タイトル:【MTP】楽園の楼閣2マスター:とりる

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/24 22:50

●オープニング本文


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【MTP】モルディブタワー計画。
 それは銀河重工、奉天北方工業公司、MSI社、アジアのメガコーポレーション三社合同による、民間用軌道エレベータ建設計画である。

 ***

 UPC東アジア軍某基地――。
 格納庫内に居並ぶ、戦闘機形態のシラヌイS2型が16機。
 機体には虹のエンブレムがマーキングされている。
 ――第7独立航空戦術飛行隊『アイリス』。空戦任務を主とする精鋭部隊。
 この部隊に配備されているシラヌイS2型は銀河重工内で『S2型・丙』という社内コードが与えられており、XGSS−03Aシコンの開発ベースとなった機体だ。
 S2型・甲と性能的に差は無いが、各部関節などのフレームが強化されている。
「地上のバグアに動きあり‥‥か」
 パイロットスーツ姿、セミロングの金髪をした美女が手にした情報端末の画面に目をやり、愛機にもたれ掛った体勢で難しい表情を浮かべる。
 ――彼女はミラージュ・イスルギ大尉。アイリス隊の隊長である。
「皆、聞いて」
 ミラージュ大尉は声を上げる。格納庫内にいた隊員達が一斉に彼女のほうを向く。
「モルディブタワー計画‥‥というものを知っているかしら? 簡単に言えば軌道エレベータ建設計画。その地上側の発着拠点(アース・ポート)がいよいよ着工」
 そこまで言って、ミラージュ大尉は隊員達を見回す。
「これ程の大規模な計画。それならば‥‥バグアは必ず動く。というわけで、我々アイリス隊はその防衛任務に就くことになったわ」
 その言葉に、隊員達の表情が変化した。
「近頃は残党‥‥無人HWの相手ばかりだったけれど‥‥今度は精鋭機も出てくる可能性がある。気を引き締めておくように」
「了解!!」
 隊員達は一糸乱れぬ動きで一斉に敬礼するのだった。

 ***

 モルディブ沖、洋上。
 モルディブタワー・アース・ポート建設現場――。
「わぁー、飛行機がたくさんー!」
 蒼穹に轟音を響かせ、上空を通過してゆく翼達。
 それを見上げ、艶やかな長い黒髪‥‥純白のワンピース姿の可憐な乙女は突風に麦わら帽子を飛ばされそうになり、ついでにスカートが捲り上がりそうになり、両手で押さえる。
「あれは飛行機じゃなくてナイトフォーゲルよ。人型に変形して地上戦もこなせる対バグア兵器。あなた、本当に能力者なの?」
 乙女の傍に立つ紺のスーツ姿の女性が、マシンガンを携えた人型形態のシラヌイD型――正規軍向けに生産性と整備性を向上させた改良型――を指さした。
 上空警戒の他、建設現場にも護衛として多数のKVが配備されている。
「‥‥い、いちおう」
 乙女はおずおずと答える。
「乗ったことは?」
「‥‥ありません」
「まったく、そんなことだろうとは思っていたけど」
 ふう、とため息をつく女性。
 この二人‥‥可憐な乙女のほうは、モルディブタワー計画のイメージキャラクター(アイドル)を務める月日星・イカル(gz0493)。
 スーツ姿の女性のほうはイカルのマネージャーであった。今日は建設現場の表敬訪問に訪れており、先ほどライヴを終えたばかり。
 それにより作業員達の士気は凄まじく上昇し、作業効率は20%増しになるだろう‥‥との予測。
「ふむぅ‥‥なんだか物々しいですね」
 イカルが言った。多数のKVが警戒に当たるここは‥‥建設現場というより‥‥まるで海上基地のようである。
「あら、気が付いた? 地上のUPC軍とバグアで大きな戦闘になるみたいなのよね。ここも狙われる可能性が高い。だから厳重な警戒態勢が敷かれているのよ」
「なるほど‥‥」
 主戦場は宇宙へ移ったと聞いたが、地上もまだまだ戦火が絶えないのかな‥‥と思う。
「そこでなんだけど」
「なんです?」
「あなたにも出撃してもらうわ」
「えぇっ!?」
 予想外の言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまうイカル。
「ああ、大丈夫。あなたは戦わなくていいから。ただ歌ってるだけでOK」
「で、でも‥‥さっきも言いましたけど‥‥僕、KVに乗ったことなんてなくて‥‥」
「大丈夫。AIがなんとかしてくれるから。さあ行きましょう! それじゃあ行きましょう!」
「いやぁぁぁ〜」
 首根っこを掴まれて、イカルはずるずるとマネージャーに引っ張られていく。
「UPC軍の兵士は命がけでここを護ってくれてるのよ? あなたも身体を張りなさい!」
「ふぁい‥‥」
 そんなわけで、イカルは連行されていくのだった。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
高林 楓(gc3068
20歳・♀・CA
秋姫・フローズン(gc5849
16歳・♀・JG
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

●モルディブタワー計画
 UPCインド軍所属の空母――。
 現在はモルディブ沖の洋上を航行中。
 その甲板で、南国の陽光を手の平で遮り、眩しそうに空を仰ぐ一人の少女の姿があった。
(大規模作戦のついでっていうのは言葉が悪いけど‥‥丁度地上に降りてきた時に今回の依頼が出てて、良かった)
 晴れ渡る蒼穹と同じ色の髪をした少女はそのように心の中で呟く。
 彼女の名はティリア=シルフィード(gb4903)。
(タワー周辺に被害が出ないようにしっかりと守らないと‥‥)
 ややボーイッシュな容貌をキッと引き締め、形の良い唇をキュッと結ぶ。
「今回の依頼はシンプルですね。‥‥でも、しっかり守らないと」
 そこへふと、声がかけられた。ティリアは手をおろし、声のしたほうを向く。
 ティリアの視界に映ったのは海風にサラサラとたなびく浅黄色の髪。
 ――中性的な容姿をした黄金の瞳の少年。長い髪もあり、一見少女のようにも見える。
 少年はこちらを見て、にこりと笑った。‥‥思わずポッと頬を赤らめてしまうティリア。
 黄金の瞳の少年の名はノエル・アレノア(ga0237)。ティリアの恋人である。
「ところで、イカルさんが泣きそうな顔で連れていかれてましたけど、あれは一体‥‥?」
 こほんと小さく咳払いをして、ティリアが言った。
「ああ、ええと、イカルさんも出撃するって聞きましたけど‥‥」
「へえ‥‥イカルさんが出撃ですか‥‥」
 ティリアは意外そうな顔をする。
 モルディブタワー計画の象徴とも言えるアイドル自らが出撃とは。
「なんでも戦場の兵士に歌を届けるためらしいですよ。‥‥僕、歌は大好きです。そういえば、ティリアさんは‥‥普段、歌とか歌ったりするの?」
「へっ? う、歌なんて‥‥ボクの歌なんてとても人に聞かせられるほどのものでは‥‥」
 予想もしていなかったノエルからの質問に、ティリアはぼぼぼっと顔を赤くし、俯く。
「ティリアさんの歌、聴いてみたいな」
 微笑むノエル。――ティリアは自分の顔が熱を持ち、耳まで真っ赤になるのを感じた。

 ***

「はーい、また【MTP】から御呼ばれ。今回は防空圏の一角を担い、空から襲撃して来る悪い奴らをやっつけるのよねー」
 強い日差しの下、樹・籐子(gc0214)が透き通る青い海を眺めながら言った。
 その言葉は依頼内容の確認。彼女は【MTP】に強い興味を示しており、計画初期段階の依頼から関わっている。
「勿論特典付きで、被害無く撃退・殲滅できたら現地でバカンス観光よー」
 彼女は例によって大きく胸元が開いた服装。ゆえに――ふくよかな谷間、汗ばんだ艶めかしい肌が窺える。
 甲板で警備を担当する兵士達の視線が彼女に集中するのも致し方あるまい。
「さあ、イカルちゃんも弄るのも楽しみなのよねー」
 そんな兵士達の視線を気にも留めず、籐子はうふふと妖艶な笑みを浮かべる。
 ‥‥一体どんな風に弄ろうというのか。
「任務の後のお楽しみの為にも‥‥頑張ります‥‥!」
 籐子の隣には張り切った様子の少女の姿がある。
 腰まである銀髪を揺らした秋姫・フローズン(gc5849)だった。
「絶対に特典をゲットするわよー」
 秋姫の肩にぽんと手を乗せる籐子。
「はい‥‥!」
 肩の温かな手に自分の手を重ね、秋姫は水平線を見やった。

 ***

「戦場で歌‥‥ですか‥‥? ‥‥いろんな英雄の形がある物なのですね‥‥」
 クールともミステリアスとも取れる雰囲気の、眼帯を付けた女性が静かに言った。
 ――女性の名はBEATRICE(gc6758)。
 既に身体のラインが浮き出るパイロットスーツに身を包んでいる。中々のスタイル。
 と、ともかく。彼女は『英雄』と言った。
 英雄とは常人には成しえないことをやり遂げた人物を指すが――まあイカルもそれに当て嵌まると言えば当て嵌まる。
 しかしイカルの場合は現在進行形だ。これから、なのである。
 更に、正確に言えばイカルは偶像‥‥『アイドル』。今回、戦場へ出る理由も歌で兵士の士気を鼓舞する為。
 あまり褒められたことではない。

 ***

「心配するな。戦闘はこちらに任せてくれればいい」
「で、でもぉ‥‥」
 駐機スペースで最終調整を行っているKVの傍にて。そんな声が聞こえる。
 男装の麗人、高林 楓(gc3068)と月日星・イカル(gz0493)だ。
 涙目で心細そうなイカルを楓が勇気付けている所であった。
「イカルならやれるさ。お前の歌、楽しみにしているぞ」
「はぅぅ‥‥」
 程無くイカルはスタッフ数名に促され、特注の機体のコクピットへ丁重に押し込められた。
 キャノピーに手を付けて、大きな黒い瞳に涙を浮かべ、こちらを見つめるイカルはまるで囚われの姫のよう‥‥。あるいは売られる仔羊。
 まだ踏ん切りがつかないのか、と楓は苦笑する。初めてのKV戦ゆえに怖いのは仕方ないが。
(頑張れよ‥‥)
 滑走路へ運ばれる機体を見送りつつ、楓は敬礼。

 ***

 警報が鳴り響いた。空母が戦域へ到達したらしい。
 傭兵達は速やかにKVへ搭乗。

 ノエルの機体はヴァダーナフ『ゼロ』。
(行ける、君となら‥‥どこまでも‥‥。そういう気がする)

 ティリアの機体はスピリットゴースト・ファントム『Merkabah』。
(‥‥今度宇宙に上がったら、この子に乗る機会もグッと減る筈‥‥今日は存分に暴れ回ろう、『Merkabah』‥‥!)

 籐子の機体はクラーケン『クリオネ』。
「さて、お仕事ねー。一丁片付けるわよー」

 秋姫の機体はクラーケン『アラクネ』。
「行きますよ‥‥『アラクネ』‥‥!」

 BEATRICEの機体はロングボウII『ミサイルキャリア』。
「‥‥ふむ‥‥歌の邪魔にならないと良いのですが‥‥」
 何かを気にしている様子の彼女。はて? 一体何だろう?

 楓の機体はドレイク。
「敵機は全て俺達で対応する。イカルが歌に集中出来るようにな」
 既に出撃済みのイカル機へ通信。「はいぃ〜」との情けない声が返ってきた。
「よし、高林 楓機‥‥ドレイク、出撃する!」

 イカル機やアイリス隊に続き、傭兵達の乗るKVも順次発艦。防空任務へと移る。

●アース・ポート防衛戦 前半
 既に防空圏内には多数のHWやタロスが侵入していた。
 しかしUPC軍の奮戦は著しく、未だ第一防衛ラインの突破すら許していない。
 その理由は――
『舞い上がれ 飛び上がれ 誇り高き 騎士の翼達 大きく羽ばたき 黒雲斬り裂いて あの赤き月を貫け――』
 通信機から流れる、甘い成分を含みつつも清涼で力強い女性ボーカル(正確には違うが)。
 ロボットアニメかロボットゲームの主題歌かと思わんばかりの熱さ。
 KVを駆って戦うパイロット達の耳に、イカルの乗るピュアホワイトに随伴したワイズマン改数機からの高出力通信が響く。
 尚且つ、たまに強化ソニックフォン・ブラスターにより直接空気の振動を送り届ける。
 それは大いに兵士達の士気を鼓舞した。

「おぉ、これはまた意外ねー。あ、イカルちゃん、敵集団の進攻方向・数・種類とかから適切な対処目標を割り出して、こちらに振り分けよろしくー」
 てっきり愛らしいアイドルソングを歌うものかと思っていた籐子は響くサウンドに身体を揺らしつつ、イカル機へ通信。協力を要請。
 しかし。
 空母のCDC(戦闘指揮所)より割り込み通信。
「ごめんなさい。『彼女』には歌に集中して貰いたいの。それにそんな管制役は素人のイカルには無理よ」
 と、イカルのマネージャーから言われてしまった。
「あらら‥‥」
 そこへ。
「電子戦機では‥‥ありませんが‥‥簡易的に‥‥私が管制を担当します‥‥!」
 秋姫機から通信が入る。イカルの歌にちょっぴり興奮した様子。
「敵機‥‥多数接近中‥‥ナンバリング及び‥‥優先順位の設定完了‥‥各機へデータを転送。‥‥迎撃します!」
 籐子は「了解」と返答。兵装を選択。機動砲が『RDY』の表示に変わる。
「弾幕‥‥いきます‥‥!」
 迫るHW群に対し、秋姫機も迎撃行動を開始。敵機をロックオン。ミサイルレリーズを押し込む。
 ――多数のミサイルが射出され、敵機に着弾、爆炎が上る。
「ジェノサイド‥‥パーティー!」

 BEATRICE機――。
「私の機体は‥‥それほど特殊ではありませんが‥‥」
 目標をマルチロック。K−02ミサイルを発射。着弾。複数の敵機に有効打。
「少々他の機体と比べてうるさいかもしれません‥‥」
 彼女が気にしていたのは機体の発する音だった。
 だが戦場でそんなものを気にする必要は全く無い。

 ノエル機――。
「火力を集中して‥‥短期撃破を‥‥!」
 加速。突破を図るタロスに追い縋り【Fアセンション】を使用したチェーンガンの砲弾を浴びせる。
(タロスの対応に人数が行き過ぎると正面が手薄になってしまう‥‥バランスを取らないと)
 数度弾幕を浴びせるとタロス1機が火球へと変わった。
 戦況を把握しつつ、次の目標へ向かう。

 ティリア機――。
 こちらは中〜遠距離を保ち、砲撃支援を担当。
 狙撃砲と長距離機関砲を使い分け、敵機を牽制する。
「気合は十分! ノエルさん達が戦い易いように‥‥!」

 楓機――。
「生憎、知覚兵装は積んでいないのでな。アリスシステム常時起動。機動力を最大限に生かす」
 損傷を受けた敵機に狙いを付け、長距離機関砲の弾幕やミサイルにて攻撃を行う。
「ふ、突破ばかりに気を取られるとは‥‥甘い! 背中がガラ空きだ! ‥‥そこっ!」
 突破を図る敵機。その背後を高い機動力で取り、弾幕を叩き込み、追い返す。
 戦線の維持に努め、深追いはしないスタンスだ。

●アース・ポート防衛戦 後半
 傭兵部隊、アイリス隊、他UPC正規軍は奮戦を続け、着実に敵機の数を減らしている。

 BEATRICE機――。
「捉えました‥‥!」
 K−02ミサイルを発射、複数の敵機を同時攻撃。
 間髪置かずに兵装を切り替え、追尾するミサイルを回避せんとする敵機をロックオン。
 トリガーを引いて突撃砲の射撃を加える。‥‥砲弾に装甲を貫かれ、HW1機が空中で爆散した。

 ティリア機――。
 変わらず砲撃支援を行っていたが‥‥急速に接近する機体。識別はHW。
「こいつ、速い? でも射程内に入った‥‥落ちろ!」
 即座に対空機関砲に切り替え、掃射。
 この敵機はスピード重視した機体だったのか、装甲は薄く、砲弾に易々と切り裂かれ、第一防衛ラインを越える前に黒煙を噴き上げて落下、爆発した。
「すみません、ティリアさん」
 そこでノエル機から通信が入る。
「現在、タロス2機と交戦中です。援護をお願いします」
「ノエルさん‥‥! 了解です! とっておきを使います!」
 ノエル機の位置を把握し、方向転換、加速。
 FスナイプBを使用。スピリットゴーストの存在意義たる4連砲を起動し、ノエル機が交戦中のタロスへ猛烈な砲火を加える。
 ――敵機が怯んだその隙にノエル機は敵機の後方へ離脱。
「今だ!」
 兵装を狙撃砲に切り替え。FスナイプAを使用。ロックオン――狙撃。砲弾は命中。タロス1機が爆発。
 残る1機はノエル機が背後からチェーンガンで射撃し、撃墜した。

 籐子機――。
「この辺でお仕舞いよー」
 タロス1機を知覚ミサイルとレーザーガンで牽制、装甲を削っていたが‥‥頃合と判断。
 兵装を機動砲に切り替え。既にチャージは完了している。敵機をロックオン。三連射。
 光条に貫かれた敵機は墜落し、海面近くで爆散した。

 楓機――。
「無人HWであれば俺でも何とかなるだろう。ドレイクの機動性を舐めないことだ‥‥!」
 確かに無人HWの相手は問題なかった。しかし――
「くぅっ!」
 現在はタロスと交戦中。プロトン砲の光条が幾つも飛ぶ。
 格闘戦を演じ、攻撃は命中するが如何せん、火力が足りない。
 知覚タイプのドレイクから知覚兵装を切り捨てるという大胆な発想は悪くは無いが格上相手では厳しい。
 被弾。機体が大きく揺らぐ。
「ちっ、だがまだこの程度でドレイクは‥‥!」
 何とか立て直す。損傷が大きい。警告音が鳴り響く。
「高林さん!」
 そこへブーストを噴かしたノエル機が突っ込んで来た。
 チェーンガンで射撃し、タロスの外装を吹き飛ばす。
 遅れてティリア機の支援砲撃が入る。
「はあああっ!!」
 突貫する楓機。翼の刃がタロスに致命傷を与え、間もなく敵機は墜落して行った‥‥。

 ***

 残存の敵部隊が集結しつつあった。最後の一点突破を図るつもりらしい。
「うん。この際思いっきり、歌って貰いましょう。歌は人類の文化の一つです。相手にぶつけるのも良いかと」
 ノエルが言った。敵を阻止すべく味方も迎撃フォーメーションを構築中。
「ミサイル‥‥残弾‥‥まだ余裕があります‥‥!」
 秋姫から各機へ通信。彼女の意図はすぐに味方全機へ伝わった。残弾のある全員がミサイルレリーズに指をかける。
「喰い尽くしなさい‥‥『アラクネ』‥‥!」
 ロックオン完了。声を上げる秋姫。――イカルの歌声をバックにして、無数のミサイルが白煙の尾を引き、敵部隊へ襲い掛かった。

●海遊び
 あの後、大打撃を受けた敵部隊は撤退。
 依頼を終えた傭兵達はイカルを交えてビーチで寛ぐ。

「皆、お疲れよー。あ、そうそう、アイリス隊も呼ぶのも良いわよねー」
 言ったのは籐子。しかしアイリス隊は残念ながら哨戒任務があるそうな。

「あは、皆と遊ぶのも良いですね」
 イカルや女性陣と共にキャッキャと海で遊ぶノエル。
(‥‥そういえばティリアさん、イカルさんのこと、女の子だと思ってるような‥‥?)
 少し疲れて流木に腰を下ろす。そして隣に座ったティリアへ耳打ち。
「‥‥え? え、えぇっ!? 嘘‥‥ボクよりよっぽど女の子らしいのに、男の子だなんて‥‥ほんとう‥‥ですか?」
 驚愕したティリアは思わず立ち上がり、ワンピース水着姿のイカルを凝視。確かに、腰にはパレオが巻かれている。
「ほ、ほんとうです‥‥内緒ですよ?」
 こくりと頷いて、イカルは小声で答える。
「‥‥」
 ティリアは呆然とし、暫く固まってしまったそうな。

「KVに乗ってばかりで‥‥あまり身体を動かしていませんから‥‥」
 日焼けとは縁遠い、雪のように白い肌のBEATRICE。
 彼女は競泳水着を着用し、運動がてらとクロールで泳ぎ回る。

「食事の‥‥支度が‥‥できました‥‥」
 暫くして秋姫の声。良い匂いが漂ってくる。

「今日はお疲れ様。アイドルも大変だな。何事も体力がなければつとまらない。しっかり食べろよ?」
 楓はイカルを労いつつ、肉や魚介を皿に取り分けてやる。

 ***

「この先はどうなるのかしらねー」
 ビーチチェアに寝転がり、籐子は夕日を眺めながら今後の展開を考える。
「スイカ割り‥‥しませんか‥‥?」
 籐子の目の前にスイカを抱えた秋姫が姿を現す。「よーし!」と籐子は身を起こした。

 そんなこんなで傭兵達は日が沈むまで、ささやかなバカンスを楽しんだのだった‥‥。