タイトル:竜と大蛇マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/14 22:30

●オープニング本文


 九州某所。旧市街地――。

 地響きを鳴らし、一騎の竜が駆ける。二足歩行で。目標へ。獲物へ。
 ――竜の視線の先に居るのは、1機のゴーレム。
 竜はある程度接近すると、脚爪をアスファルトに突き立てる。慣性に刃向かい、轟音と共に地を引っ掻きながら、停止。
 それと同時にゴーレムへ照準。十式高性能長距離バルカンを連射。無数の砲弾が飛び、ゴーレムの装甲を削る。
 ‥‥ゴーレムは猛烈な弾幕に押されつつもプロトン砲を連射。
「――!」
 竜を操るパイロットは咄嗟に【超伝導DC】を起動。
 超伝導の鎧により、プロトン砲の光条は威力を大幅に減じられる。それは竜の表皮を焼いたのみ。
 竜は地面を蹴り、再度駆ける。跳躍。ゴーレムに肉薄。着地と同時に脚爪『ディノスライサー』で斬り付けた。
 傷口から火花が散る。そして――
「‥‥!」
 竜使いは瞬時に兵装を切り替えると同時に【オフェンス・アクセラレータ】を使用。
 トリガーを引く。竜が大口を開き、その口腔からプロトン砲にも劣らぬ閃光を放った。
 ――至近距離からの、荷電粒子砲『九頭竜』での砲撃。
 胸部に風穴を空けられたゴーレムは静かに崩れ落ちた‥‥。
「‥‥状況終了。帰還します」

 ***

 銀河重工熊本支社。KVハンガー。
「面倒をかけてすまないね、智覇くん」
 白衣を着た50歳前後の男性が声をかける。
 相手は丁度ヘルメットを脱いだ、パイロットスーツ姿の少女。声に気づき、男性のほうを向く。
 ‥‥少女は長身であり、スタイルはモデル並みに整っている。ただし、胸は控えめだが‥‥。
「いえ、任務ですから」
 智覇と呼ばれた長身の少女は淡々と答えた。
「良い機体ですね」
 智覇は背後の――巨大な、二足歩行の鋼鉄の竜を見上げながら呟いた。
「そう言ってくれると仕事をした甲斐があるよ。『F−09B 竜牙改』‥‥竜牙の改良型の試作機だ」
「2タイプあると聞きましたが」
 格納庫の奥のほうに佇む、もう一騎の竜牙へ視線を向ける智覇。
「ああ、智覇くんが乗ったのは改良プランAのほうだ」
 男性は完成型の超伝導DC(ディフェンス・コーティング)は2タイプ存在すると智覇に話した。
 プランAは出力向上型、プランBは燃費向上型らしい。
「‥‥私はプランAを推します。竜牙には短期決戦が向いているかと」
「そうだね‥‥単なる出力だけなら、某社の斥力フィールドを上回るんだが‥‥」
「あくまで搭乗してみた感想ですが、防御力や運動性が標準レベルの竜牙にはプランAが合っていると感じました」
 淡々と喋る智覇の言葉に耳を傾け、男性は「ふむ‥‥」と顎に手を当てる。
「貴重な意見、感謝するよ。他の傭兵‥‥ユーザーにも聞いてみないといけないが」
 智覇は「はい」と頷く。
「さて、オロチの改良のほうもあるからは私は戻らせてもらうね」
「お疲れ様です。オロチ‥‥空海用の重支援機ですか」
「うむ。あの機体は特殊すぎて、正直どこから手を付けて良いか判らないが‥‥ユーザーの意に沿えるようにしたいものだ」
 そう言うと、男性は「それじゃ」と手を挙げて去って行く。
「‥‥」
 その姿を見送ったのち、智覇はこれから生まれ変わろうとしている機竜に目を向け、じっと見つめた‥‥。

 ***

「むむむ‥‥」
 50歳前後の白衣姿の男性がPCの画面を前にして白髪混じりの頭をかく。
 このオロチという機体‥‥改良を任されたものの‥‥支援機としては完成度が高く、
 本当にどこに手を加えれば良いのかさっぱり判らずにいた。
(拡張性‥‥アクセサリスロットを増やすのが無難か‥‥)
 だがやはり。
(傭兵に意見を聞くべきだな‥‥)
 そして男性は笑みを浮かべる。
(オロチの開発を担当したのは13室だったか‥‥良い仕事だ‥‥。そして竜牙が生まれたのはここ、熊本‥‥)
 自分は開発には関わっていないが、同じ銀河重工の社員として、最善を尽くす。
 例え本社から支社へ飛ばされ、押し付けられた仕事だとしても‥‥。
 この2つの機体に込められた想いに答えるべく‥‥。
 男性はそう、心に誓うのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
雪村 風華(ga4900
16歳・♀・GP
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
ハンニバル・フィーベル(gb7683
59歳・♂・ER
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

●進化する竜と大蛇
 竜牙とオロチのVUへ意見するために銀河重工熊本支社を訪れた7名の傭兵達。
 受け付けで手続きを済ませると、会議室へ通された。

 ドクター・ウェスト(ga0241)――。
「我が輩はドクター・ウェストだ〜」
 白髪の男性は特徴的な笑い声を上げた。

 終夜・無月(ga3084)――。
「どうもです‥‥」
 会議室の隅っこに座り、お茶を飲んでいた智覇に挨拶。
 智覇は何も言わず会釈を返してきた。

 雪村 風華(ga4900)――。
「竜牙はちょっと防御力が低いのが難点だけど、この火力は嬉しいよね」
 彼女は竜牙が販売された直後からのユーザーらしい。

 錦織・長郎(ga8268)――。
「僕自身、岩龍‥‥愛称『八又大蛇』からオロチ‥‥愛称『ケツァルコアトル』へ‥‥
 管制機用として乗り換えて大分時間が経った身であるが。
 以前の物とは違ってやはり、頑丈な安心さ桁違いであり、その面却って危険な任務を強いてる処があるね」

「それでも現状においては欠かせない機体の1つではあるし、増してやVUの意見聴取ともなれば‥‥
 開発依頼にも参加した経緯も有るにせよ、更にも増して具体的な内容を提示できるかと思うね。
 なのでそうやって集約された意見より、一段と向上した性能になる様、考えを提示できたら良いだろうね」

「くっくっくっ‥‥智覇君も元気かね。色々無理してる様だが身体は大事にしたまえよ」
 智覇はその言葉を聞いて、こくりと頷いた。

 ハンニバル・フィーベル(gb7683)――。
「攻撃の雄とその優秀なる補佐ってなコンビだな。ま、空戦限定の話だが」

 沖田 護(gc0208)――。
「僕はドラグーンとして生身戦重視で来ましたが、同じ竜の名を関するKVに興味があって来ました」
(さて、この場に集まった人たちの意見も聞いて、より良いバージョンアップにつなげるとしましょう)

 ミリハナク(gc4008)――。
「待望の竜牙のVU♪ さあ、ガシガシと凶悪に作り変えてくださいな」
 彼女は竜牙激ラヴ。世界一の竜牙使い(自称)として意見を提出するつもりのようだ。

●竜牙VU
 最初の議題は竜牙のVUについて。

 ウェスト――。
「竜牙は搭乗権を持っていないからよく分からないが、智覇君が言っているようにプランAでいいのではないかね〜」

 無月――。
「プランAが良いと思いますね‥‥。竜牙の存在意義、役割は敵の駆逐ですから‥‥。
 それに‥‥ある意味ピーキーさが銀河の売りでしょう‥‥?」
「銀河重工の方針としては、それは一昔前の考えだね。現在、我が社は多種多様な機体を開発している。
 ピーキーではない、扱いやすく汎用性の高い機体もね」
 無月の問いに対して担当者は落ち着いた口調で答えた。

 さて、無月の1つ目の提案は‥‥ディノファングの強化。
 DCの超高圧電流発生機構を利用し、牙の方にも伝導ラインを確立させる事で、
 阿修羅のサンダーテイルや機槍『天雷』の様に、噛みついた後に超高圧電流を敵に流す能力を付加させ破壊能力を向上させる。
 DCの様に機体全体では無く牙のみの上噛みついた時と言う限定的な状況下のみでの電流発生とする事で練力の消費は無い方向で調整。
 現在廃版化されている阿修羅‥‥または自社製兵装の轟雷から進化させた天雷の技術を利用。

 ‥‥要するに、彼が言いたいのはディノファングに阿修羅改のサンダーテイルのような機構を組み込むということだ。
 名前もディノファングから『機牙「神鳴」』への変更を提案。
「個人的には阿修羅を能力だけでも復活させたいとは思います」
「ふむ、面白いアイディアだ。‥‥しかし、竜牙は超伝導DCの改良に予算をかなり食われている。
 ディノファングの改良は難しいと言わざるを得ないね」
「下手な改造を要求をしたら、バージョンアップ自体が流れかねないよ。それはいらないと思うから、反対させてもらうね」
 担当者の言葉を聞きつつ、反対意見を出す風華。
 無月の案は、確かに実現すれば面白いだろうが‥‥有用かどうかとなると疑問である。

 2つ目の提案は‥‥オフェンス・アクセラレータの強化。
 消費練力を上昇させて出力を向上させる。という案であった。
 だが‥‥担当者は相変わらず難しい顔をしている‥‥。

 風華――。
 彼女は、竜牙の真骨頂は‥‥その火力を活かした突撃。
 超伝導DCを使用しての敵陣への突入と、オフェンス・アクセラレータを用いた殲滅力の高さだと考えていた。
「基本的にはプランAを推すね。あと、殲滅速度重視な私としては、オフェンス・アクセラレータの強化を期待したい」
 とは言うものの‥‥
(‥‥でも無理だろうな)
 という言う印象。担当者の顔を見れば解る。

「超伝導DCに関しては、継続防御力よりも突撃時のダメージ低減を最優先にしたい。
 だから私も智覇さんの意見に賛成かな? 瞬発力の方が重要だって思う」
 そもそも、素の防御力が低いので継続戦闘よりも『やられる前にやる』を重視した方がいいという思考。
 命中を上げられないのは痛いが、接近して代用すればいい。

 長郎――。
「プランAで良いのではないかね」
 彼はそれだけ述べるに止まった。

 ハンニバル――。
「プランA一択だろ」
 きっぱりと言い切る彼。
「VU前の無改造状態で消費練力は70。そこから10下がってもありがたみが少な過ぎる。
 それに装甲でアクセサリスロットを埋めるより、プランAで攻撃関連アクセサリを載せたほうが特徴が出て有益だ」

「性能についてだが‥‥プランAの強化ポイントは攻撃と知覚か‥‥悪かねぇが、優先順位を付けたい。
 攻撃よりも知覚。俺ならこうだな。竜牙の知覚は充分高いし、オフェンス・アクセラレータもある。
 だが知覚兵装の重量は、装備値に余裕が少ない竜牙にゃ正直きつい。『九頭竜』だって誰もが用意できる訳じゃあねぇ。
 なら、今現在トップである攻撃を優先して伸ばすべきだろ」

 それから、今後について述べる。
「VUじゃ予算的に無茶なんで竜牙に載せろとは言わねぇが、シコンの種子島、あれこそ竜牙みてぇな一発屋向きの代物だろ。
 宇宙用に竜牙みてぇなコンセプトのを作る気があるなら、種子島から掃射機能を外して装弾数を数発増やした省練力バージョンでも。
 そういうのが固定武装として付いてると面白いかもな」
「今のところその予定はないが、参考にさせてもらうよ」
 担当者は言いながらノートPCのキーを叩く。

 護――。
「破壊力をさらに生かせるように、攻撃力強化が妥当ですね。
 超伝導DCについてはプランAを推します。
 タイミングさえ間違わなければ攻撃のチャンスを作れる強固な盾として機能するでしょう」

 ミリハナク――。
 彼女は『ぎゃおちゃん(ミリハナクの竜牙の愛称)』のスペックデータと、改造された外観の画像データを担当者へ提出。
 竜牙の発展性を証明‥‥と言うが、実際は見せびらかしたいだけであった。
「ぎゃおちゃん可愛いですのv」
「これはまた‥‥随分と‥‥」
 担当者は苦笑する。

「では本題。プランAを希望ですわ。
 高い移動力と高火力で突出しがちになる竜牙としてはDCの出力向上が一番ですわね。無茶な機動と高火力こそが醍醐味ですしね。
 元々が特化型の機体なんですから燃費なんてどうでもいいですわ。
 燃費というなら、オフェンス・アクセラレータの効果を瞬発型から持続型に改良してくださいな」
「オフェンス・アクセラレータの効果は開発中、持続型だったものを傭兵からの意見で瞬発型に変更されたと聞いたが?
 それに、先にも言ったように超伝導DCの改良でVU予算はいっぱいいっぱいだ。難しいと言っておくよ」
 担当者はそのように答える。

「性能上昇に関しては、こっちにも命中アップ欲しいですわね。
 どんな強力な攻撃も当たらなれば意味ありませんし」
「それは確かに‥‥参考にさせてもらう」
 ディスプレイに『XGSS−03Aシコン』開発時の模擬戦のデータを表示し、担当者は唸る。

「あと、VU名の竜牙改がかっこわるいので嫌ですわ。
 真竜牙とか竜牙王とか竜牙弐式とか、こう、燃えるようなかっこいい名前がいいですわ」
「それは考えておこう」
 担当者は頷いた。

●オロチVU
 続いての議題はオロチのVUへ。

 ウェスト――。
「うむ、なかなかに良い機体だね〜」
 会議室のスクリーンに表示されたオロチの3Dモデルを見ながら言う。

 彼の1つ目の提案は‥‥副兵装スロットの追加。
「水中戦、空中戦の両方を行おうとすると、今の兵装能力では水中戦兵装が2つ空中戦兵装が2つと、ちょっと装備が心もとないのだよ〜。
 アクセサリはいらないから、ココはど〜んと兵装を2つ増やすとか〜」

 2つ目の提案は‥‥水空両用撮影演算システムの効果範囲強化。
「カメラのレンズや望遠能力の強化で、効果範囲を広げられないものかね〜。機能を増やすより処理の負担は少ないはずだがね〜」

 そして要望。
「水深200mより深く潜行できないものかね〜。以前深く潜行されてキメラに逃げられたことがあったのだよ〜」
「要望としては聞いておくが、そこまで手が回るかどうかは怪しいね‥‥」
 担当者は顎に手を当てた。

 性能に関してはあまり気にしていないが、どんなKVでも装備と練力は欲しい、とウェストは考える。
「性能? 改造や装備の強化でどうにでもなるだろう〜。
 あ、兵装やアクセサリを載せられるだけの装備と、戦闘継続能力拡大のためにも練力は欲しいところだね〜」

 無月――。
 彼は、索敵能力付加と高感知レーダーやソナーを標準装備させ支援能力を向上させる。という案を出した。

 風華――。
「うーん、こっちは使ってないから良く分からないんだけど、どうせ攻撃能力なんて無いも同然なんだし。
 切り捨てて防御力とか支援能力を上げた方がいいんじゃないかなぁ?」
 彼女は支援能力向上について、特に水空両用撮影演算システムの範囲向上を推奨。
 オロチ自身の攻撃性能が低いのに、接近しないと使えないのは致命的。という考えである。

 長郎――。
 彼が最優先にするのはアクセサリスロットの追加である。
「やはり一番手に改装するのはここだろうね。3つでは何かと手が廻らなくて‥‥。
 例えばソナーブイも枠が増えるならば、ばら撒き範囲が広げられるしね」

 次点は装備力の向上。
「追加するならば最優先のと関連出来るここだろうか。自身に威力が無い分、重い兵装で効力を増やすのが良いだろうかね」

 そして攻撃と知覚の向上。
「少し冒険してこちらだろうかね。制圧力が無くても構わない支援主体機であるとは言え‥‥
 流石に手数の重さがあれば、こちらに注意を惹き付けて攻撃主体機の援護に更に効果できるだろうね」
「あとは然程手を入れなくも良いかね」
 そう言って長郎は、出された緑茶を啜った。

 ハンニバル――。
「水空両用撮影演算システム‥‥こいつの強化が肝だろ。
 宇宙だと水や大気の邪魔がないから、より広範囲の撮影が可能だしな」

「で、だ。カメラの精度や演算能力のアップは当然として、
 水中ではカメラ部分を射出して有線式で遠隔撮影可能にするのはどうだ?
 KV本体から遠い場所が撮れりゃ、遠距離魚雷の命中も上がるだろ」
 ‥‥その案に対し、担当者は難色を示した。
「遠隔操作での撮影か‥‥それはリスクが大きい。
 敵の攻撃を受けてカメラが破損、または破壊されでもしたら元も子もない。
 機体に内蔵したままのほうが安全と私は考える」

 護――。
 彼が、より興味があるのはこちらだった。
「『戦場にいることで味方が戦いやすくなる』タイプの支援機としては、回避・防御を兼ね備えた珍しくも優秀な機体だと思います。
 伸ばすべきは定番の装備力と錬力。スロットが増えるのならより便利な武装を積めるように基礎を強化すべきです」

「水空両用撮影演算システムもオロチの存在意義に関わる機能だけにより上を目指したいと思ってます。
 敵機の回避運動に対応する現行の機能に加え、攻撃力をダウンさせるとか。
 砲撃などの兆候を先に見つけることで、味方機を援護する機能です。
 ‥‥あまりに複雑化するのであれば、演算に必要な錬力の減少でも十分ですけれど」

 彼はアンチプレッシャーアーマーの改良についても提案。
「ある程度の深度でも回避への制限を受け難くなるとか、それでもいいです」

 ミリハナク――。
「宇宙対応化。社名の銀河の名に負けぬよう、銀河のシェア獲得の為に宇宙での活動データを早期に取りましょう。
 元々が厚い装甲と耐圧機構で宇宙改良は比較的容易かと」
「残念だが‥‥それは容易ではないね」
 担当者は首を横に振った。
「VUで宇宙対応が可能なKVは、開発当初から宇宙対応を視野に入れたものに限られる」

●纏め
 傭兵達の意見を纏め終えた担当者が口を開く。
「竜牙改(仮称)に搭載する完成型の超伝導DCは全会一致でプランA、出力向上型に決定。
 性能の向上は‥‥こちらは攻撃と知覚の強化を挙げており、賛同者も多いようだが‥‥
 改めて考え直してみると、正直に言ってあまり大きな上昇は見込めない。元々の攻撃性能が非常に高いからね」
 竜牙は現在でもトップクラスの攻撃性能を有している。
「それならば、その予算でFCS(火器管制装置)を改良し、
 ミリハナクくんの言うように竜牙の弱点である命中性能を向上させるほうが有益だと考える。
 ‥‥竜牙に関しては以上」

 次に――
「オロチに関してはアクセサリスロットの追加と、『水空両用撮影演算システム』の改良。
 この2つに大きく意見が分かれているね。この2つは予算の問題で二者択一‥‥になると思う。
 両方を選ぶことは出来ない‥‥という可能性が高い、そう思っていて欲しい。
 担当部署へ持ち帰って検討し、こちらで最終的な決定をさせてもらうよ。
 性能向上は装備・生命・練力のうち3か所、または2か所を考えている。
 ちなみに、アンチプレッシャーアーマーの改良は予算的に他を圧迫するので見送らせてもらう。以上だ」

 こうして意見聴取は終了。
 担当者は「お疲れ様。有用な意見を感謝する」と、傭兵達を見送った。

 ***

 竜牙とオロチのVU担当者はPCのディスプレイを前に、傭兵から得られた意見を元にVU案を再構築していた。
「竜牙のVUはこれでほぼ決定‥‥。次はオロチ‥‥問題はこれだな‥‥」
 うむむと唸る白髪混じりの頭をした白衣の男性。
 カタカタとキーを叩き、VU予算と改良の要望を見比べる。
「ん‥‥? これは‥‥?」
 男性は少しだけ目を見開く。
 ‥‥これならば、ユーザーの要望に応えられるかもしれない‥‥。
 彼は少しだけ口元に笑みを浮かべた。