タイトル:橘薫の頼もしき先輩達4マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/26 00:50

●オープニング本文


『息子は後衛として、射撃に慣れておきたいようだ』
 受話器から届く泰三の言葉にしのぶが頷いた。
「そうみたいですね」
 仕事の報告書には目を通しているので、彼女も前回の依頼の経過は知っていた。
「正直なところ、装備も整っていない新人は、前衛に出るのは控えた方が無難だと思います。エクセレンターというクラスを考えるなら、汎用性が高いという特徴を活かすべきですから」
『退くべきところで退くの必要な判断だな。若いうちはそのままでもいいが、命を失ってからでは取り返しがつかん』
「ええ。それに依頼の参加中ともなると、本人ひとりの問題ではありません」
『そこで今回の依頼なんだが、射撃に重点をおいた依頼をお願いしたい』
「どんな内容でしょう?」
『いや。私の方では都合のいい情報を握っていなくてね。今回はそちらで見繕ってもらいたい。依頼料はこちら持ちでもかまわんよ』
「わかりました」

「薫君。ちょっといい?」
 依頼の一覧を眺めていた少年にしのぶが声をかけた。
「いいけど、どうかした?」
「射撃をメインとした依頼があるんだけど、興味ある?」
「まあね。そういうのを探してたところなんだ」
 狙い通り食いついてきた。
「山あいにある吊り橋なんだけどね。長さが100mを越えていて、客も呼べる観光スポットなんだけど、キメラが出没していて早めに排除したいらしいの」
「どんなキメラ?」
「燕よ。吊り橋を渡る人間に襲いかかるの」
「また鳥か‥‥」
「‥‥そういえば、そうだったわね。えっと‥‥、やめておく?」
「まあ、いいか。受けるよ、その仕事」

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
榊 那岐(gb9138
17歳・♂・FC
ネージュ(gb9408
12歳・♀・HG
カレン・ベル(gb9446
14歳・♀・HG
ザインフラウ(gb9550
17歳・♀・HG
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG

●リプレイ本文


●吊り橋へ

「今回もよろしくね〜」
 ネージュ(gb9408)を筆頭に面識のある面々が橘薫(gz0294)に声をかけていく。
「久しぶり橘くん」
 楽しげにカレン・ベル(gb9446)が挨拶したのは、彼の成長を確認するという楽しみがあったからだ。増長しそうなので本人には言わないつもりでいる。
「薫君との依頼もこれで3回目になりますね」
(「今回は薫君以上に足手まといとなりそうですが‥‥」)
 挨拶した榊 那岐(gb9138)は、依頼の傾向からそう分析している。フェンサーは前線向きのクラスであり、遠距離用のスキルを所有していないためだ。
「久しぶりだね、薫君。また一緒に頑張ろうね」
 香倶夜(ga5126)が笑いかける。
「ほら。あたしも同じ装備なんだよ」
 小銃「S−01」とスコーピオンを見て、薫が感心する。
「こんな偶然もあるんだね」
 そんなはずはない。
 香倶夜は同じエクセレンターという点を活かして、戦い方を実演して見せるために、同じ兵装と同じスキルでこの仕事に参加したのだ。
「こないだは悪かったのである。少しだけ反省してきたので、今回の任務でもよろしくなのである」
 美紅・ラング(gb9880)が謝罪から入ったのは、前回の依頼で薫と多少もめていたからだ。
 薫と知り合ったのは彼女の姉の方が先だったが、姉妹間で調整した結果、薫の面倒を見るのは美紅に決まったという経緯がある。
「初めましてだな。従兄弟から話は聞いている。緑川 安則(ga0157)だ。‥‥もう一人の方は声優時代の芸名なんだ。まったく、気まぐれもいいものさ」
 こちらも、薫が以前に関わった傭兵と親しい間柄のようだ。

「今回の戦闘は吊り橋上での戦闘、つまり誰かが移動すれば命中率が下がる。敵は燕キメラで総数は解らない」
 打ち合わせを主導するのはスナイパーの安則だ。ヘヴィガンナーも4名いたが、これまでの経歴を考慮しても当然と言えるだろう。
「戦闘方法はブレードウィング、エナジーウィングみたいな翼での斬り裂き‥‥破暁かっていいたくなるな。結果として銃での対空攻撃がメインとなる」
「ポジションを決めておかないと〜。フォロー範囲が広くなりそうだし、誰がどっち向きか決めとこ〜」
 ネージュの言葉を受けて那岐が提案する。
「橋の両側から狙われるなら、北と南へ警戒する人間を交互に配置すればいいと思う」
 吊り橋は東西に伸びているため、燕キメラの攻撃は南北から行われるはずだった。
「そうだな。被らないように振り分けた方が効率的だろう」
 ザインフラウ(gb9550)もそれに頷いた。
「接近してくる最大の群れを、大口径ガトリング砲とブリットストームによる範囲攻撃で粉砕したのちに、残存勢力を潰していきたいのである」
「振動による仲間の命中率低下も考えられるが、状況によっては有効だろうな」
 美紅の提案を安則が容認し、反対意見も特に出なかった。
 双眼鏡を谷へ向けていた堺・清四郎(gb3564)が、薫に話を向けた。
「橋の中央部がキメラを一番狙い易いと思うが、やってみる気はあるか?」
「射撃に慣れるのが目的だしね。それもいいかな」
 頷いた薫は、清四郎の真意に気づいていない。
 少なくとも現状においては、キメラは東と西に集中している。至近距離の能力者を狙うのならば、中央部が一番安全だと彼は判断したのだ。銃ならばキメラに接近せずとも攻撃は可能だ。
「前回の依頼でも銃を使ってたし、薫さんも基礎訓練は受けてるよね〜?」
「実戦で使う事が少ないってだけさ。成績だって悪くないしね」
 ネージュに対してそう返答する。
「S−01は8発、スコーピオンは11発。それぞれの銃の残弾はしっかりと覚えておけよ」
 基礎的な事だが、清四郎が念押ししておいた。
「いつも前衛を担当していると、不慣れな点がでてきますし、注意点を教えてもらうのはとても勉強になりますね」
 薫が反発しないよう、那岐は先んじて指導を受ける姿勢を示す。
 安則が自慢のドローム製SMGを取り出し、ザインフラウも銃をいじり始めた。
「照準良し、リロード良し、‥‥問題はないな。ん、橘は自分の銃器の動作確認はしなくていいのか?」
「来る前にしているからね」
「弾詰まりや動作不良で困るのはお前だから、常に動作確認はしておいた方がいいぞ」
 そう脅されて、不満そうにしながらも薫が銃を取り出した。
 射撃に慣れていないはずの那岐は、言われずとも銃の動作確認を行っているので、このあたりは性格による違いというべきか。
「標的を見つけ、銃を構え、狙い、呼吸を整え、引き金を引く。熟練すれば狙いや呼吸を省略できるし、また標的を見つけるのも早く正確になる。頑張れよ」
 清四郎が助言と共に薫の頭を撫でていく。
 子供扱いされたと感じて、薫は不機嫌そうに相手を送り出した。

●吊り橋で

 吊り橋の東端で足を止めて応戦していても、少数しか戦いに参加できないため、まずは西端目指して吊り橋を渡らねばならない。
 ファイターの清四郎が先陣を切り、射程に入ったキメラへデヴァステイターを発砲し、傷を負いながらも歩を進めていく。
 それに続くのは、安則や香倶夜だ。距離によって命中率は落ちても、清四郎を狙うキメラへ牽制を行う。
 後続のためにも、彼らは全速力で走り抜けるわけにいかず、負傷を覚悟して先へと進む。
 残りの傭兵が吊り橋上へ姿を見せる頃には、キメラも再び分散していた。これなら、誰かが集中的に攻撃を受けることもないだろう。

 範囲攻撃を狙っていた美紅だったが、ガトリング砲を手にスキルの使用タイミングをはかり損ねていた。
「困ったのである。キメラの個体数が少ないから、使用効果が薄いのである」
 キメラが多数健在であるものの、キメラは東西に舞っているため、中央部からでは狙いづらい状況にあった。
 構わず狙った薫の弾丸は、虚しく谷間に消えていく。
「まだ遠いよ」
 ザインフラウが言及したのは、薫が有効射程距離を忘れていた点だ。
 その証拠に、わずかだけ射程距離の長い彼女のクルメタルP−38は銃弾を命中させる。
「くそっ。射程距離に入っているのに‥‥」
 薫が再び愚痴ると、耳に届いた香倶夜が指摘する。
「ある程度は引きつけて撃つのが基本だね。特に今回みたいにすばしっこい敵が相手だと、射程ぎりぎりで撃っていても躱される危険性もあるしね」

 風を切って接近するキメラを、那岐がバックラーを掲げて受け流したが、タイミングをあわせた別キメラが背後から急襲する。
「回避できないのはつらいですね」
 痛みに顔をしかめて那岐がつぶやくと、ザインフラウも同意した。
「二羽の同時攻撃はなかなか厄介だな」
 そんな事態に備えて、担当を交互に割り振ったのだが、数による差もあって援護に漏れが出るのだ。
 カレンはアンチシペイターライフルの長射程を活かして、キメラへ黙々と発砲を重ねる。
 彼女は美紅が反面教師をやると聞いているため、どのように行うか興味があり、チラチラと美紅へ視線を向けていた。
 ネージュは命中率を優先し、至近距離まで引きつけてから「S−01」の引き金を引く。

「鳥どもにはご退場願おう」
 清四郎など東側にいるメンバーが次々と燕を落とすのを悔しそうに眺める薫に、ザインフラウやカレンが助言する。
「直接狙っても相手に感づかれて避けられるぞ。相手の行動を先読みして攻撃を仕掛けた方がいい」
「相手の動きをよく見て少し前を撃ち抜く感じかな。能力者の動体視力ならそれが出来るし」
 そのつもりで見ればわかるが、安則の扱うSMGもキメラの移動先を待ち受けるように銃弾を吐き出しているのだ。
「最初は感覚でいいと思うよ。私も動いてる目標へ正確に当てられるまで時間がかかったし‥‥」
 カレンに励まされて、薫は目の前の敵に意識を向ける。
 その背後を狙ったキメラに気づき、ザインフラウがそれを撃ち落とした。
 助けられた悔しさを見せた薫に、ネージュがフォローする。
「仲間がいるんだから隣の人を頼るのも手だよね〜。次の時には助け返してあげればいいし〜」
「キメラの動きをよく見ていて、誰かを標的にしているのを狙うのもありだよ。敵の注意が薄くなっているはずだしね」
 香倶夜も言い添えたため、薫が愚痴を飲み込むことができた。
 そんな彼の目の前で、美紅が弾切れを起こしていた。慌ててリロードするも、装備が重すぎるのか手間取っている。
 見ていた薫の方が肝を冷やし、今度は彼が援護する側に回っていた。

「鴨撃ちならぬ燕撃ち〜。鴨撃ちほど楽だったら良いんだけどね〜」
 口にしたネージュは、飛んできたカマイタチをアーマージャケット部分で受ける。
「銃を握ってトリガーを弾くには、手や指が無事じゃなきゃね」
 肩や肘に受けた傷なら、身体の使い方次第で幾らでも照準はつけられると彼女は考えていた。
 那岐は盾を掲げて身を守りながら、ネージュの元へ向かう。
「さすが『接近戦の魔術師』、射撃に応用できるスキルが一つもないなんて‥‥」
 自嘲気味に漏らしたように、那岐はスキルに頼れず、身につけた射撃技術のみでキメラを牽制する。
 自身の限界をわきまえている彼は、今回はサポート役として振る舞っている。吊り橋を揺らすことになっても、今はネージュの治療を優先した。
「怪我を負った時は、自己回復に努めた方が格好良いと、あたしは思うな。自分のことを自分でこなせるってことだしね」
 香倶夜はそう言って、軽傷の薫へスキルによる治療を薦めた。
「サイエンティストが参加していない場合、自己回復出来るか出来ないかが大きく関わってくるからね」
「今回は榊さん頼りだもんね。スキルなら橋も揺れないし、有効だと思う」
 カレンも言葉を添えたため、薫は攻撃を中断してロウ・ヒールでの治療を行った。

●吊り橋を

 谷底から吹き上げる風に乗って、新たな燕キメラが姿を見せる。その数は6。
 岸壁にでも巣を作っていたらしく、まだキメラが残っていたのだろう。
「これを待っていたのである!」
 喜々としてガトリング砲を向ける美紅。もちろん、ブリットストームを使用して広範囲へ弾丸をばら撒いた。
「やらせはせんぞなのである!」
 まわりへの配慮をしなかったため、彼女の動きで吊り橋が軽く揺れる。
 それが原因で薫の狙いがそれた。
「揺れるのは気にするな。海の上での舟艇で射撃していると思えばいい」
 もともと、条件が悪いのが前提なのだと、安則が若いメンバーを励ました。
「S−01が当てづらいと思ったらスコーピオンに武器を切り替えると良いよ。どんなに強い武器だって当たらないことには役に立たないんだからね」
 香倶夜は助言の方向性を少し変えてみた。
「道具のせいにするんじゃなくて、状況に合わせて活用する感じかな」
「危ないのである。伏せるのである」
 薫を制するように、美紅が前方へ身を乗り出した。
「全然反省してないだろ!」
 射線を遮るような彼女の行為に、薫は前回の依頼でもめた原因を思い出す。美紅が半ば自覚的に行っていることなど彼が知る由もない。
 美紅の行動を横目で見ていたカレンは、うまいなぁと感嘆しつつ、距離を詰めてきたキメラへ強弾撃で応戦した。

 薫達がごたついたタイミングで、フォローの薄くなったザインフラウをキメラが挟撃した。
 前面の敵には引き抜いたアーミーナイフで応じたが、連携した背後からの攻撃には手が回らなかった。
 治療に駆け寄ろうとした那岐を、彼女は言下に拒否する。
「私の手当はいい。終わってから自分でやる」
 個人的な事情があるのだろうと気を回し、那岐は理由を尋ねることもなく引き下がった。

 キメラの数がある程度減ったため傭兵達にもだいぶ余裕が生まれる。迎撃の合間に、薫に対するアドバイスも続いていた。
「レイ・バックルもファング・バックルも攻撃力を上げるスキルだけど、使用練力が違ってくるんだよ」
 同一のスキルを持つ人間として、香倶夜が薫に実演してみせる。
「弱い相手に強いスキルを使うのは勿体ないから、素で射撃を行ってみて火力が足りないなと思った時に、上乗せする感じで使ったらいいと思うよ」
 彼女の銃撃は、腕に生じた白光の明るさに比例して、威力もまた変動する。
「今回みたいに敵の数が分かっていない時には、残りの練力と相談して使わないとね」
 現在の薫はまだ練力が少ないためいい参考となるだろう。
「エクセンレターなら、金はかかるが将来はこんなコンボもできる。見ておけ」
 安則は狙撃眼で射程を延ばすとともに、強弾撃と影撃ちを併用してキメラを狙い撃った。
 吊り橋から新人が落ちるのではなかと心配していた清四郎だったが、そんな事態は発生せずに仕事を終えることができたようだ。

 キメラを全滅させた後、那岐と手分けしてザインフラウも治療に当たる。最後に残ったのはザインフラウだったが、自分で口にしたとおり、彼女自身の手で治療は行われた。
「役に立てたとは言い難いですが、貴重な体験が出来ました」
 仕事を振り返った那岐が述懐する。
「スキルの使えない状況などでは、この経験を活かしたいですね」
 困難な経験を積もうとする彼の姿勢は、いずれ正しく報われるに違いない。
「手柄をあせって死に急ぐようなことはするなよ? この程度ですまない時があるからな?」
 清四郎は薫に告げながら、自らの傷を指さして見せた。
「近接戦闘もそうだが射撃は撃った数だけうまくなる、悔いの残る結果だったと思うなら練習したり、あるいは射撃のうまい奴にコツを聞いたり指導をしてもらったりすればいい」
「射撃は奥深いものだ。私みたいな長物を使う者がいれば支援力が増すし、楯と銃の併用であれば防御力が上がる。後は薫自身の戦い方を考えていくといい」
 チームの中でどのような役割を担うか、安則は課題を出しつつ、あとは薫自身の判断に委ねるのだった。
「射撃に対するスタンスや向き不向きも有るから、どれが正しいとも言えないんだよね〜。自分でよく悩んで考えた上で選んでくれると嬉しいかな〜」
 考え込んだ薫を、ネージュがそう告げて励ました。