タイトル:【決戦】チェラルと流星マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/11 20:57

●オープニング本文


 佐渡京太郎=ブライトンが討ち取られた。
 長きに渡るバグアとの戦争が終わったのだ。
 バグア本星攻略作戦。その成功の裏にあるのは傭兵の活躍とUPC軍の奮戦。
 称賛されるべき偉大な戦士達――しかし、彼らにはまだ、果たすべき使命があった。

 未だ地上に数多く残るキメラプラントやワーム製造工場‥‥。
 そして‥‥速やかに対応しなければならない問題が存在した。

 ***

 宇宙空間を飛翔する疾風の翼が4機。
「チェラル隊各機へ〜、作戦目標を確認するね。ボク達の任務は大き目の宇宙ゴミを地球への落下コースから外すこと。以上〜」
 言ったのは身体にぴったりフィットしたパイロットスーツ姿、グラマーなボディラインを晒した少女、KVのコクピットで操縦桿を握るチェラル・ウィリン(gz0027)少尉。
 人類側のトップエースチーム、ブルーファントムの一人である。いつも元気溌剌な彼女であったが、今は声からも表情からも‥‥疲労の色が窺えた。
「了解です」との隊員達からの返答の後、一人が呟く。
「この連戦に次ぐ連戦‥‥流石に堪えますね‥‥。隊長、大丈夫ですか?」
「うん、このくらい大丈夫だよっ。あはは‥‥部下に心配されるなんてね〜。ブルーファントムの名が泣いちゃうねっ」
 チェラルは苦笑した。
 彼女らチェラル隊はバグア本星攻略作戦発令後、戦いっぱなしである。いくらトップエースが率いる隊と言えどもこれでは‥‥しかし。
「とと、弱音なんて吐いていられないっ。気を引き締めるよっ。ありがとっ」
「‥‥今言うことではないかもしれませんが、隊長、少尉への昇進、おめでとうございます」
「おぉ、ありがと〜。こんなときに昇進というか待遇が上がっても‥‥って感じだけどね。随分長いこと事務処理が滞ってたみたいで〜冴木の姉御もぼやいてそうっ」
 部下からの通信にチェラルはころころと笑って見せる。
「まあ‥‥後々のことを考えるといいのかな。年金も増えるし。たぶん」
 言いながら、戦争は終わったが‥‥地球圏でのバグアとの小規模な戦いはまだまだ続くんだろうな‥‥と、チェラルは思う。
「隊長、間もなく傭兵部隊との合流ポイントです」
「了解っ。みんな、テンション上げて行こうかっ!!」
 ――自分は今やれることを全力でやる。
 チェラルはいつもの元気な笑みを浮かべ、声を上げた。

●参加者一覧

勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
BLADE(gc6335
33歳・♂・SF
雛山 沙紀(gc8847
14歳・♀・GP

●リプレイ本文

●後始末
 地球への落下コースを取るバグア本星の破片の軌道を変更するという緊急の依頼を受けた6名の傭兵はまず、今回作戦を共にするチェラル・ウィリン(gz0027)率いるKV小隊と合流した。

 勇姫 凛(ga5063)の機体はフィーニクス。
(やっと平和を手に出来るんだ、バグア本星の破片なんかに邪魔させない)
 長い黒髪をヘルメットに収めた少女と見紛う容姿の美少年はぐっと奥歯を噛む。
(凛、絶対に破片の落下を阻止して‥‥それから地球に戻って、チェラルと式をあげるんだからなっ!)
 ――戦争は終わった。これでやっと愛しい人と結ばれることが出来る。だがしかし‥‥彼、彼らにはまだ、やることがあった。
「チェラル、一緒に地球を守ろう。決戦の後始末だ」
 凛はコンソールのパネルを操作して、愛する人、恋人関係にあるチェラルへ通信を入れる。
「そうだね、凛くん。あんなでっかいゴミをボクらの地球へ落とさせやしないよっ!」
 返って来たのは元気な声。モニターのウィンドウに表示されている彼女はにっこりと笑顔を浮かべている。
 だが、凛には判った。‥‥チェラルの疲労は予想以上らしい。
(戦いの連続で、チェラルも大分疲れてるみたい‥‥。こんな時だからこそ、凛がしっかりと支えてあげなくちゃ!)
 正直者の彼女。いつも笑顔を絶やさない彼女。だからこそ自分が――。

 乾 幸香(ga8460)の機体はハヤテ『アエーマ』。
「地球にデブリを墜として大惨事を引き起こすわけにはいきませんから、わたしも全力を尽くしますね」
 チェラルに負けず劣らずのグラマーな肢体、身体にぴったりフィットなパイロットスーツ姿の幸香は、凛とチェラルが通信を終えた後、傭兵部隊、チェラル隊各機へ通信。意気込みを語った。
 ‥‥今、ここに居る皆の想いは同じ。

 狭間 久志(ga9021)の機体はハヤブサ改『紫電 −シデン−』。
「チェラルさん、今はハヤテに乗ってるんだ‥‥」
 彼女の機体をズームしてウィンドウに表示する。
(ハヤブサ乗りとしては後継機に遅れは取れないなぁ)
 愛機にはかなりのこだわりがある彼。チェラルには少なからずライバル心を燃やしているようである。
(‥‥なんてのは、不謹慎だったか。この作戦如何で地球に被害が出るかもしれないって時なんだ‥‥失敗する訳にはいかない!)
 ぶんぶんと首を振った後に気合を入れ直す。
 今回の作戦は連携が重要。自分だけ突出し、功を焦るなどということはあってはならない。

 美崎 瑠璃(gb0339)の機体はハヤテ『Lapis Lazuli Mk3』。
「チェラル隊と一緒にデブリの落下阻止任務っ!」
 そのように声を上げる彼女。任務に当たっての活力は十分。
(一応戦争は終わったわけだけど、傭兵のお仕事もそれで『はい、無くなりました』ってワケにはいかないよねー)
 戦争の終結と共に一切の戦闘その他が無くなるはずはない‥‥。未だ、抵抗を続けるバグアも多いという‥‥。
(とりあえず当分はこんな感じの破片処理のお仕事がメインになるんだろーな。ま、戦争に勝ったけど破片は地球に落ちちゃいました、なんてのはカッコ悪いから、きっちり全部処理しないとねっ!)
 操縦桿から一度手を放し、ぎゅっと拳を握る。
「チェラル隊の皆もお疲れ様と、今回はヨロシクっ! 頼りにしてまーすっ♪」
 瑠璃はチェラル隊へ回線を開き、挨拶。「こっちも、頼りにしてるよっ♪」と返ってきた。

 BLADE(gc6335)の機体はリヴァティー。
「やはりデブリが落ちてくるか。‥‥この後始末が終わってこそ、このバグア本星攻略作戦が終了するんだ」
 これを終えるまで、自分にとってのバグア本星攻略作戦は終わりではない。‥‥彼はそう考えていた。
「作戦目標はデブリの破壊。ブーストの連続使用を考慮すれば短期決戦」
 口に出しつつ、作戦内容を確認。するとそこへ。
「それはちょっと違うよ。今回の任務はデブリを地球への落下コースから外すこと。軌道を変更するだけだから無理に破壊しようとする必要はなし」
 チェラルからの割り込み通信。
「ま、破片はボク達が今回担当するもの以外にもたくさん。落下コースから外した後も、全体の量が量だから放置するわけにもいかないけどね。大型レーザー砲で一気に掃除するとか聞いたよ」
 なるほど、と頷くBLADE。

 雛山 沙紀(gc8847)の機体はフィーニクス『真・荒鷹神』。
「大きなデブリの他に小さなデブリもあるっすね‥‥大気圏で燃え尽き切るって聞いたっすけど、念のために破壊しておくっす!」
 ヒーロー風の宇宙服を身に纏った、こげ茶色のショートヘアに健康的な小麦色の肌、太陽のような笑顔がチャームポイントのボーイッシュな健康優良少女(胸は控えめ)が言ったところで。
「目標のデブリを視認。‥‥皆、作戦開始だよっ!」
 チェラルのよく通る声が各KVの通信機から響いた。

●デブリ迎撃
 傭兵部隊とチェラル隊は地球を背にし、デブリを迎撃する形を取る。
 地球へ向かって全力で後退しながら処理するようにすれば、作業時間は限られるものの、比較的安全に対応することが出来る。

「それにしても、厄介な置き土産ですね。ほんと、最後の最後までバグアはわたし達に迷惑を掛けてきます」
 幸香は普段ならばほんわか系美人な顔を歪め、忌々しそうに言う。
 バグア本星の超大型、および大型の破片の大半は生き残りのバグアが回収し小惑星帯へ移動させているが、このような中型の破片は人類が処理しなければならない。

「チェラル隊、目標デブリへの攻撃開始の合図、よろしく」
 BLADEが言い、「おっけー、任せて♪」との返事が来る。

 ***

 しばらくして、デブリが有効射程内に入った。
 チェラルの合図で全機デブリとの速度を合わせつつ、攻撃開始。

 久志機――
「破壊できればその方がいいんだけど‥‥」
 デブリのデータをリアルタイムで取得、全機で共有しつつ十二式高性能長距離バルカンで射撃。弾幕を展開。

 瑠璃機――
「近くで見るとけっこうおっきいね。下手に近寄らないように気を付けないと」
 使用兵装は久志機と同様の十二式高性能長距離バルカン。
 狙いを定め、兵装と連動するトリガーを引く。

 BLADE機――
「短期勝負! ばら撒きまくる!」
 使用兵装はH−044短距離用AAM、84mm8連装ロケット弾ランチャー。
 まずはデブリをロックオン。大気圏内用のミサイルを発射。空の水素カートリッジが連続で排出される。
 AAMを撃ち尽くせばロケット弾に切り替え、発射。無誘導であるため照準が難しいが今回のようなただ真っ直ぐ向かってくる目標に対しては有効な兵装だ。

 凛機――
「どんな大きい岩にだって、脆い所があるんだからなっ」
 ホーミングミサイル『アルコバレーノ』を連続発射。周囲に漂う小型デブリを破壊しつつ中型デブリにぶち当てる。

 沙紀機――
「いくっす! シェルクーンチクっ!」
 遠隔攻撃機を操り、小型デブリを的確に破砕していく。

 幸香機――
「こんな破片に、地球をやらせはしない!」
 中型デブリをロックオン。ミサイルレリーズを押し込むと、GP−9ミサイルポッドから大量の小型プラズマミサイルが一斉に射出。
 ‥‥小型デブリを巻き込んで爆発が巻き起こる。そのとき。
 レーダーに反応。急速に近づく機影が複数。敵機接近を知らせる警告音がコクピット内に響く。
「ヘルメットワームが接近! 種別は小型、数は4です!」
 幸香はすぐさま各機へ通信を送った。

●残滓
「バグアさん達、往生際が悪いっすよ! もう帰趨は決したっす! 妨害した所で何も変わらないっす!」
 沙紀がオープン回線で叫ぶ。だが敵機は速度を緩めない。その返事はプロトン砲だった。距離が離れているので命中はしなかったが。
「‥‥やる気まんまんっすか。でもデブリはボクと『真・荒鷹神』が叩き潰してやるっす!」

 バグア残党の妨害が入ることは当初から予測されていた。
 作戦通りに凛機、久志機、沙紀機、チェラル隊はデブリへの攻撃を継続。
 幸香機、瑠璃機、BLADE機はHWの迎撃へ向かう。

 ***

 HW対応の3機が交戦を開始。

 BLADE機――
「それにしてもなんで今頃ノコノコやってくるのかね、奴らは」
 ぼやきながら敵機をロックオン。ホーミングミサイルBT−04を連続発射。
 ‥‥3発の内1発は命中したものの、2発が回避されてしまう。
「チッ、先頭の奴は有人機っぽいな。皆、気を付けろ」

 幸香機――
「了解」と返答した後に人型へ変形。有人HWへアサルトライフルで牽制しつつ、ディフェンダー・プラスで接近戦を挑む。
「邪魔しないでください! 今、あなた達に関わっている時間は無いんですから!」
 怒りの形相での言葉。簡易ブーストの疑似慣性制御を生かした戦闘機動を取る。
 ‥‥だが忘れてはならない。人類が疑似慣性制御を得たと言っても、HWは元々慣性制御を持っている、ということを。
 今や通常のHWは大きな脅威では無くなったとしても‥‥。
 敵パイロットは中々にやるようで、幸香機と互角の戦闘を繰り広げる。アサルトライフルの砲弾とフェザー砲の応酬。
 幸香機が被弾。咄嗟に超伝導AECを使用。損傷は軽微。
「――っ!? 墜とされたくなかったら、仲間を追ってさっさと退散しなさい!」

 BLADE機は無人HWと交戦中。瑠璃機も同様である。
「これはおまけっ!」
 練機槍『旋』による突きを繰り出した後にホイール・オブ・フォーチュンの円盤型誘導弾を射出。それは敵機に命中し、爆発。1機を撃破。
 瑠璃は次の敵、無人機に機体を向ける。
 長距離バルカンで牽制し、距離が近づけばアサルトライフルに切り替えて射撃。
 避け切れない近距離でのフェザー砲はAECで耐え凌ぐ。
 射撃での牽制、隙を見せたところでアサルト・アクセラレータを起動。一気に距離を詰める。
「手にするは旋風の閃き! 翔ける姿は疾風の如く! 必殺っ! 『瑠璃色疾風怒涛・煌きの章』っ! ‥‥なーんてねっ♪」
 練機槍による連続の突きを浴びせ、距離を取る。‥‥瑠璃機の背後で爆発が起こった。

 ***

 一方、デブリへの攻撃を継続中の傭兵部隊、チェラル隊の7機。

 沙紀機から凛機へ通信。
「凛さん、そろそろいくっす。PDレーザーの発射タイミング、合わせるっすよ!」
「了解なんだぞっ!」
 2機のフィーニクスが並び、フィーニクス・レイを構えて発射体勢へ。
「絶対に地球には落とさせない! これが人類の未来を切り開く、希望の輝きなんだからなっ。――いっけぇぇぇっ!」
「ボクの翼は炎の翼! 羽撃け荒鷹! 爆裂炎翼翔!!」
 凛と沙紀がオープン回線で咆哮。それと同時に2つの光条が中型デブリに向かって放たれた。

 久志機――
「こちらもいく。目標ロックオン、『ドゥオーモ』発射!」
 大量の知覚ミサイルが一斉にデブリへと喰らい付く。
 チェラル隊の4機もそれに合わせ、ミサイルの残弾を一斉発射。

 2つの光条と、大量のミサイルの爆発を叩き付けられ、中型デブリが大きく揺らいだ。‥‥そして、これまでの進行方向とは逆側に流れて行く。
「こちらチェラル機。デブリの軌道変更を確認。作戦は成功だよっ!」
 チェラル機から全機へ通信。嬉しそうな声。
「聞こえますか? HW対応班、幸香機です。こちらもHWを全機撃破しました。作戦は成功したようですね。‥‥良かった」
 やや損傷が見られる幸香機を先頭にしてBLADE機と瑠璃機がゆっくりと合流。

「よっしゃー! 荒鷹の型ぁっ!」
 見事に攻撃を決めた沙紀が機体にポーズを取らせ、
「これでお姉様のところに帰れるっす♪」
 にっこりと微笑んだ。

「流石、ブルーファントム。見事な連携、攻撃精度‥‥」
 久志は一斉攻撃時のチェラル隊の動きをウィンドウに表示し、再生。
「そのうち何処かで‥‥模擬戦でお手合わせ願いたいもんだ」
 小さく、口元に笑みを浮かべる。

「やったね、チェラル! 地球に帰ったら休暇を取って籍を入れて、盛大に凛とチェラルの結婚式だ!!」
 という、凛の大声がオープン回線で盛大に流れた後、傭兵部隊とチェラル隊は輸送艦へ帰投した。
 やらかしてしてまったことに気付いた凛と、皆に丸聞こえの状態で熱々のラブコールを受けたチェラルは‥‥当然ながら顔を真っ赤にしていたそうな。

●流れ星
「ごめん、チェラル。凛、プライベート回線にするの忘れてて‥‥」
 宇宙輸送艦の休憩室。凛とチェラルの2人は並んで座ってドリンクを飲んでいた。
 今は凛がチェラルにあわあわしながら謝ったところ。
「まったくもうっ。顏から火が出そうだったよっ。‥‥でも、嬉しかったよ、凛くん」
 ちゅっ。と、チェラルはまだ赤らんでいる凛の頬に軽くキスをした。
「こんな状況だから休暇が取れるのはいつになるか分からないけど、ちゃんと挙げようね、ボク達の結婚式♪」
「も、もちろんなんだからなっ! 凛は嘘はつかない、必ずチェラルを幸せにする!」

 ***

 恋人達が愛を語らう一方で‥‥BLADEは1人、輸送艦の窓から地球を眺めていた。
(自分は食うために傭兵になった。傭兵の仕事を辞めた後は何も思いつかない。他の皆のように希望だの未来だの何も思い浮かばない自分は傭兵になる前から既に絶望しているのかもしれない)
 他の傭兵はこれから『第二の人生』とやらを歩むのだろう。しかし、自分にはそれが見えない。
(佐渡京太郎‥‥『地獄で見ている』‥‥か)
 ふと、討ち取られた敵の総大将の言葉を思い出す。
「自分は‥‥まだしばらくあの世には行きたくないな」
 それだけは確か。これからのことは‥‥ゆっくり考えればいいのかもしれない。
 そのとき、青い星に無数の光が奔る。小型デブリが大気圏で燃え尽きたのだろう。
「散々人類を、地球を食い荒らしたバグアの根城の末路が流れ星‥‥。あれに願い事をしても叶わないどころか、ロクなことにならなさそうだ」
 BLADEは苦笑し、宇宙用のコーヒーパックを煽った。苦かった。