●リプレイ本文
●智覇
ベースキャンプ――
依頼を受け、高速移動艇でやってきた傭兵達が集合していた。
「酸の脅威と数の暴力か‥‥いずれにせよ厄介な事に変わりはないな。梃子摺ればそれだけ被害が広がる」
敵の情報を冷静に分析し、あごに手を当てているのは白鐘剣一郎(
ga0184)。天馬のエンブレムのついたジャケットを纏った彼は、歴戦の兵、エースクラスの傭兵である。まさに威風堂々といった感じだ。
「小隊を守るはただ一人の少女。無謀と勇気の狭間‥‥といったところですか。剣一郎さんの仰る通り、早めに片付けねばなりませんね」
斑鳩・八雲(
ga8672)が続いて口を開く。彼は剣一郎が隊長を務める小隊に所属しており、剣一郎のことを尊敬し、追いつくべき目標としている。
「智覇‥‥あぁ、どっかで写真見たな。美人さんだったからよく覚えてるよ。無茶ばかりするらしいし、それなら助けないわけにもいくまい。生憎、女の子はほっとけない性分なもんでね」
華麗な雰囲気の女性、百瀬 香澄(
ga4089)が言った。彼女は女の子が大好きなのであった。特に、可愛い子には目が無い。
「俺と同じダークファイターが戦ってるのか。無理な戦いは必要な時もある。だけど自分の体を酷使しすぎるのは駄目だ。‥‥心配、だな」
リスト・エルヴァスティ(
gb6667)は呟く。だが、ヒヤヒヤするのは慣れていた。
「そういうわけだから、急がないとね♪」
銀髪を揺らし、ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)が首をかしげ、片目を瞑る。そうして、傭兵達は駆け出した。
――ほどなく、戦場となっている市街地に到着。
‥‥銃声がひっきりなしに木霊している。戦闘が続いているようだ。
中心部まで来ると積み上げられた土嚢で構築された陣地が見えた。対物ライフルやロケットランチャーを構え、必死に攻撃を行う兵士達の姿が窺える。
そして――兵士達の先頭に立ち、ガトリング砲を持って、濃密な火線を形成する長身の美少女――智覇。
「ふむ‥‥彼女がドクターの仰っていた方でしょうか」
八雲が言った。彼女は迫り来るマンティス数匹を物ともせず薙ぎ払う。傭兵達は加勢しようとするが、その前に近くに居た最後の一匹が倒れた。
兵士達が小休止に入ろうとしたところで傭兵達が合流。智覇の元に駆け寄る。
「あの時の温泉以来ね。元気してた?」
スレンダーな体型の和服美人、皇 千糸(
ga0843)が声をかける。今回は友人がピンチと聞いて飛んできた次第だ。助け合わずして何が友情か!
智覇は‥‥全身包帯だらけ。顔も煤や硝煙に塗れ、片目には眼帯をつけている。‥‥実に痛々しい。とても元気そうには見えなかった。
「千糸さん。お久しぶりです」
智覇はぺこりと頭を下げる。その頬をハンカチで拭ってあげる千糸。心配そうに見つめる。
「足の痛みが酷いんじゃない? 動きが鈍っているように見えるわよ」
「いえ、大丈夫。足は機動力の要です。動けなければ戦えませんから」
智覇の話ではなるべく足は庇っているとのこと。動きが鈍っているように見えたのは疲労の所為だろう。
「なんというか、戦車のような娘だね〜。頑丈そうに見えて結構壊れやすい辺り。ついでに言うと人間は戦車じゃねえんだから取り返しが付く内に如何にかせにゃ〜」
ボロボロの智覇を見た九条・縁(
ga8248)の感想である。
「たった一人でここまで‥‥すげぇわ、あんた」
「やほ♪ よくこれだけの数を相手に、流石だね♪」
ドレットヘアをした軽い調子の青年、フォルテ・レーン(
gb7364)とヴァレスがそこかしこに転がる虫型キメラの死骸に目をやりながら、智覇に話しかける。ヴァレスは初対面のはずなのに、何故か智覇とは昔からの知り合いのような気がしていた。
「小隊の皆さんのおかげです。私一人の力ではありません」
と答える智覇。
「白鐘剣一郎だ。宜しく頼む」
続けて剣一郎が微笑みながら挨拶。
「今回は俺たちがいる。もうこの場を支える為に1人無茶をする必要は無い。此処からはより効率的に敵を叩く為、協力して当たろう」
‥‥剣一郎からの提案に、智覇は頷く。そのまま小隊長も加えて軽い打ち合わせを行い、小休止が終わり次第、こちらから打って出ることとなった。
●ラージファイアビートル
打ち合わせの末、決まった編成は以下の通りである。
A班:剣一郎、香澄、縁、ヴァレス
B班:千糸、八雲、リスト、フォルテ
A班はLFビートル、B班は智覇や小隊と共にWマンティスとドラゴンフライの対処を担当する。
そして小休止が終わり、一同は行動を開始。
市街の奥、虫型キメラが群れている場所に逆進攻を行う。智覇の後方には一個分隊が続いている。
まもなく虫型キメラを発見。一撃を加え注意を引き、B班はマンティスを路地へ誘導。
それに合わせてA班もLFビートルを開けた場所‥‥広場へと誘導する。
「L.A.じゃあ泣かず飛ばずだったしね。ここで一丁、憂さ晴らしと行きますか!」
香澄が声を上げた。
広場――
地響きを鳴らしながらゆっくりと進んでくる、二体の黒い巨大な甲虫――ラージファイアビートル。
「この辺でいいか」
「ああ、まずはこいつらからだ! 範囲攻撃持ちは恐ろしいんだよ! プレッシャー的な意味で!」
大鎌「紫苑」を構えるヴァレス。その言葉に頷き、同じくクロムブレイドを構える縁。
「では、往くぞ」
剣一郎はLFビートルを見据え、月詠を抜く。
「オーケイ」
香澄は両手に持った、髪と同じ色の花の名を冠した双槍を煌かせる。その花言葉は――希望。
視線を交わすと、四人は一斉に地を蹴った。
剣一郎と香澄は正面から、ヴァレスと縁は側面から攻撃を仕掛ける。
それに反応し、二体のLFビートルが正面の二人に向けて同時に強酸のブレスを放った。
「おっと、当たらないさね」
香澄はすぐさま瞬天速で範囲外に逃れる。剣一郎は水色の光沢を放つ盾で受け流す。
強酸が辺りに広がり、放置された車両などを炎上させる。
「蟲キメラは人型じゃなくても容赦しねえ!」
縁は首の筋や下腹など甲殻の薄い部分を狙ってエネルギーガンを連射。
攻撃を受け、ぶるぶると震えるLFビートル。どうやら虫型キメラらしく非物理攻撃には弱いようで、ダメージは確実に通っている様子。
「はあっ!」
もう一匹の側面から、ヴァレスがすれ違い様に脚部を大鎌で斬りつけ、甲殻を深く抉った。
「その物騒な口、封じさせて貰うぞ」
跳躍し、ブレスの噴射口を狙って猛烈な突きを繰り出す剣一郎。しかしLFビートルは首を捻って急所への攻撃を避けた。が、肩の辺りに刀が深々と突き刺さり、体液を噴出させる。剣一郎は反撃を警戒し刀を引き抜き、一旦下がった。ゼロ距離で喰らったら堪らない。
「ブレスは厄介なんでね!」
香澄はスピードを生かし、翻弄し、有利に立ち回る。隙が出来たところで急所突きを使用し、双槍を連続で叩き込む。
剣一郎はヴァレスと、香澄と縁はそれぞれ連携して二匹のLFビートルを相手に戦っていた。
「そろそろケリをつける」
瑠璃瓶で射撃し自分に注意を向け、その上で流し斬りを使用して側面に回り込むヴァレス。そのまま比較的柔らかそうな腹部をばっさりとやった。
「さすがに頑丈だが、此処ならばどうだ!」
間髪置かずに剣一郎が銃型の超機械「ブラックホール」から黒色のエネルギー弾を発射。そして月詠に持ち替える。
「天都神影流・斬鋼閃っ!」
急所突きによる一撃。
「‥‥天都神影流『奥義』白怒火!!」
紅蓮衝撃と豪破斬撃と急所突きを重ねた更なる一撃。
敵を倒すという覚悟を秘めた剣一郎の瞳が目標を見据え、烈火の如き刃を真正面から打ち込む。
凄まじい威力を誇る攻撃をまともに受けたLFビートルは‥‥大きな音を立てて崩れ落ちた。
その頃、香澄と縁も協力して敵を討つ。強酸のブレスが来た。また瞬天速で避け、距離を詰めて槍を突き刺す香澄。そこへ縁が――
「死んで俺の経験値になれぇぇぇぇぇっ!!!!」
大ジャンプ。首の甲殻と甲殻の隙間に向けて、渾身の力を込めてクロムブレイドを叩きつける。数秒置いて、LFビートルの首が‥‥ごろりと落ちた。切り口から体液が勢い良く噴出し、降り注ぐ。
「はあ‥‥はあ‥‥。この、蟲野郎が‥‥」
着地し、肩で息をする縁。
「何とか片付いたか。皆、まだ行けるか?」
言ったのは剣一郎。一同は頷く。そしてB班に合流するべく走り出した。
●ウォーリアー・マンティス+ドラゴンフライ
狭い、入り組んだ路地裏――
リストとフォルテが囮となってマンティスの群れを誘導する。
「こっちだ、こっちへ来い」
「向こうもがんばってるみたいだ。負けてられないねぇ」
コンユンクシオと槌を振り回しながら路地を駆ける二人。それをマンティスが追う。
その間、千糸は小銃S−01とエネルギーガンを使って羽を狙い撃ち、追撃しようとするドラゴンフライの編隊の足を止める。隣にはガトリング砲を手にした智覇の姿があった。
「無理に動かず援護射撃をお願い。大丈夫、私達が来たからにはすぐに終わらせるわ」
「了解しました」
千糸の言葉に智覇が頷く。
再び路地裏。
「ここまで引き込めば十分かな。さぁ、誰からぺしゃんこになりたい?」
フォルテは槌を構え、にやりを笑う。
「押して押して押していく。それしかできないからな」
大剣を構えるリスト。マンティスの群れが両手の鎌を光らせ、襲い掛かってこようとするが――笛の音が鳴り響く。吹いたのはフォルテである。
次の瞬間、側面からの銃撃。‥‥待ち伏せていた八雲、そして一個分隊だった。八雲はM−121ガトリング砲を携えている。
「生身での戦闘は久々ですし、少々派手にいきましょうか。‥‥ふふふ、厄介な性分ですねぇ」
再度銃撃を加える八雲と分隊。奇襲に怯んだマンティスだったがすぐに体勢を立て直し襲い掛かってきた。八雲は分隊を下がらせ、ガトリング砲を背負い、刀と機械剣を抜く。そして、白兵戦が始まる‥‥。
「智覇さん!」
「はい」
影撃ちを使い小銃S−01で射撃し、ドラゴンフライ一匹を撃墜する千糸。
その横で、千糸を狙い熱線を放とうとしている敵に向け銃撃を加える智覇。
二人は連携し確実に敵の数を減らしていた。
路地裏。
「いっちょ行きますかぁ! 剛砲(ブラスト)!」
豪力発現を使用し槌を振り上げるフォルテ。そして、渾身の力を持って振り下ろす。
「大壊討(ブレイクエンド)!!」
それは、マンティス一匹の頭部を叩き潰した。
「くっ!」
金属音が連続で響く。リストが大剣でマンティスの鎌による攻撃を受けているのだ。
なかなかにすばしっこく、突進と共に繰り出してくる斬撃がうざったい。
「だが!」
攻撃してきたマンティスの両腕を大剣で跳ね上げ――
「やあああっ!!」
両断剣を使い大剣を横に薙ぎ、無防備なマンティスの腹を斬り裂く。一匹が、倒れた。
「虫如きにやられはしませんよ!」
刀と機械剣を連続で振るう八雲。また一匹、マンティスが地に伏す。
「ふう、大分片付きましたかね」
刀からマンティスの体液を滴らせながら八雲が言う。
‥‥でも、まだまだだ。剣一郎さんには及ばない‥‥。そのようなことを考えながら次の敵へ向かう。
「待たせたな、皆、無事か?」
言ったのは剣一郎である。LFビートルを撃破したA班が合流したのだ。
「これより残存するキメラの殲滅戦に移行する!」
声を張り上げる剣一郎。離れた仲間にも無線で連絡する。
分隊の隊員から歓声が上がった。
「了解。目標を殲滅する」
残ったドラゴンフライに向けてソニックブームを放つヴァレス。
「さて、と。何分で片付ける?」
飄々と言う香澄。
「十秒だ!」
「さすがにそれは無理じゃない?」
「その通りです」
縁にすかさず突っ込みを入れる千糸と智覇。
「我々だけでも十分だったんですけどね。‥‥冗談です。剣一郎さん達が合流してくだされば心強い」
「一気に行きます」
「最後の仕上げといこうかぁ」
八雲、そしてリストとフォルテも奮戦。
‥‥そうして十数分後、キメラは全滅した。小隊から一人の死者も出さずに、である。傭兵達の見事な連携の結果だった。
●待つ者の気持ち
ベースキャンプ――
帰還した傭兵達。小隊は万が一に備え、まだ市街地で警戒を続けている。
その、医療用のテントにて。智覇はベッドに寝かされ、その周りを皆が囲んでいた。
「毎度傷だらけってのは感心しないね。折角美人なんだ、痕は少ない方がいい」
香澄が言った。
「ドクターには感謝しときなよ? ああも尽くしてくれる人は中々いない」
と続ける。帰還した際、智覇の主治医が慌てて駆け寄ってきて「心配したんだから!」と叫んでいたのを思い出す。その後は実に見事な、適切な処置だった。処置が終わって、今は、智覇は寝かされている次第である。「絶対安静!」という言葉付きで。
「了解しました」
それだけ答える智覇。
「貴女の振る舞いは好ましく思います。ですが、貴女を心配する方を、もう少し顧みてもよいかもしれませんよ」
そう言って、微笑む八雲。
「‥‥善処します」
少しだけ考えて答える智覇。
「しかし‥‥」
香澄は横になっている智覇の顔、そして身体をじぃっと見て――
「美少女に包帯、眼帯ってのもなかなか背徳的で‥‥イイ」
口元を綻ばせる。不思議そうな表情の智覇。
「ちょっと! 私の智覇さんをいやらしい目で見ないで下さい!」
「私の? 皇のものってわけじゃないだろ? ちょっと味見させてくれても――」
「ダメったらダメー!」
千糸は必死に手をバタバタさせる。
「こらー! 医療テント内では静かにしなさい!」
外に居た主治医に怒られてしまった。急にしんとするテント内。
「そろそろ眠ったら? 今はゆっくり休んでなさい。それともおやすみのキスが必要?」
今度は小声で悪戯っぽく言う千糸。
「では、お言葉に甘えて‥‥」
智覇は静かに目を閉じた。少しして、小さな寝息が聞こえてくる。
「‥‥」
その寝顔を見ていた千糸は思わず、智覇に顔を近づけ、頬に口付ける。
隣を見てみると――同じく、もう片方の頬に香澄が口付けていた。
「――っ!?」
声にならない声を上げる千糸であったそうな‥‥。