タイトル:【AA】橘薫と新人部隊マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/02 16:03

●オープニング本文


「機体使用の依頼ってないかな?」
 ULTを訪れた薫がそう切り出した。
「あると思うけど‥‥、機体使用が前提なの?」
「そう。この前、S−01からバイパーに乗り換えたんだ。新しい機体だし慣れておこうと思ってさ」
「無難な選択にしたのね。KVシミュレーターの依頼でも、みんなから助言してもらってようだし」
 しのぶの指摘を受けて、薫は拗ねたように眉根を寄せる。
「言われたからじゃないさ。自分にはバイパーが向いていると、自分で判断したんだ」
 わざわざ強調する時点で、彼女の言葉を肯定したようなものだが、本人はそれを自覚していないらしい。
「それはわかってるわ。誰かに無理強いされたわけじゃないし、あなたの意志だものね」
 薫が主張するままに受け入れて、しのぶは依頼を検索を行う。
「そうねぇ‥‥。北アフリカ進攻作戦に関連して、UPC軍の安全を確保するための哨戒任務があるわよ。新人向けだから敵と遭遇する確率は低そうだけど」
「‥‥新人?」
「最近は新人の傭兵も増えてるでしょ? 戦力はどこでも不足しているから、比較的安全な任務は若手に回そうとしているんだと思うわ」
 新人扱いされることに不満そうな薫へ、しのぶがさらに言葉を付け足した。
「ほら、去年あった【北伐】の時みたいに、新顔の傭兵達と親しくなれるかもしれないわよ」
 そう勧められて、薫は依頼に参加することを決めた。

●参加者一覧

香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
白咲 澪(gc3075
13歳・♀・SF
諷(gc3235
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

●機体搭乗前

「初めまして! 椎野 のぞみ(ga8736)です。今回は宜しくお願い致しますね!」
 満面の笑みを浮かべた彼女が、元気に挨拶する。
「そう言えば新人さん増えたね〜。ボクも傭兵になって2年だけど、通常の依頼ではあまりKVに乗った事ないし、乗り換えたばかりなので、ご迷惑かけるかも。宜しくお願い致しますね、橘さん♪」
「よろしく。僕も乗り換えたばかりなんだ」
 橘薫(gz0294)が自機の傍らでそう応じた。
「新しい機体はバイパーにされたのですか、良い機体ですね」
 機体選定に関わったこともあって、リュティア・アマリリス(gc0778)がその事実に興味を示した。
「薫様とお会いするのは久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「薫君、今回も一緒の任務だね。お互いに頑張ろうね」
 まだまだ危なっかしく思え、香倶夜(ga5126)は姐のような態度で薫に接していた。
「薫くん。お久しぶりです。元気していましたか?」
 緑川 めぐみ(ga8223)にそっと抱きしめられ、薫が腕の中で狼狽えている。
「え? ‥‥な、なんで?」
 ふたりとも、駄目な子ほど可愛く感じる性格らしい。
「同じ新人同士、慎重に戦いましょう」
 ロシャーデ・ルーク(gc1391)の励ましに、薫は気安く応じた。
「ただの哨戒任務だし、考えすぎだって」
 任務を甘く考えているフシのある『たっちー』を、噂通りだと眺める諷(gc3235)。こちらは自分が新人だとわきまえており、逆に気の緩みをただそうとしていた。
「オイラもまだ雑魚だし、戦闘機の扱いに慣れとかないとね」
(「薫と偵察か‥‥。始めのうちはまだしも、時間が経てば飽きて絶対に気を抜くだろうな‥‥」)
 堺・清四郎(gb3564)はそれなりに性格を把握しているため懸念を抱く。
 先日の『蜥蜴座』の用に予期せぬ敵との遭遇戦もあり得るだろう。
(「成り代わることもできない以上、俺に出来る事は自覚を促すさせる事だけか‥‥。歯痒いものだ」)
「哨戒任務‥‥。厳しいものにはならないでしょうが、不確定要素がありますね」
 ラナ・ヴェクサー(gc1748)は、清四郎と似たような視線を向けて、本人に声をかけていた。
「橘君もこちらのチームに所属してもらいますよ」
 目の届くところにおいておこうと、彼女は強引に薫をB班に引き入れた。
「訓練はきちんと積んでいましたか? 実戦で学ぶことは多いけど、基礎は大事ですよ」
「大丈夫。大丈夫」
 めぐみの言葉を軽く受け流し、薫は各機体に視線を向けた。
「ふーん。接近戦用の武器を積んでる機体が多いね」
「空戦時に機体の制動性を高めるって聞いたから、フィンブレードを付けて見たけど‥‥ダメ?」
 のぞみに続いて、めぐみも答えた。
「今回の任務は哨戒任務ですから、制空権の確保が目的ですが、空挺降下して陸戦もありますし、白兵も出来る武装を持たないと。KVはそういう汎用性を求められています」
「今まで要請を受けてからの出撃が多かったから、それに備えた装備で出撃できたけど、今回はどのタイプの敵と当たるか分からないから、その点に注意してきた‥‥」
 如月 芹佳(gc0928)もまた、似たような思考を経て装備を決定したようだ。
 実際の作戦行動を前に、諷はなぜか皆にマシュマロを配った。本人が言うところの、『微量だがエネルギー補給』するためらしい。

●哨戒と遭遇

 最初に飛び立ったのはA班のKV5機だ。
「‥‥‥‥」
 日差しの暑さに辟易したのか、諷は口数こそ少なかったが内心で酷く物騒なことを考えていた。
(「哨戒か‥‥。経験が浅いから緊張してるけど、遭遇した敵には惨たらしく死んでもらうよ」)
「まだ二回目の依頼だし、気が抜けないわね」
 敵への警戒だけでなく、ロシャーデとしては優れた機体速度を抑えて、味方機から突出しないよう気をつけねばならない。
「‥‥とは言っても張り詰めっぱなしでは潰れてしまうから、ほどほどにな」
 同行する新人に向けて清四郎が助言する。
「『輪廻』の初陣‥‥。でも、必要以上に気負う事は無いかな‥‥」
 ペインブラッドの真新しいシートに腰を下ろし、芹佳が気持ちを鎮める。
「『セレーネ』、一緒に頑張ろうね」
 来る戦いに備え、香倶夜はシュテルンを励ますのだった。

 哨戒は2交代制で行われ、B班も幾度目かの出撃となった。
「スナイパーの目がKVに利くものか分かりませんが‥‥、先頭に立たせてもらおうか」
 ラナは最初にそう主張し、彼女のヘルヘブンがずっと先頭を引き受ることとなった。
 異変に気づいたのは、左翼を飛んでいたリュティアだ。ただし、見つけたのは敵影ではなく、レーダー波の異常である。
 窓外を見下ろした彼女は、光を反射する海面までの間に、奇妙な歪みを見て取っていた。それは歪んだレンズのように感じられた。
「敵影を捕捉、座標を送ります。皆様、御注意を」
 哨戒任務中に初めて敵と遭遇し、彼等の間に緊張が走った。
「他の敵影なし。偵察型? 増援を呼ばれると厄介ですね」
 敵の姿を目視して、めぐみは偵察目的とあたりをつけた。
「敵と遭遇したのがA班だっら、足の遅い私のディスタンでは到着に遅れたかもしれない」
 そう考えて、白咲 澪(gc3075)は密かに安堵していた。

 敵と接触したリュティアからの連絡を受け、休憩中だったA班はすぐさま離陸した。
「戦闘空域へ到着する前に、敵の情報を教えてもらえるかしら?」
 ロシャーデの問いかけに、B班からの返答が届く。
「‥‥クラゲ?」

「‥‥哨戒中に遭遇。いつも、戦う心構えをしておかないと。だいじょうぶ、いつもどおりにやれば、いけるはず!」
 気持ちを奮い立たせるものの、澪は敵の外観を見て気持ちが萎えそうになる。
「うぅ‥‥、大きいクラゲって気持ち悪い」
 直径50m程度の円盤状で半透明なフォルムであり、下面からは幾つもの触手がぶら下がっていた。
「行きます。パニッシュメント・フォース発動! 発射!」
 先手必勝を狙うめぐみはディアブロの機体スキルを発動させ、抱えているG−01を全弾射出する。
 不意の一撃を警戒していたラナも、彼女にあわせてJN−06を撃ち出した。的が大きいだけに、ミサイルのほとんどが命中する。
 クラゲを包み込む爆炎の中から、真一文字に敵へ伸びるのは触手であった。回避するKVをホーミングミサイルのごとく追尾し、先端に殴られた澪機とラナ機は機体の安定を奪われた。
「ミサイル全弾撃ち尽くした後は‥‥こうです!」
 めぐみが引き金を引いて、20mmガトリング砲の弾痕をクラゲの体表に刻み込む。しかし、キメラの巨大さに比較して弾痕はあまりに小さく、その巨体はいささかも揺るがなかった。
 味方機をフォローすべく、澪がガドリング砲や長距離バルカンを放つが、これもまた同様の結果となった。
「‥‥? 銃器はあまり効いていない感じ‥‥?」
 澪と同じ感想を抱いたらしく、めぐみが仲間へ警告を発する。
「みなさん、ミサイルの方が有効です。残弾がある方はミサイルを選択してください」
 その通信を受けて、もう一機のディアブロがすぐさま行動に移した。
 のぞみ機のディアブロは、めぐみ機の行動をほぼ再現する。パニッシュメント・フォースを稼働させ、ホーミングミサイルを射出。さらに、H−044ミサイルまで撃ち出した。
 それに続こうとした薫は、意図せぬバイパーの機動に振り回された。死角から接近していた触手に捕らえられたためだ。

●KVとクラゲ

「‥‥敵確認。何かしらね、あの醜いモノは」
 情報は耳にしていたが、外観を目にしたロシャーデが不満を漏らす。
 援軍に駆けつけたA班も、即座に行動を開始した。
「有効なのはミサイルだよね」
 確実にダメージを与えるべく、香倶夜はPRMシステムで攻撃力を上昇させると、クラゲを標的に高速型AAMを撃ち出した。
 芹佳もまた遠距離から発射したが、クラゲをかすめたミサイルはどこか遠くへと飛び去っていった。命中する寸前に触れた触手が、軌道をそらしたのだ。
 素早い回避はできずとも、クラゲは器用な防御能力を有していた。
「遠くの敵を狙う時は単調になりがち‥‥、でも逆に工夫を凝らせば!」
 ペインブラッドの撃ち出したUK−11AAMが再びクラゲに迫る。先ほどと同じく、触手が命中を阻もうとするも、それより早くスナイパーライフルRの弾丸がミサイルを撃ち抜いて、クラゲの至近距離で爆発を生み出した。
 装備の都合もあって、ロシャーデは敵との距離を400mに保っていた。彼女のサイファーは、ミサイル発射後は左斜め後方へ反転し、次の攻撃を試みる。
 敵の攻撃手段は触手のみのはずだが、突如として自機に飛来してきたミサイルを、清四郎のミカガミが慌ててかわす。
「馬鹿野郎! 殺す気か!」
 清四郎が怒鳴った相手は、発射のタイミングで向きを変えられた薫だった。
「クラゲを狙ったんだよ!」
「落ち着け! 近接武器に切り替えて触手を斬れ!」
 一喝を受けた薫は、バイパーを変形させてKV小太刀により拘束を切り払う。そして、背中のバーニアを噴かせて滞空しながら何とか飛行形態に戻り、落下のスピードを利用し必死に機体を安定させていく。
「派手に歓迎してやるよ、お客さん!」
 参戦に気持ちを高ぶらせている諷のディアブロが、短距離用AAM1発とホーミングミサイル2発をセットに、攻撃を繰り返していく。
「ハッハー! そんなものかぁ!」
 命中に気を良くした諷が吼える。
 敵との間合いと保ちながら周回していたサイファーが、機首をクラゲに向けた。ロシャーデはノコギリの歯を思わせる蛇行で触手を牽制しつつ、ピアッシングキャノンで銃撃を加える。
 螺旋弾頭弾まで撃ち尽くした香倶夜は、一撃離脱を狙ってレーザーガトリング砲を狙い撃つ。
「なるほど、身体構造が銃弾の打撃力を緩和している訳か」
 そちらへ視線を向けたのが香倶夜の隙だったようだ。
 飛び交うKVをわずらわしく感じたのか、クラゲの触手が四方に伸びた。その手中に収めたのも、のぞみ・諷・香倶夜・ロシャーデの乗る4機だ。
 UK−11AAMを発射しつつ、ラナはブーストを噴かしてヘルヘブンを敵に接近させる。
「インファイトならば、こうもしなくてはなっ‥‥!」
 敵の注意を引くために、クラゲの頭上から重機関砲をぶっ放して通過する。
 現状を好機と判断した澪は、ディスタンをクラゲの下に潜り込ませる。下方から突き上げるような軌道を取り、触手の付け根を狙ってホーミングミサイルを叩き込んだ。
「焦らないで、冷静に対処を心掛けて‥‥」
 触手の間を縫うように飛行し、澪はブーストを噴かして振り切ることに成功した。
「けっ、びびってられっかよおおお」
 自身を鼓舞した諷は、ディアブロを縛り付ける触手を、フィンブレードで切断する。
 同様に、のぞみの機体もフィンブレードで触手を斬り捨てると、バーニアを駆使して低速で飛行形態に移行し、落下しながら速度と安定を取り戻していく。
「‥‥まさか空戦で使う事になるなんて、想像を超えているよ。まあ、備えあれば憂い無しって事だよね」
 自力での脱出を果たした香倶夜の、垂直離着陸能力を有するシュテルンは、他機体より比較的早く安定を取り戻す。不要と思われたヒートディフェンダーのおかげだった。
 ロシャーデのサイファーは、他機とは違って刀剣に類する装備を搭載していない。ガドリング砲で弾幕を張り、新たな触手の接近を拒んでいたが、彼女には脱出を果たす術がなかった。
「その薄汚い触手で、仲間を掴まれるのはお断りです!」
 彼女に差し伸べられた救いの手は、めぐみの駆るディアブロだ。風を切るブレードウィングが、すり抜けざまにクラゲから伸びていた触手を両断する。
「‥‥助かったわ。あのまま触手責めされるのは趣味じゃないもの」
 飛行形態に戻り、機体のコントロールを取り戻したロシャーデが礼を告げる。

●空戦を終えて

 ブーストを噴かしたリュティアのディスタンが、イクシード・コーティングを稼働させつつ、ソードウィングでクラゲの傘に斬りつけた。真一文字に大きく体表を切り裂いた。
 続いて接近した芹佳は、SES増幅装置『ブラックハーツ』と同時にフォトニック・クラスターを使用してクラゲを焼いた。
「この攻撃、避けられる?」
 D−03ミサイルポッドを近距離で射出することで、散らばるはだったミサイルのほとんどを敵に命中させた。
 さすがにダメージが大きくなったのか、クラゲはじょじょに高度を落としていく。
「こいつならどうだ!」
 清四郎は追撃を図るべく、ミカガミを急降下させる。彼の放った放電ミサイル「グランツ」が、クラゲの傘に命中して電撃で迸らせた。
 薫もまた残っていたH−044ミサイルや127mmロケット弾を全て撃ち込んだが、未だにクラゲは健在である。
 十分に傷を与えることはできたが、倒しきるには火力が足りなかったようだ。
 追いかけようとした薫が清四郎に止められる。
「深追いはやめておけ。目的を見失わないことだ」
 悔しく重いながらも、敵の逃走を見送るしかなかった。
「任務は哨戒だしね。敵を倒したからと言って、仕事が終わりになるわけじゃない」
 ラナが指摘したとおり、彼等の目的はクラゲ退治などではなく、あくまでもこの空域の確保なのだ。

 ようやくUPC軍への引き継ぎを終え、傭兵達の任務も終了する。
「やれやれ‥‥。お疲れ様、でいいのかな?」
 ラナが皆を労った。
「本日はお疲れ様でした〜。敵が出て大変でしたね」
 のぞみも苦笑を浮かべつつ、それに続いた。
「今日は勉強になりました。今度生身の時お会いしたら、貴方の背中、守りますね♪ そのときは橘さんも強くなってくださいね♪」
 のぞみの口にした言葉に、『なぜ生身依頼限定なのだろう?』と薫が首を傾げている。
「終わってみれば楽しい作戦でしたね。この後、一緒に紅茶でも飲みませんか?」
 同じ依頼に従事した仲間達をめぐみが誘うと、このタイミングを見計らったようにリュティアが声をかける。
「それでは、コーヒーなど如何ですか?」
 メイドの習い性というべきか、人数分を準備したリュティアがコーヒータイムを提供する。
「隣に座っても宜しいですか?」
 すぐそばに腰を下ろしたリュティアが、今回の任務について薫の感想を訪ねた。
「クラゲを逃がしたのは悔しよなぁ」
「初めから何でも完璧を求めるな。今出来た事を誇れ」
 不満そうな薫を見て、会話に耳を傾けていた清四郎が言葉を挟んだ。
「そして、今回のことを次に生かせ。今のまま満足はするな‥‥俺を倒せるくらい強くなれよ?」
 雰囲気を和らげるつもりか、芹佳の吹くハーモニカの音色が響き、くつろぎの空間を演出する。
 コーヒー一杯では物足りないらしく、諷はこんな言葉を口にした。
「さーて、飯でも食べに行こう」