●オープニング本文

　ここは日本のどこか。とある街。光に彩られ、煌びやかな輝きを見せている。
　――『幻想の光』。それがこのイベントの名称だった。
　１２月の初めから大晦日までの間、冬の寒々とした殺風景な街路樹に電飾を施し、
　満点の星空にも劣らぬ輝きに変身させるという催しである。
　街は、イルミネーションを見物に訪れたカップルや家族連れで賑わっていた。

　その中の、１組のカップル――。
「やっぱり綺麗だね‥‥すごく綺麗‥‥」
「今年も色々あったけど、これを見ていると心が温かくなるよ」
「うん。でも私はたかゆきくんと一緒に居られれば、いつも心は温かだよ」
「ゆーちゃん‥‥」
　手をぎゅっと繋ぎ、イルミネーションを眺める２人。
　２人の左手の薬指には‥‥光る物があった。
　‥‥毎年毎年狼男の妨害を受けていた２人であったが、ついにゴールインしたらしい。
　新婚ほやほやの熱々カップルだ。
「それでね‥‥あのね‥‥たかゆきくん‥‥」
「どうしたの、ゆーちゃん？」
　急にもじもじし始めた妻の顔を見て、夫が首をかしげる。
「えっとね‥‥私‥‥出来ちゃったみたい‥‥」
　ぼそぼそと言う妻。
「ええっ！？」
　突然の妻の告白に、夫は驚きはしたものの、心の奥からどんどんと嬉しさが溢れてくる。
「良かった！　良かった！　嬉しいよ！　ゆーちゃ――」
　夫が愛しくてたまらない妻を抱き締めようとした、その時。
「グルルルルルァ！！」
　――『奴ら』が現れた。嫉妬心剥き出しの、毛むくじゃらの狼男の集団。
　気付けば十数匹の狼男達によって包囲されてしまっていた‥‥。
「またか‥‥またお前達なのか‥‥」
　ぎりぎりと奥歯を噛む夫。
　この狼男は毎年毎年クリスマスシーズンに出現してはカップルの彼氏のほうを攫って、
　全裸に剥いて路上に放置していくという、残忍極まりない（？）犯行を繰り返してきたキメラ‥‥。
　最初は１体だけだったものの、去年からは何故か増殖。
　更に、傭兵達によって毎回撃退されているのだが、この時期になると再び現れている‥‥。
　だが――
（今の僕には守るものがある。そしてそれがまた増えた。こんな奴らに絶対負けたりしない！）
　キリッとした表情を浮かべる夫。怯える妻を自分の背中に隠す。
　‥‥しばらく睨み合いが続いたが‥‥狼男の中でも一際大きな１体が前へ出てきた。
　手には、ペットボトルサイズのモミの木――というかクリスマスツリー。
　一体何をしようと言うのか‥‥。
「きゃー！！」
　そこで悲鳴。
「ゆーちゃん！？」
　目の前の大柄な狼男に気を取られた隙に、妻と夫は分断されてしまった。
　夫は他の２体の狼男によって、両腕を拘束される。
　そのまま押さえつけられ、地面に身体を押し付けられる。四つん這いに近い状態だ。
　抵抗出来ない。仮にもキメラである。一般人の力など蟻も同然。
　‥‥大柄の狼男が夫の背後へ回り込む。
「何だ‥‥何をする気だ‥‥？」
　首をぎりぎりまで回して振り向き、後ろを見る。
　大柄の狼男は――手にしたクリスマスツリーを――夫の尻に――
「や、やめろォ！」
　ぶすり。
「アッー！！」
　‥‥切ない声が、冬の夜空に響いた‥‥。
　その後、ぐったりとした夫は狼男達によってわっしょいわっしょい担がれ、連れ去られてしまった。
「たかゆきくぅーん！！」
　妻の悲痛な叫び声がだんだんと遠くなる。
　薄れゆく意識の中で、夫は思う‥‥。
（やっぱり‥‥勝てなかったよ‥‥）

　その後、連れ去られた夫は全裸に剥かれ、路上に転がっているのを発見された。
　尻にはクリスマスツリーが、刺さったままだった‥‥。

●参加者一覧

●リプレイ本文

●聖夜のデート　その１
　日本のとある街。はらはらと雪が降り始めた夕暮れ時。
　冬だけに日は短く、辺りはもう薄暗い。
　街路樹のイルミネーションは早くも煌めいていた。

　新条　拓那（ga1294）と石動　小夜子（ga0121）のカップル――。
「毎年恒例の狼退治、ですね」
「ほんと、毎年よく懲りないもんだよね。凄い執念‥‥」
　小夜子が言い、拓那が頷く。
「ま、そのお陰でゆっくり出来るなら、悪くはないかな？」
　狼男達ははた迷惑だが、
　最愛の恋人と共に楽しく過ごせる理由が出来るのは嬉しくもあった。
「しかし――今年は何と言うか‥‥洒落で済まされない惨さだな。
　特に男にとっては。戦慄を覚えるね。早く何とかしないと」
　尻にクリスマスツリーを刺されるなど堪ったものではない。
　拓那はぶるっと背筋を振るわせる。

　そんな彼の横で、小夜子は胸をときめかせていた。
（その為とはいえ今年も拓那さんと‥‥楽しみ、です）
　大好きな人の横顔にちらりと目をやる。
（私の大切な人‥‥）
　‥‥ぽっと、小夜子の頬が染まった。
「さて、では、狼達を誘き出す為にデート、ですね」
　２人は一緒に商店街を回り始める。
　ごく普通にウインドウショッピングだが‥‥、
　一目見渡せば、街並みはクリスマス風の飾りつけが沢山。
「商店街の方々の工夫や技術が発揮されていて、見ているだけで楽しくなりますね」
「そうだねぇ。色々違いがあって楽しいよ」
（その‥‥拓那さんと一緒に歩けるのが一番の理由、ですけれど‥‥。
　もう手も自然に握って歩けますもの‥‥）
「‥‥ん？　どうかした？」
「い、いえっ」
　はっと我に返る小夜子。
　無意識に彼の顔をじっと見つめてしまっていた。恥ずかしい。
　また顔が赤くなる。慣れたとはいっても、熱々のカップルゆえに‥‥。

　その後、２人は男物と女物のお店を均等に見て回った。
　‥‥今回のデートは、小夜子が内緒で贈り物を買うことも兼ねていたためである。
（やはり目の前に居て下さった方が、似合うかどうか判断し易い、ですし‥‥）
　隣にいる彼と時計を交互に見て考える。その表情は真剣そのもの。
（男性の方は実用性のある方が良いのでしょうか‥‥）
　拓那の反応に注意しつつ、男物の腕時計を密かに購入。多機能で頑丈な物を選んだ。
　どうやら気づかれなかったらしい。ほっと一息。
　そして、安物のマフラーも何本か購入。
　何に使うのは後ほど‥‥。

●聖夜のデート　その２
　藤枝　真一（ga0779）と天道　桃華（gb0097）のカップル――。
「こうして見ると、ずいぶん長いこと一緒ねぇ」
　気が付けば‥‥桃華は１７歳になっていた。
　初めは中学生だった少女が、今では高校生。
「今年こそは‥‥ちゃんとしたデートをっ」
　ぐっと手を握りしめる少女。
　ちゃんとしたデート‥‥そう思い続けて４度目となるが、
　それは未だ果たされていない（？）。
　だが桃華はラブラブ路線をまだ諦めていなかった。
　１７歳――花盛りである。
　彼氏と手を繋いだり、抱き付こうとしたり。
「シンちゃん、あったかーい♪」
　雪が降る街中では子どもっぽくはしゃぐ。
「雪ー♪　雪ー♪」
　この辺はまだ成長していないようだ。
「キメラを倒し、人々の生活を守る‥‥。それが俺達の仕事だ。わかるな、桃華？
　別に、お前とデートをしたいわけじゃないんだ。だから、ちょっと落ち着け。
　ホラ、自転車に轢かれるぞ。歩道側を歩きなさい」
　対して、桃華のそんな想いをよそに、クールに接してくる真一。
「ぶー」
　桃華は頬を膨らませる。
　きっと彼は今年も「イルミネーションなんて電気の無駄」などと言うのだろう‥‥。
　そんな風に思っていると。
「あれを見ろ」
　彼が前方を指差した。桃華が指の先に目を向けると――
「あっ‥‥」
　イルミネーションの一部に
　『桃華ＬＯＶＥ　ｂｙ真一』
　という文字をハートで囲む電飾細工が施されていた。
　事前に真一がこっそり仕込んでいたのだ。奮発したらしい。
「‥‥クリスマスプレゼント、みたいなものだ」
　明後日の方向に目をやりながら言う彼。
　思い切り下手な照れ隠し‥‥。
「シンちゃん‥‥」
「ん？　なんだ、気に入らないのか？」
「大好きー！！」
　満面の笑顔で彼の胸へ飛び込む桃華。
「すごい、すごーい。来年も期待してるからね、シンちゃん♪」
「来年はこれ以上のプレゼントか‥‥。はは、だったら、婚約指輪しかないな」
　その言葉に「えー何言ってるのシンちゃーん。まだ早いよー」とデレデレな桃華。
「‥‥ん。結構、マジだぞ、俺は」
　ぼそりと言う彼。
　桃華の耳には届いたのだろうか‥‥？

　その後、２人はゲームセンターに入って、
　クレーンゲームで遊んだりプリクラ写真を撮ったり。
　疲れたらジュースを買ってベンチに座って一休み。
　そこで桃華がニコニコしながら包みを開ける。
　――彼女は今年も諦めずにクッキー（激マズ）を焼いて来ていた。
「‥‥」
　真一の顔からサーッと血の気が引く。
「大丈夫よ、練習の甲斐あってお父さん（実験台）は初日だけは耐えたわ！」
「全力で遠慮する！！」

●聖夜のデート　その３
　功刀　元（gc2818）と御剣　薙（gc2904）のカップル――。
　今回の２人のデートコースは‥‥
　１：街のイルミネーションスポットをＡＵ−ＫＶに跨り、ツーリングデート
　２：途中去年と同じ公園に寄って腹ごしらえと休憩
　３：去年と同じ公園の中央へ
　となる。

　元と薙はバイク形態のＡＵ−ＫＶに乗り、パトロールという名目でツーリングデート。
　イルミネーションに彩られた街路樹をのんびり眺めて回る。
（依頼を受けて来てるんだから仕事はきちんとこなすけど、
　久しぶりのデートだしちょっと浮かれちゃってるかな？
　ちゃんと気を引き締めてパトロールしないと）
　浮かれ過ぎないように、きゅっと口元を結ぶ薙。

　電飾で飾られた家などを見つけると、バイクを停めて見物。
「また今年もこうして２人でこの光景を見られてよかったですー」
「だね‥‥」
　さり気なく手を繋ぐ２人‥‥。

　パトロールが一段落したら、休憩を兼ねて公園へ向かう。
　途中、屋台でチキンを買ってベンチに並んで腰を下ろし、休憩。
「クリスマスと言えば狼じゃなくチキンですよねー」
「もう、元君ったら、口の周りに付いてるよ」
　ひょいぱく。
　などと２人は熱々な雰囲気を振り撒いた。

　しばらくベンチでまったり。ふと、薙が元に「ねえねえ」と声をかける。
「なんですか？」
　元が反応してこっちを向いた瞬間。
　――不意打ち気味に、薙が彼と唇を重ね、ちょっと大人な感じのキス。
「！？」
　そのまま少し固まる‥‥。
「‥‥ん、んふぅ‥‥。
　今年は忙しくてプレゼント用意出来なかったから、これで許してね？」
「は、はい‥‥」
　ぼっと顔を真っ赤にする２人であった。

　２人は火照った顔を冷ますように、公園の広場の中央へ歩いて移動。
「去年はここでこのマフラー貰ったんですよねー。
　もう１年経つんですねー。
　‥‥どんな依頼に行っても、肌身離さず持ちあるいてたんですよー。
　ボクの幸運の女神からの贈り物ですからねー。
　おかげでこうして、無事にまたこの時を一緒に過ごせましたー」
「元君‥‥」
　彼の言葉に、薙はちょっとうるうるしてしまった。

「ん‥‥」
　元は彼女がちょっと寒そうにしているのを見ると、
「一度これやってみたかったんですよねー」
　と言って、自分の巻いているマフラーを彼女の首にかけてあげた。
「‥‥すっごく温かいよ、元君」
「それはよかったですー」
　にっこりと微笑み合う２人だった‥‥。

●ＶＳロンリーウルブズ
　セイヤ・Ｍ・ウェラー（gc8211）は‥‥
　雪が舞い、寒風が吹きすさぶ夜の街を１人、歩く。
　道行くカップル達を眺めながらニヤニヤしていたが、どこか虚しさを覚える。
　狼男もまったく現れないので帰ろうかと思った時――
　目の前を絶世の美人が通りかかった。
「ちょ、ちょっとそこの美人さん！」
　――セイヤは反射的にナンパしていた。
　この夜を、１人で過ごすのはあまりにも寂しすぎる。
「‥‥何か？」
　冷たい目を向けてくる美人。
「‥‥ああ、ええと‥‥キミ、これから予定あんの？
　もし良かったらさ、俺と一緒に街でも歩かない？
　俺って寂しいと死んじゃう生き物なんでさ。
　こんな聖夜にパートナーいねえと、なぁ？」
　咄嗟に出たのはそんな言葉。
　‥‥てっきり断られると思ったが‥‥。
「良いでしょう」
　美人は少し思案したのち、そう答えた。

　セイヤが声をかけた美人。彼女――いや、彼の名は、終夜・無月（ga3084）だった。
　彼は覚醒すると女性と見紛う容姿となるのだ。
　無月もセイヤと同様に街を歩き狼男を探していたが、
　一向に現れないことに苛立ちを覚えていたので、
　丁度良いと考え、性別は伏せて一緒に歩くことにした。
　‥‥というわけである。

　しばらく歩いていると、さり気なくセイヤが無月の手を握って来た。
（なかなか、ちゃっかりしていますね‥‥）
　そのような感想が浮かぶ。
　まあ、このほうが囮には好都合だ。
　などと考えていると――
「ガルルァァァ！！」
　突如として狼男の集団、ロンリーウルブズが出現。
　セイヤは包囲、無月と分断されてしまう。
「‥‥！！」
　当然セイヤは抵抗しようとする。
　しかし、彼が対狼男用に準備したドリルライフルは‥‥
　ＫＶ用の装備であり、生身の依頼で持ち歩けるような物ではない。
　一応アサルトライフルも持っていたがこの往来で銃撃をかますわけにはいかない。
　下手をすると一般人を巻き込む恐れがある。
　そんな思考の中、セイヤは‥‥
「やめろぉぉぉ！　離せぇぇぇ！！」
　死に物狂いで抵抗するも‥‥そのまま狼男達によって攫われてしまった‥‥。

　無月はすぐに追跡を開始しつつ、皆に連絡を行う――。

　＊＊＊

　デート中だった他の全員が集結した頃‥‥
　セイヤは半裸に剥かれ‥‥涙目になっているところを発見された。
　まだ、ツリーは刺されていない様子。間一髪である。
　狼男達は散開し、カップルの男性のほうを狙って襲い掛かって来た！

「拓那さんに手出しはさせません！」
　小夜子は大事な彼に悪さをされる前に、刀の峰で狼男を叩き伏せる。
「もう２度とこんなことをする気が起きないように、
　徹底的にやってやるさ。覚悟するんだね！」
　拓那は素手で狼男をボコる。ＦＦによってダメージは激減するが気にしない。

「こいつらが居なければ、俺はＬＨには戻って来なかったかもしれない。
　ある種のキューピッドだな、お前達は‥‥。よし！　行け、桃華！」
「なんであたしなのよー！　シンちゃんが行くべきでしょー！！」
　真一と桃華はそんな風に騒いでいる。
「俺が前に立ってもいいが、そうなるとアレだぞ。
　いつかみたいに、脱ぐけど、それでもいいんだな？」
「あっー！　もう！　わかったわよ！　あたしがいくわよ！」
　またふんどし一丁になられたらムードがぶち壊しである。
　桃華が前へ出た。
　真一は愛という名の練成超強化を桃華にかけ、サポートを行う。
「右だ、桃華！」
「了解！」
「正面、次、背面！」
「了解！」
「３回回って‥‥」
「わかったわ！」
「お座り！」
「わんわん！」
「お手！」
「わんわん！」
「おかわり！」
「わんわん！」
「よーしよしよし！」
　ハッハッハッとじゃれてくる桃華をモフる真一。
「――って、なんであたしは犬になってるのよ！！」
　壮絶なノリ突っ込み！！
「そんなノリの良い桃華が、俺は好きだ！」
（アホの子で良かった）
　何故か夫婦漫才が展開されていた。

「‥‥ああっ、もう！　シンちゃんのバカ！」
　気を取り直した桃華は巨大な雪玉を作って狼男達にぶつけようと考えたが、
　そこまで積もっていないので断念。
「にゃー、大人しくしなさーい！」
　小さな雪玉を作って腹いせに狼男にぶつけまくる。

　元と薙は――
「ふー、また懲りずに現れましたねー」
「今年も例によって現れたのね、狼男達‥‥」
（回を重ねるごとに悪質になってるようだし、
　何よりデートの邪魔だからきっちり叩き潰しておこう、うん）
　連携して迎撃。
　元が聖夜に相応しくホーリーナックルでお仕置きした後、
　２人はＡＵ−ＫＶに騎乗。
「人の恋路を邪魔する奴らは吹き飛ばしてやる！」
　連携技、Ｗ【騎龍突撃】をぶちかます。
　狼男達は盛大にどかーんと宙を舞った。

「‥‥」
　地面に突っ伏す狼男に対し、無月は‥‥聖剣の切っ先を向けるが――
「やめて！」
　桃華に止められた。桃華は両手を広げ、傷ついた狼男を庇う。
　‥‥狼男達のことは「可哀想な子達」と思っている桃華。
　毛糸の手袋とお菓子（ゲロマズ）をプレゼントとして配る。
「あんた達も本当はクリスマスしたいんでしょ？
　これあげるから、暴れないで一緒にクリスマスをしましょう」

　小夜子もボコボコとなった狼男達の首にマフラーを巻いてあげる。
「ふふ‥‥ちゃんと改心出来るよう、贈り物です」
　すると――狼男達はそそくさと撤退して行った。
（来年からはカップルを護る良い狼になって下されば良いのですけれど）
　小夜子の願いは届くのかどうか。それは誰にもわからない‥‥。

　＊＊＊

　戦闘後。カップル達はデートを再開。

　小夜子は内緒で購入しておいたプレゼントを拓那に渡す。
「はい、受け取ってください、拓那さん」
「わぁ、ありがとう。‥‥うん、すごくおしゃれな時計だ。
　じゃあ、俺からも‥‥」
　拓那も小夜子にクリスマスプレゼントを贈る。
　ハートのペンダントトップにルビーをあしらった首飾り‥‥。
　拓那は「付けてあげるから、ちょっと目を閉じて」と言う。
　それに従う小夜子。
　その隙に、拓那は小夜子の艶々とした唇へ、自分の唇を重ねる。
　‥‥拓那は軽いキスのつもりだったのだが――
「！！」
　小夜子の手が首に回される。
　身体が密着し、キスは濃厚なものへと――
「‥‥特別な日ですし、少し大胆になっても良い、ですよね」
　目を開けた小夜子は愛らしくも妖艶な笑みを浮かべていた。
　思わずくらっとしてしまう拓那。

　＊＊＊

　桃華の真一へのクリスマスプレゼントは『ながーい手編みのマフラー』。
　２人で一緒に巻いて歩く。
「‥‥今更言うのもなんだが、
　こう、毎年ホワイトクリスマスだと、有り難味が無いもんだな。
　またラーメン喰っていくか？　‥‥桃華の奢りで」
「なんでよー！　シンちゃんのバカー！」
　相変わらずの２人。

　＊＊＊

　元と薙は――
「来年もまたこうして過ごしたいですねー」
「そうだね。来年もまた一緒に過ごせるといいね」
　一夜が明け、２人で日の出を眺める。

　こうして、今年の聖夜は過ぎたのだった。