●リプレイ本文
●対戦を前に
「乙女だけの分隊‥なんて素敵なのでしょう‥」
演習場で向かい合って並んでいるのは乙女分隊の面々と、今回集まった傭兵達だ。
その中の一人、鷹司 小雛(
ga1008)は何やらトリップ中のようである。
「うふふ、是非これを機会にお近づきになりたいですわね‥」
赤らめた頬に手を当てくねくねしていたかと思うと、今度は乙女分隊のメンバーを舐めるように見回し、品定めを始めた。‥そう、彼女は女の子が大好きなのだ。
「期待の新人って貴女達の事なのね。よろしく〜」
続いて、腰まで届く艶やかな黒髪を風に揺らしながらレイナ=クローバー(
ga4977)が挨拶する。彼女は乙女分隊のメンバーに悟られぬよう各人の特徴を記憶してゆく。戦いは既に始まっているのだ。
(「うちが射撃だけじゃない事を見せてやるのですよ」)
セミロングの髪に、上はジャージ、下はミニスカ姿の少女は小さく笑みを浮かべた。スカートの下にはスパッツを着用しており、ぴっちり太股にフィットしている。‥ハルトマン(
ga6603)だ。今回、彼女には何か考えがあるらしい。
「‥ん。豚汁。食べに来た。よろしく」
ちっさい可憐な少女、最上 憐 (
gb0002)が軽く会釈する。憐はどちらかというと豚汁が目当てのようだ。
「やぁ、また会えたね。今回は宜しくなっ」
夏目 リョウ(
gb2267)が爽やかな笑みを浮かべる。一瞬白い歯が光ったようにも見えたのは気のせい?
彼は昨年末、乙女分隊の救出に参加しており、面識があった。
「あの時からどのくらい成長したのか見せてもらいます」
同じく救出に参加していたリリィ・スノー(
gb2996)が挑戦的な言葉を投げかける。
「遊びは仕事の様に、仕事は遊びの様に、真剣且つガチに、楽しんで逝きましょう」
言ったのは九条・嶺(
gb4288)だ。逝ってはダメだと思う。
「女性の能力者は珍しくないとは言え、女性だけの分隊と言うのは流石に珍しいですね」
最後に口を開いたのはティリア=シルフィード(
gb4903)である。女性能力者の部隊はブルーファントムという前例があるが、確かに珍しい部類ではあった。
「さて、顔合わせは済んだか? それでは5分後に模擬戦を開始する。各自所定の位置につけ」
片瀬軍曹の言葉で、全員が動き出した。
●前半戦
試合開始を知らせるサイレンの音と共に傭兵達は行動を始める。
(「さぁ、行くぜ‥狙うは早乙女ただ一人だ!」)
AU−KVミカエル『騎煌』を装備したリョウが雑木林を進む。
彼は美咲の性格ならば積極的に前には出てこないだろうと踏んで、単独で迂回するルートを選んだ。
乙女分隊陣地――
「まずは敵の出方を見る。各自防御隊形で待機」
美咲が無線でメンバーに指示を出す。敵の動きに合わせて陣形を変えていくつもりだ。慎重派の美咲らしい作戦‥そういう意味では、リョウの読みは当たっていた。
「せっかくのサバゲーなので楽しみませんと♪」
「銃器の扱いは慣れませんが、頑張ります」
SMGを手にした嶺とティリア。二人はペアを組んで行動していた。
「戦うからには勝ちたいですわよね‥」
小雛は単独で行動。迷彩服に身を包んだ彼女は遮蔽物や地形を確認しながら敵陣に向かって移動中である。
「‥ここがいいかしら」
しばらくして、良さ気なポイントを発見。ここで待ち伏せする事に決めた。
レイナ、憐、リリィはやや固まって移動中。
憐は大将であるリリィの護衛、レイナはやや距離をおいてその援護、という形だ。
「風下は‥こっちね」
レイナは常に風向きを意識。狙撃手ゆえの癖だろうか。
「‥‥」
一方ハルトマンは隠密潜行を使用し、大胆にも単独で敵陣へ回り込もうとしていた。
リョウは赤いマントをなびかせ尚も移動中。パキパキと小枝を踏み潰しながら進む。
すると――
パキュンパキュンと彼の周囲にペイント弾が着弾。
「!?」
「お兄さんみ〜つけた!」
「あはは! 遊ぼうよ!」
無邪気な声。どうやら三門姉妹に見つかってしまったようだ。
AU−KVは生身に比べるとその図体や重量、駆動音などでどうしても目立ってしまう。
赤いマントを纏っていたら尚更だ。
「くっ!」
回避行動を取りつつ、仲間に連絡するリョウ。
「リョウさんが戦闘状態に入ったみたいですわね」
「こちらも注意を」
辺りを警戒しつつ進む嶺とティリア。
しかし――遠くから二人を見つめる瞳があった。
パァン!
衝撃に頭を揺さぶられ、一瞬気が遠くなるティリア。気付くと、前髪が真っ黄色に染まっていた。
「!?」
それは探査の眼で感覚を研ぎ澄ませた冴の狙撃だった。冴は伏せて前面での索敵に当たっていたのだ。
「うう、ヒット!」
悔しそうに宣言するティリア。
嶺はすぐさま弾が飛んできた方向に弾幕を張る。冴は匍匐移動でその場を離れた。
「あら?」
銃声が聞こえたので仲間に連絡を取ろうとした小雛。しかし‥‥無線機が見当たらない。
「あらら?」
何度探しても見つからない。持ってくるのを忘れてしまったようだ。
出発前の装備の確認は忘れずに!
(「まさか木の上から撃ってくるなんて誰も思わないでしょうね」)
木の上から索敵していたレイナは歴と慧子を発見。憐とリリィにも連絡した。
狙撃眼を使用し、狙いを付けて――射撃!
(「中れ!」)
だがペイント弾は歴の横をすり抜けてしまった。
気付いた歴と慧子は全速力でこちらに向かってくる。
「見つかった!?」
レイナは木を下り、姿勢を低くしてその場を離れようとするが、歴と慧子は瞬速縮地と瞬天速で一気に距離を詰めてくる。そして、激しい弾幕が襲い、身体中真っ黄色になってしまう。
「‥‥ヒットよ」
しばし地面にうずくまっていたレイナであったが、か細い声で宣言した。
その頃、ハルトマンは敵陣への潜入に成功していた。
敵本陣には当然美咲が居り、その左右を有栖とちずるが固めている。
身を潜めたまま接近するハルトマン。
「なんであたしが護衛なんだよ!」
「作戦上それが一番なのっ!」
「や、やめなよぉ」
言い争っている美咲と有栖。
その時、何かがピピっと有栖の頬を掠めた。
「有栖ちゃん‥それ‥」
ちずるに言われて有栖が頬を手で拭ってみると、真っ黄色の塗料が付着した。
「なにぃ!」
「敵!?」
それはハルトマンが投擲したナイフであった。
本当は先に閃光手榴弾を投げ込むつもりだったが携帯し忘れていたので仕方なくの先制攻撃である。「ちくしょう、ヒット〜」の声を確認すると、ハルトマンは離脱した。
リョウは木の幹に身を隠していた。銃撃は弱まるどころか強くなっている。距離もジリジリと狭まる。
「しょうがないか‥」
彼は一旦後退する事を決めた。
「‥ん。逃げられた」
「倒せたのは一人だけですか」
「うわ〜ん、ペイント弾は美味しくないのだ〜」
レイナの元に駆けつけた憐とリリィであったが、歴と慧子はさっさと離脱。追撃するも結局撃破出来たのは歴のみだった。顔を真っ黄色に染めてしょんぼりしている歴。
「‥ん。まだそんなに遠くには。いってないはず。追いかけたほうが良い」
「そうですね」
再び前進する二人。
●後半戦
セーフティーゾーン――
脱落した者達が暇潰しに雑談中。
「ったく、いきなりかよー」
「あたしもまだまだ未熟って事かしらね。狙撃技術を磨かないといけないわ」
愚痴をこぼす有栖と、自ら反省し気を引き締めるレイナ。
「冴さんをもっと警戒するべきでした。失敗です‥。この塗料、ちゃんと取れるのかな」
カピカピになった前髪を心配するティリア。
「あたしなんて全身真っ黄色よ。早くシャワー浴びたい」
「うう〜お腹すいた〜」
言葉を遮るように、歴のお腹の音が盛大に響いた‥。
フィールド――
尚も激しい戦闘が行われている。
「追撃が止んだ‥?」
リョウを追う足音と銃撃音が聞こえなくなった。
「戻るのぉ? もうちょっとなのにぃ」
「仕方ないよ、命令だもん。早苗ちゃん、戻ろう」
木陰から様子を窺うリョウ。去って行く三門姉妹。これ以上の追撃は無いようだ。
それは、有栖を倒された美咲が三門姉妹を直衛に戻した為であった。
リョウは反転、三門姉妹の後をつける事にする。無論気付かれては元も子もないので一定の距離は保つ。暫く進んだ所の木の枝に、カモフラージュとしてマントを引っ掛けておいた――
「質より量で勝負です!」
まるでトリガーハッピーになったかのように銃を乱射する嶺。先程から数分間、冴と攻防を繰り広げていた。とはいっても殆ど嶺が撃ちまくっているだけだったが。それでも考えなしに撃っている訳ではなく、横に薙ぎ払うように面での攻撃である。
だが、弾は無限ではない。リロードする必要がある。二人居ればカバーし合うことが可能だが、今は――ターンと響く銃声。
「やられ‥た?」
木に隠れてリロードしていた嶺の目の前で銃を構えている冴。
「ゲット、ですね」
嶺の胸が黄色に染まっていた。
「‥‥」
依然待ち伏せ中の小雛。無線がないので仲間と連絡が取れず、立ち往生していた。
「んもう! このままでは試合が終わってしまいますわ!」
流石に飽きてきたので、前進を開始する。
憐とリリィは慧子を追撃中。
サプレッサーを装着したライフルで射撃、慧子の退路を塞ぐ。
そこに木陰から忍び寄った憐が瞬天速で接近!
「‥ん。一気に行く」
のんびりとした口調だが素早くナイフを一閃。
慧子の背中に黄色い線を入れた。
「くっ‥‥ヒット」
ハルトマンは一撃離脱を繰り返し、美咲を精神的に追い詰めていた。
「もう! 香苗と早苗はまだなの!」
「美咲ちゃん、落ち着いて」
ちずるに諭される美咲。
「呼んだ?」
そこへひょっこり現れる三門姉妹。
「遅いわよ!」
「ひどいよ、急いできたのに」
「そうだよ! たいちょ!」
ぶーぶー言う三門姉妹。
それを見たハルトマンは小声で仲間に連絡。
「こちらハルトマン。敵が合流。数が多いのでこちらも合流したほうが良い」
三門姉妹をつけてきたリョウ。敵は体勢を立て直したようだ。美咲を直接狙いたかったが右翼を守る早苗が邪魔になる。‥少し考えたあと、誘き出すことにした。まずは銃撃を加え、注意を誘う。
「あ! お兄さん! 追いかけてきたんだね!」
早苗がこちらに向かってくる。成功だ。そのまま後退。
「みつけた! 逃げないで遊ぼうよ!」
赤いマントに向かってSMGを放つ早苗。しかし、手ごたえはなかった。
「残念だったね!」
背後から現れるリョウ。ナイフを振るい、早苗の背中に×マークをつけた。
「囮!? ひどいよぉ」
「ははは。勝負だから仕方ないさ」
仁王立ちするリョウであった。
乙女分隊本陣では激しい銃撃戦が繰り広げられていた。ハルトマンが両手の拳銃、そして合流したリリィがライフルで美咲達に攻勢をかける。真っ黄色に染まっていく木々。
そんな中、応戦する香苗に忍び寄る小さな影。
(「‥ん。抜き足。差し足。忍び足」)
そして――しゅばっと香苗のわき腹に通行禁止のマークを刻んだ。
「!?」
「‥‥ん。油断禁物」
香苗が倒され、弾幕が薄まる。その隙にリリィが――
「狙い撃ちますっ!」
鋭覚狙撃を使用して渾身の一発。それは、ちずるの頭にすぱーんと命中した。
「うにゃあああ!?」
丸裸にされた乙女分隊本陣。残る美咲に迫る騎士、リョウ。
竜の瞳を発動し、木の枝にナイフをくくりつけた物で猛チャージをかける。即席なので命中率が下がっていたがそこはスキルでカバーされていた。そして‥‥
「君のハートをチェックメイト!」
美咲の顔に大きくへの字をつけた。
「‥!? 女の子の顔に何するのよぉ!」
試合終了。サイレンが響く。
「あら? 終わってしまいましたの?」
小雛は偶然遭遇した冴と一進一退の攻防を繰り広げていたが結局決着は付かなかったようだ。
「そのようですね、私達の負けです」
冴は苦笑いを浮かべた。
●豚汁おかわり
模擬戦が終わり仮設シャワーで汚れを落とした傭兵と乙女分隊の面々は演習場の広場でUPC陸軍特製の豚汁にありついていた。
「ふう。汗を流してすっきりしましたわ」
迷彩服を脱ぎ、薄着になった小雛が豊満な肉体を見せ付け、色気を振り撒く。
「うわあ、胸おっきいですね〜」
隣に座っていたちずるが覗き込んできた。
「うふふ、もっと近くで見てみます?」
ちずるにぴたりとくっつく小雛。そして軽く彼女の胸にタッチ。
「たくさん運動して牛乳を飲めば大きくなりますよ♪」
「にゃあああ!!」
手をバタバタさせるちずる。
「香苗、もっとスキルを使ってみたらどう?」
「私、隠れるのってあんまり好きじゃないの」
同じスナイパー同士、ハルトマンは香苗にアドバイスしてあげていた。
「でも特性を活かさなきゃこれから生き残れないのですよ」
「うーん、わかった。死んじゃったらバグアをやっつけられないもんね!」
「そうなのですよ。もっと頑張って欲しいのですよ」
微笑むハルトマン。
「‥ん。お腹空いた。どんどん食べる。沢山食べる」
「美味しいのだ〜生き返るのだ〜」
ガンガン豚汁をかき込んでいるのは憐と歴。
「‥ん。おかわり。おかわり。大盛りで」
「こっちも! こっちもおかわりなのだ〜!」
二人は競うように、お椀に盛られた傍から次々と平らげていく。歴はともかく憐の小さな体のどこに入るのだろうか。
「皆楽しそう。こんな一時を守る為に、俺は戦っているんだろうな」
周りを見ながらリョウが笑う。
「‥‥」
その横で黙々と豚汁を食べる美咲。
「もしかしてまだ怒ってるの?」
「怒ってなんかいないわよ」
「悪かったよ。可愛い顔が塗料で台無しだもんな。謝るからさ」
「なっ!」
顔を赤らめる美咲。
「今回、こちらの被害が想定より大きかったのは連携不足だった所為ですかね。今後の教訓にしましょう」
リリィは豚汁を啜りつつ、模擬戦を振り返った。
「冴さんの趣味をお聞きしたいですね」
嶺が冴に話しかける。同じ姓ということで興味を持ったようだ。
「私の趣味ですか。綺麗なものを見る事でしょうかね。そう、例えば嶺さんのお顔とか‥」
唇が触れそうなくらい近くまで嶺に顔を寄せる冴。
「!?」
「ふふっ、冗談ですよ」
冴は悪戯っぽく笑った。‥ホントに冗談かどうかは定かではない。
「トン、ジル‥ですか? ミソスープにも色々な種類があるのですね」
「ええ、普通の味噌汁と違って具が沢山入っているから単品でも主食になるわ」
ティリアは片瀬軍曹と歓談していた。
「凄く美味しいです。このピリリとした辛味もまた‥」
「それは七味ね。喜んで貰えて何よりだわ」
皆が楽しく話しているうちに――
「‥ん。‥けぷ。お腹一杯」
「ぷは〜満足なのだ〜」
二人のブラックホール的胃袋によって大鍋で作られた豚汁はあっという間に空になってしまっていた。非難を受ける二人だったが、全く悪びれた様子もなかったそうな。