●リプレイ本文
●神社にて
「自らのKVへの想いを絵馬に込めるか。面白い事を考えるものだ。その企画に乗ってやる事としようか」
榊 兵衛(
ga0388)の雷電が降り立った時、そこへはすでにもう一機の雷電が到着していた。
操縦席に腰を下ろしたまま、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は絵馬を手に記述内容を検討中だ。
「‥‥今更、他の機体に浮気する気はないしな」
長らく共に戦空を駆け抜けてきた、命を預けた戦友だ。この戦争が終わるまでは、一緒に戦い続けるつもりだった。
「‥‥こんなものかな」
『ホアキン&雷電・改2「Inti」。この戦争が終わるまで、共に空を駆け抜けよう』
絵が得意らしく、背伸びする愛機の二頭身イラストがカラーペンで描かれている。
兵衛もまた、雷電への思い入れは負けておらず、次のような絵馬を持参していた。
『榊 兵衛&雷電改2「忠勝」
長きに亘って陸に空に様々の戦いを潜り抜けてきた掛け替えのない我が相棒よ。
バグアがこの地上より消え去るその日まで宜しく頼む』
広い駐車場には、今回の依頼にあわせて何機ものKVが舞い降りてくる。
シュテルン・Gから降りたリゼット・ランドルフ(
ga5171)は、愛機に刻まれた小さな傷を眺めて、申し訳なく思いながらこれまでの思い出を蘇らせた。
ある依頼で悔しい想いをしたため、足手纏いにならず仲間を守れるようになろうと願い乗り換えた機体だ。『Edain』(エディン)に搭乗してから、すでに1年半ほどは経過しており、今では大切なパートナーである。
『リゼット&CD‐016G「Edain」
戦争が終わるまで、ずっと一緒に戦っていけますように』
「絵馬か‥‥。こういう形での祈念というのは聞いた事がないが」
「この神社って、パイロット、空の守り神なんだって。飛行機の操縦士トカ来たらしいよ。広報で読んだよ」
苦笑を浮かべた白鐘剣一郎(
ga0184)へ、堂々と告げる夢守 ルキア(
gb9436)。ちなみに口にしたのは嘘である。神頼みに興味はないが、彼女はジンクスを大事にするタイプなのだ。
さらさらと筆ペンを走らせる剣一郎とは違って、ルキアは非常に苦心しながら書き進める。
「文字書くのってすっごく大変だよね!」
ミミズがのたくったようなラテン語で彼女はこう記す。
『ルキア&骸龍「イクシオン」
互いが動けるなら絶望せず、前を向く!』
「KVとの縁結びとは、面白ぇコト考えるモンでありやがるですね」
「偶にはこういうのもいいかもしれませんね」
シーヴ・王(
ga5638)やリゼットの言葉に、マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)が応じる。
「こんな機会に、KVへの思いを新たにするのも悪いことじゃないだろ?」
「いつも私たちに力を貸してくれる、KVにも感謝をしつつ‥‥だね♪」
エイミ・シーン(
gb9420)が笑顔で会話に加わった。
一人巫女さんが紛れ込んでいるが、神社にあわせた衣装を着込んだだけで、リリナ(
gc2236)もまた傭兵の一人だ。
(「これからどんどん敵は強くなるですから‥‥、しっかり決意しとかないと、ですね」)
中には、本来の主旨を勘違いした人間も存在する。
「あり? 縁結びと聞いて参加したのにKVへの愛を語るの‥‥絵馬に? まあ、いいや。ついでに縁結びもKV愛も両方書いとこう」
同行した以上、世史元 兄(
gc0520)もこれに参加した。ついでに、今度の大規模戦で行われると聞いたリリア奪還作戦の成功祈願も行っておく。
『「鬼鷺」(キサギ)の美しさは先ずその姿だ! 飛行状態で飛ぶあの姿まさに巨鳥!(‥‥以下略)』
想定外の割には、絵馬の裏面にはビッシリと機体への愛情が綴られており、あまりにも長いのでこの場では割愛せざるをえない。逆に表の方はシンプルで、こんな文章が記されていた。
『ナイトフォーゲルFPP−2100ペインブラッドは俺の嫁!』
「白鐘さんは、何を書いたのですか‥‥?」
後の展開に思い至らずリリナが訪ねると、相手の絵馬が差し出された。
『白鐘剣一郎
CD−016G シュテルン・G「流星皇」
天空に輝く一等星の名に懸けて、バグアを打倒し、この星の空を取り戻すその時まで共に戦い抜く事を誓う』
「まぁ、こんな所だ。開発依頼から実戦テストを経て世に送り出すまで関わった機体だからな。戦える限りは乗り続けるつもりだ」
そして、当然の流れとしてリリナの絵馬にも言及される。
「えと、ちょっと恥ずかしいので‥‥」
恥ずかしそうに、そしてすまなそうに、退いてしまうリリナ。
彼女は下段の隅の方へこっそりと絵馬を奉納する。
『リリナ&ディスタン「クロ」。
これからも一緒に強く、皆さんを守れるようになりたいです』
黒犬のイラストが隅に描き込まれている。
「ここが一番、空に近い」
逆にホアキンなどは、一番高い位置に自分の絵馬を飾る。
思いの丈を強く主張したいのか、エイミもまた目立つところへ堂々と飾った。
『エイミとサイファー「デュラハン」。
私が今守り抜きたいものを護るために‥‥コレからも力を貸してね』
隅に書かれているのは、雪だるまを作ってるリスの可愛い絵だ。
「皆、熱いでありやがるですね」
絵馬を覗き込みながら、シーヴがそう論評する。
彼女自身もその一人と言えるだろう。どれほど優秀な高級機が出ようと、彼女もまた乗り換えるつもりがないのだ。
『シーヴ&H−114改「鋼龍」
移動2の鈍足でも、パワーアップするような特殊能力がなくても、最安値でも、戦い続ける限りは鋼龍だけがシーヴの愛機です』
「皆の思い入れもそれぞれに深い物がある、か‥‥」
微笑を浮かべた剣一郎が皆を眺めていた。
●戦域にて
「さぁ、相手に死を告げに行きましょうか」
戦意も露わに、エイミがサイファーの操縦席に潜り込んだ。
マルコが見守る中、空へと駆け上がっていく9機のKV。
「今日も飛行日和だ」
ほぼ快晴となる青空を眺めて、ホアキンが口元に笑みを浮かべた。
「後顧の憂いを無くしておく事も重要だ。ここはノルマをこなすだけでなく全て叩き落そう」
各自が1体ずつ――合計9体倒せば祈願のためには十分だが、剣一郎は不満らしい。
3機ずつ3班構成で戦域に突入した彼等は、13羽の雷鳥キメラへ挑みかかった。
KV編隊で右翼を担っていたA班が、敵陣左翼の切り崩しを狙う。
ホアキンは95mm対空砲「エニセイ」の射程にあわせて相対距離を400mに保ちつつ、翼を狙って連射していく。
「敵の周辺に近づくと危険そうですね」
雷鳥キメラが纏っている放電のベールを警戒し、リゼットはその外側からチクチクとスナイパーライフルで狙い撃つ。
後背を突こうとした兄のペインブラッドに向けて、別な個体がレーザーを射出して阻止に回った。
「仕方ない‥‥。斬り裂くぞ、『インティ』」
敵の連携を断つべく、ホアキンはソードウィングを閃かせて斬り込んでいく。
挑発するように鼻先をかすめて飛翔する雷電を追い回す雷鳥キメラ達。ホアキンが意図して囮となっていることに、おそらく気づいていないだろう。
さらにその後方。無防備に尻を向けているキメラを射程に捕らえ、リゼットが銃撃を加えていく。
攻撃を受けて反転したキメラが、口々に光を放ってきた。
レーザーによる焼けこげを作りながら、敵との間合いを詰めたシュテルンがPRMシステムを稼働させる。攻撃力を底上げした重機関砲が唸り、一息に500発近い砲弾を撃ち込んでボロ雑巾にしてしまった。
兄と交戦中だったキメラへ、死角をついて雷電が接近する。
超伝導アクチュエータを稼働させたホアキンは、交差する瞬間に雷電の翼で雷鳥キメラの翼を半ばまで断ち切った。
飛行能力を奪われたキメラを、ペインブラッドの高初速滑腔砲が撃ち落とす。
二人がノルマを達成したことで、ホアキンも自身の仕事に本腰を入れる。
リゼットと兄が牽制を続け、残りの一羽が他のキメラと合流するのを妨げている。
雷電の抱えた電磁加速砲「ブリューナク」から砲弾が放たれ、雷鳥キメラの胴体を貫通して息の根を止めていた。
C班は反対の左翼を構成している。
「余り敵に近寄り過ぎないようにな」
アウトレンジからの発砲を繰り返す剣一郎が、僚機へ念を押しておく。
「は、はい。わかってます」
かしこまって答えながら、リリナは放電範囲へ踏み込まないよう間合いを保つ。逆に、キメラ側からが接近してくるようなら、MSIバルカンRで弾幕を張って突き放した。
遠距離から放たれたレーザーを、シーヴは岩龍をロールさせて回避し、スナイパーライフルD−02で反撃する。
交戦相手とは別の個体に接近され、シーヴは翼の付け根を狙い撃って接近を阻もうとする。
「囲まれて放電の嵐は避けてぇところ、です」
「こちらでフォローする。行け!」
キメラの眼前に割り込んできた剣一郎の言葉を受けて、シーヴは標的としたキメラを仕留めに行く。
1体のキメラと1機の岩龍が空を舞い、レーザーと長距離バルカンが交差する。
「少し放電喰らったですが、『鋼龍』にゃまだまだ」
敵のダメージを読みとった彼女は、スラスターライフルの高火力を頼りにキメラへ肉迫する。引き金を引くと振動と共に銃弾が吐き出される。
「これでどうでありやがるですか」
振り向いた先で、羽ばたきを止めたキメラが海面へ落ちていった。
「その程度の雷で『流星皇』を落とせると思わないことだ!」
剣一郎が誇るだけあり、PRMシステムを併用した抵抗力は、キメラの放電攻撃を寄せつけなかった。剣一郎は自ら間合いを詰めると、ソードウィングを閃かせてキメラの翼を斬り飛ばす。
残る一体のキメラは、レーザーを撃ちながらリリナの後背を追っていた。シーヴはリリナを援護すべく、横合いから銃弾を撃ち込んで足止めを狙った。
「いくよ‥‥、クロっ」
機体を反転させたリリナは、アクセル・コーティングを施してキメラへと肉迫する。防御性能を上げるスキルなので、知覚攻撃への耐性は変わらないだろうが、リリナ的には気分の問題だった。
臆することなくキメラの放電距離へ飛び込みながら、すれ違いざまにリニア砲の引き金を引く。
身体を撃ち抜いた銃弾は後方へ、雷鳥キメラの死骸は下へと消え去った。
両翼と別れた敵中央部には、一番キメラが集中していた。担当するのはB班である。
こちらの3機に対して、敵の数は7体だ。
わずかでも幸運度をあげるべく、ルキアがGooDLuckを使用する。
「気分的なものだけどね」
ルキアは互いの命中率が低い状況で、砲撃戦に踏み切った。
兵衛の雷電が超伝導アクチュエータを駆使して、レーザーを回避しながら雷鳥キメラを翻弄する。ホアキン機と同様にアシストへ回るつもりだったが、この場は敵の数を減らすのを最優先に行動を起こす。
「中型HWと伍して戦えるように心血を注いで強化改造してきたこの『忠勝』が、数が多いだけのキメラに負ける訳にはいかぬのでな。墜ちて貰うぞ」
長距離バルカンとスナイパーライフルを使用して、迫り来る敵へわずかでもダメージを積み重ねておく。
目的こそ違えど雷電が敵を引きつけたため、ルキアとエイミが敵を削るべく行動を起こした。
「殺されてやる義理は無い、一気にいくよっ!」
相対距離を縮めながら発砲するルキアは、敵上方を通過後、ブーストを噴かしてキメラ後方へ回り込む。
「紙装甲、生命も練力も少ない。だから、攻める」
攻撃は最大の防御を体現するように、ルキアは危険を冒しながらピアッシングキャノンを撃ち込んだ。
逃走しようとしたキメラの鼻先を、エイミの放った銃弾がかすめる。出足をくじいたキメラを標的に捕らえ、まずはルキアからノルマを達成する。
兵衛が引きつけていた6体は、さすがにそのまま追うことの愚を悟り、雷電を包囲しようと試みる。
気づいた兵衛が援護を求めるよりも早く、僚機が彼に手を貸した。
長距離からルキアのロングレンジライフルが撃ち込まれ、傷こそ軽いもののキメラの牽制に成功する。
機体ダメージが少ないのを確認して、兵衛は傷の重い雷鳥キメラへ格闘戦を挑んだ。超伝導アクチュエータで放電をかわし、スラスターライフルでキメラの頭部を粉砕する。
キメラ達の見せた混乱へ乗じるように、エイミはフィールド・コーティングを稼働させて機体を突っ込ませる。敵の陣形を切り裂くように、スラスターライフルを撃ち込みながら、目についた敵へソードウィングで斬りかかる。
「さぁ! 斬られたら痛ぇぞ! ‥‥なんちゃってね♪」
サイファーはその場に留まらず、反撃されるよりも早く横断を終えていた。
敵に動揺につけ込んで、兵衛はさらにもう1体を葬った。
エイミを追おうとしたキメラに、ルキアの銃弾が長距離を隔てて命中する。
先に動くことになったのはエイミの方だった。
銃撃を加えながら接近をしかけ、照射されたレーザーはローリングで回避する。フィールド・コーティングで放電を受け止めたエイミは、確実な距離から銃弾を浴びせて雷鳥キメラの撃墜に成功する。
この時点でキメラは残り3体。
しかし、A班とC班が対峙した6体を屠っており、両翼から絞り込むようにしてキメラを包囲する。
KVの銃撃が檻となってキメラを囲い込み、時間と共に命中率が上昇していき、数分を待たずに空の上からキメラを一掃してしまった。
剣一郎が戦いの終了を告げる。
「敵13体の殲滅を確認‥‥、状況終了。皆、お疲れ様だ」
無事に帰還した9機が再び駐車場に着陸する。
「これで縁も確り結ばれやがったですね」
満足そうなシーヴが、疲労回復のためにとチョコを皆にお裾分けしていく。
「みんなの笑顔もKVの助けもあるから護れるのですよね」
チョコをありがたくいただきながら、エイミが皆の様子を眺めて微笑んでいる。
「お疲れ様、イクシオン」
ルキアは帰投も待ちきれないのか、早くも機体を拭き始めている。
「あ‥‥ここも塗装禿げてる‥‥」
機体の損傷を確認して、リリナが表情を曇らせる。今度は技術者を思わせる白衣姿だ。
ふと思い立ったリリナが、マルコに問いかけた。
「絵馬をもう一つ貰ってもいいですか‥‥?」
「それは自由だけど、どうするんだ?」
「あ‥‥、できたらKVの操縦室にも飾っときたいかな‥‥」
「いいんじゃないかな。ディスタンも喜ぶと思うよ」
彼等はこれからもナイトフォーゲルに搭乗して、戦場を駆け抜けることだろう。
いつか、バグアとの戦いが終結し、ナイトフォーゲルから降りる日まで――。