●リプレイ本文
●砂漠の地で
「寒い所の次は暑い所か、そのうち風邪でも引きそうだな」
「極地から極地へ、傭兵も大変ね」
ジャック・ジェリア(
gc0672)とミンティア・タブレット(
ga6672)が、戦場に縛られない傭兵ならではの悩みを口にする。
「あ? 何すかこの砂漠? 極寒の地は何処行ったんすか?」
紅月・焔(
gb1386)のセリフは現実逃避に類するものだろう。
「不味いな‥‥。砂漠は消耗が激しい。‥‥長時間になると危険だ。俺にやり通せるだろうか? ‥‥女性陣の観察」
深刻な声色で口にした結論はそんなものだ。何よりもガスマスクが暑さの原因なのに、彼には外すつもりがないらしい。
「アリスも来てくれれば、『ときめき』もあったのになぁ」
結局、本人に断られたのをジャックは残念がる。言葉ほどにも執着していないので、あくまでも物足りないといった程度だったが。
「ずっと寒くて‥‥冷え性の私には少しつらかったので、少し避寒に来ました」
状況を好意的に捉えているのは、カンタレラ(
gb9927)一人のようだ。
「今回も、よろしくおねがいしますねっ」
「うん。よろしくね」
親しくしているアリエーニ(
gb4654)へ声をかけると、彼女も笑顔を返してくれた。
(「気分転換? 暖かい? いやいや暑すぎるッ。何でこの依頼を受けたんだろ、まぁそんなこと今更考えても仕方ないか」)
引き受けたことを後悔しつつも、ユウ・ナイトレイン(
gb8963)は気を取り直す。
「‥‥まぁ、頑張ろう」
「弱音を吐いたところで、カロリー消費するだけ無駄だわ‥‥」
ゴールドラッシュ(
ga3170)がこの依頼を受けたのも損得勘定によるものだ。安すぎる仕事は論外として、高額であっても危険すぎては割に合わない。
「‥‥結局この手のキメラ退治が、トータルで考えると一番美味しいのよね」
「それぞれの捜索範囲も決めておきたいですし、この近辺の地図を入手しておきましょう」
探索の前に、優(
ga8480)が事前準備を促した。
「天気が崩れる予兆がないか、街の人に尋ねておきたいですし」
意図を察した須佐 武流(
ga1461)がその提案に頷いた。
「‥‥そうだな。雨ということはないだろうが、砂嵐なんかは避けておきたい」
●太陽の下で
ゴールドラッシュがブレーキを踏むと、ジーザリオは砂漠の真ん中で停車した。降車したのはA班の5名である。
「まずはこの辺りからですね‥‥」
優はキメラの目撃地点を境に、東側をA班で担当し、西側をB班に任せることにした。
「広く散った方が見つけやすいとは思いますが、お互いのフォローができる距離は保つようにしましょう」
「なあ‥‥、そんなマスクしていて暑くないか?」
「暑いけどガスマスクは外さない」
ジャックの質問に対し、やせ我慢のようにつぶやく焔。
「‥‥暑いけどガスマスクは外さない」
なぜか繰り返された言葉が、余計に限界を感じさせる。
「脱水症状にならないように、水分の補給だけは怠らないようにしましょう」
優が水の補給を口にするのも無理からぬことだ。
「水だけは多く準備していますからね」
ミンティアだけでなく、各人が持ち込んだ水のタンクが車には積まれている。砂漠を横断するわけでもないので、十分に足りるはずだった。
ラウラ・ブレイク(
gb1395)と武流が持ち込んだジーザリオも停車中で、乗っていたB班も現在は探索にあたっている。
砂漠と言っても平坦ではないため、起伏で視界がふさがれており、カバーするためには歩き回るしかない。
「それにしても熱い‥‥暑いじゃなくて熱いですね。‥‥AU−KVだと少しはマシかな?」
炎天下での捜索だが、ドラグーンのアリエーニはまだ恵まれているようだ。
「暑い。‥‥けど砂漠での訓練に比べればピクニックね」
ラウラは過酷な訓練を思い返して、まだ恵まれていると判断する。
「向こうでは次のポイントに移動するみたいだね」
ユウの無線機には、A班の優から随時連絡が入るため、互いの状況は把握できていた。
「連中の接近は‥‥、足元の砂が妙な動きを示したり、不自然な山が出来ていたりとかでわかるかもな」
キメラの痕跡を見つけるべく、武流は砂に注意を払うのだった。
砂を振りまきながら、砂ウツボキメラがA班の前に姿を現す。横幅が薄く縦に長い砂ウツボが、尻尾を支柱として傭兵達の頭よりも高い位置で身体を支える。
前衛を引き受けた優が敵に先んじて動いた。月詠と機械刀「凄皇」で二段撃と、さらにソニックブームを仕掛けて優位をもぎ取った。
彼女をフォローする様に、ゴールドラッシュはバビルサで、焔は壱式で斬りつけていく。
キメラは己の体を武器に前衛を払いのける。
後方に位置していたジャックが、特製ロングバレルランチャーの「ヤクトカノーネ」で制圧射撃を行った。このまま取り逃がして、余計に歩かされるのは彼としても避けたいのだ。
「昼飯持ってくるの忘れたしな、手早く片付けて俺の栄養源になってもらう!」
という事情もある。
「私はレーションだけど、ここで倒すのには同意するわ」
ミンティアがエネルギーガンを撃って、前衛陣に反撃のチャンスを作り出す。
ウツボによる牙を受けながらも、優達のふるった刃が砂ウツボに傷を負わせていった。
「こう見えても‥‥俺は『煩庸型』なんでね‥‥」
煩悩に支えられる焔は、近・中距離に合わせて、武器を使い分けてキメラに出血を強いる。
絶命した砂ウツボは、砂上に倒れて動かなくなっていた。
「‥‥残念だったな。俺は女性陣の数によって戦闘力が上がる。それが煩悩力者YO! ‥‥ん? 車はどっちだ?」
戦いで方向を見失った焔に、コンパスを手にした優が指さして見せた。
「あっちのようですね」
「まずは車を取ってきて、こいつを積んでおこうぜ」
一体目の収穫ということもあり、ジャックが楽しそうに口にした。
●熱に焼かれ
車から離れているため、B班はアリエーニが持参したビーチパラソルの日陰で涼んでいた。
「あふ‥‥、おいし‥‥」
水で喉を潤すと、カンタレラは日焼け止めを塗り直す。大きめのハットも被っており日焼け対策は万全のようだ。
キメラを仕留めたとA班からの通信が入り、彼らも再び腰を上げた。
「やはり、車の音では反応しないのか‥‥」
徒歩では探索の効率が悪いため、思わず武流がこぼしてしまう。
「地道に探すしかないよね」
意図的に足音をたてたラウラは、小さな震動を感じて眉をひそめる。
「下で何かやってる! 気を付けて!」
眼前に生まれた隆起が、砂をこぼしながらさらに高くなり、B班も攻撃を開始する。
「こういう系統は無駄にしぶといから中枢を破壊して!」
皆に告げてラウラが大剣のツヴァイハンダーを振り上げる。
持参したゴーグルを装備して目を守り、ユウも二刀小太刀「永劫回帰」を手に斬りかかった。噛みつこうとするキメラの牙をかいくぐり、彼は流し斬りで体表を切り裂いた。
武流の方は脚爪「オセ」による蹴り技を主体に戦っていた。ミドルキック、ローキック、回し蹴り、膝蹴りと、角度や間合いに合わせて様々に使い分ける。
「ここならほとんど動かないでしょう!」
ラウラが狙ったのは、キメラが動くための支点でもある、尻尾の生えている根本だった。回り込んで流し斬りを行うだけでなく、さらに背骨を狙った両断剣が尾を断ち切っていた。
砂上に落ちた砂ウツボは、短くなった尾でビチビチとはね回ることしかできず、とどめを刺されてしまう。
「砂漠じゃ防護服でも着ないとだめね、全身砂まみれだわ」
というラウラの言葉は、戦いそのものに危険が少なかったためだろう。
最初の遭遇こそ早かったものの、その後、A班ではさっぱり発見が途絶えてしまった。
『昼食の確保状況は如何?』
ラウラからの質問にも、彼らは収穫なしと答えるしかない。
成果と言えるのは、焔が同行者の姿を眺めて愉しめた程度だった。彼に言わせると、手にした軍用双眼鏡は遠・中・近とオールラウンドに対応できるため、女性陣を見るには非常に有効だとかなんとか‥‥。
この後、B班では連続して2体倒したという連絡が入ったため、A班は猟場を変えることにした。
接触例の多い西側の探索に彼らも加わることにしたのだ。
「また来るよっ!」
ビーチパラソルにつけた鈴が鳴り出したことで、持ち主のアリエーニは地中の振動を察知する。
距離をおいたまま、ユウのソニックブームが命中させた。覚醒によって彼を覆う水や氷の幻影が多いのは、すこしでも暑さを紛らわせるためだ。
低い姿勢から前頭で殴りつけてきたキメラを、武流が受け止めていた。ひっこ抜こうとした武流は、キメラに力比べを挑む。
自重を支えている尾は抜けたりしなかったが、武流が体を押さえる隙に皆が攻撃を集中させた。
特にアリエーニにとっては非常にありがたい。AU−KVオフロードセッティングであっても、砂地での高速戦闘は難しく、鬱憤が貯まっていたのだ。
「これならできそう! 行きますよーっ!」
尻尾に剣を突き立てた彼女は、キメラの体表で装輪走行を試みる。ハミングバードの刀身がキメラの体を長く深く切り裂いていく。
キメラが痛みに悶えたことで、もとから不安定だった彼女は簡単に砂の上へ放り出された。
「装備を減らしてでも、調理器具をもってきたんだもの‥‥!」
面白い敵ではあるが、カンタレラは戦いの続行よりも、倒して食材にすることを優先した。
武流の肘打ちをかわしたキメラが、身体を伸ばして身体に巻きつけていく。
強力な締め付けを武流は力ずくでふりほどくことができず、敵と接触した状態で機械巻物「雷遁」を使用することに踏み切った。武流を締め付けていた力が緩み、ほどけたキメラの身体は砂上に崩れ落ち、二度と動くことはなかった。
A班は西側での探索開始後、すぐにキメラと戦闘状態に突入した。
優のソニックブームによる攻撃が、何よりも早く敵に炸裂する。
「大きさのある相手だけにパワー勝負をしても、潰されてしまうしね」
先ほどの戦闘経験も活かして、ゴールドラッシュはバビルサによる流し斬りで側面から斬りかかった。
ミンティアは優に対して練成強化を行って攻撃力を底上げする。キメラとの接触回数がすくないため、練力は多く残っているからだった。
銃声がキメラを刺激することを警戒し、ジャックは回復役のミンティアから距離をとるように務めていた。彼はゴールドラッシュに援護射撃を行って攻撃の手助けを行う。
優とゴールドラッシュはソニックブームでキメラを狙い撃つ。
巨大な顎を開いたキメラが焔の身体に噛みついた。ぎりぎりと牙が身体に食い込んでいく。
即座にミンティアが錬成治療を施して回復させる。
動きを止めたキメラは、残る傭兵達にとっては巨大な的であった。刀身や刃がその身体を傷つけ、ゴールドラッシュの流し斬りがとどめとなった。
彼らはもうしばらく砂漠を歩き回ったのだが、キメラは似たような場所に集中しており、もう残っていないものと思われた。
彼らの苦行もようやく終わりを告げるのだった。
●キメラを食す
街の広場に停車している3台のジーザリオ。キメラ退治を終えたA班とB班がこの場で再び顔をそろえていた。
ラウラとカンタレラは味を確かめるべく、準備を始めていた。ラウラは節約する必要のなくなった水をかけ、ウツボの砂を洗い落とす。カンタレラは身をさばくと、そのまま火を通して白焼きにしたてた。
「癖もあるけど、そんなに強くはないわね」
「少し油が多いのは、砂漠で生きるためかも‥‥」
味見をしたラウラとカンタレラは、食材として十分に活用できると評価した。
「砂漠のウツボ‥‥ねぇ。食ってもいいとは言っていたが‥‥。どうせ食うならウナギやアナゴの方がいいって‥‥」
「喰えるとは言ってたが美味いのかね? 毒じゃないってだけなら遠慮したい所だが‥‥」
武流は食用とすることに懐疑的で、ジャックの方は味次第らしい。
「戦場に出るなら何でも食べられるようにしといた方がいいわよ。ウツボ自体独特な味だけど、これなら楽しめると思うわ」
ラウラの差し出したウツボの白焼きに手を伸ばして、皆が思い思いの評価を下した。
「折角の屋外だし、大味な料理のほうが向いてるかな‥‥?」
カンタレラは持参した調理道具や調味料は脇に置くと、コンロの火で身をあぶりタタキから作り始めた。
「臭みはないけど‥‥、品数は多い方が楽しめるわよね」
ラウラは当初の予定通り、カレーで和えて炒める事にした。ついでに湯通しも。
白焼きで納得できたためか、ジャックも調理の輪へ加わっている。
「ウツボのスープでも作るか‥‥」
彼は、空きアルミ缶を二つに分解して短くし、飲み口を塞ぎ、細かい穴を開けて接続する。どうも調理器具から自作するらしく、中にスブロフを入れるとアルコールストーブを作り上げた。
「‥‥鍋持ってくるの忘れたぁ! 俺の飯がーっ」
根本的なミスに気づいたジャックが悲鳴を上げる。
「この鍋で良ければ、今の調理が終わった後で貸してあげる」
「助かるっ!」
SES中華鍋で2品目の山賊焼きに取りかかったカンタレラが申し出ると、ジャックは一も二もなく飛びついた。
「お、結構イケるわね」
ゴールドラッシュは先ほどの白焼きで十分だと感じたのか、自分でも火を通して焼き上げると、塩胡椒をふりかけただけでかぶりついていた。
「コラーゲンたっぷりで美容に良いとなれば、興味津々ですよっ」
やまじ湯浅醤油でタタキを食しながら、アリエーニが笑顔を浮かべる。
「美味しいですね、カンタレラさん♪」
キメラ料理を堪能する傭兵達の中で、手を伸ばさない人間が武流の他にも数名存在していた。
ミンティアが食べているのは、レーション「レッドカレー」。
優とユウは、同じ読みの名を持つだけでなく、好みも同じなのかレーション「ベジタブルパスタ」を口に運んでいる。
「これでやっと帰れるのか、ほんま暑かったな‥‥」
水で喉を潤しながら、ユウがしみじみとつぶやくのだった。