タイトル:乙女分隊・休暇マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/21 00:37

●オープニング本文


 九州某基地――
「この間の任務、ご苦労だったな」
「はっ!」
 高ノ宮・茜少佐の労いの言葉に、敬礼する青い髪の少女。
 能力者だけの分隊、α−01部隊‥‥通称乙女分隊の隊長、早乙女・美咲(gz0215)である。
 彼女は高ノ宮少佐の執務室に呼び出されていた。
「これまで破壊したキメラプラントは五つ‥‥よくやった。上層部からの評価も上々だ」
「ありがとうございます!」
 椅子に座り机の上で手を組む高ノ宮少佐。再度敬礼する美咲。
「そこでだ、諸君らに休暇を与えようと思う」
「休暇‥‥でありますか?」
 きょとんとする美咲。
「そうだ。戦い詰めでは心身ともに疲労してしまう。たまには休むことも兵士の勤めだ」
「はあ‥‥」
 自分としてはこのままキメラプラントを潰してしまいたいのだが‥‥。
「そうよ、休むことも大切」
 後から声。振り返ると、そこには‥‥
「先生!」
 乙女分隊の教官、片瀬・歩美軍曹の姿。
「こら早乙女! 片瀬教官と呼べと何度も言っているだろう!」
「はい‥‥せんせ‥‥じゃなくて、片瀬教官。すみません」
 しゅんとする美咲。
「まったく。戦場に出て一人前になったと思ったけど、まだまだね」
 歩美は苦笑した。
「‥‥こほん、話を戻すぞ。しかしながら休暇と言えど、だらだら過ごしてはいかん」
 にやりと笑う高ノ宮少佐。
「また‥‥なにか考えているわね‥‥」
 歩美は嫌な予感がした。茜がこんな顔をするのは何か企んでいるときだ。
 ‥‥ちなみに高ノ宮少佐と片瀬軍曹は学生時代からの親友である。
「α−01部隊総員はラストホープへ向かえ。すなわち、研修旅行だ。というわけで、引率を頼んだぞ。片瀬軍曹」
「えっ?」
 引率‥‥それでは本当に学校の先生ではないか。
 まあ、乙女分隊のメンバーは全員、本来ならば学校に通っている年齢ではあるが‥‥。
 歩美は美咲のほうを見てみる。
「研修旅行‥‥」
 瞳をキラキラ輝かせていた。
 ずっこける歩美。‥‥だが無理もない。美咲は物心付いた頃からずっと軍で教育を受けており、普通の学校には通ったことが無いのだ。‥‥頷く歩美。
「ラストホープ――その名の通り人類最後の希望。一度目にしておくのも悪くないだろう。それから、現地での案内は傭兵を手配しておく。傭兵のほうがLHに詳しいだろうからな。費用はこちらで持つ」
「「了解しました」」
 敬礼する二人。
「楽しんでくるといい」
 そんなこんなで、乙女分隊のLH旅行が決まったのであった。

●参加者一覧

セージ(ga3997
25歳・♂・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
六道 菜々美(gb1551
16歳・♀・HD
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

●1日目
 ラストホープの空港の入り口前で、乙女分隊と片瀬軍曹を待つ傭兵達――
「半年振りの再会か。覚えててくれるかな‥?」
 と、少し心配そうな様子の百瀬 香澄(ga4089)。彼女は昨年末の、乙女分隊の救出依頼に参加していた。あれ以降の作戦には同行できなかったが活躍ぶりは聞いている。どのくらい成長しているか楽しみだ。
「修学‥‥もとい、研修旅行。思い出になるわけだからな。責任重大だ」
 デジカメ持参の夜十字・信人(ga8235)は隙あらば写真を取りまくる気である。
「乙女分隊の方々と模擬戦をしてから、もう4ヶ月も経つんですね。遠路はるばるお越しいただくわけですから、粗相のないようにしっかりとおもてなしをして、最後に『楽しかった』と言っていただけるように、及ばずながらガイド、頑張ります」
「ええ。彼女達も働き詰めでしょうし、しっかり息抜きしてもらいましょうっ」
 はりきるティリア=シルフィード(gb4903)とリリィ・スノー(gb2996)。

 ――しばらくして、早乙女・美咲(gz0215)を初めとした乙女分隊と‥その教官(今回は引率の)片瀬・歩美軍曹が到着。傭兵達は和やかなムードで出迎える。
「よ、久しぶり。見ないうちに戦士の顔になったな」
「元気にしてたかい?」
 不敵に笑うセージ(ga3997)。そしてヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)。この二人は乙女分隊や歩美と顔なじみだ。
「ボクは、柿原ミズキ。よろしく!」
 柿原ミズキ(ga9347)も元気に挨拶する。彼女は乙女分隊とは初対面である。
「初めまして‥。菜々美と‥、申します‥。よろしく‥、お願いします」
 同じく初対面の六道 菜々美(gb1551)もおずおずと挨拶し、ぺこりとお辞儀をする。
 菜々美は自分に近い年齢で軍に籍を置き‥激戦地で果敢に戦う乙女分隊のメンバーに、憧れに近い思いを抱いていた。
「やぁ。今回は俺達で、しっかり案内するよ」
 一方、爽やかな笑みを浮かべる夏目 リョウ(gb2267)。彼が今回参加したのは休暇を楽しんでもらいたかったのと、美咲と一緒にLHを廻ってみたかったからである。どちらも本音だろうが‥恐らく後者のほうが強い。
「うん、よろしくね! 楽しみだなあ‥」
 瞳をキラキラ輝かせる美咲。わくわく感がこれでもかというほどにじみ出ていた。こういった旅行は本当に初めてなのだ。
 一通り挨拶を終えると‥さっそくLHめぐりを開始。荷物は先に宿泊先のホテルに運んでもらった。

 途中、広場を通る。そこは人でかなりの賑わいを見せていた。
 興味津々な乙女分隊メンバーの様子を見て微笑む傭兵達。

 最初は本部――
「俺達はここで依頼を受けて各地に赴くんだ」
 と、セージ。
「こちらが未知生命体バグアと戦うための司令塔、UPC本部でございます。ここは世界中から寄せられた依頼を能力者の皆様に紹介し、解決してもらう場所でございます」
 パンフレット片手にガイドさんの真似事をする信人。そして‥‥
「ちなみに、本部のオペレーターのお姉さんには美人が多い。特に、あそこにいるリネ――」
「余計なこと言わんでいい!」
 セージが巨大ハリセンで信人の後頭部に突っ込みを入れる。実に危ないところであった‥‥。

 次は研究所――
「右手に見えますのが、研究所の強化施設でございます。このクズ鉄に泣かされるのが第一関門でございます」
「別名、くず鉄工場。依頼で活躍してもここで涙を飲む傭兵は多い」
 実物のくず鉄を見せる信人とセージ。ははは‥‥と乾いた笑いをする一同。
 なんとも身につまされる話である。このくず鉄は、元は何だったのやら‥。

 次はドローム社――
 敷地内では警備用のKVが闊歩していた。
 それを見て「おおー!」と声を上げる分隊メンバー。
 社内に入って色々と見学する一行。そして、S−01が展示されているフロアにて‥‥
「本当は俺達のを見せたいんだが、流石に許可が下りなくてな〜」
 残念そうなセージ。保安上の理由である。仕方が無い。
「もしKV選びで迷った時は言って♪ アドバイスするよ♪」
 得意げなヴァレス。しかし――
「ありがとう。でも‥私達は軍人だから傭兵さんみたいに、自由には選べないと思うなあ」
 美咲は苦笑。
「‥‥ふむ」
 その様子を意味ありげに見つめる歩美であった‥。

 ドローム社を出て、一塊になって歩く一行。初夏の日差しで汗ばむ者も多い。
「よ、良かったら‥」
 ここで菜々美が恐る恐る保冷バッグから飲み物を取り出し、差し出す。
「サンキュ。ちょうど喉が渇いてたんだよな」
 にっこり受け取り、ごきゅごきゅと喉を潤す分隊メンバー。あっという間に飲み物は無くなった。
(「持ってきて‥、良かった‥」)
 ほっと胸を撫で下ろす菜々美。

 最後はショップ――
「こちらがULTショップでございます。商売根性たくましい女の子が仕切っております」またガイドさん口調で話す信人。「ほほー」となる分隊メンバー。
 長居すると余計なものを買わされそうだったのでさっさと退散。
 これで、主要施設は粗方回ったことになる。

 太陽が真上に来た頃、一行はメイド喫茶フェルマータに到着。
 扉を開け、店内に足を踏み入れると‥‥
「あら、いらっしゃぁ〜い! 団体さんご到着よぉ〜ん♪」
 オネエ言葉のオカマちゃんに熱烈な歓迎を受けた。唖然とする初来店の者達。
「ああ、この人は店長さんなんだ」
 ヴァレスが説明。今日は彼が予約を入れてくれていたのだ。
 続いてメイドさん達も登場し、席へと案内される。
 最初こそ圧倒されていたものの、次第に馴染み、楽しく談話しながら昼食を取る一同。
「小隊というのもあってね、俺は隊長してるんだ♪ あ、セージも隊員の一人ね」
 定番のオムライスを食べながら兵舎や小隊のことを紹介するヴァレス。
 美咲は「へえー」と関心する。大規模作戦での密接な連携はそこから来ているのだ。

 全員が食事を終えると、今度は店内に設置してあるTVゲーム『激闘! KVウォーズ』での対戦大会。企画したのはセージだ。敗者は強制コスプレ。勝者は任意である。

 セージvs有栖――
「悪いな。これで決める!」
 回避を全開にしたセージのシュテルンが有栖のディアブロを撃破。
「ぬあああああ!!」
 悔しそうに叫ぶ有栖。そしてメイドさん達によって更衣室へ強制連行。
 ‥しばらくして、メイド服姿の有栖が姿を現した。日焼けした肌で活発そうな有栖がメイド服を着ると‥似合わないことはないのだが‥普段の彼女を知る分隊メンバーは思わず笑いを零してしまう。
「笑うな! 笑うなあああ!!」
 と、涙目になる有栖だった。

 香澄vs冴――
「九条のメイド服姿、拝ませてもらう!」
 香澄のロビンが放った荷電粒子砲が冴のディスタンを貫き、撃破。
「少し恥ずかしいですね」
 それほど嫌そうな様子もなくメイド服を着用した冴。
 凛とした姿はまるでメイド長。
「せっかくなので」
 香澄もメイド服を着てみた。ブロンドの髪を煌かせ、優美な雰囲気のメイドさんに変身。

 信人vs香苗――
 ノーヴィ・ロジーナを駆る信人とウーフーを操る香苗の激しい戦い。
「ふん! ふんぬううう!」
 信人は大人げなく全力プレイ。結果、引き分け。
「‥‥」
 セージの判定により両者ともコスプレ!
 すこずこと無言でメイド服を着る信人と、きゃっきゃと着る香苗であった。

 ヴァレスvs慧子――
「‥‥!」
 慧子のミカガミB型が内蔵雪村でヴァレスのシュテルンを叩き斬る!
「参ったなー」
 と、笑うヴァレス。しかし――
「‥‥私も、着る」
「えっ?」
 手加減されていたから、と続ける慧子。経験者は縛りプレイをしていたのだった。
「あ、気を悪くしちゃったかな? ごめんね」
 謝るヴァレス。
「‥‥いや、いい」
 そうして結局二人とも着ることになった。
 着替え終わったヴァレスは「似合ってるよ♪」と、同じく着替え終わった慧子の頭を撫でる。‥俯いて、慧子は少しだけ頬を染めた。

 ミズキvs早苗――
「ボクはゲームだからって手加減はしないよ」
 しかしミズキのシュテルンは早苗のディアブロ改に敗北。
「くぅっ‥」
 メイド服を着せられて恥ずかしそうなミズキ。
 普段はラフな男っぽい格好しかしない彼女‥でも‥
「似合ってる似合ってる!」
 との声が多数上がった。ちなみに早苗もメイド服を着てきゃっきゃとはしゃいでいる。

 菜々美vs歴――
「えっと‥、がんばり‥ます!」
 ぶつかる菜々美のスカイスクレイパー改と歴のアヌビス。
 激戦の末、アヌビスのルプス・ジガンティクスがクリーンヒット!
 菜々美の敗北。
「わ、私じゃ、似合わないと‥思います、けど‥」
 そんなことを言っているが見事にメイド服を着こなしている菜々美。
 歴は「対戦したらお腹が空いたのだ〜」と、ジャンボパフェを注文。
 ‥メイド服には興味がなかったらしい。

 リョウvs美咲――
 あっさり美咲のアンジェリカがリョウの翔幻改を撃破。
「‥待て、執事服でもいいなら、先に言え!」
「あははっ、似合ってるよ」
 恥ずかしがるリョウ。でもしっかり美人メイドになっている。美咲はお腹を抱えて笑う。
 美咲も、良い機会だからとメイド服を着ていた。その姿を見て‥リョウは別の意味で赤くなった。
(「可愛い‥‥」)

 リリィvsちずる――
 ちずるの、リッジウェイ改の多目的誘導弾がリリィのバイパーに命中。撃破。
「わぁ‥私コスプレとか初体験ですよ。えへへ、どうでしょうご主人様っ」
 ノリノリでメイド服姿になるリリィ。ちずるもちびっこメイドさんになっていた。
 楽しそうにはしゃぐ二人。

 ティリアvs歩美――
「‥あれっ?」
 あっという間にティリアのバイパー改は歩美の雷電に撃破されてしまう。
「負けたからには、着てもらわないとねぇ」
 にやりと笑う歩美。
「えっ? えっ?」
 訳もわからないままメイドさん達に強制連行されるティリア。
 戻ってくると‥‥
「うぅ‥は、恥ずかしい‥。お願いですから‥あ、あんまり見ないで下さい‥!」
 顔を真っ赤にしてモジモジしているティリア。皆に「可愛いよー!」と冷やかされ更に真っ赤に。しかしすごく似合っているのは確かだ。

 こうしてゲーム大会は終了。
「せっかくだ。皆の格好を記録に残そうぜ」
 と、セージが言い出し、記念撮影をすることに。
 撮影許可をもらった信人がカメラマンを務めようとするが、メイドさんが撮ってくれることになった。信人のメイド服姿もしっかり記録されるのです。しょうがありません。逃げようたって無駄だよ! ‥パシャリ。

 そんなこんなであっという間に楽しい時間が過ぎ、もう夕方になっていた。
 ホテルへ向かう分隊メンバーと歩美。一緒に宿泊する傭兵達も付いて行く。
 他の者は明日に備えて帰宅。‥信人は、さり気無く歩美を呑みに誘っておいた。

 夜――
 バーとなったフェルマータ。
 カウンターに並んで座り、歩美に一杯勧める信人。歩美はそれを一気に煽った。
 ‥しばらくして酔いが進み愚痴を零し出す歩美。仕事が忙しい上に女所帯だから彼氏を作る暇が無いとか、茜が無茶ばっかり言うとか。
 それに、静かに耳を傾ける信人。飲んでいるのはミルク。
「信人くんって、彼女居るの?」
 尋ねる歩美。
「‥いますよ。軍曹殿」
 と返す信人。
「‥‥」
 少し間が開いた後‥
「口からクソたれる前と後ろにサーを付けろ!!」
 いきなり怒鳴る歩美。
「サーイエッサー!」
 立ち上がってびしっと敬礼する信人。
「‥上手く‥いってるの?」
「ええ、まあ‥」
 柄にも無く照れくさそうに信人は頬をかく。
「‥大事にしてあげなさいよね‥。こんなご時世だから‥いつまでそうしていられるか‥わからないんだから‥」
 そのまま寝息を立て始める歩美。その手にはロケットが握られていた‥。
 信人は歩美を背負ってホテルまで送り届け、帰宅。
 1日目、終了。

●2日目・その1
 研修旅行2日目はペアでの自由行動となる。

 セージ・有栖組――
 二人は並んで歩きながら戦い方や他クラスとの連携について話していた。
「俺はファイターだからって近接ばかりじゃダメだと思うんだが、神楽坂はどう思う?」
「あたしは刀しか使わねぇよ」
 セージの問いにそう答える有栖。
「そりゃまあ、ソニックブームである程度は補えるが、銃も使ってみたらどうだ」
「銃の訓練は受けてるぜ。‥近接って言っても、前に出るのはいつも慧子や歴‥あと、なんでもこなせる冴姐さんだな。あたしは美咲とちずるの護衛ばっかりさ。ちびっこ姉妹は好き勝手やってる」
 認められてねぇのかな、あたし‥。と有栖は漏らす。
「いいや、違う。それはきっと心から信頼してるからだ。指揮官や衛生兵を守るのは重要な役目だぞ」
「そ、そうかな?」
 セージに励まされ、少し自信を取り戻した様子の有栖だった。

 遊技場。
「ジーザリオとインデースどっちが良い?」
「ジーザリオだな。ゴツイのが好きだ」
 レースをして親睦を深める二人。派手なレース展開となったが、結局勝ったのはセージ。

 広場で昼食を取った後、露店を見て回る二人。
「ここは武器の横に文房具があったりでカオスだからな。何を買ってもバレ無いぜ」
「な、なんのことだ!」
 フリフリの衣装やぬいぐるみ、動物グッズを見ていた有栖が焦る。
 ははは。と笑うセージだった‥。

 香澄・冴組――
 二人の行き先は香澄馴染みのショッピングモール。
 服や雑貨、化粧品を見て回る。店を冷やかし、試着して着せ合ったり。
 その後コーヒーショップで一息。
「こういう機会ってなかなか無いですから、貴重です」
「楽しんでもらえたなら幸いだな」
 買い込んだ服や化粧品の紙袋を隣の椅子に置く冴と、優雅にコーヒーを口にする香澄。
「普段は泥だらけで、お化粧どころじゃないですし」
「だからこそ、手を抜いちゃいかんだろ」
「ええ、もちろん。女を捨てる気はさらさら無いですから」
 うふふと微笑む冴。
「香澄さんって、センスいいですね。尊敬します」
「そうかい?」
「ええ‥」
 見詰め合う二人。そのテーブルだけ、なにやら妖しい雰囲気に包まれていた‥。

 信人・香苗組――
 こちらは信人の愛車のインデースで移動中。
 軍用車両ばかりで乗用車には乗ったことのなかった香苗はうきうき気分。
 そして立体駐車場へ車を留め、アーケード街へ乗り出す。
「ふっ‥‥何、金はお兄さんに任せると良い。1万Cまで好きに使うと良いよ」
 太っ腹なんだかケチなんだか微妙な信人。だがしかし、子どもにとって1万Cとは大金である。
 きゃっきゃとはしゃぎ回る香苗。ソフトクリームを食べたり、ゲーセンで遊んだり。
 UFOキャッチャーでぬいぐるみを大量ゲットする信人。何故か得意なようだ。
「すごぉーい!」
 驚き、信人を羨望の眼差しで見つめる香苗。
「これくらい、お兄さんに掛れば当然だ」
 ふっと格好付ける信人だがファンシーなぬいぐるみを大量に抱えていては台無しである。
 後は香苗のリクエストで、ハンバーグの美味しいお店で食事。
「‥‥」
 出発前より明らかに軽くなった財布を見ながら無言の信人。でも‥
 デミグラスソースを口の周りに付け、幸せそうにハンバーグを頬張る香苗を見て、口元を緩ませるのだった。

 ヴァレス・慧子組――
 慧子がスポーツ好きだということで、二人の行き先は屋内プール。
 その前に、ショップに寄って水着を購入。
「ちょっと早いけど先取り気分もいいかなと思って♪」
 ヴァレスは買ってあげてもいいというが、慧子は自分で買うと断った。
 プール。水着に着替えた二人。ヴァレスはボクサーパンツタイプ。慧子はハイレグの競泳水着だ。黒髪のロングヘアをアップにしている。
 ‥引き締まったナイスバディに自然と視線が集まった。少し恥ずかしそうに準備運動をする慧子。
 そして‥見かねたヴァレスが慧子の手を引いて、プールに飛び込む。
「競争しよう♪」
 ということで、水泳で競争することになった。さすがに泳ぎ慣れているのか、慧子の勝ち。
「すごい速いなー」
「‥‥そうでもない」
 照れ隠しにぶくぶくと顔をプールに沈める慧子。

 プールを出ると、残った時間でショッピング。動きやすい服がないか見て回る。
 途中、ゴスロリ服のショップを発見。慧子を引っ張っていくヴァレス。
「私‥‥背が高いからサイズが無いと思う‥‥」
 背を気にしていることを打ち明ける慧子。
 そこへ「ございますよ」と店員が声をかけてくる。
「‥‥!?」
「じゃあ試着してみよう♪ これなんかどうかな?」
「‥‥」
 しばらくして慧子が出てくる。黒いゴシックな装いのワンピース。頭にはヘッドドレス。
「似合う似合う! 俺が買ってあげるよ♪」
「え‥‥」
「いいからいいから」
 会計を済ませてしまうヴァレスだった。

 ミズキ・早苗組――
「それじゃ、行こうか」
 案内するのは広場。
「あっ‥‥ゴメン。で、何する」
「遊ぶ!」
 きゃっきゃとポニーテールを揺らして走り回る早苗。それを追いかけるミズキ。
(「なんだか妹みたいだな‥‥弟がこれぐらいの時って一切出来なかったから」)
 そのように思う。
 お昼。屋台でケバブを買って、芝生に座って食べる二人。
 病弱な弟のことや、自分が男友達とばっかり付き合っている所為で恋愛対象として見られていないことなど、ミズキは悩んでいることを話す。
「やっぱり、変だよね‥‥空元気気味だしね」
 ははっ、と苦笑いするミズキ。もくもくとケバブを頬張る早苗。
「情けないよ‥いい加減吹っ切らないといけないのに‥って聞いてないか」
 そこに「お姉さん」と早苗。「なに?」とミズキ。
「お姉さんはなんで悲しいお顔をしてるの?」
 早苗は不思議そうな顔。
 あちゃー子どもに心配されるなんて‥と悔いるミズキ。
「あたしには香苗ちゃんしかいなかったから、家族ってわかんない。パパとママは知らない。あたし達、捨てられてたんだって」
「えっ‥」
「でもね、そんなことはどうでもいいの。今は分隊の皆もいるもん。お姉さんがなんで悲しんでいるのかはわかんないけど、ちゃんと家族とか友達が居るならいいと思うな。悔やんだりする必要なんかないよ。今を大事にすればいいんだよ」
「‥‥ごめんね」
 早苗を、強く抱き締めるミズキ。そうだ、自分だけが苦しいわけじゃない。
 ボクらしくもない‥楽しませなきゃいけないのに。こんなことじゃダメだよね。
 ミズキは、ばっと立ち上がる。
「次、どこいこっか?」

 菜々美・歴組――
 こちらは普段散歩する道や静かで景色のいい、菜々美の好きな場所を選択。
 のんびり散歩しながら案内する。
「お腹が空いたのだ〜」
 早くもグ〜〜〜とお腹を鳴らす歴。
「もうちょっとなので‥、我慢‥、してくださいね」
 と、菜々美。
 軽食屋さんや喫茶店等の場所を調べ、作成しておいたルートに沿って色々食べつつ移動。
 歴はメニューを片っ端から注文。がつがつ食べる。
 その素晴らしく旺盛な食欲にぽかーんとする菜々美。
 お昼になったら、菜々美お気に入りの静かな公園で手作りのお弁当出して休憩。
「美味しいのだ〜すっごい美味しいのだ〜」
 ばくばく食べる歴。
(「ほんとにすごい食欲。ここに来るまでにあんなに食べたのにまだ入るなんて‥。でも、美味しいって言ってくれるのは嬉しいな」)
 微笑む菜々美。
「どうしたのだ〜?」
 おにぎりを手に歴はきょとんとした顔をする。
「うふふ‥、頬に‥ご飯粒が‥、ついてますよ」
 ひょいと取って、自分の口に運ぶ。
「菜々美さんは料理が上手なのだ〜きっといいお嫁さんになるのだ〜」
 満腹になって至福の笑顔の歴。頬を赤らめる菜々美。
「お嫁さん‥、か」
 そうなれたらいいな。

 リリィ・ちずる組――
 二人は広場で動物と戯れていた。動物を追いかけ、駆け回るちずる。
「私は小さい動物が好きですね。大きいとちょっと怖いです。舞浜さんは何が一番好きですか?」
「えーっと、ねこさんが好きですっ。特に子猫っ。にゃーにゃー鳴くのがかわいいです。それに肉球ぷにぷに!」
 ほんわかした雰囲気が漂わせつつ、話す二人。
 そこへちょうど、三毛猫が通りかかる。
「みゃー」
「わあ! 可愛い!」
 ちずるの気が逸れたところで、リリィの瞳がきゅぴーんと光った。
 覚醒し、隠密潜行を使用。ちずるに見つからないようににゃんこのペンダントを購入。
「あれ? リリィさん?」
 急に姿が見えなくなり、おろおろするちずる。
 少し間があって戻ってくるリリィ。
「どこへ行ってたんですか?」
「お花を摘みに♪」
 リリィはにっこり微笑む。はてなマークを浮かべるちずる。

 お昼はリリィ行きつけのレストランへ。
「このお店、結構美味しいんですよっ」
「うわあー! こういう所でお食事したことないので、楽しみですっ」
 ‥食事を終えた後は洋服を見る。
「次はこの服着てみてください♪ さぁ!」
「うにゃあああ!?」
 ちずるを次々着せ替えして遊ぶリリィであった。

 ティリア・歩美組――
「うー‥昨日飲みすぎたかしら」
 二日酔い気味の歩美である。ハメを外してしまった‥こんなこと茜に報告できない。
 ティリアが案内するのはやはり広場。個人商店を見て歩く。
「最近解禁されたばかりなんですよ」
「賑やかなところね。活気があって良いわ」
 初日にも通ったが、人が多い。

 午後からは、人気の少ない静かな場所で談笑。
「ボク、教官の目から見た分隊の子達のことを聞きたいです!」
 とティリア。
「‥そうねぇ。早乙女は‥指揮官としての資質はある。泣き虫だけど。まだ経験が足りないかな。九条は‥上手く早乙女を補佐してくれている。つい最近まで実質、隊を纏めていたのは彼女だった。神楽坂は‥突っ走る癖があるわね。だから早乙女は無茶をさせまいといつも傍においている。坂城は‥優秀ね。任務を忠実にこなすタイプ。犬飼は‥普段はのんびりしているけど任務態度は真面目。舞浜は‥心優しく、純粋で、献身的。今後衛生兵としての成長を期待している。三門姉妹は‥戦闘能力だけなら隊で一番。‥特殊な生い立ちでね。詳しくは話せないけど‥」
 ふーむと唸るティリア。勉強になる。
「こんなところかしら。皆、私の可愛い教え子‥‥あ、これはあの子達には秘密ねっ」
 ウィンクする歩美。‥優しくていい人だな、と思うティリアだった。
 そして、LHに来てからの自分の体験談なども話す。

 リョウ・美咲組――
 ホテルの前でリョウは、美咲を待っていた。そわそわした様子でちょいちょいと前髪を弄る。
 今日はデーt‥‥ではなく、修学旅行の自由行動っぽく観光する予定だ。
 少しして「お待たせ」とホテルから出てくる美咲。
 美咲の服装は白のワンピースに麦藁帽子。靴はピンク色のパンプス。
「‥‥」
 リョウはいつもとは違う、私服姿の美咲ときめいて――
「どうしたの?」
「‥い、いや。その服、よく似合ってる」
「そう? ありがと。いっつも軍服だからたまにはね。着慣れないから恥ずかしいけど。えへ」
 ぺろっと舌を出す美咲。

 リョウは土産物屋などを案内。
「ほらっ、笑って」
 持参したカメラで美咲の写真を撮ってあげたり、近くの人にお願いして二人の写真を撮ってもらったりした。

 続いて向かったのはリョウが予約していたカプロイアホテルのケーキバイキング。
「甘いものが好きって聞いたからさ」
 ‥バイキング、それは女の欲望番外地。あれもこれもそれもと、ぱくぱく食べる美咲。
「あ〜ん、美味しいぃ〜」
 頬を押さえてはにゃーんとなる。
 紅茶を口にしながら、その様子を微笑ましく見つめるリョウ。
 自然と会話も弾む。
「リョウくんは普段、学園に通ってるんだよね。その‥‥気になる子とか、いるの?」
「えぇ!? 俺はまあ‥‥いる、かな」
 激しく視線を泳がせるリョウ。
「‥‥ふーん」
 と美咲。
「そういう美咲は‥どうなんだい?」
「わ、私!? 私もまあ‥一応」
 視線を泳がせる美咲。
「ふーん‥‥」
 とリョウ。しばしの沈黙。
「「あ、あの!」」
 二人の声が被った。
「‥リョウくんからどうぞ」
「いや、美咲から」
「「‥‥」」
 なかなか言い出せない二人。そんなことをしていると
「‥あ、もう時間だ!」
「そ、そうだね、もう出なきゃ!」
 ここでタイムアップ。残念。

 日が落ちた頃‥‥。
 とっておきの場所、夜景が綺麗な丘へ、美咲を連れてくるリョウ。
「‥どうしてもこの景色を、美咲に見せたくて‥。いつか、また今日みたいに2人で‥約束だ」
「‥うん、約束」
 微笑み合う二人。

●2日目・その2
 ホテルの大浴場――
 一緒にお風呂に入る香澄、ミズキ、リリィ、そして分隊メンバーと歩美。
「判ってる事とはいえ‥無いからな胸‥羨ましい」
 じぃーっと美咲を見るミズキ。
「ふっふっふっ、素肌の触れ合いは親睦を深める近道!」
 背後から忍び寄り、美咲の胸を鷲掴みにする香澄。
「ひゃあ!?」
「早乙女って意外と胸あるんだよね」
 香澄の感想である。もにゅもにゅという音が聞こえてきそうだ‥。
「ちょ、どこ触ってるんですかあ!」
 ジタバタする美咲。
「‥判ってた事ですけど‥何だろ、この差‥」
 自分のと見比べ、リリィは溜息をつく。
「大丈夫だよ。これから大きくなるよ」
「そうだよそうだよ」
 三門姉妹がフォロー。がくりとうなだれるリリィ。
 小さい子に励まされるなんて‥。
「私、17なんですけどね‥。あ、でも舞浜さんは私の味方ですよね? ね?」
「と、当然ですっ」
 平たい胸を張るちずる。

 一方、男湯――
「あれー、おかしいなー」
 男性で一緒の宿泊を希望したのはヴァレスだけであった‥。

 お風呂から上がった後は、一つの部屋に部屋に集まってパジャマトーク。
「やっぱり修学旅行にコイバナはつきものでしょ。まずは‥早乙女の心境を聞きたいところだね」
 あからさまにニヤニヤと笑う香澄。
「な、なんのことですか?」
 動揺する美咲。
「今日、やけに帰りが遅かったよね。もしかしてもう夏目と‥‥」
「わー! わー! リョウくんとは何もなかったですから! ホントですから!」
 顔を真っ赤にする美咲。
「必死に否定するところが怪しいな」
 ベッドに寝転がりながらニヤリと笑う有栖。
「ちょっと! 有栖までそんな‥! リョウくんはいい人だし、何度も助けてもらったけど‥まだ‥そういうんじゃないよ」
「まだ、ですって」
 さり気無く突っ込む冴。
「そ、それは言葉のあやで‥!!」
 きゃあきゃあと騒ぐ女性陣。
「やれやれ、若いな」
 冷えたビールを飲みつつ、苦笑する歩美。
 ‥そしてそんな乙女の中に混じっていたヴァレスは慧子と歴に紅茶を淹れてあげていた。

 深夜。
「今日は楽しかったな‥」
 ふかふかのベッドの中で、今日あったことを思い出すミズキ。
 なんだかスッキリした気がする。良く眠れそうだ。そうして、目を閉じる‥。
 2日目、終了。

●3日目・また会う日まで‥‥
 空港で、乙女分隊と歩美を見送る傭兵達。
 セージは皆でお金を出し合ってフェルマータで購入した全員にクッキー配る。
「じゃあ、またな」

 香澄はアフロディアの涙を冴に。
「心を癒すって噂もあるし、さながらお守りってとこかな?」

 信人はホエールリングを香苗に。
 分隊の皆には旅行中に撮った大量の写真を渡す。
「では、次は戦場かな?」
 少し寂しげに微笑んでびしっと敬礼。

 ヴァレスは人魚の涙を慧子に。
「これなら似合うかなと思って♪」
 菜々美はこねこのぬいぐるみ、ねこくっしょん、わんこくっしょんを歴に渡そうとするが‥
「これだけでいいのだ〜」
 歴はわんこくっしょんをもらう。
「菜々美さん、美味しいもの、たくさん食べさせてくれてありがとうなのだ〜」
 にっこり笑う歴。

 リョウは鈴の髪飾りと、昨日撮った写真を美咲に。
「また会いに行くよ‥そして、一緒に平和を取り戻そう。世界中がこの街みたいに、再び賑やかになるように」
 そういって、微笑む。

 リリィはねこくっしょん、イルカのペンダント、わんこくっしょんをちずるに渡そうとする。
「舞浜さん、これどうぞ。気に入ってもらえると嬉しいです」
「そんなにいっぱい貰ったら悪いですっ。一つだけ、いただきますねっ」
 ねこくっしょんを受け取るちずる。
「それからこれも。‥またこんな風に遊びましょうね。絶対、ですよ?」
 昨日こっそり買ったにゃんこのペンダントをちずるの首にかけてあげる。
 ちずるは「はいっ!」と、元気に答えた。

 ティリアはレザーブレスを歩美に。
「こ、これ‥お気に召すかわかりませんけど」
「ありがとう。嬉しいわ。‥元気でね」
 歩美は受け取り、ティリアの頭を撫でた。

「今回はありがとう! とっても楽しかった! またね!」
 ぶんぶん手を振る美咲。
 そうして‥帰っていく乙女分隊と歩美。

 彼女達が乗る飛行機を見上げた後‥‥リョウは生徒手帳に挟んだ、美咲と二人で写った写真を眺め、目を細めるのだった。