●リプレイ本文
●大問題
「ふむふむ‥‥」
すでに時代遅れであるパンチカードを、深刻な表情で解読する藤田あやこ(
ga0204)。
「‥‥ぬわにぃっ!?」
驚愕を見せた彼女は電算室を慌てて駆けだしていった。
SES無効化現象という異常事態について、安国寺天善(gz0322)の説明を聞く傭兵達。その中にはあやこの姿もあった。
天善曰く、SESが動かないのだから、代わりに巨大化して戦えばいいじゃない。
「ふぅ‥‥巨大娘と言うのもややマニアックですが素敵ですわよねぇ‥‥」
鷹司 小雛(
ga1008)はどこか陶酔したようにつぶやいた。
「と、そういう話では無いのでしたわ。巨大生物との格闘戦‥‥燃えますわね!」
「巨大変身ヒーローになれる日が来るとは‥‥、これもキョウ運のせいかな?」
ソウマ(
gc0505)の口元には期待感から笑みがこぼれた。
荒唐無稽な展開だが、雪ノ下正和(
ga0219)はむしろ意欲的に参加を望んでいる。
「みんな、巨大化した時の名前とかポーズとかは考えてるの?」
興味津々な態度にも積極的な姿勢が現れていた。
この展開に心当たりがあると、弧磁魔(
gb5248)は口にする。
「あれは三日前の事でした。研究室での実験中、私は突如として光に包まれて出会ったのです。赤いエミタの巨人、エミトラマンコジマに‥‥」
という夢を見たらしい。おそらく、予知夢と呼ばれる類の。
「頑張れエミトラマン。地球を焦土にするまで‥‥」
これは、ナレーションではなく、UNKNOWN(
ga4276)のつぶやきだった。
「‥‥いや、ちょっと違ったか」
天善からは、さらに巨大化時に使用するエミトラスーツも提示された。
「成る程これがそのスーツ、多い日も安全‥‥って、一寸待てーっ!」
ノリツッコミを見せたのはあやこだ。
筋骨隆々なボディビル体型の小野坂源太郎(
gb6063)は、身をかがめてスーツに手を加えている。チョキチョキと裁断しているのは、スパッツ型の形状に作り変えるためだ。
「‥‥伸縮性が高い、という事は着ればピチピチかもっこり、か。少し恥ずかしい、な。うん」
UNKNOWNが分析する。
●大道芸
ある疑念に思い立ったあやこが狼狽を見せる。
「死んだ細胞が巨大化しないとしたら、毛穴が巨大化して毛は抜ける。大問題じゃないのかーっ!」
「安心せい。巨大化してみればわかる」
「何という羞恥エステっ!?」
拒む猶予はなく、彼女は人工練力を浴びせられた。
「絶対キメラ達の好きにはさせないよ! 早速変身だ!」
月明里 光輝(
gb8936)は左右交互に拳を突き出した後、左手を空に向かって突き出した。
「――ティっ!!」
イエティとか90みたいな言葉を叫んで、彼女の体が巨大化する。
正和は、顔出ししていることや、空を飛べないことや、何種類かの変身を使い分けできないことに、不満を覚えていた。
それでも変身はする。喜んでする。意欲があるからこその不満と言うべきか。
構えた左手に右手を添え、左に体をねじりつつ、下げた拳を頭上に振り上げて、正和は巨大化を行った。
「巨大化は漢の浪漫!」
半身で腰の後ろで手を組みつつ、源太郎はロマンを達成した。サイドトライセップスのポーズで。
「エミトラマン・マッスル只今参上!」
銀の基本色に黒い流線型を施したスーツ姿のソウマが巨大化する。
「まあ、なったからには見事に演じて魅せましょう。みんなが憧れた『正義の味方』を」
いつもならひねくれた態度が多いのに、今回は非常にノリノリのようだ。
「今日の僕はいつもより派手にいきますよ!」
「今は僕がエミトラマンなんだ‥‥。コジマーっ!」
気合いと共に巨大化した弧磁魔は、その勢いのまま飛び上がり、地響きと土埃を舞い上げた。
「やっぱり、身体に密着するんですのよね。‥‥胸とかお尻とか、当然強調されますわよねぇ」
巨大化した自分の体を見下ろして、小雛がつぶやいた。悩ましげな仕草で男連中の視線を誘いつつ、小雛は女性陣のスーツ姿を眺めて目の保養を行うのだった。
装置の前に立つUNKNOWN。
普段は着やせしているようだが、鋼線を束ねた様な筋肉と、手足が長く均整のとれた体格をしていた。もっといろいろと見えるのは、エミトラスーツを着ているから‥‥ではなく、何も着ていないため。
平然と煙草をくわえているUNKNOWNを、駆け寄った天善が思いっきりハリセンでひっぱたく。
「わいせつ物陳列罪でULTが訴えられるわい!」
巨大化でもしようものなら、ダンディなものを人前でブラブラさせる羽目になっていただろう。
「‥‥たしかに、スーツは着ておくべきだった、か」
不満を見せるでもなく、UNKNOWNは何もなかったかのように平然とスーツを着込むのだった。
●大決戦
ギリギリの勝負となることを考慮してGooDLuckを使用するソウマの傍らで、巨大化しての肉弾戦に心を躍らせる小雛。
彼女は、小細工無用とばかりに、真っ向勝負でキングゴーレムへ挑む。
金色のボディは小雛の打撃を弾き返し、逆にその拳を小雛へ撃ち込んでくる。
前傾姿勢となったゴーレムに覆い被さり、胴体をクラッチした小雛だったが、重い。見た目より重く、体勢が悪いためにとても持ち上がらない。
逆に、ゴーレムが身を起こしたことで、その後方へ小雛の体が放り投げられる始末だ。
紅蓮衝撃を使用したソウマの拳が赤く光り、敵を殴ると同時に爆発音が生じる。ソウマが命名するところの『エミタナックル』だ。
応戦するゴーレムの拳に打たれて、後方に倒れたソウマの体がビルを倒壊させる。
小雛の体もまた紅蓮衝撃によって赤く光り、ゴーレムの腕が届かない間合いかで彼女の体が宙に浮いた。
ドロップキック!
全体重を浴びせられたキングゴーレムがたまらず転倒する。
起きあがろうとするゴーレムに、上半身をかぶせる小雛。先ほどと同じ体勢から、彼女は豪力発現でゴーレムの体を引っこ抜く。
頭の位置まで持ち上げた敵を、パワーボムで叩き落とすと、地響きを立ててその背中が地面にめり込んだ。
シャモキメラの前に立った光輝が、両腕を上げて構えを取った。
「シュワッ! 勝負だ、怪獣!」
キメラです。
(「こういうのはノリと勢い、生身の戦いは初めてじゃないし。折角巨大になったんだから思いっきりなりきって戦うぞ〜♪」)
この光輝、ノリノリである。
小手調べとして、光輝はチョップを繰り出していく。3発目は竜の爪で強化した一撃だ。
「シュワ! シュワッ!」
「キィアーッ!」
まさに怪鳥のような声を上げて、キメラは嘴で光輝を襲う。油断したつもりはないが、見た目よりも鋭い切っ先が彼女の体をえぐった。
身を低くした彼女は、ぶら下がるようにして首投げを決めていた。
転がったキメラが身を起こして、光輝に向けて火炎を噴き出す。
仲間達の戦いを、父親や長兄のごとく見守ろうと考えていたUNKNOWNだったが、彼女の危機を見かねて割って入った。
ドロップキックと思われたその攻撃は、両脚で首を挟み込みフランケンシュタイナーに移行する。
「大丈夫かね、光輝?」
「つーか‥‥何々マンつったら鶏冠だろ」
納得がいかずに愚痴をこぼすあやこ。
いささか人員の振り分けが偏っており、最後の1体には4名での対応となっていた。
地を蹴って4つ足で突進してくるトリケラトプスキメラ。源太郎は正面から受けて立とうと、キメラの角を両手で押さえ込もうとする。
「なかなかのパワーのようだな!」
しかし、キメラの足は止まらず、頭にしがみつく源太郎ごと前方のビルへ突っ込んでいった。
「ドゥアッ!」
キメラへ接近した弧磁魔が、殴っては蹴り、殴っては蹴り。
そこにあやこも加わって、足を踏むわ、腹を蹴るわ、へし折ってきた鉄橋を突き刺すわ。
「アヤコリーンチ!」
刺した鉄橋に電波増幅をかけて感電させようと試みるわ。
「アヤコボルトー!」
悪役レスラー的なラフプレイに興じている。
トリケラトプスも恐怖を感じたのか太い尻尾を叩きつけて、弧磁魔とあやこを張り飛ばした。
豪破斬撃と急所突きを使った正和が、低い姿勢から接近してアッパーカットを叩き込む。1発では終わらせず、連続で叩き込んだ。
キメラの背後へ回った源太郎は、尻尾にしがみつき豪力発現を発動させる。ぶぉんぶぉんと風切り音を立てて、キメラの巨体はハンマー投げのごとく振り回された。
「そら、行ったぞ!」
遠心力のまま飛んできたキメラが、弧磁魔の肘に命中する。
「大地の力を受けてみろ!」
角を握った頭部にココナッツクラッシュで膝を撃ち込むと、その衝撃によって片側の角がへし折れた。キメラがずいぶんと痛がっている。
四股を踏んだ正和が、低空のタックルをしかけて組み合うと、豪力発現で上手投げをしかけ、体重を浴びせるようにして地面へ叩きつけた。
ビルを抱え上げたあやこが、倒れてるキメラの頭部めがけて容赦なく振り下ろす。わずかに痙攣したキメラの体がすぐに動かなくなった。
まさか、4人がかりでくるとは思いもしなかっただろう。
●大団円
キングゴーレムの攻撃を、小雛はあえて受けていた。その無防備な背後へ攻撃するのは、紅蓮衝撃を使うソウマ。そして、1体目を仕留めた正和と弧磁魔も参戦する。
豪力発現を使用した小雛が、再びゴーレムを抱え上げ、高角度からのボディスラムを仕掛けて地面を揺らした。
4人がかりの打撃が、金色の装甲を激しく歪ませていく。
独特の駆動音が静まると、ゴーレムは二度と立ちあがることはなかった。
シャモキメラ側にも援軍が駆けつけたので、UNKNOWNは腕組みして戦況を眺めていた。同じく高見の見物を決め込むHWに彼は視線を向けた。
形勢不利と見てプロトン砲を発射するHWに、彼はエミタニウム光線で反撃した。
「あっ飛んだ! そっか、一応鳥なんだっけあのキメラ」
ずんぐりした体型のキメラが、空に飛翔する様に光輝は驚きを見せる。
低空を飛んで炎をまき散らすシャモキメラに、あやこはビルを千切っては投げ千切っては投げ。
「アヤコヒステリー!」
乱暴な行動ではあったが、投じた破片を頭部に命中させてシャモキメラの撃墜を果たす。
「今だ! ‥‥シュワッ!」
竜の翼で駆け、竜の爪を施し、墜ちたキメラに光輝が迫る。必殺のムーンサルト蹴りがシャモキメラをビルへと吹っ飛ばした。
組み敷いた源太郎が、嘴を握って首をキュッとしめると、シャモキメラは意外にあっさりと絶命してしまった。
練力を使い切ったUNKNOWNの代わりに、今や残りの7人が立ち向かえる状態にあった。
「一点を集中して狙い、威力を高めるぞ!」
源太郎が促すと、宙に浮かぶHWへ皆の視線が集中する。
「とどめの光線合体技アヤコビーム!」
あやこに続き、それぞれが光線を放っていく。
両腕を伸ばしてL字のポーズをとった光輝が、今度は腕をL字に組んで光線を発射した。
小雛は、右足を下げ、突き出した左掌から光線を放出する。
弧磁魔は体の右横で腕を十字に組み、それを弧を描きながら頭の上まで移動させ、胸の前に下ろしたところで光線を発射した。
「コジマストリーム」
ソウマの全身に生じた光は、胸の前で×字に組んだ腕に集中し始め、彼が突き出した右手から放たれた。
「必殺、エミタニウム光線ファイナル!」
7条の光線が天空へ走る。HWの逃げ場を塞ぐように包囲を狭めていき、ついに7本全てが収束してHWを貫通し爆破に追い込んでいた。
練力を使い果たした一同は、すでに元の体に戻っており、勝利を実感していた。
源太郎やあやこは勝利の高笑い中である。
「わしらの勝利だな! わっはっはっは! ふんっ!」
気合いを込めた源太郎は、腹の前で拳を打ち合わせるようなモストマスキュラーのポーズ。
「わっはっは。悪いバグアは死んだ」
あやこの方は、腰に手を当てて胸を張っている。
「それでは皆さんご一緒に‥‥、受話っ器!」
打ち合わせなしで唱和するのはさすがに無理だ。いささか、もの悲しい雰囲気が醸し出された。
「これで地球は救われた、さぁ帰ろうエミトラの星へ。シュワ‥‥むぎゅっ!?」
地を蹴った光輝の体がまさか飛ぶはずもなく、彼女はボディプレスを自爆しただけに終わった。‥‥最後まで、なりきりっぱなしであった。
「西日が傾く頃、街角に太陽が見えたらソレは私です‥‥」
あやこが情感たっぷりに別離の台詞らしき言葉を口にするも、巨大化中は顔バレしているし、この場にいる面子も傭兵仲間である。
「‥‥責任取って、嫁に貰って下さい天善」
「なにゆえ!?」
よくわからない流れからのプロポーズに驚きを見せる天善。ここで心臓が止まっていたなら、それはあやこのせいだと言えよう。
「平和って良いですね☆」
弧磁魔は一仕事終えた後の一杯に、改めて平和の良さを実感する。
「ミックスジュースおいし♪」
「皆で特撮番組見ながら、打ち上げでもしませんか?」
今回の戦いを堪能した正和は、同好の士と感じる皆を誘ってみるのだった。
なお‥‥、冒頭においてあやこが何を知ったのかは、謎のままに終わるのだった。