タイトル:ビル林とセミ時雨マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/19 12:47

●オープニング本文


 時ならぬセミ時雨。
 莫大な音量の鳴き声が大気を震わせていた。
 音響兵器による精神的な重圧にとどまらず、ビルを覆うガラスは振動で粉砕され、屋内屋外を問わず降り注いでいた。
 その鳴き声をもって地方都市を占拠し、本来の住民達を追い出してしまった巨大なセミキメラの一群。
 傭兵達に依頼されたのはこのセミ達の一掃であった。

「どう? あなた向きじゃない?」
「‥‥まあ、そうだね」
 依頼の概要をしのぶに聞かされて、エリザベスが頷いた。
 すでに告げてある通り、彼女は巨大な虫キメラに対して嫌悪感を抱いている。もちろん、本来の標的であるスズメバチキメラに比ぶべくもないが、同類と感じられるため心穏やかではいられないのだ。
「蝉キメラの数は全部で14体。都市の制圧を目的としているのか、よほど気に入ったのか、この街を動くつもりはなさそうね」
 望遠で撮影された写真には、ビルにしがみついている巨大な蝉が映っていた。
「蝉の武器は音波兵器よ。全周囲とはいかないけど、接近する敵に対して周波数を変えて音をぶつけてくるのよ。知覚攻撃なのは間違いないわ」
「結構、ビルが多いんだね‥‥」
「地方都市としては潤っている街だと思うわ。100m程度のビルなら地上からでも狙い撃つのはたやすいと思うんだけど、問題なのはこのビルね」
 しのぶが指さしたのは、ビル街からさらに突き抜けた高さの1棟だ。
「通称、ウェストビルと言うんだけど、300mもあると地上からは攻撃が難しいかもしれないわ。飛行形態で叩き落とすべきだと思うけど、地上攻撃みたいなものだから攻撃精度も落ちるだろうし、威嚇して追い払う感じになりそうね」
 しのぶは最後に一つだけ、制限を口にした。
「蝉退治が目的ではあるけど、街を守るのも重要よ。街への被害の拡大を防ぐためにも、ミサイルの使用は控えるようにして」

●参加者一覧

高嶋・瑞希(ga0259
18歳・♀・SN
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
上条・瑠姫(gb4798
20歳・♀・DG
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

●セミ狩りに向けて

「今は春‥‥だよ、な。蝉って、夏の虫だろ‥‥」
「季節外れの蝉ってか。まぁ、バグアに季節感を求めるのは無駄だろうけどさ」
 綾河 零音(gb9784)と鹿島 綾(gb4549)がそろって呆れている。
「蝉取りにゃまだ早い気もするがね」
 長谷川京一(gb5804)はキメラそのものよりも、運用機会の少ないゼカリアに活躍の場を与えるのを、目的に参加していた。口には出さないが、スピリットゴーストに対する微妙なライバル心も理由の一つだった。
「身体は大丈夫?」
 傷の癒えていないサンディ(gb4343)を零音が気づかった。
「‥‥なんとかね」
 強がっているが、怪我の激痛と、発熱による息切れ、さらにめまいが彼女の身体を襲っている。
 立っているのも辛い状態だが、キメラ退治にの使命感で彼女はこの場に立っていた。
「お久しぶりです。またご一緒させて頂きますね」
 高嶋・瑞希(ga0259)が挨拶を交わしている相手を見て、上条・瑠姫(gb4798)が問いかけた。
「もし? そこの方。もしかして、以前ご一緒致しませんでしたでしょうか?」
 エリザベス・ゴードン(gz0295)の方でも彼女を記憶にとどめていた。
「ん‥‥。ああ、基地防衛の時だろ? あたしも退役して傭兵になったんだよ。よろしくな」
「なるほど、あの時と同じく虫退治というわけですね」
「前回は蛾で今回は蝉、エリザベスさんも大変ね」
 瑞希の労いに、彼女は肩をすくめて見せる。
「倒すのが義務ってわけじゃないんけどね」
 全ては虫キメラに対する敵愾心からくる行動だった。
「エリザベスさんの兵装は陸戦向きのようですし、私が空戦を担当する形で、ペアを組みませんか?」
 榊 刑部(ga7524)の誘いに、エリザベスが頷きを返す。
「そうだね。よろしく頼むよ」
 二人の会話を耳にした番場論子(gb4628)が、刑部を励ました。
「頑張ってくださいね」
「ええ」
 言葉に持たせた含みは、二人だけに通じるものらしい。
「やる気はあるみたいだけど、敵の先には街があること忘れずにな」
 気負っている態度を心配したジャック・ジェリア(gc0672)が指摘すると、エリザベスは不満げに応じる。
「あたしも軍人あがりだよ。仕事はきちんとこなしてみせるさ」

●セミ時雨のなく頃に

「蝉なだけに、放って置けば勝手に死ぬ‥‥なんて事は無いよな。ま、さっさと片付けようか」
 綾の操るディアブロは南東から都市上空へ侵入した。彼女は、早くもビルにとまっているセミキメラを発見する。
「ポイントM14にキメラ確認。陸戦担当はいないか?」
 通信機越しの報告に応じたのは、南部中央から反時計回りに周回してきた駆る星月 歩(gb9056)だ。
「私が対応します」
 アンジェリカを着陸させた彼女は、壁面に取り付いているセミを振り仰ぎ、3.2cm高分子レーザーを照射した。
 銃撃を嫌ったキメラが飛び立ったタイミングで、ディアブロが95mm対空砲「エニセイ」を撃ち込んでいく。飛翔するセミキメラが腹部を鳴らすと、ディアブロの機体が激しい振動する。
 別なビルにとびついたセミキメラだったが、再びアンジェリカの銃撃が加えれ、そこも安息の場とはならなかった。
 急所を撃ち抜かれたキメラの死骸が、アンジェリカの傍らへと落下する。

 同じ南東エリアを、東側から探索を始めたグループもあった。
 刑部の提案通り、エリザベスのバイパーは歩行形態で陸上を担当していた。
 彼女のスナイパーライフルSG−01に追い立てられたキメラに、刑部のミカガミと、零音のアンジェリカが肉迫する。
「行くぞメガエラ‥‥」
 零音の操作に、機体のAIが女性の声で応じた。
『標的捕捉、座標固定。3秒後に放電装置発射です』
 SESエンハンサーによって威力が増幅された試作型G放電装置の電撃が迸る。
 ミカガミのスナイパーライフルD−02が上方を押さえ、高度を下げればバイパーが狙い撃つ。
「お前らちょっとは空気読め。んで、夏に出直してこい!」
 飛行範囲を制限されているセミキメラに、零音はレーザーカノンを連射してその胴体を撃ち抜いた。

「さて、まずは陣取りってな」
 京一のゼガリアが、路面に散らばっているガラス片をクローラーですり潰していく。
 すぐ傍に並んでいるのは、歩行形態となった論子のロジーナだ。
 南下した2機は探すまでもなく、鳴き続けるセミキメラと遭遇した。
 2機が所有する2門の47mm対空機関砲「ツングースカ」が弾幕を叩きつけて、否応なく壁面から追い立てる。
 高空へ逃げ去ろうとしたセミキメラに邪魔が入った。
「誇り高き三銃士が一人、サンディアナ。いざ参る!」
 西側から飛来したフェニックスが、その頭を押さえていた。
 自身の体調を考えると、とてもドッグファイトは挑めない。彼女はスナイパーライフルRにて、敵の逃亡阻止に重点を置いた。
「飛ばせて落とす。こいつは基本コンポだぜ!」
 ゼガリア自慢の420mm大口径滑腔砲が、轟音と共に巨大な砲弾を撃ち出して、セミキメラに命中させた。
 負傷したキメラが高度を下げると、論子のツングースカが多くの弾丸を撃ち込むことに成功する。
 キメラの身体は、飛翔ではなく落下によって地面に落ちた。
「10時方向の大きなビルを回り込む形で調査していきましょう」
 論子の提案は京一と同じものであったため、まずは北西区画を一掃すべく2機が再び動き始めた。

 都市南西側。
「‥‥季節外れの蝉時雨なんて、風情も何も無いわね。とにかく、さっさと片付けちゃいましょう」
「はい。頑張りましょう」
 瑞希と瑠姫は、共に都市外縁を回るつもりで歩いていた。
 地図をモニターに表示させ、センサーの数値をにらんでいた瑞希がキメラを発見する。
「この殺虫スプレーは遠くまで届くわよ〜♪」
 歌うように告げた瑞希が、シュテルンの構えたスナイパーライフルD−02で長距離射撃を実行に移す。
 敵対行動を受けたキメラが逆襲に転じた。
 音波攻撃と共にこちらへ飛来するキメラを、瑠姫はむしろ喜んで出迎えた。
「建物から離れてくれるなら、願ってもないことです」
 ビルへの被害を心配していた彼女にとっては望む展開だった。今度は翔幻の手にするスナイパーライフルSG−01が火を噴いた。
 立て続けの銃撃によって、キメラが撃墜される。いまだ、ピクピクと動いていたのを見て、近づいた瑞希はシールドスピアでとどめを刺した。

●セミ達の短い一生

 全周囲の敵に対して攻撃が可能と判断し、スピリットゴーストは街の中央部に降り立っていた。
「やれやれ、何も好き好んでビルにとまらなくてもいいだろうに」
 ジャックはウェストビルのだいぶ手前で機体を停止させる。
「さて、音波攻撃がこない距離から行きたいんだが、何処まで大人しくしててくれるか‥‥」
 各関節をロックすると、ビルに損害を与えないよう慎重に狙いすまし、スナイパーライフルRで狙撃を繰り返す。
 的の立場を拒んだキメラは反撃を試みるも、ジャックの銃撃の前に撃墜されてしまう。
 だが、多数の敵へ攻撃が可能な地点というのは、多数の敵にとっても狙い易い地点とも言えるのだ。
 単機で動いていたジャックは、3方向からの音波攻撃にさらされた。包囲を抜け出そうとしたスピリットゴーストに対し、別な個体が進路を封じにかかる。
 ジャックが不運だったのは、皆が都市の外縁部を外側から絞るように行動したことだ。KVから逃げようとしたキメラ達は、必然的に中央へ集中し始めていた。
 一方で、キメラを追う味方機もまた、中央へと終結しつつあった。
「さぁ、浪漫の華を咲かせましょうか!」
 ジャックの頭上を舞うキメラに、徹甲散弾が炸裂する。発砲した京一は、スピリットゴースト相手にいいところを見せられたので嬉しそうだ。
「人に仇なす不浄の輩‥‥この世に一かけらも残さず滅せよ!」
 サンディのフェニックスに続き、論子のロジーナもキメラへの銃撃を開始していた。
 降下したセミが突進してくるのを見て、ロジーナは機盾「リコポリス」を構える。背後のビルをかばって、論子は右側面へ弾き飛ばすようにして受け流した。
 バランスを崩したキメラは、勢いを失わないまま地上を転がった。
 すかさず接近したゼガリアが、サムライソードを振り下ろして、昆虫の標本を作るように串刺しにする。
「地面に落ちたセミは踏まれて終わりさ」
 だが、KV4機に対して群がったキメラの数は倍以上だ。音波攻撃に混じって、体当たりまでも降り注ぐ。
「ゼカリアの辞書に回避の文字は無ぇ! ‥‥て流石にきついか?」
「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」
 密集しているキメラに向けて、零音がレーザーカノンで攻撃を加える。
「羽根を潰したら飛べなくなるのかね? こいつらは」
 キメラと交差する軌道を取った綾は、ブーストして接近するとソードウィングで斬りつける。
 歩や刑部も加わり、頭上でキメラとKVが飛び交っていた。
「各空中機は出来る限り低空から浅い仰角の攻撃で頼む。俯角だと流れ弾が地上の建物に行くかもしれない」
 乱戦状況になったため、ジャックが改めて注意を促した。

 ビルに囲まれたE5に入り込まれると退治が面倒なため、ビル上空でサンディは阻止すべく動いていた。
 試作型G放電装置の電撃を浴びながらも、いや、傷を負ったからこそキメラはE5へと逃げ込んでしまう。
「まだ‥‥このくらい‥‥」
 彼女は痛みにこらえながら、空中変形スタビライザーを稼働させようとするが、それに先んじて瑞希がE5へ向かった。
「任せて。えーっと‥‥、シュテルンの正しい使い方ってこうだったかしら?」
 四連バーニアをフル稼動させて、彼女は機体を垂直に降下させる。
 至近距離のキメラにシールドスピアを突き立てると、入れ替わるようにキメラが逃げ出した。
 だが、ビル高を越えた時点で、待ちかまえていたフェニックスのスナイパーライフルRがその胴体を撃ち抜いた。
 そのサンディにキメラ2体が接近する。
「誇り高き我が白銀の翼、堕とせるものなら堕としてみせよ!」
 自身のプライドからサンディはそう発したが、高起動に耐えきれずにその身体がぐらりと傾いた。
 彼女が覚悟したはずの攻撃が届かなかったのは、地上に立つスピリットゴーストが援護したからだった。
 重体のサンディを心配していたジャックと零音は、彼女を狙うキメラに攻撃を加えいていた。
『燃料残量33、SESエンハンサーはあと1回の使用が限度です』
 AIの指摘を受けながらも、零音は構わず連続使用を行う。強化されたG放電が、サンディに迫ったキメラを焼き尽くした。
「助かったわ」
 ようやく一息ついたサンディは、髪を結い上げていたリボンを解いて、傷が開いたらしい左腕を縛って血止めを行った。

 ウェストビルへ向かうキメラは、論子のロジーナが撃ち落としている。それを脅威と感じたのか、数体のキメラは攻撃の届かない高層階にしがみついていた。
「逃がしませんよ」
 頭上を見上げた論子は、垂直離着陸能力を活かして急上昇する。ウェストビルを滑走路のように見立てて、ロジーナが真一文字に空を駆け上がった。
 風圧を巻き上げられて、キメラはウェストビルから無理矢理引きはがされる。
「逃がしません、ここであなた方には朽ちて頂きます」
 上昇してきた瑠姫の翔幻が、ブーストを使用して接近して銃撃した。
 逃走しようとしたキメラに対し、ウェストビルを大きく回り込んだロジーナが、ツングースカを命中させて撃破する。
「残りは1体ですね」
 すでに戦いの終わりも見えたため、歩は温存していたレーザーガン「オメガレイ」を使用した。撃ち出された数条のレーザーがキメラの身体を射抜き、空中に浮かぶキメラを一掃したのだった。

●意外な結末

「やれやれ。こんな蝉は、夏場であろうと御免だね」
 こぼしながらも、討ち漏らしを警戒した綾は、再度都市内の探索を実行していた。
「ん、我ながら散弾は街中でばら撒くモンじゃねぇな」
 頭をポリポリとかきつつ、自らの所業を悔やむ京一。撤去作業中の彼は、キメラの死骸をゼガリアで抱え上げる。
「普通サイズなら油で揚げて食っちまう所なんだがね〜」
 煙草をふかしながら京一がポツリと漏らした。そんな経験のない傭兵達は、彼の発言にいささかヒキ気味であった。
 転がっている死骸は14。どうやら、他にキメラは存在しないようだ。
「作戦は終了‥‥ですか、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
 労いの言葉をかけるとすぐに瑞希の声が返って、瑠姫の口元に笑みが浮かんだ。
(「それにしても、この昆虫を模したキメラはどこで生産されているのでしょう。エリザベスさんの追っているキメラとも、なにかつながりがあるのでしょうか‥‥?」)

 刑部を呼び止めた論子は、赤と白のカーネーションと手作りのタペストリーを強引に押しつけた。
「花言葉は情熱と尊敬ですよ」
「‥‥ありがとう」
 とまどいつつも刑部が礼を口にする。
 このやりとりをエリザベスが見ていなかったのは、彼にとって幸運と言えた。
「エリザベスさん、折り入って話があります。できれば、人気のないところで」
「ああ、いいよ」
 彼の真意を知らないエリザベスが、軽い調子で了承する。
 皆から死角となる場所で、刑部は真剣な面持ちで口を開いた。
「私のこの気持ちが果たして色恋な感情なのか、自分でも自信が持てません。ですが、これから先も私を一人の男として、パートナーとして見て頂く訳にはいきませんか?」
 言葉と共に差し出したのは、論子に手渡された贈り物だ。
「これから先道は長いのです。一人で戦うより、二人で戦う方がきっと宿願を果たすのは早くなると思うのですが」
「本気かい?」
「もちろんです」
 眉根を寄せて腕組みをしたエリザベスは、一言だけ発した。
「却下」
「断る‥‥という意味でしょうか?」
「戦友のひとりではあるけど、あんたを恋愛対象として見た事がない。だから‥‥、今回は保留ってことにしておいてくれ」
「保留ですか‥‥」
「どうしても今すぐ返事が欲しいって言うなら、答えは一つしかないよ。聞きたいか?」
「‥‥遠慮します」
 すくなくとも拒絶ではないのだからと、刑部もこの場は引き下がる。
「いまのところは、期待が残っているわけですよね」
「逆の結果になるかもしれないよ。そのときはきっぱりとフってやるから、覚悟だけはしておくんだね」
 からかうように応じて、エリザベスは朗らかに笑うのだった。