タイトル:橘薫と頼もしき先輩達5マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/02 23:22

●オープニング本文


「薫君。ちょっといい?」
 呼び止めたしのぶが一冊のパンフレットを差し出した。それはサンフランシスコ郊外にある傭兵実務訓練センターの紹介冊子だ。
「模擬戦? いまさら、やる気なんてないよ」
 彼は模擬戦を、『安全だから』という理由で低く見ており、有効性を認めていないらしい。
「これも依頼なのよ。ある人物に後衛としての役割を教えたいんだって」
「後衛?」
 偶然にも薫が取り組もうとしている内容であった。
「本人には気づかれないように、後衛として必要なことを教えておきたいらしいわ。模擬戦を通じて、やるべきことや、やってはいけないことを教え込むのが目的よ。あなたにも都合がいいんじゃない? 通常のセンター使用と違って、依頼料もそれなりに出るから」
 しのぶが告げた説明には、真実も含まれていれば、嘘も混じっている。
「どんな奴なの?」
「それは秘密。当人に対してだけ対応が変るのもまずいから、知らないままで対応してあげて」
 しのぶはセンターでの模擬戦についても詳しい説明を続けた。
 模擬戦は2つの形式で1試合ずつ行われる。相手チーム内にいる特定の人物を倒すという試合と、目的を達するために2班で競うという試合だ。
「班構成によってはやり方もかわるでしょうね。同じチームならフォローしたり、敵チームだったら厳しく弱点を突いたりね。薫君が後衛として模範的な行動を取れたら、その子も正しく理解してくれるんじゃないかしら?」

●参加者一覧

香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
榊 那岐(gb9138
17歳・♂・FC
ネージュ(gb9408
12歳・♀・HG
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG

●リプレイ本文

●センターにて

「奴の父親も甘いな‥‥」
 堺・清四郎(gb3564)はこの仕事の依頼者も橘薫(gz0294)の父親だろうと察しをつけている。
 戦力以前の状態だった頃の薫を思い返して、清四郎が肩をすくめた。
「‥‥まあ、俺も変わらんか」
 彼自身も薫を放っておけずに、ほとんどの依頼で同行しているのだ。
「久しぶりだね、薫君。今日は訓練という事だけど、これも依頼の一環だから実戦同様頑張ってみんなをあっと言わせようね」
「まあ、もともと手を抜くつもりもないけどね」
 香倶夜(ga5126)に励まされて、薫も頷いた。模擬戦を軽く見ているものの、彼は基本的に負けず嫌いなのだ。
「今日は美紅の脚を引っ張らないで欲しいのである」
「‥‥こっちのセリフだよ」
 煽るような美紅・ラング(gb9880)の言動に、薫も多少は慣れたらしい。
 他にも、榊 那岐(gb9138)やネージュ(gb9408)やエイミ・シーン(gb9420)など顔見知りが多く参加している‥‥と薫は思っているが、正しくは『顔見知りだから』参加していたのである。
 彼らは、薫の成長を確かめるという意図を持ってこの仕事を引き受けていた。そうやって気づかってもらえることが非常に恵まれたことだと、肝心の薫が知らずにいるのだが。
「貴方が、橘薫だな? エキスパートの綾河だ。よろしく」
「ああ。よろしくな」
 名乗った綾河 零音(gb9784)は、同年代とは思えない身長差が気になった。
(「ってか私、もしかして男に見られてない‥‥?」)
 表には出していないものの、彼女は自分の容姿を気にしているらしい。

 土を敷き詰められ、多くの障害物が設置された試合場に傭兵達は通された。
「パイドロス‥‥。静音性能を高めた強行偵察、特殊部隊向きか? バハムートみたいな強襲攻撃型は装甲厚いけど、こっちは装甲薄いな」
 すでに自分のAU−KVを持ち込んでいたランディ・ランドルフ(gb2675)は、熱心にチェック中である。
「シュリケンブーメランとか持たせれば忍者となりそう。けどレア度高いからなあ。シュリケンブーメランは」
 彼は今回の面子の中では珍しく、薫とは無関係に模擬戦目的で参加した人間だった。
 気の緩んでいるように見えた薫に、那岐や零音がソフトに忠告する。
「模擬戦と言えど戦闘行為です。頑張ろうね、薫君」
「私も特殊部隊に所属していたからわかっているつもりだ。本気でやらないと全く意味がないぞ」
 その程度ではおさまらないのが清四郎だ。
「いいか? 訓練を始める前に言っておく。‥‥訓練を舐めるな! 毎年軍では何人も訓練中に死んでいるんだ。甘く見ていると怪我ではすまんぞ! 所詮訓練と思ってる奴! 訓練もできん奴が実戦でそれ以上の成果を上げれると思うなよ!」
 薫とは違って、学ぶ気満々で加わっていたエイミは、清四郎の一喝に改めて気合いを入れ直していた。
「‥‥堺さんの言う通りです。どうやら、私が諭すまでもなかったようですね」
 今回の模擬戦を監督するジョン・フィッシャー先任軍曹が姿を見せた。古強者といった風格を感じさせるのに、物腰の柔らかい人物だった。
 彼は参加者のリストをパラパラとめくり、実力差を埋めるためのハンデを課していく。
「香倶夜さん、ランドルフさん、堺さん、シーンさん、ラングさんには砂袋を担いでもらいましょうか。ああ、堺さんだけは二つになります」

●1戦目

 薫が重要人物を引き受け、彼を守る4名がB班だ。実力の劣るこちらは、障害物の多いCゾーンから出発となる。
「私たちは教わる側として動くみたいですね! としたら全力でぶつかる気持ちでいかないとです」
 不利な条件をむしろポジティブに捕らえるエイミ。
「戦果をあげた者が一番偉いのである。そんな弱腰は美紅には不要」
 満足に打ち合わせようともしない美紅に、薫が呆れてしまう。
 彼女は反面教師となるべく参加しているのだから、その計画は順調と言えた。それが恒例となっているためか、薫と面識のある姉妹達の中で、美紅が薫要員として決定しているようだ。
 いつもは前衛をしている口にした零音は、現在薫の隣に並んでいる。
「ほら、後衛で支援も出来たほうがいいかな、と思って」
 彼女は偽の生徒役を演じるつもりでいた。

 それなりに警戒していたB班だったが、経験の差が出たのか先に相手を補足したのはA班の方だ。
「堺さん、たぶん薫君、この模擬戦を舐めていると思う。存分に『教育』してあげて」
 ベテランと直接対峙することで、そろそろ経験の差を実感してもらおうと香倶夜も考えていた。
「言われるまでもない」
 不敵な笑みで清四郎が応じる。
「敵司令官を仕留めれば勝機は見いだせる! ベルセルクモード発動。出撃する!」
 真っ先に行動を起こしたのはランディだった。竜の鱗で防御力をあげると、竜の翼で一気に肉迫する。

「来たよっ!」
 壁の陰から出現したランディにいち早く気づいたものの、エイミの言葉はわずかに遅かった。
 竜の爪で威力を増したランディの模擬イアリスが薫を打ちつけた。
 どうも、『薫を鍛える』という目的を忘れているらしく、速攻で勝負を決めにかかっていた。
 それを許すわけにもいかず、B班も応戦を開始する。
 彼を押しとどめようと、エイミの模擬ロケットパンチが炸裂する。建物の陰に陣取ったネージュもプローンポジションを使用して模擬弾を命中させた。
 ランディに続き、迅雷を使用した那岐もこちらへ襲いかかる。
「薫君、いきますよ!」
 その言葉もまたフェイクであり、彼の繰り出した円閃は、薫ではなく傍らにいた零音を狙った。
 美紅の龍滅銃「ジークフリード」による援護射撃を受け、零音の模擬デュミナスソードが那岐を襲った。
 模擬刀と模擬斧が打ち合わされ拮抗する。零音自身は後衛希望と告げていたが、B班は前衛担当者が乏しいため、そうも言ってられない。
「お前らそろって脇が甘いんだよ!」
 一喝して攻め込んできたのは、敵側のVIPたる清四郎であった。
 レイシールドで受け止め損ねた薫は模擬刀で打たれてしまう。
 美紅の援護射撃を受けた薫は、手にした「S−01」で反撃する。
 清四郎にはこの場で戦闘する意志はなく、すぐさま後方へ退いた。
 引きずられるようにそれを追ってしまった薫は、香倶夜の模擬弾を受けてすごすごと引き下がった。
 それなのに、薫と入れ違いに前へ出たのが美紅だ。巨大な飛び道具手に敵へ攻め込もうとする彼女へ、薫が制止の声をかける。
「戻れってば!」
「この銃は白兵もいけるのである。戦いは臨機応変なのである。後衛だからって白兵してはいけない理由は無いのである」
 自覚的に暴走している美紅は応じようとせず、仕方なく薫はその後を追った。

「機動性能はいいが、装甲が薄い。本当に特殊部隊仕様だな」
 エイミの攻撃がランディのレイシールドで受け止められた。
 ネージュの銃撃を好機と見て、エイミは身軽に跳躍すると上からランディに向かって模擬ロケットパンチを叩き込む。
「必要なら私も動かないとだよね!」
 ランディは応戦を切り上げて即座に身を翻す。
「この機体の機動力ならエースなみの行動力が手に入るんだ!」
 彼の目的は当初と変わっておらず、再び本来の標的である薫を追って駆けだした。
 射程から外れるのを許さず、エイミとネージュは後方から攻撃を加えつつそれを追った。

 那岐はB班の人間を盾として動き回る予定だったが、敵が分散したことでそうも行かなくなった。
 クルメタルP−38の撃ち出した模擬弾を、那岐は疾風を使って回避に成功する。
「避けて当てるのがフェンサーです、早々に当たりませんよ」
 那岐は斧の独特な間合いを活用して、今度は模擬刀による攻撃を受け流した。
 その場で回転した那岐は、零音に円閃で斬りつける。
 ここでフィッシャーからの判定が入り、零音は死亡判定となった。

 無防備に突出したところで香倶夜の的になるだけなので、薫は障害物の陰に身を隠していた。
 美紅も足を止めると、制圧射撃で香倶夜と清四郎を狙う。
「無理に攻めても返り討ちになりそうだ。二人だけじゃ手がないね」
 薫のぼやきに美紅が反発を示す。
「そんな弱気では勝てるものも勝てないである。今から手本を見せてやるのである!」
「行けば? 援護はするから」
「‥‥‥‥」
 煽ったつもりがあっさりスルーされて、美紅が驚いた。
「僕はVIPだから、これ以上は控えておくけど」
「やめておくのである」
 薫が自制できているなら、美紅としても無茶をするタイミングは選ぶ気になった。
 香倶夜は模擬弾で応戦し、清四郎は防御に徹して待ちかまえていたが、事態を動かしたのは別な人物だった。
 ネージュとエイミを引き連れたままランディが参戦し、薫達の無防備な背後へ接近する。
 ダメージを追った薫の替わりに、3人がランディへ攻撃を集中させ、退場へ追い込むことに成功する。
 待っていても無駄と考え、清四郎と香倶夜も攻撃に踏み切った。
 エイミと美紅が続けて討ち取られたことで、状況の変動に狼狽えた薫は、逆転するためにも敵のVIPを狙おうとする。
 短絡的な判断もそうだが、周りへの警戒が疎かになったことで、那岐の接近に気づけず一撃を食らって死亡判定を受けてしまった。

 フィッシャーからの一言。
「ラングさんには無茶な行動がありましたね。それに限らず、無茶な賭けに出るのも賢い選択ではありません。怯えて逃げることと、撤退することには明確な違いがあります。必要ならば躊躇なく撤退すべきです。考えることを投げ出さず、最後まであがくことを学ぶべきですね」

●2戦目

 ダメージは少ないのだが、皆の治療にあわせてしばしの休憩を取った。
 練力は減っているがほぼ万全の状態で、彼らは2戦目に挑むこととなる。

 両班は共にCゾーンから出発し、Aゾーンにあるアタッシュケースの奪取に向かう。
 薫はまたB班だったが、同じメンバーは零音だけで他の3人は入れ替えとなっていた。
「二兎を追うものは一兎を得ず。荷物を狙うのはやめておくか」
 先ほどと同じく敵の殲滅を優先したランディは、予想より早く敵と接触した。
 清四郎はケースを目指すB班に奇襲をかけるつもりでいた。彼にとって予想外だったのは、ランディもまた似たような行動をとったことだ。
 ランディの模擬イアリスと清四郎の模擬蛍火が切り結ぶ。
 それが発端に遭遇戦が拡大される。
「あれ、ケースは?」
「口を開ける前に撃つ! 本番なら喚いている間に死ぬよ!」
 薫の問いかけに、那岐は言葉だけを残して駆け去った。
 迅雷を使って清四郎に接近し、そのまま円閃で模擬降魔杵を叩きつける。
 清四郎の援護に回った美紅が制圧射撃を実行して、那岐とランディに模擬弾を撃ち込んだ。
 香倶夜も清四郎への攻撃に回ろうとしたが、そこへエイミの模擬ロケットパンチが飛ぶ。
「動き方によっては魅せる事も重要! なんちゃって♪」
 レイシールドを掲げながらも、香倶夜は予定通り清四郎への攻撃を優先して「S−01」を発砲する。
 三人の攻撃が清四郎を追い込み、エイミや美紅に対しては、零音と薫が牽制を行う。
 遂に清四郎に死亡判定が出て、一気に戦況は傾いた。
「ネージュを追うよ」
 後方にいたことでネージュの不在に気づいた薫が動こうとするが、零音がそれを止める。
「‥‥私が行こう。橘薫はこっちを頼む」
 後方支援を学ばせる機会なので薫をここへ残し、零音は自分が向かうことにした。
「引っかき回すから、落ち着いて狙って!」
 那岐はスキルを存分に使って美紅の狙いを撹乱する。彼が動き回る隙間を、薫の模擬弾が埋めるようにして、美紅を狙い撃つ。
 薫に倒されるのが悔しかったのか、美紅は最後の一撃を薫に向けて放っていた。
「手数はこっちの方が上なんだ。邪魔すんじゃねえ!」
 ランディの行動力だけでなく、香倶夜との二人がかりでエイミを追いつめる。
 寸前でランディ自身も行動不能になったが、香倶夜の一撃でエイミも同様の結果となった。
 この場に居なかった零音にも死亡判定が出る。エイミとの銃撃戦で敗れたらしい。
 香倶夜と那岐と薫が手分けして捜索を始めるが、ネージュはその隙を突いた。
 壁に身を潜めながら、3人の間を縫うようにして走り抜けたのだ。
 3方からの攻撃を受けても彼女は止まることがなかった。
 遮二無二駆け続けて、ネージュはケースを所定の場所へ置くことに成功した。

「2戦目では戦いに意識が集中しすぎて、ケースへの対応が疎かでした」
 フィッシャーが彼らに告げたのは、採点というよりは忠告に近いものだった。
「実戦において、戦いはあくまでも手段であり、目的ではありません。正規兵でないあなた方は、必然的に様々な依頼を受けるでしょう。くれぐれも、真の目的を見誤らないように気をつけてください」
 このアドバイスを締めの言葉として、模擬戦は終了した。

「改造による装甲強化が欲しいなあ。もっとも鉄くずにされるかもだけど」
 ランディは主目的であるパイドロスに対してそんな評価を下している。
「どう? 勉強になった? 上を見れば、キリはないけど生き残る為には日々の努力が必要だからね。あたしと一緒に頑張ろうね、薫君」
 朗らかに笑いかける香倶夜。同じエクセレンターということもあって、放っておけないのだろう。
「頑張ったね。方向性だけなら今回のやり方で間違いないと思うな〜」
 ネージュの言葉に那岐も頷いた。
「お疲れ様、薫君。援護射撃は美味くできていたんじゃないかな」
「どんな戦いでも乗り越えればそれが経験。積み重ねていくのが強くなる秘訣だよ」
 とこれは香倶夜だ。
「反省点があるなら、自主練でもやって改善に努めるんだね。私が特殊部隊だったころのやり方にこんなのがある‥‥」
 零音が詳しいやり方を説明していく。薫が実行するとは限らないが、知識を持っていれば他のトレーニング時にも役に立つだろうと考えたのだ。
「強くなりたいんだろ? 相当キツいだろうが、‥‥がんばれ薫」
 これが彼女なりのエールであった。
「お菓子食べながら、自分の反省点を見つめ直そうかなぁ」
 模擬戦を思い返すエイミが、薫に視線を向けて尋ねる。
「薫君も食べたい?」
「お菓子なんて子供っぽいよ‥‥」
 実際は甘い物好きなのだが、虚勢を張ろうとした薫に別方向から声がかかった。
「それなら‥‥、皆で一緒にご飯に行かないか? 奢るぞ?」
 と清四郎が誘いを口にする。 
「薫、お前も来い、訓練後に皆で食べる飯は美味いぞ?」

 一緒に汗を流した仲間との食事は、はやり美味かったという。