タイトル:下水施設の汚物処理マスター:十狗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/03 21:13

●オープニング本文


●流れ流れて
始めは、誰もが『それ』を見逃していた。
無理もない。『それ』はミクロの大きさで、町を徘徊していたからだ。
空気中の微量のゴミを消化しながら、『それ』は地べたを這っていた。
風に飛ばされ、雨に流され、排水溝へと飲み込まれていく。しかし。

流された先は、『それ』にとって、またとない楽園だった。


●緊急依頼
下水処理施設では、とんでもないことになっていた。
「ああ、くそ、ここも詰まってやがる‥‥!」
パイプの中から、どろりと汚水の混じったゼリー状の塊が出てくる。手のひらサイズのそれを、職員が苦い顔で幾度も幾度も踏み潰す。フォースフィールドの赤い輝きが邪魔をしたが、やがて塊はただの汚水に戻っていった。ゼリー状の塊は、人間が一人楽に通れそうなほど太いパイプの中を、まるで巨大な蛆の卵がみっちりと詰め込まれたかのように占領していた。棒で手荒く掻き出して、片っ端から踏み潰すが、能力者ならぬ身では時間が掛かりすぎる。無線が、がががっとノイズ音を立てた。
「駄目だ。卵みたいな塊がみっちり詰まって、汚水が流れなくなってる」
『‥‥‥』
無線は無言を貫いていた。
返事の変わりに、微かに、おかしな音が聞こえてくる。

ジュルッ!ジュルルルルルッ!

「なんだこりゃあ‥‥」
何かを啜っているような音だ。さらに詳細を聞き取ろうと、耳を押し当て集中する。だからこそ、職員は気付かなかった。パイプの奥でもぞもぞと何かが動く。周囲にあった他の塊を吸収すると、一つの大きな塊となり、とろりと溶けて、職員の足元へと流れ出た。溜まっている汚水の元まで辿り着くと、音を立てて吸い込む。

ジュルッ!ジュルルルルルッ!

「‥‥‥?」
聞き入っていた音が無線以外からも聞こえることに気付いて振り向くと、職員の目の前には、ゼリー状の塊の山が、全てを押し流す勢いで迫っていた。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

●作戦準備
 下水施設入り口。小まめに清掃されているのか施設の壁は純白に保たれ、働く職員も、こんな職場だからこそ余計清潔には気をつけているようだった。しかし、施設から漏れ出す悪臭は防げない。地下に入ればこんなものでは済まないのだろうが‥‥。微弱な悪臭に顔を顰めながらも、一同は一般玄関へと歩を進めた。待ち構えていた職員が、不安げに視線を投げる。
「あの、もしかして‥‥」
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
「ああ、やっぱり!傭兵の方々でしたか!」
 余程、切羽詰っているのだろう。ドクター・ウェスト(ga0241)が、場にそぐわぬ高笑いを上げても、大して気にならなかったようだ。職員は、一秒たりとも惜しいと言わんばかりの焦りようで、早速、現場へと案内した。

 ‥‥現場から扉一枚挟んだ廊下に、宇宙服を着た謎の男が立っている。男は、一同を一目で傭兵と見抜くと、すぐに事情を説明し始めた。施設の地図を広げる。
「キメラはスライムだ。攻撃はしてこないんだが、増殖のスピードが厄介でな。発生場所と思われるBブロックを中心に広がって行っている。現在は、隣接しているA、C、Dブロックに配置された我々が他ブロックへの流出を防いでいるが‥‥それも、いつまで持つかわからない」
「なるほど、‥‥それで俺達が呼ばれたと」
 終夜・無月(ga3084) が事情を悟った。ムーグ・リード(gc0402) が指でBブロックの中心部を示す。
「ココ、ヲ、目指せば、イイ、ノ、DEATH、ネ?」
 横からずずいと割り込み、ウェストが覗き込んだ。地図に見入り、既に何かを考察している。
「増殖ね〜。発生原因くらいは見当がついているのかね?」
 宇宙服の男が首を横に振った。 
「いや、今の所、防衛だけで手一杯だ」
「今回は退治するけど、毎度発生していたらとても手は回らなくなるな。‥‥何か対策があればいいんですけどね」
 エシック・ランカスター(gc4778)が困ったように言った。ソウマ(gc0505)が皮肉交じりに同意する。
「いくら仕事でも、下水に入り浸りたくはないですからね」
 ノブへと手をかける。扉を開けると、凄まじい臭気が入り込んだ。おそらくBブロックとの境目なのだろう。同じく宇宙服のようなものを着た人々が、山と詰まれたスライムを相手取っていた。
 ‥‥なるほど、これだけ人手がいるのも頷ける。それなり広い下水道を横目一杯、高さにして人間の平均身長頭上まで、ぎっしりとスライムが詰まっていた。先ほどの男が声をかける。
「そう焦るな。向こうに、お前らの分の作業服が用意してある。少し動きにくくはなるが、どろどろになるよりマシだろ?まずはそれに着替えてから‥‥」
「私は必要ありませんが、皆さんはどうしますか?」
 和槍「鬼火」を握り、秦本 新(gc3832) が聞く。一同の答えは、新と変わりない。それぞれの武器を取り出す。
「ちょっと待った。ここから奥の汚さは半端ないぞ?着て行った方がいいんじゃないか?せめて、そこのお嬢ちゃんくらいは」
 『お嬢ちゃん』と呼ばれるのは、七人の中で一人しかいない。リズレット・ベイヤール(gc4816) は、振り向くと、静かな声で言い切った。
「リゼだけが汚れないわけにもいきませんし‥‥戦闘になった時障害になりますから‥‥」
 戸惑いもなく下水道に踏み入る様は潔い。男は、頬を引き攣らせた。
「成功率優先って奴か。‥‥カッコいいねぇ」
 その後、男が作業服を脱ぎ捨てるのにそう時間はかからなかった。

 ‥‥そして、一同。スライムの山の前で、無月が見上げた。
「随分とまぁ‥‥邪魔な奴等が‥‥」
 ウェストが山の一角をつんつんとつつく。
「スライム系キメラはあまり珍しくないのだがね〜‥‥。余程、ここの環境が合うんだろうね〜」
 ムーグが、拳銃「ケルベロス」の引き金に指をかけた。
「見つケタ、以上、ハ‥‥排除、スル、マデ、DEATH」
 ソウマが一同へ確認をする。
「ところで、一点突破で構いませんね?」
 竜斬斧「ベオウルフ」を握り締め、エシックが同意した。
「ええ、あまり時間もかけていられないようですし‥‥」
 リズレットも頷く。
「他に方法が有りそうにも思えませんから‥‥」
 新は槍を構えると、大きく振りかぶった。竜の咆哮。FFを纏ったスライム達が花火のように光を散らして弾き飛び、山の上に積み重なっていく。正面でまともに攻撃をくらった数匹は、それだけで消滅したらしかった。人が一人、立てるくらいのスペースが空く。
「では、行きましょうか」

●休む間もない!
「邪魔ァッ!」
 スキル「流し斬り」。薙ぎ払う快感に身を委ね、表情に笑みを貼り付けたエシックが大きく斧を振り下ろすと、周辺のスライムが一気に消え去った。しかし、新しく生まれた空間に、次から次へとスライムが転がり落ちてくる。埋まらない為に、一同は一瞬たりとも気を緩ませず攻撃するしかなかった。エシックが空けた空間に、無月が躍り出た。携帯していた小銃「ルナ」を構え、スキル「ブリットストーム」を放つ。小銃から放たれた銃弾が手当たり次第に前方の敵を襲い、消滅させた。二回分の攻撃で空いた大穴を、リズレット、ソウマ、ウェストがそれぞれの武器で死守する。
「探査の眼」を発動していたリズレットが、はっとしてスライム山のある一部に銃口を向けた。異常を察した一同が、同じ場所へと目を向ける。そこでは、他のスライムよりも15倍大きいスライムが、ぶるぶると身を小さく震わせていた。かと思うと、ぽんっ!と音が出そうなほど軽快に、二つの塊に分かれる。その瞬間を見逃さず、リズレットはSMG「ターミネーター」を発砲した。
「‥‥今の見ましたか‥‥?‥‥どうやらあのようにして数を増やしていたようです‥‥」
「ええ、核から生まれるだけじゃなかったんですね‥‥」
 道理で、と呟き後ろを見れば、先ほど突破したはずの道に、来る前と変わらない量の山が再び出来上がっていた。自らの足元でおかしな動きをする核を、新は迷わず叩き潰す。中に含まれていた汚水が飛び散るも、一同は、既に少々の汚れなど気にならない状態になっていた。
「AUKVを着ているとはいえ、あまり長居はしたくありませんね‥‥」
 全く今更ではあるが、切実だ。ウェストが核を摘み上げる。
「そうかい?我輩は、そう悪くはないと思うのだがね〜」
 ウェストにとっては、研究対象がある場所こそが楽園である。ウェストは、早速、考察に入っていた。
 スライム山には、実質、二種類の異物が積み重なっている。液体状でありながら動く、ごく一般的なスライムと、透明な殻をした手のひらほどの大きさの核。核の中には汚水が入っており、殻の中で徐々に透明度を高めると、汚水だったものは殻の外に滲み出て、小さなスライムになった。スライムは、一切の攻撃をしてこない。あちらこちらに身を伸ばして、手近にあった核を取り込んだ。中の汚水を浄化し吸収すると、大きさが二倍になる。
「う〜ん、コレは機能が分化する前の細胞かもね〜。クラゲ細胞のように集まって一つの体を成すのではないかね〜」
 次に、機械剣で一部を切ってみる。端の方を少し切ると、切り離された部分は消滅した。
「ふむ、どうやら繋がっているようだね〜。中心となる部分を潰せば一気に倒せるかもしれないね〜」
 ぽいっ、と小さなスライムを山へ投げ込んで、核を一つ検体に確保する。ソウマの機械剣が、スライムを切り裂いた。
「ウェストさん。遊んでないで、ちゃっちゃと戦ってくださいよ。後が詰まってますよ!」
「遊ぶ?とんでもない。我輩は、人類に貢献する偉大な研究をだね〜」
「気、ヲ、つけて、クダ、サイ!崩れ、マス!」
 そう叫んだのはムーグだった。前方から、何か大きな波が来ていた。ただでさえ高いスライム山がもりもりと天井へ盛り上がり、一同へ襲い掛かる。
 ムーグは貫通弾をセットし、スキル「ブリットストーム」を発動した。エシックは、大きな手ごたえを予兆して斧を振るう。無月は小銃「ルナ」で再度「ブリットストーム」を発動し、ウェストがエネルギーガンを構えた。新が槍を大きく振り被り、リズレットは‥‥愛らしい二つの瞳を見開いて、波の正体を見極めていた。盛り上がる核の隙間から漏れている、一面のスライム。おそらく、液状であることを利用して、隙間を伝って移動しているのだろう。これだけの一斉攻撃でも、波を回避できるかどうか疑問が残るが‥‥逃げ場もない。リズレットはSMGを構えた。
 一同の攻撃は全てスライム山へと命中する。前方の波はごっそりと消滅したが、まだ奥に第二波があった。一同は、再び構える。その時だ。先ほど、皆が一斉攻撃をした瞬間、スキル「両断剣」を発動しようとしていたソウマは、足元の核に躓いていた。堪えられず、ジャンプするようにムーグの背に激突する。
「す、すみませっ‥‥!?」
 立ち上がろうとしたソウマは、再度、核を踏んだ。転ぶままに上げられた足が、ムーグの隠し持っていた物を蹴り上げる。第二波へと飛んでいったそれは、天井にぶつかって割れた。スライム達は、一斉に動きを止めると、降り注ぐ物に集中した。少量のそれを吸い、核を作る。
 エシックが言った。
「あれは‥‥スブロフですね」
「ソウ、DEATH。何カニ、使える、カト、持って、キテ、イタ、ノ、DEATHが‥‥」
 なかなか使う隙が見出せなかったのだ。マッチに火をつけて投げ込むと、スライムに吸収されたアルコールが発火した。FFがある為に直接はダメージを受けないものの、揮発性が高いらしいスライムは、気熱であっという間に蒸発していく。その水蒸気を目当てに、次々とスライムが炎へ突入していく。後は、まるでゴキブリほいほいだった。

●対BOSS
 スライムは、違和感を感じていた。沢山の核から誕生した沢山のスライム。それは皆、このスライム一匹だけの為の手足代わりだった。いっぱい生まれた手足に、次の水場を探して来いと命令した。なのに、もうあんまり手足が残っていない。‥‥何か、危険なことが起こったのだろうか? そう本能で感じることはできても、それ以上の思考は持ち合わせていなかった。本体を守る為に、生まれたスライムを周囲に密集させる。高々と詰まれるスライムの壁。そこから少し離れた場所に、一同は居た。
 リズレットが、小銃「WI−01」に持ち替える。スキル「紅蓮衝撃」+「二連射」。怒涛の銃撃が、壁周囲のスライムを撃ち落した。
「‥‥これがリゼの出来る最善の行動‥‥だから‥‥あとはお願いします‥‥」
「ええ、任せてください」
 願いを引き継いで、エシックが駆けた。敵の山を目の前にして、途端に表情が笑顔に歪む。両手のリーチを最大限に使い、右へ左へ、まるで扇風機のように続け様に薙ぎ払った。そこへ、ムーグが援護に入る。
「‥‥道、ヲ、拓く、ノガ、務め、デスノデ‥‥ご退場、願イ、マス」
 貫通弾をセットし、「ブリットストーム」を発動した。スライムの壁が大きく抉れる。その反動で崩れ落ちた上方のスライムを、ソウマが叩き切った。
「僕達の邪魔はさせませんよ」
「自身障壁」を発動し、不敵に笑む。そうしている内に、壁はだんだんと薄くなっていった。散り散りになったスライムが、再び壁になる為に本体へと近づく。流れを見極め、ウェストは、エネルギーガンを構えた。
「道をこじ開けるかね〜」
 電波増強で知覚を上昇させ、連射する。――おそらく、本体であろうスライムの表皮が見えた。スキル「猛火の赤龍」を発動させ、新が飛び込む。渾身の一撃を振り下ろすも、既の所で壁スライムに阻まれてしまった。だが、これでいい。ほぼ前面が露になったボススライムに、新はスブロフを投げ込んだ。ライターを付けっぱなしにし、スライムの上に置くと、すぐ場を離れる。無月が、スブロフに狙いをつけていた。
「さっさと片付けましょうか‥‥」
 後は、引き金を引くだけなのだから。
 小銃「ルナ」から発砲された弾丸は、スブロフを的確に打ち抜いた。ぶちまけられたアルコールが火に引火する。気化という名の消滅は、スブロフを被ったスライムにとって、最早、逃れようのない死であった。

●作戦終了
「おつかれさん!」
 そう言ったのは、あの宇宙服のような作業服を着ていた男だった。結局、脱いだらしく、一同と同じようにどろどろになっていた。
 一同はそれぞれ任務終了の挨拶をするが、ただ一人だけ、ウェストはがくりと項垂れたまま、身動ぎ一つしなかった。口から魂が出ている。
「まさか‥‥!まさかサンプルまで消滅するなんて‥‥!」
 狙い通り、本体が消滅後、他のスライムや核も消滅した。検体も例外ではない。
 ソウマが、張り付いた前髪をピッと払って、クールに言った。
「こんな姿、人に見られたくありませんね。早く風呂に入りたいですよ」
 中に入れば鼻が麻痺しわからなかったが、一同は既に激臭のレベルにまで達していた。おそるおそる服をくんくんと嗅ぎ、新は眉を顰めた。
「う‥‥、臭いがすごいな。‥‥シャワー、借りても宜しいでしょうか? 」
「おー、着替えも用意してあるらしいぜー。シャワーは順番待ちみたいだけどな」
 ちなみに俺は5人待ち、と男が笑う。今回の作戦には、相当の人数が参加していたらしい。では‥‥、とエシックが言った。
「あなた、先にいかがですか?まだ少しかかるようですが、やはり女性ですから、少しでも早く入りたいでしょう?」
「‥‥いいんですか?」
 提案されるとは思わず、少々驚いてリズレットが聞いた。エシックが頷く。
「もちろん、レディーファーストですよ」
 一同に反対する者はいない。ムーグは作戦が終了したことに大きく息をついた。
「外で、新鮮、ナ、空気、ヲ、吸って、来、マス」
 ずっと篭っていたものだから、外の空気が恋しくて仕方ない。無月は、それぞれの様子を黙って聞いていた。
「そうですか。じゃあ‥‥俺は洗面所で手や顔だけでも洗ってきますね」
 それは、まさしく名案だった。