タイトル:老兵の願いマスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/21 11:51

●オープニング本文


 これはULTに送られてきたビデオメッセージである――。

 画面に、一人の老人が映し出される。
 腕まくりした軍服を纏っており‥‥鋭い眼光を持ち‥‥歴戦の兵であることが窺えた。
「突然の依頼、申し訳ない。一人の女子を救出するのに、手を貸してもらえないじゃろうか」
 老人――竹中・宗司は真剣な口調で話した。
 キメラプラントに囚われている少女がいる‥‥。
 しかし救出しようにも軍は痛手を負っていて動かせない。傭兵だけが頼りだ、と。
「内部への突入はワシらが行う。お前達には、KVでの陽動を買って出て欲しい」
 目標はキメラプラント乙27号。そこには多数の対KVキメラが配備されており、小型の要塞と言っていい。
 歩兵だけで突入するのは危険すぎた。
「ワシらがその女子を救出するまで、対KVキメラを引き付けておいて貰いたいのじゃ‥‥頼む」
 竹中は頭を下げる。‥‥数秒後、竹中は顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。
「何か知らんが引き裂かれた若い男女がおる。バグアの手によってじゃ。それを許せるか? ワシは許せん」
 机に拳を打ちつける竹中。
「ワシは悩み、苦しむ若者の姿を間近で見てきた。それを、どうにかしたいと思った。じゃが、ワシの力だけではどうにもならん。‥‥どうか、手伝ってはくれんか。この通りだ」
 竹中は、再び、深く頭を下げた‥‥。

●参加者一覧

宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
六道 菜々美(gb1551
16歳・♀・HD
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
荒神 桜花(gb6569
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

●託された想い
 キメラプラント乙27号から数km離れた地点――
 8機のKVが作戦開始を待ち、森林に身を潜めていた。
「そう安くない頭を下げられては頑張らないわけにも行きませんね。託された想い‥‥しっかり働いて応えましょう」
 蒼色のスカイスクレイパー改『ストライダー』のコクピットで意気込むのは宗太郎=シルエイト(ga4261)。そして――
「‥‥そういやぁ、対KVの虫型とはやりあったことがねぇな。要は派手に暴れりゃいいんだ、精々楽しませてもらうぜ」
 彼は戦闘機動に備えて覚醒。肌が褐色に、髪と瞳が金髪碧眼となる。外見と共に性格もワイルドに変わるようである。
「何があったのか詳しい事は知らないけど‥‥軍曹の目が必死に訴えてた‥‥。だから、救出作戦‥‥絶対に成功させてあげるんだっ!」
 最新鋭機リヴァイアサンに搭乗した、少女のような愛らしい容姿の少年、勇姫 凛(ga5063)も声を上げて自らを鼓舞する。
 バグアに囚われた少女がいる‥‥そんなことを聞いてしまったら放っておくことなど到底出来はしない。
「正規の料金で仕事を依頼しといて頭下げられると調子狂うな。‥‥生憎ただ働きは出来んが傭兵8人を個人で雇うだけの覚悟、無駄にはしないさ」
 愛機、雷電改のシートに座した龍深城・我斬(ga8283)は真剣な眼差しで正面のモニターを見つめる。
 裕福でもない個人が多数の傭兵を雇うというのはかなりの負担となるのだ。
「最初は機体の試運転のつもりだったけど‥‥あそこまで真剣にお願いされちゃ、ね」
 ヒューイ・焔(ga8434)は飄々とした口調だったが、その瞳は我斬同様に真剣だった。
 雪原迷彩のハヤブサ改『白魔』に搭乗した彼は、操縦桿を握る手に力を込める‥‥。
「ここで俺たちが時間を稼げば稼ぐほど、別働隊が自由に動ける時間が増えるわけだしな。せいぜい派手に暴れて敵さんの目をこっちに引きつけてやろうぜ」
 凛に負けず劣らずの美少年、Anbar(ga9009)が言った。乗機はシラヌイ。その琥珀色の瞳には気合いが満ちている。
「過去の報告書を読ませてもらいました。‥‥この陽動作戦、持てる力の全てを出させてもらいましょう」
 Anbarと同じシラヌイに乗るナンナ・オンスロート(gb5838)が呟く。
 別働隊のプラント突入を支援するための陽動作戦‥‥失敗するわけにはいかない。
 それに、別働隊には親友二人がいるのだ。尚更、気は抜けなかった。
「ええ‥‥。絶対に成功させます!」
 その言葉に、スカイスクレイパー改を駆る六道 菜々美(gb1551)が頷いた。
 普段は大人しい彼女であるが、覚醒状態にある今は熱血少女となっている。
(「久しぶりの機体戦闘だしな。楽しまないと駄目やないか」)
 無骨な機体、ノーヴィ・ロジーナに搭乗する荒神 桜花(gb6569)はあくまで戦闘を楽しむつもりのようである。

 ほどなく、作戦開始時刻となり、8機は前進を開始した――。

●敵・出現
 南方より進軍する傭兵部隊。プラントまであと少しと迫った時‥‥異変が起こった。
 地響きと共に、巣穴から大量の対KVキメラが吐き出される。
 敵が防戦に出てきたということは、どうやら守備エリアに侵入したらしい。
「敵部隊を目視で確認! 全機、攻撃準備です!」
 菜々美が警戒を促す。そして――敵が射程に入ると共に傭兵部隊は攻撃を開始。まず我斬機の47mm対空機関砲「ツングースカ」、Anbar機の試作型「スラスターライフル」、菜々美機のプラズマライフル、ナンナ機の強化型ショルダーキャノンが火を噴く。
 続いてヒューイ機のMSIバルカンRと桜花機の90mm連装機関砲が砲弾をばら撒き、最後に敵まで距離を詰めた宗太郎機が高分子レーザー砲を照射、凛機が試作型リニア砲で砲撃を加える。
 ‥‥8機のKVによる旺盛な砲火に、瞬く間にキメラ群の殆どが沈黙した。
「なんだかあっけないな。陽動って言うからにはもっと目立たねえと‥‥。真正面からプラントに攻撃を仕掛ける。主要施設が地下にあるなら上の建物は壊しても大丈夫だろ?」
 我斬が言うが‥‥
「いや、地上構造物を破壊すれば地下にどんな影響が出るか分からない。万が一、埋まってしまったりしたら作戦その物の意味が無くなる。止めたほうがいいって」
 ヒューイが制した。我斬は成る程と思い「了解」と答える。すると――
 再び地響き。敵の第二波が出現。先程よりも‥‥数が多い。
「っと、巣穴をつつかれて出てきやがったぜ。虫けらどもがよ」
 我斬が機体を躍らせ、対空砲を構える。
「これより敵を引き付けつつ、後退します! 陽動だと悟られないよう、派手にやっちゃって下さい!」
 菜々美が全機に通信を送る。
「了解! 喰らえっ!」
「こっちも、喰らえ!」
 シラヌイ同士、ナンナとAnbarは連携して強化型ショルダーキャノンを撃ち込む。砲弾が炸裂し、Gタランチュラ数体を吹き飛ばした。
 菜々美も負けまいと操縦桿のトリガーを引く。プラズマライフルによる的確な射撃は全弾命中し、Gスコルピオンの甲殻を焼いて絶命させる。
「これ以上お前達の好きにはさせないんだからなっ!」
 凛機、別働隊に影響が無さそうな大型の巣穴のみを狙ってリニア砲で攻撃。
「うじゃうじゃと‥‥でもグレネードは‥‥まだ早いよな!」
 宗太郎機はリロードを挟みつつレーザーを照射し続ける。
「くーくっくっくっ、次々と湧いて出てくるよ」
「こっちだ! こっちに来い!」
 桜花機とヒューイ機、バルカンと機関砲でそれぞれ射撃。
「ほうら、遊んでやるからこっちゃ来い」
 我斬機も対空機関砲で後方に火線を集中させ、追い立てるように射撃を行っている。

 8機のKVはそのままじりじりと後退し、キメラ群をプラントから引き離してゆく‥‥。


●暗転
 ある程度下がり、初期の陽動に成功した傭兵部隊は反撃に転ずる。
 別働隊による救出作戦が完了するまでの間、敵を引きつけていなければならないのだ。
 ここからが、本番である――。

 傭兵部隊は一定の距離を保ちつつ、以下の編成によって応戦していた。

 前衛:宗太郎、ヒューイ
 後衛:凛、我斬、Anbar、菜々美、ナンナ、桜花

 後衛が弾幕を張ってキメラの進軍を阻み、前衛が攻撃を集中させ敵の各個撃破を狙うという作戦だ。
 前衛は機体の損傷具合によって順次ローテーションで交代してゆく。

 前衛――
「はあああっ!!」
 宗太郎機、ブーストを最大に吹かして加速し、メガホーンに向けてロンゴミニアトでのチャージアタックを仕掛ける。
 はっきりとした赤い壁の抵抗を受け、威力が減衰。しかし――KVの兵装の中でも最高レベルの攻撃力を誇るのがロンゴミニアトである。
「貫けぇぇぇっ!!」
 減衰を気にせず、連続で打ち込む宗太郎。‥‥苛烈な攻撃に耐え切れず、メガホーンの甲殻はぶち抜かれ、身体に大穴を空けて体液を噴出しながら一体が倒れ伏した。
「猛禽の翼の切れ味、味わえ!」
 ヒューイ機、ソードウィングでスコルピオンの強酸を放つ厄介な尻尾を斬り飛ばす。
 相手が怯んだ隙に、ヒューイは次の行動に出た。
「これが俺のジョーカーだ!」
 練剣「メアリオン」の超濃縮レーザーブレードを展開し振り下ろす。それは、スコルピオンの身を真っ二つに斬り裂いた。

 後衛――
「オラオラオラー! ってね!」
 対空機関砲とファランクスを装備した我斬機が中心となり弾幕を展開。
 濃密な弾幕によりキメラ群は進行を阻まれ、身動きが取れないでいる。
「そこよっ!」
 ナンナ機が側面へ回り込み、砲撃を加える。また一体、倒れた。
 ‥‥ほどなく第二波を片付けるが、またすぐさまキメラ群が出現。
「新たな敵影を確認!」
「どんだけ湧いてきやがる‥‥」
 菜々美機からの報告に表情を歪めるヒューイ。
「まだまだこれからだぜ! 気を抜くなよ!」
 言ったのは宗太郎。傭兵部隊は事前に決めたローテーション通りに対応する。

 前衛:ナンナ・菜々美時――
「はっ! やあっ!!」
 ナンナ機、双機刀「臥竜鳳雛」を両手に持ち、次々とタランチュラを斬り捨ててゆく。
 機体各部に追加されたスラスターから陽炎を発生させつつシラヌイの高機動を生かして敵の攻撃を回避し続けるも‥‥数が多すぎた。回避ポイントがどんどん狭まっていき、ついには群がられてしまう。
「しまった!?」
「‥‥っ!」
 そこへ、菜々美機からの援護射撃。
「動かないで下さい!」
 プラズマライフルによる正確な射撃がナンナ機から一体ずつタランチュラを剥がす。
「ありがとう」
「いえ、それよりもタランチュラに接近戦を行うのは危険なようです。近づかれる前に対処を」
「‥‥了解したわ」
 ナンナのシラヌイは再び双機刀を構え、敵に向かう‥‥。

 前衛:我斬・桜花時――
「この野郎が!」
 対空砲やファランクスでの迎撃が間に合わないタランチュラはチェーンソーで斬り飛ばし、無数に飛んでくるスコルピオンの強酸を盾で受ける我斬機。
 だが強酸は盾を融解させ、装甲を直接焼いてきた。無数の強酸を喰らった我斬機は大ダメージを受けてしまう。
「ぐあああっ!!」
 防御型の我斬機には相性が悪い敵のようである――。
「くーくっくっく、死んでいく。こんなに沢山死んで逝くよ、くーくっくっく」
 一方、桜花は最初こそ、このように余裕を見せていたが‥‥今は黙々とキメラ群を迎撃している。
「‥‥多いな」
 言うまでもなく、である。機関砲とレーザーで射撃後、機槌「明けの明星」でスコルピオンを叩き潰す。そのとき――コクピットに警告音が鳴り響いた。
 次の瞬間、凄まじい衝撃が桜花機を襲う。スコルピオンに気を取られ、メガホーンの突撃を受けてしまったのだ。
「‥‥おい、おい! 大丈夫か?」
 しばし間を置いて、我斬機からの通信で目を覚ます桜花。一瞬、気を失っていたらしい。
「‥‥ああ、大丈夫やで」
「機体の損傷が酷いな‥‥動くか?」
 聞けば、メガホーンは我斬機と後衛の援護によって撃破されたようだが‥‥自機のチェックを行ってみると‥‥
「いかんな、これは」
 何とか動く――しかし――先ほどのメガホーンの突撃により桜花機は致命的な損傷を受けてしまっていた。

 前衛:Anbar・凛時――
「く、くうううっ!」
 Anbar機の横をメガホーンの突撃が掠めすぎる。今のは危なかった。
 メガホーンは後衛に任せ、態勢を立て直し、強化型ショルダーキャノンで砲撃。後続の敵の侵攻を遅らせる。
「この虫がぁ!!」
 スラスターライフルで射撃。チェーンガンの機構が次々と弾を撃ち出し、タランチュラ数体を撃破する。
 その後すぐさま接近していたスコルピオンに向かってレーザーを照射。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
 一時たりとも気は抜けない。
「まだだ、まだ負けないんだからなっ!」
 凛機、エンヴィー・クロックでスコルピオンの鋏を回避、そのままシステム・インヴィディアを起動。
「輝け蒼き燐光、リニアカノン!」
 軌跡を描いて飛ぶリニア砲の砲弾がスコルピオンに命中し、その身体を貫いた。

 善戦するも、次第に損傷が増え始める傭兵部隊。
 パイロット疲労の色も濃くなっている。そこへ――また、地響き。
「こ、これは‥‥!」
 モニターを見ていた菜々美が声を上げる。これまでで最大規模の、敵の増援であった。

●退けぬ理由
 敵の増援との戦闘は熾烈を極めた。乱戦となり、最早前衛も後衛も無い。
 加速度的に増えてゆく損傷――しかし、傭兵部隊は別働隊を信じ、戦い続ける。
「喰らえってんだよ!!」
 宗太郎機、グレネードでタランチュラの群れを焼き払うが‥‥敵は尚も止め処なく押し寄せてきていた。
「これは‥‥頑張りすぎたかねえ」
 彼の頬に汗が伝う。この尋常じゃない増援は、陽動が成功した結果と言えるが‥‥。
「凛は‥‥まだ! 凛はまだ‥‥戦えるんだからなっ!」
 凛機、リニア砲はリロードが間に合わず、レーザーとドリルを主体に戦闘。
 頼みのアクティブアーマーも傷だらけである‥‥。
「本当にどんだけ湧いて来るんだよ!!」
 ヒューイ機、練剣を多用したため残りの練力が少なく、ソードウィングも刃こぼれしてしまっている。
 回避を優先しながらレーザーを照射し、なんとか凌いでいた。
「俺はこんなところじゃ死ねないんだ!」
 Anbar機、スラスターライフルで弾幕を張る。
 あまり意味がなくとも‥‥敵を引きつけられるなら‥‥。
 彼‥‥いや、彼らの瞳はまだ、目的を見失っていない。
「当たるわけにはいきません!」
 菜々美機、回避オプションを起動してメガホーンの突撃を避け続け、合間に練剣を叩き込み、必死に攻撃を行う。
 ナンナ機、スコルピオンの強酸を避けながら、強化型ショルダーキャノンで砲撃を行う。
「二人の無事を確認するまでは‥‥!!」
 彼女の機体も相当に損傷していたが‥‥ナンナの声に答えるように、回避運動を取る。
 赤いバイザーフェイスが、点灯した。
「くっ‥‥我斬殿、もういい」
「諦めるな! ちくしょう!」
 桜花機は撃破寸前の状態まで追い込まれていた‥‥。腕部も殆ど言うことを聞かず、辛うじて機関砲で牽制射撃を加えるのみ。
 それを守っていたのは我斬機であった。盾で桜花機を庇い続けるが、いつまで持つか分からない‥‥。
「次から次へと鬱陶しい! ‥‥だがまだ退けねえ! あのじいさんの魂の叫びを聞いちまった以上はなぁ!!」
 肉薄してくるタランチュラをチェーンソーで斬り払いつつ、我斬が叫ぶ。
 そのとき――別働隊から連絡が入った。任務完了の報。そして傭兵部隊は別働隊が安全圏に脱出するまで時間を稼いだ後、凛機と我斬機が煙幕を張り、撤退を開始するのだった‥‥。