タイトル:【聖夜】幻想の光Fマスター:とりる

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/06 10:51

●オープニング本文


 日本のどこか。とある夜の街。イルミネーションに彩られ、煌びやかに輝いている。
 ――『幻想の光』。そう呼ばれる、毎年恒例のイベントである。
 十二月の一日から大晦日までの間‥‥冬の寒々しい、すっかり葉の落ちた街路樹に電飾を施し、満天の星空にも負けぬ‥‥見る者を魅了する無数の光の集合体とする催し物。
 それは‥‥この地の住民からすれば、長い長い戦いの果てに‥‥ようやく戦後という日を迎えることが出来た今年を象徴する、未来への希望の光とも言えるだろう。
 街は、そういった理由もあってか、今年は例年よりもたくさんの見物客で溢れ、大いに賑わっていた。

 一組のカップル――いや、家族にスポットライトを当ててみよう。
 若い夫婦だ。そして妻のほうはベビーカーを引いている。赤ちゃんは恐らくまだ生後一歳未満。
 夫婦は二人とも笑顔で、赤ちゃんはすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
 見ているほうの顔もほころぶような、絵に描いたような幸せ家族。
 ――戦後の世界。皆、誰もがこの家族のようになって欲しい、そう願えるような理想形。
「今年は人がいっぱいだねぇ」
「そうだねぇ、目に見えて活気があるよ」
 並んで歩く夫婦の会話。
「今年は特に綺麗に見えるなぁ‥‥このイルミネーション。今年はたくさん、良いことがあったから」
「うん‥‥僕もそう思う。ゆーちゃんとこれから一緒に歩む未来と、そしてこの子が生きる未来が‥‥このイルミネーションみたいに明るいといいな‥‥」
 夫は指先で我が子の頬を優しくつついた。
「うふふ、たかゆきくんって結構ロマンチストなんだね」
 妻はそんな夫の顔を見て、くすくすと笑った。
「わ、笑わないでよ‥‥本気で言ってるんだからさ」
「えへへ、ごめん。わかってる。――そんなたかゆきくんが大好きだよ」
 そう言って妻はそっと、心より愛する夫の頬に口付けをした。
「ゆーちゃん‥‥」
 夫がほのかに頬を赤らめると――
「ガルルルルルァァァァァ!!」
 野獣の咆哮と共に『奴ら』が現れた。嫉妬オーラをガンガンに放った、毛むくじゃらの狼男の集団。当然、辺りは騒然となる。
 ――夫の行動は素早かった。
「ゆーちゃん、早く逃げて。こいつらの目的は僕だ」
 妻と我が子を背中に隠し、避難を促す。‥‥流石に毎年襲われていれば予想が付くらしい。
「でも‥‥! たかゆきくん‥‥!」
「僕は大丈夫だから、早く!」
「‥‥わかった。たかゆきくん、絶対無事に帰って来てね!」
「約束するよ」
 夫は妻のほうを向いてニッと笑顔を見せた。妻はベビーカーを押し、その場から足早に去る。
 それを確認すると、夫は狼男の集団を睨みつけた。
 この狼男達は毎年クリスマスシーズンに出現してはカップルの男性のほうを攫い、全裸に剥いて路上に放置していくという残酷極まりない(?)犯行を繰り返してきた凶悪な(?)キメラ。
 毎年ULTの傭兵によって撃退されているのだが、今年も例によって出現‥‥。
 夫は既に、完全に狼男達によって包囲されている。絶体絶命の危機。
 だが――彼の瞳は燃えていた。彼には守るものがたくさんある。愛する妻。そして――その妻との、愛の結晶である我が子!
(今年こそは絶対に負けない!)
 しかし‥‥現実は無常というもので‥‥夫は狼男の集団に群がられ、あっという間に捕まり、数体によってがっちりと両腕を拘束されてしまった。
 地面に身体を押し付けられ、四つん這いに近い状態にされる。――夫の脳裏に去年の悪夢が蘇る。
 狼男達は夫の穿いているズボンを下着ごとぐいっと引っ張ってずらした。‥‥お尻丸出し。
 次に何をするかと思えば‥‥もう一体の狼男が、何やら赤い円錐状の物体を手に、こちらへ近づいて来る。
 その赤い円錐状の物体は――クリスマスキャンドルだった。芯には火が灯っている。
 この状況で、それをどのような用途に使うかといえば‥‥。
「や、やめろォ!」
 思い当たったと同時に、夫は叫んでいた。しかし‥‥いくら叫ぼうとも狼男がソレを止めるはずもなく‥‥。
 溶けた蝋燭の雫が、無慈悲にも夫の尻に垂らされた。
「アツゥイ!」
 それは何度も何度も続き、夫が泣いて許しを請っても止められることはなかったという‥‥。

 ‥‥その後、夫は赤い蝋燭だらけになった尻を丸出しにしたまま、気絶した状態で路上に転がっているのを発見された。

●参加者一覧

/ 藤枝 真一(ga0779) / 白虎(ga9191) / 天道 桃華(gb0097) / リヴァル・クロウ(gb2337) / セラ・ヘイムダル(gc6766

●リプレイ本文

●幻想の光FINAL
 日本のどこか。クリスマスムード一色に染まった街。
 そこでカップルを襲っている傍迷惑なキメラ――ロンリーウルブズを退治するべく、数名の傭兵が派遣されていた。
 とは言うものの、実際のところは『依頼にかこつけてデートを楽しむ』という内容なので派遣された傭兵は恋人同士、あるいはそれに類するものである。
 ‥‥約一名を除いては‥‥。

 藤枝 真一(ga0779)と天道 桃華(gb0097)のカップル。
「どうせここで奴らを倒しても、第二第三のと続くだろうしな‥‥。物理的にダメージを与えるだけじゃ駄目だ。奴らの存在を、根幹から覆すものでないと、効果が無い」
 夕暮れ時の街頭。真一は商店の窓ガラスに持たれ掛かって胸の前で腕を組み、目を閉じて何やらぶつぶつと呟いている。
「もういっそ、襲われると幸福になるとか、そんなジンクス作って奴らを精神面から追い込むのもいいかも。実際、襲われている奴って、皆幸せになっているわけだし」
 というわけで真一は事前に、そのような都市伝説を市内ネットワークの掲示板に書き込みまくっておいた。
 だが書き込みへの反応はイマイチ。この街には既にロンリーウルブズの悪名が響き渡っているのだ。今更覆すのは難しいかもしれない。

 ――ここで説明を入れておこう。この世界に『いわゆるインターネット』は存在しない。
 その理由は単純明快。この世界は長らくバグアのジャミング下にあったためだ。
 ただし、国や世界規模でのコンピュータネットワークは存在しないものの、市町村レベルでのネットワークは存在しており、今回真一が利用したのはそれである。
 以上、説明終わり。

「あとはまぁ、桃華の手作りケーキとかあれば、脅迫も――っ!?」
 言いかけた真一を貫いたのは桃華の鋭い視線。
「シンちゃん、何か言った?」
 ニッコリ笑顔の桃華。しかしこめかみにはぴくぴくと青筋が浮かんでいる‥‥。怖い。すごく怖い。
 ついでにお尻もつねられた。
「‥‥ナンデモアリマセン」
「とにかくー、今年もシンちゃんとクリスマスデートー♪ 今回で五度目よね♪」
 一方で桃華の思考。真一とは相変わらずの夫婦漫才が展開する間柄だが、今回はラブラブ重視でデートになるようがんばるつもりである。
「五度目かぁ。もうそんなになるんだなぁ」
 真一は何か含んだような返し方をする。
 そんなこんなで二人はカップルでごった返す街中へ繰り出した。

 ***

 リヴァル・クロウ(gb2337)とセラ・ヘイムダル(gc6766)のカップル。
(‥‥まだこういった類のキメラがはびこっているのか。放っておくわけにはいかない)
 リヴァルはキリリとした表情を浮かべ、携帯端末で依頼内容を確認。
(あくまで殲滅が目的だ)
 そのシリアスな表情や思考の裏では、お相手のセラにちょっと格好良いところを見せたいな、などと思っているのは秘密。
(リヴァルお兄様はセラの大切な思い人です‥‥)
 セラの服装は暖かく可愛らしくも、胸の膨らみがはっきり確認できるもの。これで愛しのお兄様‥‥リヴァルを悩殺する腹積もりだ。
 リヴァルとセラの二人は、先の真一と桃華とは違って明確な恋人同士ではない(あちらも一般的なカップルかと言われると微妙なところだが‥‥)。
 ゆえにセラは今宵、隙あらばリヴァルをモノにするつもりである。そのくらいの意気込み。

 ***

 日が落ちて薄暗い街の、更に暗い路地裏。不気味な雰囲気が漂っているそこに声が響いた。
「今まで放置してて悪かった! 今年は僕が一緒だ! ともにリア充粛清をしよう!」
 声の主は白虎(ga9191)。彼の目の前には依頼のターゲット、狼男の集団、ロンリーウルブズがたむろしていた。
 狼男達はヤンキー座りをして「そろそろ行ってみっか」のような空気をしている。
 さて、言葉通り、白虎は狼男達と共にしっと活動を展開しようと考えていたのだが。
 ロンリーウルフは曲がりなりにもキメラ。その根っこはバグアの生体兵器であるため、本来敵である人間の命令などを聞くことはない。
 狼男らは白虎をガン無視してカップル狩りへと出かけてしまった。
「えっ‥‥?」
 白虎はその場に一人、ぽつんと取り残されてしまう‥‥。

●デート 前半
 リヴァルとセラと恋人ということで行動中。
 街を歩きながら、リヴァルはちらりとセラの横顔を窺う。
 これまで彼女は献身的に尽くしてくれた。今日は良い想いをさせてやりたいと思っている。本当のデートのように振る舞うつもりだ。
「‥‥まったく。まぁ、今日ぐらいは好きな所に連れていこう」
「リヴァルお兄様‥‥ありがとうございます♪ 嬉しいです♪」
 セラとしてはリヴァルとラブラブカップルを演じる‥‥のではなく、そのものになるつもり。
 彼女は秋にリヴァルへ想いを告白をしたものの、答えを先送りにされてしまっている状態‥‥。実に生殺し‥‥。その状況を打破するためにも。
(追撃の意味も込めて、カップル演技ではなく本気で誘惑するのです‥‥じゅるり♪)
 まず魅力アピール。二人で歩いている最中。
「すっかり寒くなりましたね‥‥」
 セラは話題を振ってから、そっとリヴァルの手を握ったり、彼に寄り添ったりして、距離感を意識させる。あくまでもさり気なく。さり気なく。
「イルミネーションがとっても綺麗です‥‥」
 煌めく街路樹を指差し、共通の綺麗な物を見るように仕向けて隙を作る。その後に、一気に距離を詰める! 側面からリヴァルに抱き付く!
「こうすれば暖かいです‥‥」
 大好きな人をぎゅうううと抱き締めながら、程良く大きく形の良い胸を押し付ける。‥‥怒涛の攻勢。まさに押せ押せである。
(お兄様はむっつりさんのおっぱい星人なので、こういうのに弱いのです♪)
 リヴァルの反応は――そっと斜め下に視線をそらし、メガネをくいっと直した。
 平静を装っているが、明らかに動揺している。セラはほんの少しくすりと笑い、愛しい人の仕草に胸をきゅんとさせた。
 セラの攻勢はまだ途切れない。ドサクサに紛れ、
「お兄様がどう思っていても、セラはお兄様を好きで居続けたいです‥‥」
 頬を赤らめ、リヴァルの耳元に向かって囁き、健気アピール。
 そのウィスパーボイスを聞いたリヴァルは明らかにぐらついていた。

 その後、二人はセラの洋服やアクセサリー類を見て回る。
 リヴァルはセラが気に入るものがあればプレゼントしてあげた。
 一通り見て回ってからは夜景の綺麗なレストランにて食事。完璧に近いデートであった。

●デート 後半
「イルミネーション綺麗ねー。シンちゃんもそう思うよね? ねー?」
「いや、俺には良さはわからないよ。所詮、ただの電飾だし‥‥それに」
 ずいずいと詰め寄ってくる桃華に対し、真一はそっけなく返答しつつも、
「どんなに美しいものも、桃華の笑顔には遠く及ばないからな」
 そんな恥ずかしいことをボソッと言ってみた。
「もう! シンちゃんったらまったくもう! 相変わらずなんだからー! ‥‥ところで『それに』なに? よく聞こえなかったんだけど?」
「んー。桃華のツインドリルを見てたら、焼き芋食べたくなってきたな。食うか? 焼き芋」
 真一はほんの少し頬を赤らめつつ、はぐらかした。焼き芋の屋台を指差す。もちろん桃華は「食べる―!」と返事した。

 ベンチに座り、二人して焼き芋をはふはふと食べる。
 当然、桃華の定位置は真一の膝の上だ。焼き芋を食べ終えた桃華は照れ照れしながら回転。真一と対面になる。
「えへへ、シンちゃんのおひざ温かーい」
「なんだ? オナラなら、我慢しなくていいぞ」
 デリカシー皆無なことを口走る真一。彼の頬には即座にグーパンチが飛んできました。

 へそを曲げた桃華のご機嫌を真一が取りつつ、ほのぼのデートは進行。
 二人は身を寄せ合い、ぴったりとくっつきながらイルミネーションを見たり、公園や屋台を見て回ったり。
 ‥‥少し歩き疲れたら、またベンチに腰を下ろす。今度は二人並んで。
 そこでイベント発動。プレゼント交換。
 桃華が持参したのは真一と桃華に似せたぬいぐるみの携帯ストラップと、例の手作りのクッキーだった。
 彼女的には真一とのデートだけでも十分であり、プレゼントは気持ちさえこもっていれば、何をあげるか、もらうかは特に気にしない精神らしい。
 互いを象った小さなぬいぐるみのストラップを持ち、桃華はニッコリ。真一も少しだけ笑みを浮かべる。
 そして――相変わらずのクッキー。度重なる犠牲者(主に白虎)を出し続けた結果、ついに『かろうじて食物と言える』レベルになったのだが‥‥。
 真一はあからさまに嫌そうな顔。何せ食べたキメラが怒り狂うレベルのブツである。今回は改善されたらしいとは言え。
「今年こそは大丈夫よ! だから一回くらい食べてってばぁ」
「だが、断る」

●狼男よ永遠に
 さて、真一からのプレゼントは‥‥?
 実は真一、先ほど桃華を膝の上に乗せて焼き芋を食べていたときに『あるもの』を彼女の上着のポケットに忍ばせていた。
「おい、桃華。ちょっとポケットを見てみろ」
「え? なぁに? 何も入れてないけど‥‥」
 桃華は自分の上着をごそごそとやる。すると――
「あ、なんか入ってる。‥‥え、これって‥‥」
 桃華のポケットに入っていたのは『エメラルドの指輪』だった。
「それが俺からのプレゼントだ。‥‥あー‥‥知ってるか? 桃華。給料の三か月分っていうのは某社の日本向けのキャッチコピーなんだぞ。‥‥まぁ、土用の丑の日みたいなものだな」
 真一は、あえてそれが婚約指輪であるとは言わない。
 だがしかし、おバカな桃華もさすがにそれが『何』であるかを理解した。
「‥‥」
 この聖夜に大切な人から贈られる指輪と言えば‥‥。『あれ』しかない。
 桃華も女の子。「いつか‥‥」と日頃から妄想している。五年前はまだお子様だったかもしれないが、今は――。
「えへ、えへへ‥‥ありがと、シンちゃん。シンちゃあん♪」
 桃華は真一にデレデレと甘える。
「な、なんだよ急に」
 甘えてくる桃華を受け止めつつ、真一もまんざらでもない様子。何せ彼女のデレっぷりは自分の行動が元なのだから。

 ***

「こんなクリスマスは中止だァー! 殲滅だァー!」
 そんな中で白虎は一人、ピコハンでカップルに襲いかかり、デートの妨害をして回っていた。
 白虎が今回しっと活動を行う最大の理由‥‥それは白虎が桃華の弟であり、白虎は重度のシスコンなため。
 姉が今年も彼氏とデートに行くと聞き、いよいよもって彼の中で何かが壊れたらしい。
 そんなとき、公園を通りかかった。そこで、彼は衝撃の光景を目にする。
 ――姉が、彼氏と、イチャコラしていたのである!
「姉上のバカァー!」
 白虎は即座に妨害するべく、ピコハンを握り締めて飛びかかった。

「ん、シンちゃんちょっとごめんね」
 桃華イヤーが白虎の声を感知。彼女は弟がしっと活動に来ていることを知っていた。
 どこからともなくピコハンを取り出し、
「姉上ぇぇぇ!」
 振り返り、
「覚悟ぉぉぉ!」
「そぉい!」
 すごい勢いで迫る白虎にカウンターでホームラン。
「なぁぁぁぁぁっ!?」
 哀れ、白虎はかっ飛ばされ、夜空の星となった‥‥。
「さ、シンちゃん、続きを――」
「グルルル‥‥」
 そこで奴らが現れた。ロンリーウルブズ。毛むくじゃらの狼男の集団。
「出やがったな‥‥行け! 桃華!」
 真一は立ち上がって桃華に指示を出し、盾にする気まんまん。しかし――。
「はい、メリークリスマス♪ あなたたちにプレゼントあげる」
 桃華は実費で用意した手袋とマフラーをクッキーと一緒に狼男達へ配ろうとする。
 彼女は狼男達とも平和的にクリスマスを過ごすという目標をまだ諦めていなかった。
「オ、オウ‥‥」
 思わぬ友好的な態度に狼男達は面食らった様子‥‥。
 桃華はニコニコ笑顔。両者はしばし見つめ合った後‥‥狼男達のほうが退散した。
「あー! 行っちゃった‥‥」
「ふう‥‥よほど桃華のクッキーが恐ろしかったらしいな」
 手で額に浮かんだ汗を拭い、真一が言った。
「そんなことないもーん!」
 桃華はぷぅーと頬を膨らませる。
「まあ‥‥また来年会えるんじゃないか? 奴らのことだし」

 ***

 食事を終えてレストランから出た直後のリヴァルとセラのほうにもロンリーウルブズが出現。
 狼男らは手に赤いクリスマスキャンドルを携えている‥‥。
「出たか‥‥」
 リヴァルはガルルルゥと唸り声を上げる狼男達を警戒し、セラを自分の背後に隠した。
「リヴァルお兄様‥‥!」
「ここでは人目に付く。場所を変える」
「はい!」

 リヴァルはセラを抱えて【瞬天速】を使用。逃げるふりをして路地裏に誘い込み、セラを降ろす。
「ここならいいだろう」
 後を追ってきた狼男達と戦闘開始。
 リヴァルはセラに支援を指示しつつ戦うが、多勢に無勢で苦戦。そこで――アクシデント。
 狼男の手がリヴァルに迫る! そのとき。
「危ないお兄様!」
 セラが咄嗟にリヴァルを庇い、押し倒した。
「セラ!?」
 緊迫感に満ちた声。まさかセラが狼男の攻撃を‥‥?
「私は大丈夫です‥‥お兄様‥‥」
「良かった‥‥」
 リヴァルは安堵した。幸いセラに怪我は無いようだ。
「はぁ‥‥はぁ‥‥お兄様‥‥」
 次にリヴァルはハッとする。――セラの上半身が露わになっている!?
 自分を庇った際に捲り上がってしまったのだろうか。しかも下着まで。透き通るような白い肌が丸見えだ。
 更に次の瞬間、セラはリヴァルの手を掴み、自分の胸へ持って行った。リヴァルは目を見開く。
 一瞬のひんやりとした感触の後にふにゅっとしたすごく柔らかな感触。そしてじんわりと熱を感じる。‥‥セラの体温。
「セ‥‥ラ‥‥? 何を‥‥?」
「セラは、お兄様になら‥‥」
 顔を上気させ、はぁはぁと息を荒げる彼女。
「私の心臓、ドキドキしてるの、わかりますか? これが、お兄様への気持ちです‥‥」
 確かにリヴァルはセラの鼓動を感じた。肌の滑らかさも。柔らかさも。体温も。
「ガル、ガルルゥ‥‥?」
 そこで。「あのー‥‥お楽しみ中すみませんがー‥‥」的な狼男達の視線と鳴き声。
 リヴァルは我に返って立ち上がり、纏っていたコートをセラに被せ、武器を抜き、狼男達をフルボッコにした。
 ロンリーウルブズはキャインキャインと情けない鳴き声を上げて逃げ去って行く。
「はあ、まったく‥‥」
 武器を仕舞って一息。そしてセラの傍へ。
「怪我は無いか?」
 彼女の手を引いて立ち上がらせる。
「はい。‥‥あの、お兄様‥‥」
 セラは背中を向けて下着と上着を直しながら言う。
「な、なんだ?」
 先ほどの心の動揺が言葉にも表れてしまう。あそこまで大胆に迫られたのでは‥‥。
「私の気持ちは、本当ですから‥‥」
「‥‥本気なのは、判った」
 その後も二人はそのようなこそばゆい空気に包まれつつ、デートを続行したそうな。

 ***

「ねえシンちゃん、これってそういうことだよねー?」
 自分の左手の薬指に輝く指輪を眺め、桃華が嬉しそうに真一に尋ねた。
「あ、ああ。まあな。五年もこうやって一緒なんだし。け、けじめはつけないとな‥‥男として」
「えへへ、シンちゃんだぁーい好き♪」
「ちょ、桃華!?」
 この先もずっと、幸せなほのぼのカップルであり続けることを願い、桃華は真一と手を繋いで一緒に帰路に着いた。

 ***

 幸せそうに歩く真一と桃華。ボロカスになった白虎はそれを遠くから眺めながら‥‥
「戦いは‥‥終わりだ」
 と、同じくボロカスで折り重なり死屍累々状態の狼男達に向かって言う。
「帰ろう。非リア充の仲間が君達を待っている」
 白虎は狼男と肩を組もうとしたが、盛大にスカった。やはりガン無視。
 狼男達はぞろぞろと、今年もまた役目を果たしたかのように山へ帰って行った‥‥。

「‥‥」
 姉には一蹴され、狼男達には一貫して無視され、あまりにも惨めな自分に白虎は一人、涙する。
 そのとき、冷たい地面にうずくまっている白虎の傍らに、誰かがしゅたっと降り立った。
 白虎がその人物を見上げると、黒のレザーのキャットスーツに身を包んだ(猫耳尻尾も装備の)セクシーな女性だった。
 尖ったサングラスのようなマスクで目元を隠しているが確実に美人である。
「私はロンリーキャット」
 その人物はそのように名乗った。どこかで聞いたような声‥‥?
(ロンリーキャット‥‥一体何者なんだ‥‥)
 白虎はぐしぐしと目元を擦って涙を拭う。
「あなた、リア充が許せないのね? 聖夜にイチャイチャするカップルが許せないのね?」
 白虎はこくこくと頷く。‥‥すると、ぽふっと何かが投げて寄こされた。開いてみれば白い虎のマスクだった。
「リア充が許せないならそれを被りなさい。私と共にいきましょう。カップルどもを狩りましょう」
 ロンリーキャットが手を差し伸べてくる。
「‥‥」
 白虎は少し間を置いた後、強く頷いた。マスクを被る。そして、ロンリーキャットの手を取った。

 その夜、ロンリーキャットとロンリーホワイトタイガーを名乗る二人組がカップルを次々と襲った(危害を加えるわけではないがデートを邪魔する的な意味で)。
 ‥‥それはロンリーウルブズと共にこの街の都市伝説として、後世に語り継がれたという‥‥。