●リプレイ本文
●前日
「冬です! 雪です! おまつりです! 犬ではないですが喜んで駆け回っちゃうのですよ!」
「雪にまつり‥‥と来たら、楽しむしかないよね!」
体中から喜びを発している要(
ga8365)に、ライフェット・エモンツ(
gc0545)も心から同意する。
「最近沈みがちなので、元気、出させてあげられたらいいのですが‥‥」
カンタレラ(
gb9927)が気遣う視線を向けたのは、気分転換を目的にこの仕事へ誘ったアリエーニ(
gb4654)である。
「最近色々あったし、元気が出るようにめいっぱい遊ぶぞーっ!」
彼女の故郷では雪など当たり前の物なのだが、傭兵家業を始めてからは縁も薄くなっている。懐かしさもあって、アリエーニは期待に胸をふくらませていた。
「インパクトを狙いつつ、能力者と一般の方との間を埋める為に尽力しましてよッ☆」
ロジー・ビィ(
ga1031)達はルノア・アラバスター(
gb5133)のS−01Hで雪を積み上げてもらい、雪像作りを進めていた。
モチーフは要の発案でKV少女「テンタクルス」に決定した。ロジーは顔をオリム中将にしたいと主張したが、さすがに却下された。
「要、ライフェット。‥‥創るからには本気で行きましてよッ!」
彼女に言われるまでもなく、ライフェットは熱心にアーミーナイフで雪を削っていく。
「ふぅこんなもの、かな。あ、こっちがまだ」
下着の細部にまでこだわって、細かく、細かく‥‥さながら、求道者のごとく。
浅川 聖次(
gb4658)は雪合戦用に身を隠すための壁を作成中だ。
「これで‥‥よしっと。火絵さん、そちらはどうですか?」
「ふひ〜、さすが楓ちゃん。いつ見ても愛くるしいですにゃ〜、これを見た人は‥‥あたしの愛くるしさに〜、きゃ〜♪」
聖次と違い、火絵 楓(
gb0095)のシェルターは作品とも言うべき品だった。単純な長方形ではなく、鳥の着ぐるみ姿の自分の雪像が数体手を組んで居る形状だ。
「凝ってますねぇ」
聖次は賞賛で済ませたが、マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)は指摘しなければならない。
「条件が偏らないように、両チーム分頼むぞ」
「‥‥の、望むところなのにゃー」
「ミカエル」を着用して冷凍ミカンの埋設中だった鍋島 瑞葉(
gb1881)は、硬い氷に遭遇すると装備を替える。
「砕け散れ!」
紫電槌を叩きつけてズバコーンと氷を破壊した。
ミカン探しに客として参加するつもりの要は、視察も兼ねて作業に加わっていた。
「ダミーも、埋めて、おきたい」
オレンジ色のボールや小さなオモチャ類を持ち込んで、ルノアは皆の了承を取り付けた。ミカンと一緒に埋めておけば、意外なサプライズとして子供達を喜ばせることだろう。
「此処と、此処‥‥は、ダミー、かな?」
オモチャをあちこちに散らしたり、掘り返した跡を残したり、ルノアはバトルスコップを手に、宝探しを盛り上げようと工夫を凝らしていった。
雪像作りの担当班はもう一つ存在する。
カンタレラは愛機のリヴァイアサンで雪を積み上げて、アリエーニと共に制作を進めていた。
人面ミサイルに跨っている、白猫の着ぐるみ姿のアリエーニと、白虎の着ぐるみ姿のカンタレラ。さらに同サイズのリヴァイアサンだ。デフォルメ化したキャラクターで非常に楽しげな造形をしている。
ちなみに、『ミサイル中佐』の顔は誰かにそっくりだったが、アリエーニが言うには『特定の人物・団体・事件とはなんの関係もない』のであった。
UNKNOWN(
ga4276)が持ち込んだ機体はK−111改。
今回用に塗装を施してあるのだが、果たして気づく人間がいるかどうか‥‥。
いつもは黒い機体を、皆のアドバイスを参考に赤と白で塗り替えたのだが、一周回って機体の標準色に落ち着いたのだ。
カマクラ作りに精を出していた彼は、翌日の機体展示に備えて機体表面を念入りに磨いている。
同じく清掃していたルノアが、愛機にシートをかぶせて明日へ備えた。
●当日1
『新感覚癒し系屋台ドントコイ』
なにやら奇妙な店名を掲げて、奇妙な料理を作っているのは楓だった。
一人用の鍋に魚ベースの野菜スープとおにぎりを入れた『おにぎり鍋』や、紙コップ版の『おにぎり汁』を販売していた。具の中にはなぜか、メンマやサルミアッキまで混じっている。
「おにぎりは事前に準備してあるから、出すのは早いよ〜」
と言いつつも、メンマの作り置きは我慢できないのか、ごま油でひき肉と一緒に炒めていた。
興味深そうに眺めつつ、要もおでんを煮込んでいる。
具の種類も多かったが、自分で食べることを考えて、お気に入りの大根、たまご、はんぺんが特に多い。
K−111改の希少価値は高いのだが、逆に言えば、マニア以外への知名度は非常に低いのだ。
参加依頼で何度も『知らない』と言われた事実に、UNKNOWNは少しばかり傷ついたらしい。
「この機体はつよいんだぞー。かっこいいんだぞー」
愛機の知名度を向上すべく、機体の見物に来た子供達へキャンディ配りまでしている。彼らしくないとも言えるが、それだけ本気で臨んでいるのだ。
「以前提案させて頂いた雪合戦が行われるとのことで、ワクワクしますね」
発案者でもあるため、もちろん聖次も参加する。
瑞葉とのコンビで、楓制作のオブジェ風シェルターに身を隠す。
雪玉を応酬していたが、痺れを切らした瑞葉が雪玉を抱え鬼の形相で突撃する。
頭数を活かした挟撃を受ける瑞葉。
「やーらーれーたー!」
大げさに叫びながらくるくると回転する。退場するのをもったいなく感じているのか、試合場に伏したままとどまっていた。
「すでにわたしは道端の石と同じ。気にしてはいけません。ふ、まるで悪党ですね‥‥」
相手の移動を阻害するための障害物と化した彼女は、この後に降りかかる危難を知らなかった。
雪合戦に夢中の参加者達は、彼女が言ったとおり路傍の石として扱い、踏んづけたり蹴っ飛ばしたりしていく。
挑戦者チームに旗を奪われてしまったが、聖次は柔らかに笑って相手を賞賛した。
「やられてしまいましたね、御見事でした」
「そうですね。私も同感です」
雪まみれのまま瑞葉も微笑んでいる。泥ではなかったので、洗濯すればなんとか汚れも落ちることだろう。
『ヨクキタナ、コゾードモ!』
スピーカーの音声に驚いた子供達は、周囲を見渡した後で改めてKVを見上げる。
『オレカ! オレノ名前ハ、アニキ・ザ・リヴァイアサン! 今を、トキメク、KVヨゥ!』
愛機に搭乗しているカンタレラは、キャノピーを覆って姿を隠し、パイロットではなく『KV本人』として振る舞っていた。
これまでのKV展示において前例はなかったが、客へのアピール度が極めて高い手法と言えるだろう。
まるで、自動で動き話しているようなKVに子供達が驚きと興奮を見せている。
「ふふ、これで『けーいち』さんに勝てるわ!」
カンタレラが口にしたとおり、K−111改にとって恐るべきライバルの出現であった。
「よしよし、良くお一人で頑張られましたわねー!」
迷子を見かけたロジーがにこやかに笑いかける。
ぐずついている少年を、彼女は自分が制作した雪像の前へつれてきた。
「今、面白い物を見せてあげますわ」
内部に埋め込んでいた花火に点火すると、ジェット噴射のように勢いよく火花が噴出して、テンタクルス少女を彩った。
たまたま遭遇したアリエールも、群衆に混じって歓声を上げていた。
「お父さん!」
迷子の子供が見物客の中に父親を見つけて駆け寄っていった。
「あったーっ!」
「こっちはボールを見つけたよ!」
冷凍ミカン探しに興じる子供達。雪で指先は冷たくなるし、お宝も大人向けではないため、参加者はバイタリティあふれる子供が多かった。
その中には瑞葉と要の姿もある。オモチャを掘りだしてしまった場合、子供達のためにそっと埋め戻しつつ、彼女たちは冷凍ミカン掘りに励んでいた。
●当日2
「それでは、説明を始めさせて頂きます」
普段の口調は説明に向いていないと感じたルノアは、覚醒を行って見物客の前に立っていた。
パイロットスーツに身を包み、19歳程度の外見とそつのない受け答えが、説明の信憑性を高めている。
「S−01のハイエンドタイプで非量産機となります。北米のエース部隊に憧れ乗り始めました。射撃戦のために重火器を搭載しており、ブースター使用での回避を主体として運用しています」
見物客に混じっていたライフェットが、人ごとのようにつぶやいている。
「このKVで、たくさんの人が、救われてるんだろうな」
自分が関わったところで、世界に影響を与えることはできないとこれまでの彼女は思っていた。
しかし‥‥、能力者の皆は優しく、彼らはとても眩しく、『今を生きてる』ように感じるのだ。
「ボクも強くなったら、みんなみたいになれる‥‥?」
彼女はルノアとS−01Hに羨望の視線を向けるのだった。
クリーム、あんこ、チョコレート、メンマを入れたミニかえでちゃん焼きも売られている。
裏メニューのサルミアッキ入りは、さすがに条件を満たした相手にしか提供しない。
『いちゃつくカップルの男』というのは条件に合致するらしく、楓は猫なで声で誘いをかけた。
「お兄さんには特別に甘くないのを上げるよ〜。ふひひひぃ〜」
ビミョーな味に悶絶する男を見てほくそ笑んでいる楓に、通りがかったマルコが厳かに宣言した。
「サルミアッキ入りを売るのは禁止!」
「マルちーんっ!?」
叫んでも、楓の懇願は聞き入れてもらえなかった。
「雪合戦に参加したいと思いますわ〜」
「能力者vs一般人、だよね。でも負けてあげる気は、ないよ?」
高らかに名乗りを上げるロジーと、自信を見せるライフェットが雪合戦に挑む。
さすがに全力で雪玉をぶつけるのは気が引けて、ライフェットも手加減はしていた。
攻め込んできた左翼にかまけているうちに、右翼が後方へ回り込む。
「とにかく、避けて、避けて!」
ライフェットの慌てた指図が、事態を悪化させる。
「はわっ!? つ、つまずいちゃっあぁ。か、かっこわるいあうぅ」
彼女めがけて投じられた雪玉を前に、ロジーは切り札を出した。
ロジー愛用のぴこぴこハンマーが雪玉を粉砕する。本人は華麗に打ち返すつもりだったが、惜しくも雪玉には強度が不足していた。
ピーッと笛がなって、ロジーに反則が言い渡された。
「そんなっ!? 覚醒不可以外、特に詳細ルールは決めていなかったはずですわ!」
ロジーの反論に、審判のマルコが言い返す。
「盾が有効だと、壁がある意味もなくなるだろ。ルールで明記していなくとも、道具で防ぐのは禁止だ」
マルコが無情なる宣言を下す。
「でしたら、持ち込んだ時点で言ってください!」
「使うとは思わなかったんだ」
「あんのんさん、こんにちはー。景気はどうですかー?」
訪れたカンタレラから注文を受けて、UNKNOWNは醤油と味噌で味を調えた芋煮を器に盛った。
彼女を案内したのは、彼が制作したカマクラのひとつだ。
七輪の金網に三角形のおにぎりを乗せて、彼が調理味噌を塗る。
カマクラの中に、七輪による温もりと、美味しそうな味噌の匂いが満ちた。
「ぜひ、味わっていってもらおうか」
UNKNOWNが気を配ったメニューを、カンタレラは存分に堪能させてもらうのだった。
キャンプファイアーで最初に曲が鳴り出した時は、恥ずかしがって誰も踊らなかった。しかし、何度目かの曲の時に数人組のグループが踊り始め、雰囲気がガラリと変わった。
今や、いつ曲が流れるか待ちかねているほどだ。
曲を耳にした要が、頬を染めつつ誘ってみた。
「あの‥‥マルコさん、一緒に踊っていただけますか?」
「よし。行くか」
キャンプファイアーそのものが彼女の発案なので、感謝の意味も込めてマルコは二つ返事で応じていた。
今では炎を囲む程に大きくなった輪の中へ、二人が並んで参加する。
瑞葉も着物姿で混じっており、学園で鍛えた踊りを披露していた。
見回り中に迷子を見つけたライフェットは、子供が苦手なため泣きやまない子供に困惑しつつ、迷子センターまで連れてきた。
「うにゃ〜ん♪ 泣いてないでかえでちゃんと遊ぶのだ〜。遊んでくれたらこのミニかえでちゃん焼きをあげるよ〜ん♪」
ミニかえでちゃん売り場は、迷子センターで臨時出店中のようだ。この頃、本店は臨時雇いのアリエーニが任されていた。
楓はイベントの度にこちらへ顔を出すので、子供の相手も手慣れたものだ。
泣きやんだ子供は、安堵しているライフェットの前に、半分に割ったかえでちゃん焼きを差し出した。
「‥‥あげる」
拙い感謝の印が、彼女に温もりを感じさせる。
「ありがと‥‥」
●そして、次回へ‥‥
冬まつりを終えた傭兵達とマルコは、ファミレスでの打ち上げ中だ。
「はふー、今日は、楽しかったよー♪」
ライフェットの感想に、皆が今日の出来事を振り返った。ロジーは自分が直に目撃できなかった話題に興味津々である。
要とアリエーニからは後始末に関してお願いが出た。翌日の片付けに参加したいという要の申し出も、雪像を自分の手で壊したいというアリエーニの要望も、マルコは受け入れる。
アリエーニはストレス解消も兼ねて、竜の咆哮で破壊するのを楽しみにしているようだ。
「新年初のULT祭り、お疲れ様です。遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします」
「ああ、今年もよろしく」
聖次の挨拶にマルコが応じた。
「今回はドラグーンの方の参加が多かったですし、AU−KVの展示と説明が出来たら面白いんじゃないでしょうか?」
「可能ではあるけど、バリエーションがもう少しあればな〜」
皆の会話に加わろうとせず、甘い物に目がない瑞葉はひたすらデザートを食べ続けていた。お淑やかに見えるのだが、意外にネタキャラ属性らしい。
要もだいぶ屋台を梯子していたが、こちらもまだまだ食欲旺盛だ。
「くっ、バグアめっ!」
すでに酔いでも回ったのか、唐突に怒りをぶり返させたUNKNOWNがジョッキをテーブルに叩きつける。
マルコが春の開催についてアイデアを募ってみるが、ほぼ全員から花見ネタが出された。日本人以外にも浸透しているようだ。
「桜が見れたらいいのにゃ〜」
楓の言葉が全てを表している。
「お花見にかけて、お弁当大食い大会とか?」
「花見と言えばジンギスカン! むしろジンギスカンのための花見!」
ロジーに続き、要が強く主張する。
喧噪の中、アリエーニがカンタレラへ感謝の言葉を告げていた。
「今日は誘ってくれて、ありがと。凄く楽しかったですっ」
落ち込んでいる自分を元気づけるべく、声をかけてくれたのだと彼女も察していたのだ。
「あんまり、気落ちしすぎないようにね?」
彼女の頭を撫でながらカンタレラは励ました。
『ULTまつり』は能力者同士の友好にも役立っているようだ。