●リプレイ本文
●森に潜む敵
「聞いた情報の限りだと、昔の日本の映画に出ていた植物怪獣を思い出すな」
「でっかい獲物と戦うのって久しぶりだなぁ。なんかあたしワクワクして来たぜ」
漸 王零(
ga2930)の言葉を耳にして、期待に胸をふくらませるエミル・アティット(
gb3948)。
「大木のキメラ、ですよね? 植物キメラは時々見かけますけれど、ここまで大きいのは珍しいです。実は蔦が束ねられていた、とかなら良いのですが‥‥」
石動 小夜子(
ga0121)がわざとらしく言い募るのは、嫌な予感を振り切るためである。
「ま、間違っても、蟷螂や蜘蛛等の巨大虫の擬態だったという落ちではありませんように!」
「資料を見る限りに於いて、樹木の枝や花に偽装するキメラのようですね」
残念ながら、榊 刑部(
ga7524)を含め異なる意見の持ち主が大勢だ。
「ナナフシとコノハチョウとカマキリとか? 周囲に溶け込めていない時点で擬態とは言えない気もするけど」
しかし、写真を手に時枝・悠(
ga8810)は別な推測を口にする。それならば、エリザベス・ゴードン(gz0295)がやる気を見せるのも当然だと。
「キメラの正体は、はっきりしませんが‥‥。放置は出来ません。きっちりと全滅して貰いましょう」
「姿が巨大昆虫であれ、巨大植物であれ‥‥正体はキメラだ。巨体を維持するために周辺を食い尽くされるのも、繁殖などされて被害が拡大されてはたまらないからな」
リゼット・ランドルフ(
ga5171)やホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)の意見に、悠も同意して頷いた。敵の正体がなんであれ、為すべきことに変わりはない。
「また、ご一緒しますね、エリザベスさん」
「ああ。よろしく頼むよ」
想いを寄せていることもあり、刑部が積極的に声をかける。
とは言え、戦場において気を緩めている余裕はない。
「任務遂行の為にお互いに尽力することとしましょう。‥‥製造プラントか設計者とかが何処かで、例のスズメバチキメラと繋がっていると考えて良いのかもしれませんね。エリザベスさんはどう考えます?」
「全ての虫キメラが、同じところで造られているということはないだろうね。まあ、どちらにせよ、リゼットが言うとおり倒すしかないさ」
「皆さん〜、張り切って行くっすよ。えいえいお〜っす♪」
腕を突き上げながら気勢を上げる夜狩・夕姫(
gb4380)。
「はっ、今日ボク初めての依頼だったっす。皆さん依頼中どうかヘルプミ〜っす」
一転して皆の力を頼ろうとする。
「敵三つを同時に攻撃するのですね。タイミングを合わせる様、気をつけなければ」
小夜子が皆の意見を総括する。
彼等は空戦担当1班と陸戦担当3班に別れてキメラへ挑むこととなった。
「死神っぽいのに、ごっつい騎士っぽいの、それにあたしの黄騎がチーム組んだ上に、相手が植物っぽい化け物キメラってくると、なんかRPGゲームのパーティみたいだぜ」
エミルはα班を組むことになった、夕姫のペインブラッドとホアキンの雷電を目にして、西洋風の機体が集まったという印象を受けた。
「二人とも今回はよろしく」
「お二人とも、よろしくお願いします」
息が合っているというべきか、β班の王零と小夜子が同じタイミングで挨拶を口にして、お互いに笑みをこぼす。
「あたしもよろしく」
もうひとりのメンバーであるエリザベスもそこへ加わった。
挨拶もそこそこに、彼等は各機体に乗り込んでおのおのの作業を開始した。
出撃に先立ち、佐賀 剛鉄(
gb6897)は愛機の、火器管制システム、データリンクチェック、モニターの明暗度確認、味方機との無線チェックを進めていた。
ホアキンからは事件の発生地点を登録した地図が転送され、各機体は同一の情報を共有できた。キメラが獲物を感知できる範囲も、ある程度までは絞り込むことができる。
「さぁ‥‥狩りの時間だ‥‥」
覚醒によって性格が反転した夕姫は、窮屈だったのかコートの前を開いた。
「各々油断無く行こう。彼らの死は、すでに宣告されているけどね‥‥」
●木々に囲まれて
「当該戦闘地域に到達したで、これからキメラ位置把握の為の索敵行動に入る」
剛鉄達の空戦班だけでなく、垂直離着陸が可能な機体で構成されたγ班が同行する。
森上空を旋回する5機は、レーダー波の乱れから敵の所在を確認する。
「対空手段があるのか、どの程度まで接近したら敵対行動に移るのか確かめておきましょう」
実行に移そうとした刑部に、アズメリア・カンス(
ga8233)がまったをかける。
「いいえ‥‥。陸戦班が包囲するまで刺激しない方がいいわ」
現在位置を特定した剛鉄の情報を受けて、α班とβ班は間隔を空けて南側からキメラへの接近を開始する。
「敵は獲物の接近を、何らかの手段で感知して襲う様子だ。隠密行動を心掛け、盾を構えて慎重に接近を図ろう」
ホアキン達α班は南東へ、小夜子達β班は南西に回る。
「もしも『アレ』ならば、注意すれば木々の痕跡から射程の見当が付くと思います」
ある程度覚悟しつつも、小夜子は具体的に明言することを避けた。
「北側に降りて、敵の後背を突きましょう」
リゼットがシュテルン・Gを降下させると、アズメリアのロジーナも追随し、木々の隙間を縫うようにして地上へ降り立った。
データを元にして、陸班の3組が慎重に包囲を狭めていく。狙いは敵同士の連携を阻み、各個体へ同時に攻撃を仕掛けることだ。
警戒していた着陸直後の攻撃が無かったことに安堵し、アズメリアとリゼットは最寄りの敵に向けて歩き出す。
「見た目は植物のキメラみたいだけど‥‥。どういう動きをしてくるかしら?」
アズメリアの視線の先には、オブジェのように硬質な薄桃色の花があった。
「さて、危険な植物を駆除するとしましょうか」
縮こまって花を模していた身体が、戦闘に備えて縦に伸びる。その姿形はハナカマキリのものだった。
敵の力が未知数であるため、リゼットは重機関砲による遠距離からの牽制から始めた。
ガサガサと枝葉を揺らして、ハナカマキリは両鎌を振り上げてKVへ襲いかかる。
攻撃に抗おうとせず、リゼットは回避に専念する。アズメリアは自身の行動範囲を広げるためにも、回避行動の合間に枝を斬り払い始めた。
地面を揺らさぬよう足下を注意しながら、雷電(改)は歩を進める。
KVの倍はあろうかというサイズの枝が跳ね起きて、その先端をα班へと向ける。
「‥‥飼うには少し大きすぎるな」
冗談めかしてつぶやきつつ、ホアキンは木々を盾代わりにして、突き出される前肢をかわしていた。
「さぁ、生を刈り、死を呼ぶ、死の鎌が行きますよ」
敵の長い間合いに飛び込んだ夕姫のペインブラッドが、KVビームサイズで斬りつける。華奢に見える細長い身体が意外な抵抗を見せた。
ナナフシが胴体そのものを武器としてペインブラッドを払い飛ばす。
地へ這うほどに姿勢を低くし、ワイバーンがキメラの攻撃をかわした。
「伊達に四歩足の機体じゃないんだぜ。ケモノKVを舐めるな、だぜ!」
エミルはワイバーンの機動力を活かし、機槍「ドミネイター」による一撃離脱を中心に、敵の撹乱を試みる。
β班の行く手に見えるは、巨大な枯れ葉。
「二人とも支援を‥‥我が道を作る」
王零の雷電が、グレートザンバーで直前の木を斬り倒し、標的へ向けてブースト突撃を敢行する。
サイファーのガトリング砲「嵐」とバイパーの90mm連装機関砲が、砲弾を集中させて敵の機先を制した。
「漸王零、推して参る!」
雷電の超伝導アクチュエータを稼働させ、枯れ葉を切り裂こうと太刀を振るう。
枯れ葉の内側から黒と橙の鮮やかな色が出現した。コノハチョウのフォルムは、どう考えても陸戦向きとは言えない。
「飛ばれては悪夢ですから‥‥、絶対に破壊しなければ。この様な物、存在させてはいけないと思います」
小夜子は戦意を奮い起こし、3.2cm高分子レーザー砲を羽根の付け根に狙いをつける。戦術的に有効だという理由の他に、巨大な虫が飛ぶ光景を見たくないという個人的な事情もあった。
銃撃の中で羽ばたき始めたコノハチョウの身体が宙へと浮かび、王零のグレートザンバーも空振りに終わる。
ノーヴィ・ロジーナ内のモニタは、剛鉄の設定により表示がカスタマイズされていた。上の左隅には現在位置が記載されており、各班を示す青丸がキメラを表す『キ』を囲んでる。敵の1体に動きがあった。
「上空から見張るだけの簡単なお仕事です‥‥。な訳は無いか」
気を緩めていた悠も、離陸したコノハチョウを目にして意識を切り替える。
「久々の出番だ。良い所を見せるぞ、『ディアブロ』」
彼女の乗機はあくまでもサイファーである。誤解を招くかもしれないが『ディアブロ』とは機体の愛称なのだ。
「味方がいるのは南側や」
誤爆を恐れた剛鉄の念押しに、頷いた悠が無言で引き金を引く。
奉天製ロケット弾ランチャーが吐き出したミサイルが着弾し、そこへ、刑部の撃ち出した127mm2連装ロケット弾ランチャーまで炸裂し、爆風がキメラを翻弄した。
●緑と青の戦場
飛び上がったたハナカマキリが、羽音と共にリゼット達へ上方から襲いかかる。
キメラの後背に小夜子のサイファーが出現し、3.2cm高分子レーザーを照射してハナカマキリの体表を焼いた。コノハチョウを空戦班に任せ、β班は戦力の少ないこちらへ助勢に回ったのだ。
グレートザンバーを地に突き立てると、王零は新たにジャイレイトフィアーを装備する。その切っ先が唸りを上げてハナカマキリの身体を削った。
追撃を狙ったエリザベスのレッグドリルは寸前でかわされ、鎌による反撃を受けた。ストライクシールドで受け止めつつも、バイパーが後方へ弾き飛ばされる。
ある程度動きが読めてきたリゼットは、鎌をかいくぐってヒートディフェンダーを一閃させた。ピンクの体表に赤い血が飛び散る。彼女と呼吸を合わせ、アズメリアは波状攻撃を試みた。
虫キメラに対して及び腰だった小夜子は、それが災いして別方向からの攻撃を浴びた。α班が担当していたナナフシがこちらに乱入し、一機だけ離れていた彼女を襲ったのだ。
繰り出された前肢を、サイファーは斥力制御スラスターを使用して大きく距離を取った。触れたくないという小夜子の本音が、ありありと見受けられる。
「敵の相互援護は厄介です、引き離して一気に攻めましょう」
リゼットは30mm重機関砲をナナフシに向けて足止めを行う。
「手の付け根や感覚器官のある場所を狙えば、かく乱になるはず‥‥」
間合いを保つ小夜子も、ガトリング砲の弾幕を集中させてナナフシの接近を拒む。
ナナフシの背後にある木が斬り倒され、KVビームサイズを構えたペインブラッドが現れた。
「無駄ですよ。死から逃げる事は誰も出来ないのですから‥‥」
キメラに接近戦を挑むKVが存在しないことを奇貨とし、夕姫はフォトニック・クラスターで広範囲に高熱を浴びせていた。
追いかけてきたα班が再びナナフシに襲いかかる。
「一気に畳み掛けよう」
ホアキンによる機槍「グングニル」の連撃と、エミルの突き出す機槍「ドミネイター」が槍衾となって敵を襲った。
「貴様は駆除する」
防戦に回ったキメラに対し、ホアキンの突き出した練剣「雪村」が細い胴体の中心部を貫いていた。
「死とはどの様な生も回避不可能な運命。貴方達の足掻きはこの程度ですか‥‥」
SES増幅装置『ブラックハーツ』を稼働させた上で、夕姫がKVビームサイズを振りかぶった。
「さぁ、貴方の命を刈り取らせて貰いますよ」
首と思われる箇所を両断すると、斬り押された大木のように胴体が転倒した。
一方のハナカマキリへもγ班が押し込んでいる最中だった。
敵のダメージを読みとったリゼットは、シュテルンのPRMシステムを稼働させて、ヒートディフェンダーの威力を底上げする。遠心力を利用した一撃が、ハナカマキリの右鎌を斬り飛ばした。
「終わりよ。斬り倒してあげるわ」
続くアズメリアのハイ・ディフェンダーが、左鎌を切断する。
攻撃力を確実に削ぎ落としたはずが、ハナカマキリは腹部の羽根を展開させて逃亡に移った。
「空に上がれば逃げられる、とは思わないことね」
アズメリアが自信を持ってつぶやく。その理由は、彼女のロジーナとリゼット機のシュテルンが持つ垂直離着陸能力にある。
即座に離陸して追撃に移るγ班。
その頭上、高空でコノハチョウを相手に空戦中であった剛鉄は、モニターの左隅を確認してその動きを把握していた。
「キメラはん、熱いの喰らいなはれや」
低空に上がってきたハナカマキリに、高空から8連装ロケット弾ランチャーを叩きつけて頭を抑える。
速度の低下したところへ、アズメリアのスラスターライフルとリゼットの30mm重機関砲が撃ち抜き、ボロ雑巾の用にして撃墜した。
コノハチョウから最初に受けた攻撃こそ斥力制御スラスターで回避したが、悠はその後、フィールド・コーティングによる防御を優先しつつ食らいついていた。ブーストを噴かして機体を旋回させた悠が、30mm重機関砲を叩き込む。
空戦班3機に囲まれたコノハチョウは、逃げ場を求めて低空へ降りるが、地上からの攻撃も加わりさらに火線が増す。
「逃れられるなどと思わないで下さい。ここで墜とせていただきます」
刑部はロジーナのスピードを上げ、コノハチョウの寸前でわずかに機体を傾ける。陽光によってきらめいたソードウィングが、コノハチョウの片翅を切り裂いた。
飛行能力を奪われたコノハチョウが、散った花びらのように舞い落ちる。
地上で待ち受ける王零が、地に突き立てておいた太刀を引き抜く。王零はブーストと超伝導アクチュエータを併用すると、落ちてきたキメラめがけて飛び上がった。
「Pledge Sublimation‥‥これで終わりだ。我が一刀に、断てぬモノなし」
スタビライザー「テラーウイング」で機体の安定を保ちつつ、振り被ったグレートザンバーでコノハチョウキメラの胴体を両断する。
「終りですか‥‥」
夕姫の瞳に愁いが浮かんだ。
「は〜、腹減ったぜぇ〜‥‥」
張りつめていた意識を緩め、エミルは脱力した身体をシートに預ける。
「地上に友軍がいたら対地戦闘支援は肩がこっていかんわ、ほんまに」
こう漏らしたのは剛鉄だ。
形は違っても達成感を滲ませた感想が漏れる中、小夜子だけが表情を曇らせていた。
「もう二度と、こんな騙し討ちの様なキメラが出ない事を祈るのみ、です。このサイファーも、きちんと丸洗いしなければ‥‥」
倒した虫型キメラに視線を向けようともせず、非常に嫌そうな表情でつぶやくのだった。