●リプレイ本文
●集合
「‥‥ヒーロー戦隊物か」
これまで縁は薄かったが子供達への影響は侮れないと考えて、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)もULTタウンの宣伝効果を期待して新たに加わった。
「大詰めの時期にとも思うが‥‥、よろしくお願いする」
彼の挨拶に頷く6人のメンバー達。
希崎 十夜(
gb9800)は仲間を誘って、早くもアクション場面の練習に精を出している。
(「人数が増えれば増えるほど、勝手が違うな‥‥。タイミング、だけじゃないのか?」)
納得できていないのか、思いめぐらせる彼は色々と難しく考えてしまう。『自分らしく』やりたいのに、根が真面目な所為かどつぼにはまった状況であった。
今回の肝である合体攻撃について、奏歌 アルブレヒト(
gb9003)が皆の意見をとりまとめて、マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)へ提出する。
「‥‥これで一区切りなのですね、‥‥おめでとうございます」
第1期の終了について、奏歌があらためて祝辞を述べる。
「‥‥2期が始まったら‥‥その時はまたお呼び下さい」
「頼むのはこっちの方だけどな。今回の撮影も次期シリーズもがんばってもらわないと」
●一つにならない七つの力
「これがUPCで主催する戦隊アトラクションのアルバイトか」
情報部からどのように聞かされたのか、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は状況を正確に把握していないようだ。
「‥‥このスーツを着て訓練するのか」
全身を覆ったナノマシン製のスーツを見下ろすホアキン。彼が認識した通りアトラクション用だとしたら、あまりに技術の無駄づかいだと言えるだろう。
新しい面子も加えた7人が、現在はUPC軍の演習場にて合体攻撃の特訓中だ。
研究員が誤って発動させたスーツのナノマシンは、武器用に調整を加えられた。ナナレンジャーメンバーの攻撃をボールにため込み、標的としたデガスキメラに叩きつける。
絶大な破壊力を生み出すはずの攻撃が、‥‥一度も成功していない。個人単位で発生する小さな誤差が積み重なり、許容範囲を超えた失敗を招いてしまう。
「う〜ん、上手くいかないなぁ」
AU−KVを装着したシャーミィ・マクシミリ(
gb5241)は、竜の瞳まで発動させているがそれでも改善につながらない。
「俺のせいで完成しないのかもな‥‥」
ホアキンは新参者であるだけに、自分が皆の和を乱しているという不安を拭えずにいる。それを押し殺しながら、彼は努めて明るく声をかけた。
「まだまだ、悩むのは後にして次にいこう」
時間制限がどうしても存在し、変身した以上は10分という時間を1秒も無駄にできないのだ。
タイミングを外して威力を乗せ損なったり、連携の途中で中継し損ねて不発に終わったりと、失敗した状況や理由は多岐に渡る。
「ダメだ! 掃除係、コンマ三秒遅れてるよ!」
先日の敵に捕らわれた一件以降、シェリー・ローズ(
ga3501)は辰巳 空(
ga4698)のことを『掃除係』呼ばわりしている。いわば罰当番だ。
疑いを向けられた精神的な重圧といい、医療活動と訓練の往復による疲労といい、空は心身共に厳しい状況にあるものの、あえて弁解しようとしない。
「足りないのはスーツの出力なのか、我々のレベルなのか‥‥」
技術的な点にのみ言及し、なんとか成果を出そうと訓練に臨んでいた。
実のところ、情報部の調査でも空がバグアと接触しているという確証は見つかっていない。ただし、彼が能力者となる以前の経歴は全く不明なため、疑念をはらせない状況が続いている。
「ホンマに裏切り者がおるんか? なんや歯切れが悪いな。そういう有耶無耶感が団結を阻むんちゃうか?」
歯に衣着せず、三島玲奈(
ga3848)が言葉にしてしまう。空だけにとどまらず、ナナレンジャーの初期メンバーからしてそのような疑惑を持たれていたのだ。
不完全燃焼しているような現状を、玲奈は勢いで乗り切ろうとする。彼女が乱暴に技を叩き込んでしまい、連携は別な箇所で破綻してしまう。
もともと体力に不安のある奏歌が受け損ない、弾いたボールが別方向へ飛んでいってしまった。
これまでも合体技訓練に参加していない彼女は、予想を越えた難易度に戸惑いを隠せない。
「‥‥皆を信用しても良いと思いますが、‥‥情報部の疑念のせいでこちらの関係も悪化しかねませんね。‥‥諜報部側から『問題なし』と断言してもらえればいいのですが」
彼等の連携は多くつながっても5人までだった。
「どうして成功しないのよ〜」
仲間を信じているつもりのシャーミィが嘆いた。自分のことで精一杯のため、まわりへあわせるという点がおろそかになっているのだが、彼女はそこに気づけていない。
制限時間に達して変身が強制解除されてしまい、彼等の特訓は次回へ持ち越し‥‥とはならず、完全にその機会が失われてしまう。
UPC軍の連絡を受けて、マルコの運転する兵員輸送車『ビフロスト』へナナレンジャーが乗り込んだ。
「それで、おに‥‥マルコさん。予定通り、サーバーを運ぶ仕事でいいんだよね?」
シャーミィの確認に、マルコが頷きを返す。
「ああ。デガスキメラが奪い返しにくるかもしれないので、みんなにはその護衛をしてもらう」
前回戦場となったビルを出発したトラックが基地目指してひた走る。
『ビフロスト』は1キロほど離れて追走していた。いかに彼等といえど、変身前にウィルスに感染してしまっては抵抗できないからだ。
トラックに設置した発信器に生じたノイズが襲撃の予兆であった。
デガスキメラが散布したウィルスに巻き込まれ、トラックどころか走行中の車の運転手達が昏倒して何台も事故を起こして大騒ぎが起きていた。
急行した『ビフロスト』から飛び出した7人の戦士が、横転した搬送トラックへと駆けつける。
彼等が目にしたのは、迎え撃とうとするコモドドラゴンデガスキメラと、その配下である2体の小型デガスキメラだった。
「新たな伝説を紡ぐ閃剣の騎士! シルバーグレイ、参上!」
テンション高く名乗りを上げる十夜。
「時給は高く、仕事は速く。バイト職人、オーキッド!」
とホアキン。
「雷光の如く全てを撃ち抜く琥珀の戦士、アンバー」
これはシャーミィ。
「薔薇色の覇道を歩む美しき戦乙女、七色戦隊隊長ローズピンク!」
腕組みして高飛車な態度なのはシェリーだった。
「世界の涙を止める為何の因果か化物退治、七色戦隊ナナレンジャーお呼びとあらば即参上」
シェリーの合図で7人が決めポーズを取ると同時に、虹のエフェクトが煌めいた。
●七色に輝く一本の架け橋
小型キメラの1体はトラックの扉をこじ開けようとし、残りはナナレンジャー阻止に動いた。
「今日の私は燻ってる。お前を燃料にする」
特訓の失敗や仲間内に漂う不信感など、溜まった鬱憤をぶつけるように、玲奈は小銃「シエルクライン」を発砲する。
「カーキー・ガンザ〜ド!」
影撃ちの込められた銃弾が、小型キメラへ着弾すると同時に茶色い閃光が立て続けに爆ぜた。
玲奈を突進で押しのけた小型キメラは、背後にいた奏歌へと迫る。
叩きつけられる尻尾を、奏歌はラサータの爪で受け流した。
練成弱体をかけたとおころへ、奏歌は玲奈と共に挟撃を試みる。ザフィエルの電磁波とシエルクラインの銃弾が、小型キメラを両側から襲った。
敵へ駆け寄ろうとした玲奈は、振り回された尻尾をあやうく飛び越える。
「おっと緊張の夏」
おどけた言葉を発しながら、玲奈はノコギリアックスを振り上げた。
「夏だ祭り太鼓だソイヤソイヤ」
急所突きを活用してつるべ打ちにしていく。
ノコギリアックスでその顎をこじ開けると、銃を突き込んで引き金を引き続けた。
「トカゲキメラ、夏らしく花火と散れ!」
撃ち出された銃弾は、血と脳漿をぶちまけながら頭蓋骨を粉砕する。
リンドヴルムを装着したシャーミィは、竜の瞳で敵を捕らえて小銃「S−01」の引き金を引く。
「今までのデガスキメラと違う、‥‥強すぎだよ」
援護に徹していただけに、シャーミィは仲間達が劣勢にある事実を深く実感する。
コモドドラゴンデガスキメラは、小型キメラとは違う圧倒的な力を見せつけていた。
「これが強化個体ですか。‥‥何とかしましょう」
空は拘束されていた時に、ナナレンジャーを寄せつけない強力な個体の存在を知らされていた。直に向き合ったことで、眼前の敵がそうなのだと悟らざるを得ない。
受け止めることを許さない底知れぬパワーが空を弾き飛ばした。
「貫け、オーキッド・スパーク!」
ホアキンは右手に握る雷光鞭の電磁波にあわせ、左手に握る紅炎のソニックブームで急所突きを狙う。
紫の稲光がデガスキメラに命中して巨体をふらつかせる‥‥が、そこまでだ。
長大な尻尾が唸りを上げてホアキンに襲いかかる。辛うじてかわしたものの、ホアキンの背中を冷たい汗が流れる。
参戦した奏歌が錬成弱体をかけたところへ、迅雷で接近した十夜が滝峰を突き出した。
「全速全開! シルバーグレイ・光迅穿!」
その切っ先もまた頑丈な鱗の前に阻まれてしまう。
「‥‥くっ強ぇな。‥‥だが、この程度で俺達は屈しない!」
いつにもまして、熱く燃える十夜。ポジティブと言うよりも、たがが外れているような印象だった。
「こうなれば一か八か、レインボー・アークでいくよ!」
シェリーは一度も成功していない切り札を選択した。
「‥‥成功、するのか?」
胸にわき上がる不安をホアキンはねじ伏せる。
「ここで今、やるしかないだろが!」
「行くぜ、皆!」
仲間達を奮い立たせようと、十夜が声を張り上げた。
「レインボー・アーク、セットアップ!」
シェリーの合図で、ラグビーの様な陣形からナナレンジャー達は駆けだしていく。
宙に放り投げたボールめがけて、シェリーが豪破斬撃の力を乗せて機械剣βを叩きつける。
赤い光を放つボールが、ホアキンの一撃を受けてさらに紫の光を纏った。
そして、シャーミィの琥珀色が、空の青色が、連携が続くたびに色が追加されていく。
「おっしゃ! 行くぞ必殺レインボー・アーク! お前も逝け!」
玲奈の急所突きを受けてボールは五色となる。
「‥‥っ! やはり重い‥‥練力を‥‥身体強化に‥‥!」
忍刀「颯颯」で受けた奏歌は、練成超強化で自身を支え、次へ渡すことに成功する。
「ヤツを倒す。俺達の力を合わせれば、絶対に、できるッ!」
十夜の滝峰が円閃を乗せてボールを斬りつけた。
向かい合わせた鏡の間で反射を繰り返す光の様に、仲間達の間をレインボー・アークが瞬く間に走り抜ける。
その軌道上、身を挺して守ろうと小型キメラが割り込んできた。
レインボー・アークは標的まで届かず、小型キメラを相手に込められていた破壊力を消費する。
だが、その威力は一瞬で小型キメラを四散させ、ほとんど減衰することなくその先へと突き進む。
レインボー・アークがコモドドラゴンに炸裂した。
迸る光の奔流は七人の力そのもの。七色の閃光が周囲を照らし、込められた力が、思いが、強大な敵を粉砕した。
事故車両の処理などは警察や消防に任せ、ナナレンジャーはようやくUPC軍基地までサーバーを持ち込むことに成功した。
「今回の戦いは厳しかったなぁ」
本心から玲奈が訴える。ウィルスを防ぐためのスーツは非常に頑丈で損傷は皆無だったが、装着した肉体は容赦のない衝撃にさらされて悲鳴を上げていた。
「‥‥頭が痛い、な‥‥なんか、朦朧としてる‥‥」
頑張りすぎた影響か、十夜が頭を抱えている。
「戦闘中もなぜかテンションが高かったようですしね」
奏歌の指摘に、自覚がないのか十夜は首を傾げた。
「‥‥え? なに? テンションって何の事だ?」
「健康診断でもしておきますか?」
職業柄か心配そうに空に促され、十夜は慌てて断っている。
「さっき知らされたんだが、みんなにいいニュースと悪いニュースがある」
マルコがどこかで聞いたようなフレーズを口にすると、7対の目が向けられた。
「特訓のためにナナレンジャーが不在だったというのにそれを避けて、警護の厳しい搬送中を狙ったことから、内通者は存在しないと情報部は納得してくれた。まあ、七人が力を合わせて撃退したのも大きいだろうな」
ナナレンジャーとしては今更ではあるが、ようやく正式に認められたらしい。
「奴らの侵略はこれからも続くに違いない‥‥これから宜しく頼むよ、お前逹」
珍しく神妙な表情で仲間を見つめるが、シェリーは相変わらずの上から目線のようだ。
「そうそうアンタ、掃除係は卒業だ」
シェリーがブルーの肩を叩いて微笑んだ。
「あ、コンビニのバイトに行く時間だ」
唐突に声を発したホアキンが、アトラクションと誤解したままそそくさとこの場を後にしてしまう。
いささか、あっけにとられて7人はそれを見送った。
「それで、おに‥‥あ」
「鬼ってなんだ?」
マルコが問いかけると、シャーミィはマルコを兄のように感じていると告白する。どうも『お兄ちゃん』と呼びそうになるらしい。
「好きに呼んでいいぞ、妹」
「それなら、お兄ちゃん? ニュースってさっきので終わり?」
「悪いニュースが残ってる。今回運んだサーバーはダミーなんだ。あの時点ではその事を教えるほど信用してもらえなかったらしい」
衝撃の真相に、ナナレンジャーからは不満がぶつけられた。苦労しただけに、当然の反応だろう。
「まだ、疑われていたんだ‥‥」
シャーミィは上層部に怒りを向けながらも、仕方ないと飲み込むことにした。
マルコの話はまだ終わっていなかった。
「サーバーはあのビルの地下に残したまま解析を進める予定だ。都市攻略を目的とするデガスキメラに対抗するため、こちらの拠点も都市部に置いておきたい。そのためにも、サーバーを搬出したフリをする必要があったんだ。ナナレンジャーの活躍も無駄じゃないってわけだ」
これからしばらく後――。
例のビルは『ULTタウン』という名前のレジャービルとして生まれ変わる。
全ては地下にあるナナレンジャー基地の存在をカモフラージュするためだった。
ビル内には『レインボー』という名のレストランが開かれ、ウェイトレスやウェイターとして働くナナレンジャーの姿が目撃されることとなる。