●リプレイ本文
●噂の彼女は‥‥
キメラ討伐の依頼を受け、イタリア某所の山岳都市にやってきた傭兵達――
「イタリア‥‥いつ以来ですかねぇ」
風に吹かれ、後ろで結わえた白い髪を揺らしながら景色を眺めているのは斑鳩・八雲(
ga8672)。
街は――あちこちの建物に壊された跡があった。
恐らく、キメラの襲撃によるものだろう。元は風光明媚な街だったろうに‥‥。
今では半ば廃墟である。住民達の表情にも、どこか不安の色が窺えた。
(「傭兵になって良い事の一つは、仕事で世界中を回れる事だろうか。ヨーロッパ何て来た事も無いしな。‥‥まぁ最初の仕事だ、躓かない様に努力するか」)
一方で、これが初めての依頼となる橘 銀(
gc2529)は気を引き締めている。
そして傭兵達は智覇との合流場所である酒場へと向かった‥‥。
「やっほー、智覇さんお久しぶりー!」
友人と再会できることを嬉しく思いつつ、皇 千糸(
ga0843)がにっこり笑顔で酒場の戸を開く。
が――そこに智覇の姿は無かった。
代わりに智覇の主治医が出迎えてくれる。ついでに事情も説明してくれた。
「既に先行してるって? ‥‥まぁ、そんなことだろうとは思った」
ここで会えなかったのは残念だが‥‥予想の範囲内だ。千糸はそのように考える。
智覇の友人をやっているだけあって、その辺は理解があるようだ。
「さすがに数時間もかかっては我々の到着を待てなかったか」
苦笑する白鐘剣一郎(
ga0184)。
「いやはや‥‥単独先行とは。随分と豪儀な方ですねぇ」
米本 剛(
gb0843)は智覇の突貫ぶりに驚いた様子。
それを見て千糸は「そんなの日常茶飯事だぜ!」という表情を浮かべた。
「‥‥さて、そういうことなら早く合流しないと。乙女の柔肌に無用な傷がつく前に!」
ぐっと拳を握る千糸。
「あ〜、彼女の事だから問題はないんでしょうけど、ボロボロになっている可能性はありそうよね。急いだほうが良さそうね」
ファルル・キーリア(
ga4815)は眉間を押さえている。
「まったく。せっかちというか、堪え性が無いというか‥‥待つ事も重要なのにね」
はあ、と溜息を漏らす。
「一人飛び出していくなんて無謀です。一刻も早くキメラを倒したいという気持ちは分りますが‥‥。早く合流しないと‥‥!」
言ったのはソウマ(
gc0505)。
無茶無謀は智覇の専売特許だが、彼の言葉は一部的を射ていた。
「主治医さんは毎度お疲れ〜。時間に余裕があればあなたともゆっくりお話してみたいところだけど‥‥今は急がなきゃ」
千糸が主治医の声をかけた。「よろしく頼むわ」と答える主治医。
「仲間の到着を待てずに一人で飛び出した、ね‥‥」
巨大な突撃槍を担いだアレックス(
gb3735)は難しそうな表情をしている。
自身の怪我に頓着しないという風評、そして今回の単独先行‥‥。
昔の自分を見ているようで落ち着かないのだ。
(「とりあえず、一言釘を刺しておくか。まぁ、聞かねぇだろうけど」)
その後、智覇が出撃してからの経過時間と目的地までの距離・ルートを主治医に確認。
しっかり準備を整え‥‥
「とにかくまずは急ごう」
剣一郎が言い、一行はキメラの討伐に出発する。
●移動
キメラの巣がある岩山。そのふもとまでは、時間を短縮するために車両を使う。
千糸、ファルル、ソウマ、銀は剣一郎のジーザリオに相乗り。
「少し狭いかもしれないが我慢してくれ」
と、ハンドルを握りながら剣一郎が言う。
本来は4人乗りの車に5人乗っているのだ‥‥少々狭いのは仕方が無い。
「「‥‥」」
しかしスレンダーな体型の千糸とファルルは特に問題なかった。
(「うああ、揺れるぅ〜!?」)
それよりも後部座席で女性二人の間に挟まれたソウマが問題である。
悪路ゆえ、揺れが酷い。下手をするとどちらかに抱きついてしまいそうで冷や冷やした。
なんだか良い匂いもするので‥‥変な気を起こさぬよう、自制心を働かせる。
ちなみに女性二人は慎ましい胸であり‥‥残念ながらそれが揺れることはなかった‥‥。
八雲と米本は能力者用スポーツバイクSE−445R。
ドラグーンのアレックスはオフロードタイヤに履き替えたAU−KVに跨っている。
ふもとまで来ると、車両を置き、徒歩での移動となる。
アレックスはAU−KVミカエルをパワードスーツ形態に変形させ、装着。
騎士甲冑を思わせる風貌となった。メインウェポンのランスがよく似合う。
ちなみに、彼のミカエルにはファイヤーパターンの塗装が施されている。
1時間ほど歩くと‥‥銃撃音が聞こえてきた。
地図で位置を確認。キメラの巣が近い。――智覇だ!
一行は急ごうとするが、足場は高低差がある上に崩れ易く、歩き難い。
崖などもあり、非常に危険だ。慎重に進んでいく一行。
そしてついに戦闘中の智覇の姿を発見。彼女は有翼狼の群れに対し、ガトリング砲で旺盛な射撃を加えていた。
身体のところどころに傷を負っているものの、元気な様子。
「はぁい、智覇さんお久しぶり。加勢に来たわよ!」
真っ先に声を上げたのはやはり、千糸。
「‥‥!? 千糸さん!」
智覇が振り返り、こちらを向いた。
「おっと、よそ見しちゃ危ないわよ!」
千糸はさっそく覚醒し、先手必勝を用いて智覇のフォローに入る。
「相変わらず無茶をする。だが良く持ち堪えてくれたな」
笑みを浮かべる剣一郎。
他の者も続いて覚醒。それぞれの武器を構え、戦闘態勢へ――。
●有翼の獣
敵は20体ほどの有翼狼。智覇との戦闘により傷ついていたが、数が多く油断は出来ない。
そして――
「グオオオオオォォォォォ!!!!」
地を揺るがす咆哮。コウモリのような翼を持った‥‥有翼獅子。狼とは桁違いの迫力。
「‥‥一匹たりとも逃がさねェよ」
その気迫に臆することなく、アレックスはランス「エクスプロード」を振り上げ、立ち向かってゆく。
「今度は此方の相手をして頂きましょうかね?」
ガントレットを装着した両手で二振りの妖刀「天魔」を抜き、構える米本。
「く、強そうな敵だ‥‥」
ソウマは自分のキョウ運をUPさせるべくGooDLuckを使用。
「多いな。まずは数を減らす」
魔創の弓を構え、4度射る剣一郎。狙い違わず矢が突き刺さり、1体の狼が落ちた。
「相手が空を飛べるんじゃ‥‥、受身に徹するしかないわね。くっ‥‥、じれったい‥‥」
すばしっこく飛び回る有翼狼を睨みつけ、ファルルは唇を噛む。
「スナイパーの名は伊達じゃないわよ? とっとと降りてきなさい!」
翼に狙いを定め、小銃S−01で射撃。さすがのスナイパーといったところか、確実に命中し翼を撃ち抜かれた狼は墜落。
「逃がさん‥‥天都神影流・虚空閃!」
そこへ月詠を抜いた剣一郎がソニックブームを放ち、狼の身を切り裂き、止めを刺した。
「チッ、やるじゃねェか‥‥!」
「成程厄介。まぁしかし‥‥」
アレックスと米本はペアを組み、有翼獅子と戦闘を繰り広げていた。
機動力を生かした一撃離脱攻撃に、やや苦戦を強いられている‥‥。
獅子が口を開いた。火炎のブレスが来る! 右手のルシッドガントレットで防ぐ米本!
「ぐうう!!」
熱によるダメージ。手甲により軽減されてはいるが、結構効く。
間髪入れずに突撃して来る獅子。鋭い爪が振り下ろされる。今度は左手のメタルガントレットで防ぐ。金属が擦られる耳障りな音が響く。
「其れ位では自分を止められはしません‥‥よ!」
米本の反撃。刀を振るう。それはわずかに獅子の表皮を斬り裂いた。微量の血液が舞う。
「駆けろ‥‥雷!」
離脱しようとする獅子に対し、今度は機械巻物「雷遁」で攻撃を行うも、これは回避されてしまった。
「この野郎!!」
回避方向に向けてアレックスが竜の瞳を使用し、拳銃「ジャッジメント」を連射。
弾丸は獅子に命中するが分厚い皮膚に阻まれ致命傷には至らない。
‥‥見た目だけではない。有翼獅子はかなりの強敵だった。
「うーん、適当に、とはいきませんか‥‥ならば真面目に、お相手しましょう!」
飛行する有翼狼にショットガン20で射撃を加える八雲。
別の狼が牙を剥いて突撃してくる。八雲は身を捻って避ける。
地面がでこぼこしているため、体勢を崩しそうになるが何とか踏み止まった。
「――斑鳩流、鍾馗二式」
曲刀・シルフィードに両断剣を付加し、カウンターの要領で翼を狙い斬りつける!
片翼を斬り落とされた狼は派手に地面に激突。
「橘さん!」
「了解!」
拳銃「バラキエル」を構えた銀が狼の頭部を狙って引き金を引く。
雷鳴の如き銃声が轟いた。‥‥頭部が爆ぜ、狼1体が沈黙。
八雲と銀はペアとなって狼と戦闘を行っていた。
真正面から攻撃を仕掛けるのは八雲、それを援護し「味方が動き易いように、敵が動き難いように」するのが銀の役目だ。
「一匹ずつ確実に、落とす!」
狙撃眼を使用し小銃S−01で上空の有翼狼に射撃する千糸。
「‥‥」
黙々とガトリング砲で弾幕を張る智覇。
「喰らえ!!」
千糸と同じく小銃S−01で射撃を行うソウマ。
‥‥3人は連携して複数の狼を相手にしていた。
正確には、智覇を千糸とソウマがフォローする形である。
そこへ、狼1体が突撃してくる!
「下がってください!」
ソウマが叫んだ。バックラーを構え、自身障壁を使用し、爪による斬撃を防ぐ。
「やあああっ!!」
イアリスを振るって反撃、胴体を横に斬り裂きダメージを与える。
ソウマは射撃中心の千糸と智覇の盾役にもなっていた。接近戦も器用にこなしている。
‥‥またも突撃してくる狼。今度は2体。
「智覇さん!」
「わかっています」
エネルギーガンを連射する千糸。智覇は弾丸の雨を浴びせる。
2人の連携により狼1体が倒れた。しかしもう1体は傷つきながらも突破してきた。
そこへ――
「撃ち抜けぇ!!」
紅蓮衝撃を使用し、貫通弾を込めた小銃S−01でソウマが射撃。
それは言葉どおり狼の頭部を撃ち抜き、地に落とした。
「やった! やりましたよ!」
嬉しそうに飛び跳ねるソウマ。そのとき――ソウマが立っていた足場が崩れた。
明らかに今、はしゃいだ所為である。
「うわわわわわっ!!?」
バランスを崩して倒れそうになるソウマ。
がしっ!
思わず、側にあったものを掴んでしまう。
それは‥‥智覇であった。ソウマは智覇の腰に抱き付く形になっていた。
智覇の体温が布越しに感じられる‥‥。あたたかい‥‥そして柔らかい‥‥。
「‥‥」
智覇は無言。しかし‥‥殺気が伝わってくる。
「ちょっと!! 私の智覇さんに何してるのよ!!」
当然、千糸が怒鳴ってきた。
「す、すみません!!」
ソウマは慌てて離れる。
「ごめんなさい! ほんと、ごめんなさい! そんなつもりは無かったんです!」
何度もぺこぺこと頭を下げるソウマ。
「‥‥それよりも、まだ戦闘中です。集中してください」
落ち着いているが冷たい口調の智覇‥‥。
千糸からもソウマへじとーっとした視線が向けられる‥‥。
「はあ‥‥はあ‥‥」
AU−KVのマスク越しに荒い息を立てるアレックス。
「ふう‥‥ふう‥‥」
肩で息をしている米本。
二人は有翼獅子に、予想以上に苦戦していた。
重傷とまではいかないものの、かなりダメージを受けてしまっている。
このままでは厳しいかもしれない‥‥そう思いかけたとき――
「大丈夫か?」
「傷だらけじゃない!」
狼を粗方片付けた剣一郎とファルルが応援に駆けつけた。
「少し癪だが‥‥助かるぜ」
「申し訳‥‥ありません」
アレックスはランスを、米本は二つの刀を構え直す。
「こちらは任せろ!」
言ったのは銀。
八雲と銀、千糸とソウマと智覇は残りの狼を押さえる。
「グオオオオオ!!」
咆哮し、接近戦を仕掛けてくる獅子。
「‥‥っ!」
それをファルルはイアリスで受け止める。
獅子はイアリスに噛み付いてくる。凄まじい力に、イアリスの刀身は今にも折れてしまいそうだ。だが‥‥
「捕まえた‥‥! このまま地獄へ落ちなさい!」
頭部を狙ってゼロ距離射撃!!
しかし――獅子は寸でのところで顔を逸らした。銃弾は肩に突き刺さる。
獅子はそのまま上空へ離脱。
「捉えた‥‥行けっ」
隙を逃す剣一郎ではなかった。魔創の弓で、正確に獅子の翼を射抜く。
飛行能力を失った獅子は地面に叩きつけられた。‥‥よろめきながら起き上がる。
そこへ、アレックスが装輪走行で勢いをつけ接近。大ジャンプし、ランスを胴体に思い切り突き刺す。
「リミッター解除‥‥ランス『エクスプロード』、オーバー・イグニッション!」
爆発。炎が立ち昇る。
炎が消える。獅子は‥‥まだ生きていた。凄まじい生命力。
だが傭兵達の攻撃は終わらない。
「吹き荒べ‥‥剛双刃『嵐』!!」
二段撃と両断剣を使用した米本の連続斬り。
「惑え‥‥剛衝波『乱』!!」
更にソニックブームと両断剣による追撃。
‥‥まともに受けた獅子は、最早虫の息。
「後は任せて貰おう」
そこにあったのは鞘に収めた月詠を握り締めた、剣一郎の姿。
「天都神影流『奥義』断空牙」
――居合いの構えから放つ、紅刃の閃光――。
獅子の頭部が‥‥ごろりと地面に転がった‥‥。
ほどなく残存の有翼狼も片付き、キメラの討伐は完了。
●智覇の本心
「あー、うん。単独で先行しちゃったことに関してはもう何も言うまい。性格なんて早々変わるものではないし‥‥むしろよく数時間待ったと褒めてあげちゃう。よしよし」
戦闘終了後、智覇の頭を撫でてやる千糸。智覇はくすぐったそうにしている。
「貴女が危険を顧みないのなら、私はそんな貴女を支え続けるわ。いつだって私は貴女の味方よ」
「ありがとう‥‥ございます、千糸さん」
微笑み合う二人。
「あんまり主治医さんを心配させると、神経性胃炎になっちゃうわよ? もうなってそうな気もするけど」
言ったのはファルル。頬を膨らませている。
「‥‥すみません。でもあの人は‥‥大丈夫です」
主治医と智覇は長い付き合いである。
「お疲れ様です。相変わらずのようで、安心しました。‥‥まぁ、無事で何より、ということです」
八雲は笑みを浮かべ、声をかけた。智覇はこくりと頷く。
「スタンドプレーの果てのチームワークってんなら分かるが、いくら味方の到着が遅いからって一人で行ってどうすンだよ‥‥?」
アレックスは智覇に、少しきつい言葉をぶつけた。
単独先行した理由は‥‥他の傭兵達より一日早く現地入りした智覇が見た光景。
キメラの襲撃に怯えながら暮らしている街の住民の様子。
それを見かね、一刻も早くキメラを討伐しなければ、という純粋な気持ちだった。
「‥‥」
しかし智覇はあえて何も言わず、青空を見つめる‥‥。
そのとき、温かなぬくもり。
横を向くと‥‥千糸が自分の手をぎゅっと握り、微笑んでいた。