●リプレイ本文
●行方不明
大連市甘井子区・山岳部――ふもとの街。
依頼を受けた8名の傭兵は、智覇の主治医の元を訪れていた。
「智覇さんがまた無茶をしていると聞いて飛んできました! んー、戦闘になることは分かっているのに単独で現場に向かうこと自体どうなのかしら。たまたま手が空いた能力者がいなかったとか?」
最初に口を開いたのは雅な雰囲気の和服美人、皇 千糸(
ga0843)。
その言葉に主治医が「その通り。今はどこも手が足らないのよ」と答えた。
「んもぅ、最初から依頼してくれれば二つ返事で来たのに‥‥」
千糸は友人の顔を思い出しながら腕組みし、頬を膨らます。
だがULTに依頼するには相応の報酬が必要である。緊急時でなければ、傭兵を複数雇うことなど中々出来ない。
「智覇さんね‥‥。噂くらいは聞いたことがあるわ。曰く、何度重体になってもその身体で出撃して敵を殲滅してくるとか、入院していても隠れて出て行って、誰が倒したか分からないキメラの山を築いてくるとか‥‥」
千糸の隣で、ファルル・キーリア(
ga4815)は智覇の噂について語った。
‥‥一体どこからそんな噂が飛び出したのか。しかし、大体合っている。
ちなみに彼女と千糸はスリムな体型であり、似通った点がある気がするのだが、口にするのは止めておこう。
「来年はもっと出番を、と言ってたのにね」
瓜生 巴(
ga5119)がぼそりと呟く。
「彼女のメインウェポンはガトリング砲ですよね?」
そのように尋ねる。「ええ」と頷く主治医。
「あと、この辺、雪崩は起きますか?」
と続ける巴。
「彼女が向かったのはあまり高い山ではないし、急な斜面も無い。雪崩の可能性は低いんじゃないかしら」
主治医はそう答える。
「タイの大事が済めば、雪中行脚か。くっくっくっ‥‥」
一方で、錦織・長郎(
ga8268)は感慨にふけっていた。
こうして瀋陽・大連ラインが解放されたとは言え、置き土産のキメラを駆逐しない限りは完全に取り戻したことにはならない。それを排除する為に自分達が居るのであるから、某大尉が述べていたようにチームとして動かなければ。冬山に駆り出される状況ではあるが‥‥ここは頑張るしか無いだろう。
「智覇さんは相変わらず無茶が好きだね。無事だといいんだけど」
香坂・光(
ga8414)は汗を垂らす。
人には性分というものがあり、そこはどうにも変えられないのだ。
「ああ、聞いた通りの人間ならば無茶をしているのは確実だろうな」
光の言葉に頷くタルト・ローズレッド(
gb1537)。
「一人でキメラ退治にいくなんて無茶する人ねー。武器はガトリング砲だって? 雪に埋まってないといいけど‥‥まあ、雪崩が起こる可能性が低いなら大丈夫かな」
言ったのはゴシックな装いがよく似合う月島 瑠璃(
gb8001)。
どうやら傭兵達の間で智覇は『無茶をする人』というイメージで通っているらしい。
「ち、智覇お姉ちゃんが大変ですの。ぶ、無事だと良いのですが‥‥」
片目を前髪で隠した少女、来栖・繭華(
gc0021)は智覇を心から心配している様子。
大人しそうな性格に反して、その胸はかなり大きめであり、実にけしからん。
「これと‥‥これと‥‥これも借りて行きます」
必要な物を見繕う巴。
そんなこんなで傭兵達は準備を整え、智覇の捜索に出発するのだった。
●智覇の足跡
主治医から聞いた、智覇が通ったと思われるルートを辿り、目的地を目指す一行。
時間帯は一番無難だと思われる昼間を選択。
それぞれ防寒着を身に纏い、雪を踏みしめ、白い息を吐きながら歩いてゆく。
‥‥ふと、ファルルが口を開いた。
「連絡も取れず、戻っても来ないというなら‥‥動けない状況なのか、それとも最悪の事態なのか‥‥のどちらかでしょうね」
それに千糸は――
「縁起でもないこと言わないで! 智覇さんなら大丈夫! きっと大丈夫なんだから!」
思わず、声を荒げた。
「ご、ごめんなさい」
謝るファルル。
「‥‥いや、こっちこそ大きな声を出してごめん」
「智覇さんが本当に心配なのね」
「‥‥うん」
千糸は頷いた。友人なのだから、当然である。
「智覇さんの状況が分からない以上は、可能な限り早く合流したい所ね‥‥」
ファルルも心配していないわけではなかった‥‥。
「‥‥」
その様子を横目で見ていた巴。彼女は毛布や担架など、かさばる荷物を背負っている。
「喧嘩はダメだよ? それよりさむさむー‥‥でも雪綺麗だからOK♪」
一面の銀世界に、はしゃぐ瑠璃。
「確かに綺麗だけどねー。むー、雪山はやっぱり寒いな。帰ったらお風呂に入って温まらないとっ。智覇さんも一緒に」
ぶるぶると震えている光。
長郎はというと、いつキメラが出現してもいいように周囲を警戒。そしてタルトは痕跡が無いか丹念に調べている。
「智覇さーん、いたら返事をしてー!」
「智覇さーん、どこー?」
「智覇お姉ちゃん、どこにいるですのー!」
光、瑠璃、繭華は智覇の名を叫ぶ。――が、返答は無い。
しばらく歩いていくと‥‥
「これは、足跡と‥‥血?」
千糸が足跡や血痕を発見。皆が周りを見回す。
――それは辺り一面に広がっていた。空薬莢も至る所に散乱している。
「‥‥ここで戦闘があったのは確かなようだね」
メガネに手を当て、長郎が言った。
一行は周囲の捜索を続行。すると今度は――半ば凍りついた白猿キメラの死骸を発見。
「凍ってるってことは、死んでから時間が経ってるってこと、かな」
「そのようだな‥‥ん? なんだ? 沢山あるぞ」
巴の言葉に頷くタルト。その先に目をやると、白猿キメラの死骸が点々とあった。
一行はそれを辿っていく‥‥。
途中、山小屋を発見。中に入って調べてみる一行。
‥‥オイル缶で焚き火をした形跡がある。
どうやら智覇は、ここで一夜を明かしたようだ。
「智覇さん‥‥良かった、生きてるみたいだね」
「ち、智覇お姉ちゃん‥‥良かったですの」
ほっと胸を撫で下ろす瑠璃と繭華。
「でもどこへ行ったのやら。‥‥もしかしてまだ戦闘中か? 急いだほうがいいかもしれないな」
「そうだね、早く見つけてあげないと!」
言ったのはタルトと光。
その後、一行は山小屋の周囲を捜索することにした。
数分も経たないうちに、まだ凍っていない白猿キメラの死骸を発見。
「近いわね‥‥!」
「待ってて、智覇さん‥‥!」
ファルルと千糸は歩を速める。他の者も続いた。
●VS白猿キメラ
針葉樹の林の中を駆ける傭兵達。
ほどなくして、なにやら騒がしい音が聞こえてきた。
ギャアギャアという動物の鳴き声――いや、悲鳴?
林が開けると‥‥白猿を追いかけている智覇を発見!
白猿の死骸、実に判りやすい目印だった‥‥。
智覇はガトリング砲を背負い、両手に短剣を持って白猿を追い回している。
腕などに包帯を巻き、新しい傷も見受けられるが‥‥軽傷程度で、元気な様子だ。
傭兵達は智覇の元に駆け寄り、戦闘に加わる。
「智覇さん!!」
真っ先に叫んだのはやはり千糸。
「千糸さん‥‥?」
短剣を振るい、白猿を血祭りに上げながら智覇が振り向く。
「心配したんだから! もう!」
千糸は涙目になっている。
戦闘をしながら聞いた話によると、智覇は白猿キメラの巣を発見したものの、包囲されてしまい、必死に戦って包囲を解除。殲滅に移行したのだが白猿は逃げ出し、追っているうちに日が暮れ、一晩を山小屋で過ごし、夜が明けてから再びキメラ退治を開始した、とのこと。無線機は戦闘中に破損してしまったらしい。
つまり‥‥キメラ退治に夢中になっていただけであった。
「まったく、噂通りね」
「余計な心配だったか」
苦笑いするファルルと、軽く笑みを浮かべる巴。
「くっくっくっ、これは大した人だ」
「智覇さん発見♪ 無事だったー? 怪我はない?」
笑う長郎と元気に問いかける光。
「ふん、まあ動く分には支障ないだろう」
「敵の独壇場なんだし、さすがに一人じゃ荷が重いわよ」
怪我の具合を見て智覇に練成治療を施すタルト。瑠璃はちょっぴり怒った様子。
「智覇お姉ちゃん‥‥」
割と元気な智覇の姿を確認して、安堵する繭華。
「‥‥とりあえず今は、こいつらを片付けましょ。話はあと!」
「ええ、わかりました」
千糸が言い、智覇が答えた。
智覇と合流した傭兵達は、白猿の追撃を開始する。
まずファルルが隠密潜行を用いて偵察を行う。
針葉樹の幹に隠れながら進むと‥‥見張りらしき白猿を発見。
コンポジットボウを装備し、射る! しかし一撃では仕留め切れない。もう一撃。
そして無音のうちに葬った。
(「スナイパーの本領発揮といった所ね」)
そのまま進むと、そこには――。
一行は戻ったファルルと合流し、先を急いだ。
しばらくして、崖の下に出る。目の前には‥‥洞窟。
「キャッキャ! キャッキャ!」
白猿の鳴き声。気が付くと、周りを包囲されていた。
洞窟の中からも、多数の白猿が出てくる。
白猿の群れは逃げるふりをして、別の巣に傭兵達を誘き寄せたのだ。
しかし――傭兵達は落ち着いている。先ほどのファルルの偵察で、こうなることは先刻お見通しだったのである。
所詮は‥‥字面通りの意味で、猿知恵だった。
そんな事とは露知らず、白猿キメラの群れは牙を剥き、爪を光らせ、一斉に襲い掛かってくる。
傭兵達は余裕を持って、円陣を組んで迎撃の態勢へ。
「逃がさないわよ!」
千糸は小銃S−01に装填したペイント弾で白猿にマーキングし、視認しやすくしてからエネルギーガンを連射。
智覇はその隣で、ガトリング砲で弾幕を張る。
「簡単な仕事ね。一気にいくわ!」
ファルルは小銃S−01で銃撃を加え、接近してきた敵はイアリスで斬り付ける。
「‥‥!」
「キャッキャキャ!!」
白猿の爪を左手の盾で受ける巴。そして――
「キャキャッ?!」
ゼロ距離で、右手に握ったエネルギーガンを二度射撃。白猿を撃ち抜いた。
「猿如きに、負けられないね」
長郎は真デヴァステイターとシャドウオーブに両断剣を付加し、一体ずつ攻撃を集中して倒してゆく。
「その程度の攻撃じゃあたしはやられないよ! くらえー!」
光はデヴァステイターと小太刀を用いて、一撃離脱を行う。
「数ばかりいてもな」
タルトはスパークマシンαの電撃を放ちつつ、練成強化で仲間を援護。
「多っ! ‥‥これはマジメにやらないとマズいわねっ」
瑠璃は背に翼を出して冷静さを高め‥‥
「調子に乗るな、この猿」
双剣「パイモン」に円閃を使って斬撃を加える。雪の上に、鮮血の花が咲いた。
「い、いきますの‥‥!」
繭華は指揮棒型超機械「ザフィエル」を振るって白猿達に断末魔の音色を奏でさせ、拡張練成治療で皆を回復。
傭兵達が白猿を蹴散らしていると、一回り大きな‥‥リーダーらしき個体が前に出てきた。
「ボスの登場か。『頭』を潰せば少しは楽になるかな?」
敵のリーダーに対し、練成弱体を掛けるタルト。
「やあっ!!」
間髪置かずにファルルが小銃S−01と投擲用ナイフで手足を撃ち抜き、動きを止め――
「山猿が、調子に乗りすぎなのよ!」
ホルスターから予め貫通弾を装填しておいたフォルトゥナ・マヨールーを抜く。
狙いを定めて引き金を引き、トドメを刺した。音を立てて倒れ伏すリーダー。
‥‥リーダーを排除した後は楽だった。混乱する白猿達を一方的に殲滅するのみ。
念のため、洞窟内も探索を行う。
●戦いを終えて
洞窟内に残っていた白猿キメラの排除も完了した傭兵達。
「無事でよかったですの‥‥。し、心配したですの‥‥」
智覇に抱きつき、涙ぐむ繭華。
「繭華さん‥‥」
目を細め、智覇は繭華の頭を優しく撫でる。
「ふう‥‥」
巴はいい運動だった、といった感じで、わずかに付いた傷をロウ・ヒールで癒す。
「掃討完了‥‥と」
長郎は煙草で一服しつつ、水筒に入れてきた白湯で一息ついている。
「無茶をするのは構わんが、自分が替えの利かん身であることくらいは頭に入れておくといい。戦力的な意味でも、そうでない意味でも。お前を心配する者がいる以上はな」
「智覇さーん、巣ってくらいだから沢山いるの分かってたでしょ? そんなときくらい援軍呼ばないとダメだよーほんとに」
タルトと瑠璃はくどくどとお説教。智覇はぺこぺこと頭を下げるのみ。
「もう少し周りに頼ってもいいと思うわ。私なんて、頼りまくりの助けられまくりよ?」
千糸はホットココアを智覇に振る舞い、一つのマフラーを智覇と二人で巻く。
「温かい‥‥。そうですね。ご心配をおかけしたようで‥‥すみません」
これまで単独行動ばかりしてきた自分‥‥。主治医以外に、まさかこれほど自分を気に掛けてくれる人が居るとは思わなかった。
「ま、貴女が無事ならそれでいいわ」
智覇に頬を摺り寄せて微笑む千糸。二人の頬がぽっと赤らんだのは寒さの所為か、それとも‥‥。
「問題なければお風呂に一緒に入るのだ♪ 温まるために♪」
光が言い、そして一行は下山するのだった‥‥。
●おまけ
ふもとに戻った傭兵達は冷えた身体を温めるために、温泉に浸かる!
「ふあー温かいー。生き返るのだー」
湯船に肩まで浸かり、だらけた表情の光。
「智覇さん、傷、痛まない?」
「大丈夫です、殆ど塞がっていますから」
千糸と智覇は以前のように仲良く洗いっこをしている。
「しかし温泉に入れるとはね。ラッキーだわ」
その横で身体を洗うファルル。
「ち、智覇お姉ちゃん‥‥繭華も、混ぜて欲しいですの‥‥」
圧倒的なボリュームを誇るバストが千糸、ファルル、智覇の前に現れた。
繭華の動きに合わせて、たゆんたゆんと揺れる。
「「「‥‥」」」
言葉を失う三人。
「ど、どうしました? ですの‥‥」
どんよりとした空気を漂わせる三人の様子に、慌てる繭華。
「まあ、胸の大きさなんて気にしないほうが良い」
巴は「どうでもいい」といった感じで、4人から少し離れてわしゃわしゃと髪を洗い中。
日頃の運動‥‥特に水泳によって鍛えられた、無駄な脂肪の無い引き締まった肉体を惜しげもなく晒している。
「温泉って気持ちいいわね」
「ああ、身体の芯から温まるな」
瑠璃とタルトは湯に入ってまったり。
温泉とはいいものだ。心が安らぐ。疲れも取れる。
男湯――
「乙なもの、だね」
タオルを頭の上に載せ、お猪口に注いだ酒をくいっとやる長郎。
こんな感じで傭兵達は温泉に浸かり、白猿キメラ退治の疲れを癒したようだ。