●リプレイ本文
●AP
これはご主人様とメイドさん、または執事の物語。
一夜限りの、夢と散る運命(さだめ)の物語。
Dominus(ご主人様)4――
●子虎とノルン
「おかえりなさいませ♪ ご主人様♪」
セーラー服姿の神崎・子虎(
ga0513)が学校から帰宅すると、ショートボブの髪をした可愛いメイドさんの笑顔に出迎えられた。
「うん。ただいま、ノルン♪ んふふー、今日もすべすべお肌だ♪」
子虎はノエ‥‥ではなく、ノルンをぎゅうと抱き締め、頬擦りをする。
「はわわっ、ご主人様‥‥恥ずかしいですぅ‥‥」
顔を真っ赤にするノルン。身体をもじもじさせている‥‥けれども、嬉しそうな様子だ。
大好きなご主人様とのスキンシップ。嫌な筈が無い。
ちなみにこの二人は見た目完璧美少女だが、実は男の娘である。
軽い挨拶を済ませると、子虎は二階の自室へ向かい、ノルンに手伝ってもらって私服へと着替えた。
子虎の私服はピンク色のチュニックワンピースに白のレギンス。
実に女の子らしく可愛らしい。男の娘だけど。
「ありがと、ノルン♪」
「いえ。では僕はお夕食の支度をしますね」
「うん。今日のメニューは何かな?」
「秘密です☆ 楽しみにしていてくださいね」
ノルンはにぱっと笑うと、部屋を出てぱたぱたとスリッパの音を鳴らし、階段を降りていった。
「ん〜ふふ〜♪」
子虎はベッドに寝転がり、ティーンズファッション誌を眺めている。
「あ、このお洋服かわいいー。ノルンに似合いそうー」
などと言いながら、夕食が出来るのを待つ。
キッチン――
「美味しく美味しくな〜れ♪」
ノルンはご主人様である子虎の顔を思い浮かべながら、愛情を込めて調理中。
しばらくして――夕食が完成し、子虎の部屋までノルンが運んでくる。
「お待たせしましたー」
今夜のメニューはビーフシチューにフランスパン、そしてスモークサーモンのカルパッチョである。
「わあ、すごく美味しそう!」
思わず声を上げる子虎。ノルンはテーブルに皿を並べてゆく。
二人はいつもこうやって一緒に夕食をとっている。
「じゃあさっそくいただきまーす♪」
子虎はビーフシチューをスプーンですくってぱくりと一口食べる。
「これは‥‥すごく美味しい! お肉柔らかい!!」
「えへへ、ご主人様への愛情たっぷりですから♪」
嬉しそうに微笑むノルン。
「お礼に僕が食べさせてあげるね。はい、ノルンあーんして♪ あと、僕にもあーんして食べさせて欲しいな☆」
ノルンに食べさせてあげたり、ノルンに食べさせてもらったりする子虎。
はたから見れば仲の良い姉妹のようだ。
「ご主人様、お飲み物はいかがですか?」
「うん、もらう♪」
子虎のグラスにレモネードを注ごうとするノルンだったが‥‥誤ってグラスを倒し、零してしまった。
「はわわっ!? ご主人様ぁ‥‥飲み物こぼしちゃいましたぁ‥‥。怒りますぅ‥‥?」
涙目になり、ノルンはびくびくとする。
「怒らないよ。それより早く拭かないと」
「あ、すみませぇん!」
慌てて布巾で零れたレモネードを拭き取るノルン。
その後はデザートのマンゴープリンをまた食べさせ合ったりして、夕食の時は和やかに過ぎた。
満腹になって談話しながら少しお腹を落ち着けたら、今度は二人で一緒にお風呂に入る。
互いの身体を洗いっこする子虎とノルン。
「ひゃ! くすぐったいですよご主人様ぁ!」
「ダメダメ、我慢しないと♪」
身体を綺麗にしたら、湯船に浸かってまったり。
お風呂から上がり、寝巻きに着替えた二人――。
「そろそろ寝る時間かな?」
初めに子虎がベッドに入り、ノルンを誘う。
「ほら、ノルンも一緒に寝るのだ☆ おやすみのキス♪」
キスしながら服を肌蹴させ、抱き締め合う子虎とノルン‥‥。
「んっ、寝る前に一緒に楽しもう? 気持ちよく‥‥ね? んふ、夕食のとき飲み物こぼしたお仕置きに‥‥今夜は激しくしちゃうのだ♪」
「ふぁぁ、ご主人様ぁ‥‥!」
そうして二人は、二人だけの世界へと落ちていった‥‥。
●千糸とメリー
「‥‥」
朝、マンションの自室で目覚める私、皇 千糸(
ga0843)。
枕は新婚夫婦が使用するという伝説の‥‥というか存在自体が冗談みたいな『是・非』枕であった。
ちなみにあのメイド――1人暮らしを始めた私の隣に引っ越してきた、監視役とも言えるメリーは、例え『非』であろうとも問答無用だった。まったく‥‥意味が無い。
彼女いわく「無理矢理って燃えるじゃないですか♪」だそうな。
‥‥いつか犯罪者になるのではないかと心配でしょうがない。
まあ、私限定だろうけどね。こういうのは。ああ、節々が痛い。
そんなことを考えながら寝ぼけ眼で髪の毛を弄っていると‥‥キッチンからトントントンと包丁の音が聞こえてくる。
今日もメリーが朝食を作ってくれているらしい。
朝起きれば既に朝食が用意されているという幸せ‥‥実に良いものだ。
「‥‥って、いや、ちょっと待て!」
私は寝巻き姿のまま飛び出していく。
「あら、おはようございます、お嬢様」
銀色のセミロング髪を揺らし、メリーが振り返り、私に向かって微笑む。
‥‥なんという爽やかな笑顔。服装はいつもの正統派ヴィクトリアンメイド服。
そして――キッチンに立つメイドさんというのは何故こうも絵になるのだろう‥‥。
純白のエプロンは神々しさすらある‥‥。私は思わず見とれてしまった。
そのまま朝食が用意され、いつものように一緒に食事。
「‥‥」
味噌汁をすすりながら、私はあからさまに不服そうな表情を浮かべる‥‥。
「どうされました? お味噌汁は赤味噌の方が良かったですか?」
それに気付いたのか、メリーが尋ねてきた。
「いや、白味噌で大丈夫‥‥じゃなくて! あのね、私はね? 1人で自立した生活をする為に家を出たのよ? それなのに毎朝毎晩貴女がご飯作って、掃除洗濯しちゃうとさー‥‥ハッキリ言って全然自立できないのよね?」
私は思っていたことを全てメリーにぶつけた。
世話をしてくれるのは嬉しいのだが、このままでは屋敷にいたときと何も変わらないではないか!
「という訳で私の身の回りの世話禁止、ついでにメイド服も禁止!」
反論する隙を与えず、ばばーんと言い放つ。
「お、お嬢様は私に下着で生活しろというのですか!? ‥‥そんな、でも‥‥お嬢様がそう望まれるのでしたら‥‥」
ぽっと頬を赤らめるメリー。‥‥ダメだコイツ、早く何とかしないと!
というか、そうだった。このメイドはメイド服しか持っていないのだった‥‥。
「あー‥‥貴女のクローゼットはメイド服オンリーだったわね。じゃあ今日、服を買いに行くわよ!」
「デートですね!」
メリーは両手を組み、キラキラと目を輝かせた。
前向きだなオイ!?
「とりあえず、私の服を貸してあげるから、出かけるわよ」
「じゃあ、代わりに私の下着をお嬢様に貸します!」
「なんでそうなるのよ!?」
っていうかサイズが合わんわ! 嫌味か!
その昔、メリーの下着をこっそり着けてみて、ブラがかぱかぱだったことを思い出し‥‥軽く凹む。
なぜこうも差があるのだろう‥‥。自分の薄い胸と、メリーの豊満な胸を見比べ、また凹む。
「それでは参りましょうか♪」
にっこり笑顔のメリーの横顔を見ながら‥‥ちょっぴりげんなりする私。
結局サイズが合わなかったのでメリーはメイド服で外出することに。
きっと周囲の注目を集めることだろう‥‥。
そして私とメリーは手を繋いで買い物に出かけたのだった。
●ヴィネとゼファル
お嬢様のL45・ヴィネ(
ga7285)は若くして物理学会で活躍している才媛である。
そんな彼女は‥‥狡猾な男共とやり合ってきた所為か、大の男嫌いだった‥‥。
自宅の書斎にて、メイドのゼファルに資料探しなどを手伝わせながら論文を作成中のヴィネ――。
ああでもない、こうでもないとぶつぶつ独り言を呟いたり、紙をくしゃくしゃにして丸めて投げたり‥‥相当煮詰まっている様子である‥‥。
「あのぅ〜、少し休憩をされたほうがよろしいのでは〜」
見かねたゼファルが声を掛けてきた。
「そんな暇は無い、あの狸共を徹底的にやり込める為にも完璧な論文にしてやらねば‥‥」
突っぱねるヴィネであったが――
「心に余裕が無い様に見受けられますぅ〜。少し、お茶でもお飲みになって、リラックスしてくださいませぇ〜」
ゼファルが後ろから優しく抱き締めてきた。
‥‥柔らかな感触に、ヴィネは思わず気が抜けてしまう。
「む‥‥ぅ‥‥仕方ない、じゃあ珈琲を頼む。砂糖とミルクは特盛りでな」
「はい♪」
にっこり笑うゼファル。
ヴィネに献身的に仕えるメイドである彼女は‥‥ややタレ目で、優しげな印象。
豊満な肢体を持ち、特に胸は大ボリュームで、大玉のスイカほどもある。
メイド服は白と黒を基調としたシンプルなデザインだが、胸を強調するようにウェストをコルセットで締めている。
穏やかな性格で、母性的‥‥柔和で包容力に溢れる女性だ。
ヴィネにとって彼女は心の安らぎ場なのである。
「お待たせいたしました」
「うむ、ありがとう」
ゼファルが淹れてくれたコーヒーで一息つき、ヴィネは作業を再開。
それは朝方まで及んだが、ゼファルはずっと傍に居てくれた‥‥。
数日後――
論文が認められ、満足したヴィネは帰宅後真っ先にゼファルに抱き付く。
「この一月、ずっと我慢してきたんだ‥‥今夜は、存分に甘えさせてくれ‥‥♪」
「お疲れ様でしたぁ〜。それではぁ〜、ご褒美ですねぇ〜♪」
口付けを交わし、甘い蜜を交換した二人はそのままベッドへ倒れこむ。
二人は衣服をするすると脱ぎ‥‥小麦色のヴィネの肌と、色白のゼファルの肌が重なる。
ヴィネの聖域を這う、ゼファルのしなやかな指――。
ヴィネの上で揺れる、たわわな二つの水蜜桃――。
一晩中、互いの肉体を貪り合った‥‥。
●美空とイクナ
世界中に散らばり、人々の中に溶け込み、社会の一部として機能している美空(
gb1906)のクローンシスターズ――。
その中の一人、シリアルナンバー19743――イクナシウス――略してイクナがとある富豪の屋敷で、メイドとして働いているという話を耳にした美空は視察がてら遊びにやって来た。
「ここにも美空の妹がいるみたいでありますか、どんな人なのか会うのが楽しみなのであります」
丁重に応接室まで通された美空は‥‥そこで掃除中のイクナを発見。
外見は美空とそっくりそのままだ。ただしメイド服を着ているので識別は可能。
「イクナシウスでありますね。お仕事ご苦労であります」
美空はさっそくイクナに声を掛けてみる。
「!? お姉さま!!?」
美空の声を聞き、びくびくっと驚くイクナ。
その拍子にバケツを倒して水をぶちまけてしまった。
「大変申し訳ないのであります! すぐに片付けるのであります!」
わたわたと雑巾で処理をするイクナ。
クローン末端にしてみれば雲の上の人ともいうべきプロト1である美空は、イクナにしてみれば尊敬の対象なのだ‥‥。
美空に、普段の成果を見せるべく一生懸命仕事をするイクナだったが――
滑って転んで貴重な壷を割る、また転んで高級なカーテンを破く、暖炉を掃除しようとして真っ黒になる‥‥etc.
なにぶんポンコツなのでドジな面ばかり見せてしまった。
型番が後半に近づくにつれ、色々な面で劣化するらしい‥‥。
「うう‥‥すまないのであります‥‥」
べそをかきながら、せめてものご奉仕として、美空に紅茶を淹れるイクナ。
「‥‥」
美空は何も言わず、紅茶を啜った‥‥。
普段なら叱責の一つもありそうなものだが‥‥。
数日後、美空が帰る日のこと――
見送りをするイクナに対し、美空は一言だけ言った。
「励めよ、なのでありますよ」
そしてビシィっと敬礼。そのまますたすたと去ってゆく。
イクナにはその背中が‥‥とても大きく見えた‥‥。
「お姉さま‥‥イクナは頑張るのであります!」
イクナもビシィっと敬礼。
傍目には満足のいく仕事では無かったかもしれないが‥‥イクナの誠意は美空に伝わったようだった。
●クリスと秋桜
いつまで経っても独身の主に痺れを切らせた親戚筋の見合いを断り切れず、受ける事になったクリス・フレイシア(
gb2547)。
女中の秋桜には要らぬ心配をかけまいと、見合いの話を伏せたまま当日を向かえ、滞りなく見合いを終え、帰宅。
「旦那様、おかえりなさいませ」
いつものように穏やかな笑みを浮かべ、迎えてくれる秋桜。
「ああ、ただいま」
しかしクリスの表情は曇っていた‥‥見合いの話を秋桜に隠しているという罪悪感‥‥。
その上、見合いの席で会食を済ませ神経を使った事による心労もあった為に、秋桜の用意していた膳にまったく手を付けず、着替えを済ませて部屋で休んでしまった。
しばらくして――
秋桜が手付かずの膳に気付き、下げて洗い物をしていると‥‥クリスの召し物から見合いの書類と相手の写真を発見してしまった‥‥。
「‥‥!」
秋桜は‥‥自分が旦那様――クリスの幸せの枷になっていると勘違いしてしまう。
「‥‥」
泣き崩れる秋桜。ぽろぽろと零れ落ちる涙‥‥。
(「‥‥わたくしは‥‥わたくしは‥‥」)
自分の居場所は旦那様のお傍しかないと悟り、戻ってきた‥‥。
しかし、旦那様もそうであるとは限らない‥‥。
旦那様には旦那様の幸せがある‥‥。
そう考えた秋桜は、雨空の下、屋敷を飛び出してしまった――。
一方、クリス――
湯浴みの後、小腹が空いたので味噌汁をお椀によそり、啜ると‥‥いつもとは違う塩味。
ふと、床に落ちた書類と写真を見つける。そして‥‥秋桜が屋敷のどこにも居ない事に気付いた。
はっとしたクリスは、秋桜を探しに、街へ繰り出す‥‥。
数時間後――
とある公園の‥‥雨に打たれはらはらと花弁が落ちる桜の木の下、佇んでいる秋桜の姿を見つける。
「秋桜‥‥ここにいたのか。随分探したぞ」
雨に濡れる秋桜を傘に入れてやるクリス。
「旦那様‥‥」
秋桜はクリスの声に、振り向く。顔は俯いたままだ。
「見合いの件、隠していたのは悪かった。君に要らぬ心配をかけたくなかったのだ」
「旦那様、わたくしは‥‥旦那様の足枷にはなりたくないのです」
「なにを言う‥‥」
秋桜の言葉に、クリスは驚く。
「わたくしは、旦那様が幸せであればそれでよいのです」
「それは本心か‥‥?」
「はい‥‥」
笑顔を見せる秋桜。しかしそれは、とても悲痛な笑みだった。
「‥‥見合いはお断りを申し上げてきた」
クリスはきっぱりと言う。
「なっ‥‥! 何故です!」
「以前、君は私にこう言ったな。『わたくしの居場所は、旦那様のお傍しか無い』と」
「‥‥」
秋桜は黙り込む。
「あの言葉‥‥嬉しかったぞ」
「えっ‥‥」
「私は、君を足枷などとは微塵も思ってはいない。はっきりと言おう、私の居場所も君の傍しかない、と」
目を閉じ、深呼吸をした後、再び口を開いた。
「私には君が必要だ、秋桜」
真っ直ぐに秋桜の瞳を見据える。
「旦那様‥‥っ! 旦那様ぁ‥‥っ!!」
秋桜が胸に飛び込んでくる。
クリスは傘を放り出し、それを両手で抱き止めた。
春雨に打たれながら、二人は互いの温もりを感じ、本当の幸せというものを噛み締めるのだった‥‥。
●嶺と衛
救急車のサイレンの音が響く。
「‥‥」
それを聞き流しながら、茶室で茶を点てているのはお嬢様の九条・嶺(
gb4288)。
回想すれば――先日の一件――兄弟姉妹での後継者争いで手駒やその他諸々を失ったので、まずは手近な所から略奪しようとして‥‥やりすぎちゃいました☆
後始末の為の爆破が、火薬とガスの量を間違えた為に素敵にビューティフルな破壊力になって、世紀末的なデスメタル式改装とでも言わんばかりの惨状を演出してしまい‥‥現実逃避の為にお茶を嗜んでいた次第である。
「お嬢様ぁ〜。ただいま戻りましたぁ」
そこへメイドの衛が『お使い』を終えて帰還。
「おかえりなさい」
そして嶺も現実へ戻ってくる。
「戦果は?」
嶺が尋ねると、衛は親指を立てた。
「バッチリですぅ!」
ポケットから金塊をいくつもぼろぼろと出してみせる。
‥‥どうやら上々のようである。
『お使い』というのは兄弟姉妹の屋敷を襲撃し、再建のための資金を強奪してくることであった。
衛はメインウェポンである二挺のサブマシンガンをスカートの中から取り出し、畳の上に置く。
「よく出来ました」
衛の頭を撫でてやる。
「えへへ〜」
嬉しそうに笑う衛。
‥‥修羅場を潜り抜けたことで、この二人は色々な意味で強くなったようだ。
「さて、お茶にするわ。あなたもお座りなさい」
抹茶を点て始める嶺。
数分後――
「どうぞ」
抹茶茶碗を衛の前に出すと、彼女はプルプルし始める。
「お、お譲様‥‥」
「どうしたの?」
「あ、足が‥‥」
「足がどうしたの?」
「げ、限界ですぅ!!」
「きゃあ!?」
短時間の正座で脚がピンチになった衛が抹茶茶碗を蹴飛ばしてしまい、茶釜に命中。
お湯が飛び散りエライことに!
「まぁ〜もぉ〜るぅ〜‥‥」
「す、すみませぇん!!」
頭を抱え、びくびくとする衛。
「はあ‥‥まあいいですわ」
にこやかな笑顔のまま、嶺は衛に後始末を命じる。
そして久しぶりに、お仕置きを実行することに決定。
「終わりました‥‥お嬢様」
「衛、お尻をこちらに向けなさい」
静かな口調で、にっこり笑って嶺が言う。
「へ? なんで、ですか?」
「決まっているでしょう。粗相をしたお仕置きです」
「ええっ!? 許してくださったんじゃないんですか?」
衛は涙目。でも許しません。
「言う通りにしないと、もっと酷いですわよ」
「ひ、ひぃぃ! わかりましたぁ‥‥」
嶺のほうへお尻を向ける衛。
それを確認すると嶺は‥‥スカートを捲り、スパッツに包まれたお尻を露にし、平手でぺちーん! と打った。
「ひゃあああ!!?」
思わず衛は声を上げる。
「うふふ、お仕置と言ったらお尻たたきですわよね」
もう一度、ぺちーん! と叩く嶺。
「あああっ!! ‥‥痛い、痛いですぅ」
「ダメよ、まだこれからなんだから‥‥」
恍惚とした表情の嶺。
衛のぷりりんとしたお尻を叩きながら‥‥またあの平穏な日々を取り戻すことを決意する嶺であった‥‥。
●八九十と霞
ある日、いつものように依頼を終え、兵舎に帰って来た五十嵐 八九十(
gb7911)。
自室の扉を開けると――
「お帰りなさいませ、ご主人様」
にこやかに微笑む、金髪セミロングの美人なメイドさんがそこにいた。
「‥‥」
一瞬、目が合う。
「スイマセン、部屋間違えました」
とりあえず八九十はガチャリと扉を閉めた。
あれ? 部屋間違ってないよな?
部屋番号を確認してみるが、ちゃんと自分の部屋だ。
‥‥今の人、っていうかメイドさん、誰!!?
軽いパニック状態に陥る八九十。
そこへ――キィ〜と扉が開き、メイドさんが顔を出した。
「うわあああっ!?」
八九十は思わず声を上げてしまう。
「あの〜ちゃんとご説明を致しますので、中へ入っていただけませんか。と、いいますか、ここはご主人様のお部屋なのですし」
‥‥まあ、それはそうだ。一応話を聞いてみることにする。
数分後――
「それで、あなたは親父に頼まれてここに来た、と。そういうことですね?」
「はい♪」
八九十と向かい合って座るメイドさんはにこりと微笑んだ。
どうやらこのメイドさんは八九十の父親が「馬鹿息子がちゃんと生活できてるかちょっと面倒見てきて欲しい」といって、送り込んできたらしい。
「はあ‥‥親父め‥‥何考えてるんだか‥‥」
頭を抱える八九十。
「そういえば‥‥名前を聞いていませんでしたね」
「申し遅れました、私の名前は霞といいます。どうぞよろしくお願い致します、ご主人様」
再びにっこりと笑うメイドさん――霞。
「霞さん‥‥ですね。それからその‥‥ご主人様って呼ぶのは止めてもらえません? なんだかむず痒くて‥‥」
照れくさそうに頬をぽりぽりとかく八九十。
「それでは‥‥ヤクト様でよろしいですか」
「ええ‥‥。そのほうがいいですね‥‥」
『様』を付けられるのは、まだ少し恥ずかしいが‥‥。
「はあ‥‥親父にも困ったものだ‥‥。さて、俺はちょっと一杯やってくるんで、好きに寛いでいてください」
仕事帰りの一杯をやりにいこうとする八九十だったが――
「お酒の飲みすぎは身体に毒ですよ?」
と、霞にたしなめられる。
「お夕食をご用意いたしますので、少々お待ち下さい」
またもにっこり笑顔。
‥‥霞さん、綺麗だなあ‥‥。
(「いかん、何を考えているんだ俺。相手は親父の差し金。気を許しては――」)
「和食でよろしいですか? ヤクト様」
「はい、全然大丈夫。オールオッケーです」
即答である‥‥。
しばらくして、夕食が完成。メニューはハマグリのお吸い物や焼き魚など、健康を考えたものであった。
「どうですか? ヤクト様のお口に合うと良いのですが‥‥」
八九十が黙々と食べていると、霞が心配そうに聞いてきた。
「ええ、美味しいですよ。すごく」
(見た感じ)同年代の女性‥‥しかもメイドさんの手料理である‥‥。
美味しいに決まっているではないか‥‥! あまりの美味しさに涙が出てくる。
「そうですか、良かったぁ」
また笑顔。思わず見とれる八九十。
やっぱり美人だなあ‥‥親父に感謝すべきか‥‥。
とか思ってしまう。
「そういえば、霞さんはどちらから?」
ふと、尋ねてみる。今のところこの女性について、自分は名前しか知らない。
「私のこと‥‥ですか? うふふ、秘密です。それよりも、ヤクト様のことを聞きたいです。今日もお仕事だったんですよね」
‥‥うまくはぐらかされてしまった‥‥。
「ふう、ご馳走様でした」
「おそまつさまでした」
食器を下げ、洗う霞。
その後ろ姿はすごく家庭的で‥‥
八九十は「こんなお嫁さんがいたらなあ」とか考えてしまった。
その後、二人はワインで晩酌。
主に八九十の受けた依頼の話で盛り上がった。
そのうち、八九十は眠りこけ――
ふにふに。柔らかい感触。なんだろうこれ。肉まん?
わーい、美味しそうな肉まんが二つ。ふにふに。
とか夢を見ていて、はっと目覚めると‥‥
「んっ‥‥」
悶える、霞。艶っぽい声。
「えっ‥‥?」
八九十は霞に膝枕されていた。
しかも寝ぼけて霞の胸を鷲掴みにしていたのだ!
「うわわわわわっ!?」
慌てて起き上がる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! どうか訴えるのだけは勘弁してください!!」
平謝り。しかし――
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
霞は頬を染め、息を荒げている‥‥。
「こんなところで寝たら‥‥風邪を引いてしまいます‥‥。続きはベッドで‥‥いかがですか? 夜のお世話をするのも、メイドの勤めですし‥‥。ねぇ、ヤクト様ぁ‥‥」
色っぽい、声。自分を見つめる、潤んだ瞳。
どうする! 八九十?!
●白亜とアレク
お嬢様の上月 白亜(
gb8300)は執事のアレクと共に、館で穏やかに暮らしていた。
病弱な彼女だったが、アレクと想いが通じ合ってからは徐々に体調が回復。
体力もつき始め、今では外出も可能となった(日傘が必須ではあるが)。
やはり‥‥想いや絆は生きる力となるのだ。
とある麗らかな春の日。
白亜はアレクに「お花見に行きましょう」と提案。
アレクは少し心配そうな様子だったが、このところの体調を見るに『無理をしなければ大丈夫』と判断し、OKを出した。
桜吹雪の中を、日傘を差して歩く白亜。その斜め後ろを歩くアレク。
「わあ、すごい‥‥綺麗」
「ええ、そうですね」
幻想的とも言える光景に、はしゃぐ白亜。
アレクも微笑を浮かべている。
「まさか自分の目で見られる日が来るなんて思いもしなかったわ。‥‥あなたのおかげよ、アレク」
「いいえ、お嬢様が頑張ったからですよ」
二人は手を繋ぎ、桜並木の下を歩いてゆく‥‥。
しばらく歩くと、人が増え始めた。出店などもある。
「人、多いわね。はぐれないようにしないと‥‥」
「大丈夫です。私はお嬢様のお傍におりますから」
「うふふ、心強いわ」
「この辺りで、少し休憩しましょう」
アレクは適当なところを見繕って、シートを敷いた。
「よいしょっと」
ゆっくりと腰を下ろす白亜。‥‥アレクは立ったままだ。
「ねえ、アレクも座って。隣に‥‥」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
アレクも、白亜の隣に腰を下ろす。
「‥‥」
「‥‥」
しばし、無言。暖かな風が二人の頬を撫でていく‥‥。
「ねぇ、アレク‥‥」
白亜が口を開く。
「その‥‥いつまでもお嬢様じゃなくて、名前で読んでくれない?」
「お嬢様のお名前を、ですか?」
若干動揺した様子のアレク。
「うん。私達‥‥恋人、よね? だから、そのほうが自然よ‥‥きっと」
白亜は口に出してからぽっと、頬を染める。
「わ、わかりました。それでは‥‥白亜様とお呼びします」
「うふふ。なんだか新鮮な感じ」
にっこりと笑う白亜。
「は、白亜様、何か食べたいものはございますか? 私が買ってきます」
「‥‥そうね、たこ焼きっていうのを食べてみたいかな」
「わかりました。そのまま、そこでお待ち下さい」
アレクは立ち上がり、出店へと向かう。
恥ずかしくて逃げたのかな、と白亜は思った。
そんな可愛いところも好きだったりするけれど。
少しして、アレクが戻ってくると――
「お待たせしました。おじょ‥‥白亜様。白亜様!?」
「ふえ? アレク‥‥?」
見てみると、白亜の顔が赤くなっていた。目もとろんとしている。
「い、一体なにが‥‥」
「さっき、お姉さんに‥‥お酒を少しもらったの‥‥。ふわふわして、いい気持ち‥‥」
お酒を飲んでも大丈夫なのだろうか? アレクは少し焦る。
「ねえ、アレク‥‥お顔‥‥こっちに寄せて‥‥」
「はい? こう‥‥ですか?」
アレクは屈んで、白亜に顔を近づける。
すると――白亜はアレクの頬を掴み、引き寄せ‥‥口付けた。
ちゅっ。
「!!?」
アレクは一瞬、何が起こったのかわからなかった。
「はははは白亜様!? ななななな何を?!」
「うふふ、アレクにキス、しちゃった‥‥♪ 皆の前で‥‥キス♪」
にこにこと嬉しそうに微笑む白亜。
「よ、酔っていらっしゃるんですね、白亜様」
動揺を隠し切れないアレク。公衆の面前でキス――恥ずかしい‥‥。
「アレクはどうなの‥‥私にキスされて‥‥嬉しい?」
アレクの瞳をじぃっと見つめる白亜。
「‥‥う、嬉しい、です」
「うふふ。良かった‥‥」
白亜もアレクも、顔が真っ赤になっている。
「‥‥白亜様、お顔が真っ赤です」
「アレクだって真っ赤じゃない。私はそう、お酒のせいよ」
ホントは違う。大胆になったのも‥‥彼のことが好きだから。
二人はしばらくもじもじしつつも、桜を眺め‥‥日が高いうちに帰路に着いた。
四月とは言え、日が暮れるとさすがに冷える。
「ねぇ、また来年も来ましょうね」
アレクと手を繋いだ白亜が言った。
「はい。約束です」
微笑むアレク。
(「楽しみを一つ一つ積み重ねて、生きる希望を忘れないように、ね」)
二人の絆は深まり、白亜の生きる力もまた、更に強くなったようだ‥‥。
●夢覚めて
現実へ戻っていくご主人様達。一夜限りの夢は如何だっただろうか。
また、このような機会があるかもしれない。それまで‥‥しばしの別れである。