タイトル:蟲喰い1マスター:とりる

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/29 11:59

●オープニング本文


 UPC軍呼称「キメラプラント乙22号」――。
 九州に数十箇所存在が確認されているキメラ製造施設のうちの1つ。

 薄暗い洞窟内がマズルフラッシュに照らされ、複数の銃声が響き渡る。
 ‥‥残響の後、洞窟内は本来あるべき静寂に包まれた。
「培養カプセルの破壊、全て完了。隊長に報告してくれ」
 SMGを太股のホルスターに収めながら部下の少女に指示を出す少年。
 彼の名は深森・達矢。軍属の能力者だ。15歳の若さで小隊の1分隊を任されている。
「分隊長、小隊長から呼び出しです」
 先ほど指示を出した少女が通信機を差し出してきた。達矢は受け取り、耳に当てる。
「深森です」
『ご苦労様、深森君。こちらもキメラの掃討が完了しました。地上へ戻って下さい』
「りょーかいしました」
『内部にはまだキメラが残っているかもしれません。くれぐれも気を抜かないように』
「わかってますよ。以上、通信終わり」
 相変わらず隊長はクソ真面目だなぁ、などと思う。
 残敵が居ないか再度確認し、達矢は部下7名を引き連れて洞窟を後にした。

 地上――。
 秋とは言えまだ日差しが強い。洞窟内はひんやりとしていたが、外は暑い。
 まあ風は涼しいけども。手でぱたぱたと頬を仰ぐ。
「たっちゃん、お疲れ様」
 そこへ長い黒髪をポニーテールにした少女がやって来て、首にタオルをかけてくれた。
 身長は達矢より少しだけ低く、容姿は‥‥幼馴染補正を抜きにしても、美少女と言えるだろう。
 その美少女はこちらの顔を見つめてにこにこと微笑んでいる。
「分隊長、顔が緩んでますよ?」
「こんなに可愛い彼女が居るなんて羨ましすぎる! リア充にも程がありますよ分隊長!」
 などと、部下がはやし立てる。
「お前ら何を言って‥‥! ち、蝶子も! たっちゃんって呼ぶのはやめろって言ったろ!」
「今更変えられないよ、えへへ」
 ころころと笑う美少女。彼女の名は牧原・蝶子。達矢の幼馴染にして――恋人である。
 達矢と同じ小隊に所属し、衛生官を務めている。
 この二人は‥‥とある事件に巻き込まれ、必死で戦い、その末にようやく結ばれたのだ。
(「蝶子‥‥もう絶対に離さない、絶対に‥‥!」)
 1年ほど前の出来事を思い出し、達矢は険しい顔つきになる。
「あの‥‥たっちゃん、嬉しいけど‥‥恥ずかしいよ‥‥」
「へっ?」
 達矢は無意識のうちに蝶子の手を握り締めていた。
「うわっ!? 俺は何を!? ごめん!」
 慌てて手を離す。蝶子はちょっと残念そう。
「相変わらずお熱いですね、お二人さん」
 にこやかな笑みを浮かべて、メガネをかけた青年が歩いてきた。
 彼は相川・俊一。達矢や蝶子が所属する小隊の隊長だ。階級は少尉。
「まあ、そういうことは若いうちにしかできんからのう。思い切りすればよかろう。青春というやつじゃ」
 俊一の隣を歩く老人が、がははと笑う。老人の名は竹中・宗司。小隊の戦闘技術教官を担当している。
「ちょっ! 隊長と竹中じいさんまで! やめてくれよ!」
「あはは‥‥」
 達矢と蝶子は耳まで赤くなった。
「‥‥さて、青春もいいですが‥‥次の任務が決まりました」
 俊一の言葉に、小隊一同の表情が一瞬で切り替わり、空気がぴんと張り詰める。
「先ほど司令部から連絡がありましてね。次の目標は‥‥キメラプラント乙27号」
「――!?」
 目を見開く、達矢・蝶子・宗司の3名。
「‥‥27号‥‥」
 達矢がぽつりと呟く。そこは、彼らにとって、忌まわしき場所であった。
 かつて蝶子が強化人間、芳賀・鞠子の手により囚われていた場所‥‥。

 キメラプラント乙27号では達矢と宗司が傭兵達に協力を依頼し、決死の救出作戦が行われた。
 結果として蝶子の救出に成功、指揮官と思われる芳賀・鞠子を倒すことは出来たものの‥‥
 プラント自体は依然として健在だったのだ‥‥。事情を知る俊一は蝶子に向かって口を開く。
「どうします? この任務、牧原さんは外れても構いませんが」
「‥‥‥‥」
 蝶子は少しだけ身体を震わせた。監禁されていた頃の記憶が蘇ってしまったのだ。達矢はその細い肩を強く抱いてやる。
「私なら、大丈夫です‥‥」
「蝶子‥‥! 無理をするな」
「本当に大丈夫だよ、たっちゃん。ありがとう。でも‥‥私も‥‥けじめを付けたいから」
 捕まっていた時はとても怖かったけれど、たっちゃんが必ず助けに来てくれると信じていたから、耐えることが出来た。
 そして、本当に助けに来てくれた。助けてくれた。今はたっちゃんの傍に居られてすごく幸せだ。
 でも‥‥たまに、捕まっている時の夢を見て魘されることがある。その度に、たっちゃんに心配をかけてしまう‥‥。
 やはり、この恐怖心を払拭するためにはあの場所を完全に破壊するしかない。この任務はむしろチャンスだと思う。
 蝶子はぎゅっと、拳を握った。
「いいのか? あそこにはあのキメラが居るかもしれないんだぞ?」
 あのキメラ――芳賀・鞠子が蝶子の姿を模して作り出した『シルフィード』と呼ばれる妖精型キメラ――。
 シルフィードの存在には達矢も随分と苦悩したものだ。「蝶子がキメラにされてしまったのかもしれない」と。
「うん。自分と同じ姿をしたキメラっていうのは気持ち悪いけど‥‥そのままにしておくのはもっと嫌」
 蝶子は肩に乗せられている達矢の手に自分の手を重ねる。
「わかりました。では、牧原さんも参加ですね。‥‥陽動にはβ−01というKV連隊から1個中隊を回してくれるそうです。我々はいつも通り、プラントに突入して培養カプセルや動力炉を破壊すればいい」
「了解!」
 隊員たちが一斉に声を上げる。
「その上、傭兵も派遣してくれるそうです。戦力は充分。確実に任務を果たしましょう」
「了解!!」


 UPC軍呼称「キメラプラント乙27号」。最深部――。
 大型のモニターに初老の男性の上半身が映し出された。特徴的な髪形をしている。
「何用ですか、お父様。こちらは目覚めたばかりで、頭がはっきりしませんの」
 モニターの前に佇む20代半ばほどの女性があくびをしながら答える。こちらは裸体で、黒い髪が腰の辺りまで伸びている。
「お前が寝ている間に九州の戦況は大きく動いた。特に春日基地の司令官殿が働き者でな」
「あら、そうなんですの」
「お前のところにもUPC軍が向かっているようだぞ」
「‥‥」
「然るべき対処を。また同じ様な失態を繰り返せばお前もキメラの材料にしてやる。娘とて容赦はせん。覚悟しておけ」
「‥‥解りましたわ」
 そこで通信はぷつんと途切れた。
「‥‥」
 言われるまでも無い。自分とて寝ている間、何もしていなかった訳ではない。準備は既に整えてある。
「さあ、いらっしゃい。また捕まえておもちゃにしてあげる。今度は原型を留めないくらいにね! くくく! あははははは!!」
 室内に、女の高笑いが響いた‥‥。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
神崎・子虎(ga0513
15歳・♂・DF
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA

●リプレイ本文

●相川小隊
 作戦開始前。UPC軍呼称『キメラプラント乙27号』付近の森。
 プラント内部に突入する歩兵戦力、傭兵12名と相川小隊32名、合計44名の能力者が集結していた。
 各自、装備の最終点検をしたり、緊張をほぐすために雑談をしたりしている。
「有象無象のキメラ共など‥‥殲滅し尽くしてやる」
「キメラプラントには前々から興味ありましたの。楽しい楽しいキメラ狩りが出来そうですわ」
 言ったのはアンジェリナ・ルヴァン(ga6940)とミリハナク(gc4008)。
「殺る気まんまんだな‥‥」
 二人の様子に苦笑する天原大地(gb5927)。
 黒髪と金髪の美女二人は瞳をギラギラ光らせているように見える‥‥。
 例えるならば、一方は獲物を目の前にした狩人、もう一方は血に飢えた野獣のような‥‥。
 二人の美貌は際立っている。まるで研ぎ澄まされた刃物。しかし触れれば大怪我‥‥か。
 などと考えて、大地は心の中でまた苦笑した。

(「能力者のみで編制された‥‥相川小隊‥‥。興味があるな‥‥僕も強くなりたい‥‥」)
「カンパネラ魂を見せてあげますよっ」
 ハイドラグーンの少年が二人。名前は柿原 錬(gb1931)とヨグ=ニグラス(gb1949)。
 それらしく、傍らにはAU−KV、LL−011『アスタロト』とPR893『パイドロス』が停められている。
 ヨグは天真爛漫そうだったが、錬の表情はどこか物憂げだった‥‥。
「大丈夫です?」
 気付いたヨグが錬に尋ねてみる。
「あ、うん。大丈夫だよ。ちょっと緊張しているだけ。ほんとに」
「ならいいですけど‥‥」
 少し心配だなあ、と思うヨグであった。

(「キメラプラント攻略か。前にもやったことあるけど‥‥さて、今回はどの程度の物かな?」)
「こう言うのも何だけど‥‥イェーガーの力試しの為の、試金石になって貰おうか」
 自信満々な様子の蒼河 拓人(gb2873)。
 今回のキメラプラントは彼が過去に攻略した物よりも遥に規模が大きい。
 事前情報が多く、味方の戦力が充実しているとは言え、かなり危険な任務だ。少しの油断が命取りになるかもしれない‥‥。
「キメラプラントの攻略か‥‥なんか燃えるぜ!」
 空言 凛(gc4106)は両の手をぐっと握り締めて気合を入れる。
「護衛は任せてくれよな、たっくん!」
「‥‥あ、ああ。頼りにしてるよ」
 たっくんと呼ばれた拓人はちょっと困ったように笑う。
 アグレッシヴな彼女。やる気のベクトルが自分とは微妙に違う‥‥。

「達矢くん達、お久しぶり。すっかり追いつかれちゃったね? 色々話したいことはあるけれど‥‥因縁のあるプラントだけに、気を引き締めて行こう」
「やっほー♪ 達矢くんに蝶子さん、久しぶりなのだ☆ 元気そうだね〜♪ 今日はよろしくなのだ♪」
 ノエル・アレノア(ga0237)と神崎・子虎(ga0513)が一緒に深森・達矢と牧原・蝶子へ挨拶をした。
「久しぶり。まあ‥‥俺も色々あったからな‥‥」
「お久しぶりです。よろしくお願いします」
 そう答える達矢と蝶子。この二人は相川小隊に編入された後、数々の戦場を経験し、見違えるほどに成長した。
 達矢の言う色々――物量とフォースフィールドを武器に攻めてくるキメラとの戦闘。非能力者の歩兵の悲惨な現状。プラントから生み出されるキメラは無尽蔵にも思えて‥‥能力者の仲間でさえ、苦戦し、そして――命を落す者も居た。
 ‥‥達矢と蝶子はそんな現場で経験を積み、生き残り、ここまで来たのだ。達矢の表情が晴れないのはそのためであった。
 暗い雰囲気になりつつあったところへ――
「達矢君、蝶子さん、久しぶり♪ 元気にしてた?」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
 何者かが背後から達矢と蝶子を纏めてハグした。二人は振り返る。
 犯人は‥‥冴城 アスカ(gb4188)だった。二人の顔を見てウィンクする。
「二人とも随分逞しくなったわね。そして‥‥聞くところによると、ちゃんと恋人同士になったそうね。しかも小隊長公認。本当に良かったわ‥‥」
 アスカは再会と、二人が結ばれた喜びを露にする。照れくさそうにする達矢と蝶子。

(「‥‥まさか、またここに戻ってくることになるとは思いもしませんでした」)
 その様子を見ながら、ティリア=シルフィード(gb4903)は胸に手を当てる。
(「達矢さんや蝶子さんと久しぶりに会えるのは嬉しいけれど‥‥何でだろう、凄く、嫌な予感がする‥‥。場所が場所だから、少し過敏になってるだけなら‥‥いいんだけど」)
 嫌な予感――その正体は分からなかったが――どうにも不安が隠せない。
 しかし、とりあえずティリアも達矢と蝶子に挨拶をすることにした。
「お二人と一緒に戦うことになるなんて‥‥何だか不思議な気分。頼りにさせてもらいますね」
 少しぎこちない笑み。それに気付いたノエルがティリアの手を握ってきた。温もりが伝わる。
「おやおや? もしかして二人も?」
 アスカが口元に手を当てて少し驚いた表情を浮かべた後、ニヤニヤする。
「うー、ジェラシーなのだー」
 子虎は‥‥ハンカチを噛み締めていた。

「相川小隊‥‥ガキばかりか‥‥情けない大人が増えたものだな」
 須佐 武流(ga1461)が周りを見回し、呟く。
「‥‥その通り。我々はダメな大人です。子どもを戦場へ駆り出すなど」
「子どもらに頼らなければまともに戦えんとは、本当に情けないわい」
 相川小隊の隊長、相川・俊一と、第3分隊長兼戦闘技術教官の竹中・宗司がやって来た。
 能力者には‥‥未成年が多い。エミタの適合率‥‥千人に一人と言う数字ゆえに。
 ULTでは適正をクリアし、問題がないと判断され、本人の意思さえあれば、10歳以上ならば傭兵への登録が認められている。
 戦時とは言え、子どもを戦わせると言うことは、本来は恥ずべきことである。
 しかし‥‥その感覚も‥‥過酷な戦争の中で麻痺しつつあるのが現状だった‥‥。
「その気持ちを忘れないで下さいね。どうにも、我々は忘れそうになる‥‥」
 自嘲気味に笑う俊一。
 未来ある子ども達をこんな戦争などで死なせたくない。それが彼の本音。
 しかし現実は甘くは無い。実際に彼はこれまで部下を数名失っている。
 少年少女ばかりの歩兵小隊‥‥上官から隊を任されたときは面倒でしかなかった。が‥‥今では守ってやりたいと思う。
 子ども達を戦わせたくないが、その力が必要なのは変えようの無い事実。ならば、出来る限り死なせないように‥‥。俊一はそう考えている。
「‥‥」
 武流は何も言わなかった。

 しばらくして、KV連隊・β−01部隊から抽出された1個中隊から連絡が入り、陽動が開始される。
 12機のGFA−01シラヌイが見えた。うち1機はS型。KV用マシンガンの砲声が轟く。それに引き寄せられ、プラントから離れてゆく対KVキメラの大群。凄まじい地響き。
「陽動は成功です。行きましょう」
 俊一が言い、一行は二手に分かれ、キメラプラント乙27号への突入を開始した。

●第1〜4階層
 傭兵本隊。8名は隊列を組む予定だったが‥‥
 武流はトラップを避けるため、遠回り‥‥単独行動を取るつもりでいた。
 しかしながらあまりにも危険なので皆から止められ、説得され、渋々隊列に加わる。

 1列目:アンジェリナ、大地
 2列目:拓人、ミリハナク
 3列目:ヨグ、武流
 4列目:錬、凛

 隊列は上記の通り。
 前後を、近接戦闘を得意とするクラスで固め、中央に射撃や援護を得意とするクラスを配置。
 トラップを警戒し、早期に発見するために最前列は直感の高いアンジェリナと大地が担当する。

 マップを確認しながら、青白く発光する通路を進んで行く傭兵本隊――。
「ここがキメラプラントの中か‥‥っし! テンション上がってきたぜ!」
 物珍しいのか、凛は興奮した様子。
「さーって、何が出るかな?」
 頻繁に振り返って後方を警戒。だがまだ敵は見当たらない。
 しばらくして――
「‥‥待て!」
 大地が皆を小声で制止。皆は足を止める。
「アンジェ、聞こえたな?」
「‥‥ああ」
 微かな、機械の駆動音。よぉく目を凝らしてみると、やや離れた天井にガンタレットが設置してあった。
「ったく、邪魔なんだよ!」
 大地が走り、拳銃『バラキエル』で狙いを付けて連射。センサーに感知される前に先制攻撃。
 拓人も続き、番天印で照準。射撃。‥‥ガンタレットは火花を噴いて爆発した。
「まあ、スタンダードな警備だな。今のところ」
 銃口にふうと息を吹きかける拓人。
「だが油断は出来ねぇ‥‥」
 大地は素早くマガジンを交換。この先、何が仕掛けてあるか判らない。次に備える。
 ガンタレットは複数設置してあった。発見次第、その都度破壊していく。
 またしばらく進むと――
「‥‥待て!」
 大地が皆を小声で制止。皆は足を止める。
「‥‥今度は何だよ?」
 凛が尋ねる。
「よく見ろ、足元にワイヤーが張ってある。それで、だ‥‥」
 大地が物陰を指差す。皆が目をやると‥‥巧みに隠蔽されたクレイモア地雷があった。
「ここは自分の役目だな」
 トラップの解体は拓人の担当だ。
 ワイヤーとクレイモア地雷のトラップは至る所に仕掛けてあった。
 傭兵達は全て解体し、慎重に進む。
 次に傭兵本隊を待ち受けていたのは――
 アンジェリナと大地がちょうどT字の通路を左折しようとした、そのとき‥‥
「「――っ!?」」
 二人は反射的にバックステップで退いた。
 その直後、光の本流が通路を駆け抜けてゆく。アンジェリナの黒く艶やかな前髪が少し焼け焦げた‥‥。
「‥‥なんだ、今の‥‥?」
 凛は思わぬ出来事‥‥というか攻撃に、あっけにとられてぽかんとしている。
「たぶん、プロトン砲じゃないかと‥‥思います」
 言ったのは錬。
「‥‥そうか。もうすぐ第5階層に入る。重要な場所ならプロトン砲の固定砲台があってもおかしくはない」
 その言葉に拓人は頷く。そんなことをしているうちに第二射が通り過ぎる。
 当たりはしないが、けっこうな熱量が感じられた。まともに喰らえば相当なダメージを受けるだろう。
「一定距離まで近づくと‥‥一定間隔で砲撃が来るのかな‥‥?」
 錬があごに手を当てる。第5階層に行くにはここを通らねばならない。
 一体どうやって破壊するか‥‥?
「突撃です! ガンホーですよっ!」
 ヨグが言った。表情は至って真面目。
「だなぁ。それしかない。‥‥ええと、俺と凛、それから‥‥須佐も来てくれるか?」
 大地が武流に目をやる。他の者は他の役割があるため、体力を温存しておかなければならない。
「‥‥了解した」
 武流はそれだけ言った。
「じゃあ行くか。次の砲撃の後だ」
 凛と武流が頷く。
「自分も援護する」
 拓人は銃を構える。‥‥砲撃が来た。
 駆け出す3人。通路の端には壁と一体化した円盤のようなものがあった。
 中心部に光が収束している。チャージ中のようだ。
 拓人からの援護射撃が来る。
「ご丁寧にこんなものまで! 危ないんだよ!!」
「オラアアアッ!!」
「‥‥!!」
 3人は肉薄し、大地が剛拳『エリュマントス』、凛が天拳『アリエル』で思い切り殴りつけ、武流は脚甲装備の蹴りを叩き込む。プロトン砲台はバチバチとスパークし、小爆発を起こして機能を停止した‥‥。


 相川小隊――と、それに同行しているノエル、子虎、アスカ、ティリア。
 傭兵本隊とは別ルートを進行中。
 ‥‥こちらは、トラップの類は少なかったが、代わりに大量のキメラが出現していた。
 黄色と赤色の、大きな蝶キメラが多数。波動と火炎のブレスを放ってくる。
「私が道を開くから後ろはお願いね♪」
 短剣・蛇剋を携えたアスカが前に出る。
「キメラは邪魔だよ。僕たちの邪魔をしないで‥‥」
 天剣『ウラノス』を両手で握り締めた子虎が続く。
「いくよ、ティリアさん」
「わかりました、ノエルさん」
 二人は視線を合わせた後、二つの機械剣と二刀小太刀『永劫回帰』をそれぞれ構えて突撃。
 達矢はSMG、蝶子はエネルギーガンで援護射撃。他の隊員達も突撃銃や軽機関銃で攻撃を行う。
 ‥‥あっという間に蹴散らされる蝶キメラの群れ。
 範囲攻撃は脅威ではあるものの、耐久力が低いので一気に畳み掛けるのが良い。慣れた敵だった。
「さすがだな」
 アスカ達の戦いぶりを見て、達矢が言う。
 かつて、自分がまだ一般人だった頃に憧れたのが彼女達だった。その力は衰えるどころか増している。
「ふふ、私達も鍛えてるから」
 不敵に笑うアスカ。
「まだまだ負けないからね」
「その通りです」
 ノエルとティリアも笑ってみせる。
「達矢君と蝶子さんが成長したように、僕達もちゃんと成長してるんだよ。ね、ノエルン?」
 さり気無くノエルの手を握る子虎。それにティリアはちょっとムッとする。
「う、うん。そうだね。ははは‥‥」
 ノエルは汗を垂らしつつ、頬をぽりぽりとかいた。

●第5階層
 傭兵本隊と相川小隊(と、その同行者達)は無線で連絡を取り合い、第5階層の大扉手前で合流した。ここを開けると大きなホールのような場所に出る。以前、学生達が囚われていた場所だ。キメラが多数存在する可能性が高い。
 傭兵達と相川小隊は同時に突入! するとやはり‥‥狼キメラの大群が待ち構えていた。一斉に飛び掛ってくる。
「うおっ!? すげぇ数だな!」
 思わず声を上げる凛。
「作戦通りに!」
 拓人が叫ぶ。皆から「了解!」との返答。拓人は制圧射撃を使用。狼キメラ多数の動きを鈍らせる。そこに相川小隊から旺盛な射撃、弾幕の援護が入る。続いて――
「神話の時代から‥‥勝負とは常に一撃で決まるもの。ラグナロクの終焉を呼んだ災厄の炎のように」
 アンジェリナが前に出た。手には、彼女の身の丈よりも大きな太刀・如来荒神。
 そして――十字撃を使用。大太刀を振り被り、思い切り床に叩き付けた。
 床に十字の衝撃波が走り、多数の狼キメラが吹き飛ばされ、宙を舞う。
「ふっ‥‥燃えただろう」
 更に続いて――
「ヨグ、いけるよ」
「わかったっ」
 AU−KVに騎乗した錬とヨグ。二人は息を合わせて、奥にある最下層へ繋がる階段のほうへ向けて騎龍突撃を使用。
「「ツイン・イグニッション・ファイア!!」」
 ハイドラグーン二人の連携攻撃。二台のAU−KVの正面がまばゆく発光し、左右に翼のように広がる。突撃と共に大量の狼キメラが蹴散らされた。
「道が保つ間に走れ‥‥ッ!」
 アンジェリナの声がホールに響く。拓人、アンジェリナ、錬、ヨグの4人が切り開いた道を最下層へ突入する全員が駆け抜ける。
 ミリハナクは巨大な斧から衝撃波を放ち、敵を味方へ近づけさせない。
 ‥‥そしてそのまま、キメラ対応班のアンジェリナとミリハナク、その援護に相川小隊から第3分隊を残し、他は最下層へ降りていく。
「ああ。この出先は‥‥向こうか! 行ってくるぜ!」
 凛が言う。
「必ず、必ず動力炉は壊してみせますっ」
 ヨグが言う。
「アンジェ! ミリィ! ‥‥無理だけはするな! 絶対ェだぞ!!」
 大地が叫ぶ。
「わかっている」
「さっさと行ってくださいな」
 アンジェリナとミリハナクからそっけない返答。
「オラオラァ! 退け退けぇ!」
 階段に残っていた敵を倒しながら先陣を切る凛。

 ‥‥第5階層に残されたアンジェリナとミリハナク、第3分隊。
 狼キメラはまだ数多く残っている‥‥。
「さて‥‥」
 大太刀を再び構えるアンジェリナ。
「ふふ、やっと自由に暴れられますわ。さあ私と楽しく遊びましょう」
 嬉しそうに巨大な炎斧『インフェルノ』を振り上げるミリハナク。
 唸りながら様子を見ていた狼キメラの群れが再び襲い掛かってきた。
「はあああっ!!」
 アンジェリナは大太刀を真っ直ぐに構え、突撃。複数の狼キメラが胴体を貫かれる。
「そーれ♪」
 ミリハナクは炎斧を振り回し、飛び掛ってくる狼キメラを片っ端からバラバラにしていく。あちこちで鮮血の花が咲く。
「まったく、やりおるわい」
 宗司が小声で呟いた。――美女二人の死の舞踏。‥‥殺戮が、始まった‥‥。

●最下層
 いよいよ最下層へ突入した一行は二手(性格には三手)に分かれて行動を開始した。

 培養室――。
 ノエル、子虎、ティリア。相川小隊第1、2、4分隊。
「何か仕掛けてくるなら、そろそろかな‥‥。達矢くんは蝶子さんの側にいたほうがいいかも」
 警戒しながら子虎が言った。達矢は頷く。
「蝶子、俺の傍から離れるな」
「わかってる。そう約束したもんね」
「いや、そっちじゃなくてだな‥‥」
「大丈夫だよ。ちゃんとたっちゃんの近くに居るから」
「ああ、そうしてくれ」
 二人がそんなやり取りをしていると、アスカが口を開いた。
「‥‥空気が違う‥‥やはり何か居るわね」
 そう言って間もなく、妖精キメラ――シルフィード3体と蝶キメラ多数が出現。
「やっぱり来た‥‥!」
 ノエルは両手に機械剣を構える。俊一が「攻撃開始!」と叫ぶと同時に、戦闘開始。
「僕とノエルンが揃えば怖いもの無しだよ!」
 子虎がノエルと同時にシルフィードへ斬りかかる。
 ティリアも他のシルフィードを相川小隊が抑えている間に、二刀小太刀で斬りつけた。
 スキルの出し惜しみをせずに、一気に畳み掛ける!
 ‥‥シルフィードには苦戦したものの、数の優位もあってか、戦闘はほどなく終了。
(「蝶、狼、シルフィード‥‥この前と敵の配置が変わってない‥‥まさか‥‥?」)
 ティリアの脳裏に浮かぶのは‥‥?
 一行は改めて培養室を見渡してみる。そこは‥‥奥行きのあるとても広い空間だった。
 学校の体育館数個分はあるだろう。蝶キメラや狼キメラといった対人キメラの培養カプセルの他、奥のほうには巨大な対KVキメラの培養カプセルも多数存在した。
「隊長、これが制御装置のようです」
 ごうんごうんと稼動状態にある装置を調べていた蝶子が報告。
 彼女はエレクトロリンカーであるため、データ収集など、技術面での任務が主だ。
「異星語で記述されているので詳しくはわかりませんが、この装置にキメラのデータが入力されており、それを元に培養カプセルでキメラが生産されているようです」
「‥‥そうですか。では、データ収集後に破壊。深森君、サポートをお願いします」
「了解です」


 動力室――。
 錬、ヨグ、拓人、アスカ、大地、凛の6名が突入すると、すぐさまシルフィード5体と蝶キメラ多数が迎撃に出てきた。
「アレが噂のキメラか‥‥お手並み拝見だ!」
 勢い良く拳を突き出す凛。
「こんな悪趣味なキメラを使うのはあの女くらいね‥‥」
 シルフィードに蹴り技を喰らわせるアスカ。
 ちなみに彼女は動力炉破壊のために弾頭矢とSASウォッチで時限爆弾を作成しようとしたが、流石にそれは無理であった‥‥。
「‥‥」
 拓人は隠密潜行で身を潜めている。サプレッサーを装着した銃でペイント弾を発射。シルフィードの目を塞ぐ。
「ちょっと降りてきな!」
 浮遊しているシルフィードの羽根を掴み、引き摺り下ろそうとする凛。しかし凄い力で振り落とされ、光弾の反撃をもらってしまった。
「ぐぅっ!?」
(「不味い‥‥押されてる‥‥。歯が立たないなんて‥‥こんな奴、初めてだよ‥‥!」)
 AU−KVアスタロトを装着し、機械剣と超機械で戦う錬。
 だが波動と光弾による猛烈な攻撃を受け、苦戦を強いられてしまう‥‥。
「けど、凌ぐ‥‥。いや、攻める‥‥!!」
 渾身の力で機械剣を振り被る。
「うぅぅ‥‥邪魔っ」
 AU−KVパイドロスを装着したヨグはエネルギーキャノンMk−IIで動力炉を狙おうとするが、大量の蝶キメラに邪魔されて照準が付けられずに居た。仕方なく、まずは蝶キメラを焼き払う。
「何の因縁だか知らねェが‥‥! 仲間に手出しはさせねぇッ!!」
 必至に二つの刀、血桜と蛍火を振るい、シルフィードに仲間を攻撃させまいとする大地。

 傭兵本隊はキメラの激しい抵抗を受けながらも、善戦する――。


 研究室――。
 ここに一人、やって来たのは武流だった。
(「俺の勘が正しければ‥‥」)
 室内を見回す武流。ここはこれまでの通路などとは違い、普通の建造物のようである。
 至る所に用途の分からない装置が散らばっている‥‥。
「あ〜ら、お客さ〜ん?」
 若い女の声。咄嗟に構えを取る武流。
「誰だ!?」
「残念だけど‥‥あんたはお呼びじゃないのよねえ」
 照明が灯り、大きく胸元の開いた黒のスーツに白衣を羽織った20代半ばほどの女性の姿が現れた。唇に塗られた真っ赤なルージュが特徴的。ソファーに寝そべり、非常にだらしない姿勢をしている‥‥。
「貴様は何者だ?」
「不法侵入者に名乗る義理はないわ」
「‥‥ならば答えなくとも良い。貴様は、この俺が、倒す!」
 一気に踏み出す武流。
「まったく、面倒ね」
 女はパチンと指を鳴らした。
「!?」
 女を守るように、背中に蝶々の羽根が生えた、美しい少女の外見をした妖精型キメラ――シルフィード4体が出現。
「面倒だし、やっちゃって頂戴」
 女が指示すると、シルフィード4体は武流に向って一斉に波動や光弾を放ってきた。
「‥‥!」
 広いとは言えない室内。その上、機材だらけ。ジグザグ走り、細かい体さばき、ステップ、前転、バック転、大小ジャンプなど、多彩な動きで回避しようとする武流だったが、この足場の悪さと狭さでは全て避け切ることは出来なかった。波動を受け、生命力を削られる。
「ぐっ‥‥!!」
 それでもなんとか反撃の糸口を探す。シルフィード1体に接近し、脚部に装備した機械脚甲『スコル』と脚甲『グラスホッパー』で蹴りを見舞う。ローキック、ミドルキック、ハイキック、連続蹴り、回し蹴り、飛び蹴り、飛び回し蹴り。蹴り技の乱舞。それは確実にダメージを与えるが、同時に隙が生まれ、背後から無数の光弾を受ける。
「ぐあっ‥‥!」
 態勢を立て直し、回転舞を使用。アクロバティックな動きで追撃を避ける。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
 武流は懸命に戦っていた。しかし、一対多数という圧倒的に不利な状況は覆らない。
「たぁぁぁっ!!」
 先ほどダメージを与えた個体に向って行く武流。
 真燕貫突を使用。脚甲『グラスホッパー』を装備した足で飛び蹴りを繰り出す。
 2撃目で敵を踏み台にして跳躍‥‥! と思ったが天井の高さが足りない。
 即座に思考を切り替え、今度は脚甲『スコル』を装備した足で回し蹴りを叩き込む。
 ‥‥シルフィード1体が倒れた。着地する武流。そこへ待っていたかとばかりに飛んでくる波動と光弾。集中攻撃を受けてしまう。
「ぐあああぁぁっ!!?」
 大ダメージを受け、倒れ込む。
「‥‥まあ、退屈しのぎになったわ。大した曲芸ね。さて、トドメを――」
 そのとき、研究室の扉が開け放たれた。
 駆けつけたのは――ノエル、子虎、ティリア。そして相川小隊第2、4分隊だった。
 第1分隊は培養施設の破壊活動を行っている。
 室内の惨状を目にした子虎はすぐさま無線機で傭兵本隊に連絡。
 少し遅れてアスカがやって来た。
「待ちくたびれたわ‥‥」
 ソファーに寝そべったまま‥‥妖艶な、悪意の篭った笑みを浮かべる女。
「やれやれ‥‥ツキが無いわね。当って欲しく無いことばかり当るわ」
 深い溜息をつくアスカ。
「やっぱり‥‥こんな悪趣味なキメラや罠を仕掛けるのは‥‥お前しかいないっ。生きていたのか、芳賀・鞠子っ!!」
 ティリアが腹の底から叫ぶ。
「そうよ。あんたに刺されたおかげで、回復にかなり時間が掛かったわ。‥‥この借りはきっちり返さなきゃねぇっ!!!!」
 鞠子は立ち上がり、白衣を脱ぎ捨て、凄まじい形相で帯電する鞭を激しく床に叩き付けた。バチバチと音が鳴る。
「そして牧原・蝶子! あんたもまた捕まえて、今度は本物のキメラにしてやるわぁ!!」
「‥‥っ!?」
「く、やらせるか!」
 蝶子を背後に隠す達矢。
 アスカが合図をした後、閃光手榴弾を投擲。戦闘が開始される。


 動力室――。
「はぁぁぁっ! くたばれぇぇぇ!!」
 鋭い斬撃音。鮮血が噴出し、シルフィード1体が倒れた。
 両断剣・絶を使用した大地の攻撃である。
「眠れ。そして次こそは可憐な蝶として目覚めろ」
 貫通弾を装填したアラスカ454でシルフィードの頭部を背後から撃ち抜く拓人。
 ‥‥これで最後のシルフィードが倒れたことになる。
 傭兵達はダメージを受けながらも、全てのシルフィードを撃破した。
 蝶キメラも約半分に数を減らしている。
「ドッカーンと、行くよっ」
 動力炉への攻撃を開始。ヨグがエネルギーキャノンMk−IIの光条をぶち込む!!


 研究室――。
「やぁぁぁっ!!」
「たぁぁぁっ!!」
 二つの閃光。それはノエルの二つの機械剣による斬撃。
 そしてティリアの二刀小太刀による斬撃。
 シルフィード1体が崩れ落ちる。
 達矢と蝶子の攻撃で、もう1体のシルフィードも沈黙。
 他の隊員14名による猛烈な射撃により、最後のシルフィードも蜂の巣となる。
「あんた、相当根性が腐ってるわね」
「もう絶対にあんなことはさせない‥‥!」
 アスカの蹴りと子虎の大剣による斬撃が鞠子を襲う。血が、ぽたぽたと滴った。
「くっ‥‥!」
 そこで――大きな爆発音。


 動力室――。
 ぶすぶすと黒煙を吹き上げる動力炉‥‥。
「こちら傭兵本隊。動力炉の破壊に‥‥成功。繰り返す、動力炉の破壊に成功‥‥!」
 拓人が肩で息をしながら各斑に報告する。その頬は煤まみれだった。
「ようやくかよ‥‥。ふう‥‥ま、暴れられたからいいけど」
 凛もボロボロで、座り込んでいる。

 第5階層――。
「この地響きは‥‥?!」
「皆さんがやってくれたのですわね!」
 当に狼キメラを殲滅し終えたアンジェリナとミリハナクが声を上げる。
「そのようじゃ。よくやってくれたわい」
 通信機を耳に当てながら宗司がニカッと笑う。


 研究室――。
 ふっと、照明が消えた。が、すぐまた点灯する。予備電源に切り替わったのだ。
 しかし――シルフィードは全て撃破され、動力炉まで破壊されてしまった‥‥。
「っ!!」
 状況が不利と判断した鞠子はスモークを使用。辺りが煙に包まれる。
 そのまま鞠子は研究室の奥へ。手術室を抜け、更に奥へ向う。
「待てぇっ!!」
 ノエル、子虎、アスカ、ティリアは閉じた扉を破壊しながら追う。

 キメラプラント乙27号、秘密ドック。
 秘匿してあった小型HWのコクピットに、鞠子は滑り込んだ。
 それと同時に、直上に繋がるゲートが一斉に開いていく。
 小型HWは垂直離陸。ティリア達が追いついたのはその時だった。
「逃げるのか! 芳賀・鞠子!!」
 ティリアがまた叫ぶ。
『ええ、そうよ‥‥。よくもここまで‥‥覚えておきなさい‥‥!』
 外部スピーカーから響く、心底悔しげな声。
 そして小型HWは上昇し、空へと消えて行った‥‥。

 キメラプラント乙27号攻略作戦は、敵の指揮官である芳賀・鞠子の逃走という結果に終わった。
 しかし、動力炉や培養カプセル群などの主要施設は完全に破壊。研究室もデータ入手後に破壊。
 そして――後日、KV部隊による爆撃によって、地上構造物も含めて完全に破壊された。
 キメラプラント乙27号は、傭兵達の働きにより、この地球上から消滅したのだ‥‥。