タイトル:白い日マスター:とりる

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/29 21:14

●オープニング本文


 ここはラストホープ某所――
 『フェルマータ』という名前の小さなメイド喫茶。
「いってらっしゃいませ、ご主人様。お帰りをお待ちしておりますv」
 メイドのミカが爽やかな笑顔で客を見送る。栗色の長い髪がドアから入り込んだ風に揺れた。
 ――店内を観察してみると、席はほぼ埋まっており、十数分毎に客が出入りしている。
 なかなか盛況の様子。少し前までの閑古鳥状態が嘘のようであった。
「ねえねえ店長、ご主人様増えましたね! 良かったですね!」
 ミカが嬉しそうに店長に話しかける。
「ええ、そうね。きっとバレンタインデーイベントの効果だわ。さすがミカちゃん!」
「いやですよ店長! そんなに褒めないでください!」
 にこにこ笑顔の二人。
「――あ、今度はホワイトデーが近いですよね。また何かやります?」
「うーん‥‥‥‥そうだわ! これも能力者さんのおかげだから、お礼にご招待するっていうのはどう?」
「それがいいです! 名案です!」
「じゃあ、そうしましょう♪ 皆も良いわね〜?」
 店内でせかせか動いている他のメイドさん達に声をかける店長。
「わたしは別にいいわよ。やっぱり、お礼はするべきよね」
 つり目の金髪ツインテールのメイドさんが答えた。
「萌黄もおっけーだよ☆」
 黄緑色の髪をしたロリっ娘なメイドさんも答える。
 見た目は完璧幼女だが、これでも18歳以上らしい。
「は〜い! 私も大丈夫で〜す!」
 奥のキッチンからややのんびりした声が聞こえた。
「‥‥琴音さんは?」
 ミカが大型液晶テレビの前で客とゲームで対戦中の、黒髪ロングの長身の女性に尋ねた。
「待って! 今良いところだから!」
 画面に映っているのはKVのディアブロとアンジェリカ。最近流行っているKVのゲームらしい。
「ここだ! ブースト空戦スタビライザー発動!!」
 琴音と呼ばれたメイドさんが叫ぶと、いかにもロボットアニメな感じのBGMが流れ、アンジェリカが凄まじい機動を取る。その攻撃を避けきれず、ディアブロは撃破されてしまった。
「やったー! 勝利ー!」
「ちくしょー、やっぱり琴音さんはつえーや」
 うなだれる客を尻目に、立ち上がってVサインを決める琴音。立派な巨乳がたゆんと揺れた。
「‥‥で、なに?」
「ホワイトデーイベントに能力者さん達をご招待しようと思うんですが、いいですか?」
「全然構わないよ。本物のKVに乗っている傭兵さんでしょ? 話とか聞いてみたいし!」
 ぐっと親指を立てる琴音。
「決まりね。私は依頼してくるから、皆はイベントの内容を考えておいて!」
 そういって店を出て行く店長。はーいと声を揃えるメイドさん達であった。

●参加者一覧

/ ナレイン・フェルド(ga0506) / ラルス・フェルセン(ga5133) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 仮染 勇輝(gb1239) / 美環 響(gb2863) / 堺・清四郎(gb3564) / 深墨(gb4129) / アーク・ウイング(gb4432) / シルヴァ・E・ルイス(gb4503) / ルノア・アラバスター(gb5133) / 美環 玲(gb5471

●リプレイ本文

●フェルマータへようこそ!
 メイド喫茶フェルマータでのホワイトデーイベントへのご招待。
 最初に来店したのはラルス・フェルセン(ga5133)とルノア・アラバスター(gb5133)であった。「お帰りなさいませ、ご主人様。お嬢様」と迎えられる二人。
「おや、これはこれは〜。‥‥ホワイトデーの、ご招待ということでー、ありがとうございました〜。実はー、ホワイトデーというものはー、ラストホープに来てから知った習慣、なのですよねぇ。なかなか興味深いー、イベントです〜」
 ニコニコと笑みを浮かべながらのんびりとした口調で話すラルス。
「ええっと、ご招待、ありがとう、ございました‥‥」
 一方、物珍しさにきょろきょろと辺りを見回し、そわそわした様子のルノア。
 彼女はメイド喫茶というものは話には聞いていたが、実際に入るのは初めてだったのですごく楽しみにしていたのだ。それはもう、遠足の前の晩のように。‥‥傭兵になって良かったのは、色々なところへ行ける機会が増えたこと。依頼で世界中を飛び回れるほか、普段生活するラストホープにも実に様々な施設がある。
「確か〜本来はー、男性から女性へ‥‥でしたよね? 私がお客になってしまって良いのかー、少々悩むところですがー、ご招待に甘えるとー、致しましょう〜」
「そ、そう、ですね‥‥じゃあ、私も‥‥」
 メイドのミカ‥‥今は執事服姿だったが、に、それぞれ席へ案内される二人。

「ご指名いただき、ありがとうございます。ご主人様」
 ラルスの前にやってきて恭しくお辞儀をしたのは執事服を身に纏ったエリス。
 窓から差し込む陽の光にハニーブロンドの髪がキラキラと輝き、お辞儀の動きに合わせて赤いリボンで結ばれたツインテールがするりと垂れ下がる。
「今日はよろしくお願いします〜。私の妹も、ツリ目でツインテールなものでー、何となく親近感がありまして〜」
 ラルスは妹の顔を思い浮かべる。特徴的な喋り方をする子で、赤髪で、翡翠色の瞳をしていて、前髪ぱっつんで、ツインテールで‥‥可愛く、愛しい。
 エリスとは大分タイプが違うが、面影は感じられる。
「ご注文はございますか?」
「いえ、まだ結構ですよ〜。そのままで結構ですのでー、椅子に掛けてお話して下さいますか〜? それから堅苦しいのは無しにして、普通に話してもらえると嬉しいです〜」
 エリスに対して、微笑みながらメニューの代わりにそう注文するラルス。エリスは「それじゃあ、お言葉に甘えて」と隣に腰掛けた。
「エリス君の考えで宜しいですからー、いろいろと聞かせてー、下さいねぇ」
 それを確認すると、ラルスはまたにこりと微笑む。そして――語り始めた。
「その私の妹なのですが〜、めでたく恋愛成就したのですよ〜。バレンタインにも、チョコ作りを頑張っておりましたしー、その練習作品も貰いましたねぇ‥‥大量に」
 あははと笑うラルス。妹に恋人ができたのは嬉しいが、ずっと近くで見守ってきた兄としては複雑な心境なのだろう。
「で、私としては幸せな二人を見ているのがー、嬉しいのですがー、どうも妹には邪険にされておりまして〜‥‥」
 ラルスは少しだけ寂しそうな表情を浮かべ「エリス君」と続けた。
「妹に構う兄はー、鬱陶しいですか〜?」
 首をかしげ、尋ねる。
「うーん‥‥」
 エリスはあごに手を当てる。
「‥‥それはきっと、あなたに妹離れして欲しいから、じゃないかしら」
「ほう」
「妹さんはきっと、あなたにも幸せになって欲しいと思っているはずよ。自分だけ幸せじゃ、後ろめたいもの」
 うむむ、と唸るラルス。
「妹さんの幸せを考えるなら、あなたも早くいい人を見つけなきゃねっ。‥‥話を聞いていると、ラルスさん、思いっきりシスコンだから難しいかもしれないけど」
 うふふと笑うエリス。
「ははは‥‥これは参りましたね〜」
 苦笑いするラルスに、エリスは「がんばって」とエールを送った。

「お嬢様には萌黄ちゃんがご奉仕しちゃいまーす☆」
 ルノアのテーブルに現れたのはレタス色のショートヘアが瑞々しいロリっ娘、萌黄であった。背がちっさいので執事服がミスマッチだが、まあこれはこれで。
「は、はい。よろしく、お願いします」
 おずおずと挨拶するルノア。
「緊張しなくていいですよー。はい、リラーックス、リラーックス!」
 ルノアの瞳をじぃーっと見つめ、ずいずいと迫る萌黄。
「か、顔が‥‥近い、です」
 これでは余計に緊張してしまう。
「ところで何か飲みます?」
 顔を離した萌黄が注文を聞いてきた。
「うーんと‥‥」
「それとも執事服かメイド服、試着してみます?」
「えっ‥‥」
 そういえばそんなことが招待状に書いてあったような‥‥。
(「‥‥少し、興味は、あります、ね」)
「じゃあそうしよう!」
「こ、心を読んだ!?」
 萌黄はぐいぐいーっとルノアの手を掴んで更衣室へ連行。もとい、ご案内。
 更衣室のボックス内――
「ちょ、どどどどどこを、触っているん、ですかっ」
「うーむぅ、萌黄と同じくらいかなあ」
「な、ななななにが、ですかっ」
 そんな楽しげな(?)話し声が聞こえてくる。
「これでOKだよっ」
「‥‥これは‥‥」
 鏡に映る燕尾服姿の自分。萌黄と同じく、ルノアはまだ小さいので服に着られている感は否めないが、きりりと気持ちが引き締まった感じがする。
「じゃあ次はメイド服いってみよー!」
 ばさばさっとルノアの衣装を剥く萌黄。悲鳴が上がった。
「ほい、完成♪」
「‥‥」
 鏡に映るメイド服姿の自分を見つめるルノア。フリルたっぷりの白と黒を基調としたシンプルなメイド服。試しにくるりと回ってみる。スカートがふわっと広がった。スカートの下にはドロワーズを穿いている。
「‥‥」
 頬を赤らめるルノア。なんだか、嬉しい気持ちが湧き出てくる。
 このお洋服、可愛い‥‥。
「すっごく似合ってるねー。萌黄嫉妬しちゃう♪ そうだ、試しにご奉仕してみる? 今、ご主人様いるし」
「ええっ!? それは‥‥」
「女は度胸。なんでもやってみるものだよっ」
 またぐいぐいと萌黄に連行されていくルノア。

 ラルスは相談に乗ってくれたお礼にと、エリスに紅茶を淹れてあげていた。
 そこへ――
 萌黄に連れられたメイド服姿のルノアが登場。
「おやおや、可愛らしいですね〜」
 微笑ましいなぁ、と思うラルス。それを聞いて更に赤くなるルノア。
「ほら、さっき教えた台詞、言ってみて」
 萌黄に促される。
「‥‥お、お帰り、なさい、ませ‥‥ご主人、様」
 ちょっと俯き気味に、たどたどしく言うルノア。
「う〜ん、これはー、ぐっとくるものがあります〜」
「!?」
 耳まで真っ赤になる。
(「恥ずかしい‥‥でも‥‥癖になりそう‥‥かも」)
 まんざらでもない様子のルノアであった。
「でしょー! よかったらうちで働いてみる?」
 にやりと笑う萌黄。
「また心を読んだ?!」

●激闘! KVウォーズ+メイドの心得
 続いて来店したのはヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)、仮染 勇輝(gb1239)、アーク・ウイング(gb4432)、シルヴァ・E・ルイス(gb4503)の4名だ。
「KVのゲームがあると聞いて来ちゃいました♪」
 ヴァレスのお目当てはゲーム。琴音という強者がいると聞いてやってきたらしい。
(「‥‥これも仕事のようなもの、かな」)
 はしゃぐヴァレスを見て、やれやれと眉間を押さえるシルヴァ。
「隊長が他出したきり帰って来ない‥‥となっては、ちと困るゆえ」
 彼女は苦笑する。今回はヴァレスのお目付け役のようだ。
「こ、ここがメイド喫茶‥‥」
 初めて見るメイド喫茶の中。その雰囲気に圧倒される勇輝。
 彼は近々、所属する兵舎で行われるイベントでメイドさんになる予定なので、その心得を学びに、そして女性が苦手なのを克服するために来たのだ。
「メイドさんかー。そういえば何年か前に、父さんとお爺ちゃんが外国の娘を雇って、萌えというかエロいメイド服を着せて喜んでいたっけ」
 アークが思い出しながら言った。‥‥エロいメイド服だと? そんなものは断じて認めません! 露出が多いメイド服はフレンチメイドと言って邪道なんだー!! という叫びが世界のどこかから聞こえた気がした‥‥。
「その日の晩に、母さんに2人とも半殺しにされて、翌日その娘は迷惑料兼口止め料として結構な額を渡されて家に帰されたんだよね、確か」
 まあ、当然である。
 ‥‥メイドのミカに席へ案内される3人。勇輝はメイドになることを(不本意ながら?)所望したのでエリスに店の奥へ連行された。

 ヴァレスが案内されたのは大画面液晶テレビの前。ゲームができる席だ。
「お帰りなさいませ、ご主人様。あたしと対戦したいのは君?」
 長身で、黒髪ロングで、しかも巨乳の女性がやってきた。
 執事服を着ているが豊かな双丘はしっかり確認できる。
 ‥‥その姿をまじまじと見つめるヴァレス。
「ふむ、執事服か。でも、メイド服のほうが似合うとは思うけどなぁ。可愛いんだし」
 と、さり気に言い放つ。それに琴音はほんのり頬を赤らめ「ならメイド服に着替えてくる?」と聞いてきたがヴァレスは「そのままでいいよ」と返した。
 ヴァレスの背後で、シルヴァの目が光っていたのは言うまでもない。
「じゃ、さっそくやろう」
「ふむふむ。これで攻撃、回避はこれ。特殊能力は‥‥」
 琴音の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ヴァレスは説明書をぱらぱらと捲る。
「よっし、大体解った。やるからには、負けないよ」
「ほほう。初めの癖にあたしに勝とうなんて、随分な自信だね」
「舐めてもらっては困るな。これでも俺はKV小隊の隊長だ」
「あ、そっか。本物のKVのパイロットさんだったね。‥‥傭兵の力、見せてもらうよ?」
 琴音は最新ゲーム機の電源を入れる。KVが空中を舞うOPが流れた後『激闘! KVウォーズ』というタイトル画面が現れた。
「ロールアウト済みのKVのデータは全部入ってるから。新しいのが出てもパッチで更新されるし」
 琴音の説明によると、このゲームは対戦モード、アーケードモード、ミッションモードの三つのモードが楽しめるのが売りらしい。ネット対戦もできるそうだ。
「ほむほむ、けっこう忠実に再現されてるな‥‥陸戦がメインなのか」
「ロボットゲームだからね」
 対戦モードで機体を選択する二人。その様子をシルヴァはハート型のホットサンドとコーヒーを口にしながら観察する。
 ヴァレスが選んだのはやはり、実際に乗っている愛機、シュテルン。
 琴音が選んだのはアンジェリカだった。
 対戦開始――
「それじゃ‥‥いくよ!」
 いきなりブーストを使用し突っ込んでくるアンジェリカ。
「うぉっ!?」
 振るわれるビームコーティングアクスをハイディフェンダーで受け止めるシュテルン。
 初っ端から激しい戦いである。手加減無しだ。その後も鍔迫り合いが続く。
 最初はぎこちなかったヴァレスもすぐに慣れてゆく。
「これは‥‥面白い」
「でしょ?」
 今度は距離を取っての撃ち合い。アンジェリカのデルタレイ、そしてシュテルンのアハト・アハトのレーザーが交差する。
 アンジェリカの正確な射撃に、みるみるうちにHPを削られてしまうシュテルン。やはりゲーム慣れしている琴音のほうが有利のようだ。
「なにぬぉ〜! ここで負けてたまるか〜! PRMシステム作動!」
 追い詰められたヴァレスは賭けに出る。攻撃力を引き上げブーストを発動し一気に距離をつめる。
「それならこっちも!」
 アンジェリカもブースト空戦スタビライザーを起動。
 ハイディフェンダーを薙ぐシュテルン。アンジェリカはそれを避ける。カウンターでビームコーティングアクスを振るう。攻撃を食らいながらも返し刃で反撃するシュテルン。今度はヒット。そして斬り合いの末――
 二分割された画面の双方に「DROW」と表示された。
「くそー! 引き分けかー!」
「あはは、さすが現役の傭兵だね。初めてなのに。引き分けなんて滅多に無いよ」
「そうなの?」
 きょとんとするヴァレスに「うん」と頷いて笑みを浮かべる琴音だった。

 更衣室――
 差し出されたメイド服を目の前に、勇輝はたじろいでいた。
 覚悟を決めてきたつもりだったがやはり女装は抵抗がある。
「なによ。あなた、メイドになりたいんじゃないの?」
「そ、そうですけど‥‥こ、これを着るんですか‥‥」
「もちろん。これを着なきゃ始まらないじゃない。男の子でしょ、早く着替える!」
 勇輝に対して同僚というか指導役として接するエリス。非常に厳しい。
 しばらくして、顔を真っ赤にしたメイド服姿の勇輝がもじもじと出てくる。フェルマータの制服、ヴィクトリアンメイドだ。頭にはしっかりとカチューシャを装備。
 エリスは下着まで女物にしようと考えていたが、そこは懇願して勘弁してもらった。ゆえにガーターベルト+ストッキングではなく、白のオーバーニーソを穿いている。
「では、着替えたところで、メイドの心得を教えるわね。メイドさんになるには、ご奉仕の精神を持つことが大事。メイド服を着ただけでは、それはコスプレにすぎない。ただのウェイトレスと変わらないわ。ご主人様を一番に考えること、それが重要なの」
 ふむふむとメモを取る勇輝。
「うちのお店が他と違うのはそこ。ご主人様との一対一のコミュニケーションを大切にしているの。まあ、ご主人様が多いときはさすがに無理だけど。‥‥その辺の、精神面の指導は主席メイドのミカさんが行っているわ。私も受けたし。今回あなたは私を指名してきてから、私が教えてあげてるけど」
 うんうんと頷く勇輝。
「以上よ」
「え? それだけですか?」
「そうよ。それだけ‥‥ご奉仕の精神さえ持っていればいいの。あとは接客マナーとかだから。実践して覚えるしかないわ」
 そうして勇輝の手を引き、ホールへ出て行くエリス。
 女の子の柔らかい手の感触に‥‥心拍数が上がってしまう勇輝。

「お、お帰りなさいませ、ご主人様」
 勇輝はヴァレス、アーク、シルヴァの前にやってくると、プルプル震えながらご挨拶をした。
「おや‥‥仮染殿? 珍しいことをなさっておられるな‥‥ふふっ」
 にやにやと笑うシルヴァ。他の皆からの視線も突き刺さる。
(「‥‥男としての人生が終わった感じがする‥‥」)
 がっくりとうなだれる勇輝。だが――
「‥‥し、シルヴァ様も、好きな方の前でメイド服になってみてはいかがでしょうか?」
 果敢にも反撃に出た。
「なに? 私がメイド服を‥‥彼の前で? ‥‥ありえない。そんなことは‥‥。うむ、ありえない‥‥」
 ぶつぶつと呟き始めるシルヴァ。‥‥勝った?
 とりあえず知り合いのヴァレス、シルヴァ、そして離れた席のルノアに給仕をした後、限界が来たのか奥へ引っ込む勇輝。しばらくして戻ってきたときには執事服になっていた。メイド服だけでは悔しかったらしい。

「君も対戦する?」
 今まで一人でアーケードモードに夢中になっていたアークに話しかける琴音。
 ‥‥しばし考えたあと、こくりと頷くアーク。
「よーし、じゃあ張り切っていこう」
 機体選択。‥‥また、アンジェリカとシュテルンだった。
「また同じカードかあ。シュテルン人気だねえ」
 ゲームでの人気は実際の市場とリンクしているらしい。
 ――対戦開始。
 だがまたしても手加減無しの琴音は開始と同時に接近しSESエンハンサーを起動、帯電粒子加速砲を二発ぶち込む。あっけなく沈むシュテルン。
「がっでむ。なんと卑怯なり! 本物とゲームじゃ勝手が違うか。ゲームだとAIが補佐してくれないし」
「あはは、ごめんね」
 ぺろっと舌を出す琴音。
 そうして、しばしの時が流れ――
「隊長‥‥そろそろ、帰るべき頃合では?」
 シルヴァがヴァレスを促した。
 画面にはハイディフェンダーでゴーレムを叩き斬るシュテルンが映っている。
 こちらはミッションモードにはまっていたようだ。
「あれ? もうそんな時間か」
 気付けば来店から3時間ほどが過ぎている。
「残念だなー。また今度非番の時に来るよ♪」
「‥‥すまぬな。うちの馬鹿隊長が、ご迷惑をおかけしたようで」
 入り口で、頭を下げるシルヴァ。ヴァレスの頭も掴んで強制的に下げさせる。
「いいや。こっちも楽しかったよ。お帰りをお待ちしております、ご主人様。お嬢様」
 笑顔で二人を見送る琴音。
「ああ。それでは」
 そう言って名残惜しそうなヴァレスを引っ張ってゆくシルヴァであった。

●傭兵の休日
 堺・清四郎(gb3564)はラストホープの商店街を歩いていた。
(「喉が渇いたな‥‥」)
 そう思っていたところ、喫茶店らしきものを発見。
 なにやら貼り紙にホワイトデーがなんたらと書いてあったが――
「‥‥何かのキャンペーン中か? まあ、いい」
 特に気にせず扉を開け、店の中へと足を踏み入れる清四郎。
「コーヒーを頼む」
「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
「!?」
 燕尾服を着た女の子に迎えられてしまう。
「‥‥すいません、間違えました」
 回れ右して出て行こうとするが‥‥
「あ、ちょっと待ってください! ご主人様‥‥お客様は能力者さんですよね?」
 燕尾服を着た女性に引き止められる。
「‥‥そうだが、何故判った」
「やっぱり! そんな格好をしているのは能力者さんくらいですもの」
 清四郎は和服姿だった。確かに、このような格好をしているのは能力者‥‥傭兵くらいかもしれない。
「ここはメイド喫茶、フェルマータです。今はホワイトデーイベント中で、店員の皆で執事服を着て能力者さんを無料でご招待しているんですよ。私はミカといいます。どうぞ、お席へご案内いたします」
「メイド喫茶‥‥!?」
 場違いなところに来てしまった‥‥しかし、無料ということだし‥‥せっかくなので楽しむのも良いかもしれない。
「あ、よければご主人様も執事服を着てみます? きっと似合いますよ!」
「え? ちょ、ちょっと待て‥‥アッー!」
 数分後――
 執事服姿の清四郎が席についていた。
(「ううむ、ヒーローショーの真似事よりはマシだが恥ずかしい‥‥」)
 ガラスに映る自分に目をやる。‥‥なかなか似合ってるんじゃないか?
 そして手元のメニューを開く清四郎。なんとなく可愛いと思ったエリスを指名してみる。
 暫くして、エリスが金髪のツインテールを揺らしてやってきた。彼女は今日、大忙しだ。
「ご指名ありがとうございます、エリスです」
 清四郎はエリスをまじまじと見つめる。ふむ‥‥可愛い女の子が男物の服を着るのも良いかもしれない‥‥。余計に可愛さが引き立つ。
「燕尾服、似合っているぞ」
「そ、そうでしょうか?」
 エリスの頬が赤らむ。
「ああ。可愛い」
「べ、別に好きで着ているわけじゃありませんからっ。そんなこと言われても嬉しくないですっ」
 顔を背けるエリス。
「ハハハ、素直じゃないところが可愛い娘だな」
「あんまり可愛いとか連呼しないでくださいっ‥‥その、照れちゃいますからっ‥‥」
(「むう、これが今流行の『つんでれ』という奴か」)
 なかなか良いものだ、と思う清四郎。
 そこへ――
「ラブラブ充填コーヒーお持ちしました〜」
 プラチナブロンドの髪をセミロングにした、優しい雰囲気の女の子がコーヒーを運んでくる。エリスと同じ燕尾服姿だ。メニューに写真が載っていた‥‥名前はリリスだったか。
「ラブラブ‥‥なんだって?」
「ラブラブ充填コーヒーです〜」
「俺は普通のコーヒーを頼んだはずだが」
「普段は追加料金があるんですけど、本日は無料なのでサービスです〜」
 にこにこと答えるリリス。
「ご主人様は、こういうの初めてですか?」
「あ、ああ」
 頷く清四郎。見た目は普通のコーヒーなのだが、一体どこがラブラブなのだろうか。
「だったら私、はりきってラブラブ充填しちゃいますね♪」
「え‥‥」
 するとリリスはコーヒーにミルクを注ぎ――
「萌え萌えリリスが充填しちゃうぞ。ラブラブラブラブ(はぁと)おいしくな〜れ☆」
 そんな、呪文を唱えながらスプーンでコーヒーをくるくるかき混ぜる。
「!?」
 目の前の光景に愕然とする清四郎。
「はい、できましたよ♪」
「‥‥」
 無言のままコーヒーを啜る。
 ‥‥確かに、普通より美味しいかもしれない。
「ん? そういえば二人は名前が似ているが‥‥」
「はい。私とリリスは姉妹です。顔も性格も似てないって言われますけど。私が姉で、リリスが妹になります」
 エリスが答える。
「そうだったのか」
 ふむ。雰囲気も髪の色も違うが、どこか共通点があるような気がする。
「他に注文はございますか?」
 リリスが尋ねてくる。
 清四郎は再びメニューに目を通す。
 そして‥‥こんなものを発見してしまう。その名も――『姉妹丼』。
「!!?」
 こ、これは‥‥ここはそういう店だったのか? いや、どう見ても普通‥‥なのかどうかわからないが、メイド喫茶だ。いかがわしい店とは到底思えない。
 清四郎はエリスリリス姉妹の顔を見る。‥‥汗が吹き出た。しかし――ここは男として聞いてみるべきではないだろうか。
「‥‥こ、この、姉妹丼というのは‥‥」
「あ、それですか。それはタマゴ丼にゆで卵が乗っているだけですよ」
「皆引っ掛かって注文してくるのよね」
 きゃっきゃと笑うエリスとリリス。
「‥‥」
 なんだろう、残念なような、安心したような‥‥
 「じゃあそれで」と、結局注文する清四郎であった。

●ナレインさんと玲ちゃんの執事
 次に来店したのは深墨(gb4129)だった。
「‥‥あれ?」
 どうやら彼も先の清四郎と同じく迷い込んでしまった口らしい。
 偶然とは重なるものだ。
(「男一人ではちょっと抵抗が‥‥でも、こうなったらもう入るしかないな」)
 そこから同じである。ミカに案内される。
 チョコラテなどを注文し、メイドさんから受け取る時は「ありがとう」と微笑む深墨。
「おっ。美味しい」
 飲み物を口にしながら、ぽけーっと店内を見回す。
 可愛いメイドさんたちは‥‥今は執事服姿だが‥‥実に眼の保養になる。
「ふふ。なんだか色々な人がいて、面白いお店だな」
 だんだん慣れてきたようだ。途中、執事服姿の勇輝を発見。
「まさか、仮染さんがいるとは思わなかった。こんなところを見られるとは‥‥」
 と、ちょっぴり焦ったが勇輝は「お互い様です」とのこと。
 そうこうしていると――
「本日はお招きいただきありがとうございます」
 美環 響(gb2863)が来店。
「燕尾服を貸してもらえると聞いたのですが、よいですか?」
「ええ、もちろんOKです」
 頷くミカ。
 その会話を聞いていた深墨。
「あの、すいません。燕尾服を試着できるんですか? 俺も一度着てみたかったんですよ」
 貴方は? と、尋ねてくる響に対し自己紹介。すぐに打ち解ける。
「丁度良かった。二人のお嬢様がご来店の予定です。執事も二人いると良いですからね」
 微笑む響。
 そうして二人は燕尾服に着替える。

「今日も暑いですね‥‥どこか涼しい場所は‥‥」
 初夏を思わせる陽気の中、日傘を差したアオザイ美人がそこにいた。
 ナレイン・フェルド(ga0506)である。
 長い銀色の髪を三つ編みにして青いリボンで結っている。
 ふと思い立って、偶然見つけた喫茶店に入ってみることにした。
 するとそこは――
「お待ちしておりましたお嬢様」
 燕尾服を着た執事だらけの世界。
「‥‥ど、どうしましょう‥‥わ、私‥‥こんな所に入っちゃ、ダメだったわ」
 驚いて半泣きになるナレイン。
 そのとき――後からもう一人のお嬢様が登場。
 艶やかな黒髪のストレートヘアの美少女、美環 玲(gb5471)だ。
 金と銀の複雑かつ優美な刺繍が施された優雅なドレスを身に纏っている。
 その容姿は響にそっくり!
「どうぞ、こちらへ。ご案内いたします」
 ナレインは深墨に、玲は響に、それぞれ席へエスコートされてゆく。 

 紅茶を飲んだり談話したりしているうちにナレインの緊張は徐々に溶けていった。
 深墨もなかなかやるものである。響のアドバイスのおかげだろうか。
「‥‥あの、紅茶を、おかわりしてもいいですか?」
 頬を染めて上目遣いに深墨を見つめるナレイン。
 そのさり気の無い色気にちょっとドキっとしてしまう。
「かしこまりました」
 執事になりきった深墨は平常心をなんとか保ち、ナレインのカップに紅茶を注ぐ。
「あ、ありがとうございます」
 微笑むナレイン。そうして二人は、向かい合ってまた話し始めた。
 優雅な時間が流れる――

「本日はガトーショコラをご用意させていただきました」
 玲の斜め後に立ち、恭しくお辞儀をする響。
「ありがとう」
 行儀良く口に運ぶ玲であったが――
 響に給仕されるという滅多に無いシチュエーションの為かフォークを取り落としてしまう。
 しかし、響がはしっとキャッチ。素早く替えの新しいフォークを用意した。
 微笑む響に対して玲も微笑み返す。
 ‥‥ガトーショコラを平らげた後、紅茶のカップに口をつつ、玲が言う。
「響さんの奇術が見たいわ」
「イエス、マイロード。それではお戯れに一つ簡単なものを‥‥」
 玲のリクエストに答え、響は得意の奇術を披露した。
 トランプを取り出しシャッフル。
 玲がストップと言うまで1枚ずつ重ねてテーブルに置いてゆく。
 このとき玲の視線はテーブルのカードに釘付け。
 そしてテーブルに置いたカードで4つの山を作り、その一番上のカードを見てみると――
 4枚とも、エースであった。
「まあすごい! どうなっているの?」
「ふふ、ヒミツです」
 唇に人差し指を当て、また微笑む響。
 こうしてそっくりなお嬢様と執事はそれぞれの役を演じ、楽しんだようだ。

 帰り道――
「うまく演じられてたかしら? 頑張ってみたんだけど‥‥」
 ナレインが響に尋ねる。ナレインは響の希望で『深窓の令嬢』を演じていたのだ。
 普段はテンションが高いのでちょっぴり心配な様子。
「横目で拝見させていただいていましたが、お見事でしたよ」
「ふう、良かったー」
 響の笑みに安堵のナレイン。
 ラストホープが夕陽に染まってゆく‥‥。

 フェルマータ――
 お客が全員帰った後、反省会中の5人のメイドさんと店長。
「ご主人様やお嬢様に楽しんでいただけたかしら」
「大丈夫だよ! 萌黄たち頑張ったもん!」
「ええ、皆さん笑顔でした〜」
「今日は大忙しだったわ。ふう」
「あたしも、ゲーム三昧で満足だねー」
 メイドさんそれぞれの感想である。
「手ごたえ十分ね。皆、お疲れ様」
 店長の労いの言葉。そして6人は円陣を組む。
「明日からも頑張っていくわよー!」
「「「「「おー!!」」」」」
 気合を入れる6人。
 メイド喫茶フェルマータは、これからもご主人様とお嬢様のお帰りをお待ちしております☆