タイトル:KV vs HORNET 02マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/07 11:29

●オープニング本文


「邪魔だよ。さっさと片づけときな」
 通路にある段ボール箱を蹴っ飛ばすと、中に詰め込まれていた機材がガチャリと音を立てた。
 スズメバチキメラと一戦交えてから、エリザベスは不機嫌であることが多かった。
「わかってるよ。ヒステリー起こしてんじゃねぇ」
 応じる声もとげとげしい。
「ケンカ売ってんのかい?」
「どっちが」
 二人が視線をぶつけ合うと、三人目の声が割って入った。
「ケンカしたいならさっさと外へ出てやりあってこい。営巣は空いてるから、いくらでもぶち込んでやるぞ」
 けしかけているのかたしなめているのかわからない台詞だった。
 彼自身、ここ最近の彼らの態度に神経を尖らせていたのだ。
 スズメバチキメラが出現したのはこの航空基地の管轄内である。それを考えれば、彼らKV部隊が悔しく思うのは当然であった。
 現場で力の及ばなかったエリザベスに限らず、間に合わなかった同僚達も悔しさを噛みしめているのだ。

 そこへ、スズメバチキメラの群れが都市部に向かっているという報告が入り、エリザベス達は勇んで出撃することになる。
「だけど、半分は北伐に出てるぜ。6機だけで大丈夫なのか?」
「頭数が必要なら傭兵に頼めばいいさ」
 エリザベスの提案に同僚が表情を歪めた。
「あいつらにか? よそ者に頼るななんて気にいらねぇな」
「つまらんことにこだわるな。民間人の安全を守るのが最優先だろう。スズメバチキメラを倒すためなら、私はたとえ悪魔とだって契約するぞ」
 隊長の言葉に隊員達の軽口がやんだ。
 彼ら全員にとっても、この戦いは復讐戦と呼べるものだからだ。

●参加者一覧

Loland=Urga(ga4688
39歳・♂・BM
狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
九条・陸(ga8254
13歳・♀・AA
櫻庭 亮(gb6863
18歳・♂・FT
瀬上 結月(gb8413
18歳・♀・FC

●リプレイ本文

●参戦

「師匠、KVでの空戦は初めてな上、砲撃戦闘装備なので、あんまりアテにしないで下さい」
 瀬上結月(gb8413)がペアを組む夜十字・信人(ga8235)に念押しをする。
「ならば援護重視でかまわない。連中は俺がこの手で叩き落とす」
 彼の戦意は非常に高かった。
「‥‥運が良かったようだ。連中が再び目の前に現れたのだからな」
 スズメバチキメラに対して遺恨があるのは、S−01部隊だけではない。
「今回は私も機体で出る。このまま奴らの好きにはさせない‥‥」
 アンジェリナ(ga6940)もまた同様であった。
 ふたりの旺盛な戦意もあって、S−01部隊の様子を危惧したLoland=Urga(ga4688)が口を開く。
「軍属組はこの前の事もあって、頭に血が上ってる様だな。焦ると碌な事が無いし、きちっとフォローしておこうぜ」
「それは僕とアンジェリナさんに任せてください」
 九条・陸(ga8254)達は遊撃班として、戦力が心許ないS−01部隊のフォローを行う予定だった。
 Lolandと榊 刑部(ga7524)は戦況が進んでからの隊長蜂撃破を、残りの4機が兵隊蜂の掃討を受け持つ予定だった。
(「大規模作戦以外でのKV戦は初めてだが‥‥躓くようなヘマはしない」)
 密かに気負っていた櫻庭 亮(gb6863)が、皆の役に立とうと提案してみる。
「兵隊蜂を担当する攻撃班は、先行部隊との挟撃を狙って左翼から侵入。フォロー役の遊撃班と隊長対応班は右翼に配置してはどうでしょうか?」
 妥当な意見と考え、頷いた刑部が改めて口にする。
「民間人を危険に曝すような真似は出来ませんからね。速やかに退治する事としましょうか」

「依頼を受けてスズメバチキメラの掃討を手伝います」
 戦域へ入るとすぐに、狭霧 雷(ga6900)がS−01部隊に告げた。
『‥‥ちっ、人の縄張りに出しゃばりやがって』
 不機嫌そうなつぶやきを、雷は涼しく受け流す。
「第一目標はキメラの殲滅です。愚痴や文句は後でたっぷり聞きましょう」
『なんだぁっ!? お前っ‥‥』
 その応対が癇に触ったのか、噛みつこうとする5号機を、アンジェリナがたしなめる。
「聞こえるか、S−01のパイロット。思う所は多くあると思う。‥‥それでも、今はまずキメラを倒す事に集中しろ。ここでこいつらを仕留め無ければまた一般人へ被害が及ぶ」
 さらに隊長と思われる声が続く。
『彼らの言うとおりだ。どうしてもケンカをしたいというなら、どちらが敵を多く落とすかで競うがいい』
『‥‥わかってますよ』
 2チームの競演は、不協和音だけが鳴り響くとは限らない。
「エリザベス君、だったね。少しお邪魔するよ。此処はお互い、思う存分、溜飲を下げようじゃないか」
 信人からの挨拶に対し、すでに面識のあったエリザベスは友好的に応じる。
「あてにさせてもらうよ。なによりも、あいつらをぶっ殺すためにね!」

 もともと先行していたS−01が、傭兵達に先んじて戦闘に突入した。

●乱戦

 南西から敵に向かうのは、師弟コンビが乗る2機のシュテルンだった。
「出し惜しみは無しだ。瀬上、行くぞ」
 パートナーに告げた通り、信人は早くも切り札を投入する。
 味方機も蜂もばらけておらず、射線を確保しやすい今が最大のチャンスと彼は判断したのだ。
 シュテルンの誇るPRMシステムで攻撃力を上昇させ、抱えていたK−02小型ホーミングミサイルを全弾発射する。
「岩龍貸与権20機分のコストが、伊達や酔狂では無い処を見せてみろ‥‥」
 編隊飛行中のキメラに向かって500発のミサイルが殺到した。
 その攻撃に呼吸を合わせ、刑部機のミカガミがUK−10AAEMを射出する。
 キメラの進行方向をふさぐように爆発が壁となって立ちはだかった。
 耐えきった兵隊蜂に向けて、信人の後詰めである結月がさらに10AAMを叩き込む。
 傭兵達は初動にて、敵へ損害を強いることに成功したのだ。

 傷を負いながらもキメラの群れは、目前のS−01部隊を押し包むべく動いていた。
 ブーストを使用して彼らの後方から接近したディアブロが、挨拶代わりにG放電装置と10AAEMを一発づつ放った。
「キメラを倒すために協力をお願いします」
 申し出た陸の言葉を、エリザベスが拒絶する。
「お断りだよ。これはあたし等の仕事なんだからね。こっちから頼むが筋ってもんだろ? 協力してくれるかい?」
「もちろん。喜んで」
 笑みを浮かべて陸が応じていた。

 標的に向けてアンジェリナが引き金を絞る。
 自ら発射したミサイルを追うように、ブーストを使用したミカガミが飛翔する。
 兵隊蜂は飛来するミサイルをうまく回避したが、アンジェリナの自機そのものが後詰めとなっていた。
 陽光を反射させる翼が兵隊蜂を切り裂く。
「ちょっと、手強いかも知れないね」
 最初のミサイルを完全にかわされたことで、彼女はわずかながら不安を覚えていた。
 最高速度こそKVの方が上だったが、機動性に限定すればキメラの方が上と言えるからだ。

 戦闘空域よりもさらに高空を飛行していたLolandのワイバーンは、マイクロブーストを使用して急降下する。
 狙いは敵陣の左翼後衛。兵隊蜂を狙いUK−10AAMが射出された。
 予想外の方向から襲撃を受け、わずかながら混乱が生じたものの、兵隊蜂がすぐに動揺を鎮めてしまう。
 飛び道具を持たないキメラだったが、そのうちの一匹がワイバーンの背面にとりついた。
 空気抵抗の悪化や、重心が狂ったことで、ワイバーンの飛行速度が減ずる。
 失速しかけた状態で、Lolandは無理矢理兵隊蜂を振り落とした。
 離脱すべきと考えたLolandは、ファランクス・アテナイを弾幕に、マイクロブーストを使用して敵編隊と距離を取ることに成功する。

「だぁーっ!!HWほど硬く無いとは言え次から次へと出てきて五月蠅い!」
 亮はぼやきながらも、前衛をくぐり抜けるキメラの鼻先へ、バイパーに搭載するホーミングミサイルを叩き込んでいく。
 彼自身はああならないように、後方支援に徹していた。
 結月の駆るシュテルンも、師匠の追撃として10AAMをばらまいている。
 ウーフーに搭乗する雷もまた戦況把握を心がけており、攻撃班の前衛は信人ひとりという非常に偏った編成であった。
 その弱点を埋めたのが、刑部の乗るミカガミだった。隊長蜂攻撃のタイミングを待っていた彼は、信人と機首を並べ共に前衛を受け持っている。
 すでに誘導弾を使いきっていたが、彼にはまだ自慢のソードウィングが残っていた。
「蜂ごときでこの『朧月』を止める事など出来ないと思い知るが良い。空戦といえど、その切っ先は曇る事はないのだからな」

 自身の撃墜成績よりも、モニター画面に意識を向けていた雷が、換装したM−118照明銃を発砲する。
 戦場に生み出された光球を、傭兵の全てが目にしていた。
「敵半数まで撃破確認! 隊長への攻撃を! ‥‥これで目を潰せれば、儲けものですかね」
 発光信号の目的は、隊長蜂への攻撃を解禁するという合図であった。
 隊長蜂の撃破によって兵隊蜂から統制が失われても、半数以下に減じていれば掃討は可能だという判断だ。
 照明弾による目くらましの効果は低かったが、隙を生じさせることには成功していた。
 目前の兵隊蜂を無視して、Loland機と刑部機は隊長蜂へ肉迫する。

●決戦

 マイクロブーストを使用したLolandが追い抜きざまに、UK−10AAMを発射する。
 攻撃の回避に成功した隊長蜂だったが、別方向から迫った刑部のソードウイングが身体を斬りつけた。
 さらに、反転したLolandがピアッシングキャノンとフェザーミサイルを命中させた。
 爆炎を越えた隊長蜂は、ミカガミの背面にとりつき、コクピット部を顎で挟み込もうとする。
 至近距離で見るスズメバチキメラの顎に、さすがの刑部も恐怖を覚えた。
「させるかよ!」
 一声吼えたLolandは、彼を救うべく命中率の高いフェザーミサイルで隊長蜂を狙い撃つ。
 はがれ落ちた隊長蜂への追撃を狙ったワイバーンだが、予想外の邪魔が入った。
 一匹の兵隊蜂がその身を盾として彼の接近を拒んだのだ。兵隊蜂にしがみつかれたワイバーンは失速して急降下していく。
 敵の手を脱したミカガミは、接近を試みる隊長蜂に向けて、ソードウィングによる反撃を行う。
 互いの攻撃の警戒し、戦いが膠着したかに見えたが、下方から撃ち込まれた10AAMが隊長蜂の腹部に命中した。体勢を立て直したLolandによる援護射撃だ。
 虚を突かれた隊長蜂に向けて、刑部のミカガミが突進する。すれ違う一瞬に、ソードウィングが隊長蜂の胸部を両断していた。

 隊長蜂の死亡によって、配下の兵隊蜂は統制から解き放たれ、各個体が好き勝手な行動を起こし始めた。
 その戦況を一番把握していたのは、ウーフーだった。
 戦線をくぐり抜けたキメラに気づき、迎撃をしようとした雷はさらなる2匹目の存在に気づいた。
「一体目が抜け出しました」
「俺が追う!」
 雷の警告を聞き、即座に即応したのは亮だった。
 追撃を任せた雷はブーストを使ってキメラへ接近し、小型帯電粒子加速砲とDR−2荷電粒子砲をぶっ放した。
 狙いは羽部。
 動きの鈍った兵隊蜂を的に、続けざまに攻撃を叩き込んだ。

 S−01部隊などは激しく戦っていたため、すぐに混戦状態に陥っていた。
 1対1の対決など望むべくもなく、常に全方位からの攻撃にさらされてしまう。同僚の流れ弾が一番危険とさえ言えた。
 そんな中、5号機は機体下部からしがみつかれ、どうにか振り払おうとしてもがいていた。
 操縦士の視界に入ったミカガミは、積んでいる10AAEMを自機に向けて放っていた。
『なにしやがるっ!』
 怒鳴りつけたものの、命中と同時に機体速度が再び上昇したのがわかる。今の攻撃がキメラを追い払ったのだ。
「文句なら後でいくらでも聞く。今は奴らを」
 受け流したアンジェリナは新たな敵を探して、愛機『リ・レイズ』を翻した。
 スタンドプレーも辞さないアンジェリナとは対照的に、陸は極力サポートに徹していた。
「それほど厄介な能力は持たない様ですが、取りこぼしの無い様にしっかりと狩り尽くしておかないといけませんね」
 彼はバルカンやAAEMを使用して、S−01の攻撃範囲へ追い込むような行動をとっていた。
 何の偶然か、急に陸の視界が開けた。障害物のない青空の向こうにいた、1体の兵隊蜂と目が合う。
 彼のディアブロはブーストで速度を上げつつ、敵に向けてG放電装置をみまった。
 続けて射程距離に入るとミサイルポッドCを射出する。打ち出されたミサイル群は、キメラに向かって内蔵していたベアリング弾を雨霰と叩きつけた。

 状況を把握している雷の采配で、信人と結月も掃討に移っていた。
 試作型クロムライフルのレーザーサイト等の機能を確認し、満足そうな信人。
「成程、確かに便利ではあるな。だが、しかし、バルカンの一個くらいは、積んでおくべきだったかな。どう思う、瀬上?」
「知りません」
 にべもない結月の応対。
「それより師匠。武士は喰わねど、ブリューナク。一発撃ちたいので援護してください」
 能力者達の活躍が実を結び、敵の全滅が間近と思えば、心に余裕も生まれてくる。
「やはり、一出撃に一回は、これを撃たないといけないな」
 舌なめずりしそうな結月のために、溜息を漏らしながら信人は兵隊蜂を追い立てた。
 欠点である命中率の低さはPRMシステムで補填し、2匹が固まっている場所へ向けて、電磁加速砲『ブリューナク』を向ける。
 高速で撃ち出された弾丸が1体の兵隊蜂の身体を貫通した。
 もう1体は、すかさず信人がフォローし、ソードウィングで切断する。
「これで、終わりかな?」
 結月の問いかけに答えたのは雷だった。
「いや、あと一匹だ‥‥」

 ブーストと特殊機能のスタビライザーを駆使して、亮のバイパーはキメラを追跡していた。
 スナイパーライフルRが命中したというのに、武器の威力を把握したキメラは、こちらに構わず都市へ向かって飛び続ける。
 キメラが最初に得ていた数百メートルのアドバンテージによって、ミサイルの数発は命中率が低下し、すでに撃ち尽くしていた。
 このままでは敵の防御を削りとるより先に、町へたどり着かれてしまう。
「これ以上、街に近付けさせるものかよ!」
 亮は再びキメラへ接近し、最大火力の20mmガトリング砲に望みをかける。
 銃弾を浴びたキメラは追撃を嫌い逆襲に転じる。
 これは亮にとって望ましいことだ。
 都市内での戦闘を回避でき、この場でキメラを決着をつけられる。
 機体上部にとりついた兵隊蜂を振り切って、再び機種を敵に向けた。
 再びしがみつこうとした兵隊蜂を、20mmガトリング砲が迎え撃つ。もはや、ゼロ距離と言える至近にて、銃弾はスズメバチキメラの胴体を蜂の巣に変えていた。

「一箇所に留まる事ができないのは当たり前。守りたい場所があっても、『要請』が無ければ向かうことが出来ないし、あったとしても自分が出向けるとは限らない。‥‥我々傭兵というのも、立場的に歯痒いものがあるんですよ」
 傭兵には傭兵の事情があると理解を求めた雷に対して、5号機パイロットが不機嫌そうに応じた。
『くどいんだよ。んなことは、わかってんだ』
 態度こそ悪かったが、雷の主張を受け入れてはくれるらしい。
「おかげでスズメバチキメラを掃討できました。ありがとうございます」
 礼を告げた陸に対し、エリザベスが苦笑する。
『さっきも言ったじゃないか。助けを求めたのはこっちだってね。ありがとうよ。あんたたちのおかげさ』
「お互い様ということですね」
『まあ、それでもいいけどね』
 傭兵達とS−01部隊は、友好的に分かれたと言っていいだろう。
 帰路についたシュテルンのコクピットで、結月がつぶやいた。
「それにしても、蜂か。ハチの巣とか、女王蜂とか居るのかな‥‥。奴らの蜂蜜は絶対甘くないだろうけど」
 その軽口には、非常に不吉な示唆が含まれていたものの、幸か不幸か誰の耳にも届かなかった。

 S−01部隊は、その不幸と直面する。
 帰投報告をするために通信を行った彼らが聞かされたのは、驚愕の事実だった。
『基地は現在、スズメバチキメラの襲撃を受けている! 至急救援を請う』
 この戦域で彼らが戦った一群は、S−01部隊を基地から引き離すための囮だったのである。