タイトル:蜥蜴の鈴マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2010/02/08 00:16

●オープニング本文


「俺に部下ぁ?」
 意外な指示をつきつけられてピョートルが驚きの表情を浮かべた。
「そうです。一人でできることにも限りがあるでしょう?」
「俺は不自由してねぇよ。足手まといなんて邪魔なだけだ」
「部下を従えることで、選択肢は確実に増えます。それは私にとって好ましいことです」
 ピョートルが拒もうとも、アルベルティーナに撤回の意志はないらしい。
「ちっ‥‥」
 上官の傍らにいる少女へ視線を向ける。
「マヤです。よろしくお願いします」
 東洋人の容貌を持つ少し背が低い少女で、人種によるものか性格によるものか、表情からでは感情がつかめなかった。

 ピョートルの従える12機のHWが駐機場に揃っている。特殊なカスタマイズを施された機体は少ないので、前回の戦闘で破壊された分はすでに補充済みだった。
「こいつが『羊』、それが『牛』、次は『双子』、‥‥わかるだろ?」
「12星座に由来する名称です」
「そういうことだ」
 ゾディアックを象徴するコードネームを与え、それを従えることで歪んだ自尊心を満たしているのだ。
「前回と同じように、防備の薄い街へ奇襲をかける。お前も同行しろ」
「UPC軍も警戒しているはずですし、なんらかの対策を立てていると推測します。考え直してはいかがでしょうか?」
「ああ? 俺がお前に意見を求めたか?」
 ずいっと、顔を突き出して少女の眼前で凄んだ。
「いいえ。求めてはいません」
 顔色を変えずに少女が応じる。
「だったら、黙って俺に従ってろ。いいな」
「了解しました」
 ピョートルが彼女の乗機に選んだのは、『山羊』であった。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT

●リプレイ本文

●防衛線

 敵の足を止めるべく、2機のKVがブーストを噴かして迎撃に向かっていた。
「奴め‥‥。懲りずに、いや、味を占めてまた来たか!」
 怒りも露わにミカガミを駆る堺・清四郎(gb3564)。
「‥‥また同じ手で来るなんて、よっぽど自信があるのかしら。それともただの馬鹿なだけ?」
 疑念を感じつつも、紅 アリカ(ga8708)は攻撃すべく照準を絞る。シュテルンに搭載された長射程の『アハト・アハト』のレーザーが戦闘の口火を切った。
『相手は2機のみです。この場で排除した方が確実です』
 妥当と思われるマヤの進言だったが、ピョートル・ペドロスキ(gz0307)はこれを無視する。
『‥‥ちっ、少ねぇよ。羊と蟹を相手に遊んでろ』
 緑色のHWへ機種を向ける清四郎だったが、2機のHWが阻止に動く。アリカも加え、2対2の空中戦が開始された。

「またアレか。今度もたくさんの子分を引き連れて‥‥」
 骸龍の逆探知機能を操作しながらミンティア・タブレット(ga6672)が不機嫌そうに顔を歪める。
 こちらに接近する機影は11。
「率いるのが12機という事は、もしかしてゾディアックを意識してるのかね?」
 錦織・長郎(ga8268)は、肩をすくめながら趣味が悪いと評した。
「どうやら、自己顕示欲が強く、弱いものいじめが好きで、慎重‥‥というより臆病。人間くさいバグアもいたものね。‥‥下種な部類ですが」
 ソーニャ(gb5824)の評価も同様らしい。
『今度は3機かよ』
 数を確認したピョートルが不満そうにつぶやく。
 管制担当のミンティア機は直接戦闘を避けるために距離をとっており、護衛のウェイケル・クスペリア(gb9006)機も同様のため数に含まれていない。
 彼は今度もまた、同数の機体に応戦させて先へ進む。
「‥‥黒蝶の舞、魅せてあげる」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)のディアブロが空戦に突入した。

 都市への侵入を果たした8機のHWが、地上への爆撃を開始する。
「お呼びやないで、空に行ってまえ!」
 地上へ降下するHWに向けて、桐生 水面(gb0679)のサイファーが地上から銃撃を加えた。嫌がらせみたいなもので、低空から追い払うのが目的だ。
『地上には配置済みってわけかよ。せいぜい働いてもらうぜ』
 ピョートルが自機を上昇させたのは、水面にとっては狙い通りと言えた。
『7対7で調度いいだろ』
 マヤの乗機も含めた7機に戦闘を任せて、彼は高みの見物を決め込んだ。
 避難誘導などで地理をある程度知っていた鈍名 レイジ(ga8428)は、ビルの死角からHWへ接近を試みた。
「ビルを盾にされれば確かに厄介だがな。空を自由に飛び回られるよりよっぽど捕え易いぜ」
 彼は牽制など考えておらず、撃墜を狙って30mm重機関砲をぶっ放す。街への被害を軽減させるために、レイジはディスタンの装甲を信じてタキオン砲も正面から受け止めていた。
 ミンティアの指示を受けて、ビルの陰から飛び出した六堂源治(ga8154)のバイパーが、ピアッシングキャノンで銃撃を加える。
 低空に侵入したHWが、照準も定めずにK−02ミサイル250発をばら撒いた。
 避けるわけにいかず、水面は対空機関砲「ツングースカ」で弾幕を張って迎撃する。弾数が違いすぎたものの誘爆を願って引き金を引き続ける。
「くっ‥‥避けたらビルに当たってまうか」
 正面の数発を受け止めるために、双機刀「臥竜鳳雛」を交差させてフィールド・コーティングを展開する。彼女は機体を盾としてビルを守り抜いた。
 友人のサポートのために駆けつけた、ブレイズ・S・イーグル(ga7498)とルカ・ブルーリバー(gb4180)が加わっていなければ、すでに陸戦部隊も数で押し切られていただろう。

●都市戦

 管制担当の骸龍にも敵機が迫り、護衛のアンジェリカが矢面に立ち2機のHWと抗戦中だ。等しく
 戦況を俯瞰して眺めている機体はそれだけ目立つ存在だ。
 注意を引かれたピョートルはプロトン砲を放って、アンジェリカとその背後にいた骸龍にまで命中させた。
「ウェイケルさん、逃げるわよ」
 ミンティアは前回の戦闘でも管制を担っており、狙われる可能性も考慮していた。特殊電子波長装置γによるジャミング中和の効果を考えると、撃墜されたときの損害は骸龍1機では済まない。
 性格的な面もあって躊躇するウェイケルに、ミンティアが繰り返し告げる。
「逃走して注意を引きつければ、敵の手を塞ぐことが出来るかもしれない」
 その言葉を受けて、アンジェリカも骸龍に追従する。
 ブーストして相対距離稼ぐと、骸龍は高性能ラージフレアをばら撒いた。
「骸龍乗りの宿命か。大変だけど貴方次第なのよ、『紙飛行機』」
 愛機の欠点を知りつつ、ミンティアはこの機体を愛用しているのだ。
「建物の少ない場所へ誘導しようぜ」
「ええ。敵機も少ないみたいだしね」
 HWの火線が集中し始めたため、ミンティアは煙幕弾発射装置を作動させる。
 いつまでも逃げ切れるはずがないと判断したウェイケルは、煙の中でアンジェリカを反転させた。
「どこ見てやがるっ!」
 旋回したアンジェリカは、SESエンハンサーを稼働させてレーザーガン「オメガレイ」を叩き込んだ。

「油断したな‥‥喰らっとけや!」
 地上すれすれに降下してきたHWに対し、サイファーが「臥竜鳳雛」を手に斬りかかる。
 さらに、ブーストを使用したバイパーが、跳躍して上方から襲いかかった。
「吼えろバイパーッ! HWを撃ち貫け!」
 源治はブースト空戦スタビライザーで機体を安定させると、機杭「エグツ・タルディ」を撃ち込んで、HWの装甲を貫いた。生じた爆発でダメージを受けたが、これは諦めるしかない。
「そちらへ一機向かった。六堂さん、上空へ逃げる敵に合わせて一斉射撃しよう」
 HWを追撃するレイジの提案を受けて、連携したKVがHWを追い払った。レイジ達の感覚では、仕留め損なったとなるのだろうが。
「‥‥上がやばいッスね。ケイも空戦で手間取っているみたいッスから」
「骸龍の援護に回ってや。管制指示がないと、こっちも効率が悪いしな」
 水面が請け負ったため、源治はレイジを伴って仲間の加勢に向かう。
「それにしても、前と同じ作戦をとってくるってのは‥‥、頭はあんま良さそうやないなぁ」
 思わずつぶやいた水面は、頭を振ってその考えを追い払った。
「っと油断したらあかんな。気を引き締めていかんと。地上への攻撃が少ないのも、狙いがあってのことかも知れんし‥‥」

『2機が上昇していきます』
 地上攻撃を行っていたマヤが上官に報告する。
 骸龍とアンジェリカを追い立てていた3機のHWの後背に、バイパーとディスタンが食いついた。
「ゾディアックに対して、自らの生き様と信念を賭けて戦っている傭兵を間近で見てきた俺には、お前の存在が許せないんスよね。蜥蜴野郎」
「名前だけ真似てどうなるってんだ。‥‥俺がやり合ったゾディアックってのは、とことん圧倒的で突き抜けたヤツ等だったぜ?」
 源治もレイジも『蜥蜴座』という名乗りを許せず、緑色のHWめがけてピアッシングキャノンの銃弾を叩きつける。
『あの連中は早くいい機体をもらっただけじゃねぇか。敵に思い入れするなんて、バカかお前ら』
 二人の真意はまるでピョートルに届かなかった。
『援護します』
 追撃されている上官のために、マヤの操る『山羊』と他2機が上昇して、追撃するKVのさらに後方を取る。
 ピョートルは自機を独楽のように回転させて、機首を後方へ向けると拡散フェザー砲を発射した。
 一転して挟撃にさらされ、レイジは回避に専念する。これまで回避を控えていたため、機体の損傷が積み重なっていたのだ。
「ヌルいぜ‥‥俺等を焦がすにゃ足りねェな!」
 レイジは相棒と連携して、後方のHWへ反撃を開始する。
「そろそろ頃合いだな」
 機内でほくそ笑むピョートルが、通信機越しに指示を出した。
『俺はそろそろ引き上げる。お前はこの場に最後まで残って時間を稼げ』
 非情な上意下達は傭兵達の耳にも届いていた。それをオープンチャンネルで行うのが、ピョートルの性格の悪さだろう。
『‥‥了解しました』

●撤退戦

 3対3の空中戦はまだ続けられており、その間を緑のHWがすり抜けようとしていた。
「くっくっくっ‥‥、気高きアリエスにすら及ばぬ矮小な鱗持ちは、爬虫類同士足る僕と噛み合うのが精々だと思うがね」
 蜥蜴座機撃墜の優先順位を低く見ていた長郎は、すれ違う間際に軽い銃撃を加えただけで済ませた。
 煙を吹き出して飛行速度を低下させたロビンを見つけ、ピョートルは行きがけの駄賃として拡散フェザー砲を放つ。
「かかった。偽傷は小鳥の本能なのよ」
 ロビンのコクピットでソーニャが笑みを浮かべていた。
 彼女は、スモーク・ディスチャージャーを噴出すると同時に機体を大きく揺るがせ、被弾を偽装したのだ。
「十二星座と比べるなんて随分勝気なのね。‥‥その鼻っ柱、折ってあげる」
 蜥蜴座機の上方から、ケイのディアブロはロケット弾ランチャーを撃ち込み、ブーストを使用しての接近後、高分子レーザー砲を命中させる。
「さすがに1対1でやりあう程、馬鹿じゃないわよ?」
 ケイと呼吸を合わせる形で、偽装の必要がなくなったソーニャが再起動させたアリスシステムを活用して挟撃を狙う。
 しかし、撤退途中にあったピョートルはつきあう気がなかったようで、あっさりとこの地を去った。
 3機のHWを射程内に捉えて、長郎は残存するK−02を発射した。多く被弾したHWを標的に決めて、バイパーのソードウィングで外装を切り裂いた。
 長郎と交差するような機動で、ソーニャのロビンは彼を追うHWへ高速で接近する。
 射出したUK−10AAEMはかわされたものの、接近して打ち出した高分子レーザーが敵機を貫通し‥‥、ロビンが傍らを通過するとHWが爆散した。
「貴方のお相手はこっちよ‥‥」
 残りの一機にディアブロが躍りかかる。

 1機だけ戦場を離脱した蜥蜴座機の進路をふさぐように、2機のKVが回り込んだ。
「‥‥今度は逃がさないわ。世の中がそれほど甘くないって事、教えてあげる!」
「今度は五体満足で帰さん!」
 ピョートルの部隊を最初に出迎えたシュテルンとミカガミだった。交戦したHWを撃墜し、都市への帰還中に蜥蜴座機と遭遇したのだ。
 2機が共に装備しているスラスターライフルがHWへ向けて発砲される。
『邪魔くせぇ‥‥』
 舌打ちしつつ、蜥蜴座機が拡散フェザー砲で応戦を行う。
「いっさい覚悟が出来ていない奴ならば‥‥!」
 特攻に近い気迫で圧力をかけてやれば、動きにも影響がでると見て清四郎は実行に移す。
 清四郎のソードウィングをかわした蜥蜴座機に、アリカの『黒鳥(ブラックバード)』が二の太刀となって斬りかかった。
 攻撃を受けつつも、ピョートルは敵機を直線上に並べるような位置取りをする。照射したプロトン砲は、2機をまとめて火線に飲み込んでいた。
『最初に言ったろうが。少ねぇってよ!』
 距離を取ろうとする蜥蜴座機に、清四郎は追いすがろうとする。
「相手を殺すなら‥‥殺される覚悟もしろやぁ!」
『生き残るために作戦を考えるんだよ。殺される覚悟なんて無能な証拠だっ!』
 再び放たれたプロトン砲の一撃がまたしても2機を焼いた。ピョートルは空間認識能力に優れており、これを得意技としていた。
 だが、それでも怯まずにミカガミは肉薄する。
「我が剣の錆となれ!」
 ソードウィングが斬りつけた蜥蜴座機に、シュテルンが「ツングースカ」を直撃させる。
『フン。街を救いたいなら、こんなところでさぼってねぇで、さっさと戻れよ』
 そう吐き捨てると、緑のHWは遠ざかっていく。
「かかってこいやぁ! 三下がぁ!」
 挑発をかける清四郎だったが、この場で戦う意義が薄いためピョートルは撤退を優先した。
「‥‥確かに街への被害も心配です。ここは戻りましょう」

●その顛末

 上官に見捨てられたという点は同情に値するが、それで見逃すほど傭兵達も甘くはない。
 マヤを含む5機のHW撃破すべくKVが包囲を狭める。
「鈍名、頼りにしてるッスよっ」
 自らの背後を信頼できる戦友に委ね、源治はスラスターライフルで牽制しつつ、ソードウィングでの接近戦を仕掛けていく。
 応戦するHWに対しては、ミンティアが煙幕とフレアで撹乱を繰り返した。
「部下の手柄を認めないだろうとは思っていたけど、‥‥それ以下ね」
 蜥蜴座を名乗る男を軽蔑しながらも、ソーニャは哀れな部下に対して攻撃せねばならない。マイクロブースターで接近するロビンだったが、その眼前に別なHWが割り込んでその攻撃を阻む。
 地表には今も水面達が残っており、HWがビル街へ逃げ込むことを許さずにいた。
 フォトン砲の死角に回り込んだ長郎は、ケイと共に呼吸を合わせて十字砲火を浴びせて撃破に成功する。
 HW『人馬』が搭載しているK−02をKVに向けて射出した。僚機が被弾する中、ケイはファランクス・テーバイの弾幕によりなんとかこれを防ぐ。
 進路に待ちかまえているKVめがけて、マヤは4機のHWをフォースチャージフィールドで突進させた。
「デカブツならコイツで撃ち落とせるはずだ。‥‥行っけぇぇ!」
 ウェイケルの試作G放電装置が、肉薄するうちの一機を爆破する。
 だが、残る3機はKVの近くまで接近し、火炎と爆煙をまき散す。
 最後の一機となったマヤの乗機は、KVを追い払った空間を抜けて逃走を始める。敵が逃げの一手をうつ限り、KVの攻撃は一時的なものにとどまり、距離が離れるにつれ直撃すら難しくなった。
 先ほどのピョートルの時と同じく、マヤは逃走経路でアリカと清四郎に遭遇する。
 2機の連係攻撃に追い立てられながら、マヤは応戦のそぶりすら見せずただただ飛行を続け、遂にKVの追撃を振り切った。
 ピョートルの真の目的が襲撃になかったため、街への損害も比較的軽くて済んでいた。しかし、破壊の爪痕は確かに刻まれており、傭兵達も救援活動に駆り出されることになる。

「ご命令通り、最後の一機になるまで戦場へとどまり、ただいま帰還しました」
 傭兵を利用して葬り去ろうとしたピョートルの思惑を覆し、マヤは再び彼の前に姿を現した。
「アルベルティーナがお前を見込んだのも、力を認めたからってことか?」
 上官の差し向けた監視役だと考えているピョートルは、冷たい視線を彼女に向ける。
「私は命令に従うだけです」
「‥‥ふん。使えるうちは使っておくさ。せいぜい、有用だってことを示しておけよな」
 そう告げて、彼はマヤを受け入れることにした。