タイトル:冬の渚と白い珠マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/04 22:42

●オープニング本文


「潮騒の音、星の瞬く夜空。夜の砂浜ってロマンチックよね」
 榊しのぶの主張は傭兵達にとっても理解はできる。
 現在が冬でなければ、大いに賛同できただろう。
「‥‥まあ、気持ちはわかるわ。私だって冬の海になんて行きたくないもの。だけど、キメラの存在が確認されているのに、放置しておくわけにはいかないでしょう? こう言い換えてもいいわ。なぜ、そこへ向かうのか? そこにキメラがいるからよ!」
 なんとかやる気を引き出そうと傭兵達の義務感に訴えてみるも、どうにも反応が鈍かった。
「今回は報酬を高めにしておくわ。それと、近所のおでん屋に予約を入れておくから、あつあつのおでんを食べて身体を暖めてきて。‥‥そんなところで、どう?」
 いくらか譲歩を行うことで、ようやく話を聞く雰囲気が生まれてくる。
「敵は直径1mほどの海亀キメラよ。夜に砂浜へ上陸して、卵――卵形の爆弾を埋めていくの。今のところは実害が低いとはいえ、散歩に行った民間人が踏んでしまう可能性もあるし、夏になっても海水浴場として使えないでしょ? 卵が増える前に、早めに対処するしかないのよ。夜間の作業だから、投光器と発電機は4つまで手配できたわ。砂浜の警戒に使用して」
 彼女は最後に念を押した。
「どれだけ待っても上陸しない可能性もあるわよ。その場合は何日も夜の海へ張り込むことになるんだし、覚悟を決めて水中戦を挑んだ方がいいと思うわ」

●参加者一覧

優(ga8480
23歳・♀・DF
筍・佳織(ga8765
18歳・♀・EP
上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
フラウ(gb4316
13歳・♀・FC
勅使河原 恭里(gb4461
14歳・♀・FC
湊 影明(gb9566
25歳・♂・GP

●リプレイ本文

●警戒 昼の陣

「まったく、少しは季節を考えろってんだ」
 嵐 一人(gb1968)が思わず愚痴る。
「おお。真冬の海に行く事になろうとは‥‥。しのぶさんも来ればいいのに。来ればいいのに」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)がオペレーターの名をあげたのは、好意によるものか、はたまた怨嗟の声か。
「あー、何でまた砂浜なんだよ。時節ってモンがあるだろ、っつーの。何が、おでんだよ。‥‥んなエサに俺が釣られるとでも」
 不平を口にする勅使河原 恭里(gb4461)だったが、口中に涎が溢れるのを彼女は自覚していた。
「はっ‥‥ま、まあ、何はともあれ、んな傍メーワクなヤツらはぶっ倒しとくか」
「そのためにも、明るいうちに準備を進めておかないといけませんね」
 優(ga8480)達はキメラがいない昼の渚を訪れていた。
「新しい亀の足跡や砂の盛り上がりで、埋められた卵を見つけられるはずだ」
「それを目安にすれば、足跡が消えている分も探せるだろうしね」
 恭里の指摘に、筍・佳織(ga8765)も同意する。
 8人が手分けして砂浜を掘り返し、合計で5箇所から23個の卵を見つけ出した。
 卵を慎重に扱う恭里に対して、上杉・浩一(ga8766)が提案する。
「ここで卵を爆発させよう」
「しのぶさんからは、ULTで処理してくれるって聞きましたよ」
 オペレーターに確認した内容をヨグが告げた。
「海亀キメラと戦う前に、爆弾の威力を確かめた方がいいだろ? いきなりじゃ、危険だからな」
 彼の主張を認めて、一個だけ確認することとなった。
 危険の少ない砂地に卵を置いて、浩一がイアリスを振り下ろす。
 ドンと小さな音が鳴って、砂地に直径3mほどの穴が生じると、浩一の身体が弾き飛ばされた。
「能力者なら耐えられる威力だな」
 フラウ(gb4316)が冷静に分析する。
「あ痛たたた」
 活性化を使った浩一の傷がみるみるふさがった。今なら夜までに練力も回復できるだろう。
「後は、どういう配置で仕事に備えるか決めておかねば」
 フラウの開いた地図には、彼女が付近の住人達から聞き込んだ水深なども書き込まれていた。波打ち際から40mほどは背の立つ深さらしい。
「すでに産卵していた箇所は、除外していいと思います。埋める場所が重複するとキメラにとっても危険でしょうから」
 優の判断を元にして、持ち込んだ4台の投光器は、卵の無かった箇所へ設置された。
「投光器の操作方法は確認しておかないとね」
 照明係を引き受けている佳織が、率先して投光器の動作確認を行った。
 冬の海を嫌がる面子が多い中、湊 影明(gb9566)だけはこのシチュエーションに魅力を感じて参加している。
 陰気な表情で海を眺める彼が、ぽつりとつぶやいた。
「おでんか‥‥」

●警戒 夜の陣

「冬と夜の寒さに何か負けない! 熱いハートがあれば大丈夫!」
 頼もしい台詞を口にした佳織が、あっさりと前言を翻した。
「ゴメン嘘。超寒いです。‥‥で、でも頑張らなきゃ!」
 投光器の傍で彼女が震えているのは、武者震よりも寒さに原因があるようだ。
「夜のおでんは楽しみなんだが‥‥」
 その前のキメラ退治で海にはいるのを浩一は嫌がっていた。
「亀には全部陸へ上がって来てもらいたいな」
 戦闘開始のタイミングを待ち、彼らは投光器を照射するタイミングを計っている。
 水筒に口を付けたヨグは、わずかながら温もりを得る。皆にも勧めたのに断られた理由は、中身が暖かいプリンシェイクだったからだ。
「‥‥むー‥‥さすが亀、遅いな。眠気が出てきたぞ」
 幸運にも、キメラは浩一が寝入るよりも早く出現した。足で砂を寄せ集める様なズリズリという小さな音が、潮騒に混じる。
 AU−KV3台も存在を隠すために全て動力を切っており、照明は星明かりだけだ。
 砂の上をゆっくりと進む音源。暗い中で待ち続けていたため目は慣れているはずだが、砂地を進む亀の姿はしっかりと確認できない。
 砂を掘る音から産卵を始めたのがわかり、さらに2つめの音が海辺に上がった。
 産卵を終えたらしい最初の海亀が水際へ向かったため、恭里が行動を起こす。
 起動させた発電機がドルンッと唸り、照射された白光が暗闇を切り裂いた。佳織や浩一も投光器に飛びついて、さらに三条の光が砂浜を照らした。
 異変を察した海亀が泡を食って逃亡を試みるが、迅雷を使用した恭里とフラウがそれに追いすがる。
 恭里の鞘走らせた蛍火が亀の首を狙い、フラウの機械剣βが前脚へと斬りつけた。
 フラウは特に位置取りに気を配っていた。後方でアサルトライフルを構えるヨグの射線をふさがないのはもちろんだが、投光器を視界に入れてしまうと強い光源で視界を奪われかねない。
 自身の攻撃を鉈のような前脚を受け止められ、フラウは移動力を奪うために、円閃で右前脚を切り落とした。
 逃亡を諦めてしまったのか、甲羅の内側へ引き込もったキメラに、攻勢を強める影明。
 竜の爪によって火花の散る腕で、雲隠を固い甲羅目がけて振り下ろす。
 恭里は頭部の穴へ蛍火の切っ先を突き立てるが、硬い頭蓋骨が穴をふさいでいるらしい。
 影明は自分の力を確かめるように、硬いのを承知で甲羅への攻撃を繰り返す。
 突然、左前脚が飛び出して彼のすねを削ったのもお構いなしだ。
「割れるか!?」
 それを成したのはフラウの攻撃だ。
 影明は小銃『シエルクライン』に持ち替え、割れ目に銃口をねじ込んで引き金を引く。
 固い甲羅の内側に向けて何発もの銃弾が叩き込まれた。

 海に近いもう一体へは、浩一が水陸両用アサルトライフルを発砲していた。
 優と佳織は海側へ回り込んで、海への逃亡を阻む。
 さらに加わった一人が、装輪を逆回転させて、亀の顔目がけて砂を巻き上げる。
「お帰りにはまだ早いぜ! 飛べえ!」
 竜の咆哮による一人の攻撃が、キメラの身体を海から遠ざかるように弾き飛ばした。
 器用に後ろ脚で立ち上がった海亀キメラは、ウィリーのような前傾姿勢で海へと急ぐが、それは優の両断剣で阻まれる。
「甲羅は平らなようですね」
 つぶやきの内容を理解できたなら、キメラは不吉さを感じ取ったかもしれない。優はキメラの突進を受け止めるのではなく、重心を受け流すように身体を傾けた。
 海亀キメラは裏返しにされて、無防備な腹を傭兵達にさらしていた。
 必死でもがく海亀の前脚による攻撃をかわしつつ、4人の攻撃が集中した。
 身を起こそうと身体を傾けた大きなヒレを、一人の試作型機械剣が切断する。
 再び仰向けに倒れた亀の腹部に、優の月詠が垂直に突き立てられた。

●極寒の海へ

 2体を葬ったものの、それを知った残りのキメラに、上陸の気配は見られない。
「仕方ないね!」
 早々と気持ちを切り替えた佳織が、帽子や上着や靴を脱ぎ捨てて、真っ先に海へと向かう。
 防具を外した恭里も、身軽な水着姿となって彼女を追った。
「服は濡らしたくない‥‥。だからこれでいい」
 浩一などは寒空の下で褌一丁となっていた。
 覚悟を決めた傭兵達が海へ向かって突貫する。
 ためらいを振り切るためか、ヨグと一人は共に竜の翼を使用して、勢いよく海へ突入した。
「海亀型ってことで用意しておいたが、本当にやる破目になるとはな!」
 水中剣『アロンダイト』へ装備を変更する一人。
 個人的に親しいヨグは彼の行動を読み、銃撃で海亀キメラの注意を引きつける。
「流石にこんなクールは願い下げだぜ!」
 海中での戦いを嫌う一人が、キメラを陸上へ追い出すべく、竜の咆哮を仕掛ける。さらに追撃。
 しかし、押し切ることができずに、キメラは一人から距離を取るように、回り込みながら泳いでいく。
「吹き飛べ! 化け物!」
 影明ももう一体へ同じ手段を試みたが、キメラは陸上での戦いを好まず、影明の攻撃をかわそうと動いた。
 キメラ達は、まるで空を飛ぶように海中で羽ばたく。
 AU−KV内蔵のライトでは光源として弱く、キメラ達は闇の中へと姿を紛れ込ませた。
 佳織は敵の逃亡を阻止すべく、SPP−1P水中銃を構えて沖側に陣取った。
「でも寒いー! 水冷たい! 体の感触無い!」
 思わず愚痴がこぼれたのはご愛敬だ。

「あと2体なら、みんなだけで大丈夫だろう」
 仲間を信頼して、フラウは一人砂浜に残っていた。
 戦いそのものは仲間達に委ね、投光器や発電機を持ち上げて、波打ち際近くへの移設を行う。
 海中で発生した爆発音が耳に届き、彼女を急かす。
 ようやく、一台目の投光器が再始動した。

 海中にまで届いた光が、2体の海亀キメラの姿を照らし出す。
「この寒さに長時間耐えるのは難しいですね」
 胸まで海に浸かり優は実感する。
 動きを抑えめにした彼女は自身を的にすることで、キメラの攻撃を誘う。相手を警戒させないように、水陸両用槍『蛟』は防御主体で扱った。
 攻撃を引き受けた恭里が、円閃を仕掛けるも『アロンダイト』は固い甲羅で弾かれてしまう。
「つっ‥‥。硬ってーな、オイ」
 腹立たしげに漏らした彼女は、敵の受けを許さない刹那の一撃を加えた。
 前脚の攻撃をかわされたキメラは、卵を爆雷がわりにして泳ぎ去った。
 治療に回す練力が足りなかったため、影明は救急セットを手に血止めだけを行う。
「さて、再開だ」
 彼の視界を助けるように、2台目の投光器が点灯された。
 小銃『シエルクライン』の弾丸は水中で威力こそ低下したものの、亀の注意をそらすことに成功する。
 恭里は迅雷で接近し、再び『アロンダイト』で斬りつける。
 水中におけるアサルトライフルの射撃感を確かめた浩一は、次の攻撃のために貫通弾を装填。
「こいつでどうだ!」
 両断剣を付加した貫通弾が前脚の付け根を打ち抜いて、血をまき散らした。
 水を切り裂くようにキメラへ肉迫した優は、キメラの右前脚の穴から左後脚の穴まで『蛟』によって串刺しにした。

 投光器の直視を避けて水中へ潜っていた佳織は、3台目の投光器追加によって真珠のような卵が海中で煌めくのを見た。
(「埋まっている卵と違って、海中に漂う卵は危険だもんね」)
 不発だった卵を見据えて、佳織はSPP−1Pを発砲した。仲間のいない安全な場所で、卵を誘爆させて、後顧の憂いを絶つ。
 その彼女へ向かって岩を思わせる甲羅が接近する。
 壁となってキメラの逃亡を遮るべく、自身障壁を使用して彼女は迎え撃った。
 前脚による攻撃と呼吸の限界によって、彼女は追撃を断念する。
 すでに投光器の届かない深さへ潜行したキメラ。
 しかし、AU−KVのライトで視界を、エアタンクによって空気を確保している、ふたりのドラグーンがそれを追う。
「随分丈夫そうな甲羅だが、こいつはどうかなっと!」
 振り下ろす『アロンダイト』が弾かれる。
 ヨグがライフルの銃弾を右前脚の付け根へ集中させたために、一人も同じ箇所を狙うよう連携を取る。
 速度が鈍ったのを見て、ヨグが武器を持ち替える。
 ふたりの手にした2本の『アロンダイト』が、海亀の首を斬り飛ばしてキメラを絶命させた。
 海面に浮上したふたりへ、佳織が当然の質問をぶつける。
「倒せたの?」
「一人兄様。あれをやるですよ」
「あ‥‥? ああ、あれか」
 ふたりは動かなくなった海亀キメラを抱え上げ、高らかに宣言する。
『亀キメラ、とったどー!』

 キメラ退治を終えた傭兵達が、陸地を目指して歩き出す。
「ひとこと言わせてくれ‥‥。寒すぎるわコラぁー!」
 体を震わせながら、恭里が腹立ち紛れに海へ向かって叫んでいた。
 陸上へ上がるとすぐに着替えを終えたが、彼らにはまだひとつだけ後始末が残っている。
 1体目が埋めた卵を回収しておかねばならないのだ。
「投光器では砂浜の陰影が強くなって探しづらいな」
 フラウが口にしたとおり、砂を蹴り上げ踏み荒らした砂浜では、痕跡を探すのが容易ではない。
「それなら任せてくれ。AU−KVのライトの方が向いているだろう」
 申し出た影明と共に、ヨグと和人も手分けして探すと、埋められていた卵はすぐに見つかった。
「身体を暖めるためにも、早く店へ向かうべきです。なぜなら、そこにおでんがあるから!」
 ヨグの意見に、仲間から異論の出ようはずがなかった。

●命の実感

「へい、らっしゃい」
 のれんをくぐった傭兵達を、威勢のいい声が出迎えた。
 暖かい店内に入って、ようやく彼らも人心地つく。
「あんた達が浜を守ってくれたんだって? なんでも頼んでくれよ」
 好意的な言葉に、傭兵達にも笑みがこぼれる。
「私は熱燗をお願いします」
「‥‥あ、あたしはお酒が苦手だからオレンジジュースね!」
 優と佳織の注文を皮切りに、皆に飲み物が行き渡ると、まず最初の儀式を行わねばなるまい。
『乾杯ーっ!』
 同じ仕事に参加した面々で、容器を打ち鳴らした。
「‥‥ああ、生き返る。やはりこの時期は熱燗にかぎるな」
 浩一のつぶやきは熱燗を頼んだ者の特権だ。
 恭里や浩一がオヤジに注文を申し出る。
「とりあえずタコ。後は、オヤジのお勧めだな」
「オヤジに任せるから、俺にも見繕ってもらえるかい?」
「牛すじを‥‥」
 オヤジがそれぞれの前に皿を差し出していく。
 配膳を引き受けようと考えていた影明は出番が失われていささか残念そうだ。
 優や佳織がさらに追加で注文を告げる。
「大根をもらえますか」
「卵! 茶色くなった卵! 後こんにゃく!」
「牛すじを‥‥」
「LHに来てからは、初めてな気がするな」
 一人は好物の糸こんにゃくを前に、思わず記憶を辿った。
「私にハンペンをお願いします。それと、大根も」
 優が熱々のタネを口に頬張っていく。
 口にしたアルコールやおでんが、冷え切った傭兵達の身体を内側から暖めてくれた。
「ちょっと、外の空気を吸ってくるよ」
 浩一の告げた言葉を、誰も不思議とは感じない。
 お猪口を手にした浩一は、しばらく星空を眺めたが、火照った体に心地いいくらいだ。
「牛すじを‥‥」
 影明の皿に何本もの串が集まっていくのは、ひとり黙々と牛すじを食べ続けているからである。
 寒さに震えながら一仕事を終えた彼らは、腹の底から暖まりつつ、生きる喜びを噛みしめていた。