●リプレイ本文
●それぞれの想い
歩兵中隊がHBバグズの襲撃を受けたという情報を聞きつけ、依頼を受けた傭兵達。
移動用のトラックから降車し、現場である乙11号プラントへとひた走る――。
「相変わらず、彼らのやることは‥‥。いえ、今は目の前のことに集中しましょう」
エメラルド色のおさげ髪を揺らして地を駆けるのはノエル・アレノア(
ga0237)。
一方、ベル(
ga0924)は強敵と相対したことで自分の力不足を痛感し、己を鍛える為にあえて困難な任務に身を投じている次第だ。
(「傭兵になって2年か。この力が必要とされるのなら、何処までも戦い続けよう」)
心の中で、そう思う愛輝(
ga3159)。家族亡き今、自分を必要としてくれる人が居るならば‥‥。
「無駄に長生きしやがって。二度も舐めさせられた辛酸の返礼とその他諸々の為に、今度こそ終わらせる!」
気合いの入った声で言ったのは九条・縁(
ga8248)。今度こそリベンジだ。
「あの個体だけ仕留め切れずにここまで来てしまいました‥‥。三度目の正直、とも申します‥‥今日こそ、私たちの手で引導を渡してやらなければ」
きゅっと口元を引き締める遠倉 雨音(
gb0338)。
(「――それが、あの個体の基にされた人への一番の手向けになるでしょうから」)
濡れ烏の髪が風になびく。
「HBバグズってどうやって作るんだろ? 人間ベースでしょ? 強化人間とか能力者をベースにしたらもっと強いのができるのかな。責任者とかいたらどうやって作ってるのか聞いてみたいよね!」
雨音の想いを知ってか知らずか、風花 澪(
gb1573)が無邪気に言う。
その様子に雨音は眉をひそめた。思わず抗議の言葉が漏れそうになったが、思い留まる。今回の作戦は傭兵同士の連携が重要となる。ここで和を乱すわけにはいかない。
そんな中、Y・サブナック(
gb4625)は皆より少し離れて走っていた。あまり仲間と交流を持つつもりは無い様である。少し心配だ‥‥。
「若輩者ですが、よろしくお願いします」
頭を下げる十六夜 心(
gb8187)。自分は未熟者‥‥前に出れば皆の足を引っ張ってしまう。せめて後方支援では役に立ちたかった‥‥。
●初撃
しばらくして、傭兵達は乙11号プラントに到着。
――辺りには銃声と怒号と悲鳴が轟いていた。今まさに、HBバグズによって兵士達の尊い命が失われているのだ。
「‥‥何の因果かな」
黒川丈一朗(
ga0776)は複雑な心境を抱きつつ、子どもの頃の記憶を胸に、【ライオット・ギア】のヘルメットを被り‥‥覚醒。同時に、纏っていたコートを脱ぎ捨てる。その下には【ライオット・ギア】の戦闘服を着用していた。丈一朗の覚醒に反応し、黒かったものが赤く変色していく。その姿はまさにアニメ、もしくは特撮的なヒーローである。
「‥‥行くか」
言いながら丈一朗はヘルメットのバイザーを降ろす。
ほどなく、兵士達を襲っていたHBバグズが傭兵達の存在に気付き、反転しこちらに向かってきた。反応したのは‥‥5体のM型。
S型が突出してくることを予想していたが実際は違った。しかし今更段取りを変更することは出来ない。
「皆、目を閉じててね!」
M型5体に向けて閃光手榴弾を投擲する澪。数秒置いて、フラッシュ! それが合図となって傭兵達は一斉に銃を構える。
ノエルはライフル、丈一朗はカプロイアM2007、ベルは小銃「シエルクライン」、愛輝は小銃S−01、藤村 瑠亥(
ga3862)と縁はエネルギーガン、はヒューイ・焔(
ga8434)は番天印、雨音と赤崎羽矢子(
gb2140)はSMG「スコール」、サブナックはスコーピオンと小銃S−01で一斉に射撃を行う。嵐のような銃声が巻き起こった。
ほぼ同時にM型5体も一斉に強酸を吐き出す。
‥‥弾着の煙が晴れると、濃密な弾幕を受けた中央の1体が蜂の巣となって倒れた。
丈一朗、ベル、愛輝、瑠亥、縁の5名は強酸を食らってしまい、ダメージを受けている。
「あっちぃんだよ!」
縁はすぐさま活性化で回復。さて、ここからは二つの班に分かれて行動だ。
A班(S型対応):丈一朗、愛輝、縁、雨音、羽矢子、心
B班(M型対応):ノエル、ベル、瑠亥、ヒューイ、澪、サブナック
すかさずB班が動く。銃撃を加えながらM型を引き付ける。
道が開いたのを確認すると、A班は奥に佇むS型の方へ向かった‥‥。
●VSハイブリッドバグズM型
「やあああっ!」
瞬天速を駆使しながらロエティシアの爪を叩き込むノエル。
「貴様らの力、見せてもらう」
回避重視の戦法で二刀小太刀「疾風迅雷」を用いて戦う瑠亥。
「せぇぇぇいっ!」
ハミングバードを軽快に振るうヒューイ。
「えーい! 死んじゃえー!」
大鎌「ノトス」の間合いで攻撃を行う澪。
「てめぇら‥‥うぜぇんだよ」
リューココリネと棍棒を巧みに操るサブナック。
「同タイプが数体‥‥量産型‥‥?」
側面から拳銃「黒猫」とフォルトゥナ・マヨールーで援護射撃を行うベル。
B班の面々はなるべく多数で一体を狙うようにしていたが、敵も中々思うようにさせてくれない。M型4体に満遍なく中程度のダメージを与えられただけだ。
M型2体が動く。目標は‥‥瑠亥! 素早い動きで距離を詰め、連続で拳を放ってくる。回避を試みる瑠亥であったが、避け切れない! 小太刀で受ける。ずしんと思い衝撃。
「くっ、素体が強力だと量産型でもこれか‥‥厄介だな」
回避が困難と判断した彼は距離を取る。こうすれば、敵の攻撃手段は酸のみになるはず。
自ら2体に挟まれる形を取り同士討ちを狙ったが、M型2体は位置を変え十字砲火を行ってきた。避けることが出来ず強酸を何度も受けてしまう瑠亥‥‥。身を焼かれ、激痛が走る。
「ぐあああっ!?」
M型のもう1体は‥‥ベルの銃撃を煩わしく感じたのか、前衛を強引に突破し、ベルに肉薄。
「‥‥!? だとしても‥‥!!」
至近距離で貫通弾の銃撃を加える。それは甲殻を削ったが‥‥致命傷には至らず打撃を何度も食らってしまう。
「がはっ‥‥!」
M型の拳が、ベルの鳩尾に深く入った。胃液を吐き出し、がくりと動かなくなるベル。戦闘不能。
「ベル!? このぉ!」
追いついたヒューイがM型を番天印で狙撃。狙いは先程ベルが銃撃を加えた部分。命中し、ダメージを与える。
M型はまたも素早く移動。ヒューイの目の前まで距離を詰めてきた。赤く光る複眼が‥‥ヒューイを捉える。
「‥‥っ!」
何度も繰り出される打撃。ヒューイは片手で庇いながら甲殻が割れた部分に銃口をねじ込んで‥‥決死の0距離射撃。
――M型の1体が、倒れた。だがヒューイも相当のダメージを受けている。何度も打撃を受けた左腕が酷く痛む。
「折れた‥‥かな」
もう1体のM型は澪と鍔迫り合いを行っていた。
「きゃ! なんなのよ! もう!」
大鎌を振るう澪。避け続けるM型。大ぶりな大鎌では中々命中しなかった。
放たれる強酸を、転がっていた兵士の死体を大鎌で突き刺して盾にして防ぐ。‥‥兵士の死体は燃え上がり、原型を止めなくなる。澪は全く気にしなかったが‥‥。
――その内、懐に潜り込まれてしまう。
「なっ‥‥!?」
拳が容赦なく澪を打ちつける。
「きゃあああっ!!」
最後に大きく打ち上げられ、澪の華奢な身体が宙を舞い、どさりと落ちた。戦闘不能。
だが、M型の肩には大鎌が突き刺さっていた。澪の抵抗の証‥‥。大鎌を引き抜き、投げ捨てるM型。傷口から体液が滴る。
「てめぇ‥‥! なにやってんだよ!」
そこへやってくるサブナック。銃撃を加える。距離を取るM型。そのまま強酸と銃弾の激しい撃ち合いになった。そして――
「‥‥ち‥‥くしょう」
相打ち。強酸に全身を焼かれたサブナック、戦闘不能。
「ご無事ですか?!」
ノエルが瑠亥の元へ駆けつける。M型1体に攻撃を加え、引き離す。
「なんとか‥‥といったところか。そろそろまずい」
瑠亥の身体はあちこち焼け焦げている。そこへ――
M型2体に銃弾が打ち込まれる。一瞬、怯むM型。
「なんだ‥‥?」
そこにあったのはヒューイの姿。
「俺を忘れないで欲しいな。生憎と、死ににくいだけが取り柄でね」
ヒューイは笑うが、左手をぶらぶらさせていた。こちらも満身創痍。ギリギリ戦える程度だ。
3人は目を見合わせる――。
「‥‥行くぞ!」
瑠亥の声で、再び動き出す。ヒューイの援護を受けてノエルと瑠亥が接近を仕掛ける形だ。
M型の拳と、瑠亥の二刀小太刀が打ち合う。
「貴様らなどに‥‥! やらせはしない‥‥!」
拳を頬に受け、血を吐く。くらくらするが、倒れるわけには‥‥。
「俺は‥‥っ!!」
エネルギーガンで牽制し、そこへ瞬天速を使用し一気に飛び込み、二刀小太刀を突き刺す。直前に吐き出された強酸が肩を焼いた。――M型1体を撃破。
「‥‥ぐ、は‥‥」
しかし瑠亥も戦闘不能となる。
「瑠亥さん!!」
ノエルは瑠亥の名を叫ぶ。‥‥次々と倒れてゆく仲間達。そんな光景に――心優しいノエルは我慢ならなかった。
「‥‥お前ら‥‥」
怒りに、身を震わせる。
「お前らぁぁぁっ!! 絶対に、絶対に許さない!!」
ノエルは額から血を流しながら瞬天速で一気にM型へと距離を詰める。
そこへ、ヒューイの正確な狙撃が入る。M型の甲殻の一部が砕けた。
「この拳は、皆の想いだっ!! 貫けぇぇぇっ!!!!」
急所突きを使用。――ノエルの光輝を纏った拳が打ち込まれ‥‥M型の、甲殻が砕けた胸部を貫いた‥‥。
●VSハイブリッドバグズS改弐型
B班がM型と激戦を繰り広げていた頃、同じくA班も――
心の練成強化が付加された武器で戦う前衛の4名。丈一朗、愛輝、羽矢子、縁。
「愛輝! 赤崎!」
「了解です!」
「てりゃあああ!」
丈一朗、愛輝、羽矢子は移動スキルを生かして入れ替わり立ち代り、ヒットアンドアウェイでS型に対し攻撃を行う。中程度のダメージ。
「ぐぅ!!」
縁はS型の蹴りをクロムブレイドで受ける。後退させられるほどの凄まじい衝撃。
(「コイツの蹴りは飽きるほど受けたが‥‥更に威力が増してやがる‥‥!」)
だが、退くわけにはいかない。
「この野郎!」
エネルギーガンを連射。頭部や胴体を狙ったそれは、腕や脇腹に命中し、少ないながらもダメージを与える。
「速い‥‥でも!」
雨音は心を護衛しつつ、やや後方から援護射撃を行っていた。
鋭覚狙撃を使い、真デヴァステイターで射撃。S型の行動を制限する。
「雨音さん!」
心が声を上げる。後方ゆえの広い視野で状況把握に努めていた彼は一瞬の隙を見出した。
丈一朗と愛輝の同時攻撃を避けたS型が続く羽矢子の攻撃を盾で受け、一瞬だけ‥‥ほんの一瞬だけ、動きを止めたのだ。
それを聞き逃さず、雨音は影撃ちと急所突きを使用した貫通弾による銃撃を放つ。――回転する銃弾が命中し、甲殻を少し削った。
S型もやられてばかりではない。神速の蹴りと打撃で前衛4人を蹴散らし、飛翔。後方に居る心を狙って滑空と共に蹴りを繰り出す。
「‥‥!?」
その前へ出る雨音。真デヴァステイターで受け止めるが銃は跳ね飛ばされる。雨音自身も吹き飛ばされる。‥‥すぐ受け身を取って立ち上がり、再び心の前へ。試作型機械剣を抜き応戦の構えを見せ、閃光手榴弾を投擲。閃光を警戒したか、S型はすぐさま飛翔し後方へ下がった。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
「雨音さん! 大丈夫ですか?!」
「大丈夫、ですよ」
心配そうに問いかけて来る心に向けて雨音は微笑んだ。銃を拾って援護に戻る。
――本当は身体が悲鳴を上げていたが、弱音を吐く訳にはいかなかった。
丈一朗は試作機械拳「烈空」、愛輝は機械剣αでS型の盾を狙い、攻撃を仕掛ける。
が、普通に受け止められた。すぐに反撃の回し蹴りが来る。踵に付いた鋭い鎌に切り裂かれ、丈一朗と愛輝は手痛いダメージを受けた。鮮血が飛び散る。
そこで、S型が左腕を突き出した。機械化された腕――盾の部分が持ち上がり、砲口が出現。
「‥‥!」
危険を感じた縁が妨害に入ろうとするが間に合わなかった。眩い閃光がA班の全員を包み込む。雨音は咄嗟に、心を庇った――。
「がはっ‥‥くそがぁ‥‥」
身体中から煙を立ち昇らせ、吐き捨てる縁。衣服は焼け焦げ、ボロボロだ。見れば全員が跪いている。例外なく、大ダメージを受けた様子である。
「プロトン砲だと‥‥」
片膝をつきながら愛輝が言った。‥‥その通り。S型の盾には小型プロトン砲が内蔵されていたのだ。
「雨音さん! 雨音さん! 目を開けて下さい!」
心の目の前には横たわった雨音の姿。呼吸を確認すると――息を――していない。
「くそう! くそう! 戻ってきて下さい!!」
自分の所為で、自分を庇った所為で‥‥心は泣きながら必死に、練成治療を施す。
少しして――
「‥‥かはっ」
雨音が、意識を取り戻した。
「雨音さん!!」
「‥‥良かった、無事だったんですね‥‥」
雨音は微笑む。
「なんで俺なんかを庇って!」
「それが‥‥私の役目だからですよ。心さんには心さんの役目があるように」
雨音はそれだけ言う。心は頷き、涙を流したまま再び練成治療を施した。
「これだけの威力だ。連射できるとは思えん。いくぞ、愛輝!」
「勿論ですよ。こんな奴を放っておいたら大変なことになる」
丈一朗と愛輝は立ち上がる。S型を見ると、動きが若干鈍くなったようである。大火力武器を無理矢理搭載した為の不具合だろうか。いずれにせよ、好機。
――そして、瞬天速で距離を詰め、疾風脚を使い、同時攻撃! ‥‥拳と機械剣を受けた甲殻に、亀裂が入る。
S型の反撃。鋭い棘を生やした膝による蹴りが愛輝の腹部を貫いた。
「ぐあっ‥‥!!」
血反吐を吐き、倒れる愛輝。続いて丈一朗に向かうS型。打撃、打撃、蹴り。連続攻撃が繰り出される。避けることが出来ず受けるしかない。そのガードも崩されてしまう。S型は跳躍。鋭い鎌による踵落とし。胸から腹まで切り裂かれ倒れ伏す丈一朗。
次にS型は迷わず縁に狙いを定め、向かってくる。そこで待ち構えていたのは羽矢子であった。瞬速縮地で突っ込み、紅蓮衝撃を使用したハミングバードを一閃。S型の肩に深々と食い込む。
だがやはり反撃が待っていた。棘付きの肘内が羽矢子を襲う。棘が突き刺さり脇腹を貫通。‥‥吐血し、倒れる羽矢子。だが、その表情には笑みが浮かんでいた。
(「後は頼むよ‥‥九条」)
「――任せろやぁぁぁっ!!」
注意が逸れた刹那、S型の眼前にはクロムブレイドを振り被る縁の姿。
「今度こそ死んで、俺の! 俺達の!! 経験値になれぇぇぇぇぇっ!!!!」
叫びながら、両断剣と流し切りを使用した、渾身の胴斬りを叩き付ける。
‥‥縁にもS型の蹴りが入っていた。数秒置いて、体液を噴出しながら静かに活動を停止するS型。それを確認すると、縁も意識を失うのだった‥‥。