●リプレイ本文
●『崑崙』防衛戦
月面基地『崑崙』――。
そこに駐留中のリギルケンタウルス級宇宙輸送艦『アルキオネ』(乙女隊母艦)、ブリーフィングルーム。
『崑崙』の大規模改修工事に伴い、敵の襲撃が予測されたので、ULTに防衛依頼が出され、それを受けた8名の傭兵が待機中。
パイロットスーツ姿の百瀬 香澄(
ga4089)は乙女隊B小隊長の九条・冴と並んで椅子に座り、雑談中。
「崑崙もどんどんでっかくなってくね。ついでに風呂も拡張してくんないかな‥‥密着も中々捨てがたいんだけどさ」
「お風呂の優先順位は低いですから難しそうですね‥‥それに宇宙では水が貴重ですし」
傭兵からは『崑崙』にも大浴場が欲しい! との要望が多数寄せられているようだが、実現はなかなか難しいのが現状だった。
「キメラの殲滅、ですか。分かりやすくて良いですな」
黒い顎髭を弄りながら飯島 修司(
ga7951)が言った。
敵が襲撃を仕掛けてくるとすれば‥‥それはワームではなくキメラが中心であると推測された。
月面には多数のキメラが残っており、更には先の大規模作戦中に投下されたキメラプラントまである。
作戦自体は単純だが、敵の数は相当なものになるだろう‥‥。
「崑崙の拡張工事か、最初から手狭なのはわかってただろうに‥‥」
美しいボディラインがはっきりと浮かぶパイロットスーツ姿、野生動物を思わせるしなやかな肉体の美女がぽつりと呟いた。
名は風間・夕姫(
ga8525)。‥‥今更、か。と彼女は思っているのだろう。
「まぁ、そう簡単に行くならそれこそ最初からやってたか‥‥」
月面基地『崑崙』は最初から大規模な施設を建設するのではなく、必要に応じて増設できるように、拡張性を重視して設計されたものである。
元は現在のような軍事基地としての運用はあまり想定されていなかったのだ。
「‥‥」
短めの銀色の髪をした小柄な少女、ロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)は情報端末を用いて戦闘のシミュレート中。
狙撃を主とする彼女。ゆえに、敵の位置などは予測を付けておくのが望ましい。
(美咲達乙女隊のみんなと共に、迫る敵を撃退して、『崑崙』を守り切る!)
長い赤髪の少年、夏目 リョウ(
gb2267)はその髪色のようにメラメラと燃えていた。気合は十分。
(いよいよ戦いも大詰め。いつか約束した平和な世界を取り戻す為にも、ここで月面基地を潰させるわけにはいかないからな‥‥。そして、愛する人との未来の為にも)
今回作戦を共にするα−01部隊‥‥通称乙女隊隊長の顔を思い浮かべる。そうすると、自然に闘志が漲って来た。
「崑崙はファリス達みんなの拠り所になる場所なの。だから、必ず護りきるの」
小さく可憐な少女、ファリス(
gb9339)はその容姿とは裏腹に、強い意志を持っているようである。
ファリスの言うように崑崙は今後人類にとって重要な拠点となることだろう。
軍事基地としても、研究施設としても。果ては月面都市に‥‥ということもあり得るかもしれない。
(防衛任務、簡単に防衛線を突破されるわけにはいかないし‥‥気が抜けない)
浅黄色の髪の少年、ノエル・アレノア(
ga0237)はぐっと拳を握る。
傍らには彼と恋人関係にあるティリア=シルフィード(
gb4903)の姿。
「崑崙の拡張工事、本格的に始まるみたいですね。この前、ボクたちが送り届けた物資が役に立つ時が来たかな‥‥?」
ティリアが小首をかしげた。
「もう役に立っていると思いますよ。『崑崙』は随時増築されているようですし。今回が大規模改修工事というだけで」
愛する人の顔を見てニコリと微笑み、ノエルは答える。
「そうですか‥‥それならいいんですけど。ただ、月面での大規模作戦が終わったと言っても、月にはまだ敵の戦力が残っています。邪魔をされないように、確実に叩いておく必要がありますね」
「ええ。早く月面も安全になれば良いのですが――」
と、そこで警報が鳴り響く。‥‥敵襲。
傭兵達と乙女隊の面々は急いで格納庫へと向かう。
「ティリアさんも気を付けて」
ノエルは彼女の手をぎゅっと握った。
●VS宇宙キメラ群1
リギルケンタウルス級宇宙輸送艦『アルキオネ』、格納庫――。
傭兵部隊、および乙女隊のKV全機は敵の襲撃の備え、即応体制が整っていた。
パイロットは全員自機へ搭乗。
ノエルの機体はヴァダーナフ『ゼロ』。
(僕のディアブロ改もMk−IIへ。可能な限り引継いだから‥‥これからも宜しく、『ゼロ』)
新鋭機に乗り換えた彼は真新しいコンソールをコン、と優しく叩く。
「今のキミなら宇宙でも存分に立ち回れる筈。頑張って、乗りこなさないとね」
夕姫の機体はヴァダーナフ『メフィスト』。
「予想通り来たか‥‥」
『崑崙』のオペレーターより「キメラ群が多方向から本基地へ接近中です」と、各機へ通信があった。
ロゼアの機体はヴァダーナフ『フォルティトゥード』。
「システムチェック‥‥オールグリーンです」
リョウの機体はヴァダーナフ『烈火』。
「行くぞ烈火、大武装変だ!」
機体を戦闘機形態から人型形態へ変形させる。
‥‥月面戦闘なので他の機体は既に全機人型形態だったのだが、わざわざ出撃時に変形させるのは彼なりのこだわりらしい。
修司の機体は宇宙用フレーム装備のディアブロ改。
「ふむ‥‥」
味方の機体へカメラを向ける。――後継機ヴァダーナフが揃う中、彼だけはディアブロ。
‥‥相当の思い入れがあるのだと思われる。
また、入念にチューンが施された修司の機体は宇宙対応型新鋭機にも引けを取らない。
ティリアの機体はニェーバ『Hedgehog』。
彼女は念願叶ってヴァダーナフの搭乗権を得たときの、ノエルの嬉しそうな様子を思い出して微笑する。
「ノエルさん、本当に嬉しそうだった‥‥。ボクも負けないように頑張らないと。ね、『Hedgehog』?」
そのように機体へ語りかけるティリアであった。
香澄の機体はタマモ『ミズクメ』。
「さあて、一丁お仕事といきますか。冴、無理はするなよ」
同型機に搭乗する彼女へ通信。すぐに「了解です。香澄さんこそご無理はなさらず」との返答。
ファリスの機体はコロナ『ロスヴァイセ』。
「キメラ‥‥たくさんいるみたいなの。でも、『崑崙』を好きにはさせないの!」
全機出撃。傭兵部隊8機、および乙女隊16機が『アルキオネ』から射出される。
***
「敵は全方位から接近中‥‥乙女隊各小隊とは被らない位置で展開した方が良さそうですね」
レーダーに目をやりながらノエルは各機へ通信を送る。
「孤立しない、させないように連携はキッチリ取ろう」
香澄が答えた。‥‥乙女隊は4小隊に分かれて『崑崙』の四方に展開。
傭兵部隊は2班に分かれ、乙女隊と合わせ六方向から迎撃態勢を敷く。
「少々厄介そうな姿もちらほら見えますが‥‥まぁ、何とかするしか無いですよね」
カメラからの映像をモニターのウィンドウに表示する修司。
敵はいつもの小型キメラと砲撃型キメラ、そして‥‥先頭には甲虫のような見慣れぬキメラの姿があった。
「データに該当無し。最前衛は新型のキメラか。まあ、交戦してみれば能力は判る」
『崑崙』のデータベースにアクセスしていた夕姫だったが、すぐにウィンドウを閉じ、戦闘態勢へ。
「いくよ、『Hedgehog』。崑崙は必ず守る」
「そうですの。ファリスもがんばりますの。作業員さんたちは絶対に守りますの」
ティリアに続いて小さな少女が言い、小さな手で操縦桿を握る。
「俺のヨロイと‥‥この機体、二つの火をあわせれば、その力は炎になる‥‥学園特風スーパーカンパリオン、炎を纏い只今参上!」
声を上げるリョウ。彼の纏うAU−KVの愛称も『烈火』である。
「敵集団‥‥まもなく有効射程内に入ります」
ロゼア機は狙撃砲を構える。
ほどなく敵前衛と接敵。戦闘開始。
***
A班。ノエル機――
「さ、防衛開始。‥‥此処は通さないから」
敵前衛に対し、突撃砲を構え、照準。射撃を加える。
「あれは――速い!? 突撃タイプ?」
突出する突撃型と思しき甲虫型のキメラ。突撃砲はあまり有効ではなさそうだ。砲弾を弾かれる。
「‥‥あまり時間はかけてられない。次が控えてるからね!」
一度前へ出て、刀にて斬撃を加える。‥‥それでも倒れない。
「――っ!」
ノエルは【Fアセンション】を起動。真正面から高威力の斬撃を何度も叩き込む。ついに突撃型キメラは地に伏した。
「これはもう、足の速い敵機から早々と撃破して行かないと‥‥。抜けられては不味いし、撃破が遅れると次が来て状況が悪化しそう‥‥」
同様に突出してくる突撃型を排除しつつ、ノエルは額に汗を浮かべた。
夕姫機――
「チッ、何だこの硬さは‥‥? オマケに足も速い‥‥!」
ノエルと同じように、突撃型に苦戦。焦りを覚える。
Lライフルで射撃を行っているが、甲殻を少し焼くのみで目立った効果は見られない。
「こういう奴は後ろが脆いってのが定番なんだよ!!」
跳躍。簡易ブーストによる疑似慣性制御で反転。突撃型の後方からレーザーを浴びせた。
‥‥甲殻の薄い後部を貫かれ、突撃型はあっけなく沈黙。
ロゼア機――
(偏差射撃を意識して‥‥)
「――そこっ」
狙撃砲を用いて味方の死角をカバー。砲弾を受け、隙間を抜けてきた小型キメラが肉片となる。
偏差射撃‥‥敵の未来位置を予測しての射撃。ブレス・ノウのようなシステムではなく、あくまで勘と経験によるもの。スキルでもない。
ファリス機――
簡易ブーストをほぼ常時使用。ノエル機と夕姫機の戦い方を即座に脳内フィードバック。
突撃型に対しては側面や後部に回り込んで攻撃、撃破した。
多数の小型にはガンランチャーでの砲撃後、抜けてきた敵に対してレーザーガトリングを浴びせ、排除するという戦法を取る。
***
B班。香澄機――
「それでは快適な月面生活のため、状況開始!」
突撃型・小型の対応を主に行う。
「大勢で来たねぇ。歓迎も派手に行っとくか」
トリガーを引いて荷電粒子砲を放ち、抜けてきた敵を槍で仕留める。手慣れた戦法。
しかし、小型はそれで対応できたが‥‥突撃型は違った。それでも前進を続ける。
香澄機はマニューバAを使用。威力を高めた槍を突き出し、真正面からぶち当たる。
修司機――
後衛として対空機関砲、突撃砲を用いて対応を行うが――
多数の突撃型が抜けてくる。
「やはり、厄介!」
ブースト。跳躍。突撃型の上方から砲撃。一体撃破。
着地。次が来る。敵の突撃を盾で受け止める。凄まじい衝撃で機体が軋む。
「はあああっ!」
練剣を振るい、もう一体を焼き切り、撃破。
リョウ機――
後衛の支援を受けつつ突撃型の側面へ。
「回り込め烈火‥‥ソードダンシング!」
【Fビートダウン】を使用し、連続の斬撃。突撃型を撃破。
だが敵はまだまだ残っている。肉薄してくる敵。回り込む余裕は無い。
「スーパーカンパリオン、フレイムフィニッシュ!」
スキルを使い、高威力の斬撃を見舞う。‥‥衝撃。飛び散る甲殻の破片。
ティリア機――
彼女の役割は援護射撃、討ち漏らしの排除。
抜けてくる小型を弾幕で排除するが――可及的速やかな対応が求められるのは突撃型。
距離があるうちに狙撃砲で削り、接近すれば後方から弾幕で撃破。
だが‥‥それでも抜けられてしまう。突撃型が基地へ到達し何度か被害が出た。
即座に後方からの砲撃でそれを排除。
‥‥高い火力を誇る修司機が前衛を担当していれば、被害は抑えられたかもしれない。
●VS宇宙キメラ群2
傭兵部隊、および乙女隊の奮闘により敵最前衛である突撃型を掃討。
現在はまだ大量に残る小型と、プロトンビームが厄介な砲撃型の対応に移行。
B班。香澄機――
「手こずらないようにして、付け入る隙を与えないのが大事だね」
槍を振るって小型を引き裂きつつ、
「工事中だから関係者以外は立入禁止。おととい来いっつーの!」
マニューバAを使用。前へ出て射程に収め、レーザーガンを浴びせて砲撃型一体を撃破。
修司機――
「この数は嫌になりますね‥‥」
多数群がり、格闘攻撃を仕掛けてくる小型を機棍で片っ端から潰す。
‥‥流石の修司の顔にも疲労の色が見えた。
リョウ機――
「‥‥っ。美咲達もがんばってるんだ、こっちも気合入れて敵を倒さないとな」
首をぶんぶん振って疲労を払い、気合の入れ直し。
「その熱き炎で、一気に蹴散らせ烈火!」
レーザー機関砲で弾幕を展開。群れる小型を蹴散らす。
ティリア機――
‥‥更に大量の小型が来た。彼女は味方に離れるよう促す。
「『オーブラカ』砲門展開‥‥ここから先は、抜かせないッ!」
【ミチェーリ】により敵の動きを阻害する。
「今ですっ!」
ティリアの声を合図に、小型に対して旺盛な砲火が浴びせられ、大半が撃破された。
***
A班。ノエル機――
(くっ、あのキメラ‥‥! 好き放題撃たれるのは厳しい‥‥でもあまり持ち場は離れられない‥‥)
先ほどから砲撃型数体に狙われていた。複数のプロトンビームが来る。回避運動。
――光線が掠り、装甲表面や翼を焦がす。
「‥‥っ。遠方の敵は任せました! 位置データを送ります!」
自機の兵装では攻撃が届かない。小型を刀で斬り捨てつつノエルは通信を送った。
ロゼア機――
「‥‥了解しました」
ノエルからの通信に答え、狙撃砲を構える。
「目標‥‥砲撃型キメラ」
照準、狙撃。ノエル機を狙う砲撃型一体を撃破。更に照準、狙撃。
夕姫機――
「流石に基地の大規模改修ともなると見逃してはくれないか」
刀を振るい、小型を斬り潰す。
「いつもながら‥‥キメラのこの物量は嫌になって来るな」
突撃型も脅威だったが、やはり最も数が多い小型が厄介だ。
続けて刀を振るい、小型を潰す。
ファリス機――
「みんなを撃たせはしないの」
砲撃型に対し、ガンランチャーを発射。ある程度削った後に接近。近接攻撃を仕掛け、一体を撃破。
***
その後も傭兵部隊と乙女隊は何度も交代で補給を繰り返し、何とかキメラの殲滅に成功した‥‥。
●戦闘後‥‥
キメラは殲滅したものの、完全に守り切れたとは言えず、若干工事に支障が出てしまった。
だが‥‥敵はあの物量だ。仕方がないとも言えよう‥‥。
月面基地『崑崙』へ戻った傭兵達は各々で疲れを癒す。
「何だか‥‥お腹減っちゃいました」
ノエルはティリアを連れ立ってレストランエリアへ。
リョウも恋人と共に続く。
「流石に疲れた。風呂は無理だろうが‥‥せめてシャワーで汗を流したいな‥‥」
肩を鳴らす夕姫。
「風呂なら一応あるよ。ユニットバスだけど。ちょっと狭いけど」
と香澄が答える。
「お、それはいいな」
夕姫が言い、ロゼアやファリス、フリーの乙女隊の面々も連れ立って居住エリアのお風呂へ向かった。
***
修司はというと‥‥一人、窓から月面を眺めていた‥‥。