●リプレイ本文
●新たな敵に‥‥
九州北部――
競合地域となり放置され荒れ果てた田園地帯。
そこへ展開する10機のKVの姿があった。
「あの時の悪い昆虫博士の企みかも知れないもん。ボク、絶対に許せないから!」
テンタクルス改のコクピットで、そう叫んだのは潮彩 ろまん(
ga3425)。
悪い昆虫博士というのは虫型キメラを操り、九州戦線の一部で暗躍しているプロフェッサー・芳賀という強化人間らしき人物のことである。彼女は芳賀の陰謀から人々の平和を守るため、参戦した次第だ。
「KVサイズの虫型キメラ? 何だか知らんが倒すだけだ」
愛機である群青色に塗装されたシュテルン「リゲル」の密閉されたコクピット内でセージ(
ga3997)は言う。
‥そう、敵はただ倒すのみ。
「あんなキメラ、一体誰が‥」
と呟いたのはヴァイオン(
ga4174)。彼の乗機は黒地に金のラインが入ったアヌビス。ブースターを装備している所為で犬というよりも鴉‥または蝙蝠のように見えなくも無い。
ヴァイオンの言うキメラとは‥出発前のブリーフィングで見た、偵察画像に写っていた‥巨大な甲虫のことである。
「あのサイズからして、明らかに対KV戦用キメラですね。油断せずにいきましょう」
井出 一真(
ga6977)は未知の敵に対し気を引き締める。一真が搭乗しているのは入念に改造が施された阿修羅改。‥彼は阿修羅にただならぬ愛着を抱いていた。「今日もよろしく」とコンソロールを撫でる一真。
「敵はカブト虫ですか‥子どものころ夢中になりましたね。夏休みの朝早く雑木林に通って‥っと、オッサン丸出しですな」
子どもの頃を思い出し、飯島 修司(
ga7951)は言ってから苦笑する。
修司の乗る機体はディアブロ。深紅のマントを纏ったディアブロ。
それはとても雄々しく、勇ましい。
「虫型キメラにはイヤな思い出しか無いんよね‥」
ウーフーのコクピットで遠い目をする芹架・セロリ(
ga8801)、11歳。何かトラウマでもあるのだろうか。
「Tビートル、ハイブリッドバグズ、そして今回の巨大虫キメラ‥敵の技術は着実に上がっているようで、嫌な感じです」
敵の技術は格段に向上している‥銀と黒に塗られた雷電「黒鋼(クロガネ)」の中で警戒を強める遠倉 雨音(
gb0338)。
「甲虫キメラか。同種のキメラが出没しているみたいですね。このTビートルと同じく件のキメラも硬いのでしょうか」
キムム君(
gb0512)がプリントアウトしコクピットに持ち込んだ報告書に目を通しながら言った。彼は随分と特徴的な名前だが‥コードネームらしい。しかし、それでも変わっている‥。
ちなみにキムム君の愛機は黒染めのディアブロ「ナイトメア」。今回が初陣だ。
「5体のキメラと2機のゴーレムですか。目的は不明‥まぁ何であろうと叩き潰すのみ、ですね。ゴーレムは戦闘に参加していないようですが、指揮機? 特殊装備機? もしくは情報収集という可能性もありますし‥放置する訳にもいかないでしょう」
ロングボウのコクピットで意気込む秋津玲司(
gb5395)。
「KV戦は慣れませんが、全力を尽くします」
翔幻改に搭乗するソーニャ(
gb5824)は真剣な表情だ。
「12時の方向から接近する敵影を確認。数7。報告通りです。各機警戒を」
オペレートを担当するセロリからの通信。そして各機は迎撃態勢に入るのだった。
●メガホーン
セロリの指示に従い傭兵達は一直線に向かってくるメガホーンを迎え撃つ。
打ち合わせ通り、射程に入った機体から一斉射撃を加えてゆく。敵には砲撃能力が無いようなので、初撃で少しでもダメージを与えておこうという考えだ。
「まずはお手並み拝見ですな」
修司機がSRD−02で狙撃。
「ロック。一気に押し潰す‥‥行け」
続いて玲司機のミサイル誘導システムを使用した6連装ロケットランチャーが轟音と共に射出される。
「くらえ、ツングースカ大爆発だっ!」
ろまん機は対空機関砲「ツングースカ」で砲撃。
古来、対空砲は対地攻撃においても有効である。
セロリ機と一真機はスラスターライフルで射撃。チェーンガンの機構が唸りを上げる。
雨音機はMSIバルカンR、キムム機は20mmバルカン、ソーニャ機は長距離バルカンをばら撒く。
無数の砲弾やロケットが次々と着弾し爆炎が立ち昇る。
黒煙の中から姿を現す5体のメガホーン。なおも突進を止めない。
それを見たセージ機とヴァイオン機は突撃ガトリングを掃射。
「‥そんなに急いで、どこへ行く? 狭い日本だ。のんびりいこうぜ」
セージは言う。5体のメガホーンはKVに向け突撃をかける。
セロリからの警告。全機、散開。
メガホーンはUターンして戻ってくる。完全にKVをターゲットとしたようだ。
傭兵達は各自分かれて対応を開始。
修司機とキムム機は1体のメガホーンへ連携して攻撃。
「ディアブロ乗りの先輩として腕を拝見させてもらいますよ」
キムム君の言葉に答えるようにロンゴミニアトを打つ修司機。甲殻の繋ぎ目など、弱そうな部分を狙ってみるがはっきりと目視出来る赤い壁の抵抗を受ける。
「ほう、一撃では落ちないか。なかなか硬いようですな‥だが」
「散れっ!」
キムム機がすかさず突撃ガトリングをばら撒き、ディフェンダーで斬りつける。
そして――
「‥貫く!」
修司機がAFを付加して再度ロンゴミニアトの連撃を加える。
絶大な威力を誇るそれは、強靭なFFごとメガホーンをぶち抜く。
メガホーンは身体から体液を噴出し、痙攣した後、動かなくなった‥。
「舐めてもらっては困りますな」
体液を浴びながら機槍を引き抜き、甲虫の屍を見下ろすディアブロ。
風にマントがはためく。
一真機とヴァイオン機も連携して1体のメガホーンに攻撃を行う。
「こいつ‥! 並みのキメラと違う‥!?」
メガホーンの凄まじい突撃を避けつつ、側面へ回り込みスラスターライフルの射撃を加える一真機。まともに食らえば一真の阿修羅であっても手痛いダメージを受けることだろう。
「くっ‥」
ヴァイオン機は突撃ガトリングで牽制し、右手のルプス・ジガンティクスで押さえ込もうとするが振り払われてしまう。仕方なく左手のチェーンソー(金曜日の悪夢)で一撃を入れ、甲殻を少し削る。
向きを変えたメガホーンの突撃がヴァイオン機へ向かう。ヴァイオン機はギリギリで避けるも、振り回された角で装甲に傷がつく。
「やらせない! 防御は厚いけど、阿修羅の出力ならいける筈だ!」
そこへ一真機が、先ほどヴァイオン機がチェーンソーで傷つけた部分にスラスターライフルで集中砲火。
‥しばし置いて、メガホーンは地に伏した。
メガホーン2体を撃破した4機は、次なる目標へ目を向ける。
‥後方に居るゴーレムだ。
「こちら、お任せします!」
「了解」
一真機は修司機と共にブーストで一気に接近。
キムム機とヴァイオン機もそれを追った‥。
●強装甲虫
ろまん機、セージ機、雨音機は残りのメガホーン3体を単機で足止め。
セロリ機、玲司機、ソーニャ機がそれを援護、という形である。
「行くよテンちゃん、ホバーダッシュ!」
ろまん機は滑らかなホバー移動でメガホーンに接近。
「今だテンちゃん、ハンマーボール剣玉殺法!」
鎖を巧みに操り軌道を変えながらトゲ付き鉄球を叩き込むが‥ぶつかる瞬間、メガホーンを包むように赤い壁が出現し、威力が減衰。
メガホーンの反撃、突進がろまん機を襲う。衝撃にコクピットが揺さぶられ、機体が軋む。
「きゃああっ!?」
「ろまんさん‥!」
そこに玲司機のSR−Rと強化型ホールディングミサイルによる援護が入る。
‥とりあえずだが、引き離すことに成功。
「ありがとう、助かったよ」
機体の損傷をチェック。頑丈なテンちゃんじゃなかったら危なかった‥冷や汗を垂らすろまん。
「ぐっ‥!」
機体を捻ってメガホーンの突撃を避けるセージ機。
「ふう、危ない危ない。気を抜けば落とされる‥か。嫌いじゃないぜ。そういうの」
メガホーンの突進力は侮れず、一瞬の油断が命取りになる。
またも突進してくるメガホーン。
「そんな攻撃が当たるかよ! ほら、こっちだ!」
ブーストを吹かしジャンプして飛び越え背後を取るセージ機。
突撃ガトリングによる砲弾の雨を降らせ、PRMシステムを使用した対戦車砲を連射。
「ケツから食う鉛は美味いか?」
‥冷や冷やする場面はあるものの、セロリ機の支援射撃もあり、それなりにダメージを与えることが出来ていた。
だがやはり、赤い壁にダメージが減衰させられてしまっている。
「Tビートルのデカブツ版か‥? 一筋縄ではいかないようだな‥」
セージは苦い顔をした。
雨音機はあまり損傷していない個体を狙ってC−0200ミサイルを射出。
一撃を加えた後、接近を図る。
「はあっ!」
メガホーンの甲殻に量産型機槍「宇部ノ守」を突き立て、付いた傷に向けてレーザーやバルカンを掃射。
ダメージを受け、もがくメガホーン。反撃の突進。
雨音機はそれを機盾「レグルス」で受ける。かなりの衝撃。だが、なんとか踏み止まる。
「『黒鋼』の名は伊達ではありません。硬さが専売特許なのは、何も貴方たちだけではないということです」
そう言い、一旦下がる雨音機。ソーニャ機の弾幕がメガホーンの動きを阻害する。
雨音機の有効な攻撃にソーニャ機のフォロー。二機が上手く連携し、確実にダメージを与えていた。
「まだ‥! もう少し‥! がんばって、テンちゃん!」
ろまん機は損傷を受けながらも奮戦。玲司機の援護も有効に働いていた。
「いきます‥!」
玲司機からの支援砲撃。
「終わりだ! この一撃、止められるものなら止めてみろ!」
これまでの戦闘で傷ついた甲殻。そこを狙ってハンマーボールを力いっぱい叩きつける。
渾身の攻撃に甲殻が砕かれ、ついにメガホーンは倒れた。
「くそ‥中々やるな‥」
セージ機は回避中心に動くも何度か突撃を受け、損傷してしまっていた。
セロリ機のフォローによりなんとか致命傷には至っていない。
襲い来るメガホーンの突撃。けれども‥
「そろそろ見飽きたんだよ!」
セージ機はヒートディフェンダーで受け止める。
衝撃。正面モニターに警告の表示。まだだ‥!
「俺の無神流は、KVに乗ったぐらいで使えなくなるほど堅物じゃねぇ‥!」
高熱を帯びた刃で斬撃を放つ。同時に弾き飛ばされるセージ機。
「ぐああああっ!!」
「セージさん! ‥!? そこっ‥!!」
セージ機の捨て身の攻撃により割られた甲殻。そこへ咄嗟にスラスターライフルの火線を集中させるセロリ機。
‥メガホーンはしばらくもがいた後、活動を停止した。
「‥‥」
雨音機のモニターに映るメガホーンは見るからにダメージを受けていた。
機槍で突き、更に甲殻を剥がす。
「この辺で締めましょう」
「了解です!」
ソーニャからの返答。
直後、濃密な弾幕によりメガホーンの突撃が中断される。
そこへ‥温存していたミサイルの有りっ丈を叩き込む雨音機。
甲殻のあちこちを損傷していたメガホーンは力尽き、崩れ落ちるのだった‥。
●欲の熊鷹‥‥
時は少し遡る――
修司機とキムム機は連携してゴーレムと戦闘中。
「ゴーレムとの戦闘は初めてだが‥そこだッ、霊夢斬!」
キムム機はフェイントを混ぜつつAF付加のディフェンダーを振り被る。バグア式機刀で受けるゴーレム。
その側面からロンゴミニアトの連撃を打ち込む修司機。
ゴーレムはすぐさま回避行動を取る。
一真機とヴァイオン機も、もう一機のゴーレムと交戦中。
「こいつはどうだ!?」
サンダーテールで攻撃した後、新武装、クラッシュテイルを試す一真機。
それは‥少ないが、確実にダメージを与える。
「捕まえて‥崩すっ」
ヴァイオン機はルプスを装備した手でゴーレムの頭部を掴もうとするが避けられる。
カウンターのバグア式機刀による斬撃でその腕を落とされてしまう。
「‥‥っ!」
フレキシブル・モーションを用い、残った腕のチェーンソーで攻撃するが、ゴーレムの機体を掠めるのみだった。
そのとき、ゴーレムの動きが変化した。‥反転し後退を始めたのだ。
少し遅れてセロリ機からメガホーンを全て撃破したとの通信が入る。
4機は、追撃を開始。
修司機がブーストで猛追。撤退するゴーレムに追い縋る。
「逃がさん‥!!」
加速をそのまま利用してのロンゴミニアトの一撃。
それは、ゴーレムの胴体を深々と貫いた。
機槍を引き抜き、距離を取る修司機。ほどなくして、ゴーレムは爆散。
「うおおおっ! ソードウィング、アクティブ! いけえっ!!」
凄まじい速度で地を駆ける獅子、阿修羅改。
ソードウィングを煌かせ、ブーストでゴーレムに追い縋る。
直撃コース。しかしゴーレムはわずかに機体を逸らして避ける。
ソードウィングは片腕を斬り落とすのみに留まった。
スラスターライフルで射撃する一真機だったがゴーレムは慣性制御を最大限に利用し避け続ける。
「そこまでです」
セロリ機からの通信。
「深追いは禁物ですよ」
‥そう、忘れてしまっていたようだが今回の目的は撃破ではなく撃退。
既に目的は達成していた。また、これ以上の追撃は敵の増援の可能性があり危険である。
「任務、成功ですね」
安堵するソーニャ。
「あのゴーレムを逃がしたのは残念だけどな‥」
キムム君は悔しそうな様子だったが十分な戦果だ。
‥そうして傭兵達は帰路に着く‥。
後日――
プロフェッサー・芳賀からの声明により件の虫型キメラは『メガホーン』という名称であることが判明した。
高い防御力を持つ対KVキメラ‥。今後、脅威となりえるかもしれない。
そういう意味で、今回傭兵達がもたらした交戦データは有益と言えよう。