タイトル:蟲喰い11マスター:とりる

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/10 11:50

●オープニング本文


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「えぇーっ!? 里美少尉が妊娠ー!?」
 相川小隊駐屯基地、ブリーフィングルームに相川小隊第二分隊長、深森・達矢兵長の素っ頓狂な声が響いた。
「ちょっと! おめでたいことだけど大声を出すものじゃないよ、たっちゃん!」
 達矢の幼馴染にして恋人の、相川小隊第四分隊所属の牧原・蝶子曹長が声を上げた彼を制止する。
「ご、ごめん‥‥」
 両手で口を押える達矢。
「まあ、皆に伝えるつもりだから、別に聞かれてもいいんだけどね」
 話題の人物である里美少尉――相川小隊第四分隊長、赤いフレームのメガネの知的な美人、米谷・里美が幸せそうに下腹部をさすりながら微笑んだ。
「今、何か月なんですか?」
「ちょうど三か月ね」
 蝶子が尋ね、里美が答える。
「そういうわけです。僕としては嬉しい限りですが‥‥」
 里美の交際相手、お腹の子の父親、相川小隊隊長の相川俊一少尉が照れ隠しに左手の中指でメガネを押さえながら里美に歩み寄り、彼女の肩を抱き寄せた。
 里美はぽわんとした表情で彼に身体を預ける。
「‥‥隊長‥‥見た目によらず手が速いですね‥‥」
 ぼそりと達矢が言った。
「聞こえましたよ? ‥‥人間も動物です。こんな状況ですから、子孫を残したくなるのでしょう」
「うわぁ‥‥恥ずかしい台詞をさらっと‥‥」
「だから聞こえていますよ達矢くん? 君だって人のことを言えないと思いますが?」
 俊一はメガネを光らせ、懐から一枚の写真を――
「わー! すみません! 勘弁してください!!」
「ははは。‥‥それはともかくです」
 慌てる達矢を笑うが、俊一はそこで表情を引き締めた。
「小隊全員、話を聞いてください。僕と里美少尉二人の都合で申し訳ないのですが、里美少尉は先ほど達矢くんが知らせてくれたように身重ですので、後方支援に回ってもらおうと思います」
 俊一少尉が隊員全員に向かって言った。異議のある者は一人としていなかった。
 この小隊はもはや家族のようなものであり、第四分隊長である里美少尉のお腹に宿った新しい命。家族も同然なそれを、蔑にする者などいるはずがない。
「ありがとうございます。皆さん。‥‥第四分隊長は里美さんから蝶子さんに引き継いでもらおうと思います。よろしいですか? 蝶子さん」
「は、はい! がんばります! 里美少尉に心配をかけないように!」
 俊一から視線を向けられた蝶子は、ビシッと敬礼した。
「これで同じ分隊長だな。よろしく頼むぜ、蝶子」
「うん!」
 達矢の言葉に、元気に頷く蝶子。里美も「お願いするわね」と、蝶子の肩を叩いた。
「さて皆さん、話は変わります。いよいよ次の作戦――キメラプラント乙1号攻略作戦が迫ってきました。ブリーフィングを始めます」
 俊一以外の全員が席に着く。地図が貼られたホワイトボードをポインターで指す俊一。
「この三か月間、我々はKV百八機を有するKV連隊、β−01部隊と共同で1号プラント周辺のキメラの掃討任務に当たってきました。その結果、ついに1号プラントへの道が開かれたのです」
 1号プラント周辺には通常の蟲キメラの他、大量の対KVキメラも犇めいており、KV部隊との連携が必須だった。
「作戦内容はこれまでと同じです。傭兵部隊と共に内部へ突入し、プラントの動力炉、培養施設、研究施設を破壊すること。動力炉の破壊は傭兵の担当となります」
 これまでに得られた情報を元に作成された1号プラント内部の予想図を指し示す俊一。
「ただし、1号プラントは芳賀教授と呼ばれる強化人間‥‥これまで九州を騒がせてきた蟲キメラ事件の首謀者の、まさしく『最後の砦』です。相当に苛烈な抵抗が予想されます」
 俊一は「また、この人物の確保、または抹殺も作戦目標に含まれます」と付け足した。
「我々はβ−01部隊により1号プラント入り口周辺の対KVキメラの排除が完了したのち、内部へ突入し、作戦を開始します。‥‥これが我々の最後にして最大の任務になることでしょう」
 俊一はそこまで言って、ビシッと敬礼。
「皆さんの奮起に期待します!」
「了解!!」
 相川小隊の隊員全員が立ち上がり、力強く返礼した。

 ***

 俊一の私室――。俊一と里美の姿。
「呼び出してすみません、里美さん」
「いえ、どうしたんですか? 俊一さん」
「里美さん、この作戦を完遂したら、結婚しましょう。二人――いや、お腹の子も一緒に、三人で幸せな家庭を作りましょう」
 俊一はぎゅっと、里美の身体を抱き締めた。
「俊一さん‥‥嬉しいです。必ず、無事に帰ってきて下さいね」
「もちろん。ここで死んだら格好良すぎますからね」
「格好なんてどうでもいいですから、絶対に私のところへ帰ってきて下さい‥‥」
「ええ‥‥」
 俊一と里美は、愛を確かめ合うように、唇を重ねた――。

 ***

 キメラプラント乙1号。超大型ドーム空間――。
「くくく、完成したぞ。わしの頭脳で、手で、創り得る最強のキメラが!」
 白衣を纏った白髪の老人が狂喜の声を上げた。
 彼の目の前には超巨大な培養カプセル。その中には‥‥新幹線ほどの大きさの‥‥醜悪な物体‥‥巨大な芋虫が浮かんでいた。
 しかもその芋虫の頭部上部からは、裸体の男女の上半身が生えている。――いや、むしろ二人の上半身から下が芋虫の頭部と融合しているように見える。
 ‥‥その男女は、過去の戦いで傭兵の前に敗れ、死亡した改造強化人間の翔と舞の肉体だった。芳賀教授はそれを回収し、この巨大な芋虫キメラに組み込んだのだ。
「くくく、これで二人も幸せじゃろう。一つになることができたのだからのう。くくく」
「そうだな、親父殿」
 愉悦を含んだ表情を浮かべる芳賀教授の背後に、和服を纏った筋肉質の男の姿があった。
 ――改造強化人間の、玄。ハサミムシの尾を持つ異形。
「このハイブリッドバグズW型があれば‥‥あの忌々しいUPC軍の小隊や傭兵共を蹴散らすのも容易いじゃろう。くくく」
「それでは、俺はどうすればいい、親父殿?」
「お前は、とっておきにさせてもらうよ」
「‥‥解った」
 玄は靴を慣らし、去ってゆく。
「さあ来い、UPC軍と傭兵共。わしのキメラが貴様らを叩き潰し、そののちに九州全土を蹂躙してくれるわ! ダム・ダルでもなく! このわしが! くくく!!」

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
神崎・子虎(ga0513
15歳・♂・DF
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
旭(ga6764
26歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

●キメラプラント乙一号攻略作戦
 相川小隊駐屯基地――。
 そこにはキメラプラント攻略戦、最終決戦に赴くべく、十二名の傭兵が集結していた。

「遂に最後のプラント‥‥思えば、この一連で色んな事があったね。子虎くんやティリアさん‥‥多くの人にも巡り会えたし」
 想いを馳せる浅黄色の髪の少年、ノエル・アレノア(ga0237)。
「此処まで来たら負けるわけにはいかない。絶対に勝つんだ」
 ぐっと、拳を握る。

 これが最後と気合を入れて依頼に参加した神崎・子虎(ga0513)。
「長かったけど、これで最後にする為に頑張らないとね」
 愛らしい容姿をした少年は気合十分。
 戦闘中は仲間全員と、しっかりと連携を取るつもりである。

(3年かけてようやくここまで来た。残すはあと1つ‥‥これで終わりにするんだ!)
 九州の地でこれまで起こった蟲型キメラ事件の首謀者、芳賀教授に対して、ティリア=シルフィード(gb4903)は怒りを超えた憎悪の感情を抱いていた。
 自分の目的の為なら肉親さえも利用し、用済みになれば平気で切り捨てる徹底的な利己主義。
 その姿は――自分の意志などお構いなく裏稼業への道に進むことを強要し続けた『あの男』に瓜二つ。
 ‥‥と、ティリアは思う。
(そうか‥‥ボクは無意識に、芳賀教授に父親の姿を重ねてたのか‥‥)
(‥‥断ち切ってみせる。今のボクは、逃げ出す事しかできなかった昔の自分とは違う‥‥!)
 芳賀教授の娘であり、強化人間の芳賀・鞠子を倒した自分の手で「今度は芳賀教授に引導を渡す」という強い決意を、ティリアは自分の胸の内に秘める。

(必ず、芳賀教授の目的を阻止する)
 長い赤髪の、長身の美女、遠石 一千風(ga3970)は心に強く誓う。
(漸く残り1つまで辿り着いた。傭兵仲間や相川小隊、多くの人の力があってここまで来られた)
「人の思いと力、見せつけてやりましょう」
(これで決着を全てつける)

「これで九州も静かになればいいんですが‥‥」
 そのように思う、宗太郎=シルエイト(ga4261)。
 九州におけるバグアの最大拠点が陥落してからも、芳賀教授の活動は継続していた。
 だが今回、一号プラントを破壊すれば、九州は大分平穏を取り戻す事だろう。

(一号プラントを落とせば蟲にされる人はいなくなるはず。これで、悪夢の時間は終わりだ)
 宗太郎と同じような事を考えている旭(ga6764)。
 芳賀教授の主力キメラ――ハイブリッドバグズ、混合昆虫の材料は人間だ。
 これまでにどれほどの人間が犠牲になったのかは、計り知れない。
 今回はそれに、終止符を打つ。

(今回で、全てを、清算する)
 いつものように目を瞑り、精神集中をしているアンジェリナ・ルヴァン(ga6940)。
 ――今回もまた、相川小隊の隊員、少年少女たちからの視線を感じる。
 恐らく最後になり得る相川小隊との共同作戦。なら、今回はいつも出発前に私を眺めている小隊の子達に声を掛けてみたい。と、アンジェリナは思う。
 そしてそれを実行に移した。アンジェリナから声をかけられた少年少女たちは慌てた様子だったが、アンジェリナは落ち着いた言葉をかけた。
「気を張る必要は無い、ただ話がしたい。一人一人の夢、想い、何でも良い。戦争が終わった先の未来を創るのは私たち傭兵では無く、恐らくあなた達のようなUPCの若い力‥‥そんなあなた達の話を聞いてみたいんだ」
「それは違う」と一人の少年は言った。「傭兵さんたちもまだこれからだ」と。
「うーん」と一人の少女は首を捻る。「平和になるのはまだまだ時間が掛かるんじゃないかなぁ」
 そして「私たちは、私たちの次の世代が平和に暮らせる世界の為に頑張ります」と敬礼した。

「さって! コイツでケリをつけるんだ。気合い入れていくか」
(アンジェリナさん、気合い入ってるみたいだし、全力でいけるようにサポートしっかりしねぇとな)
 相川小隊の少年少女たちと話すアンジェリナに目をやる砕牙 九郎(ga7366)。

「いよいよこれで最後‥‥私は攻略作戦には部分的にしか関わってきませんでしたが、それでも最初に関わってから2年弱‥‥感慨深いものが無いと言えば嘘になります」
 そっと、両手を胸に当てる、長い黒髪の女性、遠倉 雨音(gb0338)。
「最後に待ち構える障害は相当のものが予想されますが‥‥。勝って、全員で無事に戻って――この一連の戦いに幕を下ろすとしましょう」
 そう呟いたのち、相川小隊隊長の相川俊一少尉に話しかける。
「お腹のお子様の為にも、長引かせる訳には行きませんから‥‥ね?」
 俊一少尉は「ええ、今日、この――キメラプラントに関わる戦いを終わらせます」と答えた。

(姉さんや新しい命の為に、蟲共を喰らい尽くす)
 柿原 錬(gb1931)はただ、そのように考えをめぐらす。

「ついに最後の一つですかっ」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)もさすがに感慨深い様子。
(なんともまあ燃える気分ですけども、沸き立つ気持ちを抑えて確実に行かないとっ)
 両手の拳をぎゅっと握り、瞳をメラメラと燃やした。

(やっと九州の惨事が終る)
 天原大地(gb5927)はそのように思いつつ、HB関連の惨状には哀れみを感じていた。
 それを含め命を玩具にする教授を「故郷に巣食う害虫」とし、一度相対すれば一切の容赦はしない考え。
「さァてと、『取り返し』に行こうか!!」

 程無く出撃時刻となった。
 一行は準備を整え、いよいよ一号プラントへ向けて出撃する――。

●VS蟲型キメラ
 砲弾が飛び交い、爆発音が轟く。
 百八機のKV連隊と、キメラプラント乙一号付近に蔓延る対KVキメラが交戦しているのだ。
 ‥‥三十分ほどが経過して連隊から通信。一号プラント入り口周辺の敵を掃討したとの事。
「我々は引き続き警戒に当たります」と女性オペレーターは言った。

 最終確認を行った後、傭兵部隊と相川小隊は装甲兵員輸送車から降車し、一号プラントへ突入を開始。
 雨音とティリアは閃光手榴弾や弾頭矢使用の合図を予め仲間に伝えておいた。

 ***

 一号プラント内部に突入してからすぐに分かれ道。
 傭兵部隊は芳賀教授の抹殺と、動力炉の破壊が任務。相川小隊は培養施設を破壊しつつ、研究施設を目指す。
 両社は互いの健闘を祈り、別れた。

 ***

 防衛戦力と見られる甲虫型の群れを蹴散らしながら傭兵部隊は通路を突き進む。ひたすらに。
 大型ドーム空間手前までやって来た。‥‥恐らくは相当な防衛戦力が置かれているのだろう。
 躊躇していても仕方がない。傭兵部隊は一斉に突入した。

 ‥‥案の定、既にHB・L型を中心として甲虫型が砲列を組んでいた。生体機関砲の砲弾とプロトン砲に盛大な歓迎を受ける。
 更に、多数のHB・M3型が甲虫型の砲撃支援を受けつつ、迎撃に出てきた。

「後の激戦は目に見えてるし、ここでの消耗は防ぎたいな」
 旭は斬り込む味方への援護として、敵陣に対してガトリング砲で弾幕を展開。
 味方が斬り込んだ後は敵を分断するべくさらに弾幕を展開。
 甲虫型へ近接戦を仕掛ける際には武器を脚甲に変更。甲殻を蹴り砕く。
 HB・M3型がが飛翔すれば、ガトリング砲での対空砲火で叩き落とし、聖剣に持ち替え、近接戦を仕掛ける。
 再三受けたブレスをかなり警戒する旭。あれは重装甲を物ともしない‥‥かなり厄介な攻撃だ。
 敵の動きを注視する。味方と連携して隙をなるべく見せないように。

「よっしゃ、前に出て撃ちまくるぜ」
 銃を手にし、声を上げる九郎。
「後半に大ボスがいるだろうし、なるべく味方の消耗を抑えねぇとな」
 基本は銃器を用いて戦闘。SMGで射撃し、敵を足止めしつつ、リボルバーの銃弾をぶち込む。
 味方の攻撃の隙を埋め、味方の連携を支援しながら敵を確実に撃破する。
「やっぱ、まずはあれを潰さねぇとなぁ」
 キメラを統率しているL型の早期撃破を狙う。
 SMGで射撃しつつ、味方に攻撃しようとしている敵にリボルバーの銃弾を放ち、妨害。
 L型までの道を切り開く。
(奴を早急に潰して敵の連携を断って、こっちが戦い易い状況を作らねぇと。この敵の布陣はヤバイ)

 雨音は他の後衛の仲間と共に二挺銃で交互に射撃。弾幕を展開し、敵の動きを阻害すると共に前衛で戦う仲間を援護する。
 味方に合図をしたのち、敵陣に対し閃光手榴弾を投擲して怯ませ、次に武器を弓に持ち替え、怯んでいる敵に弾頭矢を撃ち込んで出鼻を挫く。
 ‥‥敵陣が若干乱れた。雨音は再度SMGに持ち替え。【制圧射撃】を使用。敵の動きを抑え込む。

 AU−KVを装着した錬は状況によって連携する仲間を変えつつ、知覚銃と機械剣を使って戦闘を行う。
 生体機関砲、プロトン砲、強酸のブレスなど、敵の攻撃は回避する事を優先。
 九郎ばどの仲間により道が開かれれば――突撃を開始。統率能力を持つL型に攻撃を仕掛ける。

「んと、攻撃開始っ。なるべく皆が多対一にならないようにっ」
(ある程度の被弾も覚悟の上っ)
 錬と同じAU−KVを装着したヨグは前衛のすぐ後ろから知覚砲で砲撃。
「虫は見飽きました!」
 L型への攻撃を妨害しようとする敵を狙う。

 宗太郎は後衛。ガトリング砲による射撃支援を主体に戦う。
 集中砲火で隊列の一部に突破口を作った後、弾幕を張ってL型と周囲の敵を分断しつつ、敵――特にM3型の機動力を削ぐ。
 狙いはざっくりと、羽根狙いで掃射。
「あんまり射撃は得意じゃねぇんだが‥‥こんだけ撃ってりゃ、どれかは当たるだろ!」

 ノエルのポジションは前衛。回避力を活かして先陣を切る。
 射撃で敵の陣を乱し、L型を優先的に狙う作戦。ノエルは強襲の役割を担う。
 爪と機械剣を手に、L型目掛けて駆ける。

 子虎はこれまでの交戦経験を元にして、各種キメラに対応。
「相変わらずの数と鬱陶しさっ。でも何度も戦っていれば対応くらいは覚えるんだよ」
 後に控えているであろう玄や教授への対応の為に被害はなるべく抑えるようにして戦う。

(最深部に芳賀教授や玄が控えているのは容易に想像がつく‥‥)
 一千風は消耗を押さえて戦う事を心がける。
 指揮官であるHB・L型が最優先目標。
 仲間の射撃や閃光の後、L型へ【瞬天速】で接近し、刀で斬撃を加える。
 前衛の仲間と連携し、二人がかり以上の状況を作って一気に畳み掛ける。

 アンジェリナは仲間が投擲した閃光手榴弾で甲虫型の群れが怯んだ隙にそれを突破、刀を振るい、L型を優先に排除。
 L型が倒れ、統率が乱れた所で残るM3型を一体ずつ撃破していく。
 M3型に対しては【急所突き】を使用。確実にダメージを与え、倒す。
 少しでも損害を減らす為に回避行動は全力で行う。

 ティリアは極力練力温存。援護射撃を受けつつ乱戦に持ち込む。
 L型には閃光手榴弾で出鼻を挫き、その隙にノエルなどと共に一気に接近し、集中攻撃を喰らわせる。

 大地は敵の砲撃の矢面に立ち盾で敵の攻撃を防ぎつつ、SMGで銃撃。
 接近する敵――M3型は攻撃を受け止め、刀で斬り付ける。強酸のブレスは可能な限り回避。
 甲虫型にはSMGで射撃、弾幕を張って対応。
 L型に対しては集中して銃撃。早期撃破を目指す。

 前回の教訓から学んだ、HB・L型を集中的に狙う戦法により、比較的速やかに敵を撃破。
 傭兵部隊は大型ドーム空間を突破した。

●VSハイブリッドバグズW型
 超大型ドーム空間の手前で、一旦足を止める傭兵部隊。

 一千風は救急セットで応急処置を行う。
「相川小隊の向かった研究室には何か情報は無いかしら」
(少しでも内部の状況を把握できるものがあれば‥‥)
 相川小隊と通信。‥‥‥‥相川小隊は現在、二つ目の大型ドーム空間を攻略中との事。
 研究室へ到達するまでにはまだ時間を要する。相川小隊はキメラの殲滅と施設破壊をきちんと行っている為だ。
 また相川小隊の進行ルート上には大型ドーム空間が複数存在した。攻略には手間が掛かる。
 このまま待機しているのは明らかに時間の無駄なので、傭兵部隊は相川小隊との合流を待たずに超大型ドーム空間へ突入を開始。

 ***

 超大型ドーム空間でで傭兵達を待ち受けていたものは‥‥新幹線ほどの大きさの‥‥醜悪な‥‥巨大な芋虫だった。
 しかも、芋虫の頭部上部には、裸体の男女が融合している。
 裸体の男女は目を閉じ、男が女を後ろから抱き締める形をしている‥‥。
 それは船首像のようにも見えるが、そのように優美なものとは程遠い‥‥ひどく悲哀を感じさせるものだった。
 醜悪な芋虫の後ろから白衣を纏った白髪の老人が姿を見せる。
「ようこそ、傭兵諸君。これはわしの自信作、HB・W型。我が手で創り得る最強のキメラじゃ。くくく、その力を存分と味わうがいい。くくく」
 癇に障る笑い声を上げる老人は醜悪な芋虫の後ろに姿を消した。どうやら自らは戦う気が無いらしい。

「以前宣言した通り、この拳で貴方の研究を薙ぎ払いにきたから」
 ノエルは落ち着いた声で言った。そして、目の前の巨大なキメラを見上げる。
「新型‥‥? でもあの二人は?」
 オブジェのようにも見える。いや、違う。
 ――W型に融合させられた男女は、かつて傭兵達との戦いで命を落とした、改造強化人間の翔と舞だった。
(くっ‥‥一先ず、巨砲に巻き込まれないよう、僕たちはあまり固まらない方が良さそうか)
「僕が翔を倒した際の傷はもう再生してるのかな‥‥?」
 接近し、跳躍し、司令塔となりそうな頭部と二人に攻撃を集中させる。

 子虎はなるべく敵の正面には立たないように立ち回る。
 動き回りつつ、左右から【両断剣】の一撃を加えていく。
 状態異常は【キュア】を使用して回復。
「それだけの巨体なら動きは鈍いはずっ。でも耐久もその分高い、と。ああもう、厄介だね‥‥!」
 敵は硬い。その上に、俊敏な触手まで持っている。
 子虎は大剣を振るって触手を切り払った。

 一千風は――W型の姿を見て絶句。
「ここまで‥‥、ここまでするというの」
 娘への対応で、このような行為を平気で行う人物だとは解っていたが‥‥芳賀教授には激しい怒りを覚える。
 ――多数の範囲攻撃に晒されないよう、足を止めず一撃離脱で攻撃を行う一千風。
「ほら、こっちよ」
 攻撃の瞬間が先読みできれば邪魔な触手を払って跳躍。舞と翔へ【二連撃】を喰らわせる。
 ‥‥攻撃を喰らっても、オブジェのような二人は微動だにしなかった‥‥。
「――っ!」
 ブレス攻撃は息を止め、後退して回避。

 宗太郎は味方と距離を取りつつ、【キュア】を持たない味方の近くに位置取りをする。
 距離を取ってガトリング砲を構えて射撃し、手近なフェザー砲から順に潰していき、攻撃範囲に穴を作る事を試みる。
 プロトン砲発射の兆候があれば【瞬天速】で即座に範囲外へ離脱。
 ――極太の光条が超大型ドーム空間を駆け抜ける。
「こいつはっ、喰らったらヤバイなっ」
 状態異常の味方は【キュア】で随時治療。
 突撃する味方がいれば、無数に迫る触手をガトリング砲の弾幕を展開し、蹴散らし、援護する。

 旭は‥‥W型を目にして、一千風と同じように、一瞬言葉を失った。
「‥‥これは‥‥いくらなんでも、死者を冒涜するにもほどがあるぞ。こんなもの、存在を許していいはずが無い」
 ガトリング砲でフェザー砲を狙って射撃。
「主砲は難しくても‥‥たくさんある砲台を潰せば死角ができるはず」
 広範囲にわたる多数のフェザー砲による攻撃。生命を削られる。だからこそ、叩く。
 再生の可能性も考慮して、念入りに潰す。‥‥程無く効果が見られ、やや攻撃範囲が狭まったように感じた。
 ブレス攻撃を受け、状態異常を喰らえば【キュア】を使用。
 味方に対しても積極的に回復を行い、行動不能の味方が出ないようにする。
(全ての闇を光で塗り潰すべく、僕の全力で――)
「教授、こんなものがお前の最高傑作だっていうのなら、限界ってものを教えてやるっ!」
 W型に向かって駆ける旭。【両断剣・絶】を使用しての聖剣による斬撃。
 それは巨大な芋虫に大きな斬痕を刻んだ。刺激臭のする体液が噴き出す。

 アンジェリナは【剣劇】を使用。接近し、目にも留まらぬ連続攻撃を叩き込む。
 それは確実に大ダメージを与えていた。醜くもがくW型。
 接近しているので状態異常を負うが、味方の【キュア】により回復。
「すまない、助かる」
 礼を言いつつ、アンジェリナは再び刀を握り、W型へ斬りかかった。

「‥‥趣味の悪い事してんじゃねぇよ!!」
 九郎は心底嫌そうな声を上げた。固まって範囲攻撃を受けないように、味方とは一定に距離を保つ。
 SMGで射撃し、弾幕を叩き込み、触手とフェザー砲を潰す。
 隙があれば接近し、外皮を刀で叩き斬り、リボルバーの銃身を内部へねじ込んで発砲。内側を攻撃した。

 雨音はプロトン砲の射線上には絶対に入らないように、発射の兆候を見逃さないように、注意深く敵を観察していた。
 SMGの弾幕で触手の動きを抑え、【制圧射撃】も使用し、拳銃で人型部分を狙って射撃。
 ブレスの攻撃範囲が広く、避け切れない。やはり味方の【キュア】に頼る。

「姉弟一緒に成れたんだ‥‥。仲良く葬って上げるよ」
 冷たい口調で言う錬。
(幸せなら良い‥‥。けど芳賀教授を許せない)
 錬は【竜の翼】を使用して接近。知覚銃と機械剣でフェザー砲を破壊する。
 主な目的は知覚砲で砲撃を行うヨグの支援。
 ブレスを受ければ【不抜の黒龍】を使用。抵抗を試みる。

「相川小隊からの情報を手に入れてから動きたかった所ですが‥‥」
 ヨグは射程ギリギリからの援護射撃に徹する。
 仲間への攻撃を阻害する事や、鬱陶しいとW型に思わせるように行動。
 ‥‥W型に、そのように思う知性があるかどうかは不明だが。
(攻撃よりも回避に重点を置いて行動したい所っ)
 やはり後の戦闘に備えて温存だろうか。
「倒しちゃうのが一番良い!」
(色んな意味でほんとに思うよっ)
 ブレス攻撃が来れば――
「なんかやばいの避けるに限るっ」
 できる限り回避した。状態異常を受ければ味方を頼るしかない。

 ティリアは‥‥醜悪な芋虫――W型の翔と舞の姿を目にして。
「どれだけ人の思いを踏み躙れば気が済むんだ‥‥ッ!」
 怒りに満ちた叫び声を上げた。スキルは惜しまず使用し、二刀小太刀による攻撃を叩き込む。
 個人敵最優先目標は芳賀教授だったが‥‥。しかし、教授はW型に隠れ、姿を見せない。
「‥‥っ」
 ティリアは歯噛みする。とりあえずはこの巨大な芋虫を撃破しなくてはならない。
 援護無しの単独突撃などの無謀な真似は控えるが、狙える時は優先的に攻撃。
 仲間と共に一撃離脱を繰り返し敵の狙いを分散させつつ確実にダメージを与える。

 大地は敵の攻撃に捉えられないように絶えず移動。
 SMGでの銃撃・刀での近接戦を織り交ぜて交戦。
 状態異常を負った者には優先的に【キュア】を使用。
「‥‥終らせてやろうぜ」
「ああ、そうしよう」
 アンジェリナが大地の言葉に答える。跳躍。【剣劇】を使用。
「はあああああっ!!」
 目にも留まらぬ斬撃を巨大な芋虫の頭部に叩き込んだ。そして――
 ダメージが蓄積し、限界に達した巨大な芋虫――W型は大きな音を立てて崩れ落ちる。
「‥‥見るに堪えないな」
 着地したアンジェリナ。目の前の醜悪な亡骸‥‥だが目は背けない。
「何だと‥‥? そんな馬鹿な‥‥!!」
 狼狽した芳賀教授の声。それと共に芳賀教授は最深部へ逃亡を図った。
 傭兵達は急いでそれを追跡する。

●決戦
 巨大な芋虫――W型を苦戦しつつも撃破した傭兵達は芳賀教授を追い、最深部へ突入。
「はぁ‥‥はぁ‥‥。追って来たか‥‥くくく。だがわしにはまだ手がある‥‥! 行け! HBども!」
 大きく狼狽した様子の芳賀教授はHB・M3型を複数体呼び出し、傭兵達に攻撃を仕掛ける。

「‥‥例え僕達とのデータを取って、更なるキメラを生み出しても、きっと僕達はその上を行くよ。僕、わかったんだ‥‥人は大切なモノがあれば強くなれる」
「うん、ノエルン。一気に決着をつけよう」
 ノエルと子虎は共に、爪と大剣を構え、M3型と交戦。

 宗太郎、旭、アンジェリナもM3型と交戦を開始。
 九郎、雨音は弾幕を展開し、近接戦を行う前衛を援護。

「じいさん、消えてよ‥‥もう主戦場は宇宙なんだ」
 錬は知覚銃で射撃し、芳賀教授の持つ武器破壊を狙う。だがM3型が割って入って来た。否応なく近接戦となる。

「邪魔をするなよ。散れっ!」
 大地は刀を振るい、M3型と戦闘。
 ヨグはそれを知覚砲で砲撃し、支援する。

 一千風とティリアは――
 芳賀教授を壁際へ追い詰めていた。HBは他の傭兵の相手をしているので助けは来ない。
「もう何を語ろうが容赦しない」
「この狂った実験の場を墓所にして! くだらない野望を抱き抱えて! 滅びろッ! 芳賀教授ッ!!」
 ‥‥芳賀教授は一千風とティリアの刃を受け、あっさりと倒れた。

 しかし――。
 その後方から、たった今殺害したばかりの芳賀教授が姿を見せる。
「私を殺したと思ったか? 残念だったな。それはいわゆる影武者だ」
「どういう事?」
「どういう事だ!?」
 一千風とティリアが声を上げる。
「それはテキトーにその辺から捕獲した人間を洗脳、強化、改造し、私に似せただけの低級な強化人間に過ぎない。私と一緒にしてもらっては困る」
「何だと?」
「お前たちはその、何の罪もない哀れな強化人間を手にかけたのだよ」
「――っ!?」
「芳賀教授‥‥! お前はぁぁぁっ!! どこまでもぉぉぉっ!!」
 激しい憎悪を露わにする一千風とティリア。
「さて、それでは――ここまでやって来た貴様に多少の敬意を表して、今度こそ私自らがお相手しよう。もちろん、私一人ではないがね」
 HB・L型3体、M3型9体が出現。
「さあ、始めようではないか。最後の戦いを」

 ノエルが爪を振るう。
 子虎が大剣を振るう。
 宗太郎がガトリング砲を放つ。
 旭が聖剣を振るう。
 アンジェリナが刀を振るう。
 九郎がSMGとリボルバーを放つ。
 雨音が拳銃とSMGを放つ。
 錬が知覚銃を放ち、機械剣を振るう。
 ヨグが知覚砲を放つ。
 大地が刀を振るい、SMGを放つ。

「やあああっ!!」
「今度こそぉぉぉっ!!」
 一千風とティリアの手によって、今度こそ芳賀教授に致死ダメージが与えられた。
「ごふっ!」
 白衣を真っ赤に染め、血塊を吐きだす芳賀教授。‥‥だかその表情は満足そうだった。
「くくく‥‥」
「何を笑う?」
「この期に及んで‥‥! まだ余裕を見せるつもりか‥‥!」
「いや、確かに私はここで死ぬ。まもなく力尽きる。だが問題は無い。私の‥‥研究は‥‥既に‥‥完成‥‥したの‥‥だから‥‥」
 そのまま芳賀教授はだらりと床に崩れ落ち、動かなくなった‥‥。

(仇討ちなんてきっと望んでないだろうけど。鞠子‥‥お前の無念、少しは晴らせたかな‥‥?)
 これまでの怒りの表情から、悲しげな表情に変わるティリア。そんな彼女の肩を、ノエルが抱いてやった。
「貴方はこれまで犠牲にしてきたモノで、一体何を得たの‥‥?」

 するとその時――。
 警告音と共に、芳賀教授が倒れている付近から、一つの培養カプセルがせり上がってきた。
 カプセルの扉が開く。姿を現したのは――これまで傭兵達を散々苦しめてきた改造強化人間の玄だった。
 これまでの和服姿とは違い、武者鎧を纏い、武者兜を被り、腰には六本の日本刀を差している。
 そして、背中には大太刀を背負っていた。尻には、これまでと変わらぬ巨大なハサミムシの尾。
「俺の出番がきたという事は、親父殿を殺したか、傭兵ども。不思議と怒りは感じない。‥‥親父殿は言っていた、俺が親父殿の最高傑作だと。ならばせめてもの手向けに、我が剣にて貴様らを血祭りに上げるとしよう」
 玄は腰から二刀を抜き、構えた。

 ティリアは既に力を使い果たし、床に膝を突いている。
 一千風がそれを守るようにして、刀を構えた。
「もう命令する者も居ないのにまだ戦うの。なら、全力で打ち倒す」

「姿が見えないから予感はしていたけど‥‥教授がいなければ、これ以上戦いは無用‥‥とはいかないのかな」
 ノエルは再び爪を構える、
「‥‥全ての決着を、付けないと‥‥」

「たぶんこれが最後‥‥全開で行く!」
 子虎は両手で大剣を構える。

 宗太郎はガトリング砲を放り捨てて身軽になり、突撃槍に持ち替える。
「ようやくお出ましか‥‥待ちわびたぜ、この時を。九州を守りてぇのは変わらねぇ‥‥が、あんたと戦ってもみたかった」
 突撃槍を構える。
「んじゃあ‥‥楽しもうぜぇ!!」
 玄の背後に周り、尾の間合いで打ち合う。味方と息を合わせて攻撃をし、敵の処理能力の飽和を狙う。

「まぁ‥‥当然、こうなるよなぁ」
(ここまで来たからには全力死力で争うのみ)
 旭は聖剣を構え直した。

(小細工は通用しない事はよく知っている。ならば、残る全ての力を注ぎ、正面から真っ向勝負)
 アンジェリナは静かに刀を両手で握り、構える。
(動力炉破壊が最優先‥‥その為の隙を作らなければ‥‥。しかし、私の目的はこの男、玄を倒す事)

 大地は玄が刀を使用していても、していなくても、『剣士』として最後の勝負を挑むつもだった。一つの拘り。
(どうしようもねぇな)
 そう思いつつ、搦め手なしに一撃に全てを込め、挑む。

 ***

(SMGじゃちと厳しそうだな。アラスカをぶち込むか)
 九郎はリボルバーで射撃。

 雨音は残りの練力を惜しまずに援護射撃を使い続けて前衛を支援。

 ヨグは動力炉を狙って知覚砲で砲撃。しかし玄や、HBの死骸が邪魔になって狙えない。

 錬は、玄が味方の攻撃に対応し切れなくなったと見て、【猛火の赤龍】を用いて一斉攻撃。
 だがしかし、玄は圧倒的な踏み込み速度を持って錬に接近。両手の二刀で切り伏せた。
 血飛沫が、上がる。

 一千風は【急所突き】を含め全力で接近戦。相手の攻撃を受け止める。
(最悪でも一刀を奪いたい)
 次の瞬間、彼女の腹を刀が刺し貫いた。
 だが一千風は放さない。刀を抱いたまま、動かない。
 
 子虎は動き回りながら隙を見て一撃を入れていく戦い方をする。
 正面から玄と斬り合い、動きを少しでも阻害し、その間に仲間から玄へ一気に攻撃を叩きこんで貰う。
「少しでも隙が作れれば‥‥そこで全力を叩きこむ!」
 子虎の一撃が来る。玄は一千風の腹に突き刺さった刀を放し、新たな刀を抜いて受け止めた。
 そして子虎を刺し貫く。

「子虎くん!!」
 ノエルが飛び込んでくる。そのスピードはかなりの物。
 爪が玄の鎧に食い込むが、玄は物ともせず刀を――ノエルの腹に突き刺した。
 手を放し、また新たな刀を抜く。

(以前は知覚が有効だったらしいけれど‥‥? 賭けてみるか)
 旭は【布斬逆刃】を使用。聖剣を両手で構えて、玄に斬りかかる。
 それは玄の鎧の一部を切り裂いた。
 玄はすぐさま反応。二刀を旭に、鎧ごと突き刺す。
「がはっ‥‥」
 旭は思わず膝を突いた。

「今回は‥‥時間稼ぎなど考えない」
 アンジェリナは玄へ刀を向ける。
「立っていた方が勝者だ」
 踏み込み。
(これが最後の戦い。練力の尽きるまで全てを出し切る)
 アンジェリナは【両断剣・絶】を使用。旭の前に立つ玄へ斬り付けた。
 玄はその斬撃を残る刀で受け止めた。
 しかし。
 その刀に込められた力は尋常では無かった。玄の刀が跳ね飛ばされる。
「――っ!?」
 その勢いのまま、アンジェリナは横薙ぎに斬撃を放つ。
 玄の鎧を切り裂き、本体にも確実にダメージを与える。
 その後も力が続く限り、アンジェリナは玄に連続の斬撃を浴びせた。

「一気に仕掛ける‥‥後は頼んだぜ‥‥!」
 そこへ――宗太郎が背後から突撃。
 穂先で尾を地に打ち付け、体勢を崩した直後、【瞬天速】で懐に潜り、反転させた突撃槍の石突による【天地撃】での打ち上げを狙う。
「攻撃が軽い!!」
 打ち上げるまでには至らなかった。少し玄の身体が浮き上がった程度。
「まだだ!」
 宗太郎は【瞬天速】を使用し、跳躍しての追撃。再度【天地撃】を叩き込む。
「名付けて、鳳凰衝・二式!!」
 上段からの攻撃。玄の足が床に少しめり込んだ。相当な衝撃だろう。
 ――玄も攻撃を受けてばかりではない。
 背負っていた大太刀を抜き、何度も振るう。
 これにアンジェリナと宗太郎は薙ぎ払われ、吹き飛ばされた。

 玄の追撃が二人へ向かうかと思われたが、それを阻む者がいた。
 ――天原大地。
 彼は玄の攻撃を避ける気も見せず、受け続けながら、小細工無しに真っ向から突進。
 全身が切り刻まれ、鮮血が散る。
 血を流しつつ、大地は刀を構える。『目』を狙い、玄に向かって突きを繰り出す。
 ――玄は寸での所で顔を動かし、避けた。
 だが。
 大地の口元に笑みが浮かぶ。【両断剣・絶】と【強刃】を使用した一刀。それを――
 アンジェリナの攻撃によってズタズタに切り裂かれた鎧。その下の胸目掛けて、思い切り突き刺した。
「‥‥二段突きだと‥‥? 見事だ――」
 玄は大量に吐血し、力尽きた。
「‥‥言ったろ、アンタに勝つって‥‥よ」
 大地もがくりと膝を折り、自分の腹に手をやる。ぬるりとした感触。
 ‥‥そこには玄の大太刀が、深々と突き刺さっていた‥‥。

 ***

「大地さん!? 皆!?」
 ヨグは倒れた仲間の様子に動揺。
 しかし。
「ボクには、やらないといけない事がある!!」
 ヨグは知覚砲を構えた。正確に照準する。
 動力炉に向け、砲撃。――命中。しかし壊れない。
「最後は‥‥絶対! 決めますっ! いっけー!!」
 今度は連射。光条に何度も貫かれた一号プラントの動力炉は‥‥ついに停止した。

 ‥‥こうして、最大規模のキメラプラントが破壊され、九州での長い戦いは終局を迎えたのだった‥‥。

 ちなみに、戦闘により俊一少尉のメガネが割れたそうだが、本人は無事だったそうだ。