●リプレイ本文
●セミ狩りに向けて
「今は春‥‥だよ、な。蝉って、夏の虫だろ‥‥」
「季節外れの蝉ってか。まぁ、バグアに季節感を求めるのは無駄だろうけどさ」
綾河 零音(
gb9784)と鹿島 綾(
gb4549)がそろって呆れている。
「蝉取りにゃまだ早い気もするがね」
長谷川京一(
gb5804)はキメラそのものよりも、運用機会の少ないゼカリアに活躍の場を与えるのを、目的に参加していた。口には出さないが、スピリットゴーストに対する微妙なライバル心も理由の一つだった。
「身体は大丈夫?」
傷の癒えていないサンディ(
gb4343)を零音が気づかった。
「‥‥なんとかね」
強がっているが、怪我の激痛と、発熱による息切れ、さらにめまいが彼女の身体を襲っている。
立っているのも辛い状態だが、キメラ退治にの使命感で彼女はこの場に立っていた。
「お久しぶりです。またご一緒させて頂きますね」
高嶋・瑞希(
ga0259)が挨拶を交わしている相手を見て、上条・瑠姫(
gb4798)が問いかけた。
「もし? そこの方。もしかして、以前ご一緒致しませんでしたでしょうか?」
エリザベス・ゴードン(gz0295)の方でも彼女を記憶にとどめていた。
「ん‥‥。ああ、基地防衛の時だろ? あたしも退役して傭兵になったんだよ。よろしくな」
「なるほど、あの時と同じく虫退治というわけですね」
「前回は蛾で今回は蝉、エリザベスさんも大変ね」
瑞希の労いに、彼女は肩をすくめて見せる。
「倒すのが義務ってわけじゃないんけどね」
全ては虫キメラに対する敵愾心からくる行動だった。
「エリザベスさんの兵装は陸戦向きのようですし、私が空戦を担当する形で、ペアを組みませんか?」
榊 刑部(
ga7524)の誘いに、エリザベスが頷きを返す。
「そうだね。よろしく頼むよ」
二人の会話を耳にした番場論子(
gb4628)が、刑部を励ました。
「頑張ってくださいね」
「ええ」
言葉に持たせた含みは、二人だけに通じるものらしい。
「やる気はあるみたいだけど、敵の先には街があること忘れずにな」
気負っている態度を心配したジャック・ジェリア(
gc0672)が指摘すると、エリザベスは不満げに応じる。
「あたしも軍人あがりだよ。仕事はきちんとこなしてみせるさ」
●セミ時雨のなく頃に
「蝉なだけに、放って置けば勝手に死ぬ‥‥なんて事は無いよな。ま、さっさと片付けようか」
綾の操るディアブロは南東から都市上空へ侵入した。彼女は、早くもビルにとまっているセミキメラを発見する。
「ポイントM14にキメラ確認。陸戦担当はいないか?」
通信機越しの報告に応じたのは、南部中央から反時計回りに周回してきた駆る星月 歩(
gb9056)だ。
「私が対応します」
アンジェリカを着陸させた彼女は、壁面に取り付いているセミを振り仰ぎ、3.2cm高分子レーザーを照射した。
銃撃を嫌ったキメラが飛び立ったタイミングで、ディアブロが95mm対空砲「エニセイ」を撃ち込んでいく。飛翔するセミキメラが腹部を鳴らすと、ディアブロの機体が激しい振動する。
別なビルにとびついたセミキメラだったが、再びアンジェリカの銃撃が加えれ、そこも安息の場とはならなかった。
急所を撃ち抜かれたキメラの死骸が、アンジェリカの傍らへと落下する。
同じ南東エリアを、東側から探索を始めたグループもあった。
刑部の提案通り、エリザベスのバイパーは歩行形態で陸上を担当していた。
彼女のスナイパーライフルSG−01に追い立てられたキメラに、刑部のミカガミと、零音のアンジェリカが肉迫する。
「行くぞメガエラ‥‥」
零音の操作に、機体のAIが女性の声で応じた。
『標的捕捉、座標固定。3秒後に放電装置発射です』
SESエンハンサーによって威力が増幅された試作型G放電装置の電撃が迸る。
ミカガミのスナイパーライフルD−02が上方を押さえ、高度を下げればバイパーが狙い撃つ。
「お前らちょっとは空気読め。んで、夏に出直してこい!」
飛行範囲を制限されているセミキメラに、零音はレーザーカノンを連射してその胴体を撃ち抜いた。
「さて、まずは陣取りってな」
京一のゼガリアが、路面に散らばっているガラス片をクローラーですり潰していく。
すぐ傍に並んでいるのは、歩行形態となった論子のロジーナだ。
南下した2機は探すまでもなく、鳴き続けるセミキメラと遭遇した。
2機が所有する2門の47mm対空機関砲「ツングースカ」が弾幕を叩きつけて、否応なく壁面から追い立てる。
高空へ逃げ去ろうとしたセミキメラに邪魔が入った。
「誇り高き三銃士が一人、サンディアナ。いざ参る!」
西側から飛来したフェニックスが、その頭を押さえていた。
自身の体調を考えると、とてもドッグファイトは挑めない。彼女はスナイパーライフルRにて、敵の逃亡阻止に重点を置いた。
「飛ばせて落とす。こいつは基本コンポだぜ!」
ゼガリア自慢の420mm大口径滑腔砲が、轟音と共に巨大な砲弾を撃ち出して、セミキメラに命中させた。
負傷したキメラが高度を下げると、論子のツングースカが多くの弾丸を撃ち込むことに成功する。
キメラの身体は、飛翔ではなく落下によって地面に落ちた。
「10時方向の大きなビルを回り込む形で調査していきましょう」
論子の提案は京一と同じものであったため、まずは北西区画を一掃すべく2機が再び動き始めた。
都市南西側。
「‥‥季節外れの蝉時雨なんて、風情も何も無いわね。とにかく、さっさと片付けちゃいましょう」
「はい。頑張りましょう」
瑞希と瑠姫は、共に都市外縁を回るつもりで歩いていた。
地図をモニターに表示させ、センサーの数値をにらんでいた瑞希がキメラを発見する。
「この殺虫スプレーは遠くまで届くわよ〜♪」
歌うように告げた瑞希が、シュテルンの構えたスナイパーライフルD−02で長距離射撃を実行に移す。
敵対行動を受けたキメラが逆襲に転じた。
音波攻撃と共にこちらへ飛来するキメラを、瑠姫はむしろ喜んで出迎えた。
「建物から離れてくれるなら、願ってもないことです」
ビルへの被害を心配していた彼女にとっては望む展開だった。今度は翔幻の手にするスナイパーライフルSG−01が火を噴いた。
立て続けの銃撃によって、キメラが撃墜される。いまだ、ピクピクと動いていたのを見て、近づいた瑞希はシールドスピアでとどめを刺した。
●セミ達の短い一生
全周囲の敵に対して攻撃が可能と判断し、スピリットゴーストは街の中央部に降り立っていた。
「やれやれ、何も好き好んでビルにとまらなくてもいいだろうに」
ジャックはウェストビルのだいぶ手前で機体を停止させる。
「さて、音波攻撃がこない距離から行きたいんだが、何処まで大人しくしててくれるか‥‥」
各関節をロックすると、ビルに損害を与えないよう慎重に狙いすまし、スナイパーライフルRで狙撃を繰り返す。
的の立場を拒んだキメラは反撃を試みるも、ジャックの銃撃の前に撃墜されてしまう。
だが、多数の敵へ攻撃が可能な地点というのは、多数の敵にとっても狙い易い地点とも言えるのだ。
単機で動いていたジャックは、3方向からの音波攻撃にさらされた。包囲を抜け出そうとしたスピリットゴーストに対し、別な個体が進路を封じにかかる。
ジャックが不運だったのは、皆が都市の外縁部を外側から絞るように行動したことだ。KVから逃げようとしたキメラ達は、必然的に中央へ集中し始めていた。
一方で、キメラを追う味方機もまた、中央へと終結しつつあった。
「さぁ、浪漫の華を咲かせましょうか!」
ジャックの頭上を舞うキメラに、徹甲散弾が炸裂する。発砲した京一は、スピリットゴースト相手にいいところを見せられたので嬉しそうだ。
「人に仇なす不浄の輩‥‥この世に一かけらも残さず滅せよ!」
サンディのフェニックスに続き、論子のロジーナもキメラへの銃撃を開始していた。
降下したセミが突進してくるのを見て、ロジーナは機盾「リコポリス」を構える。背後のビルをかばって、論子は右側面へ弾き飛ばすようにして受け流した。
バランスを崩したキメラは、勢いを失わないまま地上を転がった。
すかさず接近したゼガリアが、サムライソードを振り下ろして、昆虫の標本を作るように串刺しにする。
「地面に落ちたセミは踏まれて終わりさ」
だが、KV4機に対して群がったキメラの数は倍以上だ。音波攻撃に混じって、体当たりまでも降り注ぐ。
「ゼカリアの辞書に回避の文字は無ぇ! ‥‥て流石にきついか?」
「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」
密集しているキメラに向けて、零音がレーザーカノンで攻撃を加える。
「羽根を潰したら飛べなくなるのかね? こいつらは」
キメラと交差する軌道を取った綾は、ブーストして接近するとソードウィングで斬りつける。
歩や刑部も加わり、頭上でキメラとKVが飛び交っていた。
「各空中機は出来る限り低空から浅い仰角の攻撃で頼む。俯角だと流れ弾が地上の建物に行くかもしれない」
乱戦状況になったため、ジャックが改めて注意を促した。
ビルに囲まれたE5に入り込まれると退治が面倒なため、ビル上空でサンディは阻止すべく動いていた。
試作型G放電装置の電撃を浴びながらも、いや、傷を負ったからこそキメラはE5へと逃げ込んでしまう。
「まだ‥‥このくらい‥‥」
彼女は痛みにこらえながら、空中変形スタビライザーを稼働させようとするが、それに先んじて瑞希がE5へ向かった。
「任せて。えーっと‥‥、シュテルンの正しい使い方ってこうだったかしら?」
四連バーニアをフル稼動させて、彼女は機体を垂直に降下させる。
至近距離のキメラにシールドスピアを突き立てると、入れ替わるようにキメラが逃げ出した。
だが、ビル高を越えた時点で、待ちかまえていたフェニックスのスナイパーライフルRがその胴体を撃ち抜いた。
そのサンディにキメラ2体が接近する。
「誇り高き我が白銀の翼、堕とせるものなら堕としてみせよ!」
自身のプライドからサンディはそう発したが、高起動に耐えきれずにその身体がぐらりと傾いた。
彼女が覚悟したはずの攻撃が届かなかったのは、地上に立つスピリットゴーストが援護したからだった。
重体のサンディを心配していたジャックと零音は、彼女を狙うキメラに攻撃を加えいていた。
『燃料残量33、SESエンハンサーはあと1回の使用が限度です』
AIの指摘を受けながらも、零音は構わず連続使用を行う。強化されたG放電が、サンディに迫ったキメラを焼き尽くした。
「助かったわ」
ようやく一息ついたサンディは、髪を結い上げていたリボンを解いて、傷が開いたらしい左腕を縛って血止めを行った。
ウェストビルへ向かうキメラは、論子のロジーナが撃ち落としている。それを脅威と感じたのか、数体のキメラは攻撃の届かない高層階にしがみついていた。
「逃がしませんよ」
頭上を見上げた論子は、垂直離着陸能力を活かして急上昇する。ウェストビルを滑走路のように見立てて、ロジーナが真一文字に空を駆け上がった。
風圧を巻き上げられて、キメラはウェストビルから無理矢理引きはがされる。
「逃がしません、ここであなた方には朽ちて頂きます」
上昇してきた瑠姫の翔幻が、ブーストを使用して接近して銃撃した。
逃走しようとしたキメラに対し、ウェストビルを大きく回り込んだロジーナが、ツングースカを命中させて撃破する。
「残りは1体ですね」
すでに戦いの終わりも見えたため、歩は温存していたレーザーガン「オメガレイ」を使用した。撃ち出された数条のレーザーがキメラの身体を射抜き、空中に浮かぶキメラを一掃したのだった。
●意外な結末
「やれやれ。こんな蝉は、夏場であろうと御免だね」
こぼしながらも、討ち漏らしを警戒した綾は、再度都市内の探索を実行していた。
「ん、我ながら散弾は街中でばら撒くモンじゃねぇな」
頭をポリポリとかきつつ、自らの所業を悔やむ京一。撤去作業中の彼は、キメラの死骸をゼガリアで抱え上げる。
「普通サイズなら油で揚げて食っちまう所なんだがね〜」
煙草をふかしながら京一がポツリと漏らした。そんな経験のない傭兵達は、彼の発言にいささかヒキ気味であった。
転がっている死骸は14。どうやら、他にキメラは存在しないようだ。
「作戦は終了‥‥ですか、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
労いの言葉をかけるとすぐに瑞希の声が返って、瑠姫の口元に笑みが浮かんだ。
(「それにしても、この昆虫を模したキメラはどこで生産されているのでしょう。エリザベスさんの追っているキメラとも、なにかつながりがあるのでしょうか‥‥?」)
刑部を呼び止めた論子は、赤と白のカーネーションと手作りのタペストリーを強引に押しつけた。
「花言葉は情熱と尊敬ですよ」
「‥‥ありがとう」
とまどいつつも刑部が礼を口にする。
このやりとりをエリザベスが見ていなかったのは、彼にとって幸運と言えた。
「エリザベスさん、折り入って話があります。できれば、人気のないところで」
「ああ、いいよ」
彼の真意を知らないエリザベスが、軽い調子で了承する。
皆から死角となる場所で、刑部は真剣な面持ちで口を開いた。
「私のこの気持ちが果たして色恋な感情なのか、自分でも自信が持てません。ですが、これから先も私を一人の男として、パートナーとして見て頂く訳にはいきませんか?」
言葉と共に差し出したのは、論子に手渡された贈り物だ。
「これから先道は長いのです。一人で戦うより、二人で戦う方がきっと宿願を果たすのは早くなると思うのですが」
「本気かい?」
「もちろんです」
眉根を寄せて腕組みをしたエリザベスは、一言だけ発した。
「却下」
「断る‥‥という意味でしょうか?」
「戦友のひとりではあるけど、あんたを恋愛対象として見た事がない。だから‥‥、今回は保留ってことにしておいてくれ」
「保留ですか‥‥」
「どうしても今すぐ返事が欲しいって言うなら、答えは一つしかないよ。聞きたいか?」
「‥‥遠慮します」
すくなくとも拒絶ではないのだからと、刑部もこの場は引き下がる。
「いまのところは、期待が残っているわけですよね」
「逆の結果になるかもしれないよ。そのときはきっぱりとフってやるから、覚悟だけはしておくんだね」
からかうように応じて、エリザベスは朗らかに笑うのだった。