●リプレイ本文
●七福神集結せず
「仮装で‥‥客寄せとか‥‥面白そう。コスプレは被らないといいんだけど‥‥当日ドッキリだからちょっと不安かな」
期待半分、不安半分で公園を訪れた南桐 由(
gb8174)は、毘沙門天が自分一人だったことに安堵する。
「あけましておめでとうございますー」
いつもながら元気に挨拶する要(
ga8365)は、ちっちゃい米俵と袋を持ち、頭巾を被った大黒天の格好だった。
「俺は日本の文化も体験したかったし、単純にお祭りも好きなんだよね」
期待に胸をふくらませるティム・ウェンライト(
gb4274)に要が応じる。
「みんなでわいわいできる、楽しいイベントにしたいですね。新年初依頼もコスプレ‥‥これは今年一年もコスプレの年という神様のお告げに違いありません! 今年もがんばりますよ♪」
「コスプレか。見るのは好きなんだが‥‥」
紅月・焔(
gb1386)はいつも被っているガスマスクを無視して、なにやらにつぶやいている。
彼が装備しているのは、釣り竿と東南アジア製の派手な魚的な何か。
「俺がやってるのは、ほら、何だっけ‥‥、エ、エロス様?」
恵比寿様が聞いたら神罰でも下しそうな間違いに、皆が謝れと詰め寄った。
「集まったみたいだな。恵比寿と毘沙門天がひとりずつ、大黒天が3人、弁財天がふたりと偏ってるな。‥‥やっぱり、福禄寿はいなかったし」
そうつぶやいたマルコ・ヴィスコンティ(gz0279)も、十分に不敬かもしれない。
要の他にも、アルストロメリア(
gc0112)と火絵 楓(
gb0095)が大黒天に扮していた。
特徴的なのは楓で、定番のピンク色の鳥の着ぐるみに、布袋を担ぎ100tハンマーを握っている。その出で立ちは、有名キャラクターのご当地ストラップを連想させた。
「一緒だね」
同じく弁財天の仮装をするキド・レンカ(
ga8863)へ、親近感を抱いたティムが笑いかける。
「あ、あの‥‥被ってしまってすみません」
もともと気が弱い彼女は、責められたと感じたのか恐縮してしまう。
「き、気にしなくていいってば。怒ってなんかいないし」
慌てたティムが慰めに回る。
「‥‥あれ? 弁財天って女神なの?」
家族に言われるまま決定したティムは、コスプレ調の着物や針金を通したショールを自作しながら、今のいままで気づかなかったらしい。
「それは見ての通り」
マルコが、天女風な衣装のレンカを指さした。
急に恥ずかしくなったティムが懇願する。
「あのっ、覚醒してもいいかな? 覚醒中なら体つきもしぐさも女っぽくなるから」
「許す! ぜひそうしてくれ!」
力強く認めたのは、自他共に女好きを自認する焔であった。
●七福神が福を招く
「杵と臼を温めておくとあたたかいおいしいお餅ができるそうですよー」
との要の提案で、杵の先端を温めるため桶にお湯を張り、臼の近くにも石油ストーブを手配した。
ULTで行うイベントが餅つきのためか、傭兵達もそちらへ集中する。
客が並ぶのと同じく、傭兵まで並ぶような状況となった。
最初に杵を持ち上げたのはアルストロメリアだったが、餅つきはのっけから最高潮となった。
「あわわわわ」
非力な彼女が杵の重さにふらついて、周囲を慌てさせる。
大黒天のルーツをたどれば、ヒンズー教の破壊の神にまでいきつくらしい。ドジっ子の彼女にはまさにうってつけ‥‥と、のんびり評していられる状況ではない。
事故を予見したマルコの配慮で、彼女は配置換えさせられ、替わりに要が杵を握った。
「秋まつりではウェイトレスをやったので、今回は餅つきをやりたかったんですよ」
楽しげにリズムを取りながら要が杵を打ちつおろす。
「ぺったんぺったん餅ぺったん♪」
つきあげた餅を、要が自ら調理場へ持ち込んでいた。
「がんばっておいしいお餅をいっぱいついてみなさんに食べてもらうのです☆」
皆のためにと口にしているものの、それが彼女の本心の全てではない。
要は受け取ったお汁粉を至福の表情で味わっている。
「‥‥自分でついたお餅を自分で食べるしあわせ♪」
自分自身で味わうというのが、大きな割合を占めていたようだ。
パパパパパパパパパンッ!
連続した炸裂音が鳴り響き、開催者側も来場者達も呆気にとられた。
「あ‥‥ごめ‥‥ごめんなさい‥‥」
鳴らしたレンカ自身も、予想を越えた音の大きさにビックリしていた。むしろ一番驚いているというべきか。
「わ、わたしの‥‥故郷では、お、お正月に爆竹を鳴らしてお祝いするので‥‥つい‥‥」
客集めとお祝いが目的であって、決して悪気があってのことではない。
「いらはい、いらはい、みなさ〜んおいしいメンマはこっちですよ〜」
威勢良く切り出した楓の声に再び活気が戻る。
フォローしてくれた楓に、レンカは感謝の笑みを浮かべた。
しかし、彼女の口上にティムから訂正が入った。
「うへ!? メ、メンマ売ってないの?」
「メンマを単品で売る店はないですよ」
楓のメンマ好きに苦笑を浮かべるティム。
当たり前の指摘なのに、楓は愕然となって絶望感を漂わせる。
ふたりの掛け合いを聞いていた客が、和やかに笑っている。悪いと思いつつ、レンカも同様だ。
「いらっしゃいませー、どうぞ立ち寄ってくださーい」
好ましい雰囲気を察して、ティムが客寄せに声を張り上げた。
弁財天の持つ楽器がわりにバトルベースを抱えているが、楽器としては役に立たないため、自分の声が頼りなのだ。
商店街のチラシ配りを任されたアルストロメリアは、お約束のごとくずっこけて、盛大に撒き散らしてしまう。
「ひ〜ごめんなさいです」
運の悪い事に、バラまかれたのは水溜まりの上である。
涙目で拾い集める彼女が、誰にともなく謝罪していた。
「拾い集めたチラシは、後で私が美味しくいただきます〜」
混乱した彼女は、わけのわからないことを口にしていた。
●七福神と大入満員
屋台のハシゴをしていた要を女性が呼び止めた。
「あら、要も大黒天なのね」
「悠季さん♪ 久しぶりですね〜」
百地・悠季(ga8270)との遭遇に要が顔をほころばせる。
「夏まつり以来かしら? 新春版の話を聞いたから、客として楽しみに来たのよ」
「楓さんもいますよ」
「ええ。さっきあなたと同じ大黒天姿の鳥の着ぐるみと会ったわ」
「大黒様は食べ物の神様! 要にはうってけの神様なのです。今年もおいしいごはんにありつけますように。子宝は‥‥まだ早いかな」
色気より食い気という要に、悠季が艶やかに笑った。
彼女は椿の柄をあしらった振袖と帯を身につけていた。裾から襟へ上がるに連れ桃色から白へ薄くなっていく地色の上に、白・桃色・赤の三色花が枝葉と共に散りばめられている。
「えっと、仮装‥‥なんですか?」
「既婚だから振袖はまずいけどね。まだ未成年だから、こっそりと着てみたのよ」
悠季から振袖姿にそぐわないはずの色気を感じ、要はなぜか頬を染めてしまった。
親とはぐれて泣いている男の子を見つけた楓が、広げた翼で抱きしめた。
「もう泣かないでね〜。かえでちゃんだよ〜。小鳥さんだよ〜ん♪」
ようやく泣きやんだ子供を、楓が肩車してあげる。
迷子センターへ連れて行く途中、さらに子供を連れたアルストロメリアと遭遇した。彼女も迷子と一緒に‥‥ではなく、彼女も迷子となっていた。
「さあ、お食べ! ミニかえでちゃん焼きを食べれば、キミも楓ちゃんみたいに強く美しくなれる‥‥はず?」
泣いていた子供ふたりと、なぜかアルストロメリアまで人形焼きを口にする。
つぶあんとクリームがあるため、お互いに分け合って食べていた。
「楓ちんが連れて行ってあげるね〜」
彼女の先導で、4人は無事に迷子センターへ到着する。
「ありがとう、おねえちゃん」
残された三人が笑顔で楓を見送った。
ここへ残る理由がないことに気づいたアルストロメリアが後を追いかけようとして、再び迷うのは予定調和と言うべきか。
兜を被り宝塔を手にした毘沙門天姿で、由は子供達を集めて手品らしきものを披露している。
手にした巨大注射器が、彼女の合図にあわせて、一瞬で巨大ぴこぴこハンマーに入れ替わる。
彼女を囲んでいた子供達から歓声が上がった。
タネを明かせば、手品でも何でもなく、抜刀・瞬のスキルを使って装備を変えているだけなのだ。
「毘沙門天は‥‥特に勝負ごとに利益があるって‥‥される神様だから。日本なら‥‥そろそろ受験シーズンだし‥‥受ける本人や‥‥両親にもちょっとはご利益が‥‥あればいいんだけど」
彼女のつぶやきが聞こえたらしく、若者達がブンと音が鳴りそうな勢いで振り向いた。
「え、あ、なに?」
鋭い眼光で詰め寄られ、彼女が戸惑う。
受験を控えた学生達に取り囲まれて握手に応じていた彼女は、餅つきコーナーまで全員を引き連れていく。
毘沙門天がついた餅を学生達に振る舞うべく、杵を持ち上げる由だったが、
「ついてる最中で‥‥ついうっかりスキル『刹那』を‥‥使わないようにしないとね。‥‥絶対使わないんだよ。絶対だからね」
などと不穏なつぶやきをもらしたことで、返し手を怯えさせてしまう。
そこへ、戸惑い顔のティムを強引にマルコが引っ張ってきた。
「餅つきは知ってるよな?」
「ええ。少し前にも餅つきのお仕事があったし」
「由のリズムに合わせて、餅を返してくれればいいんだ」
キランと眼を光らせた由に、ティムも状況が飲み込めた。
「お相手しますよ」
キランとこちらの瞳も輝いた。
身軽さを信条とするふたりのフェンサーが高速で餅をつき、観客達をどよめかせた。
餅の調理を行っていたのはレンカと焔だった。
客に急かされて涙ぐんでしまうレンカを、焔がてきぱきとフォローしていた。やる時はやる男らしい。
少し離れた場所から、ちらちらと物欲しげな視線をお汁粉に向ける由。
「‥‥太るよね‥‥けど、今日ぐらいは‥‥いいような気がする」
「俺はもらいますねー」
ティムが手を伸ばすのを見て、由が耐えられるはずもない。
「わっ、私にもください」
勢いに任せて注文してしまった。
●七福神の祝福
「うぃ〜、どうせあたしは役立たずですよ〜」
皆へ背を向けて隅っこに座り込むアルストロメリアは、甘酒をちびちびと口に運びつつ、くだを巻いていた。
調理を手伝えば炎上して、給仕をすればひっくり返し、子供と遊そべば屋台を壊す。
追いやられてきた彼女を、マルコが別な仕事に誘った。
「私で‥‥いいの?」
おずおずと尋ねる彼女を案内すると、広場で焔が待ち構えいた。
「折角ガスマスクを着けているのでヒーローショーをやってみたい。なんなら、一人芝居のエアヒーローショーをやって、サイン会まで完備だぁっ!」
「こう言い張ってるから、相手してやって。ラブリー・アルストロメリアとか、そんなんで」
「で、でも殺陣とか失敗しちゃうし‥‥」
「その心配はいらない。焔だったら当たっても堪えないだろうし。見るからに悪役だから、思いっきり叩きのめしてやれ」
いつの間にか悪役をあてがわれていると知らずに、焔が高らかに名乗りを上げた。
「ふはははは。恵比寿ホムラーW‥‥Wじゃないぞ。ターンMだ!」
半分がガスマスクで半分が恵比寿様という、左右でつなぎあわあせた奇妙なデザインの扮装だ。
「かかってくるがいい、大黒ロメリア!」
「‥‥う、うん」
超機械『守鶴』をぶつけていくアルストロメリア。
即興の殺陣で彼女に寸止めができるはずもなく、焔は幾つも直撃を受けた。
「‥‥だ、大丈夫?」
不安そうに尋ねるも、焔が高らかに笑ってみせる。
「これしきの攻撃でやられるホムラーではないわっ!」
焔はやられ役を楽しむ節があるので、この程度などまるで気にしない。
(「今なら失敗してもいい。失敗してもいいんだ」)
アルストロメリアは居場所を見つけたように感じられて嬉しくなった。
それを確認して、意気揚々と甘酒置き場に戻ってきたマルコは、またしても背中を丸めて甘酒をあおる少女に遭遇してずっこける。
レンカもまた、何か失敗をしでかして落ち込んでいるらしい。
今度はどう慰めようかと考えつつ、マルコが彼女の傍らに腰を下ろした。
「寒いと気持ちも沈みがちだからな。とりあえず飲め飲め。なんなら、お汁粉も持ってきてやるぞ」
いくつもの騒ぎや喜びを振りまいた新春イベントも、そろそろ終わりが近づいてきた。
「‥‥熱い‥‥けど、これが美味しいんだよね。お正月‥‥という気がするし」
由が甘酒をじっくりと堪能しつつ、しみじみとつぶやいた。
「私もアルコールなしですけど美味しいです」
要が同意する。
「‥‥自分もう飲めねぇっすよマルさん。‥‥むにゃむにゃ」
ガスマスクの隙間からストローで甘酒を飲んでいる焔は、十分に酔いが周り寝入る寸前というところだ。
「俺はマルコさんじゃないわよー。まだまだこれからなんだから、ギブアップには早いってばー」
傍らで甘酒を勧めているのはティムだ。体が火照っているのか、顔を真っ赤にしつつ焔に絡んでいる。
「そうだー。早いぞー! うまうまぁ〜っ、おかわりなのだ〜」
反対側に陣取って、甘酒と餅を口に運ぶのは楓だ。
「みんなのおかげで、このイベントも大盛況だ。ありがとう。新年も始まって日数が経っているから、今更かも知れないけど、まあ、お約束だからな‥‥」
そんな風に前置きしつつマルコが皆に告げた。
「みんな。明けましておめでとう!」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「めでたいなー」
「おめでとさん」
「くぇっ、くえっ♪」
「おめでとう」
参加者に、おめでとう。
訪問客に、おめでとう。
そして、この世界に関わる全ての皆さんに、明けましておめでとう。