●リプレイ本文
●午前の部
「日本の祭りってのには興味があってね。カンパネラで学業やってるよりはマシさね」
「祭りに参加するのもひさしぶりだね。さーて、がんばって盛り上げないと」
リック・オルコット(
gc4548)やアーク・ウイング(
gb4432)が祭への期待感を素直に口にした。
「去年のお祭りは知らないけれど、今年のお祭りが最高だったって思える様、頑張るよー!」
鈴木悠司(
gc1251)が顔見知りを見つけて挨拶する。
「マルコさんこんにちは! 今日は宜しくお願いしますね」
「マルコさん、お久しぶりです、初めて顔合わせる人も居ますが、みんなで力あわせてお祭り盛り上げていきましょう」
こちらはシャーミィ・マクシミリ(
gb5241)だ。
「人数が足りなそうで心配してたんだけどな‥‥」
危惧していたマルコ・ヴィスコンティ(gz0279)たが、蓋を開けてみれば十分に人数は揃っていた。
問題はKVが予定よりも1機多かったことだ。
当初の予定のままでは物理的に配置できず、多少の変更が必要そうだ。
「今回は、屋台でナナレンジャーのDVDやKVのおもちゃを売りますよー」
ナナレンジャーの一員としてシャーミィが気合いを入れている。
(「自分が参加しているものが実際に売られてるのって、割と照れますね‥‥。うーん、やっぱり顔でばれたりするんだろうか」)
希崎 十夜(
gb9800)もまたメンバーの一人なのだが、態度は対照的である。
覚醒なしでは人付き合いは苦手だったが、思うところがあり今回は参加を決めたのだ。
「申請しておいた強力なコンロは届いてるかな?」
「ああ。屋台に持っていてくれ」
マルコの返答に漸 王零(
ga2930)が満足げに頷いた。
「もう夏も終わりが近いけれど、今日来た皆が楽しめる様に、今日が良い思い出になる様に、頑張るね」
気合いを見せる悠司。
「さて、安全無事に祭りを行えるよう、力を尽くすとするか」
極めて真剣な表情で天空橋 雅(
gc0864)が口にする。
堅物な彼女は、『祭り』への参加ではなく、あくまでも『任務』としてこの場にやって来たからだ。
「夏も終わりに近いせいか、人も多いですね。これだけ沢山の人が居ると、トラブルの方も自然多くなりますね」
砂浜で肩をすくめるソウマ(
gc0505)。
海岸の監視員ということで、すでにトランクス型の海パンを履いている。他には、おしゃれなパーカーに、帽子とサンダルといった服装だ。
「では、私はこちら側を。君は反対側を監視してくれ。休憩と交代は昼でよいかな?」
雅もまたすでに水着を着用している。
互いに配置へついてしばらくすると、軽薄そうな男達が雅に声をかけてきた。
「いえ。私は監視員を行っていますから」
拒絶しても引き下がらず、水着姿を舐めるように値踏みしている。
雅本人はまるで空気のごとく無視していたが、そこへソウマがフラッと現れた。
「差し入れです」
スポーツドリンクを渡して、同僚につきまとう男達へ向き直る。
「ま、夏休みですからね。少しぐらいハメを外すのは多めに見ますが、余りにも目に余るようでしたら‥‥、覚悟してもらいますよ」
ニヤリ。不吉な笑みを浮かべて追い払ってしまった。
「薔薇色の覇道を歩む美しき戦乙女、七色戦隊隊長ローズピンク!」
高飛車な態度で腕を組み、スーツ姿のシェリー・ローズ(
ga3501)が名乗りを上げる。
対峙するのは、黒スーツにサングラス。手すきの人間がおらず、マルコがマフィア風の出で立ちで悪役を演じていた。
「世界の涙を止める為何の因果か化物退治、七色戦隊ナナレンジャーお呼びとあらば即参上」
マルコを相手に派手なアクションで殺陣を繰り広げる。
「必殺ローズピンク・シャイニングハート!」
振り下ろされた模造剣の一撃に、もんどり打って倒れる倒れる悪人。
「アタシに逆らうなんて百万年早いのよ!」
見物していた子供達の拍手を受けて、シェリーがDVDの宣伝をおこなった。
UNKNOWN(
ga4276)は未来風の真っ黒な甲冑姿で来場者へチラシを配っていた。もろに悪役の格好なので、避けられることもあったりなかったり。
彼はULT関連の資料の間に、一枚のチラシを紛れ込ませてある。
この日のために、薄暗い闇の中でガリ版でせこせこ刷ったのである。
(「子供達のために、けーいちさんは頑張るのだ‥‥」)
機体数の少ないK−111の知名度向上を願い、家族連れなどへ渡すものの、果たしてどれほどの効果があるのやら。
ふりがなもなしに専門用語が多用されおり、読み手に高い知識を要求する資料なのだ。理解できたとしても、高すぎる機体のスペックが疑念を抱かせることだろう。
それでも彼は、全身にスーツの暑さに耐えながら、熱中症対策として水や塩飴を口に含みながら、頑張っていた。
「PT−062、グローム。日本ではあまり馴染みの無いメガコーポ、プチロフ社の新鋭機」
新しく入手した機体のお披露目とあって、リックが誇らしげに語る。
「ノーヴィ・ロジーナの後継機にして対地攻撃能力を持った対地攻撃機。デザインはかなり格好良くなってるな」
説明するリック自身も非常にメカメカしい格好をしている。
「で、今着てるのはAU−KVミカエル。外見とカラーリングは俺好みでいじくってある」
ミカエルのカラーリングは、黒を基調に所々を灰色に塗装していた。頭部形状も変更され、T字型のセンサースリット状になっている。
「雷電は銀河重工が開発した重武装・重装甲の局地戦空挺KVなんです」
王零の雷電の名は『アンラ・マンユ』。
グレートザンバーを右の肩に担ぎ、左手のジャイレトフィアーは地面に突き刺す形で固定し、スタビライザーのウイングは大きく広げている。
接近戦用のフル装備となっていた。
KVを変形させた彼は、子供達から希望を募って、コックピットシートへ案内する。
愛機が子供達を喜ばせる光景を眺め、王零の顔に笑みが浮かんだ。
「戦いばかりではなく、こういったこともたまにやるというのもいいものだな」
悠司の勤務場所はULTのテントだった。
「泣かないで。直ぐお迎えに来てくれるから、それまで一緒に遊ぼうね」
先ほどソウマが連れてきた子供と向き合う悠司。
「もう一人の小さい子を抱いていた奥さんが連れていた子だ、な」
不吉な呼吸音を交えながら黒スーツの男が指摘する。UNKNOWNがチラシを渡した中に、この子と家族が含まれているらしい。
一緒に探そうとしたUNKNOWNだったが、怯えて嫌がられてしまい肩を落とす。
「‥‥チラシ配布のついでに探してこよう」
●午後の部
「あれ?」
見知った顔を見て、十夜が首を傾げる。
「要は今回はお客さんとしての参加なんです。人手が要ると聞いてお手伝いにきました♪」
先ほどマルコに依頼した用件が、要に回ったのだと彼も気づく。
「焼きそばを作ればいいんですか?」
「い、いえ‥‥。俺に、売り込みは難易度が高くて‥‥」
明らかに及び腰となる十夜。
「それなら、客寄せをしますね」
ありがたい申し出を受けて、十夜はこくこくと頷き返す。
彼はペネトレイターへの転職で得た素早さを活かし、てきぱきと追加の焼きそば作りに励むのだった。
迎えに来た両親に、悠司は子供のついでにチラシまで渡しておく。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「もうはぐれない様にねー! お祭り、最後まで楽しんで行ってね!」
羨ましそうに眺める子供が目に涙を貯めている。
「折角のお祭りだからね。迷子になって心細いかも知れないけど、迎えが来るまで一緒に沢山楽しもうね」
悠司が慰めているところへ、アークが顔を出した。
彼女は子供達を集めると、能力者の覚醒を実演して見せた。
「最近、実装した上級クラスのエレクトロリンカーだよ。上級クラスは他にもあって、能力者もどんどん強くなっているだ」
彼女を囲んで空間に表示された文字列が、これまでの能力者との違いだった。
ソウマは疲れていた。
人命救助が原因ではなく、迷子をULTテントへ案内し、転んで抱きついた相手に痴漢扱いされ、スリを相手に追いかけっこと、三連コンボを決めてきたのだ。
「これが‥‥、キョウ運の意味ですよ」
嘆きつつも、覚醒して探査の眼とGooDLuckを使用する。
双眼鏡を覗いた途端に、彼は溺れている人間を発見した。
これがキョウ運だ。
無線機で雅に一言だけ告げ、海岸へ向かって走り出す。
どうやら服を着たままゴムボートに乗り、深いところで転覆したらしい。
意識のない女性を担いだソウマを、雅が岸で出迎える。
女性ということもあり、雅がフェイスシールド越しに人工呼吸を行った。
傭兵二人がかりの応急処置は完璧で、蘇生した彼女は医者の手に委ねられた。
「いらっしゃいませ〜♪」
屋台の経験は無いものの、シャーミィは元気良く呼びかける。
設置したモニタではDVDを流しており、客達に気づかれてシャーミィは何度も恥ずかしい思いをしていた。
「握手とか求められちゃったらどうしよう」
などと考えるのも、落ち着きを失っている証拠だろう。
「今日は気分がいいから、DVDを買った人には特別にサインしてあげてもいいわよ」
ボンテージ風のスーツで色気を振りまくシェリーも売り子として加わっている。
「ふぅん、アナタDVDを全巻買ってくれたのね‥じゃあ是は特別にご褒美よ大事になさい」
パンフレットに生キスマークプレゼント。
内心では感謝もしているのだが、高飛車キャラを守ろうと奮闘している。
「KVのおもちゃはやっぱり自分の搭乗機のノーヴィ・ロジーナ1押しですが‥‥」
シャーミィがリックの評価を聞いていたら、落ち込んでいたかもしれない。
王零の屋台はちょっと変わっていて、彼の得意な中華だった。
このためもあり、強力なコンロを要望したのだ。
蒸し餃子・シュウマイ・肉まん・餃子は、持ち歩くことを考慮して小サイズ箱に五個入りで販売している。炒飯はおにぎりにして、1箱3個での販売だ。
調理の実演として、大鍋を振りながら客寄せを行う。
「さー、できたての炒飯はどうかな? 格安で販売中だよ」
アークが持ち込んだ機体はリヴァイアサンだ。
「現時点において、水中用KVの中では最高クラスの性能を持ったKVになります。大きな特徴としては、水深200mでも人型形態に変形して戦うことができます」
綿菓子で子供を捕まえるという、あざとい手法を使うのはUNKNOWNだ。
艶消ブラックのK−111改。持ち主の名であり、機体愛称でもある『UNKNOWN』の文字が、キャノピーに明滅している。
桁外れの演算能力を持っているが、現在は何かを高速で計算中のため、時折甲高い音を発生させている。
外観はノーマルだが、そもそも、ノーマルな形状を知っている人間が珍しい。
「ほーら、この機体は、ね。‥‥いや、本物のKVだ」
見慣れぬ機体に、子供達は興味が薄そうに見える。
「これはけーいちさんと言って、な」
つらい記憶を思い出したのか、思わずUNKNOWNが涙ぐむ。
●夜の部
日が暮れるよりも早く、KVは沖の小島へと移動していた。
昼のうちに打ち合わせも済ませており、各機体に打ち上げ用のグレネードランチャーを装備する。
「さあ、派手に打ち上げるとしよう」
流れを途切らせずに、打ち上げをつなげていくのがリックのグロームだ。
使用した花火を補給するたびに、集中的に打ち上げるのがアンラ・マンユ。
海上を進み、移動しながら花火を連続で打ち上げたのがアークのリヴァイアサン。
やたらとでかい花火を打ち上げるのがけーいちさん。
「タイミング、合わせるか」
リックの合図で、4機は一定のリズムで方向を変えながら、打ち上げをリレーしていく。
ブーストジャンプした王零は、無茶な搭載をしたグレネードランチャーを一斉射撃を行って、夜空に大輪の花束を咲かせた。
KVの出番が終わり、通常の花火大会に移行する。
花火に見とれてしまうのか、ULTのテントには未だに迷子が連れてこられる。
『たーまやー!』
視界が開けているため、悠司は子供達と一緒に花火を見上げて歓声を上げている。
テントへ顔を出した要に、マルコが話しかけた。
「屋台を手伝ってもらって悪かったな」
「構わないですよー。なんでも言いつけてください」
「うーん。迷子が増えるかも知れないし、ここも頼めるか?」
「はい。喜んで♪」
実のところ、要はマルコに会いたくて祭りにまでやってきたのだ。
プライベートではないものの、一緒に花火を見られることを彼女は喜んでいた。
シャーミィはこの時間になっても屋台を受け持っていたが、花火大会のプログラムが進むと、親子連れなども減少してきた。
「ちょっと寂しくなってきたけど、おかげで花火を見られそうかな‥‥」
彼女と違ってすでに、拘束時間を終えた人間もいる。
「ふむ、やはり夏はこうでなくてはな」
花火を眺めながら、雅がかけ声を口にする。
傍らに立つのは、パートナーであったソウマだ。
本日は負傷者の治療などにもあたり、彼もずいぶんと疲れているようだ。
「楽しい夏休みもそろそろ終わりか‥‥」
ソウマが脳裏に思い浮かべるのは、動き始めた大規模作戦のことだった。
「‥‥でも僕達の暑い夏はまだ終わらない。これからが本番ですね」
全てを終えて一同が再び集まっていた。
「先ずはビールで、未成年者はソフトドリンクですよ」
悠司が促すと、マルコが怪訝そうに視線を向ける。
「十夜もビールか?」
「いや、あの。俺は二十歳なんですけど‥‥。疑わしいなら、俺の書類をあらためて見てください。マジで」
「ならいいけど‥‥」
悲しそうに主張されて、マルコが引き下がる。
「皆、お疲れ様ー! って訳で、乾杯ー!」
悠司の音頭で皆が応じる。
『乾杯ーっ!』
「あー、やっぱりビールは美味しいね! 一仕事の後だし、サイコー!」
達成感と共に悠司が堪能する。
冷えたビールを一気に喉へ流し込み、UNKNOWNは我慢していた煙草を胸の奥に吸い込んだ。
未成年のシャーミィは、酒を飲まずともジュース片手に歌い出した。
それを盛り上げようと、アークが合いの手を入れていく。
ソウマは得意の変装術を活かして、モノマネ芸を披露した。
「余った材料で簡単になにか作るか‥‥」
UNKNOWNが鉄板上で炒める音が響く。
「さて、静かに飲んでいるか」
「戦時にも、こういう一時が必要ということか」
リックや雅は、騒ぎに加わらずに皆を見守ろうとする。
「おいおい、こちらにも都合というものが‥‥、あ、何をする‥‥」
シャーミィに引っ張られて、雅もまた喧噪の輪に加わっていた。
「皆、どんどん飲んでねー! あ、お酌しますよー」
悠司がマルコのグラスにビールを注ぐ。
「次は秋祭り‥‥。紅葉が見れたり出来ると良いよね。夜はライトアップなんかしたら、凄く綺麗だと思う」
「派手にKV使った運動会とかどうよ? KV使った綱引きとか派手なやつがいいな」
悠司やリックの提案を、マルコが手帳にメモしていく。
楽しく騒ぎながら、明日の撤収作業も頑張ろうと、アークは気合いを入れるのだった。