タイトル:乙女中隊・誕生マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/24 10:53

●オープニング本文


 九州某基地。KVハンガー。
 続々と搬入されてくるKVを見つめる青い髪をした少女の姿があった。
 彼女の名は早乙女・美咲(gz0215)。α−01部隊、通称乙女分隊‥‥改め、乙女中隊の隊長である。
 搬入中のKVは12機のGFA−01シラヌイ。
 カラーリングと頭部の形状から見るに、うち3機はS型だ。
「はあ‥‥」
 美咲は溜息をつく。訓練部隊がいきなり実戦に投入されたと思ったら‥‥
 今度は事前通達無しに増員。実戦部隊に昇格。
 一気に色々なことがありすぎた‥‥。
 幸い、美咲は脳の回転が早いほうだったので事態を呑み込むのにさほど時間を要さなかったが、やはりまだ実感が湧かない。
「ふう‥‥」
 また、息を漏らす。そこへ――
「辛気臭い顔で何をしている。隊長がそんなことでは部下の士気に関わるぞ」
 士官服を着た女性がやってきた。
「せんせ‥‥じゃなかった、片瀬大尉!」
 片瀬・歩美大尉であった。これまで教官として美咲らの教育に当たってきた彼女であったが、α−01部隊が実戦部隊に昇格したことにより、その役割を終え本来の役職に復帰したのだ。
 現在は美咲の、直属の上司である高ノ宮・茜少佐の補佐に付いている。
「どうした、考え事か」
「すみません。‥‥私がこんな、贅沢な機体に乗ってもいいのかなあ‥‥って‥‥」
 美咲は隊長であるため、当然指揮官機のS型が割り当てられる予定となっている。
 シミュレーターでの訓練は何度も受けたが、初めはそれまで乗っていたS−01との性能差に驚いたものだ。
 何より機動性が違いすぎる。慣れるまでは機体に振り回されてしまった。S型は通常型のシラヌイと違い、高出力のエンジンに換装されているためパイロットを選ぶ機体だ。
 ‥‥とても同じS−01をベースにしているとは思えない。技術の進歩ってすごい! と美咲は思った。
 ちなみに訓練部隊であった頃に乗っていたS−01は‥‥相当使い込まれて年季が入ったもので‥‥この間の実戦の後、ついにスクラップ同然となり廃棄された。
 それに比べて目の前にあるまっさらな機体といったら――。
「指揮官が良い機体に乗るのは当たり前だろう」
 片瀬大尉はそう言い切った。
「でも‥‥」
 美咲は口ごもる。
「期待されている、ということだ。‥‥少佐はかなり苦労をしてこれらの機体を調達したらしいぞ」
「えっ‥‥」
「その期待に答えて見せろ」
「‥‥」
 美咲はまた黙ってしまう。
「不安、なのね」
 軍人口調ではなく、柔らかな口調で言う片瀬大尉。
「はい‥‥」
「それはわかるわ。いきなり実戦部隊に昇格ですもの。少佐には困ったものね。でもね、それはあなた達になら出来ると思ったからよ。私も、そう思っている」
「大尉‥‥」
 美咲はゆっくりと顔を上げた。
「それに、死んで欲しくないから少しでも良い機体を‥‥という少佐の配慮だと思うわ。だから、立派に使いこなしてみせなさい」
「‥‥はい。ありがとう、ございます。精一杯努力します」
 びしっと敬礼する美咲。
 その姿を見て、片瀬大尉は微笑んだ。

 数日後――
「慣熟訓練は順調のようだな」
 ブリーフィングルームに集まったα−01部隊の面々の前で、高ノ宮少佐が口を開いた。
「ふむ。このレベルならば問題ないだろう。‥‥では、諸君らの初陣となる任務を与える」
 ごくりと唾を飲み込む一同。――いや、元α−00独立小隊のメンバーは落ち着いた様子だった。
「敵の前線基地を1つ、制圧してもらう。規模は小さいので、傭兵も含めKV2個中隊もあれば十分だろう。歩兵中隊にも協力を取り付けた」
 基地の制圧‥‥これまで歩兵戦で幾度かキメラプラントを破壊したことはあったが‥‥。
 10番台より上の大規模キメラプラントを攻略するための予行演習だろうか‥‥。
 美咲は思考をめぐらせた。
「今回の作戦は如何に迅速に敵基地を制圧出来るかがポイントとなる。敵が援軍を呼ぶ前に、だ。心して掛れ。気を引き締めろ。以上」
 高ノ宮少佐は敬礼し、退室していった。
「‥‥」
 初めての、KVによる本格的な任務‥‥。
 前回は実験機の護衛だけだったが、今回は激しい戦闘になるだろう‥‥。
 美咲は胸に手を当て、自身を落ち着かせる。
「隊長」
 ふと、声をかけられた。
 振り向くと、黒髪の美女の姿。いや、大人っぽい容姿だがまだ少女と呼ぶべきだ。
 現C小隊、元α−00独立小隊隊長、森ノ宮・柚葉曹長であった。
「大丈夫ですか、顔色が優れないようですが」
「‥‥ううん、大丈夫。気を使ってくれてありがとう」
 美咲はぎこちなく笑ってみせる。
「初めての任務で緊張されているのですね。私もそうでした。‥‥歩兵戦でのα−01部隊の活躍は耳にしています。KV戦は、勝手は違いますが命を懸けるという点では同じです。厳しい歩兵戦を何度も経験しながらα−01部隊はこれまで1人も死者を出していない。あなたは自信を持つべきです、早乙女准尉」
「‥‥!」
 そう言われて美咲ははっとした。
 これまで他の何も考えず誰も死なせないために、必死に戦ってきた。
 自分は何を弱気になっているのだろう。先生も励ましてくれたのに。尚且つ、部下にまで‥‥。
 同じ様に、やればいいんだ!
「ありがとう。全力を尽くす」
 美咲は表情をきっと引き締めた。そう、全力を尽くせばいい‥‥!

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
風雪 時雨(gb3678
20歳・♂・HD
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC

●リプレイ本文

●乙女中隊
 出撃を前に、待機中の傭兵部隊と乙女中隊。
 ブリーフィングルームにて――

(「本当に女のみなんだな‥‥。まぁ、KVでの行動だ。気にする必要が無くて助かる」)
 女性が苦手な時任 絃也(ga0983)は、パイロットスーツに着替えた乙女中隊の面々を見回しながら内心で安堵した。

「皆、よろしく頼む。己の持てる力を出し切ろう」
 不破 梓(ga3236)は姿勢を正し、一同に挨拶。
 凛々しい雰囲気を纏う彼女。しなやかな黒髪のポニーテールが特徴的だ。

「元気そうだな。武勇伝は色々聞いてるぞ?」
 久しぶりに会ったα−01部隊の成長を喜ぶと共に、範となるべく己を律するセージ(ga3997)。
 大人の仕事は背中を踏ませる事じゃない、背中を見せる事だ‥‥と、彼は考える。

 乙女中隊・B小隊隊長、九条・冴の前に百瀬 香澄(ga4089)がやって来る。
 そして――二人は再会のキスを交わした
「この香り‥‥クリスマスに差し上げた香水をつけて下さっているんですね」
 唇を離した冴は香澄の瞳を見つめる。
「ああ。当たり前じゃないか」
 ふっと、香澄は微笑んだ。
「乙女中隊の初陣。‥‥なんて改まった言い方をしてみたけど、手段が違うだけで目的は今までと変わらないわけだ。余計な気は負わないで、いつも通り行こうじゃないの」
「ええ」
 頷く冴。二人の胸元には、二つに割れたハート型のペンダントがある‥‥。

 その様子を見ていた乙女中隊の隊長、早乙女・美咲は――
「私達もする?」
 と、彼氏である夏目 リョウ(gb2267)に言った。
「えぇぇ!? それは‥‥」
 激しく動揺する彼。
「えへへ、冗談だよ」
 くすくすと笑う美咲。
「ひどいなあ。と、ところで‥‥心配して来てみたけど、その様子なら大丈夫そうだな。安心したよ。‥‥美咲には力がある、それに俺達も付いているんだ。頑張ろうぜ!」
 改めて美咲に手を重ね、彼女を元気付ける。
「うん、そうだね」
 美咲は頷いた。

「フフーフ、ごきげんようお嬢さん方。貴女の隣に言い寄る白熊ですコンゴトモヨロシク」
 乙女中隊の面々に挨拶して回っているのは覚醒して白熊ヘッド状態の鈴葉・シロウ(ga4772)。
 自前のふわもこヘアーには入念に手入れがしてあり、必然と彼に視線が集まっていた。
 乙女達のピンク色の視線を受け、プリティなクマは至福の笑みを浮かべる。
 そして、彼は魅惑の毛並みを武器に写真撮影を取り付け、密かに乙女中隊ファイルのコンプリートを目指していた‥‥。

「中隊かぁ‥‥1年以上関わってるけど、強くなったなぁ、皆」
 感慨深げな表情をしているのはヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)である。
 彼女達と初めて出会ったのは‥‥冷たい雨が降る日のことだったか‥‥。
 あの頃は頼りなかった彼女達が、今ではこんなにも頼もしく見える。

「大尉になられたのですか。おめでとうございますよぉ」
 米本 剛(gb0843)は片瀬・歩美大尉に祝辞の言葉を述べた。
「ありがとうございます。といっても、元の役職に戻っただけなんですけどね」
 うふふと片瀬大尉は微笑んだ。

(「んー、乙女分隊‥‥じゃなかった、今は中隊か。彼女達との依頼も久しぶりかな」)
 うーむと考え込んでいるのは蒼河 拓人(gb2873)。
「一人前になった君達の力‥‥存分に見せ付けてね」
 拓人は不敵な笑みを浮かべる。

「お久しぶりです、クリスマス以来ですね。今回はしっかりサポートさせてもらいます」
 親友である舞浜・ちずるとの再会を喜ぶリリィ・スノー(gb2996)。

「風雪 時雨です。皆さん、今回はよろしくお願いしますね」
 爽やかなメガネ男子、風雪 時雨(gb3678)は傭兵と乙女中隊の面々に、一人一人挨拶していく。
 どうやら彼は几帳面な性格のようだ。
(「それにしても、ここにしろくm‥‥もとい、隊長がいるとは思いませんでしたね」)
 乙女に囲まれデレデレになっている白熊に目をやる彼。
 いや別に、羨ましくなんてないんだからねっ。

「誰だって初めては不安だよね‥‥。私もそうだったよ‥‥」
 自分もつい先日初陣を経験した芹佳(gc0928)は、他人事ではない様子。
 だが傭兵達との会話により乙女中隊の面々の緊張は大分ほぐれたように見える。
 中でも、ふわもこの白熊の癒し効果が大きいらしい。

 そんなこんなで出撃時刻が近づき、一同はハンガーへ向かい、機体に搭乗する――。

●陽動
 敵基地付近。作戦開始を待ち、居並ぶ傭兵部隊と乙女中隊のKV、総数24機。
 歩兵部隊の兵員輸送車群もやや後方に待機している。

「これまた何とも‥‥壮観ですねぇ」
 アヌビス(真)『黄泉』に搭乗する米本は中隊規模のシラヌイの勇姿とα−01部隊の成長振りに、感慨に浸る。

「後ろは私達に任せてください。頑張りましょうねっ」
 シラヌイに搭乗したリリィは仲良しメンバーである、A小隊の3名、ちずる・香苗・早苗に通信。
 ちなみに空気を読んで、美咲には通信は送らないでおく。
「はいっ、がんばりましょうっ」
「「がんばろー! おー!」」
 との返答が返って来た。

 その頃‥‥リリィの読み通り、リヴァイアサン『蒼炎』を駆るリョウは美咲に通信。
「大丈夫。君ならやれる。俺は信じてる」
 美咲は「ありがとう、リョウくんも気をつけて」と答える。

 絃也の機体はR−01改、往年の名機である。
 最初期のKVであるがかなり手を加えられており、新鋭機と比べても遜色のない性能を誇る。

 梓の機体は青灰色のシラヌイS型『隼風』。
 搭乗者に合わせてカスタムされており、形状が幾らか変化している。

 セージの機体は群青のシュテルン『リゲル』。
 回避重視のチューンが施してある。

「『槍騎兵』改め『おてんば淑女』。ちょっとはしたなくても、大目に見てくれよ?」
 香澄の機体はロビン『Tomboy Lady』。

 シロウの機体は雷電改『飛熊』。
 高火力のミサイルの運用を想定したチューンが施されている。

 ヴァレスの機体は漆黒に紅いラインの入ったシュテルン。
 コクピットは彼好みに、かなりアレンジされている模様。
 それから頭部の形状も一般機とは異なっている。

 拓人の機体はフェニックス『BARRAGE』。
 芹佳の機体はディアブロ改である。

「さて、戦場の乙女達のためにしっかりと役割を果たしましょう」
 翔幻改に搭乗した時雨がそう言ったところで、作戦開始時刻となった。

 傭兵部隊は――
 A班:絃也、香澄、シロウ、リョウ、拓人、時雨
 B班:セージ、ヴァレス、米本
 C班:梓、リリィ、芹佳
 の3班に分かれ、基地北側から進撃。

 乙女中隊と兵員輸送車群は林に身を隠しつつ、基地南側へ移動。

 傭兵部隊はA班が中央、B班が左翼、C班が右翼を担当。
 A班内では絃也と香澄が前衛中央、リョウが前衛左翼、シロウが前衛右翼、
 時雨が後衛左翼、拓人が後衛右翼、というポジションになっている。

 横並びになって基地へ接近する傭兵部隊。
 それに対し、プロトン砲台が反応。北側が真っ先に反応し砲撃を開始。
 東側と西側の砲台も旋回、距離が縮まる共に、こちらの砲撃も始まる。
 次々と飛んでくる極太の光線。傭兵部隊は回避に徹する。
 コクピットには警告音が絶え間なく鳴り響いている。
「ったく、うざったい砲台だな。邪魔だから取り外しとけってのに」
 心底煩わしそうな表情を浮かべる香澄。
 これは‥‥TWのプロトン砲よりも出力が高そうだ。
 さすがはバグア基地備え付けの砲台といったところか‥‥。

 ほどなく、対KVキメラ群が迎撃に出てくる。
 ゴーレムやワームの姿は今のところ無い。
 A班が足止めをし、B・C班が両翼に展開、半包囲しつつ戦闘を開始。

 A班――
「それじゃあ釣りを始めるか。NoキープNoリリース、Yesデストロイ!」
「見せてあげますぜ、私が唯のエロスいヲタ☆熊ではないということを」
 まず香澄機がDR−2荷電粒子砲をぶっ放し、シロウ機がC−0200ミサイルを全弾発射。
 荷電粒子砲により空気がプラズマ化し、粒子の熱と衝撃が敵に襲い掛かる。
 続いて放たれた無数のミサイルが着弾。派手な爆炎が立ち昇る。

「打ち砕け、ガトリングナックル!」
 絃也機はガトリングナックルをメインに戦闘。
 音声認識であるこの武器は一々叫ばねばならないため、ガトリングナックルが火を噴くたび絃也の男らしい声が戦場に木霊した。
 飛んでくるプロトン砲は盾で受け止める。‥‥砲台には高性能なセンサーが搭載されているのか、命中精度も良いようだ。
 そして絃也はゴーレムやワームが出て来ないことに疑念を抱く。
「まだ足りないと言うのか‥‥?」

 香澄機、レーザーガトリング砲で弾幕を張り、距離を詰めつつ高電磁マニピュレーターで殴っていく。
 プロトン砲に対しては常に動き回って狙いを定めさせないようにしている。
 それでも何度か撃たれるが、回避するか、または盾で防いで対処した。

 シロウ機、試作型「スラスターライフル」で射撃を加える。
「フーフフ、鉛弾のプレゼントです」
 接近戦は脚爪「シリウス」で対応、時折強化型ショルダーキャノンで味方の援護も行う。

「2つの蒼が合わさる時、蒼きサムライ現る! ‥‥行くぞ『蒼炎』!」
 リョウ機は積極的に前に出て、双機刀「臥竜鳳雛」による近接戦を行う。

 拓人機、シロウ機と同じくスラスターライフルで射撃。
 プロトン砲は盾で防御。熱によりダメージを受けるが、許容範囲内だ。
 EQ襲来に備え、地殻変化計測器も設置しておく。

 時雨機は20mmガトリング砲で味方の援護に徹していた。
「皆さん自分の近くに、幻霧を発動します」
 プロトン砲は幻霧を展開し回避。

 B班――
 左翼より展開。
 B班は全機、回避主体の近接戦を基本としている。

 セージ機、ヒートディフェンダーでGスコルピオンを斬りつける。
 銃器‥‥スラスターライフルとレーザーカノンも装備しているが‥‥こだわりなのか、使用する際はゼロ距離射撃のみ。

 ヴァレス、積極的に敵中に飛び込み、機杭「エグツ・タルディ」をぶち込む。
 そして回避するとともに、すれ違いざまにソードウィングでの斬撃を加える。
 だが近接戦、機杭を主体とした戦法は大きな隙を生み、Gタランチュラに張り付かれ、その強靭な顎によって装甲を削られてしまう。
「動かないで下さいよぉ」
 米本機、G−M1マシンガンでヴァレス機に張り付いたGタランチュラを排除。
「すまない、助かった」
「いえ、お気になさらず。しかし近接戦にこだわりすぎるのは危険ですねぇ。もっとも、自分が言えたことではありませんが」
 米本は白兵戦が主体ながらも、双機刀とG−M1マシンガンを使い分けて戦闘を行っていた。
 しかし――出てくるのはキメラばかり。この基地にはゴーレムやワームも配備されているはずだが‥‥?
「出し惜しみなぞしていたら‥‥撃滅させて頂く!」
 機刀を力いっぱい振り下ろし、Gタランチュラ1体を葬った。

 メガホーン1体が突進してくる。
 3機は散開して回避した後、背後から3機連携して斬撃を叩き込み、撃破した。

 C班――
「始めるか‥‥派手に暴れるとしよう。‥‥いくぞ、隼風」
 梓機、ラスターマシンガンとMSIバルカンRで敵を牽制し、ヒートディフェンダーを振るって叩き斬る。
 敵の攻撃はアクチュエータを起動して回避。プロトン砲も同様。
 AECは‥‥使うまでも無さそうだ。

「GスコルピオンとGタランチュラは訓練以来‥‥他と戦うのは初めてかぁ‥‥。でも‥‥うん、皆と一緒なら今回もきっと大丈夫」
 リリィ機は主にスラスターライフルで射撃を行う。
 肉薄してくる敵はアクチュエータを使って回避し、機槍「ドミネイター」で貫く。

 芹佳機はハンドマシンガンとレーザーバルカンでの支援射撃が中心。
 A班の拓人機同様、EQを警戒して地殻変化計測器を設置しておいた。

 傭兵部隊は攻撃を行いながら徐々に後退、敵を引き付ける。
 乙女中隊から配置に付いたとの連絡が入った。
 そのとき、ゴーレム2、陸戦HW4、TW2の出現を確認。
 ――陽動は成功と判断した傭兵部隊は乙女中隊に連絡。
「さて、そろそろ出番だぞ。冴、そっちの準備はOK?」
 すぐに「OKです」との返答。
「傭兵部隊B班よりα−01部隊へ。進軍開始を」
 言ったのはヴァレス。

「α−01部隊、前進!」
 美咲の声を合図にα−01部隊が基地への本格的な攻撃を開始した。

●制圧
 基地へ攻撃を開始した乙女中隊。B小隊、C小隊、A小隊の順で前進。
 まずはプロトン砲台を4基全て沈黙させる。これで傭兵部隊の動きも楽になるだろう。
 続いて、基地内に残っていたキメラを次々と駆逐していく。

 傭兵部隊は敵の足止めを行う。
 A班――
 絃也機、ゴーレム1機と戦闘。Aファングを使用し、圧倒する。
 香澄機、シロウ機は連携してTW1機の相手。
 香澄機が荷電粒子砲を放ち、分厚い装甲に穴を開け――
「必殺、KUMA・ブゥレイクゥ・ドリルゥゥウウ!!」
 シロウ機がブレイクドリルで吶喊。TWの胴体をぶち抜き、トドメを刺した。
 リョウ機、拓人機、時雨機、陸戦HW3機や残存のキメラと戦闘。
「耐えてくれ『蒼炎』、美咲達の危険を少しでも減らす為に、ここは絶対退くわけにはいかないんだ!」
 敵はまだ多く残っている。リョウは恋人の顔を思い浮かべ、機体を躍らせた。

 基地内の対KV戦力を排除完了。
 歩兵輸送車が突撃。ハッチが開き、歩兵部隊が降車。基地施設内部の制圧を行う。
 そこには相田・俊一少尉率いる能力者小隊、総員32名の姿もあった。
 彼らが基地制圧の要である。
「突入開始! トラップや強化人間に注意しろ!」

 乙女中隊は歩兵中隊の護衛を行う。
 美咲が指示を出し、歩兵輸送車郡を三方向から囲む布陣を取る。

 傭兵部隊は尚も足止め。
 B班――
 セージ機、Gスコルピオンに囲まれてしまう。だがセージは余裕の表情。
「残念。俺の間合だ。一緒に踊ろうぜ。死と破壊が奏でる舞踏曲を」
 ジャンプし、回転しながらソードウィングで何度も斬り付ける。
 しかし‥‥着地に失敗し、派手な音を響かせて転倒。
「ぐあああっ!?」
 コクピット内に身体を打ち付け、セージは負傷してしまう。
「大丈夫か?!
 ヴァレス機はC−0200ミサイルを敵が密集している所に撃ち込み、セージのカバーに入った。
「はあああっ!!」
 米本機、双機刀による連続の斬撃で陸戦HW1機を刻み、即座に撃破。

 C班――
「この規模の基地だ、指揮官クラスの出撃の可能性が否定できん。危険と判断したら無理に仕掛けずに耐えろ。‥‥すぐに行く」
 梓機、ゴーレムのバグア式ディフェンダーを受け止めつつ、乙女中隊に通信を送る。

 リリィ機と芹佳機は協力してTW1機と戦闘。
「確か‥‥タートルワームには非物理が有効のはず‥‥!」
 GFソードで斬りつけるリリィ機。
「未熟な事は私自身よく分かってるよ‥‥」
 そこへ――芹佳機がブーストダッシュで接近。後ろに回りこむと見せかけ、裏拳の要領で機刀「雪影」を叩き込む。
「‥‥だけど、足りない経験は気力でカバー!」

 数分後――
「こちら歩兵部隊、相田小隊竹中、基地制圧完了」
 歩兵部隊より連絡。
 傭兵部隊と乙女中隊は合流し、殲滅戦に移行する。
 そのとき、歩兵部隊から連絡。
「こちら歩兵部隊、相田小隊深森、地下から振動を検知した。中にまだ敵が残ってるみたいだ。現在エレベーターで上昇中らしい。大きい‥‥これは――ゴーレムと‥‥ワーム?」
 ‥‥ほどなく地上に巨大な刀を装備した指揮官用と見られるカスタムゴーレムと陸戦HW2機が出現。
「やはり小規模とは言え基地は基地だ‥‥隠し玉を持っているとはな」
 言ったのは絃也。
「ほぅ‥‥御相手願いましょうか!」
 双機刀を構える米本機。
 この鎧武者のようなゴーレム‥‥武人としての興味がそそられる‥‥。
 そこへ梓機も加わり、戦闘が始まった。
 香澄機とシロウ機は陸戦HWの対応に回る。

 基地外部――
 カスタムゴーレム出現と同じ頃、先に設置しておいた地殻変化計測器に反応。EQキャリアー3体が出現。
 近くに居たリョウ機と拓人機、芹佳が即座に反応。
「さてさて、君は地中にお帰り願おうか!」
 口が開くと同時にオーバーブーストAとスタビライザーAを使用。多目的誘導弾を全弾口内に叩き込む。内部で大爆発が起こり、EQキャリアーは悶える。そこへ更に芹佳機の弾幕が集中。
「トドメだ!」
「勝利の為に輝け、蒼き燐光‥‥。蒼炎斬ファイナルクラッシュ!」
 その隙に拓人機とリョウ機が接近。
 オーバーブーストBを使用した練剣「雪村」と、試作剣「雪村」の超濃縮レーザーブレードがEQキャリアーを斬り裂いた。地響きを立てて崩れ落ちる。
 ‥‥しかし残り2体のEQキャリアーからGスコルピオンとGタランチュラが多数吐き出されてしまう。
「くっ! しまった!」
 EQキャリアー2体はそのまま地中へ離脱。
「大丈夫、任せて!」
 焦るリョウに対し、美咲から通信。
 残りの傭兵と、乙女分隊が連携し、敵の増援を片付けてゆく。

「喰らえ!」
「やあああっ!!」
 絃也機と梓機が同時にデモンズ・オブ・ラウンドとヒートディフェンダーでカスタムゴーレムに斬撃を加える。
 そして――
 邪断刀を装備し、神天速を発動した米本機が迫る。
「断ち斬れぇぇぇっ!!」
 咆哮と共に縦一文字斬り叩き込んだ。
 ‥‥火花を散らし、地に伏すカスタムゴーレム。次の瞬間、大爆発を起こした。

 ほどなく残存の敵を排除、作戦終了。

●戦いを終えて‥‥
 基地に帰還した傭兵部隊と乙女中隊。
 デブリーフィングを終えた後――

「セージ、無茶しすぎだ。なんだあの攻撃は」
 ヴァレスが包帯だらけのセージに向かって言った。
 トリプルアクセルの着地失敗がかなり響いたらしい。
 さすがにあれは、難易度が高かった‥‥。
「それはそうだが‥‥お前にだけは言われたくないな」
 セージはそのように反論。
「どっちもどっちだと思う‥‥」
 そこへ、坂城・慧子からのツッコミが入る。
 事実、ヴァレスとセージの戦い方には共通する面が多い。
 主に、近接戦大好きっ子というところが。
「あはは‥‥言うようになったね」
 苦笑するヴァレス。
(「まあ、セージも生きていたから良いか。‥‥12人の戦乙女‥‥最後までお付き合いしましょう」)

「冴、無事で良かった‥‥」
 香澄は安堵した笑みを浮かべ、冴をハグしようとするが‥‥冴はすすっと後退し、避けられてしまった。
「どうした? なにか気に障ること、したかな」
「いいえ! そんなことはないです! けれども‥‥その‥‥」
 冴は下を向き、もじもじし始め、ぽっと頬を染める。
「たくさん‥‥汗をかいてしまったので‥‥シャワーを浴びてからで、いいですか」

「作戦は無事成功だな。俺の言った通りだったろう?」
「そうだね。リョウくんの言葉があったから、がんばれた」
 リョウと美咲は並んで座り、和やかに会話をしている。

「お疲れ様」
「おっと、ありがとうございますよぉ」
 片瀬大尉から緑茶のペットボトルを差し出され、受け取る米本。
「あの子達は、どうだったかしら」
「乙女中隊の方々ですねぇ。統率が取れた、なかなか良い動きでした。あの編成は誰がお決めになったのですかな?」
「主に高ノ宮少佐ね。私も意見は出したけど」
「ほう‥‥。自分は3小隊に細分化したのが成功の鍵だと思いましたねぇ。教え子さんのことをよく見ていらっしゃるのですな」
 そういって、米本ははっはっはと笑った。ちょっぴり照れた様子の片瀬大尉。

「あ、あの、リリィです。お疲れ様でした。そして、改めてよろしくお願いします」
 リリィは乙女中隊・C小隊の4人に挨拶。
「ええ、こちらこそ」
「よろしくお願いいたしますわ」
「よろしく‥‥お願いします‥‥」
「うん、よろしくねっ」
 柚葉、瑞葉、紅葉、双葉は笑顔で返してきた。
 聞けば、4人は姉妹なのだそうな。まあ苗字が同じ時点で想像していたが。

「今回の戦闘の感想、良ければ聞かせてもらえるかな」
 芹佳は柚葉に話しかける。
「そうですね‥‥制圧したと思ったところに増援、やはり敵を侮ってはいけません。そう、強く感じました」
 と、柚葉は答える。
 なるほど‥‥完全に息の根を止めるまでは安心しちゃいけないのか‥‥。
 芹佳はそのように納得した。

「君達も立派なナイトフォーゲルライダーだね。記念に何か奢ってあげようかな」
 拓人はにっこり笑って乙女中隊の面々をねぎらう。
「え? 本当? いいの?」
 目をキラーンと光らせる犬飼・歴。
「あっ」
 迂闊だった‥‥。拓人は大事なことを忘れていたのだ‥‥。
 乙女中隊にはブラックホール的な胃袋の持ち主がいるということを‥‥。
 そして拓人は結局、自腹で中隊全員に熊本ラーメンを奢ることになったそうな。

 一方シロウはというと――
「二次元も三次元も突破して、貴女のハートキャッチな白熊です」
 作戦終了後はずっと、お持ち帰りというか、乙女達にもみくちゃにされ、ぬいぐるみ的な扱いを受けたらしい。
 それでも彼の表情は終始幸せそうだったという‥‥。