●リプレイ本文
●フェルマータへようこそ!
腰まで届く美しい銀色の髪。長身でモデル並みのスタイルを持つ美女、シルバー(
ga0480)が来店。
「メイド喫茶か、噂は聞いていたが」
シルバーが店内を見回していると、紅月・焔(
gb1386)が来店。
「わぁい、わらび姉ちゃんだぁ‥‥ってあの野郎! 一番呼んじゃいけないの呼びやがった!?」
彼は日頃お世話になっている小隊の人達の為に珍しくチョコを手作りしようとやってきた。
とある友人を助っ人に呼ぼうとしたが、手違いでシルバーが来てしまい、絶望。
焔からすればシルバーは恐怖対象であり、彼いわく『堕落した悪魔』らしい。
「誰がわらびだ!!」
シルバー、本名『内藤わらび』。焔の頬へ右ストレートを叩き込む。
「ごぶはぁ!?」
焔のガスマスクのゴーグルがパリーンと割れた。
「‥‥ふう。成程、華やかだ。‥‥私だって、あと5年若ければ!」
シルバー、悔しそうにパートナーの焔をゲシゲシと蹴る。
「ごばぁ!? みぞ‥‥おち‥‥」
ハイヒールのつま先が鳩尾に入ったらしく、びくんびくんとのた打ち回る焔。
シルバーは‥‥中身は残念なお姉さんらしい。
「で、だ。焔、私の隣に立つと言う栄光を与えられながら――」
べりっと焔のガスマスクを剥ぎ取る。
「そんな舐めた格好とは何事だ。ちょっとこっちに来い」
焔を店の裏へ引っ張っていき、(焔のお金で)店からレンタルした執事服を着せる。
神崎・子虎(
ga0513)と弓亜・優乃(
ga0708)が仲良く手を繋いで来店。
「店長さん今回もよろしくなのだ♪ 美味しいチョコケーキを作るのだ♪」
可愛らしく笑い、子虎が挨拶。
「こんにちは。お世話になります」
優乃も挨拶。
(‥‥何だかんだで、此処に来ることが多くなったわね‥‥子虎君がきっかけかしら)
「此処も久し振りですね‥‥」
刀剣袋を背負った威圧感のあるコックが店の入り口に姿を現す。
ゴゴゴゴゴ‥‥という効果音が相応しい。
「ええと、あの‥‥終夜さん‥‥ですか?」
困ったようにミカが尋ねる。頷くコック。彼は終夜・無月(
ga3084)であった。
「また宜しくお願いしますね‥‥」
一転し穏やかに微笑みを浮かべる無月。
マルセル・ライスター(
gb4909)と北崎 照(
gc5017)が来店。
外見的には凸凹カップルだが、非常に仲睦まじい様子。
流叶・デュノフガリオ(
gb6275)が来店。
(チョコレート作りを教授して貰えるん、だったよね。最近ずっと練習はしているんだけれど、まだちょっと、複雑なのを作るのには慣れてないから‥‥)
「今回はよろしくお願いします、です」
ぺこりとお辞儀する流叶。
来栖・繭華(
gc0021)が来店。
日傘を差し、可愛らしいコートの下には白のブラウスとミニのプリーツスカート。
足にはハイソックスとローファー。
ブラウスはサイズは丁度の筈だが、胸元は未だ成長著しい果実に押され、はちきれそうになっている。
「にゅ、ミカお姉ちゃんに店長さん、こんにちはですの」
クッキーの入った小さな袋を差し出す。
「いつもお世話になってるお礼にクッキー焼いてきましたですの」
ミカと店長は嬉しそうに受け取る。
銀髪に和服の美女――ではなく、れっきとした男の子の明河 玲実(
gc6420)が来店。
「料理は自信あるけど、お菓子作りは初めてなんだよね‥‥」
●お菓子作り1
シルバーは初めてのメイド喫茶を満喫中。
「このような業態の人気を、一時不思議に思ったものだが」
ティーカップを優雅に傾ける。
「確かに是は良い気分だな。で、焔、私に献上するチョコレートは出来たか?」
「まだだよ! 俺はチョコの作り方をレクチャーして欲しいだけなのに‥‥信じらんない! 何か食う気してるし! 本当の意味であんたの為に作るんじゃ無いんだからネ!?」
焔はミカに手伝ってもらいつつ、泣きながらチョコを作る。
ダラダラするのにも飽きてきたシルバーは自分も料理をする‥‥素振りだけ。
ふりふりエプロンを付け、髪をツインテールに結ぶ。
その際、何故かメイドのエリスを見て――
「全くの勘だが、君とは仲良くなれそうだ」
ボソリと呟く。
「??」
首をかしげるエリス。
焔――奮闘の末、手乗りサイズのガスマスク型チョコや、犬型のチョコなどが完成。
「やっと‥‥やっと出来た!」
「ほう‥‥」
それをひょいと掴み、次々ぱくぱくと食べるシルバー。
「ふむ。焔にしては上出来だ。褒めてやろう」
ぺろりと口の周りを舌で舐める。
「‥‥‥‥ノォォォォォ!!」
頭を抱えて絶叫する焔。
「これは! 俺が! 小隊の皆の為に丹精込めて作ったのに!!」
号泣する男。
「‥‥」
その様子を見て、シルバーはしばし思案。
板チョコを取り出し。七割ほどを味見。残り三割をラッピング。
焔に「ほらよ」と、色気も恥じらいも無く渡す。
「あーあ、まさかあげる側に回るとはなぁ。何だか負けた気分だよ」
「‥‥」
焔は無言。色々な意味で涙を流す。
流叶と繭華。
「にゅ、流叶お姉ちゃん、一緒に作りましょうですの」
「別に構わないが‥‥あまり見ないでくれると嬉しい‥‥」
ぼそぼそと言う流叶。繭華は小首をかしげる。
流叶は愛する夫へ贈る為のチョコを作る。
チョコと生クリームとメープルを一緒に溶かし、生チョコ状にして更にラム酒を加え生チョコ状に。
(然し、前回も楽しかったけど‥‥今回は前にもまして、かな)
更に千切りにしたピーナッツ、マカダミアナッツ、そしてカボチャの種を加えて混ぜる。
「繭華は誰の為に作っているんだ?」
手を動かしながら流叶が繭華に尋ねる。
「ふにゅ、1つは智覇お姉ちゃんに、もう1つは秘密ですの」
「ふふ、そうか」
繭華の言葉に微笑む流叶。
(誰かの為に、特に、彼の為に作ると思うと、色々やりたくて仕方が無いけれど‥‥さて、どうしようかな‥‥彼が何時も私に重ねてくれる白兎、アレを使ってみようか)
適度に混ぜたモノを兎型に造形し、除けた一部でハート型を形作り、兎に持たせる。
その上から溶かしていた別のホワイトチョコでコーティング。
溶けないうちに目の辺りに皮付きピーナッツを付け。
繭華は流叶の隣で作業。
プレゼント用にトリュフを2人分、他に皆で食べる用にケーキやショコラを作る。
泡だて器で生クリームを混ぜている際にクリームが飛び、顔や胸に掛ってしまう。
「うにゅ‥‥こぼしちゃったですの‥‥」
(‥‥ハートには自分の名前を‥‥。何か凄く恥かしくなってきた‥‥)
(けど、伝えたい事は隠さないって約束したし‥‥頑張ろう)
ぽっと頬を染める。固まった所でハートに自分の名前を、兎に口を刻んで、出来上がり。
まもなく繭華のほうのチョコも完成。
玲実が作るのはチョコタルト、ブッシュドノエル、ザッハトルテ、生チョコ。
料理自体は基本的に得意な玲実。家でもよく自炊をしている。
和食は幼い頃から作ってきたので大抵作れるが‥‥最初に言っていたようにお菓子作りは初めて。
一種類のチョコ菓子だけを作るのでなく、色々な種類に挑戦してみる。
「ん〜♪ けっこう楽しいかも」
ただ、初めてなので緊張中。おや、それは砂糖ではなく‥‥?
●お菓子作り2
「それじゃあ料理開始なのだ♪ 分からない事があったら何でも聞いてなのだ☆」
「うん、よろしくね」
女性の自分が男の子‥‥というか男の娘に作り方を教わるのはプライド的に少し気が引けるが‥‥。
(あ、あまり器用じゃないのよ‥‥私。仕方ないじゃない)
などと自分に言い聞かせる優乃。
「2人で一緒に作ると楽しいね♪」
「ええ、そうね」
優乃に手取り足取り教えながら、自分のチョコの作成も行う子虎。
子虎はハート型のチョコケーキと、小さめのチョコを作る。
優乃の事を常に気にかけ、苦戦しているようなら手伝ってあげる。
「んー、ここはもうちょっとこういう風にやったほうがいいと思うんだぞ?」
「えっと‥‥こうかしら?」
「そうそう♪ 優乃さんも慣れてきたね♪」
子虎はケーキの上は生クリームで縁取りし、湯煎して溶かしたホワイトチョコで優乃の名前を書く。
「よし、これで完成☆」
無月、刀剣袋の中の愛器具、持参した材料を使って調理を始める。
「行きます‥‥」
背後に熟練の料理人のような物々しいオーラが立ち昇る。
作るのはバレンタインアイスケーキ。まず平らで深底な皿の様なスコーンの外殻を作成。
バニラ、苺、チョコ、バニラの順でケーキのスポンジ部の様にスコーンの中へアイスを平らに重ねる。
その上にチョコの棒や型取りチョコやチョコスライス、苺とバナナのスライスを満遍なく乗せる。
最後にブルーベリーを乗せて完成。
アイスとの温度差がアイスの旨さを引き出す、ホットチョコ、ホット蜂蜜、ホットジャム。
口の中に広がる冷と温の甘さが奏でるハーモニーが絶品の一品だ。
(凝ったもの作れないけど‥‥頑張ろう。先輩、喜んでくれると良いなぁ‥‥)
綺麗な包装用リボンで髪を結わえ直し、エプロンをキリリと締める照。
チラチラとマルセルの様子を伺い、そっと寄り添ってみる。
「台所にポニテでエプロンッ! くうっ、俺もう、死んでもいい!」
エプロン姿の照を見たマルセルは堪らず、後ろからがばっと照に抱きつく。
「ぁ‥‥」
ごにょごにょと何かを言う照。
「他にも人が‥‥居ますからね? 判ってますか?」
「意外に知られていないけど、ドイツはチョコでも有名なんだよ」
生地を薄く焼いたドイツ風固焼きワッフルこと、ヴァッフェルでチョコクリームをサンドしたもの。
抹茶生地のヴァッフェルで、ホワイトチョコをサンドしたものを作る。
照が作るのは『チョコ風味蕎麦がんづき』。
黒砂糖を牛乳で溶き加熱、荒熱を取る。卵は黄身とメレンゲにして混ぜる。
蕎麦粉と重曹を篩い掛け、粉にココアパウダー、チョコチップをサックリ混ぜる。
それら全てと、酢を少々混ぜ、型に入れて20分位蒸して完成。
調理中、ふと手と手が触れる。
「あ、ごめん‥‥」
「いえ‥‥」
互いに赤面。実に初々しい。
蒸している最中に、照は余ったリボンでマルセルの髪結わえてちょっと悪戯をする。
「ちょ、やめてよアッキー」
いやいやするマルセル。
「御免なさい‥‥」
照は周りをキョロキョロと見回し‥‥
「機嫌‥‥直して?」
そっとマルセルの頬にキス。
「!? アッキー‥‥!」
2人して真っ赤になった。
腹ぺこの照の為に、マルセルは片手間で料理。
人参、玉葱、セロリアーク、ニンニクの微塵切りを炒める。
玉葱が透明になる位炒めたら、刻んだトマトを入れ、白ワインで煮詰める。
小麦粉をまぶし、オリーブオイル、塩胡椒で炒めておいた鶏もも肉を投入。
チキンブイヨンスープを入れて煮込む。
火が通ったら刻んだチョコレートを香り付けに加え、15分位煮込んで完成。
茹でたジャガイモを付け合せに。フルーティな鶏もも肉のチョコレートソース煮。
良い匂いが漂う‥‥。照のお腹がきゅるきゅると鳴った。
「うぅぅ‥‥」
照は恥ずかしそう。
「あの‥‥食べて良いですか?」
恐る恐る尋ねる。
「アッキー、待て!」
びくんっと動きを止める照。子犬の様に期待の籠った眼差しをマルセルに向ける。
「‥‥よしっ!」
美味しそうにむしゃむしゃと食べる照の頭を撫で撫でするマルセル。「よしよし」してあげる。
●お茶会
子虎と優乃――。
お互いの作ったお菓子を交換し食べる。
「さ、食事ターイム♪ 僕のケーキ、美味しく出来てるといいんだけどな☆」
「私も‥‥ちゃんと出来ているか分からないけど‥‥」
「大丈夫♪ 僕がちゃんと見てたし♪」
向かい合わせではなく、並んで座り食べさせ合ったり膝に乗ったり。
「はい、あーん♪」
「あ、あーん‥‥」
2人だけのラブラブ空間を構築。
「あ、優乃お姉さんチョコが付いてるのだ♪」
優乃の頬をぺろりと舐める子虎。
「こ、子虎君‥‥」
顔を真っ赤に染めてぷるぷる震えた後‥‥優乃は子虎をぎゅ〜と抱き締めた。
デレスイッチONである。
マルセルと照――。
「余り自信ないですけど、食べて頂けますか?」
「もちろん! ‥‥もぐもぐ。美味しいよ、アッキーの愛情たっぷりのがんづき!」
「良かったぁ‥‥」
ほっと胸を撫で下ろし、微笑む照。
それを見てマルセルが口を開く。
「誰だって、美味しい物を食べている時が一番幸せだから」
「‥‥俺ね、そんな幸せの料理を作って、皆を笑顔にするのが夢なんだ」
にっこりと笑う。
マルセルは先ほど作ったお菓子を丁寧に可愛く包装して照へプレゼント。
「ドイツじゃ、特別な人に贈り物をする風習なんだ。本当に好きな人へ、ね。大好きだよ、アッキー」
「ミカお姉ちゃん、美味しい淹れ方を教えて欲しいですの」
というわけで繭華はミカから教わり、皆のカップに紅茶を注いでいく。
その後、流叶と並んで席についてお菓子を食べる。
「もきゅもきゅ。美味しいですの」
「そう。それは良かった」
玲実も席について皆にお菓子を振舞う。
「大丈夫! 料理は得意なんですよ?」
「これは‥‥あなたが‥‥?」
焔は玲実をじっと見つめる。
「ええ、そうですけど」
見つめられて玲実は汗を垂らす。
焔は「それではいただきます」と玲実のチョコをぱくり。もぐもぐ咀嚼。
「‥‥‥‥」
無言の焔。
「ど、どうしました?」
「しょっぺぇーーー!?」
どうたらハズレを引いてしまったようである。焔は紅茶をがぶ飲み。そこへ――
バチーンと何かの音が響く。それと同時に焔が座ったまま後ろへ倒れこんだ。
――何が起こったのか説明すると、限界に達した繭華のブラウスのボタンが弾け飛び、焔の顔面を直撃したのだ。
下心丸出しで「可愛くてすっごい胸の大きい子の対面!」と席を選んだのが運の尽き。
その様子をシルバーはやれやれといった表情で見ていた。
お茶会が終わると、一同は解散。その前に店長特製のチョコブラウニーが配られた。
「まぁ、1つだけ残しても渡す相手もいないんだけどね‥‥」
店を出た後、チョコを取り出して寂しそうに呟く玲実。
「にゅ、これお姉ちゃんにあげますの」
流叶に手作りチョコを渡し、繭華は恥ずかしそうに帰っていく。
帰り際、子虎は小さめのチョコをフェルマータの皆へ贈る。
「あ、これどうぞ♪ 店長さんと他の店員さんの分も作ったのだ♪ お世話になってるから☆」
店長とミカは礼を言う。
「また何かあったら呼んでね♪ それじゃあ優乃お姉さん帰ろうなのだ♪」
「ねえ、子虎君‥‥」
「なに?」
子虎のあごに優乃の手が添えられる。そして――優乃は子虎にキスのプレゼント。
「いつものお礼よ。ふふ」
「優乃お姉さん‥‥」
(お誘いされてばっかりじゃいけないからね。一応私も女の子に分類される訳で‥‥)
子虎は暫くぽーっとしていたそうな。