●リプレイ本文
●バグア本星宙域‥‥また一つの決戦
宇宙空間を航行中のリギルケンタウルス級宇宙輸送艦『アルキオネ』。
間もなく、問題の宙域へ到着する‥‥。
傭兵達は既に各々のKVへ搭乗し、いつでも発艦出来る状態で待機中である。
ノエル・アレノア(
ga0237)の機体はヴァダーナフ『ゼロ』。
「大きな戦いだね‥‥これまでも色んな事があって、それはしっかりとこの胸に刻まれてる。そしてこれからもずっと‥‥だから、大丈夫」
ティリア=シルフィード(
gb4903)の機体はニェーバ『Hedgehog』。
「能力者になってすぐに乙女隊の皆と知り合って、もう3年近くも一緒に戦ってきた事になるんですね」
目を閉じ、乙女隊と共に駆け抜けた戦場、共に楽しんだバカンス等を思い返す。
(皆も成長したけど、ボクだって成長出来てる筈。今回だって『いつも通り』にやれば、大丈夫‥‥!)
空色の髪の少女は暫しの間、胸にそっと手を当て‥‥その後に目をぱっと開き、表情を引き締める。
漸 王零(
ga2930)の機体はヴァダーナフ『ダーナヴァサムラータ』。
(折角、ここまで生き残ってきたんだ‥‥。死なせるのは忍びない‥‥)
数々の激戦を潜り抜けてきた乙女達を想い、歴戦の傭兵は『必ず全員生きて返す』と自らの心に誓いを立てる。
百瀬 香澄(
ga4089)の機体はタマモ『ミズクメ』。
(牙城が‥‥まぁ、あの戦好きが出てこない道理もないって事か。けど、それならトコトンまで付き合ってやるだけだ。今度こそ起き上がれない位に打ちのめしてやろうじゃんよ)
そこまで考えて、香澄はパネルを操作し、想い人の機体へ通信回線を開く。
「‥‥冴。私を泣かすような事は、しないでくれよ?」
返答は「香澄さんも、です。どうかご無事で」というものだった。彼女は微笑みを浮かべていた。
通信を終え、香澄は想い人と共に過ごした日々、想い人の肌の温かさを思い出す。
――絶対、失う訳にはいかない。香澄は自分の内に炎が灯るのを感じた。
風間・夕姫(
ga8525)の機体はヴァダーナフ『メフィスト』。
「一度死んだ奴ら相手に命を落としちゃ勿体無さ過ぎる。だから敢えて言っておく‥‥死ぬなよ」
乙女隊全機へ通信回線を開いた、野性を感じさせる美女はそのように真っ赤な唇を動かし、にやりと不敵に笑って見せた。
時枝・悠(
ga8810)の機体はアンジェリカ改『デアボリカ』。
「生前と変わりない強さってな、1年停滞してたって事だろう。そんなのは劣化と同義だよ」
夕姫が通信を終えた後に、今度は悠が乙女隊全機へ。
「‥‥なんて、本当に侮るのは不味いが、軽口叩ける程度の余裕は持っても損は無いぞ、乙女隊。気張った分だけ力が増すってんなら構わんが。私は別にそんな事はないので、いつも通り気張らず行こう」
悠なりの配慮。彼女の言葉で乙女隊の緊張はほんの少し解けたようだ。
瑞姫・イェーガー(
ga9347)の機体はピュアホワイト『ダーククイーン』。
彼女は別の機体での行動を予定していたようだが、出撃申請されていたのはピュアホワイトだった為、それに搭乗。
「サナ、カナ、絶対に生きて帰るよ」
懇意にしている双子の姉妹へ通信を送ると元気な声が返ってきた。
――きっと、大丈夫。瑞姫は震える手で操縦桿を握り締める。
遠倉 雨音(
gb0338)の機体はコロナ『天照』。
(見間違える筈も無い、あの群青色のティターン――彼女もまた、再生されていたのですね)
モニターのウィンドウにブリーフィングで見た画像を表示しつつ、黒髪の乙女は思う。
(彼女が倒れた時、無二の側近である白川・桜が散った時‥‥そして、彼女が甦った今。その何れの時も私はその場にいる‥‥。ゆくゆく因縁と言う物は容易に断ち切れない物のようですね‥‥)
運命‥‥いや、宿命のようなものを感じた。だが、今日でそれを断つ。
程無く戦闘予定の宙域へ到達。傭兵部隊、乙女隊全機は順次発艦。
●再生
漆黒の宇宙空間へ多数のKVが躍り出た。
普段は見上げるか、あるいは遠くで見ていた赤い月が今、眼前にある。
それに圧倒されつつも、まず瑞姫機が敵影を捕捉。すぐさま味方全機とデータリンクを構築。
敵は、群青色のティターンを先頭にしたタロスの一群。
(――皆が居るから、負ける気はしない)
強敵を前に、唇をきゅっと結ぶノエル。仲間が、愛する人が居れば‥‥。
「‥‥皆、行くぞ!」
香澄が声を上げ、KV全機は加速。敵群との距離を詰める。
***
「再生バグア‥‥話は聞いていたけど、まさかこのえが蘇るなんて‥‥」
加速する機体の中で、ティリアは身を震わせる。そして、はっとした。
‥‥自分は、恐れている?
春日基地決戦の記録で目にした、強大な敵が今、目の前に‥‥。
(でも、怯んでなんかいられない。確かにあいつは強敵だったけど、一度は倒した相手。もう一度皆で力を合わせて、倒してみせる!)
ティリアは自らを奮い立たせる。
遠隔攻撃機等を除く、一般的な交戦距離まで接近。すると――群青色のティターンからオープン回線で通信が送られてきた。
「その陣容、傭兵とUPC軍の混成部隊と見た。私の名は牙城・このえ。この宙域へやって来たからには‥‥解っているな? 互いに思い切り戦おうではないか。私の期待を裏切らないでくれよ」
――凛とし、且つ、威圧感も持ち合わせる、少女の声。
それに応答したのは雨音。
「刃を交える前に一つだけ。宇宙に上がる前に貴女の側近‥‥白川・桜と戦いました。修繕した貴女のティターンを駆り、立派な最期を遂げた‥‥それだけは、伝えておきます」
「ほう、白川の最期を看取った者が居るとは。‥‥しかと聞き受けた。白川は立派に戦ったのだな。感謝するぞ、傭兵」
「‥‥。生憎、貴女を倒したあの方は不在です。私では力不足なのは否定しませんが‥‥こうして再び相見えた縁に免じて、一手、お付き合い願います」
「良いだろう」
「たかが一国の一地方で少し目立った程度で、己が主役になったかのような物言いだな」
そこへ割り込んだのは悠。
「場所変えないか、青いの。人見知りでね、此処はギャラリーが多過ぎる」
「その機体‥‥見覚えがある。佐賀空港で相まみえた者だな。‥‥ふっ、戦場で逢引のつもりか?」
「そんな趣味は無い」
「乙女隊、頼む!」
王零の声を合図に、乙女隊が一斉射撃。傭兵部隊もそれに加わり、敵群の分断を図る。
「おっと、私達と遊んで貰おうか!」
夕姫機は円盤状の誘導弾を射出。それは敵機に突き刺さり、爆発。
‥‥猛烈な砲火により敵群は徐々に分断されていった。
●VS牙城・このえ+側近
傭兵と乙女隊の混成部隊は敵の分断に成功。
側近は他の傭兵に、再生タロス群は乙女隊に任せ、香澄機、悠機、瑞姫機、雨音機は協力して牙城・このえ機――カスタムティターンと交戦。
「私も冴も、他の皆も‥‥全員生きて帰る。このワガママだけは‥‥譲れない!」
味方の援護を受け、香澄機は槍を構えて近接戦を仕掛ける。
突き突き突き。このえ機は軽々と避けるが、回避方向へ援護射撃が入り、一撃が装甲を掠める。
このえ機は対抗するかのように熱剣の突きを連続で繰り出してくる。
――避け切れない。躊躇わずRAを使用。しかしその上からでも装甲が抉られる。
香澄機は一時離脱。入れ替わるようにして悠機が前へ。
悠機はブーストとスキル二種を常時起動。
「この状態で戦えばすぐに練力の前に残弾が尽きる‥‥が、その前に潰し切るだけの火力はあるだろう、お互い」
BCアクスと重練機剣を変則的に切り替え、斬り込んでいく。
(何より、こんな面倒臭い奴を長々と相手取りたくはない)
斬撃の乱舞。幾つもの剣閃が黒の宇宙に煌めく。流石のこのえ機もやや押され、装甲に無数の斬痕が刻まれる。
防戦一方に回ると思いきや、このえ機は再生力に物を言わせ、右手の熱剣と左手の甲から延ばした練剣による二刀で反撃。
「――ッ!」
深々と斬り裂かれる悠機。致命的な損傷。鳴り響く警告音。
このえ機は尚も追撃をかけようとするが、そこへ雨音機が突撃砲で射撃しながら割って入り、斬撃を槍斧で受け止めた。
「一旦下がってください」
「‥‥了解」
遠隔攻撃機で牽制し、悠機は離脱。
雨音機はスキル二種を使用し、避けつつ損傷を軽減しつつ交戦。
距離を取り、突撃砲で射撃。敵機の装甲を少しでも削る。
反撃の光条が飛ぶ。スキルを頼りに受け止めるが、プロトン砲の高熱により装甲が融解。
「くぅ、流石‥‥!」
「代わって貰おうか!」
香澄の声と共にこのえ機へ知覚砲と知覚機関砲の砲撃が降り注ぐ。このえ機は回避運動。
雨音機が下がり、再び香澄機が前へ。
瑞姫機はそのやや後方にて、ESMでの支援、及び管制に集中していた。
攻撃は隙があれば遠隔機を飛ばす程度。電子戦機の役目は少しでも長く戦場に留まり続ける事。
「皆‥‥」
飛び出して行きたい気持ちもある。むしろ強い、が‥‥瑞姫は必死に堪えた。
***
側近対応の四機。ノエル機はティリア機と、王零機は夕姫機と連携し、それぞれ側近――強化型タロス二機と交戦。
「うぁっ!?」
敵機の斬撃を受けるノエル機。高熱により装甲に歪な斬痕が刻まれる。
(この位、まだまだ平気だよね、『ゼロ』‥‥?)
ノエルは機体に語り掛けた後に、爪を振るわせて反撃し、突撃砲で牽制。
「このぉ!」
その隙にティリア機が機関砲の弾幕を展開。敵が離れた所で狙撃砲に切り替えて砲撃。
「王零、美味しい所はくれてやるから一歩たりとも向こうへは通すなよ!」
刀で敵機と打ち合う夕姫機。
「了解だ。悪いが、時間がないのでね、遊びは無しだ」
王零が言うと夕姫機は一旦離れ、知覚砲で牽制射撃。王零機は散弾で更に牽制し敵機を誘導、拳銃を連射。的確に当てていく。
だが敵機もやられてばかりではなく機関砲の猛射を浴びせてきた。王零機の装甲がじわじわと削られる。
「中身が多少弱体化してても操縦には影響ないってか?」
夕姫が言った。敵機が王零機へ近接攻撃を仕掛けようとした所に遠隔機の砲撃。敵機は回避運動。
――やはり、反応はあまり鈍っていない。しかし、敵の攻撃を潰す事は出来た。
王零機の射撃に合わせて、再度刀を構えて機体を躍らせる。
「ティリアさん、いきますッ」
敵機と、自機の損傷具合を見比べて、ノエルが声を上げた。双方とも、機体損傷大。
危険な状態だが‥‥こちらは二機。ティリアが居れば勝機はある。
「了解です、ノエルさんっ!」
愛する人の返事が聞こえた。
(『ゼロ』‥‥行こう)
ノエル機は機関砲で牽制しつつブーストを噴かせて一気に間合いを詰めた。スキル二種を使用。
「僕、思うんだ。命を落とした時、その人の歩みは止まる‥‥『同じまま』なんだって。‥‥だからお前達が何度再生されても、歩み続ける僕達は阻めないよ!」
爪による連続攻撃。敵機の装甲を‥‥掻き切る! 抉る!
敵機の反撃を受け、ノエル機の装甲も熱剣と練剣で斬り裂かれる。
その時、円盤型誘導弾が飛来。敵機に着弾。一瞬怯む。その隙にノエル機は距離を取る。
攻撃を放ったのはティリア機。
「ボク達の未来を! 今更蘇ったお前達なんかに、邪魔されて、たまるかぁぁぁっ!!」
スキルを使用し、全力砲撃。敵機は‥‥爆炎の中に消えた。
不意に敵機が伸ばした練剣で夕姫機の片腕が斬り飛ばされた。
「くっ、新品の機体は伊達じゃないってか」
「頃合だ。仕掛ける」
「了解」
王零の言葉に夕姫は頷く。
二機は二方向から攻撃を仕掛ける。
スキルを乗せ、残る片手で夕姫機が切り札の刀を振るう。
王零機は敵機の損傷部位を徹底的に狙い、剣による連続の攻撃。
敵機は猛劇を受けつつも反撃。赤く発光し、夕姫機に熱剣を、王零機に練剣を突き刺した後に‥‥沈黙。爆散した。
●明日へ
側近を撃破した傭兵四機は乙女隊の援護へ。
このえと交戦中の仲間も気がかりだったが、乙女隊は再生タロス群の組織的な攻撃により苦戦していた為である。
数機を撃破していた物の、D小隊以外の損傷は少なくない。
「生きてるか、乙女隊? もう少しだけ踏ん張れるか?」
王零が乙女隊全機へ通信。‥‥疲労困憊ながらも気丈な声が返ってきた。
「私が牽制する、陣形が崩れて孤立した奴を二機か三機で当たっていけ!」
戦闘に加わりつつ、夕姫が言う。
「DMS、モードNアクティブ――これより殲滅を開始する」
王零機は変形、スキルを乗せてK−02ミサイルを連射し、再生機群を蹴散らす。
人型に戻り、拳銃で射撃し付近の乙女隊機のカバーへ。
「損傷の大きい機体は母艦に戻れ。命を無駄にするな。開いた穴くらい我が埋めてやる!」
接近した再生機を剣で一刀両断。爆発。
「な、何これ‥‥自爆する気‥‥!?」
悲鳴。乙女隊機が再生機に組み付かれていた。
「死なせない! きっと皆、これからの未来の方が重要だと思うからっ!」
聞き付けたノエル機が急速接近。再生機の両腕を掻き斬り、引き剥がす。続けて近距離から銃撃。爆発。
「C小隊の皆さん! 援護します!」
ティリア機も砲撃支援を行う。
残存の再生機が不可解な動きを見せた。乙女隊への攻撃を止め、一斉に加速。その後方へ。
――再生機群が向かった先は『アルキオネ』。D小隊が全力で迎撃するも、再生に任せて突っ込んで来る。
「特攻!? そんな‥‥!」
しかし、それへブーストで追い縋り、次々と撃墜するKVがあった。
「悪いが‥‥こうなるのも警戒済みでね‥‥邪魔させて貰うよ」
王零の機体。彼は特攻を予測・警戒し、目を光らせていた。
『アルキオネ』に到達する前にD小隊と協力し、全機撃墜。事無きを得た。
***
尚もこのえ機と交戦中の傭兵四機。全て損傷甚大。
瑞姫機のヴィジョンアイを起点とし‥‥起死回生、最後の攻撃を行う。
初手は香澄機。射撃で牽制し、マニューバAで接近。
肉薄したその時。敵機が赤く発光。熱剣と練剣の斬撃が飛び、槍を持つ手や両足、スラスターを損失。
――だが、盾の裏に隠した練剣だけは健在だった。決死の一撃を加え、敵機に斬痕を刻む。
「次は仕留める。そういう約束だったな、相棒」
続いて悠機。香澄機への攻撃の隙は与えない。遠隔機での牽制後、己が信じる使い慣れた戦斧を振り下ろす。
それは敵機の肩口から脇腹まで大きく切り裂いた。
すぐに反撃。電磁鞭による攻撃。動きが止まると悠機は四肢を斬り飛ばされ、腹を貫かれる。
コクピットを狙う追撃。だが雨音機がそれを許さない。機体ごと盾にして受け止める。そして。
「歪んだ生命の再生の形‥‥この一撃で断ち切る――!!」
温存していた光輪の連続攻撃を叩き込む。
‥‥群青色のティターンはついに沈黙。大爆発を起こして宇宙空間に破片をまき散らした。
「じゃあな。二度と会いたかないけど、いつでも喧嘩してやるよ」
警告音の鳴り響くコクピットで、香澄がぽつりと呟いた‥‥。