タイトル:乙女分隊・演習マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/01 22:27

●オープニング本文


 九州某基地、演習場――
 市街地戦を想定して造られたそこに、8機のS−01が展開し、模擬戦を繰り広げている。
 見れば4機対4機、二つの班に分かれているようだ。
 演習場の端に停車した指揮車内でその様子をモニター越しに見つめる、教官の片瀬・歩美軍曹の姿がある。
「状況はどうか」
 そこへ――彼女の上司である、高ノ宮・茜少佐がやって来た。
「はっ。順調であります」
「普通でよい」
 敬礼する片瀬軍曹に向かって、いつものように言う高ノ宮少佐。
「はっ。‥‥順調ね。早乙女の班が若干押されているけど、それは神楽坂と三門姉妹がいるから許容範囲」
 神楽坂・有栖はα−01部隊、通称乙女分隊きっての突撃馬鹿で、三門姉妹に至ってはかなりのじゃじゃ馬だ。
 乙女分隊の隊長でありA班の班長である早乙女・美咲(gz0215)は苦労していることだろう。
 最初は突撃ばかりして即撃破され、毎回大目玉だった。
 しかしそれもシミュレーター訓練を終え、数度実機訓練を経験した今、かなり改善してきている。
 実際、九条・冴率いるB班と互角に渡り合っているのが証拠だ。
「ふむ。なかなかの仕上がりのようだな。だが‥‥」
 高ノ宮少佐はあごに手を当てる。
「まだまだだ。実戦を経験してみなければ判らん」
 そこは生身での戦闘と同じである。とは言うものの、実戦にはまだ早い‥‥。
「傭兵との模擬戦が良いかと思うのだけれど」
「む。そうか。それがいい。では、手配しておこう」
 再びモニターに目をやる高ノ宮少佐。
「‥‥本来なら、殺し方ばかり上手くなっても褒められるものではないのだがな。特に、彼女らの年齢では」
「軍人だから仕方ない、戦時中だから仕方ない、というのは大人の言い訳ね。‥‥ねえ、茜。私はね‥‥本当は学校の教師になりたかったの」
 視線を下げ、話す片瀬軍曹。高ノ宮少佐は少し驚いたように答える。
「‥‥お前が教師か。ふふ、そうだな。似合っていると思うぞ」
「そう? なら‥‥戦争が終わったら‥‥やり直してみようかな。‥‥なんて」
 顔を上げ微苦笑を浮かべる片瀬軍曹の表情に、高ノ宮少佐は複雑な思いを抱くのだった。

●参加者一覧

百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

●KV部隊へ
 傭兵部隊と乙女分隊の一同はハンガーに集まっていた。
「最初に乗ったKVがR−01だったかな。傭兵なりたての頃を思い出すねぇ‥‥」
 昔を懐かしんでいるのは百瀬 香澄(ga4089)。
「再びこれに乗るとは思ってなかったけど、いい機会だ。一つ初心に帰って、演習のお相手致しましょう」
 ニヤリと笑みを浮かべる。一方、夜十字・信人(ga8235)は――
「KV戦か‥‥あまり好きじゃないが」
 相変わらずの仏頂面である。歩兵根性が染み付いている男であった。
「訓練の成果、拝見させてもらうよ♪」
 その横でヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)が乙女分隊の面々に挨拶していく。
「戦争とは言え‥‥育つ力はかくも素晴らしいものですねぇ」
 感慨深げに呟く、ヨネモトタケシ(gb0843)。
 乙女分隊の成長には著しいものがある。可能な限り力添えをしていきたい所だ。
 そして、片瀬軍曹の評価が合格点であれば全員に食事を奢ると提案。
「差し支えなければ‥‥また御一緒に飲みたいですしねぇ」
 にこやかに笑うヨネモト。
「やぁみんな、久しぶり。KVの扱いも慣れてきたって聞いてるよ」
 爽やかに挨拶する夏目 リョウ(gb2267)。
「む、食事か‥‥なら、俺達は別に今度の休みに、一緒に街に出かけて、今回の模擬戦で負けた方が食事を奢るというのはどうかな?」
 と、美咲に言ってみる。それに美咲は「うん、いいよっ」と微笑み、答えた。
「さあ、君達の実力‥‥見せてもらうよ」
 蒼河 拓人(gb2873)は先輩として教えられることは全部教えなければ、と意気込む。
「お互い頑張りましょうね」
 ちずると、ぎゅっと握手を交わすリリィ・スノー(gb2996)。
「以前に生身の模擬戦をしたことはありますが、今回はKVなんですね。どういう戦いをするのか、手合わせが楽しみです」
 言ったのはティリア=シルフィード(gb4903)。勿論、訓練とは言え勝負なのだから負けられない。

 そうして雑談しているうちに時間となり、一同はKVに搭乗。いよいよ模擬戦が始まる――。

●模擬戦
 スタートの合図のサイレンが鳴り、傭兵部隊は行動を開始。
「これがR−01か‥‥流石にコックピットが狭いな」
 少しぼやくリョウ。R−01はAU−KV登場以前の機体なのだから致し方ない。
「さてと、お手並み拝見と行きますか」
 香澄が言い、傭兵部隊は二手に分かれる。

 A班:信人、ヴァレス、ヨネモト、拓人
 B班:香澄、リョウ、リリィ、ティリア

 以上の編成。香澄、ヨネモト、リョウが前衛装備。ティリア、ヴァレスが中衛装備。リリィ、拓人、信人が後衛装備である。
 A班が右、B班が左のビルの陰などに隠れて待ち伏せし、挟撃を狙うという作戦だ。

 乙女分隊は前衛、中衛、後衛に分かれて前進。

 伏せて待機中の傭兵部隊。
(「狙撃に適した位置。高さがあり、こちらが背後を取る事を予測し狙撃出来る場所‥‥」)
 ヴァレスはコクピットで思考をめぐらす。
「‥‥美咲がこちらの手を読まんとも思えん。斥候に出る。いいか?」
 皆に尋ねるヴァレスであったが‥‥
「いや、見つかってしまったら伏せている意味が無くなる。このまま待機したほうがいい」
 拓人からの返答。ヴァレスは少し置いて「了解」と言った。
「‥‥! 接近する敵影があります! こちらにはまだ気付いていないようです!」
 低いビルの上、砲撃ポイントに隠れているリリィ機からの通信。
「魚は網にかかるかな‥‥?」
 香澄はほくそ笑んだ。

 乙女分隊は尚も前進。
 先行する前衛――有栖機と早苗機が傭兵部隊の射程に入った!
「かかった!」
「もらう!」
 ガトリング砲を射撃しながら、左右の物陰から飛び出す香澄機とヴァレス機。
 有栖機と早苗機はすぐさま反応し、盾で受けつつレーザーで反撃を行ってきた。
 二機は大ダメージを受けてしまう。
「くっ! やるねえ」
 一旦下がろうとする二機だったが‥‥そこへ、砲弾が飛来!
「狙撃だと?!」
 後方のビルの屋上に陣取った後衛――ちずる機と香苗機の狙撃だった。
 ダメージ自体は小さかったが、大きな隙が出来てしまう。
「ミサイル一斉発射!」
 香澄機とヴァレス機の位置を特定した美咲が間髪置かずに指示を出す。
 中衛――ブレス・ノウを使用した美咲、冴、歴、慧子機から無数のミサイルが射出される。
 二機にミサイルの雨が降り注ぐ。‥‥ヴァレス機、香澄機、戦闘不能。
「ちいっ‥‥!」
「なんてこった」
 二人が狙われたのは乙女分隊に最も近い位置に居た為である。

 予期せぬ反撃を受けた傭兵部隊は態勢を立て直し、再度攻撃。
 信人機、有栖機に向けて滑腔砲で砲撃。
「いけ、ヨネモトの旦那!」
「了解ですよぉ」
 それに紛れ、ヨネモト機がガトリング砲を射撃しつつ接近。槍を突き出す!
 全て盾で受ける有栖機だったが‥‥耐え切れず、戦闘不能。

「当たれ!」
 リリィ機、早苗機に砲撃。命中するもダメージは軽微。
「なかなかやりますね。でも!」
 ティリア機、ガトリング砲で射撃後、ミサイルを発射。着弾。早苗機、戦闘不能。

「初撃で二機を持っていくとは‥‥。これ以上、好きにはさせない」
 拓人機、射程ギリギリから滑腔砲を冴機に向けて放つ。だが距離があったため、数発しか命中せず。中程度のダメージ。

「勝手が違うとはいえ、俺は簡単にはやられないさ‥‥そこだっ!」
 リョウ機は装輪走行で美咲機に接近、槍での突きを繰り出す。中程度のダメージ。

 前衛を失った乙女分隊。美咲は二手に分かれて対応させる。
 冴機と歴機、ヨネモト機に接近し、タイミングを合わせてミサイルを発射!
 ヨネモト機は回避行動を取るも避けきれず‥‥戦闘不能。
「むむ!? これは‥‥!」

「よくもやってくれたね、リョウくん!」
 美咲機と慧子機、リョウ機に向けて反撃のレーザー。二機からの照射を受けたリョウ機は沈黙、戦闘不能。
「美咲、ほんとに力をつけたんだね‥‥」
 嬉しいやら悔しいやら、苦笑いするリョウ。

 ちずる機、香苗機、前進しSライフルで信人機、ティリア機をそれぞれ狙撃。命中。ダメージは軽微。
「当ててくるとはな‥‥」
 あまり好きではないと言ってはいるが、信人の操縦能力は中々の物である。

「だが‥‥もらった!」
 信人機がちずる機を捉える。滑腔砲で全力砲撃。
「きゃああ!?」
 全弾命中。ちずる機、戦闘不能。
「これも勝負だ。すまんな、ちずる君」

 ティリア機、香苗機に接近。
「やあああっ!」
「!」
「‥‥と、見せかけて。ミサイル発射!」
「!?」
 槍で攻撃すると見せかけてのフェイント。ミサイルを受けた香苗機、戦闘不能。

 拓人機、再度冴機に滑腔砲で砲撃。致命的ダメージ。
「くっ‥‥、まだ!」
 しかし撃破には至らない。
「粘るね‥‥」

 リリィ機、美咲機に砲撃を加える。
「当たって下さいー!」
 命中。だがダメージは軽微。

 傭兵部隊の猛攻を耐え凌いだ乙女分隊。
 美咲はディスプレイに表示される敵味方の位置を確認し‥‥口元に笑みを浮かべた。
 数の上では互角。そして、切り札も残っている。
「冴機を除く全機、ブレス・ノウを使用し、ミサイル一斉発射!」
 美咲に指示で命中の上がったミサイルが射出され、信人、リリィ、ティリア機に襲い掛かる。無数のミサイルは目標を捕らえ、次々と着弾。傭兵部隊三機、戦闘不能。
「やってくれるじゃないか‥‥」
 警告ランプの灯ったコクピットの中で、信人はシートに乱暴にもたれかかった。

「トドメはいただきます」
「ぐ、ここまで押されるとは‥‥!」
 冴機、さっきのお返しとばかりに拓人機にレーザーを照射。‥‥拓人機、戦闘不能。
「模擬戦終了。α−01部隊の勝利」
 指揮車の片瀬軍曹から通信。悔しそうな傭兵達と、嬉しそうな乙女分隊の面々。
 そのとき――
「なに‥‥?」
 地殻変化計測器に反応があったのだ。
「アースクエイク?! 近い‥‥!」
「どうしたんですか、軍曹。何か異常でも?」
 片瀬軍曹に尋ねるティリア。そして――しっかり体感できる振動と共に、基地を囲むようにアースクエイクが数体出現。対KVキメラを吐き出し始めた。
「通常のアースクエイクより大きい? 新型‥‥?! 総員、模擬戦は中止。第一種警戒態勢に移行せよ! これは訓練ではない!」
 片瀬軍曹が、叫んだ。

●奇襲
「な、なに? 何が起こっているの?」
 あちこちで轟く射撃音や爆発音。
「どどどどうすれば‥‥」
 乙女分隊のメンバーは突然の出来事に混乱している様子である。
「基地各所に敵が出現。即応部隊が現在交戦中だ。総員、即時後退。ハンガーまで戻り実戦兵装に換装せよ」
 片瀬軍曹からの通信。
「聞こえたな? 片瀬軍曹の指示に従うんだ。後退しろ」
 言ったのはヴァレス。
「で、でも‥‥」
 美咲はまだ動揺している‥‥。
「指揮官が部下の前で動揺した姿を見せるな! そして、自分の役割を忘れるな! 皆を助けたいと思うなら下がるぞ!」
 拓人が一喝。美咲は「りょ、了解!」と答えた。
「ここは任せて先に行け‥‥なんてね。先輩として、そして九条の手前、たまにはいいトコ見せないとな」
 さっきは真っ先にやられてしまったし‥‥と香澄が言う。
「香澄さん‥‥」
 冴が小さく声を漏らす。
「なに、此処は先輩らに任せておくと良い」
「ああ。美咲、他のみんなもここは俺達に任せて、武器を取りに戻るんだ。‥‥大丈夫、簡単にはやられないさ」
 信人とリョウからの通信。
「え、皆、残るの‥‥?」
「誰かが残って足止めしなければ、ハンガーがやられてしまいます」
 真剣な口調のリリィ。そのとき、再び大きな振動。
 一同の目の前に、アスファルトを突き破り地中から通常よりも一回り大きなアースクエイクが出現、次々と対KVキメラを吐き出した。
「急ぐんだ!!」
 拓人が後退を促す。
「‥‥了解! α−01部隊全機、後退!」
 美咲は声を張り上げた。

 残ったのは香澄、信人、ヴァレス、ヨネモト、リョウ。
 5機が抑えている間に拓人、リリィ、ティリアと乙女分隊は後退した。
「くっ!」
 Gスコルピオンの鋏を盾で受け止める香澄機。
「基地から援軍は来ないのか!」
「即応部隊は他のエリアの敵で手一杯。演習場まで戦力は回せない。もう少し持ちこたえて」
 片瀬軍曹からの通信。
「難儀なことだね! ったく!」
 槍を振り被り、香澄機は鋏を弾く。ダメージは与えられなくとも‥‥。
「軍曹、指揮車は大丈夫なんですか?」
 リョウが問う。
「演習場の外れだからまだ攻撃は受けていないわ」
「危険です! 下がって!」
「ありがとう。でも管制がいなくなれば場は余計に混乱する。しばらくは留まるわ」
「くれぐれも、ご無理はなさらないで下さいよぉ」
 心配そうに言うヨネモト。「了解」と片瀬軍曹は答える。

「近づかれたらひとたまりも無いな‥‥」
 遮蔽物から遮蔽物に移動しつつ、ガトリング砲でペイント弾をばら撒く信人機。
 こうしてなんとか、Gタランチュラから逃れていたが‥‥
「ちょこまかと‥‥かなり速いですなぁ!」
 信人機を狙う敵を盾で防ぎ、押し戻し、槍を思い切りぶつけ距離を取る。
 ヨネモト機とペアを組み、なんとか対応している次第であった。

「約束したからな‥‥やられるわけにはいかないんだよ!」
 リョウ機は盾と槍を駆使し、受け流して耐え続ける。
 その背後にはヴァレス機。振り被られたGスコルピオンの鋏を避ける為に跳躍。
 しかし着地した所にはもう一体のGスコルピオンが! メトロニウムをも砕く鋭い鋏が――ヴァレス機のコクピットに迫る。
「しまっ‥‥!?」
 死を覚悟した瞬間、Gスコルピオンの鋏が爆発し、吹き飛んだ。
「‥‥なんだ?」
「皆さん、ご無事ですか?!」
 後方を確認すると、そこには――リリィ機の姿! ティリア機や拓人機、乙女分隊各機も追随している。
「間に合ってくれたか‥‥」
 胸を撫で下ろすリョウ。
「武器を交換するまで時間を稼ぎます!」
 ミサイルを放ちながら前に出るティリア機。Gスコルピオン一体が爆散した。

「お待たせしました」
「感謝ですよぉ」
 リリィ機から槍を受け取るヨネモト機。
「よっちー兄貴、お待たせ」
「おう」
 拓人機からガトリング砲を受け取る信人機。
 その後、模擬戦兵装をパージ。少しでも重量を軽くする。
「香澄さん、どうぞ」
 冴機が香澄機に槍を渡す。
「九条‥‥感謝するよ」
「いえ、香澄さん達が持ちこたえてくれたおかげですから」
 そしてヴァレス機は慧子機から、リョウ機は美咲機から、それぞれ武器を受け取る。
 一度下がるつもりの者もいたが‥‥このまま敵を殲滅してしまったほうが良い、ということになった。

「背中を見て覚えるか、横に並び立ち学ぶか。それは、君達が決めてね」
「OK、今日の最終コマは実弾訓練だ。今までの成果、見せてみろっ!」
 拓人と香澄が言った。ごくりと唾を飲む乙女分隊のメンバー。
「了解! α−01部隊各機、傭兵部隊と協力し、敵を殲滅する!!」
 澄んだ美咲の声。そして虫型キメラに有効な非物理兵装を持つ乙女分隊各機を主軸とし、再び戦闘が開始される。
「美咲には、指一本振れさせないぜ!」
 美咲機の隣で槍を振るうリョウ機。彼は盾役を買って出ていた。
 そのため、敵の攻撃を集中的に受け損傷が増大していたが‥‥だからなんだ。――な子を守れなくて、何が男だ。
 ‥‥リョウは一心不乱に操縦桿を動かし、機体に槍を振るわせ続けた。

●戦いを終えて
 その後‥‥数十分ほどで演習場の敵は片付いた。しかし‥‥
「‥‥」
 立ち入り禁止のテープがぐるぐると巻かれたR−01の残骸の前で、座り込んでいるリョウ。
 美咲を守るためとは言え‥‥無茶をしてしまった。機体を壊してしまうなんて‥‥まだまだ未熟だ‥‥。
(「軍曹は故意に壊したのではないから賠償責任は無いと言っていたけど‥‥そういう問題じゃない」)
 己の力の足りなさを痛感する。風が吹き、リョウの前髪を揺らし、ボロボロとなった演習場に吸い込まれてゆく。そこへ――
「まだここに居たの?」
 背後から、片瀬軍曹の声。
「‥‥はい」
 リョウは振り向かずに答えた。
「よくまあこんなに、盛大に壊したわね」
「‥‥」
「でも、それで生きていたんだからすごいわ」
「‥‥」
「それに、あなたには感謝してる。早乙女を守ってくれてありがとう」
「‥‥!」
「私の教え子を守ってくれてありがとう」
「そんな、俺は‥‥好きな人の為に必死に戦っただけだから‥‥」
 しかし、返答はなかった。
 何故だろう。やっぱり怒っているのかな。
 リョウは恐る恐る振り向いてみる。するとそこには――





 顔を真っ赤にした、美咲の姿があった。
「!!?」
「‥‥や、約束」
「え?」
「約束、守ってね。勝ったんだから、守ってね! 絶対!」
 そう叫ぶと、美咲は足早に去っていった。
「‥‥」
 取り残されるリョウ。
(「若いって、いいわねぇ〜」)
 物陰に隠れて様子を窺っていた片瀬軍曹だったそうな。