●リプレイ本文
●ナナレンジャー集合
前回から引き続き参加した5名に加え、新規参加の2名がこの場で顔を合わせた。
「‥‥戦隊ものですか。撮影は初めてですが‥‥また、よろしくお願いします」
奏歌 アルブレヒト(
gb9003)はマルコ・ヴィスコンティ(gz0279)ともすでに面識があった。バレンタインの輸送依頼で共に機首を並べた仲だ。
彼女の希望色を聞いてマルコが首を傾げた。
「‥‥ウィスタリア?」
「藤色と呼ばれる色です」
マルコは初めて聞いた色名だったが、青紫という表現が近いらしい。
「辰巳 空(
ga4698)です。よろしくお願いします」
同じく新メンバーとなる彼も皆と挨拶をかわしていた。年度末は色々と忙しかった空は、進級を果たせたので、ストレス解消の意図もあってこの依頼に参加していた。
「久しぶりの‥‥撮影ですか‥‥」
撮影依頼への参加経験もあるらしく、1話の撮影状況について詳しく尋ねている。共演者のキャラを把握し、撮影に役立てるつもりのようだ。
「他の人風邪で休んだの? え? 替わりをあたしが? マルちんは! マルちんは何処だー?」
脇役で参加した火絵 楓(gb0095)が騒いでおり、マルコが声をかけた。
「無理に誘ったわけじゃないから、嫌ならやめてもいいぞ」
冷たくあしらわれて、楓が悔しそうに膝をついてうなだれる。
「マルちん‥‥。芝居がしたいです」
何かのパロディらしい小芝居で楓が話を締めくくった。
「これは私のカツラやろ?」
三島玲奈(
ga3848)の問いかけにマルコが頷いた。カツラは本人の髪型と同じ形状なのに、なぜか彼女は満足げだった。
「ULTタウン発展の為にも他の番組とのコラボというのはどうだろう?」
シェリー・ローズ(
ga3501)からは早くも、他ヒーローとの競演を望む声があがった。
「悪くはないが‥‥、いろいろと難しいだろうな」
設定的な整合もあるし、各権利者との調整も必要だ。マルコ本人も他の特撮に関してそれほど詳しくない。
「ナナレンジャー自体に魅力がなければ、相手には断られる可能性があるぞ。今は目の前のことに集中してくれ」
●UPC軍基地の攻防
「命を賭けて戦った所で、待っているのは冷たい手錠なのね。別に良いけど、人生、こんなもんよね‥‥」
ユーリア・パヴロヴナ(
gc0484)が嘆く。
彼女は現在、無機質な尋問室で情報部員による追求を受けていた。
「高見沢がバグアの元でキメラ研究を行っていたことはこちらでも掴んでる。なぜ、殺した? 口封じのためか? 何を目的にあんな事件を起こしたんだ?」
ヤマダを名乗った男は冷徹な表情を崩さず、ユーリア達をバグアに組する者として疑っていた。
ユーリアは力無く首を振って応じる。自ら進んで情報を明かさないのは遅滞戦術らしく、彼女なりの抵抗だった。バグアと見なされるのだけかたくなに否定していたが。
「感染した被害者達は今も病院で苦しんでいるんだ。罪悪感を感じることもないのか?」
椅子を蹴り倒してユーリアが立ち上がる。
「ざっけんな! こっちはむしろ被害者だっつうの!」
怒りの感情を露わにしたかと思いきや、実際はその逆らしい。
「ぶええええん!!」
彼女は盛大に泣き出していた。
要(
ga8365)の尋問部屋には、ビデオと一緒にテレビ台が持ち込まれた。
モニターに映し出されたのは、ウィルスに冒されてベッドに倒れている傭兵の姿だった。
傍らにいた医者は空だ。UPC軍から依頼を持ち込まれた彼は、生物災害を心配してこの基地へ駆けつけていた。
『およよよっよよお〜』
いささか芝居がかった調子で見舞客が泣き崩れる。
マイクが眠り続ける楓のつぶやきを拾っていた。
『あんな訳わかんない奴‥‥このあたしが一撃でぇ‥‥』
意識もないというのに、楓の心は今もキメラを相手に戦っている。
人並み以上に道徳心を保つ要が、それを見て胸を痛めないはずがない。
表情を翳らせた彼女へ、尋問官が笠にかかって問いつめていく。
先日のデガスキメラ出現時、スーツ着用者以外にも幾人かの傭兵達が居合わせた。直接戦闘によって感染した楓や、一般人の避難誘導を行っていた奏歌のことだ。
「それで、疑われた彼らは尋問を受けているのですね‥‥」
事件の経過を知るために訪れた彼女は、その事実を初めて知らされた。
(「捕まる事は、していないはずなんだけど、な‥‥」)
希崎 十夜(
gb9800)の認識は正しいが、尋問官はそう考えていなかった。
「あんな被害者を生んだ責任をどう考えているんだ!」
「だから、キメラを倒してワクチンの精製を計る。‥‥それが俺の責任の果たし方です」
「貴様の家族だって地球人だろう? お前の姉がこんなことを知ったらどう思う?」
「姉!? 姉にだけは黙っていてくれ! 殺される!」
トラウマを刺激されたのか、反射的に狼狽えたことを口惜しく想いながら、彼は不機嫌そうに顔を歪ませる。
「‥‥何度も同じ質問をしやがって。‥‥いい加減怒るぞ?」
発端は売り言葉に買い言葉だ。
長い髪を斬ると脅された玲奈は、むしろウィルス検査用のサンプルにくれてやると応じた。その結果、長かった彼女の髪は、バッサリと切り落とされた。いささか自業自得の面もあるが、この怒りが後に『虎のカーキー』に発展するのだから、世の中というのはわからない。
この部屋でモニターが映しているのは、『黄ーセル!』だの『道、レ、ミファ、頓、堀♪』だのと、ノリノリで戦っている玲奈だった。
「これが真剣に戦っている者の態度なのか?」
「表面的な職業は大道具製作業兼漫才師なので、普段から持ちネタの一つとして戦隊モノを演じていました。親バグア派との言うなら接点を見つけて下さい」
「くっ。‥‥貴様の説明通りなら、着替えについて話し込んでいて、高見沢は死んだんだぞ! なんとも思わないのか!」
玲奈自身もその光景を忘れられずにいる。だから、次からは着替えをためらわないつもりだった。
男の罵声は、玲奈が幼い頃から世話になった小隊長にまで向けられた。
「自作自演で英雄気取りか? あんなガラクタまで準備しているとはな」
傭兵達から取り上げたスーツを嘲笑され、シェリーの視線に炎が宿る。
「アレは爺さんが命を賭けて作った代物だ、お前達壊したら承知しないからね!」
その気迫に思わず身を引いてしまった男は、苛立ちを露わに言い返す。
「これだからバグア側の連中は‥‥」
「もう一度、アタシを薄汚いバケモノと同類にしたら‥‥アンタ消すよ」
今度視線に込められたのは明確な殺気であった。
理不尽な境遇にあった傭兵達に、意外なところから救いの手が差し伸べられた。UPC軍基地へ、デガスキメラが襲撃をしかけたのである。
●七色の戦士達
シェリーの元を訪れたヤマダが、現状を告げてデガスキメラの撃退を依頼した。
「生身ではキメラに接近することもできなかった。お前達の言葉が事実だというのなら、それを証明してもらおう。状況を考えたなら、敵の狙いもお前らのはずだからな」
「バケモノはアタシ達が片付けてやるが‥‥正規軍士官並みの待遇と専用基地が条件だよ」
転んでも只では起きない性格らしく、シェリーもまた要求を突きつける。
「報酬は出す。だが、専用基地など俺の権限外だ。約束はできん。疑いを晴らそうともせず、ウィルスに感染したいというなら好きにしろ」
ヤマダは先ほどの尋問官とは格が違うらしい。
手強い相手だと察して、シェリーも妥協するしかなかった。
「仕方ないね‥‥。だけど、戦いで生じた被害にまでは責任持てないよ」
デガスキメラの近くまで駆けつけた傭兵達は、手近な場所へ飛び込んでスーツの着用を行う。
「あんなに人を疑っておいて、まあ、良いわ」
妥協ではなく、諦めの境地で、服を脱ぎ捨てていくユーリア
「‥‥ナントか、カントかー」
『スターター』を起動させると、彼女の身体をビリジアンのスーツが覆い隠していく。
シェリーは花瓶に飾られてある薔薇を放り投げ、舞い散る薔薇の花弁で体を隠して、その言葉を口にする。
「変身!」
玲奈は自前の防寒マフラーとハリセンで身体を隠しつつ装着を行った。
「横着」
迅雷でどこかへ駆け込んだ十夜も、変身を終えてこの場に駆けつけた。
「閃剣の騎士、シルバーグレイ、参上ッ!」
相変わらず覚醒によるテンション上昇が激しいようだ。
「薔薇より生まれし美しき戦女神、七色戦隊ローズピンク華麗に参上!」
シェリーは腕を組んで挑発的な登場ポーズを取る。
「仄暗い湿地帯から泥水のごとくコンコンと湧きだした哀の使者。人呼んで、ヘヴィ・ダウナー。ビリジアン!」
決めポーズをとろうとしたユーリアだったが、面倒になったのか途中で投げ出してしまう。
さらに、スカイブルーこと要と、カーキーこと玲奈が並び、5人の戦士がキメラの前に立ちはだかった。
「今日の俺は‥‥一切微塵も容赦無いぜ」
十夜は尋問への苛立ちを、眼前の敵にぶつけるつもりだった。
「さあて、たっぷりとお仕置きしてあげようじゃないか!」
シェリーの言葉を合図に、5人はクワガタデガスキメラと2体の小型キメラへ挑みかかった。
「奴らの容疑はまだ晴れたわけではないし、裏切る可能性も残っている。そこで、連中とは別の傭兵にも参加してもらいたい」
「それが奏歌達ですか?」
奏歌の疑問にヤマダが頷いた。
「機械を調べていた人間が誤って装置を稼働させてしまい、連中の説明がおおむね正しいことはわかっている。そこで、君らもこのスーツで戦ってもらいたい」
「私たちをモルモットにするつもりですか?」
これは空からの質問だ。
「否定はしない。だから拒否するのも君らの自由だ。どうする?」
ヤマダは言い繕うことなく、決断を二人に委ねた。
そして、二人はこの依頼を引き受けたのである。
人気のない一角で覚醒した奏歌は、超機械「ザフィエル」の電磁波を調整して輝かせる演出で、自らの肌を隠す。
「‥‥抗着。‥‥カラーコード、ウィスタリア」
同じく変身を終えたプルシャンブルーの空と共に、奏歌は戦場へ向かった。
ユーリアはガトリングシールドを抱え、物陰から控えめに発砲している。
「私は‥‥どんな‥‥負け‥‥ぃ!」
何か言っているらしいが、轟く銃声に覆い隠され、誰の耳にも届かない。
玲奈の振り回すノコギリアックスの刃が、小型デガスキメラのハサミと打ち合わされる。
「わてに理髪店の鋏より怖い物は無い。お前の鋏が何ぼの物じゃ!」
先の断髪が心理に影響を与えているようだ。
戦意過剰だった十夜は強引な攻めが祟り、クワガタデガスキメラのハサミに捕らえられ、ギリギリと締め上げられている。
交戦中の5人は奮戦しつつも劣勢に陥っていた。前回共に戦ったメンバーが別な場所で尋問を受けており、単純に戦力が足りないためだ。
しかし‥‥。
瞬速縮地を使用して飛び込んできたプルシャンブルーの人影が、十夜を締め上げるデガスキメラに衝撃波を叩きつける。紅蓮衝撃と真音獣斬を併用したその技の名は、『プルシャンブルー・アークウェイブ』。
怯んだデガスキメラに向けて、ウィスタリアの人影が超機械「ザフィエル」で電磁波を浴びせる。
「‥‥あれが新型キメラですか。‥‥スーツの耐用時間は10分‥‥早めに勝負をつけなければ‥‥いけませんね」
この二人がどんな人物かわからずとも、装着しているスーツが仲間の証であった。
5人の傭兵は再び7人となってデガスキメラへ挑む。
検査中だったスターターを捜すのに手間取り、要は武器を回収することができなかった。
「たとえ、武器がなくたって‥‥」
代わりにデガスキメラの前に身を晒して、注意を引きつけて彼女は仲間を援護する。
迅雷で接近した十夜が、円閃での攻撃を繰り出した。
「全力全開ッ、シルバーグレイ・雷幻閃―! 連打連打連打ぁぁぁ!」
そこにシェリーの咆哮も重なった。
「ローズピンク・シャイニングハート!」
豪破斬撃と急所突きが炸裂し、機械剣αのレーザーが小型デガスキメラを貫いた。その一瞬だけ、ハート型の赤い光が生じる。
「アタシ達に逆らうのは十年早いのよ」
自信たっぷりな態度ではシェリーはキメ台詞を放っていた。
発砲を続けているうちに、ユーリアの心境に変化が生じた。
「弾、弾持って来い! あたしの前に出て来た事を後悔させてやる! ふは、ふははははっ!」
彼女は笑いながら、小型デガスキメラへ制圧射撃を放つ。
飛び出した玲奈が、前回出し損ねた技に挑戦する。歌を口ずさみつつ、手にした煙管刀でドレミファ急所突きを成功させた。
さらに、小銃「シエルクライン」へ持ち替えると、怒りのカーキー・颪撃ちを叩き込む。
「必殺! ビリジアン・ナントカ・カントカァー!」
強弾撃を使ったユーリアがドカドカと弾丸を撃ち込み、小型デガスキメラを蜂の巣に変えた。
空の天剣「ラジエル」を硬い外殻で押し返して、デガスキメラが奏歌に迫る。
忍刀「颯颯」でハサミを受け流し、奏歌はすれ違いざまに練成弱体を使用する。これによって、空のラジエルはあきらかに手応えを変えた。
今がデガスキメラを葬るチャンスと見て、空は先ほどの必殺技を繰り出した。
「プルシャンブルー・アークウェイブ!」
どんな縁によるものか、電波増幅を使用した奏歌の必殺技もよく似た名前だった。
「‥‥これで終わりです。‥‥ウィスタリア・オーバーウェイブ」
クワガタデガスキメラの腹部が真一文字に切り裂かれ、傷口の内側は電磁波によって焼き尽くされた。
彼らの奮戦は、彼らへの評価を覆したようだ。兵士達の賞賛が心地いい。
「また‥‥やってしまった‥‥」
ユーリアだけは、自分のトリガーハッピーぶりに落ち込んでいた。
「2体目のサンプルが手に入ったのだから、ワクチンの研究も進むはずです。しかし、デガスキメラが非常に危険な存在なのは変わりません。私もあなた達と共に戦いますよ」
空の言葉に、奏歌もまた頷いた。
「お前達の言葉は正しかったようだな」
戦闘が終わってから現れたヤマダは、傭兵達から向けられる厳しい視線にもまるで動じない。
「お前達にはこれからもデガスキメラを相手に戦ってもらう。対デガスキメラ部隊、名前は‥‥そうだな、七色戦隊というところか」
これが通称、ナナレンジャーの誕生した瞬間であった。
しかし、勝利に終わったとは言え、戦闘の経過を振り返ったシェリーは、懸念を抱かざるをえなかった。
「それぞれの個性と言えば聞こえはいいが、やはり烏合の衆では駄目だねぇ‥‥」
●次回予告
ほとんど面識のない者が集まった七色戦隊。
彼らは来るべき戦いに備え、互いを理解し、連携を磨かなければならない。
未知な部分の多い抗体スーツについても、平行して調査と研究が行われる。
デガスキメラ出現の報告を受けて、初めて出撃したナナレンジャーが遭遇する予想外の事態とは?