●リプレイ本文
●湯万寿へようこそ!
大型観光バスに乗車し、熊本の温泉宿『湯万寿』へやって来た傭兵10名と、乙女隊16名、および上官2名。
合計28名の団体さんだ。小さな温泉宿である湯万寿に、一度にこれだけの客が訪れるのは珍しい事だった。
バスを降りた一行を、湯万寿の女将‥‥和服姿の妙齢の美女、湯野・華子と従業員数名が出迎える。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。ごゆっくり、おくつろぎ下さい」
女将は深々とお辞儀をする。それに倣う従業員一同。
初めに、百瀬 香澄(
ga4089)が手を挙げ、女将に向かって挨拶。
「女将さん久しぶり、元気してた? ‥‥今は何もいないみたいだね。良い事良い事」
「お久しぶりです。ええ、元気ですよ。最近はキメラも出なくて平和です」
女将はニコニコと笑みを浮かべた。
「さて、とりあえず、目一杯楽しんで帰ろうか。
できることはできるうちに」
「はい、そうですね。目一杯楽しんじゃいましょう。うふふ」
香澄の隣で微笑む女性は、九条・冴。香澄と冴の手はしっかりと握られていた。
もう1組のカップル――
「今までの戦いお疲れ様、今日は思いっきり楽しもうぜ」
夏目 リョウ(
gb2267)が恋人の早乙女・美咲に言う。
「ありがと、リョウくん。一段落って所かな。‥‥せっかくだから、いっぱい楽しまないとね」
うきうきした気分を隠せない様子の美咲。
「うーん、素敵な宿だね、風情がある」
「ほんと‥‥私、こういう所に来るのって初めて‥‥」
2人は湯万寿の外観を見回す。
小さいながらも趣がある、歴史を感じさせる温泉宿だった。
「じゃあ入ろうか」
「うん」
美咲の手をそっと握ってエスコート。
彼女の指に目をやると‥‥前回贈った青空の指輪が嵌っていた。リョウは優しい笑みを浮かべる。
一行は女将達に促され、旅館の中へ。
ノエル・アレノア(
ga0237)とティリア=シルフィード(
gb4903)のカップル――
「僕自身は、乙女隊の方々とは中々一緒になる機会がなかったのですけど‥‥。
参加した以上は、皆で楽しい宿泊にしましょう」
「そうですね。楽しまなきゃですね。のちほど、乙女隊の皆さんの事も紹介します」
2人は見つめ合い、微笑み合う。しかしティリアの胸中は‥‥
(春日基地攻略作戦が無事に終わったことは喜ばしいことです、が。
乙女隊にとっての集大成とも言える戦い、その場に居れなかった事が悔やまれます‥‥。
‥‥っと。暗い顔は禁物。ノエルさんの言うように今日は折角のお祝いなんですから、楽しい時間を過ごさないと)
ティリアはぶんぶんと首を振り、頬の筋肉を緩める。
「ふう。‥‥あっ。森ノ宮さん達!」
ティリアが声を上げる。それに気づいた森ノ宮姉妹‥‥柚葉、瑞葉、紅葉、双葉が足を止め、振り返った。
「最後の最後で力になれずごめんなさい。でも‥‥皆、無事で良かった‥‥」
森ノ宮姉妹に近づき、ぺこりと頭を下げるティリア。
「気にしなくて結構です。傭兵さんにも都合があるのでしょうし」
「そうですよ。お気になさらないで下さい。ね?」
「心配をしてくれて‥‥ありがとうございます‥‥」
「ついに九州からバグアを追い出してやったぜ! えっへん!」
4人はそれぞれに言った。ティリアは照れたような表情を浮かべる。それからノエルに、森ノ宮姉妹の事を紹介した。
イスル・イェーガー(
gb0925)と瑞姫・イェーガー(
ga9347)の夫婦――
「たまにはゆっくりするのって大事だよね‥‥」
「戦いばかりじゃ疲れちゃうからね」
そんな会話をしていると、瑞姫が美咲を発見。声をかける。
「美咲少尉、昇進おめでとうございます」
「‥‥御疲れ様です。以前お世話になりました‥‥」
イスルも瑞姫に続く。
「ありがとうございます、イスルさんも。でもそんな呼び方、くすぐったいですよ。前みたいに『みさきち』でいいです」
美咲ははにかみ、頬をぽりぽりとかく。
「じゃあ、みさきち。所でさ‥‥」
瑞姫が美咲にごにょごにょと耳打ちする。
「リョウくんと、良いとこまで行ってるらしいね」
「なっ‥‥! そんな事は‥‥!」
ぼっと顔を真っ赤にする美咲。
「あはは。がんばってね‥‥。色々とさ」
ぐっと親指を立てる瑞姫であった。
制服姿の雪代 蛍(
gb3625)はα−02部隊の4名、横山・利瀬、岩崎・智里、工藤・麗美、山口・麻奈に挨拶。
バスの中でも少し話をしたが、改めて。
「初めまして、ハーモナーの雪代 蛍です。よろしく」
「こちらこそ、今回はよろしくお願いします」
「いやー、温泉温泉! すっごく楽しみ! 早く入りたい!」
「あら、智里さん。まずは部屋に荷物を置きませんと」
「騒がしくてごめんなさい。ずっとこんな感じになると思うので、予め謝っておきます」
麻奈は両手を合わせて頭を少し下げた。
「いいよ。賑やかなほうが楽しいし」
にっこり笑う蛍。
米本 剛(
gb0843)と片瀬・歩美のカップル――
「キメラも浸かりたがる噂の(?)『湯万寿』の温泉‥‥実に楽しみですねぇ」
「そうですねぇ」
米本の言葉に歩美が答える。
楽しみなのは確かだが、米本の内心は滅茶苦茶緊張。歩美が隣にいるだけで心臓がバクンバクン。
そして、しかも、今夜は歩美と同じ部屋に泊まるのである。一体どうなってしまうのか。
(冷静に‥‥落ち着け自分! 状況判断が出来なくなっては武人として失格!)
米本は必死に平常心! と自分の心に訴えた。
――旅行鞄を提げた、スーツ姿の紳士が1人、ロビーに立っていた。
彼の名は鈴葉・シロウ(
ga4772)。白熊ヘッドのビーストマンである。
「フフ、やって来たよ。過日の約束を果たしに。
米本先生の不純異性交遊を大いに応援する為に。
そして何よりも乙女達とキャッキャウフフしに来ました、キラッ☆」
片手を顔の横に持ってきて、親指と人差し指と小指を立て、ウィンクを飛ばす。
「不純ではない! 決して不純ではないですよ! 健全なお付き合いですよ!」
抗議の声が上がる。しかし白熊マンは外野からの声には耳を貸さない。
そして白熊マンは演説を始めた。
「諸君、私は女の子が大好きだ。街角で戦場で(以下略)」
そんな白熊マンの演説を華麗にスルーして、終夜・無月(
ga3084)は乙女隊の面々に挨拶をして回る。
「初めまして‥‥俺は終夜・無月‥‥。
御活躍は聞いております‥‥。
俺も九州戦線はゾディアックと戦ったりと思い入は深かったりします。
宜しくお願いしますね」
そんなこんなで一行はひとまず部屋に移動し、荷物を置き、一息つく事に。
「あ、あの! 歩美少佐!」
米本と一緒に部屋へ移動する歩美を、ティリアが呼び止めた。隣にはノエルの姿。
「剛さんごめんなさい。先に行ってて」
「了解ですよ。荷物は自分がお持ちしておきますね」
「ありがとう」
米本に向かって笑顔を見せたのち、歩美はティリアとノエルに視線を向ける。
「ええと‥‥少佐、彼が、以前話していた人です」
顔を真っ赤に染めながら、俯きがちにティリア言う。
「ああ、去年の合宿の時に言っていた‥‥。無事想いが伝わって‥‥結ばれたのね。おめでとう」
歩美は心からの祝福の言葉を贈る。
「ありがとう‥‥ございます。あ、ノエルさん、こちらが――」
ティリアは親身になって自分の話を聞いてくれた歩美の事をノエルに紹介する。
「えっと‥‥少佐も、頑張って下さいね、なんて」
「ええ、お互いに、ね」
照れくさそうに笑う3人であった。
●休憩のち宴会
一行は部屋に荷物を置いて休憩‥‥。
ノエルとティリアは2人部屋に宿泊。
今は並んで座布団に座り、外の景色を眺めていた。
(‥‥少し、胸がこそばゆいです‥‥)
ノエルは胸の中のよくわからない緊張に戸惑う。
ティリアとの距離が――近い。彼女の顔を見る。
彼女の呼吸。その挙動一つ一つ、見るたびに、彼の心臓は高鳴った‥‥。
***
瑞姫とイスルは三門姉妹と4人部屋に宿泊。
お菓子をつまみながら談笑中。
「こっちは、僕の大切な人のイスルだよ」
瑞姫が三門姉妹に改めてイスルを紹介。
「初めまして。イスル・イェーガーです」
「瑞姫お姉さんと苗字が一緒だねー」
「だねー。そういえば結婚したんだっけー?」
香苗と早苗が無邪気に言う。
「ああ、うん‥‥結婚してるんだよ、僕達‥‥」
「そうなんだー。瑞姫お姉さんとイスルお兄さん、夫婦なんだー」
「おめでとー。ひゅーひゅー」
双子の少女はにこにこ笑い、はやし立てる。
「ありがと。‥‥サナもカナも元服の年なんだね。成長するのは早いなー」
感慨深く呟く瑞姫。
(そのうちこの2人も大人になるのか‥‥嬉しい筈なのに寂しいな‥‥)
複雑な気持ち。
「そういうと僕らもだけどね‥‥今思うと結構長い付き合いだよ」
「そうかもしれないね」
夫が言い、妻が頷く。
そうして暫く、談笑を続けた。
***
香澄は冴と2人部屋に宿泊。
「ヘンナコトナンカシナイデスヨ? ホントデスヨ?」
「香澄さん、誰に向かって言っているんです?」
棒読みで言う香澄に、冴は首をかしげた。
「いやなんでもない。‥‥もっとこうして、色んな所へ出かけたいね」
冴の淹れてくれた緑茶をずずっと啜る。そしてふう、と一息。
「そうですね。香澄さんと一緒に、もっと色々な場所を見てみたいです」
(もうちょい頑張らないとな、私も)
冴の横顔をじっと見て、香澄はそう思うのだった。
***
米本は歩美と2人部屋に宿泊。
(絶対的な平常心を以て望むべし‥‥!)
と、自分に言い聞かせながら浴衣に着替える。歩美は既に着替え終わっていた。
緊張のせいか、手間取ってしまう。
「剛さん」
「は、はいっ!?」
急に名前を呼ばれ、思わず上ずった声を上げてしまう米本。
「浴衣、後ろ前になっていますよ」
「え? な、なんと!」
視線を下げると、本当に後ろ前になっていた。どうやればこうなるのか‥‥。
自分の緊張具合は相当なようだ‥‥。がくりと肩を落とす。
「仕方ないわね。ちゃんと着せてあげるから、一旦脱いで」
「えぇっ!? ちょっまっ」
半ば強制的に歩美に着せてもらう事に。身体が密着し、米本は更に緊張。
予想以上に、気が休まる暇もないようだ‥‥。
***
リョウは美咲と2人部屋に宿泊。
「まずは、割り当てられた部屋に荷物を‥‥」
と、部屋の戸をがらりと開ける‥‥が。
(‥‥布団が1つ‥‥だと‥‥?)
部屋の畳には、布団が1つ敷いてあった。しかも枕は2つ‥‥!
「ああっ! 申し訳ありません! 少々お待ちを」
そこへ仲居さんがやって来て、大急ぎで片付けを始める。
「‥‥まだ準備中か。焦った」
ほっと胸を撫で下ろすリョウ。
「リョウくん‥‥一体何を想像したのかなぁ?」
美咲はその様子を見て、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ええっと、それは‥‥その‥‥」
「うふふ」
わたわたするリョウを見て、美咲は笑った。
***
蛍は利瀬、智里、麗美、麻奈と5人で6人部屋に宿泊。
5人はわいわいと談笑中。
「4人はミカガミB型乗りなんだよね。あたしもそうなんだよ」
「ええ、先輩方が乗っていた機体を使わせてもらっています」
蛍が搭乗機の話をし、利瀬が答える。そのまま雑談へ。
「‥‥実はあたし、みんなより年上なんだけど‥‥子どもっぽく見えるよね‥‥」
「言われてみればそうかもしれませんわね」
「少しだけ、ですけどね」
麗美が言い、即座に麻奈がフォローを入れる。
「だけど、彼はお嫁さんにしてくれるって言ってくれたんだ‥‥」
「ほほー。良い彼氏さんですなあ。大事にされていますなあ」
などと興味津々に智里が食い付いてくる。
「もう、からかわないでよ。‥‥あたしが話したんだから、好きなタイプとか話してね。まずは利瀬から」
「えっ!? 私ですか?!」
突然話を振られて、困惑する利瀬。そんなこんなで軽い恋バナが続いた。
***
シロウと無月は2人部屋に宿泊。
シロウは部屋に着いてすぐにスーツを脱ぎ、浴衣姿で過ごす。
無月もぱぱっと浴衣に着替えた。
「いやはや、無月くんがいてくれて助かったよ」
1人ぼっちは寂しいクマーとシロウは思う。
ちなみに今は練力温存の為に覚醒は解除中。
「俺も‥‥助かりましたよ‥‥。1人よりは良いですし‥‥」
ずずーっとお茶を啜る無月。
「だよねぇ‥‥」
シロウも湯気の立つ湯呑み茶碗に口を付ける。
完全にリラックスモード。
***
数時間後――。
食事の準備が整ったとの事で、一行は大座敷に通された。
高ノ宮中佐の挨拶ののち、いよいよメインイベント、宴会の開始!
「さぁ、約束の時だ、乙女達よ。今度こそ君達を幸せにしてみせるよ」
ふわもこ白熊ヘッドになったシロウが上座に立って、マイクを片手に宣言。
前日から念入りにトリートメントを行い、準備万端バッチコイだ。
‥‥黄色い声と共に、シロウは乙女達に取り囲まれる。
「一番いいモフり方で頼む」
シロウが言うと、一斉に乙女達から揉みくちゃにされた。
「あっ! ああっ! そんな! そんな手つきでっ‥‥! 君達はテクニシャン?!
もう、好きにしちゃってよこのシロックマをっ!!」
シロウは嬉しい悲鳴を上げる。それは実に至福の表情だったという‥‥。
***
「はい、あーん」
「あーん」
ぱくっ。もぐもぐ。
「次は私がしてあげますね」
「お願いするよ。冴が食べさせてくれたら、ご馳走が更に美味しくなる」
「香澄さんったら‥‥では、あーん」
香澄は冴と食べさせっこをしていた。
冴といちゃつくのは勿論だが、他のカップルを煽る意味合いも兼ねていた。
‥‥案の定、カップル達の視線を感じる。計画通り。
香澄は心の中でほくそ笑んだ。
***
「‥‥」
「‥‥」
香澄と冴のいちゃいちゃっぷりを見せ付けられたノエルとティリア。
2人とも頬が赤くなっている。
「あの‥‥」
最初に切り出したのはティリア!
「な、なんですか?」
「ボク達も‥‥アレ、やりませんか?」
「えっ‥‥僕は良いですけど‥‥」
「良かった‥‥」
ティリアは安堵したような笑みを浮かべると、箸で天ぷらを掴み、ノエルの口元へ。
「じゃあ、あーん‥‥して下さい」
「あーん‥‥ぱくっ」
もぐもぐと咀嚼するノエル。
「美味しいですか?」
「ええ、とても」
天ぷらを嚥下すると、ノエルは頬を染めたまま微笑んだ。
***
「ボクは‥‥情けないよ。
護りたい人がたくさんいるのに、誰に対してもそれを果たせてない‥‥」
皆がわいわいと騒ぐ中、瑞姫は涙を堪えながらぽつぽつと呟いていた。
「‥‥ほら、これとかも美味しいよ。美味しいものを食べて元気出しなよ」
「瑞姫、浮かない顔ばかりしてたら周りまで元気無くしちゃう。だから笑って、ね?」
イスルと蛍に慰められ、励まされる。
「ううっ‥‥ぐすっ‥‥。美味しい‥‥」
「そういえば、一応アイドルみたいな事してるんだよね」
蛍がふと、話を振った。
「いや、候補生止まりで‥‥って何言わせるのさ。‥‥もう、わかったよ」
(一応そうなんだし‥‥逃げても仕方ないか)
「イスル、蛍、ありがとう。元気が出たよ」
瑞姫は涙を拭い、2人にお礼を言った。
それから三門姉妹とα−02部隊の4人も混ぜて騒ぐ。
やはり宴会は楽しまなくては意味がない。
***
米本と歩美は並んで座り、酒を飲んでいた。
「剛さん、どうぞ」
「おっとっと、ありがとうございます。歩美さんにお酌をして頂けるなんて、夢のようです」
「私も剛さんと一緒にお酒が飲めるのは嬉しいわね」
米本の頬は少し赤くなっている。ほろ酔い気分で、少しだけ開放的になっているらしい。
歩美のほうはまだまだ‥‥といった感じだ。
(このままどんどん飲ませて酔わせちゃおうかしら‥‥なんてね)
「どうされました?」
気分の良さそうな顔で米本が聞いてきた。
「いえ、なんでも。所でもう一杯、どう?」
***
リョウと美咲。この2人は香澄達に煽られるまでもなく、自然に食べさせっこをしていた。
「いやあ、美味しいなあ。美咲と食べる料理がこんなに美味しいなんて」
「これまでに何度も一緒に食事してるでしょ? リョウくんったら調子がいいんだから」
そう言いつつも美咲はにこにこ笑顔である。頬は赤く染まっている。リョウも同様。
「ははは、ごめん。でも美味しいのは本当だよ」
「そう? じゃあ次はこれいってみる?」
「うん、いただくよ」
「リョウくん、あ〜んしてv」
「あ〜んv」
などなど、ラブラブイチャイチャ状態であった。
***
「ふう‥‥」
乙女達からフルモッフにされたシロウはようやく席に着く。
ふわもこ白熊ヘッドの毛並は若干乱れていたが‥‥やり遂げた男の表情をしていた。
「未成年が多数なのでアルコールは‥‥私が処理しよう」
アルコール類が好物なシロウ。これから後半戦開始といった所か。
日本酒やらビールやらぐいぐい行く。
(間違ってもそこやそこのカップルが飲んでキャッキャウフフでちょいエロスなハプニングは起こさないように。起こさせないようにっ!)
何故か血涙を流すシロウであった。
***
無月は‥‥周囲の大騒ぎを気にせず、高ノ宮中佐と静かに杯を交わしていた。
「隠れた老舗旅館‥‥料理もお酒も美味ですね‥‥」
「だろう? のちほど温泉にも浸かり、存分に楽しむと良い」
「ええ‥‥そうですね。そうします‥‥」
***
そんな感じで宴会は終了。後は自由時間となる。
●温泉! 夜のお楽しみ!
露天風呂――。
香澄と冴の2人は、洗い場で互いの身体を丹念に隅々まで洗いっこしたのち、湯船に浸かる。
「はぁぁ〜‥‥気持ちいいですね‥‥」
「ああ‥‥前にも入った事があるけど‥‥格別だ‥‥」
ぽーっとした表情になる冴と、ほっこりした表情になる香澄。
「前に来た時はキメラ退治だったからなぁ‥‥まったく酷い目に遭った」
松茸キメラを思い出し、香澄は背筋をぶるっと震わせる。
冴は「一体どんなキメラだったのでしょう?」と首かしげる。
「見ろ、冴。星が綺麗だ」
「あっ、本当‥‥」
見上げれば、満天の星空。
2人は星空を眺めながら長時間入浴し、少しのぼせてしまったそうな。
***
シロウは乙女との混浴を全力で希望。紳士なので当然である。
無理強いではなく「一緒でもいいよー」という子がいればの話だ。
「まあ、タオルを着けるし良いんじゃない?」
「何かしたら‥‥全員でフルボッコにすればいいだけ‥‥」
神楽坂・有栖と坂城・慧子の台詞である。後者は若干物騒だが‥‥そんな餌に釣られクマー! となるシロウだった。
舞浜・ちずる、犬飼・歴、森ノ宮4姉妹も加えてのスーパー入浴タイム。
(うはっ!! ここは天国ですか?!)
タオル一枚の乙女達に囲まれての温泉。シロウは眼福すぎて鼻血を噴き出しそうになった。
‥‥乙女達の長風呂に付き合ったシロウは、案の定のぼせてしまい、暫く部屋で横になる事になりましたとさ。
***
瑞姫とイスルは三門姉妹と一緒に温泉。ちゃんとタオルは着けています。
「‥‥温泉なんて入るのなんて久しぶりだな‥‥」
ゆったりと温泉に浸かって癒され中のイスル。
「髪伸ばしたんだけど白髪になっちゃたんだよね‥‥。今はもう慣れたけど」
瑞姫はタオルでアップにした髪に手をやる。
「‥‥僕は綺麗だと思うけどね、白っていうの‥‥」
「わたしも綺麗だと思うー」
「あたしもー」
「イスル‥‥サナ、カナ、ありがとう」
***
米本は歩美と一緒に温泉。
しかし米本はやっぱり緊張。脱衣場から既に歩美を直視できずにいた。
「気持ちいいわね‥‥剛さん」
「え、ええ。そうですな‥‥」
米本はタオル姿の歩美をチラ見。豊満な胸元‥‥! これはヤバイ。思わず鼻を押さえた。
「もう、ちゃんとこっち向いて」
「で、ですが‥‥」
「ちゃんと、私を見て。剛さん」
真剣な声。米本はしばしの逡巡ののち、歩美を正面から見る。
‥‥タオルでアップになった、ゆるくウェーブのかかったロングヘア。優しげな顔立ち。
女性らしい身体つき。乙女隊の隊員達には負けるかもしれないが‥‥まだ若々しい張りのある肌。
そして先ほども見た‥‥豊満な胸元。谷間。
米本はごくりと唾を飲み込む。
「‥‥ちゃんと見て、とは言ったけど‥‥そんなにジロジロ見られると‥‥恥ずかしい‥‥かな」
ぽっと頬を染める歩美。
「すすすすすみません!!」
慌てて顔を背ける。
「うふふ。いいのよ。私達、お付き合いしているんだし。やっぱり、剛さんも男ね」
優しい声。
「‥‥」
米本は顔を真っ赤にして、ぶくぶくと湯に沈めるしかなかった‥‥。
***
リョウは勿論、恋人の美咲と露天風呂へやって来た。
「ここ、混浴しかなかったんだ、その良かったのかな‥‥。
でも折角だから俺、美咲と一緒に入りたい。これも忘れられない思い出になるから」
美咲はその言葉を聞き、頬を染めて‥‥
「いいよ‥‥私も一緒に入りたい、リョウくんと」
と返してきた。という訳でタオルに着替えて風呂場へ。
身体を洗ってから湯船に浸かる。
「この温泉、キメラが多発するらしいんだ‥‥。でも、例え何が現れても俺が美咲を護るよ」
リョウは美咲にぴったりと寄り添っている。時々、美咲の胸元に目が行くのは‥‥男の子だから仕方ない。
「ふふ、リョウくん頼もしい」
そんな風に、2人でお湯を楽しんだ。結局、キメラが出る事は無かった。
***
お風呂上り――。
「温泉といえば卓球! 浴衣でやるのがマナーです」
という訳で香澄と冴はゲームコーナーで卓球勝負をする事に。
「ただやるんじゃ物足りないし、負けたらジュース一本おごりとかでどうだい」
「いいですね。絶対に負けません!」
そこへ米本と歩美、リョウと美咲のカップルがやって来る。
丁度卓球台が3つあったので、傭兵VS乙女隊という形となった。
当初は傭兵の圧勝かと思われたが――
(むっ!?)
(ぬぬっ!?)
(これはっ‥‥!?)
あっという間に逆転、どんどん点数を重ねられる傭兵組。
その理由は――浴衣姿で激しい動きをすると、当然肌蹴ますよね。そういう事です。
チラリズム効果により目を奪われ、傭兵組は敗北。乙女隊の勝利となった。
「いやー、負けちゃったなー」
「ははは、お強いですねぇ」
「あはは、美咲って卓球も得意なんだな」
3人はジュースを奢る事になったのだが‥‥すごく清々しい表情をしていたそうな。
***
米本と歩美が部屋へ戻ろうとすると‥‥シロウに出くわした。
「おや、ヨネモト先生。良い所に」
「何か用事ですかな?」
シロウはニッと笑うと‥‥
「私は全力で応援しています」
袖の下から夜の大人ツールを取り出し、米本の懐へ忍ばせ‥‥
「――うわ、やめて! でも大事なことよっ」
‥‥ようとしたが、シロウは謎の黒服達によって腕を掴まれ、連行されてゆく。
「アッー!」
そのままフェードアウト。
***
部屋に戻った瑞姫とイスル。既に布団が敷かれていた。イスルは寝転がる。
「ふぅ‥‥なんか部屋に帰ってゆっくりできるとなると落ち着くね‥‥」
「ねえ、イスル‥‥女の子も良いかもね」
「‥‥子どもの話‥‥? ‥‥確かにね‥‥男の子も欲しいけど‥‥」
「イスル‥‥丁度2人っきりなんだし良いよね」
瑞姫は顔を赤らめ、色っぽい目つきをし、イスルに囁く。
「‥‥僕は、いい‥‥けど、でも‥‥」
「ボクを女にしたのは、イスルなんだよ」
息を荒げた瑞姫がイスルにのしかかったその時‥‥
「たたいまー!」
「いまー!」
ゲームコーナーで遊んでいた三門姉妹が戻ってきました。
慌てて離れる2人だった。
***
米本と歩美。部屋で2人きり。
就寝間際。まったり話をしていた。そして米本は頃合を見計らって‥‥
バッグから『アイリスの腕輪』を取り出し、歩美に差し出した。
「えーとですね‥‥し、昇進と勝利のお祝いと言う事で‥‥」
真の意味はアイリスの花言葉通り‥‥。
「わあ、ありがとう。剛さん。大切にするわね」
受け取り、にっこりと笑う歩美。そのまま2人は見つめ合い、いい雰囲気になるが――
「とりゃー!」
急に扉が開かれ、蛍、利瀬、智里、麗美、麻奈が乱入。
「あっ‥‥」
その場の全員が硬直。
「ご、ごめんなさーい!」
乱入した5人は謝ってから、慌てて出ていく。
「‥‥」
「‥‥」
米本と歩美は顔を赤くしたまま、暫く硬直していた。
***
リョウと美咲。こちらも部屋で2人きり‥‥。
混浴の余韻に浸り、寄り添い合う‥‥。
「美咲‥‥」
「リョウくん‥‥」
熱い口づけを交わす。そして‥‥。
「‥‥美咲!」
リョウが美咲をがばっと布団の上に押し倒した。
「‥‥」
美咲はそのままじっとリョウの顔を見つめている。
高鳴る鼓動。そこへ――がらりと扉の開く音。2人はそちらを向く。
何故か高ノ宮中佐が立っていた。目が合う‥‥。
リョウと美咲は顔からだらだらと汗を垂らす。
「すまん、間違えた。続けてくれ」
ぴしゃりと閉じられる扉。
「‥‥」
「‥‥」
固まったままの2人。
「続きは‥‥?」
美咲がリョウの首に手を回す。
「えっ‥‥?」
「しないの‥‥?」
美咲の小悪魔的な笑顔。
リョウは思わずくらっと来てしまうのだった。
***
蛍は利瀬、智里、麗美、麻奈と温泉に浸かる。
「はあ、失敗しちゃった‥‥」
5人は歩美の邪魔をしてしまったと凹み中。
蛍はふと、自分の胸元に目をやる。
「胸‥‥大きくなったかな? 腰のくびれも‥‥。恋のおかげかな‥‥」
「どれどれ、あたしが測ってあげようー!」
背後から智里が鷲掴み!
「きゃあっ!? 驚かせないでよ、もう!」
失敗もすぐに忘れ、きゃっきゃと騒ぐ乙女達。
***
ノエルとティリアは誰もいない時間を見計らって、一緒に入浴。
ちゃんと身体を洗い、タオルも着けている。
(折角だから、ティリアさんの事‥‥よく見ておきたい。綺麗だし‥‥)
ノエルはじっと、彼女を見つめる。それに気付いたのか、ティリアは頬を染めた。
そのまま2人は温泉を満喫しつつ話をする‥‥が。
温泉の気持ちよさと会話の楽しさでつい長風呂になり、ティリアが若干のぼせ気味に‥‥。
「と、のぼせてないですか? 介抱しますけど‥‥っ」
「大丈夫‥‥ですよ‥‥」
しかし顔が赤い。ノエルはティリアを連れ立って、湯から上がり、急いで着替え、部屋へと戻る。
***
部屋に戻った2人。ノエルはティリアを膝枕し、月を眺めながら他愛もない会話をする。
「ティリアさんって、意外と可愛いもの好き?」
などと、からかってみる彼。
「‥‥ボクも、女の子ですから」
恥ずかしそうにする彼女。
それから2人は、一緒に受けた依頼を振り返る。思えば出会ったのは随分前のように感じられた。
ティリアは自分が今までどのようにして乙女隊と関わってきたのか、なども語る。
楽しく話していると、あっという間に時間過ぎて行った。
ノエルは、ティリアの声を聴き、温もりを感じていると、胸がいっぱいになり‥‥
「今この月の下‥‥僕を好きにできるのは、貴女だけ。
今夜は綺麗ですね。
‥‥勿論、貴女の事ですよ」
そのように囁き、ノエルはティリアの背中に片手を添えて抱き起し、唇を奪った。
濃厚なキス。
「んっ‥‥」
ティリアはノエルに求めに応じる。彼の身体をぎゅっと抱き締めた。
間を置いて、唇を離し、口を開く。
「ノエルさんと出会えたから‥‥ボクは、こんなに笑えるようになれた。ありがとう、ボクの、世界で一番大切な愛しい人‥‥」
「僕もです。愛しています。ティリアさん‥‥」
月光の下で、2つの影が重なった‥‥。
***
無月は深夜に1人で温泉に浸かっていた。
「今宵の月は‥‥一段と美しいな‥‥」
●2日目・帰宅
早朝。米本は歩美を誘って朝風呂に入る。
「朝一の温泉‥‥本当に贅沢ですね」
「そうね。ふう、気持ちいい」
ぐっと手を伸ばす歩美。ぷるんと豊満な膨らみが揺れる。
それを見て、思わず顔を赤くする米本。
「うふふ、まだ慣れないのね。剛さん、可愛い」
歩美はころころと笑った。
***
庭園を歩く、浴衣姿の人物が2人――。
‥‥香澄と冴だった。朝の散歩である。
「楽しいね。好きな人が隣にいれば尚更さ」
「はい‥‥私も、です。香澄さん」
冴は香澄の腕に自分の腕を絡める。そして‥‥香澄の頬にキスをした。
朝からお熱い‥‥。
***
楽しい時間が過ぎるのは早いもので、帰る時間となった。
一行は荷物をバスに積み込み、湯万寿の女将に挨拶。
「女将さん、とても楽しかったよ」
「それはそれは、喜んで頂けて、こちらも嬉しい限りです」
香澄が言うと、女将は深々とお辞儀をした。
「また、お越しくださいませ」
そうして一行はバスに乗り込み、湯万寿を後にした。
「リョウくん、楽しかったね」
「ああ。美咲との素敵な思い出が増えた。また‥‥来ような」
「うん」
2人は窓の外を見つめ、微笑んだ。
1泊2日の温泉旅行。これは傭兵達や乙女達にとって、有意義な時間となった事だろう‥‥。