タイトル:龍神の灯火マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/01 07:35

●オープニング本文


 激しい攻防が続く九州北部戦線。某基地司令室――。
 連日の戦闘で疲れ果てた司令官が短い休憩を終え、身支度を整えて戻ってきた。
 するとそこには‥‥
「お待ちしていました、司令官殿」
 Yシャツに白衣を羽織った背の高い見知らぬ男性の姿。
 その隣にはビジネススーツを着た、大人しそうな20代半ばほどの女性が佇んでいる。
「誰だね、君達は」
 怪訝そうに尋ねる基地司令。
「おっと、申し遅れました。私は銀河重工の者です。こちらの女性は私の部下」
 ぺこりと頭を下げる女性。名刺を差し出してくる。
「技術屋が現場まで何の用だ。今がどういう状況か解っているのかね?」
 現在は熊本決戦――UPC軍九州方面隊の決死の反攻作戦の真っ最中である。
「ええ、勿論です。だからこそ、あれを運んできたのですから」
 スクリーンに格納庫の様子が映し出される。
 シラヌイが8機? うち2機はS型か‥‥。
「戦力の提供はありがたいが、わざわざ出張ってくることではないだろう。あの機体はすぐに前線部隊へ引き渡し――」
「まあまあ、慌てないで下さい。――あの機体はGFA−01Cシラヌイ改、およびGFA−01S2シラヌイ・S2型」
「なに‥‥?」
 意外な言葉に虚をつかれたような表情になる基地司令。
「要するに、シラヌイの改良型ですね。試作型であったAECを完成型に換装、機体内部構造の全面的な見直しを行い、機動性が向上し、搭載燃料も増えています」
 機体の説明を始める技術屋の男。‥‥この男の名はシラヌイの開発主任、生みの親である草壁・誠十郎であった。
 その様子を真剣に見つめている女性は彼の部下、南川・遥だ。
「また、装甲はそのままですが機体フレームの強度は上がっており、耐久性も向上しています」
 遥がコンソールを操作し、近くのモニターに改良型のデータが次々と表示される。
「‥‥ふむ。話はわかった。戦力の強化は急務である。すぐに他のシラヌイにもバージョンアップ処理を――」
「まあ、落ち着いて下さい。その前にやることがあります」
 心の中でやれやれと思う誠十郎。この基地司令はせっかちな性格のようだ。
「あの機体を使って実戦テストを行いたいのですよ。故に、司令官殿の権限で適当な戦域を選んで頂きたいと思いまして。ちなみに、パイロットはULTの傭兵を使います」
「うむむ‥‥‥‥良かろう。好きにしたまえ」
「ご協力、感謝しますよ」
 誠十郎は不敵に笑った。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
エイラ・リトヴァク(gb9458
16歳・♀・ER
美空・桃2(gb9509
11歳・♀・ER
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
セリアフィーナ(gc3083
14歳・♀・HD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

●シラヌイ改(S2型)
 飛行形態で指定された戦域へ向う8機の改良型シラヌイ――。
 実戦テストは空陸に分かれて行われるため、陸戦組は後ほど降下することになる。
「改良型のシラヌイか‥‥。どれほどのものを検討しているのか‥‥見てみるとするか」
 シラヌイ乗りの須佐 武流(ga1461)が風防越しに見える青空に目をやりながら小さく呟く。
「俺の愛機のシラヌイもいよいよ改良型の登場か。ますます使い勝手が良くなると言うものだ。この実戦テストで改良型がどれくらい従来型と比べて使い易くなったか試さないとな」
 『シラヌイドライバー』の称号を持つAnbar(ga9009)は明るい口調で言った。
「シラヌイのバージョンアップ、か」
 こちらも普段からシラヌイを駆るアレックス(gb3735)。
 彼はシラヌイ・S型乙を愛機として1年、多くの戦場を駆け抜けて来た。
 未だエースには及ばないが、これまで積み上げて来た物が確かにあるはず。
 愛機のVUを前に、試験機に乗る機会を得られるとは‥‥運が良い。
 アレックスはそのように思いをはせる。
「これがS2型か。更に出力が上がってる。ご機嫌だな」
 思わずふっと笑う。

 アレックスと同じGFA−01S2『シラヌイ・S2型』に搭乗するエイラ・リトヴァク(gb9458)。
「あたしは、エイラ・リトヴァクだ。よろしくな、S2」
 優しくコンソールを撫でてみる。
「桃2、そっちはどうだ?」
 そして同じ小隊に所属する美空・桃2(gb9509)へ通信。
「問題ないであります」
 との返答。
「‥‥まっ、お互い頑張ろうぜ」
「了解であります」
 今度はそう返って来た。
(「信じてるぜ。早く終わったら支援に回る。‥‥そんな事になんねぇだろうけど」)

「美空・桃2、不知火初体験なのであります」
 桃2個人はリンクス乗りだが、KVの操縦を得意とするストライクフェアリーだけあり、シラヌイのこともスペックだけならばしっかり頭に入っている。
 もっとも、実際に乗った経験は無いのだが‥‥。せっかくの機会なので依頼を受けた次第だ。
「HWさん達には桃2達の糧になってもらうのであります」
 今回ペアを組むアレックスから通信が入る。
「美空シスターズ‥‥アテにさせて貰うぜ!」
「了解、全力を尽くすであります!」

 ロシャーデ・ルーク(gc1391)は搭乗しているGFA−01C『シラヌイ改』の感触を確かめる。
(「シラヌイに乗るのは初めて。いつもと違う機体に乗る好機。良い経験としたいものね」)
「KVの性能に革新をもたらした名機と聞いたけれど、さて、どれくらいのものかしらね」
 傭兵によるKVの強化データをフィードバックした機体。
 シラヌイ以降のKVは性能が格段に向上している。
「これが、不知火の改良型ですか‥‥同じ銀河様の製作だけあって、前に乗った竜牙の先行量産機に似た感じですね」
 セリアフィーナ(gc3083)は同社製KV・XF−09B竜牙のテストにも参加したことがあるようだ。
「あ、ありのまま今起こったことを話しますよ。敵の掃討に向かうとかなんとか聞いて依頼受けたら知らない機体に乗ってた。何を言ってるかよく分からないと(以下略)」
 混乱している様子のドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。
 とりあえず深呼吸して落ち着こう。すーはーすーはー。
「‥‥ふう。まあ、僕としては初のKVを使用可能な依頼だし、頑張ろ」

 そんなこんなで戦域へ到達。陸戦組は降下を開始する。

●空戦
 レーダーが敵を捉えた。4つの赤い光点が映る。
 武流、Anbar、ロシャーデ、エイラ、全機増速。

 HW4機も増速。射程に入るなり、プロトン砲を放ってきた。
 改良型のシラヌイ4機は回避運動。光条は空を切り、命中せず。

 武流機、増速。敵編隊の側面へ移動し、旋回。
 Anbar機、アクチュエータ起動、増速。HW2をロックオン。ミサイル発射。命中。大ダメージを与える。

 エイラ機、アクチュエータ起動、増速。HW4に向けてレーザーを照射。中程度のダメージを与える。
「リトヴァク、あなたの下方から敵が来ているわ。こちらで対応するから、そちらは気にせず攻撃を続けて」
 エイラ機へ通信を送るロシャーデ。「了解だ」との返答。
 ロシャーデ機、増速。HW3をロックオン。ミサイル発射。命中。同じく大ダメージを与える。

 HW1と2、Anbar機に対しプロトン砲を連射するも命中せず。
 HW4、フェザー砲をエイラ機に浴びせかけるが、エイラ機はS2型なだけあり、軽々と回避。
 HW3、ロシャーデ機に向けてプロトン砲を連射。回避行動を取るも、避け切れない! AECを連続起動。‥‥損傷は軽微。
「くっ、ごめんなさい。交代をお願い」
 エイラ機に通信を送るロシャーデ。
「了解した。こちらが前衛に回る。ルーク、大丈夫か?」
「大丈夫、機体はまだ元気。AEC様様ね」

 武流機、アクチュエータ起動、増速。レーザーをHW1に照射、命中。中程度のダメージを与える。
「しかし‥‥改良型とは言え、自分の機体と比べれば動きが重いか‥‥。少し無理をさせる‥‥壊れてくれるなよ!」

 Anbar機、アクチュエータ起動、増速。レーザーをHW2に連続照射、命中。撃墜。
「やったぜ!」
 ロシャーデ機、アクチュエータ起動、HW4をロックオン。ミサイル発射、命中。大ダメージを与える。その後、増速。
 エイラ機、アクチュエータ起動。レーザーを連続照射し、HW4を撃墜。
「さすがS2。動きが軽い」

 HW1、フェザー砲をAnbar機に連続で放ってくる。避け切れない。AECを連続起動。超伝導コーティングに阻まれ光の粒子は四散した。
「いざという時の護りを使える回数が増えたのは正直有り難いぜ。元々そんなにタフな機体という訳でもないからな」
 HW3、同じくフェザー砲をエイラ機に連続で放つが命中せず。

 武流機、旋回。HW1をロックオン。ミサイル発射。命中、撃墜。
 ロシャーデ機、アクチュエータ起動、増速。レーザーをHW3に連続照射。致命的なダメージを与える。
 エイラ機、HW3をロックオン、ミサイル発射。命中、撃墜。
「二つ目いただき! ‥‥っと、これで終わりか?」
 その通り。敵航空戦力は全滅。空戦テスト終了。

●陸戦
 こちらを担当するのはアレックス、桃2、セリアフィーナ、ドゥである。
 アレックス機、ブーストを噴かして真っ先に突っ込んでいく。
「あれがシラヌイの速力でありますか‥‥」
 敵陣へ突撃するアレックス機を見ながら桃2がぽつりと呟く。
 アレックス機はレーザーでHW1を狙い、照射、命中。中程度のダメージを与える。

 セリアフィーナ機、アレックス機と同じくブーストと、そしてアクチュエータを使用。一気に懐へ飛び込む。
「さあ‥‥不知火改、その新たな力を示してみなさいっ!」
 レーザーをHW4に照射、命中。中程度のダメージを与える。
 それにドゥ機と桃2機は追随。

 HW1とHW2はアレックス機、HW3とHW4はセリアフィーナ機にプロトン砲を連射するが、2機は回避運動。命中せず。

 アレックス機、アクチュエータ起動、前進。レーザーをHW2に連続照射、命中。大ダメージを与える。
 桃2機、アクチュエータ起動、長距離からの狙撃を試みる。SライフルでHW2に向けて射撃、しかし命中せず。
「流石にこの距離からでは当たらないでありますね」
 普段乗っている狙撃仕様のリンクスとはやはり勝手が違う。Sライフルをリロードしながら前進。

 セリアフィーナ機、アクチュエータ起動、前進。ディフェンダーを振り被り、HW4に斬撃、命中。大ダメージを与える。
 ドゥ機、セリアフィーナ機を援護すべく、アクチュエータ起動、彼女の機体のやや後方まで前進。HW3に向けてレーザーを連続照射、命中。中程度のダメージを与える。

 HW1とHW2、フォトン砲でアレックス機を狙うが、アレックス機はジグザグに動き回避運動。命中せず。
 HW3、フォトン砲でセリアフィーナ機に向けて連続で放つ。避け切れない。AECを連続起動、超伝導コーティングが光の粒子を弾き、ダメージは無し。
 しかしHW4もフォトン砲でセリアフィーナ機を狙う。連射。命中、セリアフィーナ機は高熱で装甲が融解。中程度のダメージ。
「くぅっ! 不知火に乗るのは初めてですが‥‥アルティーナの名に懸けて、落とされたりはしません!」

 アレックス機、前進。ディフェンダーでHW1に2度斬りかかる。命中。HW1は致命的なダメージ。
「機刀の方が好みなんだが‥‥今回はテストだから贅沢は言っていられんか」
 桃2機、アクチュエータ起動、SライフルでHW1に狙いを付け、狙撃。
「‥‥捕らえた。そこであります‥‥!」
 命中。しかしまだ敵は動いている。落ち着いてリロード。もう一度狙撃。
「確実に仕留めるであります!」
 命中。HW1は爆発。撃破。

 セリアフィーナ機、ディフェンダーでHW4に3回攻撃、命中、HW4撃破
 ドゥ機、アクチュエータ起動。危険に晒されているセリアフィーナ機をフォローするため、前へ出る。レーザーでHW3に狙いを付け、連続照射。命中。致命的なダメージを与える。

 HW2、フォトン砲をアレックス機に向けて連射。避け切れない。
「今だ! AEC起動!」
 アレックスはAECを連続起動、敵の攻撃を受け止める。ダメージ無し。
 HW3、フォトン砲でドゥ機に連射。避けられない。ドゥはAECを連続起動。同じくダメージは無し。

 アレックス機、前進。ディフェンダーを構えて斬撃を見舞う。命中。HW2を両断し、撃破。
 ドゥ機、レーザーの照準をHW3に。全力照射。命中。高熱に耐え切れず、HW3は爆発。撃破。
「はあ〜、なんとか終わった‥‥」
 深く息を吐くドゥ。敵陸上戦力は全滅。陸戦テスト終了。

●性能評価
 実戦テストを終え、基地に帰投した傭兵達は要望や感想を述べる。

 武流――。
「シラヌイ自体のコンセプトや性能から考えれば‥‥悪くは無いが。最近発売されたスカイセイバーや他の機体と比べると多少見劣りするし個性もない。従来のもの以外に竜牙の攻撃スキルや、ミカガミのマニューバのようなものを空中でも使えるように調整するなりしたものがあるといいかもしれないな」
 武流は一呼吸置き、続ける。
「それと、S型と量産型の強化コンセプトを変えるというのもな。S型は生存性、量産型は攻撃性能のようにな」

 Anbar――。
「確かに防御や抵抗はアクセサリで補い易いとは言っても、せっかくならもう少し考慮しても良いんじゃないのか?」

 アレックス――。
「生存性の向上か。汎用機として弱点を補う形で悪くない。完成型AECは、回数は増えなくて良いので、一度だけ敵の知覚兵器をほぼ無効化する、とかにならないだろうか」

 エイラ――。
「うーん、あたしは超伝導AECを試したかったんだが‥‥敵の攻撃には当たらないに越したことはないか。回避型の機体だし」

 桃2――。
「よいデータが取れたかどうか、勝利云々は当然として美空はそっちの方が気になるのです」

 ロシャーデ――。
「いい経験になったわ。‥‥AECは、頼りになるわね」

 セリアフィーナ――。
「やはり堅実と名高い不知火は、バージョンアップしても燻し銀のような感じですね」
(「派手さは無いですが、ヘルメットワームと戦う時には、AECは安心の一枚です」)

「ふむ、生存性は確実に向上しているようだな。GFA−01C『シラヌイ改』、およびGFA−01S2『シラヌイ・S2型』の、実戦テストの結果は上々と判断する。よくやってくれた」
「傭兵の方々のご意見、ご感想は参考にさせていただきます」
 シラヌイの開発主任である草壁・誠十郎とその部下、南川・遥が言い、その場はお開きとなった。
 後は‥‥本格的なバージョンアップを待つのみとなる。
 もっとも、誠十郎と遥には戦闘データの検証やら設計データの細かい修正やら、やることは山ほどあるのだが。

 少し前、ドゥは戦闘後の性能評価には参加せず、一人で再びKVハンガーを訪れていた。
 ついさっきまで、自分の分身となってくれていた機体の傍に寝転がってみる。

 自分の未熟さはもう随分前から知っている。
 ‥‥この世は果てなく大きく、広く、自分の知らないことが多すぎる。
 でも、少しずつ学んでいこうと思う。そして――
(「またいつか、お前に乗ってもいいかな?」)
 今回限りにはしたくない相棒‥‥シラヌイ改の表面装甲をそっと撫でた。