タイトル:【北伐】蛇の潜む森へマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/16 09:41

●オープニング本文


『すで12名が犠牲になった。動ける能力者は俺一人しかいない。なんとか援軍を送ってくれ』
 ジョン・スミスという名の兵士が懇願する。
 彼の部隊は【北伐】において森を踏破し、バグア軍の偵察を行うのが目的だった。
 それが森の中でキメラの襲撃にあい、立ち往生しているという。
 チームは全部で15名。動ける2名は一般人らしい。
『敵はリザードマンだが、やっかいなのは無数の蛇の方だ。即死するような毒じゃないが、噛まれる傷が増えると、痛みがひどくなる。とても動けそうもない』
 蛇の情報を聞き出した医療班は、蛇の種別から推測した血清のセットを準備した。

「UPC軍から依頼されたのは、血清のセットを届けることなの。使い方についても説明しておくわね」
 オペレーターの榊しのぶは、ケースを開いて機材を取り出して動きも交えて説明する。
「毒に犯された人の血を採取して、このプレートに垂らしていくの。反応があったら、対応した番号の血清を注射して。無事だった人間の中には医療知識を持つ人もいるそうよ」
 添付してある資料には、注射の方法まで詳細に記述してある。
「見ればわかると思うけど、複数の毒に対応できるかわりに、各本数が少なくなっているの。それぞれ10本よ。
 ミイラ取りがミイラになる可能性があって、血清を届けるあなた達も毒を受ける可能性があるわ。その場合もこの血清に頼るしかないわね」
 血清用ケースは2つ。確実に必要なのは12本なので、8本の余裕があるはずだった。
「ルートは大まかに分けると、最短距離で森を突っ切る方法と、危険を避けるために森を迂回する方法があるわ。全滅を避けるためにも、二手に分かれた方がいいでしょうね。
 それと、十分な血清を運ぶのが理想だけど、足りなかった場合は負傷者に手を貸して撤退を手伝ってちょうだい」

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
ジャック・クレメンツ(gb8922
42歳・♂・SN
片倉 繁蔵(gb9665
63歳・♂・HG
サクリファイス(gc0015
28歳・♂・HG

●リプレイ本文

●救うために

「堪らぬ痛みだと聞いた。なるべく早く血清を届けねばな」
「即死するほどの毒でないのが幸いですね。間に合えば良いですが‥‥」
 片倉 繁蔵(gb9665)とナンナ・オンスロート(gb5838)が救助を待っている部隊へ思いをはせる。
 傭兵達は移動用に2台のジーザリオを準備していた。
「さすがにキメラの毒となると、能力者でも厳しい‥‥か。血清の数は‥‥限られてる。極力無駄を減らして、行ければいいけど‥‥」
 幡多野 克(ga0444)がクーラーボックスのようなケースを直進ルートの車へ積み込むと、迂回ルート用のケースはイーリス・立花(gb6709)が肩に担いだ。
「そうですね。頑張らないと」
 運転を引き受けた彼女が責任を噛みしめる。
 今回、この車を提供したジャック・クレメンツ(gb8922)は、積んできた新品のスナイパーライフルを整備中だ。
「故障で死にたくはねえしな。ボルト良し、バレル良し。ゼロインも済んでウィンデージも調整完了、と‥‥」
 荷台に戻そうとしたジャックは、傍らに止めてあるナンナの『リンドヴルム』に目にとめた。
「そうか荷台はふさがるんだったな」
「すみません」
 AU−KVの装輪走行は長時間の使用ができず、車と併走するのはむずかしい。
 彼女は『リンドヴルム』を装着した状態で、荷台に乗り込む予定だった。
「初の依頼ですね。今度は傭兵として、僕は再び戦禍へと身を投じましょう。亡き主の為に」
 サクリファイス(gc0015)は想いの詰まったペンダントを握り、祈るのだった。
 8人の傭兵達はジーザリオに分乗し、森の奥を目指して出発した。

「こいつは無理そうだねぃ」
 森を前にしてゼンラー(gb8572)はブレーキを踏まざるを得なかった。
「時間の削減や、無駄な戦闘を‥‥回避するためにも、車で向かいたかったんだけど‥‥」
 克の悔しそうなつぶやきに、繁蔵も似たような口調で応じる。
「森の中では速度も出せないと予測できたが、ここまでとは思わんかったな」
 彼ら3人を乗せて森へと踏み込んだジーザリオは、突入して間もなく停止を余儀なくされた。
 地面に張り巡らされた木の根や、水のたまっている窪み等。人の手が入っていない原生林は、彼らの行く手を阻むかのようだ。
「装輪走行よりも、走った方が速そうなくらいだからなー」
『銀』と名付けている、依神 隼瀬(gb2747)ご自慢の『リンドヴルム』であっても、走行は困難に思えた。
「車は皆の救出後に回収するとして、今は先を急ぐよぅ」
「荷物をまとめてすぐに出発しよう‥‥。一番余裕がありそうだから‥‥、ケースは僕が持つよ」
 ゼンラーの意見に賛同して、克が血清ケースを担いだ。
「山道は密教時代によく通ったものだけど、蛇、ねぃ‥‥。修行時代の勘は鈍っているだろうけど、あの頃と違って覚醒できる。‥‥助けにはなるはずだよぅ」
 心強いゼンラーの言葉。
「毒蛇‥‥ってーと、蝮しか思い浮かばないけど、どんなんだろう? 見付け易い模様だと良いけどなー」
 隼瀬の言葉に繁蔵が応じた。
「まあ、十分に注意して進むしかないだろうな」

●荒野を

「向こうは車を断念したようですね」
 無線で聞いた情報をサクリファイスが皆に告げる。
 こちらはジーザリオの走破性を活かして、草地や荒れ地を突き進んでいた。
「‥‥こっちもそれほど順調とは言えませんけど」
 思わずぼやいたのはナンナだ。
 AU−KVの装着状態で荷台に腰を下ろしている彼女は、狭い上に重心が揺れないように身体をロープで固定しており、非常に窮屈な状態だった。たまに手足を伸ばしてストレッチを行っている。
「敵を確認致しました」
 サクリファイスの言葉に、後部座席のジャックがライフルを構える。
「荷台じゃなくてよかったかもな」
 荷台からでは狙える方向が制限されるため、こうして進行方向へ銃口を向けるのは難しい。
 足を撃ち抜かれて倒れた蜥蜴人の傍らを、ジーザリオが走り抜ける。
「毒蛇と蜥蜴人か‥‥。冬眠はしないんだな」
 高級煙草の煙をくゆらせながら、ジャックがいまさらのようにつぶやいた。
「あれ? タイヤの動きが鈍くなったみたいです‥‥」
 ハンドルを握るイーリスが戸惑いの表情を浮かべると、持ち主であるジャックが眉をひそめた。
「車の整備もしておいたんだがな」
 停車させてイーリスとサクリファイスがタイヤを覗き込む。
「っ!? やられました」
 サクリファイスは指先へ噛みついた蛇を、引き抜いたアーミーナイフで貫く。
「車の下から飛びつき、シャフトへ絡みついたんでしょう。まだ数匹いるようです」
 ジーザリオが動きを止めたのを見て、数体の蜥蜴人がこちらへ向かってくる。
「ようやく、私にも出番が来たみたいですね」
『リンドヴルム』の足が地面に降り立った。
 ジーザリオの速度にものを言わせてキメラを振り切っていたため、荷台にいたナンナは何もできずにいたのだ。
 蜥蜴人はジャックやイーリスに任せ、ナンナは草の中を這いずる蛇キメラに向けてドローム社製SMGをぶっ放した。
 蜥蜴人を前にしたイーリスは、SMG『スコール』の名のごとく、雨霰と弾丸をばらまいた。
 ジャックの打ち出した弾丸は、先ほどと違って頭部を打ち抜き、確実にとどめを刺して接近を許さない。
 足に這い寄ろうとする蛇キメラに、彼は予備のナイフで対処した。
「クソッ、蛇がうるせぇ! 車はまだか!」
 ジャックの叫びにあわせたように、サクリファイスが蛇の撤去を皆に知らせた。
 4人が車に駆け込むと、砂煙を巻き上げながらジーザリオが走り出す。
「私は3ヵ所噛まれてしまいました」
 悔しそうに告げながら、サクリファイスは救急セットを取り出して治療を始めた。
 ナイフで傷口を開き、毒の混じった血を少しでも抜いておく。
「では、皆さんの手当もしておきましょう」
 それぞれの申告によると、毒を受けたのはイーリスが1回、ジャックが2回、ナンナは無事のようだ。

●森を

 常緑樹の葉が今も生い茂っており、太陽の光すら地面に及ばない箇所がある。
 ぬかるんだ土を跳ね上げながら、覚醒状態を維持した4人が走り続けていた。
「‥‥覚醒すれば若返るとはいえ、若い者についていけるか体力が心配だ」
 現状では覚醒を解くわけにもいかず、彼はのんびりと年を取る余裕もなかった。
「繁蔵さん! 蛇だ。右へよけるんだよぅ!」
 藪に紛れ込んでいた蛇を見つけたゼンラーの指示を受け、彼は右へと向きを変える。
 蛇が追ってこないようにと、ゼンラーはスブロフの瓶を投げつけて酒まみれにしてやったが、残念ながら効果はなかった。
 代わりに、彼の持つ超機械『シャドウオーブ』が光弾を発射して蛇を蹴散らす。
 しかし、彼らは息をつく暇もない。
「今度は上です!」
 真っ先に気づいた克がとっさに叫ぶ。
 一本の綱のように絡み合っていた蛇達が、バラバラと彼らに降り注ぐ。
 気づいたからといって、かわせる数でもタイミングでもなかった。
 隼瀬は頭上で薙刀を回転させ、自身だけでなくゼンラーをもかばう。
「うわっ!?」
 手にしている『昇龍』に蛇がしがみついているのを目にして、隼瀬は慌てて振り払った。
 繁蔵はオロバスの盾を掲げて、降ってきた蛇を受け止めたのだが、
「ぬかった!」
 盾を滑った蛇が彼の手首に噛みついたのだ。
 盾をひっくり返すようにして、乗っていた蛇ごと地面へと叩きつける。
 鎌首をもたげた蛇の首を、克は月詠で斬り飛ばした。
「繁蔵さんは、それが3回目では‥‥?」
「なんのこれしき。次が来るぞ」
 姿を現した蜥蜴人に向けて、繁蔵が照明銃の引き金を引いた。
 光球を眼前に撃ち込んだ1体こそわずかに足を緩めたものの、残りの2体はかまわずに迫ってくる。
「ここは足を止めずに先を‥‥」
 隼瀬が意見を言い終えるよりも先に、
「ぬうっ!?」
 うめき声を上げたゼンラーの巨体が地面に倒れた。彼はすでにリーチがかかっており、5回目の毒を受けてしまったのだ。
「まずは目の前のトカゲを倒しましょう!」
 すかさず方針転換して、隼瀬は竜の鱗で防御力を引き上げつつ、『昇龍』で蜥蜴人に斬りつけた。
 克の小銃『S−01』と、繁蔵の貫通弾が2体を葬ったものの、遅れて接近した1体が、繁蔵へしがみついた。
 至近距離からスコーピオンを連射してとどめを刺したが、今の攻防で彼はさならなる犠牲を強いられる。
 繁蔵は銃口を下に向けると、足元で噛みついている蛇キメラに銃弾を撃ち込んだ。
「これでわしも4回目だ。次から後衛だな」
 当面の敵を撃退して、ケースを担いだ克が呻いているゼンラーに駆け寄った。
「すぐに血清を打ちます。少しだけ我慢してください」
 すでに手慣れた様子で克はゼンラーの腕に血清を注射する。
 彼らの過酷な道行きは、まだまだ終わらない。

●さらに森を

「後少し‥‥ですが、どうします?」
 地図上にマーキングしてナビゲーションを行っていたサクリファイスが確認を取る。
 UPC部隊の元まで、どうしてもわずかな距離だけ森を突っ切る必要があるのだ。
「向こうではすでに血清を3本使用したと聞いてますし、車は捨てたくないですね」
 ナンナの判断を入れて、彼らはこのまま進むことを選択した。
「もう少しでタッチダウンだ! 気合入れて行こうぜ!」
 ジャックが鼓舞すると、イーリスは森の中へ向かってアクセルを踏み込んだ。
 彼女は探査の目を駆使して、できる限りキメラとの接触を避けるようにハンドルを切る。
 困難な路面にどうしても速度が上がらず、後方に備えるナンナの仕事は増大した。
 追いすがろうとする蜥蜴人キメラに向かって、竜の爪を使用したドローム製SMGを幾度も掃射する。彼女もまた足を狙うことで、倒すよりも減らすことを心がけていた。
「鬱陶しいモノ達が近づいてきましたね、俺は割りと『温厚』で『人畜無害』な性格ですが、『邪魔』なものは『排除』致します」
 助手席のサクリファイスと、後部座席のジャックは、それぞれがライフルの長射程を活かしてキメラの接近を阻んでいた。
「あれはやべぇ! 左にかわせっ!」
 ジャックが叫んだものの遅かった。
 近づけないと判断した蜥蜴人が、絡みついて束になった蛇キメラを、車内に向かって投げ入れたのである。
 引き抜いたアーミーナイフで数匹は阻んだものの、ハンドルを握るイーリスの肩に4匹の蛇が命中した。
「きゃあああっ!」
 運転中のため身をかわすこともできないイーリスが、さすがに悲鳴を上げる。
「すみません、イーリスさん!」
 一応謝罪しつつ、サクリファイスは彼女の両足の隙間へ腕を差し込んで、床に這っている蛇をつかみ上げる。
「こいつでどうだ!」
 ジャックはイーリスの肩に噛みついている蛇にたばこを押しつけ、窓から投げ捨てた。
 蛇が取り除かれて一息ついたイーリスが改めて、安堵の吐息を漏らす。
 自分たち以外による発砲音が耳に届いたからだ。

●彼らの元へ

 急停止させたジーザリオから、ケースを持ち出したイーリスが問いかける。
「血清を持ってきました! 無事ですか?」
「あの後、ふたりがやられた。処置を頼む!」
 3名の仲間が蜥蜴人の迎撃にまわり、イーリスは負傷者の治療に当たる。
「もう大丈夫です。残りの血清もすぐに届きます」
 持ってきた10本はそのまま残っていているため、あと4本必要だった。
「動けないやつは車に乗せようぜ。地面よりは安全だろう」
 ジャックの提案で動けるようになった隊員が負傷者に手を貸していく。
(「無事に全員救出出来るかね‥‥」)
 よぎった不安を彼は胸の奥にとどめた。
 通信機を手にしたサクリファイスは、直進班へ現状を告げると同時に、血清が5本目まで使用されたことを知らされた。
「これなら、なんとか‥‥ぐっ!」
 通話に気を取られていた彼自身が毒を受けてしまう。
 彼を守ろうと、装輪走行で蛇を轢き殺しつつ、ナンナが蜥蜴人との間に立ちふさがった。
 引き抜いたヴァルキリアで竜の咆哮を繰り出し、蜥蜴人キメラを後方へ押し返す。
「このままではきりがありません。閃光手榴弾を使います」
 警告して投じた閃光手榴弾が、キメラ達の知覚を奪い去り、傭兵達が猛攻に移る。
 足止めなどではなく、視界に映る敵は殲滅しなければならない。
 重装甲を活かして蜥蜴人の攻撃を受け止めたイーリスは代償として動きを束縛される。
 背後から襲おうとした別な一体が、唐突に頭を打ち抜かれた。
「微力‥‥ながら、援護‥‥いたします」
 アサルトライフルを構えていたのはサクリファイスだった。
 最初から毒抜きに気を使っていた彼には、引き金を引く力がまだ残っていたらしい。
「敵3時方向、距離60m! ロックアンドロード!」
 さらなる敵の襲来を察知して、ジャックのスナイパーライフルが火を噴いた。
「閃光手榴弾行きます!」
 そんな声が森の中から届き、蜥蜴人の群れの中でまばゆい光が生じた。
 別ルートの仲間達が到着したのだ。
 先頭を切って走る隼瀬は、竜の瞳を使ってガトリング砲の弾丸を的確に叩き込んでいく。
 援護射撃によりカバーしていた繁蔵は、強弾撃に切り替えて蜥蜴たちを屠った。
「血清は何本残っていますか!?」
 イーリスの問いかけに克が応じる。
「5本‥‥」
 彼らは通信後に一本も失わず、ここへ到着したのだ。
「血清を使えば‥‥すぐ楽になるはず‥‥。もう少し我慢して‥‥」
 脂汗を流すサクリファイスに、克が血清を打つ。
 UPC部隊に迫る蛇達を、ゼンラーの『シャドウオーブ』が撃ち抜いていった。
「ゼンラの教えを広めるためにも、彼らを無事に守り通さないとねぃ!」
「皆が動けるようになったわけだし、これで任務は果たせたわけだな。あとはさっさと逃げ出すとするか」
 蜥蜴人の攻撃を盾でふせぎつつ、繁蔵が皆を促す。
「血清はもう、残っていません‥‥。急いで、迂回ルートを戻りましょう‥‥」
 克が先頭を切って走り出した。
 彼らの置かれた状況は、とても安全と呼べるものではないのだ。
 毒から回復したサクリファイスが、ジョンの傍らに並んで話しかけた。
「約束いたしましょう。必ず、救出してみせると。――男同士の約束は絶対でしょう?」

 そして、傭兵達はその約束を無事に守り通ししたのだ。