●オープニング本文

　ここはラストホープの商店街。その一角にある、一軒のメイド喫茶。
　名前を『フェルマータ』という。小さいながらも常連に支えられ、細々と営業している。

　ある日のお昼時――
「お待たせいたしました♪」
　銀色のトレイに乗せて注文の品を運んでくるメイドの琴音。
　客が注文していたのはオムライス。メイド喫茶の定番だ。
　琴音は慣れた手つきでテーブルに並べていく。
　そして、ケチャップを取り出し、オムライスの表面に『世界がヤバい！』と書いた。
　オムライスにケチャップで絵や文字を書くのはメイド喫茶の名物である。
　しかし‥‥この文字の意味は‥‥世界は絶えずバグアの脅威に晒されてはいるが‥‥。
　オムライスを注文した客は即座にスプーンで表面の薄焼き卵をバラバラにし、混ぜて口にかき込む。
「ああっ！　せっかく琴音たんが書いてくれたのに！」
　オムライスをもくもくと食べている客の対面に座るもう一人の客が声を上げた。
「うるさい。胃に入れてしまえば同じだろう」
　煩わしそうに、オムライスを口に運ぶ‥‥無精ひげを生やし、白衣を羽織った客。
「もっと有り難味を持つべき」
　赤いゼリーを食べながら、もう一人の‥‥同じく白衣を着た巨漢の客は抗議を続ける。
　彼は琴音の大ファンなのだ。
「‥‥そういえば琴音、今年はホワイトデーイベントはやらないのか？」
　無精ひげの客が琴音に尋ねた。
「そうだね。今年はそういうの無かったお。残念すぎる！」
　巨漢の客も続ける。‥‥ちなみにこの二人の客はフェルマータの常連だ。
「ふむ‥‥確かに今年はやらなかったねぇ。あとで店長に聞いてみるよ」
　琴音はあごに手を当てて少し考えた後、そのように答えた。

　閉店後――
「‥‥というわけで、なんでやらなかったんですか？」
　約束どおり、琴音は店長に聞いてみる。
「あらぁん、ごめんなさぁい。すっかり忘れてたわぁ〜ん」
「忘れていただけだったのね‥‥」
　頭にげんこつを乗せて舌を出す店長に、メイドのエリスは呆れた表情を浮かべる。
　ちなみに現在、店長の他、フェルマータのメイドさん５人全員が集まって会議中である。
「去年は執事服を着たんだよねー。楽しかったなー♪」
　レタス色のショートヘアーを揺らし、メイドの萌黄がぴょこんと飛び跳ねた。
「もうホワイトデーは過ぎちゃってますけど‥‥せっかくですから、何かしませんか」
　フェルマータの人気Ｎｏ．１、筆頭メイドのミカが提案。
「私も、頑張ってお料理しますよ〜」
　エリスの双子の妹、メイドのリリスはにこにこ笑っている。
「‥‥そうね。皆がそう言ってくれるなら、やりましょう！」
　店長に合わせて「おー！」と気合を入れるメイドさん達であった。

●参加者一覧

/ 相沢　仁奈（ga0099） / 葵　コハル（ga3897） / アルヴァイム（ga5051） / 秋月　祐介（ga6378） / 夜十字・信人（ga8235） / 百地・悠季（ga8270） / 最上　憐　（gb0002） / 桐生院・桜花（gb0837） / イスル・イェーガー（gb0925） / 紅月・焔（gb1386） / アーク・ウイング（gb4432） / 来栖・繭華（gc0021） / ソウマ（gc0505）

●リプレイ本文

●フェルマータへようこそ！
「お帰りなさいませ。お嬢様、ご主人様♪」
　来店した途端、葵　コハル（ga3897）とイスル・イェーガー（gb0925）はメイドさん達に一斉に出迎えられた。
「うぅ〜‥‥なんだかすごいところだ‥‥雰囲気的に」
　思わずびくびくしてしまうイスル。
「さぁて、今日は市場調査に励むとしましょーかね」
　コハルの方はまったく動じていない様子である。
　むしろ興味津々と言った感じで、周りを見回している。
「こー見えてもいちおーアイドルなんでね。今後の活動の為にも今時の萌え市場の研究を怠る訳にはいかないのデスヨ？　しかもこの多国籍のラスホプで営業してられるメイド喫茶と来ればスッゴい秘訣があるに違いないんじゃないカナ？　カナ！？」
　研究熱心なコハルなのだった。しかし――
「いやぁ‥‥てっきりイベントで忙しくなるから臨時の店員を募集してるのかと勘違いしちゃってたよ。あぶないあぶない‥‥」
　ぼそぼそと小声で呟く。
　今回はホワイトデーイベントへのご招待であり、店員募集などではまったく無かった。
「ええと、実は僕も‥‥」
　小声で言い、小さく手を挙げるイスル。彼もちょっぴり勘違いしていたようである。
　依頼内容にはそんなこと一言も書いていなかったのに！
「ふむふむ。それでは店員の体験をしてみますか？」
　背後から声。二人はばっと振り返る。
　そこに立っていたのはフェルマータの筆頭メイド、ミカであった。
　まさか今の話を聞かれていた‥‥！？
　二人の頬に、つーっと汗が伝う――。
「メイドや執事となって働いてみませんか、とお聞きしているのです。体験なので、お給料は出ませんけれど。それでも良いのでしたら」
　そう言って、ミカはにっこり微笑む。
　二人は顔を見合わせた後‥‥「やります！」と声をあげた。
「そういうわけです店長〜！　いいですよね〜？」
　ミカが店長に報告。
「あらぁん、可愛い子達だこと。たっぷりこき使ってあげるから覚悟してねぇん♪」
　速攻で了承されたらしい。
　野太いオカマちゃんボイスに、コハルとイスルは少し不安を覚える‥‥。
「それじゃあ着替えましょうか。奥へどうぞ♪」
　二人はミカに連行‥‥もとい、背中を押されて更衣室へ案内されるのだった。


「今日はいっぱい楽しも、な♪」
「ええ、もちろん」
　腕を組みながらやって来たのは相沢　仁奈（ga0099）と桐生院・桜花（gb0837）。
　さっそく着替えた二人は――執事とお嬢様に扮していた。
「お嬢様、どうぞ」
　燕尾服を纏った桜花が椅子を引いて仁奈をエスコート。
　長身で引き締まった体型の桜花には、燕尾服がとても良く似合っている。
「ありがと、桜花さん♪」
　仁奈は嬉しそうに席に着いた。
　彼女の服装はフリルたっぷりの、純白のワンピース。
　胸元は開いており、仁奈の健康的な小麦色の肌や豊満な膨らみも合わせ、可愛らしいながらもほのかに色気を漂わせていた。
　桜花が執事に扮しているため、仁奈も合わせてお嬢様の格好をしているようである。
　‥‥紅茶を淹れてあげたり、ケーキを運んであげたりして、桜花が仁奈にご奉仕する形で楽しむ。
「お嬢様、紅茶のおかわりはいかがですか？」
　桜花が恭しく仁奈に尋ねる。
「うーん‥‥ほんなら貰おうかな♪」
　桜花はティーカップに紅茶を注いでゆく‥‥。
「なぁなぁ、やっぱり折角のデートやのにくっつけへんのは寂しいから‥‥ウチの隣に座って欲しいな。ダメかな？」
　仁奈は上目遣いに見つめてくる。思わずきゅんとしてしまう桜花。
「隣に座る事が許されるのならば僭越ながら‥‥いやいやいやいや！　本当に身も心も仕える者になってどうするのよ、私」
「あはは、桜花さんノリノリやねぇ」
　すっかり執事になりきっていた桜花の様子に、仁奈はころころと笑う。
　桜花はぶんぶんと首を振った後、仁奈の隣に腰を下ろした。
「ウチ、桜花さんのそういうところも好きやなぁ」
　ぴったりとくっ付き、肩を預けてくる仁奈。
（「うーん、甘えてくれるのは嬉しいけど、少し恥ずかしいわね」）
　頬を赤く染めつつ、桜花は仁奈の肩を抱く。
「あかん、頭がぽーっとしてきた。桜花さん、ええ匂いやし‥‥。ずっとこうしていたいわぁ‥‥」
　仁奈は猫のように身体をすり寄せてくる。
「うふふ。私で良ければ、喜んで‥‥ね、お嬢様♪」

●手に届く未来
　アルヴァイム（ga5051）と百地・悠季（ga8270）。
　夫婦である二人はラストホープの商店街を並んで歩いていた。
　極寒の地、グリーンランドでの戦いはひとまず終結‥‥。
　気候も暖かくなってきたので、散歩も兼ねた買い物に出かけた次第である。
　お互い多忙の身だが、せっかく休暇が重なったので、二人きりでのんびりしようというわけだ。
（「ま、妻の言う、『手に届く未来』を迎える準備、だがね」）
　隣を歩く悠季の横顔にちらりと目をやり、アルヴァイムは口元を緩めた。

　買い物は育児と胎教関係の本を複数。
　アルヴァイムは妻の目を盗み、妊婦用のメニューのレシピ本もこっそりと購入。
（「‥‥後で練習しておくか。自炊なんぞ久し振りだしな」）
　服飾類は妻のセンスを尊重し、彼は口を出さないでおいた。
「服装のチョイス、というのは些か不得手だからな、任せるよ」
「そう？　ところで今日のコーディネートはどうかしら？」
　悠季の服装はブラウスにスプリングコート、下は黒のタイトスカートだ。
　彼の前で、くるりと回ってみせる。
「似合っている、すごく」
「ありがとう」
　微笑み合う二人。
　その後、アルヴァイムはまたも妻の目を盗み、こっそりとベビーベッドを購入。
　後日自宅へ届くよう依頼しておいた。

　そして二人は買い物帰りに食事を、とメイド喫茶フェルマータに立ち寄る。
「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様♪」
　レタス色の髪をした小さなメイドさんに席まで案内される。向かい合って座る二人。
　オムライスと紅茶、デザートにレアチーズケーキを注文。
　‥‥先に出された紅茶を口にしながら、二人は言葉を交わす。
「本当に事実は小説より奇なり、だな。私が能力者になった時、こういう状況になるとは予想もして無かったよ」
　穏やかな口調でアルヴァイムは言った。
「無論。うれしい誤算、という奴だがね？」
　首を傾げてみせる彼。
「うふふ」
　何はともあれ、こうやって目の前に愛しい旦那が居て、会話できるのは良い気分である。
　いつまでもこうやっていられたらどれだけ幸せなことだろう‥‥。
　‥‥いや、もう少し先には『手に届く未来』。――新しい家族が加わっていれば尚嬉しい。
　悠季はそのように考え、最愛の夫を見つめ、微笑んだ。

●メイドの涙＋ＫＶウォーズ
「フェルマータか、懐かしいな」
　メイドさんに癒されにやってきた男が一人。
　その名は夜十字・信人（ga8235）。あだ名はゲシュペンスト。
　数多の戦場を駆け抜ける古参の傭兵である――。
　そんな彼は去年、乙女だけで編成された某部隊の研修旅行でこのメイド喫茶を訪れたことを思い出し、感慨にふけっていた。
　ホワイトデーイベント中ということで店内はそれなりに混雑しており「合い席でもよろしいですか」と尋ねられたが信人は特に気にせずＯＫ。
　メイドのミカに席まで案内される。するとそこには――
「で、何故貴様がいるのだガスマスク」
「やあよっちー、奇遇だね」
　ガスマスクを被ったあからさまに怪しい男が手を挙げて挨拶してきた。
　彼の名は紅月・焔（gb1386）。信人の戦友（とも）にして宿敵（ライバル）である。
　‥‥げんなりした表情の信人。焔は気にせずマスクの下からストローでちゅーちゅーとメロンソーダを飲んでいる。
　このまま突っ立っているのもアレなのでとりあえず席に着く。
　思い返すのは去年のクリスマス。乙女達と過ごしたのだが‥‥結局最後は焔と二人きり。
　悪夢だった！　悪夢だったよアレは！　信人の魂がそう叫ぶ。
「ご注文はいかがなさいますか？」
　信人が頭を抱えていると、メイドのミカが訊いてきた。
「オムライス。あとコーヒー。ブラックで」
「オムライスとコーヒーですね。かしこまりました。少々お待ち下さい」
　注文を復唱するとミカは奥へ下がっていく。
「‥‥」
　華やかな雰囲気のメイド喫茶なのだが――何故かこのテーブルだけむさ苦しい。
　しばらくして、注文の品をメイドさんが運んできた。
「お待たせいたしました」
　銀のトレイを持って歩いてきたのは金髪ツインテールのメイドさん、エリス。
「‥‥！？」
　それを見た信人はずざざーっと後退。大量の冷や汗をだらだらと垂らす。
「ど、どうされました？　ご主人様？」
　エリスが不思議そうな顔をして近づくと、信人はまた一歩後退。
「す、すまない。フライパンや斧で殴らないでくれ」
　意味不明なことを口走り、尚もだらだらと汗をかく信人。
　‥‥どうやら信人は金髪ツインテールの女の子にトラウマがあるらしい。
「すごい汗‥‥大丈夫ですか？　ご主人様」
　エリスはハンカチを取り出し、拭ってあげようとするが――
「近寄らないでくれ！」
　信人は思わず声をあげてしまう。
「‥‥ご主人様、私のことが嫌いなんですね‥‥。粗相をしたのなら謝ります‥‥申し訳ありません‥‥ぐすっ」
　今にも泣きそうな表情のエリス。
「なんかわからんけど、女の子を泣かしたらいけないよ、よっちー」
　焔のじとーっとした視線。
　気付けば、周りからも殺気のこもった視線が自分に向けられているではないか！
「エリスたんを泣かすとかありえないだろ常考」
「エリスたんを傷つける奴は許さない、絶対にだ！」
　とかも聞こえる。このままではまずい。非常にまずい。
「あー‥‥すまない。君は全然悪くないよ、うん。悪いのは俺だ。それに嫌ってもいない」
　無理矢理笑顔を作る信人。普段から仏頂面なので非常にぎこちない。
「本当‥‥ですか？」
「ああ」
　信人は何度も首を縦に振る。
「良かった‥‥」
　エリスは目をぐしぐしとこすり、微笑む。
　ややつり目の瞳‥‥強気そうに見える彼女だが、やはりご主人様に嫌われたら悲しい。
　れっきとした女の子であり、メイドさんなのだ。
「あ、すみません。ご注文の品‥‥オムライスです」
　エリスは気を取り直して、テーブルに並べてゆく。信人も席に座り直す。
　そしてケチャップで黄色い卵に『世界がヤバい（はぁと）』と書いた。
　丸っこい、女の子らしい可愛い文字‥‥。
　信人はスプーンを手に取り、『世界がヤバい』の『バ』の濁点をこそっと弄り、『世界がヤパい』に改造。
「そうか。メイドさんから見て、世界はヤパいのか。ヤパいんじゃ仕方ないな」
　よくわからない。
「なんです、それ」
　くすくすと笑うエリス。
　今度は信人に‥‥嫉妬の視線が向けられた――。

「目の前でメイドさんとキャッキャウフフしやがって！　よっちーめ！」
　一方で某脳メーターが鰻登りの焔。そこへ――
「お待たせしました〜。ふ〜ふ〜クリームシチューです〜」
　銀色の髪を揺らし、メイドのリリスが焔の注文の品を運んできた。
「あれ〜？　お姉ちゃんどうかしたの〜？」
　リリスは少し腫れぼったくなった、姉であるエリスの目元を見て首をかしげる。
「な、なんでもないわよっ」
「ふ〜ん？　それならいいけど〜」
　焔はメイドさん姉妹の会話に癒されつつ、スプーンを手に取ろうとするが――
「あ、ご主人様待って下さい〜」
　リリスに止められた。
「これはですね〜こうするんですよ〜」
　リリスはスプーンを持って、熱々のシチューをすくい、ふ〜ふ〜した。
「はい、ご主人様。あ〜ん♪」
　焔の目の前にスプーンが差し出される。
（「なん‥‥だと‥‥！？」）
　ショックを受ける焔。だがここはいくしかあるまい！
　ガスマスクをずらし、口元を晒す。
　口にスプーンの先を突っ込まれた。
「えへへ、どうですか〜？　美味しいですか〜？」
「うん、おいひいよ。すごくおいひいよ」
「やった〜♪」
　嬉しそうなリリス。
　まさかメイドさんに食べさせてもらえるなんて！
「ここは天国だネ！　よっちー！」
　至福の表情を浮かべる焔。
「そうか、それはよかったな」
　信人はもくもくとオムライスを食べている。

「ハァハァ、今度はお兄さんがクリームシチューを食べさせてあげよう。それとも――」
　しゅこーしゅこーと突然興奮する客（焔）。
　‥‥どうやら危険な狼に餌を与えてしまったらしい‥‥。
　それを聞き、隣のテーブルで哲学書を読んでいた秋月　祐介（ga6378）が動く。
　パタンと本を閉じ、すたすたと歩いてゆき、息を荒げる焔にアームロックをかける。
「メイド喫茶にいる時はね‥‥誰にも邪魔されず自由で‥‥なんというか救われてなきゃあダメなんだ‥‥。独り静かで豊かで‥‥」
　言いながら腕にギリギリと力を込める。
「ぐえええ」
「それ以上いけない」
　信人が止めようとするが‥‥焔は苦しそうでありながら、何故か嬉しそうでもあった。
「前言撤回。もっとやれ」
　嫌な音が響き、焔は気絶した。
「はあ、まったく‥‥」
　手を離し、溜息をつく祐介。
「誰かと思えば秋月先生じゃないか。何故ここに」
　信人が食後のコーヒーを飲みながら尋ねた。
「ああ、ちょっと市場調査にね」
　祐介は中指でメガネをくいっと持ち上げ、周りを見回した。
　フェルマータのメイド服は白と黒を基調としたシンプルなヴィクトリアンメイドである。
　やっぱりメイドは古典的スタイルが良い、黒系のシンプルでロングスカートなのが‥‥。
　祐介のメガネがキラリと光る。
「お一人で？」
「‥‥それを言うな」
　信人の一言が祐介の胸にぐさりと刺さった。
　店内はカップルが多い。それなのに‥‥彼女がいるのに自分は‥‥。
「あ、秋月さん発見。もしかして巨乳で美人のカノジョさんにメイド服でも着て貰うおつもりですかにゃ？」
　ちょうどそこへメイド体験中のコハルが通りかかり、冷やかしていく。
「ちょ！　なにを！」
　焦る祐介。周りのシングル組からの嫉妬視線が向けられる。
　凹んでいる祐介だが、実はリア充なのであった。爆発しろ！


「メイド喫茶フェルマータ‥‥前回はゲームであっさりとやられたけど、いくつもの戦いを潜り抜けてきたアーちゃんは、１年前よりも遥かにレベルアップしたからね。今度はアーちゃんが絶対に勝つもんね」
　入店するなり、メイドの琴音に挑戦状を叩きつけたのはアーク・ウイング（gb4432）。
　彼女はリベンジに燃えていた。雪辱を果たすべく、息巻いている。
「いいよ」
　琴音は二つ返事でＯＫする。
　アークの機体はリヴァイアサン、琴音の機体はアンジェリカ改。
　さっそく対戦開始！
「ＳＥＳエンハンサー起動！」
　フォトンランチャーを避けながら琴音が叫ぶ。
　帯電粒子加速砲の極太の光条がいくつも飛び、アークのリヴァイアサンを貫き、あっけなく撃破。
「‥‥」
　両目を点にしてポカーンとするアーク。
「あはは、ごめんね。手加減は出来ないんだ。あたし」
　舌を出してウィンクする琴音。
　‥‥アークはその後、ふて腐れながらストローでジュースを啜る。
「メイドさんかー。そういえば、父さんとお爺ちゃんがこりずに『第２次萌えメイドさん計画』を実行に移したって母さんからの手紙に書いてあったっけ」
　ふと思い出し、呟く。
「何故か手紙が血まみれだったけど‥‥父さんとお爺ちゃん、まだ生きているかな」
　返り血で染まった手で手紙をしたためる母親の姿は容易に想像できる。
「‥‥まあ、いいか。先祖代々の決まりだとかでＫＶの兵装みたいな名前をつけた人達だし」
　それはあれだろうか、ソードウィング的な？
　そしてアークはまた琴音との対戦を思い出し「悔しいなあ‥‥」と呟いた。

「君もやってみない？」
「えっ？」
　琴音がイスルに声をかける。
「『激闘！　ＫＶウォーズ』だよ。面白いよー」
「うっ‥‥」
　ＫＶのゲーム‥‥。やってみたい‥‥。
　イスルはそんな誘惑に負け、同意。
　後に何が待っているとも知らず‥‥。
「いっけー！」
　イスルのスピリットゴーストが４連砲で砲撃。
　しかし琴音のアンジェリカ改はそれを掻い潜り、ＢＣアクスで一気に薙ぎ払う。
　――イスル、敗北。
「じゃあこれ、着てみよっか」
　琴音が差し出したのはメイド服。
「な、なんでですかっ？！」
「罰ゲームに決まってるじゃん。ここからは執事服じゃなくてこっちで働いてね☆」
　ずりずりと更衣室まで引きずられてゆくイスル。
「い、いやぁぁぁぁ〜」
　悲鳴が空しく響いた‥‥。

●メイド喫茶を食べる
　客足も落ち着いてきた頃、フェルマータに恐るべき魔物が来襲した！
「‥‥ん。メイド喫茶を。食べに。私。参上」
　メイド喫茶を食べに‥‥だと‥‥？
　戦慄する店長。背景に雷が落ちる。
　それはちっこい少女、最上　憐　（gb0002）であった。
　だがしかし、侮ってはいけない。彼女はブラックホール的胃袋の持ち主なのだ。
　ラストホープの飲食店では有名だとか、そうでないとか。
「‥‥ん。メイド喫茶。どんな。食べ物が。あるか。楽しみ」
　メイドさんに案内され、席にちょこんと座ると、メニューを物色する。
「‥‥ん。とりあえず。飲み物。カレーを。希望。大盛りで」
　彼女にとってカレーは飲み物なのだ。‥‥飲み物？
「‥‥ん。メニューの。ここから。ここまで。注文。大盛りで」
　ざーっと指差し、注文する憐。
「‥‥ん。これと。それと。そっちのを。おかわり」
　どんどん皿が積み上がってゆく。
「‥‥ん。おかわり。おかわり。特盛りで。迅速に。大急ぎで」
　急かされて、給仕係をしているコハルとイスルは大忙しだ。キッチンもフル回転状態。
「‥‥ん。制覇完了かな。じゃあ。もう一度。最初から。ゆっくりと。食べようかな」
　もうやめて！　フェルマータのライフはゼロよ！
　コハルとイスルは足りなくなった食材の買出しに走らされるのだった‥‥。

「‥‥ん。ウサ耳を。付けると。もっと。人気が。出ると。思うよ」
　メイドの琴音にウサ耳を勧める憐。
「‥‥ん。ウサ耳を。装着すると。通常の３倍の力が出る‥‥かもしれない」
「３倍？　赤くなくても？」
　憐は日頃からウサ耳を着用し、ＫＶにも装着させているウサ耳愛好家なのだ。
「‥‥ん。ウサ耳は。良い物。至高にして。最強。耳。長いし」
　ウサ耳の良さをとくとくと語る彼女。
「‥‥ん。私の。ウサ耳は。特注。レア物。耳が。動く。ウサ。ウサと」
　自分の頭の上のウサ耳を動かしてみせる。
「‥‥ん。ウサ耳メイド。おすすめ。きっと。流行る」
「ウサ耳メイドかー。ウサ耳といったらバニーガールじゃないのかな？」
「‥‥ん。確かにそうだけど。メイドにも合うと思う」
　店内にいる間、ずーっと食べているかウサ耳を語っているかしていた憐であった。


　憐がウサ耳について語っていた頃、日傘を差した美少女、来栖・繭華（gc0021）が来店。
　幼い容姿と身体つきに合わず、豊満なバストの持ち主だ。
「こ、この前のご依頼ではお世話になりましたの。ぶ、無事に智覇お姉ちゃんにチョコをあげられたですの」
　店長とミカに向かってぺこりと頭を下げる。
「いえいえ。それは良かったです」
　メイドのミカは微笑む。
「み、ミカお姉ちゃんは、どんなお仕事を‥‥し、してるのですの？」
　席に座って紅茶を飲みながら、繭華が尋ねる。
「そうですね‥‥ご主人様とのコミュニケーションが主ですね。あとはお食事を運んだり、お掃除をしたり」
「そ、そうなんですの‥‥」
　繭華はうんうんと頷く。
「え、えっと‥‥あ、あの‥‥み、ミカお姉ちゃんと同じ服って‥‥き、着られますの？」
　紅茶を飲み終え、おずおずと聞いてみる繭華。
「メイド服ですか？　試着することはできますよ」
「じ、じゃあ‥‥お願い、しますの‥‥」
「では更衣室へ行きましょう」
　繭華の手を引き、奥へ連れて行くミカ。

　更衣室――
「うーん、これは‥‥」
「く、くるしい、ですの‥‥」
「萌黄のサイズじゃ胸が合わないわね」
　そんな話し声が聞こえてくる。
　繭華の体型はアンバランス（良い意味で）なので、中々サイズの合うメイド服が無い。
「琴音のサイズじゃ‥‥今度は大きすぎるし‥‥」
　うーむと悩むミカ。
「それじゃあ、私と同じサイズのメイド服で我慢してね。胸が少しキツイかもしれないけど。袖とスカートの裾を詰めればなんとか」
「は、はい。これでいいですの。すみません、ですの」
「いいんですよ」
　ミカはにっこりと笑った。
　しばらくして、更衣室から戻ってくる二人。
「ふ、ふにゅ。お、お仕事手伝うですの」
「あら、繭華さんもメイド体験がしたいの？　いいわ。今はご主人様も減ってきたから、大丈夫でしょう。私についてきて」
「は、はい。ですの！」
　ミカの後ろにぴょこぴょこと付いていく繭華。
　スカートの裾が長いので歩き難そうだ。


「はあ‥‥はあ‥‥ここまでくれば‥‥」
　扉を閉め、息を荒げているのはソウマ（gc0505）だった。
「まさか凶暴なドーベルマンに追いかけられるなんて‥‥」
　危うくお尻を噛まれるところだった。
　‥‥彼は不幸体質らしい。
「お帰りなさいませ、ご主人様？」
「へ？」
　ソウマが振り返ると、そこには栗色の髪をした美人のメイドさんの姿。
　――思わず、見とれてしまう。
「ご主人様ですよね？　お席へご案内してもよろしいですか？」
「え？　あっ‥‥‥‥はい、お願いします」
　逃げ込んだ先がメイド喫茶だったとは。まあ、喉も渇いたし丁度良い。
「それじゃあ、繭華さん、ご案内してあげて」
「はい、ですの。こちら、ですの」
　栗色の髪のメイドさんの後ろから小さなメイドさんが出てきた。
　――胸は大ボリュームだったが。
　そして彼は席に着く。
「ご、ご注文は、どうされますか」
「えーと、アイスティーとチョコパフェください」
「アイスティーと、チョコパフェ‥‥。かしこまりましたの。少々お待ち下さい、ですの」
　小さなメイドさんは注文の確認をし、下がろうとしたが――
　長いスカートの裾に足を引っ掛けて、びたーんと転んでしまった。
「！？」
　目を見開くソウマ。
　小さなメイドさんのスカートが捲れ上がり‥‥可愛いぱんつが丸見えになっていた。
「いたたた‥‥ですの」
「大丈夫ですか？　繭華さん」
　栗色の髪のメイドさん、ミカが助けに来た。
「だ、大丈夫ですの。ありがとうですの、ミカお姉ちゃん」
　繭華は起き上がり、ぴょこぴょこと奥へ下がる。
　それを目撃してしまったソウマは赤面。いわゆるラッキースケベだ。

「お待たせいたしました、ご主人様」
　少しして、ミカが注文の品を運んでくる。
「‥‥」
　並べていく様子を眺めているソウマ。
「あの‥‥」
「なんですか？」
「食べさせて‥‥くれたりは‥‥」
　おそるおそる、尋ねてみる。
「構いませんよ」
　にこりと微笑むミカ。
「はい、あーんしてください」
「あーん」
　ぱくっ。チョコパフェをすくったスプーンを口に入れてもらう。
　なんという幸せ。ソウマはだらしない表情になった。

　チョコパフェを食べ終わった後――
「すみませーん」
「はい？」
　ソウマはミカを呼び止めた。
「あの‥‥メイド服の試着を出来るって本当ですか？　学校では演劇部に入っているんですが、ちょうど次のお芝居でメイドと執事が出るんですよね。良かったら、役作りのため両方とも体験させてもらえないかなぁ、と思いまして」
「構いませんよ」
　いつもの極上スマイル。二人は更衣室へ移動。
「不本意ですが、女役の経験もあります。意外と好評だったんですよ」
　ボックス内で着替えながら、ソウマはそのように言った。
　まもなく着替えが完了し、メイド服姿のソウマが登場！
「お似合いですよ」
　あながちお世辞でもない。ミカは微笑む。
「ミカさん、クラブの皆の為、メイドの極意を是非教えてくださいっ！」
「極意‥‥ですか‥‥」
　身かは少しだけ考え込む。
「それはですね‥‥『ご奉仕の心を忘れないこと』。それだけです」
　ミカは片目を瞑り、また微笑んだ。


　そんなこんなでホワイトデーイベントは無事終了。
「皆〜お疲れ様ぁ〜」
　店長が５人のメイドさんに労いの言葉をかける。
「‥‥店長もお疲れ様です」
　ミカが言った。キッチンは一時フル稼働だったので、店長もお疲れの様子。
　店長を含め、６人は円陣を組む。
「皆のおかげでホワイトデーイベントは成功したわ。ありがとね！　明日からも頑張りましょう！」
「「「「「おー！！」」」」」
　一致団結し、気合を入れ直すメイドさん達（＋店長）であった。