持った巨大な甲虫と、人型だが‥バッタのような頭部をしたキメラが出現。ろまんの前に立ち塞がる。
「君達の相手はこいつらだ。コードネーム‥タイラントビートル、およびハイブリッドバグズ。後者の材料は何か‥判るね? くくく」
「貴様っ!」
 縁が叫ぶ。
「どちらも試作品だ。私はこれのテストがしたくてね。‥さて、お喋りはこの辺にしておこう。私はプロフェッサー・芳賀。芳賀教授と呼ばれている。覚えておけ」
 そういうと、男は別の隠し通路に姿を消した。
「「待て!!」」
 花とろまんが後を追おうとするが‥キャンベルに止められた。
「今はこの二体を片付けましょう」
 そうして、激しい戦闘が始まる――
「はあっ!!」
 縁がハイブリッドバグズに向けてクロムブレイドを打ち付ける。
 その重い刃がぶつかる瞬間、はっきりとした赤い壁が見えた。
 あまり、ダメージは無いようである。
 そして縁はカウンターの拳を鳩尾に受けてしまう。
「がはっ!?」
 血を吐く縁。一瞬気を失いそうになるが気合で持ち堪え、よろめきながらも後退。
「やあっ!!」
 覚醒し、タイラントビートルに向けて超濃縮レーザーブレードを振り被る空音。両足首に淡く光る環が現れ、それはまるで月暈の様‥。
 こちらもインパクトの瞬間、赤い壁が見えた。それなりのダメージはあったようだが、致命傷には至らない。
「こいつら‥」
 リニクは思考する。どうやらこの二体のフォースフィールドは通常のキメラより強力らしい。その上、虫型にもかかわらず非物理攻撃に弱い様子も無い。‥強敵だ。新しい武器を試したかったが‥今はそんな余裕は無さそうだ‥。
「二手に分かれての集中攻撃を提案するです」
 色白で白髪となった覚醒状態の猫が言った。両手に刀と機械刀を構えている。
「おっけーだよ♪」
 金髪魔法少女なつばきが頷き、それに応じて皆も頷き、傭兵達は体勢を建て直し二塊になってキメラに向かっていった。
 ――数分後、滅茶苦茶となった部屋。二体のキメラの亡骸の前で、縁は膝をついていた。彼は皆の盾となるように動いていたので最もダメージが大きい。他の者も壁に寄りかかったりしており、疲れた様子だ。
 一方、おじゃんになった機材の中で唯一生きていた端末を調べていたつばきが、驚きの表情を浮かべる。
 そこには――虫型キメラの培養プラントの位置情報が残されていた‥‥。