●リプレイ本文
●挨拶
LHから高速移動艇で、乙女分隊の待つ基地へやって来た傭兵達――
「招待、感謝するよ。素敵な夜にしようじゃないか」
豪奢な白のファーコートに身を包んだ百瀬 香澄(
ga4089)が妖艶に笑う。
その視線の先にいるのは――やはり、冴。彼女も笑い返す。
「しかし、こないだは災難だったな‥‥。ま、何事もなくて良かったけど。今年一年の締めくくり、楽しい思い出になるといいな」
香澄の言葉に冴は「はい」と頷き、香澄の手を取り両手でぎゅっと握った。
‥‥二人の熱い視線が至近距離で絡まる‥‥。
「こういった形で友人と過ごせるのは、喜ばしいことだ」
夜十字・信人(
ga8235)が言った。彼はいつものアーマーや歩兵外套ではなく、スーツ姿でびしっと決めている。
しかし着慣れていないので、似合うかどうか‥‥どうにも不安だった。
「信人くんのスーツ姿を見るのは始めてね。似合っているわよ」
と、歩美が微笑む。
「‥‥ありがとう、軍曹」
顔には表れなかったが、信人は心の中でほっとする。
「やっ、今日は楽しもうね♪」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)が挨拶。
彼のコートを慧子が受け取り、ハンガーにかける。
「お、ありがと♪」
「‥‥外、雪降ってた?」
「え? 降ってなかったけど‥‥」
「そう。‥‥今夜、雪になるらしい」
「へー、そうなんだ」
ホワイトクリスマスになるかもしれないな、とヴァレスは思う。
「誘ってくれてありがとうございます」
「いらっしゃーい!」
柿原ミズキ(
ga9347)を迎える早苗。
「ひさしぶりだね。会えてうれしいよ」
「あたしも嬉しいー♪」
早苗はきゃっきゃとはしゃぐ。ミズキも笑った。
「お招きいただき、ありがとうございますよぉ」
スーツの上にコートを羽織った姿のヨネモトタケシ(
gb0843)。
こちらは普段からスーツを着用していることもあり、違和感なく着こなしている。
ちなみに武器などは一切携帯しておらず、完全に非武装だ。
「ヨネモトさんもようこそ」
歩美が言う。
「はっはっはっ、賑やかなパーティになりそうですねぇ」
「‥‥今回が初顔合わせとなる焔だ‥‥宜しく」
柄にもなく、紅月・焔(
gb1386)はクールに挨拶する。
トレードマークとなっているガスマスクも今日は外していた。
‥‥いやまあ彼自身、実際クールな容貌なのだが、内面がどうにもアレなのだ‥‥。
普段ガスマスクを被っている理由――素顔を見せるのが嫌い――。
彼の本性はウブでシャイなのかもしれない。
『‥‥折角の祝いの席だしな‥‥今回位は自重するさ‥‥』
と、到着前に言っていた彼であるが‥‥
「本当に大丈夫なんだろうな?」
信人が焔にひそひそと耳うちする。
「大丈夫だ、任せろ!」
小声で返す焔。
任せろって一体何をだ‥‥と思う信人だったそうな。
「こんにちは、美咲。久しぶり‥‥でもないかな?」
「そうだね。この前会ったばかりだもんね」
あははうふふと笑う、夏目 リョウ(
gb2267)と美咲の二人。
「ともかく、誘ってくれてありがとう。嬉しいよ」
「今日は楽しもうね」
リョウは頷き、また笑う。その鼓動は自然と高鳴っていた‥‥。
やはり――な子と話している所為だろうか。
「ご招待ありがとうございます」
丁寧にぺこりとお辞儀するリリィ・スノー(
gb2996)。
その仕草にあわせて揺れる銀のポニーテールが可愛らしい。
「いらっしゃいませー!」
それに元気に迎えるちずる。
「舞浜さん、今日はよろしくお願いしますね」
「はいっ! こちらこそよろしくお願いしますっ!」
「うふふ。‥‥香苗さんと早苗さんも、よろしくね」
「うん! よろしくー♪」
「よろしくねー♪
きゃっきゃとはしゃぐ可憐な少女達。
「えっと‥‥えっと‥‥」
誰と話して良いか分からず、おどおどとしている雪代 蛍(
gb3625)。
「こんにちは。いらっしゃい、蛍」
そこへ、にっこりと微笑み、声をかける美咲。
「あ‥‥こ、こんにちは」
蛍は答え‥‥
「ごめんね‥‥あの時は、あんな事言った癖に武器を忘れちゃって、迷惑かけてさ‥‥」
謝った。ずっと、心の中でわだかまりとなっていたことだった。
「ううん、それは違う。迷惑なんてかけてないよ。蛍はちゃんと、精一杯がんばってた。それに、ヨネモトさんを助けたじゃない」
美咲は優しく、笑みを浮かべた。
「そうですよぉ。あの時は本当に助かりました」
ヨネモトが会話に加わる。
そのとき自分は意識を失っていて、後から聞いた話だったが‥‥自分がやられそうになった瞬間、蛍が敵を竜の咆哮で弾き飛ばしたのだそうだ。
ヨネモトにとって、蛍は言わば命の恩人である。
「そういうわけで、お気になさらず。失敗や間違いは誰にでもありますしねぇ」
蛍の頭を撫でてやるヨネモト。
「‥‥」
くすぐったそうにしている蛍。
心に重くのしかかっていたものが‥‥すっと溶けていくようだった。
「パーティに招待していただき、ありがとうございます」
ティリア=シルフィード(
gb4903)が頭を下げる。
「ようこそ、待っていたわ」
歩美が温かく迎える。
「片瀬軍曹‥‥」
「今日は楽しんでいってね」
軍人口調ではなく、素の口調で話してくれた。
「はい」
嬉しそうに答えるティリア。
●準備
一通り挨拶が済んだ一同は、さっそくパーティの準備を開始する。
会場――
「香澄さん、このリースをそこの壁にお願いします」
「了解したよ」
脚立に上り、下に居る冴からリースを受け取ろうとする香澄であったが‥‥
「「あっ‥‥」」
手を滑らせ、落としてしまう。そして同時に拾おうとして、手と手が触れ合う。
「‥‥さっきも思ったけど、九条の手、冷たいな」
「‥‥そうですか」
少し俯く冴。
「でも、手の冷たい人は心が温かいって言うよ」
「香澄さん‥‥!」
「ふふ」
「香澄さんの手は温かいですね。‥‥香澄さんは、手も、心も、温かいです」
「九条‥‥」
見詰め合う二人‥‥。
「テーブルクロスは白で良いとして。キャンドルは赤‥‥いや、ピンクにしておこう」
すぱすぱと手際よく飾り付けを行っている信人。
「やけにはかどってるな。慣れてるのか?」
椅子などを運んでいる有栖が話しかけてくる。
「ああ、是でも牧師だ。クリスマスなら、慣れている」
信人は首から提げたロザリオを見せた。
なるほどと頷く有栖。
「よいしょ、よいしょ‥‥っと」
ティリアはモールや電飾を使って飾りつけ。
「私も手伝うわ」
歩美が横に並んだ。
「ありがとうございます」
‥‥二人で作業をしたら、あっという間に終わった。
ティリアは歩美に確認を取った後、最後にスノースプレーを用いて壁の一部に「Merry Christmas!」と描く。
「雰囲気出たわね」
少し離れた位置から見ていた歩美が言った。
「そうですか? 良かった‥‥」
もしかしたら余計かな、と思っていたティリアはほっと胸を撫で下ろす。
(「ふおおおおおっ!!」)
焔はキャッキャウフフしながら飾り付けをしている女性陣を見て、何やら興奮中。
こう‥‥そーっとローアングルから眺めると‥‥スカートの中身も見えそうで‥‥。
おっと、これ以上はいけない。しかし、それでなくともスカートから覗く太腿とか太腿とか。
特に片瀬軍曹の黒パンストに包まれたおみ足‥‥! 冴の美脚もイイ! 美咲のほっそりとした脚! 絶対領域も! ‥‥もうたまりません。
などと、煩悩にまみれている。そこへ――
「へぶしっ!」
信人のドロップキックが炸裂。その後、逆エビ固めが決まる。
「お・ま・え・も・て・つ・だ・え」
「美咲をいやらしい目で見ないでもらおうか!」
「ぐえええ」
美咲への煩悩視線を察知し、やって来たリョウの米神グリグリ攻撃も決まっている。
苦しそうにしている焔だったが、何故か嬉しそうでもあった‥‥。
調理場――
「ふふん〜♪」
腕まくりしてエプロンを着けバンダナを巻いたヴァレスは鶏肉入りサラダを作っている。
茹でた鶏肉をほぐし、千切った野菜の上に乗せていく。
そして、デザート用のアイス‥‥ミルク、チョコ、抹茶の三種も作る予定だ。
「料理はまかせてよ」
ミズキは張り切って、クリスマス料理の目玉と言えるローストチキンを調理中。
鶏を洗って水気を拭き取り、鶏の表と中にしっかりと調味料を擦り込む。
首の部分を処理し、お尻を閉じる。中にじゃがいもと香味野菜、ピラフを詰める。
皮を引っ張り楊枝で塞ぎ形を固定し、油を塗りオーブンで焼く。
「‥‥あとは焼きあがるのをまつだけだね」
そこへ‥‥香ばしい匂いに釣られて蛍がやって来た。
「あのさ、ほたる。手伝ってくれない?」
「いいけど‥‥」
次はクリスマスケーキ、ブッシュドノエルだ。
ヨネモトはシャツの上にエプロンを着用し、コーンクリームを調理中である。
「近頃は寒いですからねぇ」
皆の身体が温まるように、と心を込めて丁寧に作業していく。
リリィが作っているのは苺のシャルロットケーキ。
スポンジを入れ物のようにして中には苺ムースを使う。
固まるまで冷蔵庫で冷やし、上に苺ゼリーを流してカットした苺を並べて、再度冷蔵庫で冷やせば完成。
「よし、後は固まるのを待つだけですね」
「美味しそうなのだ〜」
その様子をまじまじと見ている歴‥‥。
「犬飼さん、まだ食べちゃダメですからね?」
「わかってるのだ〜」
(「ホントかなぁ」)
不安なので監視することにした。
「さーてと、私もやるかね」
一通り飾り付けを終えた香澄が、サラダの調理に取り掛かる。
既にサラダはヴァレスが作っていたが人数が多いし、色々な味があったほうが良い。
香澄のは生野菜が中心のサラダだ。パインなどの果物も乗せてみる。
‥‥そこへ三門姉妹がやってきて‥‥パクッとつまみ食い!
「こらこら、気持ちは分かるけどつまみ食いは駄目だぞ。回数分ちゅーするからな」
きゃっきゃと逃げ回る三門姉妹であった。
数十分後、全ての料理が完成。続々と会場に運ばれてくる。
信人が二つのケーキの間に小物としてオルゴールを置き、ハンドルを回す。
‥‥クリスマスらしいメロディーを奏で始めた。そこへ――
「すまん。遅くなった」
高ノ宮・茜少佐が急ぎ足でやってくる。これまで書類仕事に追われていたのだ。
「手伝い‥‥は、必要無さそうだな」
「ええ、ちょうど準備が終わったところよ」
「これからパーティを始めます!」
歩美と美咲が言った。
そして、いよいよお待ちかねのクリスマスパーティが始まる‥‥。
●レッツ・パーティ!
『メリー! クリスマース!!!!』
パンパンパーンと、クラッカーの一斉発射と共にパーティが開始!
シャンパンやジュースでの乾杯の後、皆は飲んだり食べたりして騒ぎ出す。
非常に華やかで賑やかなムードだ。
「そういえば、私達α−01部隊が結成してちょうど一年くらいなんだよ」
ローストチキンを美味しそうに頬張りながら美咲が言った。
「‥‥そして、傭兵さん達に助けてもらったあの日からも」
「そっか、出会ってからもう一年経つのか‥‥じゃあ、今夜はクリスマス兼乙女分隊結成一周年パーティってとこだな」
香澄の言葉に美咲は頷き「そうだね」と笑う。
「‥‥」
信人はデジカメを持参し、研修旅行の時のように写真を取りまくる。
想い出は形に残すべきだ、というのは彼の言葉だ。
後は給仕に回り、料理を運んだり、飲み物を注いだり‥‥。
有能な執事の如き働き振りである。
「足係や後片付けは自分がいますので、今日は存分に」
茜と歩美に赤ワインの注がれたグラスを差し出す。
「ふむ、ありがとう」
「気が利くわね」
二人はワインを口にする。
「‥‥だが、今日はお前も招待客だ。楽しんでくれると、こちらとしても嬉しい」
「いえ、自分はこれで十分楽しんでいます、少佐」
「うーん、じゃあこうしましょう」
歩美は信人の手を引き、茜との間に挟んだ。
「デジカメ、借りるわね。‥‥せーの!」
セルフでパシャリ。
「これでよし」
デジカメを信人に返す歩美。
「ふふ、私達より彼女ら‥‥隊員との写真のほうが良かったか?」
茜はあごをしゃくって美咲達のほうを指す。
「い、いえ、そのようなことは‥‥光栄です」
ちょっぴり焦る信人。
「ははは、冗談だ。それに、あまりかしこまらなくてもよいぞ」
「うふふふ」
茜に釣られて、歩美も笑う。
‥‥この二人には敵わないと思う信人だった。
ヴァレスは料理を食べながらのんびりと会場をふらふらしていた。
そこで――慧子を発見。話しかけてみる。
「や〜、この前はお疲れ様♪ 模擬戦とはいえ俺等大敗しちまって、流石は強いねぇ♪」
「‥‥いや、あれは傭兵部隊が誰も機体特殊能力を使用しなかったのが大きい」
そういえばそうだった、とヴァレスは思う。
「私達は纏まった一つの部隊。そっちは急造だから‥‥前みたいな模擬戦では私達のほうが有利」
「ふむ〜、でも負けたのは確かだし」
「‥‥傭兵は、機体をある程度自由にカスタム出来るから、無意識に、機体性能に頼ってしまうのかもしれない。‥‥ごめん、言いすぎた」
「あはは‥‥」
苦笑いするヴァレス。否定は‥‥できなかった。
それは後で考えるとして――
「この前は武器持ってきてくれてありがと。慧が持って来てくれなかったら格納庫まで取りに戻ってたよ♪」
「‥‥あの時は、一刻を争っていたから」
「もしかして、心配してくれた?」
「‥‥」
慧子の表情に変化はなかったが、ほんの少しだけ動揺したように見えた。
「ミズキお姉さん、楽しいね♪ こんなの初めて♪」
「あはは、はしゃぎすぎないようにね。‥‥これ、ぼくがつくったんだ。食べてみて」
切り分けたローストチキンを皿に盛って差し出す。ぱくりと口にする早苗。
「すごい! 美味しい!」
「でしょ、がんばったんだから」
えへんと自慢げのミズキ。しかし急にしゅんとなり――
「‥‥本当はボク、来るの怖かったんだ。何だか雰囲気壊しそうでさ。‥‥それでも、仲良くしてくれるかな」
「ミズキお姉さんはミズキお姉さんだよ。嫌ったりしない、大好きだよ」
早苗はにっこりと笑った。
「ジュースも手ですが‥‥やはりアルコールも飲みたいですからな」
ヨネモトは持参したワインとシャンパンを茜と歩美に振る舞い、自らも飲んでいる。
「今年は色々ありましたなぁ」
「ふふ、ヨネモト殿、言っていることがおやじくさいぞ。忘年会ではないのだ」
「ぐはっ、これは手厳しい」
本当にダメージを受けたかのようなリアクションを取るヨネモト。少し、酔っている。
「まだ若いのだから、それ相応に振舞うがいい」
茜は笑う。
「そうよ。最初、年上だと思ったもの」
「え?」
「私は28だ。‥‥そこの歩美もな」
「ちょ、茜!」
「よいではないか。実年齢を知られたところで何も変わるまい」
「気分的な問題よ!」
茜に抗議する歩美。
「な、なんですとぉ‥‥!」
その横で密かにショックを受けるヨネモトだったそうな。
「はあはあ‥‥はあはあ‥‥」
息を荒げているガスマスクが一人。‥‥焔だ。
「女の子だらけで‥‥髪のいい匂いがして‥‥気がおかしくなりそうだ!」
などと呟いている。
「も、もう我慢できん!」
ばばっと服に手をかけ――
「宴会芸の定番、裸おど‥‥」
そこに、信人とヴァレスによるハリセンアタックが顔面に叩き込まれる。
「ブリリアント‥‥! よっちー‥‥ヴァレス‥‥俺‥‥俺、このパーティに来て良かったと思ってるヨ!」
ガスマスクがぽろりと取れ、鼻血を出して倒れる焔。その顔は実に幸せそうだった‥‥。
リョウは二種類のケーキをぱくぱくと食べている。
「美味しいケーキだね‥‥いいお嫁さんになれそうだな。所で、誰が作ったんだい?」
ミズキとリリィが反応し「ボクだよ」「私です」と答える。
その後、リョウはミニハープを取り出し、クリスマスソングを奏で、一曲披露して場を盛り上げた。
「美味しいのだ〜美味しいのだ〜」
相変わらず旺盛な食欲を発揮している歴。
「犬飼さん、たくさんありますから、落ち着いて食べてくださいね」
「わかってるのだ〜」
リリィが歴に言うが、食べる速度は変わらない。
「あ、香苗さんと早苗さんもちゃんと食べてます?」
最年少の姉妹のことも気にかける。
「「食べてるよー。リリィお姉さんのケーキ、とっても美味しいよー♪」」
との声が返ってきて、リリィは微笑むのだった。
「‥‥」
蛍は‥‥皆に混じって騒いでいたが‥‥何故か涙が溢れてしまう。
なんで、楽しいのに‥‥楽しいのに‥‥。
ぐしぐしと目を擦る。
そこへ歩美がやってきて――
「何か辛いことがあったのね。‥‥せめて今日だけは、忘れてしまいなさい」
と言葉をかけてくれた。そして、後ろからぎゅっと抱き締められる。
心の奥が、少しだけ温かくなった。
「お、お初にお目にかかります! ティリア・シルフィードと申します! よろしくお願いします! 少佐!」
茜の前にやってきて、かしこまって挨拶するティリア。
「ははは、硬くなりすぎだぞ。少佐といっても中間管理職だ。普通でよい」
「わかりました、ありがとうございます」
ティリアはぺこりと頭を下げる。
「ふむ。お前のことは聞いている。部隊の皆がよく世話になっているな」
「いえ、こちらこそ」
「‥‥あの子らにはお前のような友人が必要だ。仲良くしてやってくれ」
茜は優しげな笑みを浮かべた。
一通りパーティを楽しんだら‥‥メインイベントであるプレゼント交換に移る!
外観を統一して誰からのプレゼントかを伏せ、傭兵は分隊側から、分隊は傭兵側からプレゼントを選ぶ。
まずは傭兵から――
リョウは『手編み風セーター』をゲット!
「あ、それ私のだ」
美咲が言った。
「‥‥そっか、美咲のか。暖かそうだな」
「うん、ちゃんと着てね」
微笑み会う二人。
香澄は『レッドローズ』をゲット!
「それは私のですね」
と冴。香澄は――
「よっし!」
ガッツポーズをして喜ぶ。思いっきり狙っていたのだ。
念じて念じて念じまくった次第である。
「香澄さんなら私のプレゼントを引き当ててくれると信じていました」
「もちろんさ‥‥」
妖しげな雰囲気になる二人。
蛍は『うさぎのぬいぐるみ』をゲット!
「‥‥これ、誰のプレゼントだろ?」
だが反応は無い。首をかしげる蛍。
しばらくして有栖が‥‥
「それはあたしのだよ」
と、恥ずかしそうに言う。
「そうなんだ。大事にするね」
にこりと笑う蛍。その様子に有栖も満足したようだった。
焔は『ミニメロンぬいぐるみ』をゲット!
「なんじゃこりゃ!?」
変なぬいぐるみが出てきて驚く焔。
「それは私のなのだ〜。美味しそうな匂いがするのだ〜」
「マジか?! ‥‥マジだ!!」
くんくんと匂いを嗅ぎ、更に驚く焔だった。
リリィは『トナカイのぬいぐるみ』をゲット!
「それはわたしのですねっ」
「舞浜さんのでしたかっ! 大切にします♪」
嬉しそうに笑う二人。
ヴァレスは『野球ボールの指輪』をゲット!
「‥‥それは私の」
慧子が手を上げる。
「慧のなんだ。ありがたくもらっておくね♪」
とヴァレスは喜ぶ。
信人は『【JackKnight】ドッグタグ』をゲット!
「それはわたしのー!」
香苗が声を上げる。
「いいセンスだ、香苗くん」
香苗の頭を撫でてやる信人。きゃっきゃと笑う香苗。
ミズキは『【Steishia】スカルリング』をゲット!
「それはあたしのー!」
早苗が声を上げる。
「こっちもいいセンスだね」
ミズキも微笑む。
ヨネモトは『試作銃「グロリア改」』をゲット!
(「こ、これはもしや‥‥!」)
年甲斐もなく胸が高鳴ってしまうヨネモト。
‥‥彼は歩美のプレゼントを狙っていたのだった。しかし――
「それは私のだな」
茜が名乗り出た。‥‥あからさまにしょんぼりするヨネモト。
「どうした? お目当ての物ではなかったか」
「め、滅相も無い! 大事にさせていただきますよぉ」
ヨネモトは冷や汗を垂らす。
そこに歩美が――
「銃をプレゼントだなんて、空気を読みなさいよ」
と、茜に突っ込む。
「これは銀をふんだんに使った英国製の装飾銃だ。武器と言うよりも観賞用だな」
茜はそのように返す。
「まったく、茜らしい」
苦笑する歩美であった。
ティリアは『シルフィード』をゲット!
「綺麗な剣‥‥」
「それは私のプレゼントね」
思わず見とれるティリアに、歩美が言った。
「片瀬軍曹のですか!?」
「ええ、そうよ」
「‥‥」
微笑み合う二人を羨ましそうに眺めるヨネモト‥‥。
「お前も武器ではないか」
と、当然、茜が歩美に突っ込む。
「あはは。まあ、こっちも武器と言うより工芸品のようなものだから」
歩美はそのように言い訳。そして――
「その剣は『シルフィード』っていうの。確か、あなたの苗字と一緒よね?」
ティリアに向かって尋ねる。
「は、はい。そうです」
「あなたに当たって良かった。お守り代わりに持っていてくれると、嬉しいな」
片目を瞑ってみせる歩美であった。
そして乙女分隊側は――
美咲はリョウの『熊手』、冴は香澄の『スペシャルトリートメントセット』、有栖は蛍の『スターダスト』、歴は焔の『耳あて付きニット帽』、ちずるはリリィの『小さなオルゴール』『スノーホワイト』『初雪』、慧子はヴァレスの『【Steishia】ロンググローブ』、香苗は信人の『ねこみみふーど』、早苗はミズキの『銀のイヤーカフ』、茜はヨネモトの『懐中時計』、歩美はティリアの『クリスマスらしい絵柄のグラスセット』をそれぞれゲット。
皆、とても喜んでいた。傭兵達からも笑みがこぼれる。
●ホワイトクリスマス
パーティが終わった後は‥‥お目当ての相手を誘っての散歩である――。
リョウは美咲を誘って、一緒に敷地内を散歩。
「わあ、雪‥‥」
「ほんとだ‥‥」
並んで、夜空を見上げる二人。
はらはらと、白い雪が舞い降りる‥‥。
「綺麗〜‥‥」
彼女の横顔を見ていると、自然と鼓動が高鳴った。
‥‥リョウは雪の祝福に勇気を振り絞り、切り出す。
「美咲!」
「なに?」
彼の顔に目をやる美咲。
「聞いて欲しいことがあるんだ。あの、やっぱりこういうのは、ちゃんと言わなきゃいけないと思って‥‥美咲、俺は君が好きだ。付き合って欲しい」
目を瞑って、一気に思いの丈をぶつける。
――しばし間があって。
「ふふ、うふふ」
「美咲‥‥?」
「嬉しい。私も、リョウくんが好きだよ。付き合ってあげる」
「美咲‥‥! いいのかい?」
「うん。その代わり、大事にしてくれなきゃ泣いちゃうんだからね!」
美咲はにっこり笑ってぺろっと舌を出した。
香澄は冴を誘ってクリスマスツリーの下へ来ていた。
「大きなツリーですね」
「ああ‥‥」
「電飾が綺麗ですね」
「ああ‥‥綺麗だ。でも、九条の方が綺麗だ。‥‥九条、受け取って欲しいものがある」
「なんですか?」
首をかしげる冴に、香澄はライトハート・ペンダントを差し出す。
「わあ、ありがとうございます」
「意味はまぁ‥‥そういうこと。誰か一人に入れ込むなんて、随分久しぶりな気がするよ」
「嬉しいです」
冴は微笑む。
「ぜひ大事にして欲しいな。二つで一つの品であることだし」
香澄はレフトハート・ペンダントを見せた。
「ええ、一生大事にします」
「ああもう恥ずかしいな。‥‥こういうの、柄じゃないってのにさ」
香澄は髪をくしゃくしゃとかく。
「香澄さん、お顔をこちらへ」
「え?」
「私のほうへ、寄せてください‥‥」
「こうかい?」
――香澄の顔が自分へ近づくと同時に、冴は唇を香澄の唇に重ねた――。
「‥‥!」
「‥‥一応、お礼ということで。うふふ、私も恥ずかしいです」
お互い、耳まで真っ赤になっていた。
「香澄さん、私の部屋に来ませんか。‥‥もっと、お礼をしたいんです」
「‥‥ああ」
二人は手をぎゅっと繋ぎ、歩いてゆく。
ヴァレスは慧子を誘って屋上からツリーを見ていた。
「きっと、みんな下から見てるだろうからね。でも、たまに上から見るツリーってのも、いいと思うんだよね♪」
「‥‥うん、綺麗」
ヴァレスの言葉に、慧子は深く頷く。
「‥‥」
ヴァレスはツリーを眺める慧子の顔をじっと見つめる。
彼にはその瞳が、とても美しく感じられた‥‥。
『舞浜さんっ、散歩行きませんか?』
『行きますっ』
といった感じで二人は一緒に散歩。
途中、雪が降り始めた。
「雪ですよ、雪。ホワイトクリスマスですねっ」
「すごい! すごいです!」
子どものようにはしゃぐ二人。
「困った事があったらいつでも連絡くださいね。個人的にも力になりますから」
「はいっ、ありがとうございます」
顔を見合わせ、微笑む。
「あ、それからこれ、個人的なプレゼントです」
こねこのぬいぐるみとねこみみふーどを渡すリリィ。
「舞浜さん、ねこみみふーどは今被ってみてくださいね」
「こうですか?」
「可愛いですよ♪」
ねこみみになったちずるを思わず抱き締めるリリィ。
「なんだかもらってばっかりで悪いです‥‥」
「いいんですよ。私は舞浜さんにたくさん元気をもらっていますから」
抱き締める手に、力を込めた。
「舞浜さんは、大切な友達です。これからも、こういう風にできますよね?」
「はい、リリィさんは私にとっても大切な友達です。いつでも、歓迎します」
互いの気持ちを確認し合い、更に友情を深めた二人であった。
「ウオォォン」
「どうした、ガスマスク」
会場を片付けつつ、不気味な鳴き声を上げている焔に声をかける信人。
「いや、高ノ宮少佐を誘おうと思ったんだが、さっさと仕事に戻っちまって」
「それは仕方ない。潔く諦めろ」
ばっさり斬り捨てる信人。
‥‥しばし沈黙。
「結局、今年も最後は野郎とクリスマスかぁ」
「相手が俺で悪かったな。‥‥まあ、酒の残りもある、飲むか?」
「あいあい。飲みますよ」
こんなクリスマスも悪くない‥‥のかもしれない。
時は少し遡る――パーティが終わり、ティリアに誘われ、外に出て行く歩美。
その姿を離れたところから見つめるヨネモト‥‥。
また出遅れてしまった‥‥しょうがない、一人で散歩することにしよう。
感づかれないように、静かにその場を去る。
しかし‥‥この虚しさは何なのだろう。胸の奥が冷たい感じ‥‥。
今までに無い、切ない気持ちに苛まれながら、ヨネモトは寒空の下を一人、歩いた‥‥。
外を二人で歩くティリアと歩美。
いつの間にか降り始めた雪を眺めながら、ティリアは自身のことを語り出した。
自分の実家は人には言えないような稼業を生業としていること。
そのため、自分には昔から友人など居らず、クリスマスパーティなんてやったこともなかったこと。
しかしLHに来てからはこの様な自分を慕ってくれる人達にたくさん出会えたこと。
その人達のおかげで、ようやく自然に笑えるようになったこと。
‥‥胸の内に溜め込んでいたものを吐き出した。
「変な話をしてごめんなさい。でも‥‥軍曹や分隊の皆と出会えて良かった。これだけは伝えておきたくて」
「‥‥いいのよ。うちの部隊も、それぞれ訳ありでね。‥‥家のことなど関係なしに慕ってくれる友達を、大事にしなさいね」
歩美はティリアの言葉を全て受け止め、微笑んだ。
「それに‥‥私もあなたと出会えて良かったわ」
「‥‥ありがとう‥‥ございます‥‥」
ティリアの頬に、一筋の涙が伝った。
歩美はティリアと分かれた後、今度は蛍と散歩。
静かに降り積もってゆく雪を眺めながら歩を進める。
「雪、綺麗だな‥‥」
「そうね」
「何か‥‥眠たくなっちゃった‥‥」
うとうとし始める蛍。そのとき――
「「あっ」」
ヨネモトと、ばったり出くわした。
「待って」
気まずそうに去ろうとするヨネモトを呼び止める歩美。
「この子、眠そうなの。仮眠室まで連れて行くから、手伝ってもらえないかしら」
「‥‥え、えぇ、わかりましたよぉ」
歩美の願いを断れるはずもなく、ヨネモトは頷く。
すると――
「‥‥お父さん‥‥お母さん‥‥大嫌いなんて言って‥‥ごめんね‥‥本当は大好きなのに‥‥ごめんなさい‥‥」
「「!?」」
蛍が寝ぼけて、今は亡き両親と間違え、ヨネモトと歩美を呼んだのだ。
「ごめん‥‥なさい‥‥ごめん‥‥なさ‥‥ぃ」
そのまま眠ってしまう蛍。
「‥‥あ、ほたる。ここにいたんだ」
そこへ、ミズキがやって来た。
「つかれたのかな。しかたない、ボクが連れて帰ろう」
蛍をおんぶするミズキ。
「じゃあ、またね」
そう言い残し、去っていく。
「今日は泊まっていきなさーい! 仮眠室が使えるからー!」
と、歩美がミズキに向かって叫ぶ。「ありがとー」と声が返って来た。
――その場に、二人残されるヨネモトと歩美。
「さて、どうしましょうか?」
歩美は笑みを浮かべ、ヨネモトの顔を見る。
「どどどどどうしましょうねぇ」
慣れないことなので頭が真っ白になるヨネモト。
「‥‥少し、歩きましょう」
「は、はい」
言われるままに、二人で歩く。
「くしゅんっ!」
「お寒いのですかぁ? ちょっと大きいですが‥‥その分暖かさは保障します」
くしゃみをした歩美に、コートを貸してあげるヨネモト。
「ありがとう。‥‥ヨネモトさん、身体が大きいから頼りになるわぁ」
「そ、そうですかなぁ?」
「ええ、そうよ。うふふ」
歩美が、寄り添ってきた。
(「えぇぇ!!?」)
突然のことに、また頭が真っ白。
そのまま二人は、しばらく敷地内を歩いて回った。
ヨネモトはその間中ずっと固まったままだったそうな――。
白い雪が、しんしんと降り積もる。
この夜、結ばれたカップルや、そうでない者にも、幸せが訪れますように‥‥。