タイトル:山猫の受難マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/07 23:27

●オープニング本文


 メルス・メス、ラストホープ支社――。
 会議室に集まった研究者達を前にして、厳つい顔つきをした年配の男性が口を開いた。
「DRM−1『リンクス』開発チームの諸君にこうして再び集まってもらったのは他でもない」
 男性――リンクスの開発主任はごほんと咳払いをし、
「リンクスにバージョンアップの時期が来たためだ」
 そのように言う。表情は、明らかに不機嫌そうな顔をしている。
「既にプランはいくつか用意した」
 スクリーンにリンクスの図面が映し出される。
「‥‥まずプランA! 機体フレームの強化。生存性の向上だな」
 画面が切り替わる。
「‥‥次にプランB! 搭載燃料の増加。継戦能力の向上だな」
 画面が切り替わる。
「‥‥次にプランC! 兵装搭載量の向上。
 これは固定武装がかなりの重量であるため、圧迫されており‥‥
 発売当初からユーザーから要望があった点だな」
 画面が切り替わる。
「‥‥最後にプランD! 照準性能の向上。これは説明するまでもないな。‥‥以上だ」
 そう言うと開発主任は口を閉じた。
 1人の研究者が立ち上がり、挙手する。
「4種のプランを統合することは出来ないのですか?」
 実に迂闊な質問‥‥。開発主任のこめかみにビキッと青筋が浮かぶ。
「不可能だ! リンクスに設計的余剰が無いのは君も解っているだろう?!
 リンクスは『既に完成された機体』なのだよ!!」
 気迫に怖気づいた研究者は着席する。

 しかし‥‥怖いもの知らずがもう1人。起立し、挙手する。
「某社から某KVが発売されてから、一部のユーザーから問題視されてきた距離修正低減機能の非搭載。
 今回のVUでそれを追加することは出来ないのですか?」
 ‥‥その言葉を聞いた開発主任は‥‥眉をぴくぴくとさせる。
「バァカモンがぁぁぁ!! 貴様、それでもリンクスの開発スタッフの1人かぁ?!
 リンクスはあのドロームのデカイ図体のスピリットゴーストと違って、
 設計的余剰が無いと何回言わせれば気が済むのだ!! 不可能だ! 不可能!
 そして某KVとは対応レンジ(射程)が違う!!」
 血管がブチ切れん勢いで開発主任は怒鳴る。気圧された研究者は力なく崩れ落ち‥‥もとい、着席した。

 そしてまた1人、生贄が‥‥挙手する。
「では、固定武装である『スナイパーライフルLPM−1』の改良は‥‥?」
 ‥‥開発主任はゆらーりと身体をくねらせつつ、背後から青白い炎を噴き上げる(研究者の目の錯覚)。
「ふ! ざ! け! る! な! このバカモン!! LPM−1はリンクスの存在意義!!
 あれに今以上の性能を求めるだと‥‥? ふざけたことを抜かすな!!」
 怒りの炎に焼かれ、真っ黒こげになった研究者は口から黒い煙を吐きながら着席した(ように見えた)。

 ‥‥憤怒の咆哮を上げた開発主任はぜいぜいと息を切らしている。さすがに歳には勝てないらしい。
 開発主任を着席させ、その補佐――メガネをかけた若い男性が前へ出る。
「というわけで、リンクスのVUにはかなりの制限があるんです。
 しかし‥‥この機体だけVUをしない、というわけにはいきませんし‥‥。
 ユーザーである傭兵の意見を聞こうと思いますが‥‥どうですか?」
 ‥‥散々怒鳴られた研究者達はこくこくと頷くだけだった‥‥。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
金 海雲(ga8535
26歳・♂・GD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
若山 望(gc4533
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

●DRM−1「リンクス」
 リンクスのVUの意見聴取のためにメルス・メス、ラストホープ支社を訪れた5名の傭兵達。
 受付で手続きを済ませたのち、少し待つとスタッフがやって来て会議室へ通された。

 ***

 メガネをかけ、白衣を身に纏ったクラリッサ・メディスン(ga0853)。
 知的な雰囲気ながらも見た者を虜にする美貌を持つ女性である。
「‥‥リンクスは元々がかなり完成されている機体だけに、
 今回のバージョンアップでは冗長性のなさがネックになりましたわね。
 とりあえずはわたしなりの考えを述べさせて頂きますわね」

 終夜・無月(ga3084)――
「こんにちは。とりあえず俺の意見は、愚申の1つとして捉えて下さい‥‥」
 彼の視線の先に居るのは‥‥厳つい顔をした年配の男性、リンクスの開発主任。
 早くも物々しい威圧感を放っている‥‥。
 無月はそれに対し、柳に風や暖簾に腕押しと言った物腰の柔かさで対処しようと考えていた。

「未だに購入出来ない貧乏傭兵ですけど‥‥
 やっぱりコストパフォーマンスは凄く良いと思います」
 金 海雲(ga8535)は、リンクスには非常に惹かれているが金銭的理由もあり‥‥
 今はミサイル兵装限定ながら距離修正低減機能を持つA−1『ロングボウ』に乗っている。
「どうもこんにちは。皆さん、本日はよろしくお願いします」
 海雲は開発主任の頑固オヤジやスタッフに礼儀正しく挨拶する。
 見た感じぼーっとして風采が上がらない彼だが、礼儀はきちんとわきまえているらしい。

「ここしばらくはワタシが銃器運用専任機体として愛用している、
 DRM−1『リンクス』。ワタシは『アルテミス』と呼称しているけれど‥‥
 そのVUに関する意見聞き取り依頼ということで参加させてもらったわ」
 黒のパンツスーツを身に纏ったアンジェラ・D.S.(gb3967)。びしっと着こなしている。
 いつも彼女は野戦服を着用しているようだが、今回は意見聴取という場あるため、配慮したのだろう。

「傭兵になってから、ほぼ全ての大規模作戦を共に戦ったリンクスのVUなので
 出来るだけのことはしたいです」
 ゴスロリ服姿の愛らしい少女、若山 望(gc4533)。
(自分も含めてなるべく多くのリンクスユーザーに納得してもらえる結果を出したい‥‥)
 表情には出さないが、リンクスに対する想いは大きいようだ。

 そして望は、今までの戦闘データと改造記録を収めた記録媒体を取り出す。
「陸戦を主体と想定しているようなので、空戦の記録は貴重かと思うので少しでも役に立てば‥‥」
 挨拶がてら、データを収めた記録媒体をプレゼント。受け取るスタッフ。
「確かにリンクスは陸戦主体を想定していますが、空戦もちゃんを考慮していますよ。
 現にリンクス・スナイプは空戦でも使用可能です」
 と、スタッフが答えたところで、全員に飲み物が行き渡り、意見聴取が開始となった。

●性能強化について
 傭兵達は各々に意見を述べて行く。

 クラリッサ――
「わたしはプランC、兵装搭載量向上を推します。
 固定武装の『スナイパーライフルLPM−1』は確かに申し分ない性能を誇る狙撃砲だと思います。
 ただ、機体の装備力からすると少々過重過ぎますわね。
 なので、まず優先されるべきは兵装搭載量の向上ではありませんか?」
 彼女の言葉を聞き、うんうんと頷くスタッフが数名。
「陸戦でも空戦でも使いやすい狙撃砲を積んでいる以上、
 使い手はそれを戦術の基本に据えていると思います。
 だとすれば、現在の副兵装スロット数を多少削っても戦いようは十分あると思います。
 もし何かを削ることで兵装搭載量のさらなる向上が図れるというのなら、
 副兵装スロットを削ることも考慮に入れても良いのかもしれませんわね」
「既にある副兵装スロットを削ったら非難轟々だと思うがね」
 副兵装スロットの数を重視する傭兵は多いと聞く。と、開発主任はしかめっ面で言った。

 無月――
「俺もプランCを推します。機体強化依頼を幾つかこなして来ましたが‥‥
 固定兵装持ちの機体には結構有効な改良ですね‥‥」
 過去の依頼経験を元に発言する彼。
 固定武装はどうしても装備を圧迫するので無難な意見と言えた。

 海雲――
(親父さんは、陸上での運用主体に考えていらっしゃるのかな‥‥)
「確かに陸上最鋭だと思います。けど固定武装の射程が凄いから、
 若山さんが運用してるように、空戦でも活躍してます。
 性能と武装の相性の面からだと、空戦の方が有利なのかな‥‥?
 俺の誤解だったらすみません」
「陸戦ではテールアンカーがあるからな。どちらが有利とは言えん。
 リンクスは空陸両面で十分に戦える機体だと自負している」
 開発主任はそう答える。

 そして海雲もプランCを支持。
「空戦用のミサイル系はそうでもないけど、
 空陸兼用のライフル系は重いのが多いから‥‥装備力の向上は嬉しいと思います」

 アンジェラ――
「実際『リンクス』はワタシが銃器の運用を主とする、
 イェーガーというクラスであるがゆえに、行動に際して感触にぶれが生じなくて、
 且つ現場においても、後衛よりの狙撃・弾幕援護を形成するに至っては
 最大限の効果を発揮していると任じているところよね」
 彼女は一呼吸置き、
「でもこのまま使用するにせよ、問題点が浮かび上がって感じ入るのは明らかで
 ワタシとしてはそれを指摘するならば、やはり積載の問題かしらね」
 そのように言い、
「固定武装に加えてもう1種の銃器兵装を運用する手前、
 それがかなり重いので‥‥空戦ならともかく陸戦においては、
 防御のために盾の運用も考慮しなければならないので、
 やはりその辺の限界で悩むところが従事する作戦で逐次あるわね‥‥」
 と、少しだけ苦い顔をした。
 様々な状況に対応するにはやはり、兵装は多いほうが良い。
「なのでワタシとしてはプランCの兵装搭載量向上を推すわ。
 他のプランに関しては、現状若干練力が足りないと思わせられるけども
 装備よりは重要度は低いので、退けても良いところね」

 望――
「改良プランについてですが‥‥宇宙を視野に入れるならプランC。
 宇宙用フレーム等を積むのに装備重量は多いほうが良いと思います。
 宇宙を考えないのであればプランAかB。個人的には普通の改造で上がりにくいほうを優先。
 プランDは上昇幅が小さいとのことなので避けたいです」
「宇宙か‥‥ついに見えてきたのだな‥‥。
 おっと、すまん。‥‥それはユーザー次第と言える。
 宇宙へ上がってもリンクスに乗り続けてくれるかどうか、だ」
 開発主任は一瞬だけ遠い目をし、すぐに視線を望ヘ戻し、答えた。

●機体特殊能力の改良について
 少し休憩を挟み、意見聴取は後半へ。

 クラリッサ――
「テールアンカーについてですが、
 正直戦場で移動も回避も出来なくなるのは危険性が高すぎると思いますわ。
 狙撃機として運用するにはどうしても中途半端な部分がある以上、
 思い切ってオミットしてそれに生じた余剰を他に回した方が
 よりリンクスが生きるのではないかと思います」
「危険過ぎるということは無い。アンカーを展開してから1〜2発撃ったのちに解除、
 または盾でも持って防御すれば良いだけだ」
 開発主任はテールアンカーの運用法について答える。

「‥‥もし改良するならば多少の練力を課すことで、
 解除に必要な行動力を無しとするようにすることでしょうか?
 命中力の上昇に練力を投入していると考えれば、受け入れやすいのかもしれませんわね」
「それについては不明な点が多い。のちほど回答する」
 クラリッサの言葉に対し、開発主任はそう発言するにとどまった。

 望――
「機体特殊能力については‥‥リンクス・スナイプは最低限現状維持。ダウングレードは避けたいです」
 リンクス・スナイプについて言及したのは望だけであった。
 ‥‥皆、現状のままで構わないということなのだろう。
 そして望はまた口を開く。
「テールアンカーは正直使ったことがないのでどう改良すれば良いか判りません。
 碌に使われていないのであれば、いっそのこと外してしまって
 別の機体特殊能力を入れてもらったほうが良いと考えます。
 個人的にはリスクに見合った性能と思えないので。
 ただ、VUの範疇を越えそうなので、せめて空戦でも使えるように出来ませんか?
 例えばアンカー部分の形状を変更して、狙撃時に展開して安定翼として命中精度を上げるとか」
「‥‥リンクスに乗っていてテールアンカーを使ったことが無いのか。それは勿体ないな。
 先程説明したように、数度射撃ののちに解除、あるいは防御を徹底すれば良い。
 ‥‥テールアンカーを外すことは考えていないな。
 空戦でも使えるようにするのは‥‥難しいと言えるだろう」
 何かしょんぼりした様子の開発主任。だがすぐに威圧感を取り戻す。

 海雲――
 彼はテールアンカーの改良を支持。クラリッサと望の意見に賛成した。
「テールアンカーについては地面に突き刺す方式だと、
 轟龍号とかの味方戦艦の甲板上では使えないから、
 形状に改良を加えたら、より活躍場所が広がりそうな気がします。
 こう‥‥鳥の足や譜面台みたいな、広がって支える形状にしたら、
 突き刺さなくても良いかも‥‥? 素人考えですみません‥‥」
「ユニヴァースナイトは大規模作戦ごとにかなりの損傷を受けていると聞く。
 特にUK3は中破ぐらいは日常茶飯事だそうだが。突き刺しても問題ないんじゃないか?
 その程度の傷、敵の攻撃を受けるより遥かにマシだろう。
 ‥‥まあ、甲板の硬度や突き刺さるかどうかは知らんがね」
 開発主任はがははと笑って見せた。
「解除の時に行動力がいらなくなるのは凄く有利になると思います。
 リンクス・スナイプの半分くらいの練力で実現したら、
 超VUな感じが‥‥万一の時に生存性が格段に向上しそうです」
「さっきも言ったがそれに関しては後だな」
 と、開発主任は難しい顔をした。

 無月――
「俺もテールアンカーの改良を進言します。完璧過ぎてある意味此処しか弄れそうに無いですし‥‥」
 苦笑する彼。
「世辞はいいからさっさと言え」
「‥‥はい、すみません。
 使用に多少の練力消費が必要となることやアンカーの時よりも命中力向上値の多少の犠牲は良いので
 使用中は移動・回避が不可能というデメリットの排除と空中や宇宙の広域時でも使用を可能と出来るようにする。
 具体的にはアンカーを地面に突き刺し、機体を固定することで反動を抑えるのでなく、
 一定時間噴射型のスタビライザーを機体後方に展開し射撃時姿勢制御を補助するようにする。
 猫は尾でバランスを取るものです‥‥。其の尾を自由に動かして‥‥」
「お前の言いたいことは解った。
 要するにテールアンカーを姿勢制御用スラスター付きのスタビライザーに換装しろということだろう?
 もし可能だとしても、莫大な練力を消費することになるだろうな。
 そして、テールアンカーの大きな形状変更や換装は難しいと言っておく」
 開発主任はきっぱりと言い切る。
「まぁ‥‥余剰が無いのなら仕方ないですけどね‥‥」
 ふう、と息を吐く無月。

 アンジェラ――
「テールアンカーに関しては確かに陸戦のみで空戦では死にスキルではあるけども
 練力を消費しない分、タイミング良くここぞの『一撃』で使用するに
 環境以外で躊躇せずに済むのが良いわ。
 なのでここは、空戦時命中向上として形状を適正に変化させるのを提案するわね」
「ふむ‥‥やはり空戦対応は難しいと思うが‥‥」
 腕を組んでうむむと唸る開発主任。
「ワタシのリンクスの愛称『アルテミス』は射手の女神から由来だから、
 更に射撃運用に適切化されれば幸いね」
 アンジェラはそう言って締めくくった。

●纏め
 傭兵達の意見を纏め終えた、メガネをかけた補佐の男性が口を開く。
「リンクスの性能強化は全会一致でプランC、兵装搭載量向上に決定します」
 うむ、と頷く開発主任。
「テールアンカーの改良に関しては‥‥やはり不明な点が多い。
 実際に試してみなければわからん。解除の行動の消費を無くするにしても、
 かなりの練力を消費することになるかもしれん。
 それでリンクス・スナイプが使えなくなったら本末転倒だ。
 ‥‥とにかく、空中で使用可能になるかどうかも含めて、期待せずに待っていてくれ。以上」
 そうして、リンクスのVUに対する意見聴取は終了。

 退室しようとする開発主任を、望がトコトコと追いかけて行き、呼び止める。
「言い忘れました。VUとは関係ないけど宇宙用のリンクスが欲しいです」
「がはは、嬢ちゃんはリンクスが好きなのか? それなら嬉しいねえ‥‥。
 ただ宇宙用となるとな‥‥上に言ってみないとわからん。すまんな。
 ‥‥これからもリンクスに乗り続けてくれると嬉しい」
 開発主任はニッと笑うと、部屋から出て行った。