タイトル:食材調達 蟹交戦マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/30 12:53

●オープニング本文


「‥‥あなたも食材用のキメラが希望なの?」
「あなたもって?」
「ついこの前も、ウナギキメラ退治を案内したのよ」
 しのぶに対し、マルコが詳しい事情を説明する。
「ULTタウンがそろそろ始まるし、キメラ料理用の目玉的な食材がほしくてさ」
 ULTをテーマとしたアミューズメントビルが、今夏には開店する運びとなっている。施設内ではキメラ料理を提供するレストランが設置されるため、マルコの要望もそれに絡んでのことだった。
「牛キメラなんかの汎用性の高い食材は入手する目途もたってるけど、キメラであることを理解させやすいのもあった方がいいと思うんだ」
「いいのはわかるけど、そうそう都合良く‥‥あった」
 彼が望んだ通りのキメラを発見して、しのぶは思わず目をこすった。できすぎだと彼女が懐疑的になったのも仕方のないことだろう。
「カニキメラなんかどう?」
「普通のカニとどう違うんだ?」
「大きいのよ。全長5mにも達するズワイガニが、3匹。この場合は3杯と呼んでおいた方がいい?」
「サイズから一目瞭然ってわけか。ちまちまと身をほじくる必要もなさそうだし」
「その手間も楽しみのひとつだと思うけど‥‥。客受けはいいかも知れないわね」

●参加者一覧

魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
サイト(gb0817
36歳・♂・ST
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
希崎 十夜(gb9800
19歳・♂・PN
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
ネオ・グランデ(gc2626
24歳・♂・PN
相賀琥珀(gc3214
21歳・♂・PN
カグヤ(gc4333
10歳・♀・ER
龍乃 陽一(gc4336
22歳・♂・AA

●リプレイ本文

●岩場で蟹を出迎えよう

「蟹さんを食すツアーはこちらで宜しいですか?」
 誤解を招くサイト(gb0817)の発言。
 彼の目的がどこにあるかは、持参した米1升、卵15個、調味料少々が如実に表していた。
「ズワイガニ‥‥。甲殻綱エビ目クモガニ科のカニで、塩茹でや味噌汁、刺身でも食べられる、と」
 文献から得た知識をネオ・グランデ(gc2626)が披露する。
「おなかがぐー。おいしいかにさん食べたいの」
「蟹、美味しいですよね」
 食欲を訴えるカグヤ(gc4333)に、相賀琥珀(gc3214)が笑って応じた。
「刺身〜♪ かにすき〜♪ かにぞうすい〜♪ お腹がへったよ〜♪」
 オルカ・スパイホップ(gc1882)は溢れる期待感を歌にしてみた。
「‥‥『海』で『カニ』を食べると、さぞかし美味しいんでしょうね」
 取れたてを想像した龍乃 陽一(gc4336)が笑みを浮かべると、腹の虫まで鳴き出した。
「魔神・瑛(マガミ・エイ)だ。宜しくな!」
 自己紹介した魔神・瑛(ga8407)が、声も高らかに皆を鼓舞する。
「終わったら参加者全員で蟹尽くしのパーティーだぜ!」
 ‥‥一方で、その熱気に乗り切れない者もいた。
 例えばラナ・ヴェクサー(gc1748)。
 彼女の第1目標は、刺身用に水中でのキメラ討伐。
 第2目標は、あまり好きではない蟹の克服である。
「蟹って正面から見ると結構気持ち悪い顔しているんですよねぇ。それが巨大化しているとなると‥‥」
 さらに問題なのが希崎 十夜(gb9800)だ。
「己の限界に、挑戦する。この依頼は今まで以上に集中力を高め挑まなければ‥‥」
 悲壮な覚悟で臨むのは、彼が甲殻類アレルギー持ちだから。
 食べなければ重度の発症はしないが、傷口に成分が触れただけでも、体調に影響が出ることを知っている。
 症例1、熱くなりやすくなる。気が短くなるらしい。
 症例2、動悸に変調。悪化と共に心臓に痛みを感じるようだ。
「ねえマルさん‥‥。何で砂浜じゃねぇんすか? 何で水着のギャルがいねぇんすか?」
 周囲を見渡していた紅月・焔(gb1386)が、納得いかないと主張する。ガスマスクに隠されていて見えずとも、本人は不満顔だ。
「ごっつい蟹しかいねぇんすけど?」
「そうだろうな。目的は蟹退治だし」
 マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)が平然と応じる。無理もない。
「まあ、つまり蟹を倒せと‥‥? 蟹の足より美女の足が良い」
 現在の彼のテンションは、良く言えば適当。悪く言えば適当。とにかく適当という点では疑いようがない。
 同じ小隊に属していることもあって、十夜はその理由に想像がつく。
 十夜は滝峰を水中へ持ち込みたくなかったので、陸戦に備えて焔に預けておくことにした。

●蟹と水中で踊ろう

 海面に見える蟹の甲羅は、岩の一つとして風景に溶け込んでいた。
「1匹‥‥否、1杯は水中で仕留めて、残りの2杯を陸上でだな」
 ネオが念を押した。
「大きな蟹ですね。食べ応えがありそうな‥‥」
 大きな的めがけて、琥珀が拳銃「ライスナー」を発砲する。
 愛らしくビスクドールを抱きしめていたカグヤだが、これもまたれっきとした超機械だ。彼女もまた蟹を引きつけようと電磁波を放った。
 エアタンクを背負ったオルカの両手両脚には、覚醒による状態変化が現れていた。
 肘や膝から先が艶のある漆黒に染まり、指の間には水かきまでができている。その特徴は、彼の名であるオルカを連想させた。
 彼と組む十夜やラナもエアタンクを担いで、潜水を開始した。
(「全力、全開で‥‥越えてみせる」)
 初の水中戦闘で、天敵にも近いキメラが相手だ。十夜としても気合いも入ろうというものだ。
(「水中用拳銃『SPP−1P』は射程が短いですからね‥‥」)
 待ち伏せ状態ではないため、気休めと知りつつも、ラナは隠密潜行を使用しつつ、敵との間合いを詰めていった。
(「まずは、横から攻撃するよ〜!」)
 向かって左側からオルカが脚へ攻撃を加え、逃走方向を限定しようと試みた。
 水陸両用槍「蛟」を構えたオルカに、四本の脚が立て続けに襲いかかる。
 十夜がアロンダイトで斬りつけた。この剣には雷属性があったため多少の不安もあったが、水中でも使用に不都合はなく、内心で安堵を漏らす。
 ハサミで捕らえられそうになった十夜は、迅雷を使って距離を稼ぐ。
(「攻撃に当たりたくは、無いな」)
 体質のこともあって行き足も鈍りがちだが、それでは前衛を果たせない。
 結論は単純だ。
(「ならば‥‥やられる前に、やる!」)

 この班で、陸上対応は焔一人。上陸を阻止するため、小銃「スカーレット」を手に牽制役を担っていた。
「ザッキー! もはや俺から教える事は無い‥‥思い切りやるが良い!」
 言ってることは立派だが、その真意は彼に全てを委ねること。単なる丸投げである。陸上からでは声も届いていないし。
 彼は煩悩がモチベーションに直結するため、女性陣が少なかったり、色気が少なかったりすると、戦闘能力が低下してしまう。
「く‥‥、これが‥‥、バグアの陰謀か。くそ、‥‥バグアめ!」
 いいがかりである。

(「‥‥ち、なんか。キツイな。もしかして、キメラから何かが出てるのか?」)
 十夜の胸を不安がよぎる。蟹の身体から何かの成分が滲みだして、アレルギー症状を引き起こしている可能性だ。
 プレッシャーに起因するものかもしれないが、生じる違和感を十夜はなんとか気力でねじ伏せる。
(「‥‥非力なスナイパーだと‥‥もどかしいわねっ」)
 ラナは装備が軽いこともあって、ヒットアンドアウェイを主体に挑んでいた。危険性は抑え、得られる成果を最大限にというわけだ。狙い所も工夫し、彼女が銃口を向けるのは関節や目だ。
 蟹はオルカにのしかかるように迫り、ある脚が鉤のように槍をひっかけ、ある脚はオルカの足下をすくう。
 踏みつぶされそうになったオルカを救ったのは、ラナの放った弾丸だった。
 強弾撃を使用したラナの一発が、蟹の片目を粉砕した。
 痛みを感じたのか、身体を震わせながら蟹が暴れ出す。
 どうしたら早く動けるか自問自答したおかげか、十夜は少しずつ水中戦に適応していた。
(「反撃‥‥カウンターで確実に沈める!」)
 素早く身を捩ってハサミをかわすと、カウンターを狙って円閃を繰り出した。この攻撃がもう一つの目玉を潰す。
 どれほど硬かろうと、力があろうと、まともに交戦できない相手に、後れを取る傭兵達ではなかった。

●蟹と陸上で踊ろう

「この辺りまで来ればっ‥‥」
 琥珀は足場が広く取れるところまで蟹を誘導し、ようやく攻勢に移る。
 銃から剣へと持ち替えて、刹那による一撃。間髪を入れずに迅雷を使うと、蟹の後ろへ回り込んで、鋏の付け根めがけて夜刀神を振り下ろす。
 それに瑛も続く。
「うおぉりゃぁあ! 俺の食欲を満たす為にくたばりやがれ!」
 クロムブレイドを関節めがけて全力で振り下ろした。
「どれほど硬かろうが、動けなくしてしまえば後はどうにでも料理できる」
 多少狙いがそれても、足を殺せれば十分との判断だった。
 琥珀は再び迅雷を発動し、正面からの攻撃に加わる。
 二人の武器が淡く光っていたのは、後方にいるサイトが錬成強化を施したためだ。
 さらに、スパークマシンαで電撃を浴びせて援護も引き受ける。
 頑強なハサミが繰り出した剣を弾き、或いは刀身を捕まえて持ち主ごと放り投げた。
 怒りを表すかのように、その甲羅が熱を持ち始めた。
「赤くなってきましたね。陸は暑いでしょう」
 琥珀はサイトの援護と呼吸を合わせて間合いを詰める。
 立ちあがることでがら空きになった蟹の腹部へ、円閃による回し蹴りで砂錐の爪を炸裂させた。
 さらにアロンダイトを正面から突き込んで、蟹を後方へとひっくり返す。
「やり過ぎるとミソが出てもったいないですかね?」
 おどけながらも琥珀は手を緩めることなく、瑛とともにさらされた腹部へ刃を突き立てた。

「さて‥‥、美味しく頂きましょうか♪」
 陽一の言葉に続き、ようやく出番が来たと一人が名乗りを上げる。
「近接格闘師、ネオ・グランデ、推して参る」
 エーデルワイスでハサミを弾き、ネオが至近距離まで踏み込んでいく。
 カグヤは陽一と一緒にその援護だ。
 彼女は経験不足を自覚しているため、できるかぎり危険は冒さない。
「カグヤは子供だけどクールなのだ」
 とは本人の弁。
 一方で、蟹の方は熱気をまき散らし、その甲羅が真っ赤にうだりはじめた。
「外骨格といえど、関節は弱点だろ」
 足場の制限もあって必要最小限の動きで回避するネオは、4本の脚を前に少なからず危険に身をさらしている。
 前衛が一人であるため、ネオは無理をせずに一度間合いをはずす。
 そこへ追いすがろうとする蟹。
「させないよ‥‥!」
 陽一の放った銃弾はピンポイントで関節部に命中する。
 動きを鈍らせた足へ、カグヤの放つ電磁波がだめ押しとなった。
 左側2本目の足が、加重に負けて逆に曲がる。自由に動かない足は、他の足の動きまで妨げるようになってしまった。
 挑みかかったネオを威圧するように蟹が身を起こす。
 ハサミを受けつつ、エーデルワイスでこれに応戦。
「‥‥援護します!」
 ライフル弾を撃ち込んで陽一が援護し、カグヤの錬成治療がネオを癒す。
 露わになった蟹の腹めがけて、ネオは渾身の力で急所突きを繰り出した。
「獲った‥‥、疾風雷花・睡蓮」
 腹部のつなぎ目をこじ開けるようにして、彼のエーデルワイスが突き込まれた。
 仰向けに倒れた蟹の脚がピクピクと痙攣する。
 周囲へ視線を流したネオが、状況を言葉に表した。
「‥‥狩猟成功かなっと」
「そのようだな。碌に強化してないコイツは使わずにすんだか‥‥」
 瑛の手元には未使用のままに終わった水中剣が残っていた。
 その点では、十夜の滝峰や、ラナの洋弓「アルファル」もまた、出番がないままに終わっていた。
 これらは、準備の良さを物語っているといえるだろう。

●皆で蟹を味わおう

 蟹3匹を退治したご褒美として、生の脚が1本と、熱を加えた2本が傭兵のものとなった。
「直火で焼いて蟹みそと言うのもいいですね。できれば蟹の体を一つ頂きたいのですが‥‥」
「ここで蟹を捌いたら、搬送や保管が難しくなるだろ」
 サイトの望みは、あっさりとマルコに拒まれてしまった。
「それは残念」
 つぶやくサイトの隣で、カグヤもこくこくと頷いた。
 彼女の場合、興味の対象はミソよりも甲羅の方だ。記念に持って帰りたかったようだ。
 幾人かの例外を除き、傭兵達が蟹の調理を開始する。
 例外とは、遊泳中だったり、海釣り中の人物だ。
 オルカは未だに海に浮かんでいる。
 蟹の調理を任せっきりにするのは気が引けるものの、久しぶりに泳ぐ快感には代え難かったのだ。
 水辺の民族出身のオルカは、故郷を懐かしく思い返している。
 釣りをしているのは十夜だ。
 体調も完全に復帰していないが、蟹からなるだけ距離をおこうと、釣りへ没頭している。
 多目的ツールにはナイフも入っているので、釣った魚を調理して自分なりに楽しむつもりだ。

 琥珀から借りた飯ごうでご飯を炊き、蟹の脚を蒸して下ごしらえを終えると、サイトはカニチャーハンを作り始める。
「味は保証しますよ?」
 自信をほのめかせた彼は、蟹玉スープも作るつもりだ。
「俺は塩茹でと、味噌汁あたりかな」
 ネオも持参してきたアルティメット鍋を手に料理を開始した。
 琥珀はサラダを作るようだが、これは後に触れるとしよう。
 焔のテンションは最後まで回復しなかった。彼の煩悩は食欲には向いていないのだろう。

「お注ぎ致します♪ どうぞ」
 陽一が、サイトやネオに日本酒をついでいく。
「やっぱり蟹にはコレだな! 飲もうぜ」
 瑛の方は持参した酒を手酌している。
「ぷは〜っ! やっぱりお仕事の後のお酒は美味しいですねぇ」
 サイトも杯を傾けた。
「刺身とカニ味噌はいい酒の肴になるんですよね。蟹みそだけでも十分に美味しいんですが‥‥」
 諦めきれないのか、胴体を積んだ冷凍搬送車に視線を向ける。
 ラナも酒を勧められたが、これは丁重にお断りした。酔いやすく、泣き上戸ですぐ相手に絡んでしまうので、なるだけ自粛しているのだ。
「食卓という名の戦場なのですよ! 食べられない者が死に、食べる者が生き残る世界なのです! ゆえに食べまくるですよー!」
 バイタリティ溢れるオルカの主張。
「かーにかーに♪ どーれがいちばんおいしいかな?」
 カグヤがマイ食器を持ち込んでいるのは、意気込みの現れだ。
 オルカに負けじとカグヤも料理に手を伸ばしていく。
「お、結構いい味だしてるな、このキメラ」
「美味しいです。お料理上手なんですね」
 サイトと琥珀が、味噌汁に口をつけてネオを賞賛する。
「これもいかがですか?」
 サイトに向けて、琥珀がカニサラダを差し出した。
「‥‥あれ? おかしいですね? 亡くなったお婆ちゃんが笑って手招きを?」
 見た目は完璧なだけに、味との落差が際だっていた。目元に涙をためて、ふらりと倒れた彼は、倒れた衝撃で辛うじて目を覚ます。
「琥珀くん、これはワインビネガーじゃありませんよ。これはちょっと‥‥」
 苦笑を浮かべながら指摘する。
「あ、これはただのワインでしたね。‥‥では、お詫びにこれを」
 凶器として使用されたワインは、サイトに進呈されることとなった。
 十分と思われた料理が見る間に減っていく。
「〜♪」
 陽一の食べるスピードは速くないのに、料理だけは大量に消えてしまう。
 参加者へ渡した蟹がどのように分配されようと、マルコにはあまり関係ないのだが、もめ事は好ましくないので公平な立場から彼は審判を買って出た。
 マルコに退場処分を下された陽一の首には、『反省中』と書いたダンボール製のドッグタグがかけられる。
「ま、まだそんなに食べてない気がしたんですが‥‥」
 陽一がためらいがちに主張しても、皆から向けられるのは冷たい視線のみ。
「‥‥あぅ」
 嫌な汗をかきながら、陽一は言葉に詰まった。
「あまり蟹は好きじゃないけど‥‥試してみますか」
 陽一ににとっては酷く贅沢な言葉を、ラナが口にする。
 刺身は避けたい。なるべく蟹だとわかりづらいものを‥‥。
 おずおずとした様子で、ラナが手を伸ばしたのは蟹玉スープだった。
「美味しい‥‥。キメラなのに、味は以前食べた蟹の数倍ですね」
 料理人の技量の差も影響しているのだろう。
「いい思い出になりました」
 蟹の味わいとともに、彼女はこの依頼を記憶するに違いない。
「うぅ‥‥、せめてあと一口‥‥」
 静かに涙をこぼす陽一の耳に、食事の終了を告げるネオの言葉が届いた。
「ごちそうさまでした」