タイトル:傭兵がサンタクロースマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/09 03:08

●オープニング本文


「これが、今回の依頼?」
 眉をひそめながら尋ねたしのぶに、マルコは肩をすくめつつ頷いた。
「そういうこと。名付けて『傭兵がサンタクロース』プロジェクト」
 仕事内容は山村への物資輸送だった。積雪だけでなくキメラの出現が原因で、流通が滞っているらしい。
「ジーザリオ2台を護衛役にして、大型トレーラーで物資を輸送するんだ」
「それがサンタクロースってわけ?」
「そう。向こうの配布ではサンタクロースとか、トナカイの扮装をしてもらう」
「あざとすぎない?」
「広報っていうのは、本質よりもイメージ優先のところがあるしね。村人をダシにしているというのは否定できないけど、物資が届くのは喜んでくれると思うし、俺たちにとっても都合がいい。批判が出たとしても、上回る好意を得られれば収支は合うんだ」
「これから依頼を募ると、クリスマスには間に合わないわよ」
「いろいろ調整に手間取ってね。確かに遅刻ではあるけど、届けずに放置するよりはずっとマシだと思ってる。ディスクに焼いて配るには、どうしても時間がかかるわけだし、来年のために映像データを残すのも有益なはずだから」
「マルコはカメラマン?」
「あくまでも記録係として同行する予定。厳しい縛りがあるわけじゃないしから、手が必要なら手伝うけどね」

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
要(ga8365
15歳・♀・AA
アーシュ・シュタース(ga8745
16歳・♀・DF
白兎 霞澄(gb3124
16歳・♀・DG
冨美(gb5428
10歳・♀・DF
ネージュ(gb9408
12歳・♀・HG
片倉 繁蔵(gb9665
63歳・♂・HG
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

●出発前

「『傭兵がサンタクロース』プロジェクト‥‥か、楽しそう。村の方々も、この時期に物資が入るのを待ち望んでいると思いますし‥‥、必ず無事に届けましょう」
 依頼の意義を重くとらえるノエル・アレノア(ga0237)。
「良い子の所にプレゼントを届けるのがサンタさんだからね〜。ネージュの所には来た事無いけど」
 残念そうに言いつつも、ネージュ(gb9408)はサンタクロースになることを楽しみにしている。
「不謹慎ですが、一度サンタさんの仕事やってみたかったんですっ。夢を与える仕事! 素敵ですっ!」
 白兎 霞澄(gb3124)の気持ちもネージュと同様らしい。
「クリスマスプレゼントか‥‥。孫たちは元気にしているだろうか」
 片倉 繁蔵(gb9665)がしみじみと述懐する。
 沖田 護(gc0208)は出発地点となるこの街で聞き込みも行ってみたが、依頼で知らされた内容の確認しかできなかった。
 キメラの数や出現場所を把握できないまま、彼らは仕事に臨まなければならない。
「いよいよぼくの初陣だ。がんばるぞ!」
 緊張と高揚を交えて、護は気合いを入れ直す。能力者達の誰もが、その意気込みをかつて実感したことだろう。
「マルコさんにもトランシーバーを渡しておきますね。何か気づいたら連絡をお願いします」
「わかった。助かるよ」
 予備の品を手渡す霞澄に礼を告げ、マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)はありがたく借りることにした。
「山村のみなさんに物資と元気を届けに行くのです♪ 待っててくださいねー」
 ジーザリオに乗り込もうとした要(ga8365)をマルコが呼び止めた。
「いつもに比べて重装備じゃないか? なにか外しておかないと実戦で動けないぞ」
 指摘された要が自分の装備を見直してみると、このままでは戦闘など全く出来ない程の重さがあった。
 不注意の代償として報酬は少々減額されたが、要は素直に頷いて指示に従った。
 

●雪原へ

 前を走るジーザリオでハンドルを握るのはアーシュ・シュタース(ga8745)だった。
 実戦で運転するのは初めてだと言うから、かなりの強心臓なのだろう。
「トレーラーの前方だから、特にキメラへ警戒して進むわ。キメラを蹴散らして、村に物資を届けないとね」
 依頼目的から考えてトレーラーを守るのが最優先だった。
「晴れてくれたのは良かったね〜。これなら遠くまで見通せるし〜」
 青と白の鮮やかな景色を、ネージュが左側の窓から眺めた。ノエルは反対側の窓で警戒を行っている。
「この様に車を配置すれば、左右前後が見渡せて警戒がしやすいですね」
 3台は単純な縦列を避け、左前方と右後方からトレーラーを挟む陣形だった。
「これならトレーラーの姿がよく見えますよ」
 AU−KVを装備して荷台に座っている護が、後続車の周囲へ視線を向けていた。

 雪上ドライブは順調に進み、後続車の中では冨美(gb5428)と要が軽い会話をかわしている。
「何か、ちょっと寂しい気持ちも‥‥」
 リンドヴルムをアーマー形態としている霞澄は、荷台に積まれた状態なのでふたりとの接触も自然と減ってしまう。
 体育座りのポーズが、どこか哀愁を醸し出していた。
「むっ?」
 繁蔵が急ブレーキを踏むと、勢いを殺しきれずに車体が雪上を滑り、乗員の身体が前方へつんのめった。
「どうしたんですか?」
 肩越しに振り返る霞澄が尋ねると、繁蔵が事情を告げた。
「どうも落とし穴のようだ」
 敵の襲撃だけでなく、その点にも気を配っていた彼は、雪面がわずかに窪んでいるのに気づいたのだ。
 3台が横に広がっていたから、後衛車が遭遇してしまったらしい。
 ジーザリオが穴を迂回して進むと、振動を受けたせいか、窪んでいたところが陥没した。
「危ないところだったねー」
 冨美が安堵したものの、それはまだ早かったようだ。
 スピードを落としたジーザリオを狙って、四つんばいで走ってくる雪モグラが姿を見せたのだ。
 荷台から飛び降りた霞澄が、クルメタルP−38の引き金を引く。
 白い毛皮を染めたのは、ペイント弾の青い塗料だった。皆との打ち合わせで、視認しやすくするために目印をつけることに決めていたのだ。
「こちら後衛車。落とし穴を回避したところで、キメラの襲撃を受けた。応戦する」
 乗員が戦闘へ向かったため、運転席の繁蔵が他班への連絡を行った。
「他にも敵が潜んでいる可能性がある。この敵はこちらに任せてもらおう」
 冨美はS−01による牽制を行いつつ、蛍火の間合いまで接近を試みる。
 装備をいくらか軽くした要だったが、雪に足を取られて思うように動けない。彼女はグラッドンアックスを振るい、雪モグラ目がけてソニックブームを叩きつけた。
 自身の血で毛皮を赤く染めるキメラ。
 雪上へ降り立った繁蔵は、足元をすくわれて転倒する。
「くっ、雪の下を潜って接近したか!」
 起きあがりざまにスコーピオンを引き抜き、装填されていた貫通弾を撃ち、さらに強弾撃で追撃を加えた。
 新手のキメラに気づき、振り向いた要がソニックブームで加勢した。
 雪モグラの爪に対して、繁蔵は銃で応戦する。
 眼前で回転した雪モグラが繁蔵を弾き飛ばし、さらに要へと向かう。
 繁蔵による援護射撃を受けて、要が危うく身をかわした。
 自らの間合いに飛び込んできた雪キメラの頭部を、要は両断剣を付与した斧で断ち割った。
 もう一体の雪モグラは、冨美の振り下ろす蛍火に傷を負いながらも、その刃を掌で受け止めることに成功する。
「ごめんなさい、傷つけさせは、しません‥‥!」
 霞澄がP−38で銃撃を加え、冨美に攻撃のチャンスを与える。
「これなら、どうだ!!」
 蛍火が赤く光ったのは、両断剣による効果だ。突き出した刀身が雪モグラの胸の中心を貫いた。

●雪上戦

「村へ到着するのは、もうそろそろでしょうか?」
 地図を開いた護がつぶやく。
「奇妙な跡が増えてきました。よくない兆候ですね」
「進路は妨害されてないけど、キメラがいるのかも〜」
 ノエルとネージュは雪を掘り返した痕跡を目にして、キメラが近くに生息していると判断した。
「あれは‥‥、なに?」
 アーシュに促されて、皆が前方へ視線を向けた。
 進行方向から雪煙を巻き上げて何かが迫ってくる。
「雪崩じゃないわね。‥‥キメラだわ!」
 白い毛皮の固まりが、雪面を転がり落ちてきた。数は4つ。
「一番左は僕が抑えます」
 荷台から飛び降りたリンドヴルムを見て、慌ててネージュが彼を追った。
「ひとりでは危険ですよ」
 続けて飛び降りようとしたノエルに、アーシュが怒鳴った。
「みんなにも連絡して! 右端のキメラは防げない!」
 頷いたノエルは、雪を踏むと同時にトランシーバーに叫んだ。
「キメラ4体が正面から襲撃。右端のキメラの阻止が難しいため、後衛車に頼みます!」
 彼が迎え撃つのは左から2番目のキメラだ。
 アーシュはトレーラーをかばうために、ハンドルを右に切る。トレーラーの進路を横切るようにして、右側から2番目のキメラへ向けてアクセルを踏み込んだ。
 ドンという衝撃音が響き、キメラを弾き飛ばす代償として、ジーザリオが雪上でひっくり返った。
「あれだな!」
 停止したトレーラーを追い抜くように、繁蔵の後衛車が前へ進み出た。
 繁蔵も要も冨美も窓を開けて銃撃を加えるが、命中率はずいぶん低かった。
 それでも、キメラはトレーラーへの襲撃を断念したのか、雪をかき分けてその下へ潜り込んでしまう。

 転がっているキメラを止めるために、ノエルは瞬天速を使ってその進路に割り込んだ。
 叩き込んだロエティシアの爪が、白い毛皮を広範囲に引き裂いた。
 ペイント弾などなくとも、キメラの傷から流れる血が、キメラの視認性を高めてしまう。
 雪モグラの爪とノエルの爪が噛み合って火花を散らす。
「こんな村の近くで、逃がすわけにはいかない。村人達の安全のため‥‥、一体たりとも逃がすものか」
 ノエルの突き出した爪が、キメラの喉を抉って絶命させる。

 AU−KVの装甲を頼りに、護が前衛の壁役を引き受けた。
 ネージュは2挺の小銃『S−01』を頼りに、その援護を担当する。立て続けに撃ち込む彼女の弾丸が、キメラの自由に動けなくなる。
「逃がさないぞ!」
 護の狙いはキメラの両手だった。爪による攻撃手段を奪うと同時に、雪を掘っての逃走も防げる。
 キメラの爪でリンドヴルムを削られたものの、彼のノコギリアックスもまたキメラに傷を与えた。
 振り上げたキメラの腕を、護の斧が断ち切る。続けて、もう片方も同じく切り落とした。
 身を守ることができなくなったキメラは、為す術無くネージュの銃弾に倒れることとなった。

 ドアを開けてジーザリオから転がり出たアーシェが、拳銃『黒猫』でペイント弾を撃ち込んだ。
 雪を巻き上げて転がりはじめても、塗料が目印となって雪に紛れることもできず、回転方向を知る目安となる。
『黒猫』での銃撃を受けて、逃げられないと悟ったのか、キメラはアーシュ目がけて突進を試みた。
 接近戦に備えて引き抜いた闇剣『サタン』で、袈裟がけにキメラへ斬りつける。
「アハハッ! 『サタン』による斬撃のプレゼント、ってね!」
 流し斬りや両断剣を交えて振るわれる剣先が、雪モグラのダメージを蓄積していく。
 もはやキメラが挽回する余地など残されていなかった。

 トレーラーが襲われないように、霞澄と繁蔵はその傍らに陣取っていた。
 雪の中から這い出た雪モグラを見て、竜の鱗を使用した霞澄が壁となって立ちはだかる。
 繁蔵の援護射撃を受けて、爪を回避した霞澄がアーミーナイフでの逆撃を狙った。
 要がソニックブームで攻撃し、冨美のS−01が銃撃を行う。
 4人の傭兵を相手にしては、再び雪へ潜る隙などあるはずもなく、最後の雪モグラキメラは血に染まって雪面に倒れた。

「お疲れさん」
 マルコはビデオカメラを覗きながら、彼らを労った。
 それを見て苦笑した彼らは、持参していた救急セットを使って負傷者の治療を行っていく。
「これは動くのかしらね?」
 裏返しになっているジーザリオを見て、アーシェが溜息を漏らす。
「タイヤと違ってパンクしないのはありがたいですね」
 要が口にした通り、頑丈な履帯式も含め駆動系は無事に見えた。
「ロープを回して、ひっくり返すことはできないかな〜?」
「わしの車で引っ張ってみよう。下が雪だからなんとかなるだろう」
 ネージュと繁蔵が提案して、転倒したジーザリオにロープを回して横回転を加えることになった。
 片側の雪を軽く掘って、反対側へは引き起こすために傭兵が集まる。
 豪力発現を使ったネージュが最後の後押しをして、無事にジーザリオの上下は元に戻った。
 皆で歓声を上げるなか、アーシェが車が動作することを確認する。左側のライトは諦めるしかない。
 方側の屋根が潰れてしまったので、そのまま乗車するのは運転するアーシェと、荷台に載らざるを得ない護だった。ノエルとネージュはトレーラーに移乗する。
「‥‥寒いわね」
 憮然としたアーシェが口にしたとおり、気密性の悪化で暖房の効き目が非常に悪くなっていた。

●メリークリスマス

 村へ入るとすぐ、傭兵達は着替えを始めた。
「夢を届けるサンタクロース。‥‥がんばっちゃいますよ?」
 腰まで伸ばしたおさげがあるため、トナカイ姿は似合わないとノエルは判断した。
 彼らの到着を村の重役から聞かされて、村人は広場に集まっている。
 姿を見せた傭兵は、サンタとトナカイで調度半々の比率だった。
「皆さん、遅くなってすみませんでした」
 トナカイ姿の護が謝罪を口にしながら、物資の配布を行っていく。
 彼の後方には、異なった装飾を施された2台のリンドヴルムが駐車していた。
 護機はバイク形態にサンタのソリを思わせる飾り付けがなされており、霞澄機は赤と白で塗装され可愛らしいサンタのステッカーを貼っていた。
「メリークリスマス〜♪ 遅刻したのはトナカイがソリを嫌がったからだよ〜」
 ネージュの言葉を受けて、子供達がトナカイ役を睨んでしまい、わずかに後悔する。
 彼女の衣装はケープとワンピースだ。手袋にブーツに帽子と、サンタクロース風の定番衣装に身を包んでいる。
「か、かわいいっ!」
 トナカイに扮した霞澄は、子供好きなだけに積極的に構っていく。そういう人間には、子供達も気を許してくれるものだ。
「皆さんすっごく似合ってます!」
 と、仲間の仮装も彼女を喜ばせる要因らしい。
「依頼だからちゃんとやるけど、なんだって私がこんなことを」
 アーシェは仮装前に『笑顔が不自然でも文句は言わないでよ』とこぼしていたほどで、村人へは事務的に応じていた。
「これでなんとか冬を乗り切れるよ。本当にありがとう」
「え、ええ。よかったわね」
 純粋な感謝の気持ちをぶつけられ、それを無視できるほど彼女は冷淡ではなかった。
 彼女の笑顔から固さがとれるのは、当然のことと言えた。
 自分の顔では怖がられると判断した繁蔵は、表へ出ずにトレーラーで積み卸しを行っていた。
 人に囲まれているサンタ達に近寄れず、小さな少女が繁蔵の元へ来てお菓子をねだった。
 保存食の箱からクッキーを取り出した繁蔵に対して少女が笑いかける。
「ありがとう。トナカイさん♪」
「う、うむ」
 戸惑いを見せながらも、孫を思い出した繁蔵の口元がかすかに緩む。
 そこを撮影していたマルコに気づき、繁蔵は照れ隠しに怒鳴りつけてしまう。
「笑顔かぁ‥‥。笑顔ってやっぱりすごいよな、ボクもがんばらないと」
 最初こそ恥ずかしそうにしていたトナカイ姿の冨美も、村人の感謝と、仲間達の満足感が伝染したのか、自然と笑顔になっていた。

 配給を終えた傭兵達は、村の重役達から改めて労いの言葉をかけられた。
「荷物を村の倉庫へ運び込めば終わりですね。まだ復路もありますし、もう一がんばりしましょう」
 ノエルが皆を励ます。
「マルコさん。今ならお時間いいでしょうか?」
 声をかけたのは要だった。
「いつもお世話になってますし、クリスマスプレゼントをもらって欲しいんです」
 彼女が差し出したのは、ハートのシールなどで装飾して写真立てだ。
 それを見たマルコは、彫像の様に動きを止めた。なぜなら、肝心の写真がコミレザで撮影した、マルコのウサミミ写真だったからだ。
「‥‥ア、アリガトウ」
 やや顔をこわばらせつつ、予想外のプレゼントを受け取るマルコ。
 クリスマスというには遅い時期、新年というには早い時期なので、彼女はこのように告げた。
「遅くなりましたがメリークリスマスなのです♪ 2010年もよろしくお願いします、ね☆」