タイトル:新人傭兵の通過儀礼マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/05 20:49

●オープニング本文


 バグアとの戦いにおいて、能力者が存在することは非常に優位に働く。
 しかし、エミタを人体に埋め込んで適合する確率は1000分の1。兵士が10万人存在したとしても、エミタ移植への適正があるのはそのうちの100名程度という計算になる。
 戦場に立つ兵士達は自身の命がかかっているため、すでにほとんどの人間が適合検査を受けていた。
 それを考えると、新しい適合者は戦場とは縁の遠い一般人の中から見つかる可能性が高いだろう。
 傭兵として生きることを決めた新しい能力者が、実力を発揮できるよう便宜を図るのも、ULTにとって重要な仕事の一つである。その一環として、戦いに不慣れな新人傭兵を対象とした模擬戦をULTの主催で行うこととなった。
 集まった傭兵達は、戦場となる森へ踏み込む前に、配布されている水や携帯食料を受け取ったり、同行者との打ち合わせを行っている。
「ちょっといいか? 傭兵になろうと思った動機を聞かせてくれ」
「‥‥え?」
 緊張に顔を引きつらせていた少年は、声をかけてきた相手に戸惑いの表情で応じた。
「俺はマルコ・ヴィスコンティ(gz0279)。ULTの広報担当で、こうして参加者にインタビューをしてるんだ」
 口にしたとおり、マルコは模擬戦の参加者としては非常に軽装だった。
「その‥‥、たまたま検査したら、適合してるってわかったんだ。バグアを倒すためにも、早く戦えるようになろうと思って‥‥」
「気持ちはわかるけどあまり気負わない方がいいぞ。自分一人でできることなんて、たかが知れてるからな」
 逸っているように見えた少年を気づかって、手帳に書き込みながらマルコがなだめてみる。
「周りにいるのは君と同じ傭兵達で、同じような新人ばかりだ。この模擬戦は新人同士の顔つなぎも兼ねてるからな」
 少年が改めて回りに視線を向ける。
 参加者は50名近くもおり、能力者となった時期が同じという以外は、年齢も経験もバラバラで共通点を探す方が難しい。
「ものは考えようだ。いろんな人間と知り合いになれるってことだしな。中にはベテランも混じっているから、失敗しても誰かがフォローしてくれる。開き直って、できることからやっていけばいいさ」
 マルコがインタビューした面々も、いい腕試しと考えている人間がほとんどで、緊張を見せるのは若手に多かった。
 しばらくすると、台の上に今回の責任者が登って、拡声器を手に指示を出した。
『これから模擬戦を始める。東軍と西軍はそれぞれ陣地へ向かって移動を開始してくれ』

「能力者とは言え、新人だからな」
 酷薄そうにほくそ笑む男が森の中に身を潜めていた。名をピョートル・ペドロスキ(gz0307)といい、バグア側に属する強化人間である。
 彼がこの場にやってきたのは、今回の模擬戦の情報を聞きつけたからだ。戦闘経験の少ないうちならば、簡単に始末できるだろうと彼は考えていた。
「新人だが、能力者だしな」
 始末する対象が能力者であるため、戦果として彼の評価を高めてくれるだろう。
 強い相手と競い合うとか、危険な戦いに喜びを見いだすとか、彼はそんなものに興味がない。ただ、勝てばいい。戦士の誇りなどというものに、彼は興味がなかった。
 獲物を狩るときに、難しい個体を狙う必要などない。群れの弱いところから襲って、確実に仕留めるのが賢いやり方だ。
「狙うのは女子供からだ」
「わかりました」
 上官の言葉に、意義を挟むことなくマヤが頷く。彼女もまた『女子供』にあてはまるはずだが、その表情には嫌悪も侮蔑も含まれていない。上官の命じるまま、仕事を全うすることだろう。
 ピョートルが手駒として引き連れてきたのは、ゴリラやオランウータンやマントヒヒなど、様々な種類のサルキメラであった。
 キメラの軍勢は、最初の獲物を求めて東側へ向かい移動を開始した。

●参加者一覧

/ 御崎 緋音(ga8646) / 堺・清四郎(gb3564) / ホキュウ・カーン(gc1547) / 過月 夕菜(gc1671) / オルカ・スパイホップ(gc1882) / 和泉譜琶(gc1967) / トールギス(gc2131) / 白河 輝(gc2140) / リリナ(gc2236) / kooh(gc2310) / 赤槻 空也(gc2336) / クゥエル(gc2353) / レッドアイズ(gc2440) / 明菜 紗江子(gc2472) / レインウォーカー(gc2524) / ネオ・グランデ(gc2626) / エクリプス・アルフ(gc2636) / 会長(gc2663) / セラ(gc2672) / セバス(gc2710) / ユウ・ターナー(gc2715) / 瓜生 寛仁(gc2717) / アンダーテイカー(gc2721) / 雪那(gc2744) / Aigis(gc2748

●リプレイ本文

●準備中

「こ、こんなに人いっぱい‥‥。はっ、何見てるんだよ〜!」
 我に返ったオルカ・スパイホップ(gc1882)が嫌味っぽい反応だが、多人数での訓練に慣れていないための虚勢であった。
「‥‥活躍はできそうか?」
「活躍とかは考えてねぇ。一人ひとりができることをするだけさ! もちろん、俺もな」
 マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)のインタビューを受けて、明菜 紗江子(gc2472)は自身の心構えを口にした。
 広報雑誌に載せるため、マルコは新人達に声をかけては、能力者となった動機や模擬戦に関する豊富を尋ねていった。
「傭兵になった理由ねぇ‥‥。力があるのに戦わないのは不義ってやつだろ」
 準備を終えて読書中だったネオ・グランデ(gc2626)は、そうマルコに答えると再び本に目を落とした。
「動機‥‥? えと‥‥平和の‥‥ため?」
 おどおどしているリリナ(gc2236)が口にできたのはそれだけだ。
「もちろんみんなを守ることだよ♪ そのためには、わたし自身をしっかり守らないと‥‥だよね♪」
 楽しげに告げたセラ(gc2672)は、模擬戦でも大勝利を目指すと元気いっぱいで主張していた。
「そうですね‥‥父さんみたいになりたいからです」
 輝の父は戦場で命を落としたのだという。
「父と同じ立派な能力者になりたい。と思って志願したんです」
 インタビューが終えた白河 輝(gc2140)は、笑顔で準備に戻った。
「にゃーん! いいネタ集まってる?」
 マルコを見かけた過月 夕菜(gc1671)が声をかけた。彼女もマルコと同じように、傭兵達の間を回って話しかけていた。
「ぼちぼちだな。さて、質問。夕菜の参加目的は?」
「戦いに慣れるためと、情報集めをするためだよ〜。いいネタがあるかなぁ〜♪ って」
 噂話が好きな彼女もまた、マルコと同じように加者の間を飛び回っていたのだ。
 彼女のチームメイト達は、次のようにマルコへ答えている。
「模擬戦とはいえ初陣なので気を引き締めて行きたいです。これからの戦いに慣れるためにも、がんばります!」
 とレッドアイズ(gc2440)。
「動機ですか? そうですね‥‥。もう神様に祈ってる場合じゃないから。‥‥ですかね」
 こちらは会長(gc2663)だ。
『これから模擬戦を始める。東軍と西軍はそれぞれ陣地へ向かって移動を開始してくれ』
 拡声器を使った係員の声を耳にして、本を閉じたネオが腰を上げる。
「‥‥さて、行くか」

●両陣営

「戦う時のコツは敵から目を逸らさないこと。そして恐怖に負けるな。この二つだ」
 東軍の面々を前にして、堺・清四郎(gb3564)が気構えを叩き込んでいる。
「大切なのは間合い、そして退かない心。‥‥相手に飲まれて自分の間合いを見失うなよ」
『はいっ!』
 元気よく頷いた多数の能力者達が持ち場に散っていく。
「さて、新人達はどのくらいやるかな?」
 新人向けの訓練ということから、彼はある少年を思い浮かべていた。この演習に加えたいところだが、半人前扱いされると腹を立てるのでおそらく誘っても拒んでいた違いない。
 東軍は攻撃担当のAグループと防衛担当のDグループに二分される。
 清四郎と共に、D−2班を組むホキュウ・カーン(gc1547)とユウ・ターナー(gc2715)は彼の傍らに立っていた。
「演習ですか。拠点防衛と拠点侵攻戦は今度のアフリカ奪還作戦での経験になりそうですし。悪くないですね」
 ホキュウよりもさらにやる気を見せるのはユウだ。
「旗取り合戦か〜。ふふっ、わくわくするねっ! やるからには本気出して、絶対勝つんだ☆ 皆、頑張ろうねッ!」
 楽しみに笑みをこぼすユウが、仲間達に向かって檄を飛ばす。
 トモダチを作ろうと望んで参加している和泉譜琶(gc1967)にとって、現状のトモダチ候補はチームメイトであるネオとAigis(gc2748)だ。
 譜琶は銃器類を所持していないため、Aigisから預けられた貫通弾はお守りとしてポケットにしまっている。
「さて、模擬戦とはいえ初めての戦闘だからな。念のために確認しておこう」
 ネオが改めて言及する。
「各班とは別れて前進と索敵を行い、情報は無線で知らせる。敵との交戦は極力避け、旗を奪取するのが目的だ。万一交戦状態となったら、戦況にあわせて他班に援護を要請する」
「ええ、それでかまいません。最速で目標フラッグを落としにいきましょう」
 Aigisや譜琶が頷いて、A−2班も西へ向かって出発した。

 年少であり控えめ性格ながら、リリナは頑張って皆との打ち合わせに臨んでいる。
「えと‥‥。西軍は4班編成となってます‥‥」
 攻撃強襲組のA班、攻撃援護組のS班、防御巡回組のP班、防御防衛組のD班という構成だ。
「S班は敵の数を減らし、A班が旗を狙うんだろ?」
 皆を代表するようにレインウォーカー(gc2524)が念押しする。
「新人さんたちかぁ。初々しいなぁ♪」
 打ち合わせの様子を眺めながら、御崎 緋音(ga8646)は能力者に成り立ての頃を思い返していた。
「どれだけ出来るかはわからないけど、精一杯フォローしなくっちゃね」
 いまや、彼女も指導する側の人間である。
「みんな10代とか若いよ‥‥。一応年長だからみんなを引っ張らないと‥‥」
 傍らに立つトールギス(gc2131)も自分より若い面子に対して責任を感じていた。
「誰か話しかけやすそうな人はいないかなぁ‥‥」
 能力者としての経験は乏しいため、新人の一人としてはいささか緊張気味のようだ。
 どちらの陣営にも、ULTの人間が同行しており、マルコはこちらに参加していた。

●浸透戦術

「丸太をつり上げて、鐘突きみたいに横からドーンと!」
 構想を明かすオルカに、クゥエル(gc2353)が首を捻る。
「‥‥どうやって?」
 丸太やツタがそこらに転がっているはずもなく、ノープランで出向いたのはさすがに無理があった。
 セラが見張る間に二人が作成したのは、草を輪の形に縛る仕掛けだ。簡単な罠なので、彼等は巡視も兼ねてあちこちに作成していった。
 D−1班が罠作りにいそしんでいた頃、A−1班はすでに西側の勢力内に足を踏み入れていた。
「俺はまだまともに戦った事がねぇからな。どれだけ戦えるか確かめておきてぇ」
「うぅ‥‥。始めての依頼が模擬戦かぁ。‥‥回りの足引っ張らないようにしないと」
 気がはやっている様子の赤槻 空也(gc2336)とkooh(gc2310)を、エクリプス・アルフ(gc2636)はたしなめようとする。
「今は敵との戦闘よりも、先へ進むことを考えましょう」
「優先目標は西側フラッグ奪取だろ?」
 言われるまでもないと応じる空也。
 彼等とは違い、A−2班の方では敵を目撃することとなる。

「模擬戦か、気は抜けられない。‥‥けど何だろう、この違和感?」
 かすかな不安を抱えながら、輝は哨戒にあたっていた。彼等P班の6名は西軍拠点周辺で巡回中だ。
 辺りの様子を見ようと樹上へ登った輝が報告する。
「敵が陣中を突破。拠点に近づいています」
 後方に位置するD班へ連絡し、P班は迎撃に踏み切った。
「負けるにしても間抜けなやられ方はしたくないなぁ。‥‥ま、勝てばいいだけの話かぁ」
 そう結ぶとレインウォーカーはすぐに笑みを浮かべた。
「さて、頑張ろうかぁ」
 彼等が捕捉したのは東軍A−2班だ。
 向こうでも感づいたようで、ネオが通信機で連絡を行い、譜琶は弓を手に木陰へ身を隠した。
 敵前衛であるネオとAigisに対し、輝とレインウォーカーが斬りかかる。
 ネオの繰り出したマーシナリーナックルを、疾風でかわしたレインウォーカーは、遠心力で威力を増大させた斬撃を叩き込む。
 残りのP班メンバー3名は、譜琶の援護射撃を受けて参戦が遅れている。彼女は敵を撃ち倒そうとしておらず、『トモダチ』のために優位な戦況を作り出すのを目的としていた。
 ネオの連絡を受けたA−4班が駆けつけ、ようやく戦力が拮抗する。
 この場からさらに西側でも、同様に戦いが始まろうとしていた。

 双眼鏡を手にしたトールギスが、南東側に敵を発見して仲間に警告を発した。
 自陣へ浸透してきたのは東軍A−1班だ。エクリプスの探査の目を頼りにここまで来たが、彼等も旗を目前に戦闘へ踏み切った。
「ここが西軍の最終防衛ライン、退くな! 退けば僕らに旗を預けて前線で戦ってる味方に情けないぞ!」
 動揺を見せる仲間を叱咤するトールギス。
「専守防衛を心がけてください!」
 自陣が薄くなるのを嫌って、緋音が念を押しする。
 旗めがけて疾走する空也とエクリプスへは、トールギスが射撃戦を開始した。
 矢を撃ち込んでいる緋音に対して、koohも弓を手にして応戦する。
 緋音とkoohが手にするのはともに洋弓「アルファル」だが、むしろkoohの方が性能がいい。それを考えると、命中率と攻撃力の違いは単純に腕の差が原因のようだ。
「これがベテランかぁ」
 相手の技量にkoohは素直に感嘆を漏らしていた。

「見つけた」
 双眼鏡で敵を確認した夕菜が告げる。
「やるからには‥‥勝ちに行くよ!」
 なんと言っても西軍の露払い役であるため、やる気も出ようというものだ。
「がんばって下さいね!」
 チームメンバーに錬成強化を施したレッドアイズが一言励ました。
 彼等S班は、東軍のA−3班を相手に戦端を開く。
 夕菜は狙撃眼で射程を伸ばし、長弓「天華」を手に射撃を始めた。
 敵の注意が夕菜に向いているのを確認し、レッドアイズは接近して超機械「マーシナリー」で電磁波を照射する。
 会長はエンジェルシールドを掲げて、敵の銃弾を受け止めつつ、錬成強化で発光する蛍火を手に斬りかかった。
 班を構成する人数に違いがあるため、A−3班は押される一方であり、ついには交戦を諦めて撤退していく。
「どうします?」
 レッドアイズに問われた会長はこのまま進もうと提案した。
「私たちは敵を引きつけるのが目的ですし、多少無茶でもこのまま進みましょう」
 前進したS班を物理的に足止めしたのは、子供のイタズラを思わせる草を縛った罠だ。ダメージこそなかったが、罠を意識して足を鈍らせてしまう。

 わずかな時間を活かして、連絡を受けたD−1班とD−3班が先回りし、彼等を出迎える。
 探査の眼で察知したセラが発見を告げると、クゥエルがマーシナリーボウで、オルカが長弓「桜姫」で矢を射かける。
「セラは力の強そうな人を足止めするね♪」
 遊んでいるかのようにセラが告げるのは、挑発の意図を含めての行為だ。
 会長の前に進み出たセラは、アミッシオで身を守り防御のみに専念している。
 夕菜やレッドアイズも足を止めての射撃戦を繰り返す。
 これはどちらも同様の目的意識で戦闘を継続している状況だ。お互いに相手の足止めを狙っていたのだ。
 S班が敵を引きつけている間に、A班は東軍拠点を視界に納めることに成功していた。

●敵強襲

 東軍で拠点を守るD−2班にも、各地で戦闘に突入したという連絡が届いていた。特に同じく防衛を担当するD−1班からの連絡は重要だった。
「やってるねえ。最前線組のドンパチ。奇襲喰らわないように、こっちも警戒しないとねえ。別動隊での側面攻撃は基本だし」
 覚醒して好戦的になったホキュウは、銃声が聞こえてくることもあって気を高ぶらせているようだ。
 清四郎やユウが旗の近くで警戒に当たっており、D−4班の姿もある。
 西軍のA班は茂みに身を潜めてその様子を眺めていた。
「仕掛けていいだろ?」
「模擬戦とはいえ油断は禁物ですよ。気をつけてくださいね」
 戦意の高い紗江子に、セバス(gc2710)は今一度念を押しておく。
「さァ、勝ち残ったらみんなで勝利の美酒を浴びようぜ」
 茂みを飛び出して旗を目指すA班。中でも、紗江子とセバスは共に瞬天速を使用して急速に距離を縮めた。
「模擬だからって、手を抜くようなまねはしないぜ? いつだって全力疾走だ!」
 手近な東軍兵相手に、紗江子はマーシナリーナックルを叩きつける。緊張している自覚はあるものの、動きそのもに影響がないことを実感し、彼女は内心で安堵していた。
「模擬戦とはいえ、女性に怪我をさせたくはないですね‥‥」
 立ちはだかるホキュウを見て、ためらいを見せるセバス。しかし、彼女にしてみれば、そのような遠慮は無用と言いたいところだろう。
「さあって、楽しいドンパチだ! 死なないようにしないとな! ギャンブルはスリルが最高なんだから!」
 ホキュウの抱えたマーシナリーアックスが、セバスの突き出した爪を受け止めていた。
 旗へ向かおうとするA班には、銃弾の雨が降り注いでいた。
「や〜ン! 近付いちゃ駄目っ☆」
 どこか楽しそうなユウは、特殊銃【ヴァルハラ】を手に彼等を歓迎している。
「最後の砦の役目‥‥、きっちりこなして旗を守るんだからッ!」
 自身の手で倒せずとも、弾幕を張って接近を拒んでいた。
 清四郎の方は、たまに発砲する程度で積極的な行動を起こしていない。新人へ経験を積ませるのを目的とした模擬戦のため、自粛しているのだ。
「なっ、なんだっ!? うわあぁぁぁっ!?」
 敵との交戦で忙しい傭兵達をのうち数名が、声の方向へ視線を向けた。声の主は数匹の小さな猿にしがみつかれ、振り払おうともがいているところだった。
 さらに、ゴリラやマントヒヒが木々の合間から姿を見せた。
 あきらかな異変に戸惑いを見せる傭兵達めがけて、樹上からオランウータンが襲いかかった。
 動物相手に斬りつけるわけにいかず、素手で応戦した傭兵の拳は赤い光によって阻まれていた。
「そいつ、キメラだ!」
 紗江子の指摘が衝撃を伴って傭兵達の耳に飛び込んでいた。
 特殊銃【ヴァルハラ】を向けたユウが引き金を引き、オランウータンがキメラであることを改めて証明してみせる。
「セバス、照明銃を!」
 紗江子自身とセバスが照明銃を撃ち上げた。

●混戦模様

「照明弾発効二つ確認、バグアが強襲してきたらしい、どうする? オルカ?」
「指示待ちだろ」
 クゥエルに問われて、オルカが肩をすくめた。
「東ということは、東軍旗の近くでしょうか?」
 場所を推測してレッドアイズが言葉にしてみた。
「話としては面白いけど‥‥笑えないなぁ」
 これまで敵対していた相手の傍らで、夕菜が嫌そうに顔をしかめている。
「一事休戦だよね? 行動を起こす前に、怪我の治療をしておこう♪」
 セラの提案したとおり、彼等は救急セットを手に東軍も西軍もなく治療を開始した。

 じりじりと近寄ってくるキメラを前に、傭兵達は行動を迫られていた。
「S班と合流した方がいいんじゃないか?」
「緋音様から指示があるはずです。確認してからの方がいいでしょう」
 紗江子の提案にセバスは待機を主張した。
「まあ、新兵が集まってりゃあ、狙いたくなるわな。ここからはゲーム用のチップじゃない、命ってチップをかけた本物のギャンブルだ」
 この状況でなぜか楽しそうなホキュウは、清四郎に問いかけていた。
「こいつらどうするんだ?」
「ここを拠点にしよう。撃退する」
 清四郎はホキュウが望んでいた指示を下した。
 それまで戦っていたD−2班とD−4班とA班は、一致団結してキメラへの抵抗を開始する。
「臨まぬ客のお出ましか‥‥」
 清四郎はこれまで抱いていた不吉な予感の正体を知る。心配していた新人への事故が原因では無かったようだ。
 自身も応戦したかったが、他の場所でも襲われている可能性があるため無線での指示を優先する。
「東軍拠点にキメラの襲撃があった! 状況を中止してそれぞれの軍の旗の位置に戻れ! ここからはリセットボタンはないぞ!」
『‥‥待ってください』
 東軍のトランシーバーを借り受けた緋音が介入した。
『それぞれの陣営が縦に伸びすぎてますから、自軍ではなく最寄りの拠点に集合しましょう』
「了解した。集合場所は最寄りの旗に訂正だ! 東側の指揮は俺が取る! いいか!? 慌てず合流を優先しろ!」
「敵を倒す事より生き残る事を第一に考えろ!」
 通信を切った清四郎が眉根を寄せる。状況はこれで終わりではなく、これから始まりだ。
「頼りは俺と緋音か‥‥」

「こんな時に‥‥。空気読んでよね」
 緋音が呆れてつぶやいた。西側勢にそれだけの余裕があったのは、キメラの襲撃が東へ偏っていたためだ。
 彼女と清四郎の指示を受けて、西側に居合わせた両陣営が旗の近くへそろっていた。
「嫌な予感がしてたけど、本当になるとはなっ。‥‥ッザけやがって!」
 決して望まなかった事態に、空也が吐き捨てる。
「なんていうか、中々簡単にはいきませんね‥‥」
 エクリプスが徒労感をにじみ出している。
 こちらにも襲撃される可能性があるため、譜琶などの救急セットを持っている人間が治療のために駆け回っている。半数近くが持参してきたのは非常に都合が良かった。
「模擬戦は中止として、マルコさんはどうすればいいと思います?」
 緋音に質問されて、マルコがこの場の人数を口にした。
「この場にいるのは22名だから、微妙だな‥‥」
 血気盛んな新人はすぐさま応援に向かうべきと主張しているが、緋音は首を縦に振らなかった。
 トールギスも彼女と同じでなだめる側に回っていた。
「死亡判定で脱落した人や、別行動をとった人間が、まだ合流できていないかもしれませんからね」
 彼等の気持ちもわかるが、この場を動いてしまうと、孤立した人間を見捨てる結果にもなり得た。
 だが、感じていた焦燥など意味がなかったとすぐに気づくことになる。

●東部戦線

 S班やD−1班が駆けつけた時、すでに東側拠点はキメラの群れに囲まれた状態だった。
「敵を発見、戦闘開始!」
 宣言したオルカは、長弓「桜姫」に兵破の矢をつがえると、マントヒヒの背中めがけて撃ち込んでいた。
 傍らに並ぶクゥエルは、マーシナリーボウを手に強弾撃を付与して矢を放つ。
 背中に矢をはやしたマントヒヒがこちらに向かって咆哮を叩きつけた。
 新たな敵の到来に、キメラの半数近くがこちらへ向かってきた。これでD−2班達にも余裕が生まれるはずだ。
 仲間の参戦を見て、清四郎は守勢を命じていた仲間に攻勢を命じる。
「ただし、深追いするな! 散った敵を追いかけるのは危険だ!」
「チップをレイズだ! まだまだ負けじゃないんでね!」
 攻めるためにこそ、ホキュウは減っている生命力を活性化で回復させた。
「連携して勝てるギャンブルしないと負けちまうぜ」
「それならユウが頑張っちゃうよ♪」
 名乗りを上げて、ユウは【ヴァルハラ】で援護射撃を行い、彼女をサポートする。
 オランウータン目指して突進したホキュウは、流し斬りでマーシナリーアックスを叩きつけていた。
「ほらほら、こっちがガラ空きになってる! 攻撃しちゃうゾ☆」
 強弾撃を交えた攻撃で、オランウータンの息の根を止めた。
「そのような攻撃‥‥当たりません!」
 回避を優先して戦っているセバスは、比較的負傷が少なかった。
 しかし、彼の泣き所は女性にだった。彼は瞬天速まで使用して、マントヒヒに挟まれた紗江子をかばった。
 血を流したセバスを目にして、紗江子の瞳に雷光が走り抜ける。
 彼女のマーシナリーナックルが弾丸さながらに、眼前のマントヒヒに撃ち込まれ、振り向きざまに後方のマントヒヒの頭部を粉砕してのけた。
「もっと自分を大切にしろよな」
「気を付けます」
 悔しそうに告げる紗江子に、セバスが苦笑を浮かべて応じるのだった。
 乱戦に備え、オルカはエストックを引き抜き、クゥエルも刀に持ち替えていた。
 さらに、会長やセラも敵との接近戦に挑むため、レッドアイズは皆に練成強化を施した。
「無事に‥‥帰って来てくださいよ!」
 もちろん、これで終わらせるつもりはなく、「マーシナリー」での援護も行うつもりだ。
 先ほどと同じように、セラは盾を手にして敵を引きつけようとする。
「このぐらいしかできないから‥‥」
 攻撃を捨てて、盾で受け止めることとさばくことにだけ注意を払っている。
 クゥエルは身を低くして、キメラの足を狙って斬撃を繰り出した。
 動きを鈍らせた敵には、会長が蛍火でとどめを刺す。
 彼女に巨大な影がのっそりと近づいた。
 盾で身を守っていたはずの会長の体が、ゴリラの鉄拳を受けて宙に飛んでいた。
「とりゃー! ひっさーつ! 食らうといったいぞー!」
 エストックを手にしたオルカが接近し、側面に回り込んでの流し斬りから、武器を光らせて両断剣を繰り出した。
 刀身はゴリラの皮膚も肉も切り裂いたが、これでも足りなかったらしい。
 攻撃後の隙を突かれたオルカを、セラはボディーガードを使用して身代わりとなっていた。自身障壁も併用していたが無傷というわけにいかなかった。練力を温存するためにも、めったに使えないとっておきである。
 彼女のためにも、オルカは再びエストックで斬りつけていく。
 クゥエルが再び弓を構えて、厚い胸板めがけて強弾撃を叩き込む。
 それだけでは終わらず、夕菜が影撃ちを使用して弾頭矢を命中させる。
 そこまでして、ようやくゴリラを絶命させることができた。

●西部戦線

 草を踏みならして、猿型のキメラが10体以上も姿を見せたからだ。
 猿達の向こう側に、一人の青年と付き従うような少女が立っていた。
「あれが敵のリーダー?」
 緋音の目からは、痩身で荒事には向かないように思えたが、青白い顔にはどこか凶相が宿っているようにも見える。
「お前等がもたもたしねぇで東へ向かえば、後ろから襲えたんだよ」
 嘲笑を浮かべながらピョートルが身勝手な主張を口にする。
「もしも生き残れたなら、『蜥蜴座』にやられたって宣伝しておけよな」
 ゾディアックを思わせる称号を名乗りながら、その振る舞いには矜持というものが明らかに欠けていた。
「行け」
 小さなつぶやきに応じて、キメラ達が傭兵達に向かって襲いかかる。
 体力のなさを自覚している譜琶は、すかさず木陰に身を隠した。小柄な彼女なのでそれだけでも十分な回避行動だ。
 それでも彼女はやるべき事はわかっている。
 投じられているキツネザルから逃げまどう仲間達を見て、敵の攻撃を緩めるべくマーシナリーボウに矢をつがえた。
 放たれた弾頭矢がオランウータンに命中して敵の命中して爆発する。
 混乱に乗じる形で、ネオが瞬天速で接近してマーシナリーナックルを叩き込んだ。敵が反撃に出る前に離れて、ヒット&アウェイを繰り返す。
 一方で、Aigisは臆することなく、敵の間合いに踏み込んでいた。
「盾役は任せてください」
 彼女には自分限定ながら、活性化という回復スキルがあった。多少の傷で怯むつもりはない。
 低い姿勢で飛び込んだネオの拳が、オランウータンの顎を揺すると、わずかに体が揺らいだ。
 Aigisの振り上げたヴィアが赤く発光する。発動したスキルの名称そのままに、彼女の剣はオランウータンの頭部を両断していた。
「遠くから‥‥敵にばれないように‥‥っと‥‥」
 超機械「グロウ」の射程を活かして、リリナは味方の隙間から覗き込むようにしながら、電磁波を放っていた。
 彼女へ向けて投じられたキツネザルの軌道へ割り込んで、輝が機械剣αで払い落とす。
「攻撃は僕たちに任せて、身の安全に注意を払ってください」
 傍らに立つレインウォーカーもその言に頷いた。
 彼女が自分の身を優先しているのは、傷を負うのを恐れているからではなく、練成治療に振り分ける練力をなるだけ温存するためだ。二人もそのことを知っているから、接近戦を強要するつもりなどなかった。
「治療だけで十分だね」
 そう言い残したレインウォーカーは、オランウータンの爪を疾風でかわし、刹那を用いた円閃で斬りつけていた。
 リリナ自身もわきまえている通り、彼女が忙しくなるのはまさにこの後のことなのだ。
 敵の襲撃を避けるために木陰でロウ・ヒールを使用したトールギスは、「アルファル」での援護に徹していたkoohへ声をかけた。
「今から木に登るから、俺にも援護を頼む」
「はい。任せてください」
 請け負った彼女は、枝を渡っているオランウータンに向けて弾頭矢を放った。攻撃を受けたキメラは枝をつかみ損ねて、地上へ落下する。
 腹を立てたのか、オランウータンはkoohへのしかかっていった。爪を立てられて悲鳴を上げる。
 それを引きはがしたのは空也だった。
 彼はマルコのインタビューに対してこう答えていた。
『‥‥バグアに殺されたダチの仇取る為ッスよ』
 だから、友人のような犠牲をだすのは絶対に受け入れられなかった。
 苛烈ともいえるマーシナリーナックルの一撃はキメラの胴体をぶち抜いていた。
 トールギスは3点バーストを心がけてオランウータンを狙い撃つ。樹上での水平射撃を中心に行えば、フレンドリーファイアの危険性は低い。一撃必殺ではなく、地上への奇襲を阻止するのが彼の目的だった。
 トールギスの耳に風切り音が届き、いきなり裂傷を負わせていた。さらに追撃が来て、彼自身もまた地上へと追い落とされてしまう。
 駆け寄ったリリナが練成治療で彼の傷を回復させた。
「そういえば、旗を奪い合ってたんだよな?」
 嘲笑を含んだ声とともに、『蜥蜴座』は手にしていたグルカナイフを投じる。
 刃側へ湾曲している特徴的なナイフは、ブーメランのような軌道を描いて、旗の支柱を切断し、再び『蜥蜴座』の元まで戻ってきた。
 もともと、空間認識能力に優れている彼に向いている武器かも知れない。
「まあ、ガキ向けだな」
 視線を向けられた譜琶は、途端に機嫌を損ねた。
「ニャハッ! 今馬鹿にしました? したのかなぁ!? これから成長するんですー!」
 マーシナリーボウを構えると、鋭覚狙撃と影撃ちを併用して矢を放つ。
 軽い裂傷を受けたピョートルは、彼女めがけてグルカナイフを投じていた。
 木々の間をすり抜けたナイフだったが、その刃先は譜琶に当たらなかった。
 彼女を突き飛ばしたマルコは、背中を浅く切り裂かれていた。
「あまり無茶な事はするな」
 彼女を背にかばうようにして、マルコがヴァジュラを構える。
 空也もまた譜琶を守ろうと、マルコの傍らに並んでいた。
 舌打ちしたピョートルは、何を思ったのか笑みを浮かべている。
「ついでだ。お前等の遊びに俺も参加してやる。もう一本の旗も俺が奪ったら面白ぇよな」
 数体のキメラを引き連れて、ピョートルは東側へ向かって移動し始めた。

●決戦

 森を進んでいたピョートル達を、突如として閃光と轟音が包み込む。
 レッドアイズが閃光手榴弾を作動させたのだ。
「見〜付けたっ! そんなトコで群れてるとユウが成敗しちゃうから!」
 もちろん、特殊銃【ヴァルハラ】だけが発砲するのではなく、各人が手にしている銃や弓がそれぞれに射撃を行っている。

 緋音から無線連絡を受けて、すでにキメラを葬った彼等は、この場で待ち受けていたのだ。
「ちっ、またガキか。うざいんだよ!」
 腹立たしげに告げた声に清四郎は聞き覚えがある。
「その声‥‥また貴様か! 蜥蜴野郎!」
「正確に覚えろよ、『蜥蜴座』様だろ。誰だか知らねぇけど、邪魔すんじゃ‥‥」
 清四郎は紅蓮衝撃を使用して、抜き撃ちの真デヴァステイターで銃弾を撃ち込んだ。それでも、わずかに身をかわして軽傷ですんだのは見事なものだ。
「卑怯とは言うまいね?」
「言わねぇから、安心しろよ。筋を通した戦いじゃ勝てないから、俺の戦い方を見習ったんだろ? いいんじゃねぇの。俺の同類には、お似合いじゃねぇか」
「戯れ事を‥‥」
 挑発してあざ笑うピョートルに、再び銃口を向ける。
 撃ち出された銃弾を受けたのは、彼に従っていたゴリラだった。ピョートルをかばうように身を盾にして清四郎へ襲いかかる。
 木の上を伝っていたオランウータンが、傭兵達の内部に飛び込んで
 他のキメラも手近な傭兵めがけて散り散りに飛びかかっていく。
 傭兵達の必死な戦いを、ピョートル一人が手を出そうとせずに、傍観者のごとく眺めていた。
「ほらほら、頑張って楽しませてくれよ」
 茶々を入れるピョートルの背中に、一本の矢が突き立った。
「‥‥なんだぁ?」
 矢が飛んできたのは西側。つまり、彼が放置してきた西側拠点でも戦いを終えて、こちらへ駆けつけたのだ。
 緋音が「アルファル」で放った矢には、影撃ちと布斬逆刃がのっていた。
「逃がさないですよー」
「クーにだって‥‥これくらいは出来るもん!」
 さらに、譜琶とkoohまでが矢を射かけた。
「ここまでかよ」
 イラツキを抑えられず、ピョートルの目元がピクピクと蠢いている。
 キメラも東側だけで抑えられているのだから、傭兵の数が倍になったら彼に勝ち目などない。
「止まって!」
 仲間を制止したのは緋音の声だった。彼女は地面に落ちる陽光が急に翳ったことに気づいたのだ。
 その正体は、緑色のヘルメットワームだった。
 傭兵達が前進していたはずの場所を、拡散フェザー砲がなぎ払った。その攻撃は東側にも向けられて、キメラの存在など無視して撃ち込まれていく。
 狙いが不正確であっても、ひとりのピョートルに比べて、人数の多い傭兵側の方が損害度ははるかに高くなるから十分なのだ。
「なんだっけ? そうそう、『卑怯とは言うまいね?』」
 自身に向けられた言葉を、嫌味を込めてそのまま返す。
 部下が操縦するヘルメットワームが牽制する中、ピョートルはハッチに飛び込んでいた。
 すでに用は済ませただろうに、ヘルメットワームは森めがけて幾度も拡散フェザー砲を撃ち込んでいく。戦略目標などあるはずもなく、意趣返しに過ぎないのは明白だった。
 UPC軍などが駆けつける可能性を恐れ、ヘルメットワームは高空へと飛び去っていった。

●作戦終了

 黒々と炭化した木々が元に戻ることはないだろうが、人命が失われなかったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。
 これ以上、傭兵達に負担をかけるわけにもいかず、ULTの医療班が皆の治療を行っている。
「お疲れ様ぁ」
 やれやれと頭をかきながら、レインウォーカーが共に戦い抜いた仲間へ笑いかけた。
「えと‥‥初めての依頼で色々失敗とかしちゃいましたけど‥‥」
 しかし、リリナは自身の戦いに悔いを見せている。
「リリナ氏の治療には十分に助けられましたよ」
「ははっ、案外やれるみたいだねぇ。ボクらはぁ」
 輝とレインウォーカーに評価されて、戸惑うリリナは別な心情から再び頭を下げた。
「あ、ありがとうございました‥‥です‥‥」
 マルコが再び新人相手に感想を尋ねていた。
「模擬戦に対するコメント‥‥というには、ゴタゴタが重なったけど、どう感じた?」
「模擬戦はバグアに邪魔されたワケですし、結果は引き分けってことで。‥‥とりあえず今は風呂はいって寝たいです」
 苦笑しつつトールギスが答えた。
「何とかキメラを追い返せたみたいだけど、もっと効率よく戦えないと。まだまだこれからです」
 覚醒を終えたホキュウは、ガラリとかわった口調でこれからの課題に向き合おうとする。
「いや。みんなは頑張ってたぜ。一人も死ななかっただけで十分だ」
 紗江子が強く主張した。特に模擬戦を主催したULT側のメンバーは胸をなで下ろしているだろう。
「僕達なら当然だよね〜♪」
 オルカは自身だけでなく、皆の力を誇らしげに語っていた。
 猫の手帳を手に、夕菜は熱心にペンを走らせている。今回の依頼は書くべき事が多くあったのだろう。
「もし他の依頼で御一緒することがありましたら、その時は宜しくお願いしますね」
 セバスが発したのと似たような言葉が、別な人間の口を借りてあちこちで発せられていた。
 新しく能力者となった傭兵達が、この依頼を通じて親しくなれるといい‥‥。同じく参加した人間として、マルコは切実にそう願う。
 思わぬ事故があったものの、彼等はいずれ実戦に直面するのだ。少しばかり早まった経験は、彼等を成長させてくれる要因なのだと、彼は信じることにした。