タイトル:乙女中隊・難壁マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/07 17:11

●オープニング本文


 九州北部戦線。廃墟と化し、打ち棄てられた旧市街地。
 そこにズシンズシンと重たげなKVの歩行音が響く。複数だ。
「敵影を確認したのはこのポイントか?」
 F−104バイパーが12機。1個中隊。それを率いる隊長が部下へと尋ねる。
「ええ、この辺りですね」
 偵察機からの情報を確かめながら部下が答えた。
「ふむ」
 キャノピー越しに見えるのは崩落しかけたビル群のみ‥‥。そのとき。
「隊長、レーダーに反応!」
 部下からの通信。レーダーで位置を確認。目の前だ!
 すぐに視認出来た。それは群青色に塗られたタロス。
「敵は1機だ。包囲して殲滅する」
 隊長が指示を下すと部下のKVが砲撃を開始。
 タロスはそれを易々と避けつつ一気に距離を詰めてくる。
 流れるような動作で熱剣を突き出し、バイパー1機のコクピットを貫いた。
 唖然とする隊長。パイロットは即死だっただろう。
 即座に熱剣を引き抜き、タロスは跳躍。ビルの屋上へ。
「に、逃がすな!」
 隊長は動揺しつつも再び指示を出す。
 包囲の中、タロスは砲火をすり抜け続ける。
「くそっ!」
 焦りを覚え始める隊長。嫌な汗が滲む。
 敵の動きは無人機とは明らかに違う。有人機、それもエースだ。
「た、隊長ぉぉぉ!?」
 部下の悲鳴。直後ノイズが走る。また1機喰われた!
 ふと、タロスが動きを止めた。頭部が動き、空を見上げる。
 隊長が考える間もなく風切り音と共に大量の砲弾が飛来。
 空中で炸裂した榴弾の雨が降り注ぐ。それを全身に受け次々に爆発するKV。
 ‥‥榴弾の嵐が過ぎ去った後、残されたのは激しく損傷した隊長機のみだった。
 部下の機体は全て大破。通信を送るが返答はなし。
 隊長は霞む瞳で敵を見据える。タロスは‥‥無傷。
「我が名は牙城・このえ。温い、温すぎるぞUPC軍」
 なんだ‥‥? 敵からの通信?
 そしてタロスは返答を待たず傷だらけのバイパーにガトリング砲を向け、放つ。
 バイパーは蜂の巣になり、キャノピーが鮮血で染まった‥‥。

「ふん」
 群青色のタロスのパイロット、牙城・このえはトリガーから指を離し、不機嫌そうな表情を浮かべる。
 物足りない、物足りなさ過ぎる。
「芳賀の虫どもに頼る必要も無かったな」
 元より当てになどしていなかったが。
 まあいい、これから取り返しに来るであろう敵に期待しようではないか。
 ‥‥市街地には、EQキャリアーから吐き出された巨大な虫型キメラが溢れ始めていた。


 UPC軍基地。ブリーフィングルーム。
 早乙女・美咲(gz0215)を始めとした乙女中隊こと、α−01部隊の面々は緊急招集を受けていた。
 直属の上司である高ノ宮・茜少佐より作戦内容の説明を受ける。
「九州北部戦線でバグア軍の攻勢があった。初期の戦闘でKV1個中隊が全滅。現在敵は旧市街地に陣取っているようだ。諸君らは傭兵部隊と協力しこれを排除、または撃退せよ」
 高ノ宮少佐はポインターで地図を示しながら言った。
「どうやら敵部隊を率いているのはエース級らしい。充分に警戒しておけ」
「はっ! 了解しました!」
 びしっと敬礼する美咲。
「α−01部隊、出撃準備!!」

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

●接敵
 戦域へ向かう傭兵部隊とα−01部隊。
「さて、彼女らとの共闘は都合2度目か‥‥」
 愛機R−01改のコクピットで時任 絃也(ga0983)が呟く。
(「まぁ今回が本当の意味での共闘だ。上手く立ち回れればいいが」)
 要するに彼女らの、そして自分の実力が試されると言う事だ。
「‥‥」
 コクピットシートにもたれかかり、腕を組む漸 王零(ga2930)。
 機体は雷電改2『アンラ・マンユ』。
「相手にとって不足無し、か。いいぜ、燃えて来た!」
 セージ(ga3997)は自分の機体と似たカラーリング、武装、戦法の敵に対し闘志を燃やしていた。
 機体はシュテルン・G『BB(ブルー・ブレイカー)』。
「冴、緊張してないか」
「大丈夫です」
「はは、ごめん。無用な心配だったな」
 α−01部隊B小隊隊長、九条・冴と通信を行っているのは百瀬 香澄(ga4089)。
 機体はロビン『Tomboy Lady』。
「いえ。香澄さんのお声でリラックス出来ました」
「そうか、良かった。‥‥敵のエースは熱いのが好みらしいから汗をたっぷりかいて貰おう。ただし、冷や汗だ」
「ええ」
 香澄の言葉に頷く冴。
「高ノ宮少佐からも言われたと思うが、充分に警戒しろ」
 何度も作戦を共にしてきたα−01部隊が敵エースを含む戦闘に初めて臨むという事で、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)は気合を入れる。
 彼の機体はシュテルン・G『Deneb Cygni』。
「超エースもトンデモ兵器も好い加減見飽きたよ」
 ディアブロに乗る時枝・悠(ga8810)はうんざりした様子。
 いつだって敵は強力で、いつだって状況は面倒で、そしていつだって負けられない。
 いつも通りだ。いつものように勝って帰ろう。悠はそう考える。
「エースが出てきたか‥‥厳しい戦いになるだろうが、俺達の絆の力を見せてやろうぜ!」
「うん。強い絆は強い力になるから」
 恋人であるα−01部隊の隊長、早乙女・美咲と通信で会話する夏目 リョウ(gb2267)。
(「今までの虫型キメラとは違った強敵の出現‥‥人々の平和の為、美咲達と未来を切り開く為にも、逃げるわけにはいかない」)
 愛する人の声を聞き、自らを奮い立たせる。彼の機体はリヴァイアサン『蒼炎』。
(「中隊編成になってから美咲さん達と作戦行動を共にするのはこれが初めてか‥‥」)
 スピリットゴースト『Merkabah』に搭乗したティリア=シルフィード(gb4903)は考えをめぐらせていた。
 初期の戦闘で壊滅したKV中隊が遺した情報によれば、かなりの数の敵が展開している様子。
 それにエースもいる。飛んで火に入るなんとやら‥‥にならない様に気をつけなければ。
 ティリアは気を引き締めるとα−01部隊C小隊、森ノ宮姉妹に通信を送った。
「皆さんが後ろを気にせず戦えるよう、しっかりと支援させてもらいます。頑張りましょうね」
 4人から「了解」との返答。

 まもなく、廃墟と化した旧市街地が見えてきた。接敵に備える。

●VS虫型キメラ
 傭兵部隊と乙女中隊は全速で市街地に突入。
 既に内部はGスコルピオンやGタランチュラで溢れていた。
「まずは派手に一丁ぶちかます!」
 香澄機がDR−2荷電粒子砲を発射。熱と衝撃でキメラを吹き飛ばし、道を切り開く。
 荒廃した街の中を進んでいく20機のKV。そこに立ち塞がる一つの影。
 熱剣を構えた群青色のタロス。牙城・このえ。
 先に突破を図るゴーレム対応班の絃也機、香澄機、悠機、リョウ機とB小隊に対してガトリング砲を掃射してきた。
「こいつは我らに任せろ!」
 肉厚のゼロ・ディフェンダーを盾にして王零機が割って入る。
「そうだ! 早く行け!」
 セージ機は王零機の後方から試作型「スラスターライフル」で射撃を加える。
「やあああっ!」
 接近し、ゼロ・ディフェンダーを振り被る王零機。タロスは回避運動。
 2機は交互にタロスに攻撃を仕掛け、引き離していく。
 その間にゴーレム対応班とB小隊は突破。

「こちらは俺達の役割だな」
「砲撃を開始します!」
 キメラの排除を担当するのはヴァレス機、ティリア機、C小隊。
 ティリア機、ファルコン・スナイプを使用。敵密集地点にG−44グレネードランチャーを発射。
 ヴァレス機、ティリア機に合わせてC−0200ミサイルポッドを撃ち込む。
 C小隊もガトリング砲やマシンガンで弾幕を展開。
 広範囲に爆炎が巻き起こり、多数のキメラを撃破。だが残存する敵が煙を抜けてくる。
 スラスターライフルで射撃するヴァレス機。
 ティリア機は20mmガトリング砲で迫るGタランチュラを蹴散らす。
 そこへ突破し、突撃してくるメガホーン。ティリア機は200mm4連キャノン砲に切り替えて砲弾を叩き込む。
 しかし赤い壁に阻まれ威力が減衰。撃破するには至らない。
「くっ‥‥!?」
「はあああっ! 貫けぇっ!!」
 ヴァレス機が飛び込んできた。機杭「エグツ・タルディ」を分厚い甲殻に叩き込む。
 体液を撒き散らし、メガホーンは動かなくなった。
「すみません! 助かりました!」
「いや、いい。それより‥‥くるぞ!」
 間髪置かずに、今度は多数のGスコルピオンが襲い来る。
「了解!」
 ティリア機は強酸の射程に入る前に強化型ショルダーキャノンで砲撃。
 傷ついていたGスコルピオン数体は砲弾を受け、四散する。
 C小隊は各機近接戦にてキメラと交戦。

 こうしてキメラの数を減らしていくも、まだまだ多く残っている。

●VS強化型ゴーレム
 絃也機、香澄機、悠機、リョウ機とB小隊は建造物を盾にして絶え間なく飛んでくる榴弾の雨から逃れながらブーストを使用してゴーレム部隊が陣取る場所へと移動中。
「あの影からか‥‥? 距離はあるが、やるしかない」
 ゴーレム部隊の位置を割り出しながらリョウが言った。
 また、ヴァレスやティリア達が多くを引きつけているものの、キメラは市街地に広く展開しており、移動の妨げになっている。
「‥‥」
 煩わしく感じた絃也。再度ブーストを噴かして機体を上昇させ、低空での移動を試みる。
 ゴーレム部隊がすぐさま反応。絃也機に対し、アウトレンジからプロトン砲の一斉砲撃を行ってきた。
「‥‥!」
 絃也機はビルの壁などを利用し、方向転換し、回避を行う。
 だがゴーレム7機からの集中砲火は避け切れるものではない。
 多数被弾。体勢を崩した絃也機は落下し、凄まじい音を立ててアスファルトに激突。
「「時任!?」」
 目の前で起こった出来事に動揺する香澄とリョウ、B小隊。
「足を止めるな! 目的を見失っては意味が無いだろう!」
 悠が一喝する。我を取り戻す香澄達。
「俺は‥‥大丈夫だ‥‥先に‥‥いけ‥‥」
 絃也から通信。途切れ途切れだが、なんとか無事のようだ。
「時任、死ぬなよ。さぁ、突っ込むぞ。『おてんば淑女』、まかり通る!」
「行こうかディアブロ。無理なく無駄なく無難に埒を明けよう」
「アクティブアーマー展開、一気に駆け抜けろ蒼炎!」
 香澄、悠、リョウが言う。
 7機のKVはビルの合間を縫い、一気にゴーレム部隊へ向かう。

 見送った絃也は機体の損傷をチェック。ダメージはコクピット内にも及んでいる。
 打ち所が悪かった。右腕使用不能。各部損傷甚大。
 下腹部に生暖かいものを感じた。手で触れてみると、ぬるりとした感触。
 掌を見れば真っ赤。腹部に大きな破片が突き刺さっていた。出血が酷い。くらくらする。
(「だが‥‥このまま終わるわけにはいかん‥‥!」)
 絃也の瞳にはまだ闘志が満ちていた。操縦桿を握り、まずは機体を起こす。

 ゴーレム部隊と相対する傭兵のKV3機とB小隊。数の上では互角だ。
 榴弾砲を撃たせないために、まずは全機距離を詰める。
 香澄機はプラズマリボルバーで牽制しつつ、高電磁マニピュレーターで殴りかかる。
 ゴーレムはチェーンガンで射撃し、反撃してくる。盾で受ける香澄機。
「それ以上撃つなよ。冴に傷でもつけてみろ、鉄くずになるまで殴るからな」
(「どちらにせよ、スクラップになって貰うけどな!」)
 ゴーレムのバグア式ディフェンダーと香澄機の拳が打ち合う。
「ばかばか好き放題撃ちまくってくれたじゃないか。こいつは礼だ!」
 ある程度ダメージを与えたと判断した香澄は荷電粒子砲のトリガーを引く。
 放たれる光の本流。それはゴーレムの胴体を貫いた。

 悠機はゴーレム2機を相手に立ち回る。
 ファランクス・アテナイで弾幕を展開しつつ、BCアクスを大きく振り被る。遠心力を利用して連続で斬り付け。
「はあああっ!!」
 ゴーレム2機の頭部を斬り飛ばした。消失したセンサー系をサブに切り替える際に隙が生まれる。それを逃す悠ではない。BCアクスを振り回し、再度斬撃を加える。
 2本のゴーレムの腕が宙を舞った。

「行くぞ蒼炎、人々の平和を取り戻す為に!」
 リョウ機はプラズマリボルバーと3.2cm高分子レーザー砲でゴーレムを牽制。
「お前の相手はこの俺だ。あっちでは俺の大切な人も戦っているからな。手出しはさせない!」
 双機刀「臥竜鳳雛」を抜き放ち、接近戦を仕掛ける。数度斬り結んだ後、システム・インヴィディア起動。
「輝け! 蒼き燐光‥‥蒼炎斬!」
 蒼い軌跡を描く斬撃を何度も加える。

 B小隊は連携し、ゴーレム3機と互角に渡り合っていた。
 しかしプロトン砲とチェーンガンによる火力は凄まじく、徐々に押され始める。
「くぅっ、これがゴーレム‥‥。キメラとはまるで違う!」
 奥歯を噛み締める冴。そのとき――
 目の前のゴーレムの腹から、巨大な剣先が突き出した。ゴーレムはぶるぶると震えている。
 剣が引き抜かれると同時にゴーレムが地に伏し、小爆発を起こす。
 その背後にはデモンズ・オブ・ラウンドを左手で保持し、肩に担いだ絃也機が佇んでいた。
「すまん、待たせたな」

●VS牙城・このえ
 タロスと交戦する王零機とセージ機、A小隊。
 2機が交互に攻撃を加え、A小隊が後方から援護射撃を行う。
 スラスターライフルで射撃し、セージを支援する王零機。
 セージ機が離脱すると、ジャイレイトフィアーに兵装を切り替えて攻撃を仕掛ける。
「誓約の名の下に‥‥漸 王零‥‥アンラ・マンユ‥‥推して参る!!」
 タロスは熱剣で弾く。王零機は離脱。
 高所に陣取った舞浜・ちずる機と三門・香苗機の狙撃による援護を受けつつ、今度はセージ機がヒートディフェンダーで斬りかかる。
「構わず撃て! 弾はこっちで避ける!」
 その声に答え後方から美咲機がガトリング砲、三門・早苗機がマシンガンで一斉射撃。
 セージ機は跳躍し、射線から逃れる。弾幕がタロスに向かう。
 タロスは盾を斜めに構えて砲弾を逸らした。

 王零機とセージ機が先ほどまでとは違った動きを見せた。移動を開始。追うタロス。
 ビル越しに併走しつつ、2機のKVとタロスは射撃戦を繰り広げる。
 砲弾が突き刺さり、轟音と共に次々と崩落していくビル群。
 A小隊は少し離れた建造物の上から援護射撃。
 大通りに出た。タロスと向かい合う王零機とセージ機。
 セージ機はヒートディフェンダーを振り上げ、王零機を背後に隠して突撃。
 タロスの熱剣の間合いに入る直前、セージ機は四連バーニアをフル稼動して垂直離陸。
 開いた射線。そこに王零機がM−12強化型帯電粒子加速砲を発射。
 タロスを掠め、装甲を少し融解させる。
 王零機はそのままブーストを噴かして突撃。ハンズ・オブ・グローリーを使用し、ジャイレイトフィアーで突きを繰り出す。
「この攻撃、避けられるか!」
 セージ機は滞空しながらファランクスの砲弾をばら撒き、タロスの背後に着地。
 ブーストの加速を乗せ、ヒートディフェンダーを突き出す。
「群青の熱剣使い‥‥スタイルも同じと来たら勝負を決めるのは想いの強さってか?!」
 タロスは王零機の攻撃を盾で受け、セージ機の攻撃は同じ熱剣で受け止める。
 双方の関節部が軋みを上げる。
「違うな」
 オープン回線で若い女の声。
 タロスはそのままの体勢で、王零機に思い切り蹴りを食らわした。
「なっ‥‥!!」
 吹き飛び、ビルに激突する王零機。壁面を破り内部まで突っ込む。
 続いてタロスは電磁鞭を伸ばし、セージ機に叩きつける。
「ぐあああああっ!!?」
 電撃がほとばしり、激痛に絶叫するセージ。
「勝負を決めるのは己の力量、そして時の運だ」
 動きが止まったセージ機に向け、タロスは熱剣を構える。機体が赤く発光する。
 そしてコクピット目掛けて猛烈な突きを繰り出した。
 装甲を貫かれ、串刺しになり、セージ機は完全に機能を停止する。
「次は貴様らか?」
「‥‥!」
 熱剣を引き抜いたタロスのパイロットの声が、援護攻撃を行っていたA小隊に向けられる。
 初めて直面した敵エースに恐怖を覚える美咲。死を覚悟する。
 だがそこへ――荷電粒子砲の光条が奔った。後退し距離を取るタロス。
「っと。乙女を傷つけさせる訳にはいかないな」
「美咲は絶対にやらせない!!」
 ゴーレム部隊を撃破した香澄機、悠機、リョウ機とB小隊が合流したのだ。
 絃也は機体の損傷と自身の出血が酷いため先に撤退。
 ヴァレスとティリア、C小隊は未だキメラの排除に追われている。

 ガトリング砲を放ちつつ接近してくるタロス。迎え撃つ悠機。
 熱剣とBCアクスが激しく打ち合い、火花を散らす。
「やるな、貴様。我が名は――」
「名乗るなよ。覚えるほど価値ある名だなんて、自意識過剰に過ぎる」
 このえの言葉が悠の声にかき消された。
「ふっ、ならばいい」
 一旦距離を取り、熱剣を構えるタロスと、BCアクスを高く振り上げる悠機。
 2機は同時に踏み出し、交差。鋭い斬撃音が響き渡った。
 ‥‥悠機は胸部に、タロスは肩口から腹部にかけて、大きく斬痕が刻まれている。
「再生が追いつかん‥‥か」
 このえが呟く。知らず知らずのうちに練力を使ってしまっていたらしい。
 いや、使わされていた‥‥か。
「今だ! 撃て!」
 香澄機とリョウ機、態勢を立て直した王零機、A・B小隊がタロスに集中砲撃を行う。タロスは回避運動。
 このえは機体を操りながら計器を確認する。見ればゴーレムのマーカーは全てロスト。キメラの数も大きく減らされているではないか。
「この数では流石に分が悪いな」
 タロスは背中のバインダーを変形させ、飛行形態に移行。
「中々に楽しめたぞ、戦斧の悪魔よ」
 それは悠機に向けられた言葉。
 上昇し、傷ついた群青色のタロスは最大速度で戦域を離脱して行った‥‥。